コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

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お前なんか大嫌い!!
日時: 2017/01/29 23:27
名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: 5/xKAetg)

「何でお前はいつもいつも邪魔ばかりしてくるんだよ!!」

「うるせぇ! テメェの方が邪魔をしているんだろうが!!」

「「お前なんか大嫌いだ、この野郎!!」」


 この物語は、
 世界の平和を守るために立ち上がった単純馬鹿のヒーローと。
 地獄の秩序を守るために立ち上がった俺様で我がまま死神の。

 超おバカな——アンチヒーロー小説である。


***** ***** *****

 こんにちこんばんおはようございます。また会いましたね、山下愁です。
 この作品は『アンチヒーロー小説』とのたまっていますが、実際にはただのギャグです。満載のギャグです。少しの青春も入っていますが、大体は馬鹿です。宣言できます。
 さて、クリックしてくださった心優しき読者様へ、この小説を読むにあたってのルールがございます。
 守ってくださるとうれしいです。


1 コメントは大歓迎です。
2 荒らし・誹謗中傷・パクリはお断りします。
3 これ別館行きじゃね? と思う方もいるでしょう。大丈夫です。これはここでいいんです。
4 山下愁が嫌い! な方はUターンを推奨します。
5 同じく神作が読みたいという方もUターンを推奨します。全力で。
6 こちらの小説はできるだけ毎週木曜日更新となっています。土日もある場合がございますが、要は亀更新です。


 以上を守って楽しく小説を読みましょう!
 ではでは。皆様の心に残るような小説を書けるように、山下は全力を尽くします。

お客様!! ↓
粉雪百合様 棗様 碧様 甘月様 甘味様 亜美様 noeru様 日向様 ドロボウにゃんにゃん様 猫又様 狐様
人差し指様 なつき様 モンブラン博士様 蒼様 立花桜様 彩様


目次

キャラ紹介>>01 >>03
プロローグ>>02

第1話『ヒーローの定義』
>>4 >>5 >>10 >>13 >>14 >>18 >>19 >>20 >>23 >>24
第2話『死神の定義』
>>25 >>26 >>27 >>28 >>32 >>37 >>38 >>39 >>42 >>45
第3話『姫君の定義』
>>46 >>47 >>50 >>51 >>52 >>53 >>54
第4話『合宿の定義』
>>56 >>59 >>63 >>66 >>67 >>68 >>69 >>71
第5話『劇薬の定義』
>>78 >>80 >>82 >>85 >>86 >>87 >>88 >>89 >>90 >>91
第6話『幽霊の定義』
>>94 >>95 >>98 >>99 >>100 >>101 >>102 >>103 >>104
第7話『処刑の定義』
>>105 >>107 >>109 >>111


テコ入れ>>112 >>113 >>114


第7話『処刑の定義』
>>117 >>118 >>120 >>125 >>126 >>127 >>130 >>131 >>132 >>133 >>134
第8話『恋愛の定義』
>>135-155
第9話『家出の定義』
>>156-188
第10話『捜索の定義』
>>189-198
最終話『終幕の定義』
>>199-210

エピローグ
>>211

あとがき
>>212



番外編
・ひーろーちゃんねる


キャラクターに30の質問
・椎名昴>>74

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Re: お前なんか大嫌い!! ( No.198 )
日時: 2016/12/19 12:08
名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: 7WYO6DME)

ヒーローと死神の雑談場♪ 〜ゲストを招いての振り返り〜


椎名昴「今回短かったな」

東翔「ネタがなかったのだろう」

山本雫「ねえ、何で今回ウチの出番はないの? ないの?」

東翔「知らん」

椎名昴「前回主役だったんだからいいじゃん」

山本雫「よくない!! よくない!!!!」

ユフィーリア「どうした、一体。雫の奴は何をそんなに」

山本雫「うがーッ!!」

ユフィーリア「おっと」

グローリア「わあああああ!?」

ユフィーリア「あ、後ろにいたのかお前」

グローリア「酷いよ酷いよ!! 何で避けるのさ!!」

ユフィーリア「当たりたくないからな」

山本雫「クッソ、全員精神狂わせてやる。覚悟しろやこの野郎……」

椎名昴「オイ、誰かこいつを止めろよ。大変な目になるぞ」

東翔「グローリア・イーストエンド。時間を止めておけ。うるさい」

グローリア「何で僕が君の命令を聞かなきゃいけないのかな?」

椎名昴「グローリアお願い」

グローリア「いいよー。適用『時間静止』」

山本雫「うがあああああ。時間が止まったあああああ」

東翔「息の根も止めてしまえばいいのに」

椎名昴「そういえばジャンさんって、暴走するとあんな感じになるんだな」

東翔「はた迷惑極まりない。おかげで死ぬところだったぞ」

椎名昴「死ねばよかったのに。全力で。割と本気で」

東翔「表へ出ろ。貴様を殺してやる。今度こそ」

グローリア「あーあ、また始まった睨み合い。ハイ、昴。どーどー」

ユフィーリア「どーどー」

東翔「グハッ!? オイ、ユフィーリア貴様!! 何故俺の時はグローリアと違って首を決めてくるのだ!?」

椎名昴「ざまあ」

東翔「燃やしてやるから今すぐ正座しろ!!!!」

グローリア「どう足掻いても喧嘩するんだね。適用『時間静止』」

東翔「!? 時間が止まっただと!?」

椎名昴「ちょ、オイグローリア!!」

グローリア「どうせ雑な会話文しかないんだからいいじゃん。大丈夫だよ。死にはしないから」

ユフィーリア「面倒になってきたから次回予告してくれねえか?」

グローリア「別にいいけど、僕でいいの?」

ユフィーリア「いいよ誰だって」


???「次回のお前なんか大嫌いはついに最終回!! 隠されてきた椎名昴の過去、タナトスの正体とは一体!? 最後の最後まで喧嘩ばかりの主人公二人のことをよろしくね!!」


グローリア「え、誰!?」

ユフィーリア「オイ、勝手に次回予告をやってんじゃねえよ」

山下愁「次回もお楽しみにッ!!」

グローリア「あれ作者!?」

ユフィーリア「嘘だろ!?」

東翔「作者、こいつを殺してくれ!!」

椎名昴「馬鹿野郎それはこっちの台詞だ!!」

山本雫「もっと出番を!!!!」

Re: お前なんか大嫌い!! ( No.199 )
日時: 2016/12/31 20:59
名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: 5/xKAetg)

最終話



 問題
 演劇や小説などの最後の場面や、全てがめでたく丸く収まる結末について俗に何と言う?


 模範解答
 大団円


 椎名昴の答え
 エンディング


 採点者のコメント
 最後の最後で味気のない答えだね


 山本雫の答え
 ラスティング


 採点者のコメント
 色々なモンが混じってることについて言及してえんだけど


 ユフィーリア・エイクトベルの答え
 大きな○


 採点者のコメント
 言いたいことはよく分かった、だが不正解だ


 東翔の答え
 最後まで閲覧してくれた数奇な読者共、またどこかで会おう


 採点者のコメント×3
 最後の最後でいいところを持っていくなあ!!!!



最終話 終幕の定義

Re: お前なんか大嫌い!! ( No.200 )
日時: 2017/01/02 22:28
名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: 5/xKAetg)

「ぶへっくし!!」

 豪快なくしゃみをした昴は、ずるずると鼻を啜る。鼻水は出ていないが、何故か寒気がする。
 朝から力が入らないし、頭も重い。これは完璧に風邪を引いた。今まで風邪など引いたことがないのに、風邪を引いてしまったらしい。
 ぶへっくしぶへっくし、とくしゃみを連発しながら救急箱をひっくり返すも、風邪薬の類は一つもない。しまった、買い忘れていたのか。この時ばかりは過去の自分をブン殴りたい。

「昴どうしたー? 風邪?」
「小豆ちゃん、俺は死んでもお前には頼らないからな」

 心配そうに顔を覗かせた幼女——結城小豆に、昴は拒否の態度を示す。
 何故なら彼女はマッドサイエンティスト。様々な薬を作ることを得意としているが、副作用が半端ないのだ。風邪薬と称して下剤でも渡されたら、多分一週間はトイレから出てこられないと思う。
 さすがにトイレに住みたくないので、昴は死んでも小豆には頼らないと決めている。今後一切。

「デモ昴ハン、心配デンナ」
「ポチ、さりげなく尻尾のドリルが当たってるからやめて。今すぐ尻尾を振るのをやめろ」

 トテトテと器用に皿を咥えてやってきた小学生の落書きのような——犬なのか猫なのか不明な不思議生命体のポチが、昴の足元をぐるぐると回る。ブンブンと振られている尻尾のドリルが、先ほどから脛に当たって痛いのだ。弁慶でさえも泣くという脛を攻撃されれば、ヒーローの昴でさえも泣く。
 ポチの体を抱えて小豆に手渡して、昴は着替えを始める。昴は保険証など持っていないので、自然と向かう先は決まったところになってしまう。

「あれ、昴。病院?」
「リィーン、いい子で留守番しててね。間違っても宅配のお兄さんにヘッドロックかましたらダメだからね」
「チョークスリーパーは?」
「ダメ。ダメったらダメ」

 ベランダでじゃばじゃばと如雨露で水を浴びていたリィーンが顔を出し、「えー」と不満げに唇を尖らせた。隣に住んでいる死神相手なら何をしたって止めやしないのだが、一般人相手にプロレス技をかます宇宙人とはこれ如何に。これ以上突っ込んでいたら、ますます昴の風邪が悪化しそうだ。
 念の為にマスクをして、昴は薄い扉に手をかける。

「じゃーな。昼までには帰るから」
「いってらっしゃーい」

 ポチの手を無理やり取ってブンブンと振る小豆に見送られて、昴は家を出た。
 向かう先は白鷺市の外れにある——。

「闇医者しかないんだよなぁ。ヒーローなのに」

 ——昴が闇医者と勘違いしている、研究施設だった。

***** ***** *****


「あれ? 昴は?」

 グローリア・イーストエンドが帰宅した時には、昴はすでにいなかった。
 今日もバイトだろうか、とグローリアは記憶を探る。いや、そんなはずはない。最近の昴は風邪を引いていて、「明日はバイトを休んで病院行く」と言っていたぐらいだ。おそらく病院に行ったはず。
 だが、昴は保険証を持っていない。国民保険に入っている訳でもない。そんな彼が『病院』と称して行くところは——と想像したところで、グローリアの全身から血の気が引いていく。

「まずい、非常にまずい……ッ!!」
「あれ、グローリアどこに行くの?」

 小学生が落書きしたような——犬なのか猫なのか分からない不思議生命体と一緒に遊んでいた小豆に「ちょっとそこまで!!」という適当な理由をつけたグローリアは、立てかけてあった時計を埋め込んだ鎌を握りしめると家を飛び出した。
 扉を少々乱暴に閉めて、向かう先は隣の部屋。そこは昴が最も敵視している、死神の部屋だった。
 インターフォンなど意味がないので、グローリアは荒々しく薄い扉を叩く。叩くと言うより殴りつける。

「ちょっと!! いるんでしょ!! 君がこの時間帯は働いてないって知ってるんだからね!!」

 時間をおかずに、何やらおどおどした少年が顔を覗かせた。グローリアを借金取りにでも勘違いしたのか、出てきた時は青い顔をしていたのだが、グローリアの姿を確認すると少年は眉根を寄せる。

「翔様に何かご用ですか?」
「協力して。昴から聞いてるんだからね、地獄で処刑されそうになった時に助けたんだって。今その恩を返す時がきたんだ!!」

 玄関先でぎゃあぎゃあと騒いでいるのが聞こえたのか、目的の死神である東翔が眠そうに目元をこすりながら現れた。随分と間抜けな格好である。

「喧しいぞ、グローリア・イーストエンド。何しにきた」
「昴を助けて」

 グローリアの率直な要求に、翔は首を傾げた。

Re: お前なんか大嫌い!! ( No.201 )
日時: 2017/01/03 22:33
名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: 5/xKAetg)

 非常に面倒くさい。
 昴は重たくなる足を引きずりながら、白鷺市の外れにある白い巨大な建物の前までやってきた。看板は壊れかけ、庭先は雑草が生い茂り、何故かその建物の上空だけ曇天である。見るからに怪しげな建物だ。入ることすら躊躇ってしまう。
 ぶえっくし、と昴は豪快にくしゃみをしてから、かろうじて伸びている獣道を踏みつけた。ザックザックと雑草を掻き分けて進んで、閉め切られたガラス戸を軽く叩く。本気で叩けば力加減を誤って扉を吹き飛ばしてしまう可能性があったので、昴は細心の注意を払った。

「ハイ、どちら様かな」
「すんません、保険証持ってないんですけど診察してくれます?」

 ガラス戸の向こうで、白い何かが揺らめいている。白衣を着た誰かだろうな、と昴は考えた。
 やがて昴の質問に応じるかのように、扉が開かれる。ギィと蝶番が軋み、扉が開いた瞬間に埃っぽい臭いが鼻孔を掠めた。思わず顔を顰めてしまったのは言うまでもない。
 扉を半開きにして顔を出したのは、疲れ切った男だった。白衣の胸元には『椎名』とあった。同じ名前か。

「君は——」
「椎名昴。ちょっと風邪引いて、くしゃみと鼻水と寒気が止まらないんだけど」

 白衣を着た男に症状を告げると、『椎名』と名札をつけた男はにっこりと満面の笑みを浮かべた。気持ちの悪い笑みだった。

「ああ、ああ。思い出した。椎名昴君だね!! よくきた。さあ、こっちへ。君の症状はすぐに治るよ」
「本当ですか」
「もちろんだとも。風邪の初期症状だ。大丈夫だよ、すぐによくなる。眠って二時間もすれば、ね」

 やはり病院にきてよかった。風邪を長引かせたくない昴にとって、二時間も眠っていれば完治できるなど願ってもいないことである。
 ニコニコと笑っている白衣の男に案内されて、昴は怪しげな施設の中に足を踏み入れた。
 ——いや、踏み入れてしまったとでも言う方が正しいのだろう。

***** ***** *****


「——処分されるだァ?」

 素っ頓狂な声を上げたのは、銀髪碧眼の処刑人——ユフィーリア・エイクトベルだった。
 その言葉に頷いたグローリアは、訳を説明し始める。

「最近、昴は風邪を引いていたけどそれは風邪じゃなかったんだ。崩壊の合図。あのままにしておくと、細胞組織が崩れて液体みたいになって死んじゃう。無自覚だけど、昴はそうしない為に『病院』へ行ったんだ」
「奴には保険証という御大層なものなど持っていないだろう。病院へ行こうにも、ただでさえ財布のひもが固い貧乏人だ。自費で病院に行く訳がない」

 翔が昴を貶しつつも、グローリアの言葉を否定する。
 それに、訳が分からなかった。
 崩壊の合図? 全てを燃やし尽くして灰さえも残らないと言われている、翔の炎を食らっても平然としている彼が、そんな簡単に死ぬのか? それはそれで悔しい。

「白鷺市の外れに白い建物があるでしょ。なんだか危ない感じの」
「あははははは!! よく見るよ、なんかあそこだけ年中無休で曇ってんだよね!!」

 ケタケタと楽しそうに笑いながら雫が言った。あそこは年がら年中曇天である。何をしているのか分からないが。

「あそこって研究施設なんだよね。僕と昴が生まれた場所。僕よりも先に昴が生まれてたんだけど」
「研究施設? 生まれた? 人体実験でもされてたのかよ」

 ユフィーリアが訝しげに眉を寄せた。グローリアは笑いながら彼女の言葉を肯定する。

「そうだね、人体実験されてた。でもね、僕や昴がどうやって生まれたのかは分からないんだ。あそこの人は何も教えてくれなかった——ッと、ついたみたいだね。ここがその『病院』だよ」

 グローリア、翔、ユフィーリア、雫の前には巨大な白い建物が鎮座していた。
 確かに言葉通り、建物の上空は曇り空で覆われている。行く途中までは快晴だったのに、ここだけ妙に薄暗い。建物の窓ガラスは割れてるか閉ざされているかのどちらか。庭先は雑草がボウボウ生えていて、足の踏み場もない。踏み込むことを躊躇ってしまうような建物だ。
 翔とユフィーリアと雫の三人はうええと顔を顰めたが、グローリアだけがザックザックと雑草が生えた庭先を踏み越えていく。何の躊躇いもなく足を踏み入れていった彼の背中を追うようにして、三人も庭先へ侵入した。

「ユフィーリア、悪いけど扉を斬ってくれる?」
「いいけど……開けたらこんにちはって展開はねえよなァ?」
「ないよ。大丈夫」

 閉ざされたガラス戸の前に渋々立ったユフィーリアは、空華を構えて神速の居合を放つ。薄暗い中に青い剣閃が奔り、見事に扉を切断した。鮮やかな手つきである。
 倒れた扉を乱暴に踏み台にして、グローリアは先陣を切って土足で建物の中に侵入を果たす。
 建物の中はやはり薄暗く、明かりの一つもついていなかった。唯一の光源である緑色の非常灯が、何とも恐ろしい。

「ねえ、グローリア。ここって本当に研究施設か病院なの? すごい埃っぽいんだけど」
「碌なことをしてないからね」

 転がったベンチを蹴飛ばして、一本道の先には白くて巨大なホールが四人を出迎えた。闘技場、あるいは実験場のようにも見える。
 高い天井には煌々と照明が輝き、壁や床は純白。平衡感覚がなくなってきそうだが、四人はそもそも人間ではないので平気だった。少し顔を上げたところにはガラスが埋め込まれていて、おそらくホール全体を見下ろせる形となっているだろう。

「ここは、一体——」

 ぐるりと翔が周囲を見渡すと、バンッ!! という荒々しい音が聞こえてきた。
 四人が入ってきた方向とは真逆にあった扉が、けたたましい音を奏でて開かれる。暗がりからフラフラと覚束ない足取りでやってきたのは、

「……なんだ、クソヒーローではないか」

 茶色の髪の毛。白い入院患者が着るような服。そして。
 うつろな黒曜石の如き双眼と、なくなったヘッドフォン。
 四人の血の気がザッと引いていく。特に翔とユフィーリアは顕著だった。何故なら、あの状態の昴はまずいからだ。

「クソ、どうなっている……ッ!! ヘッドフォンを外されたのか!?」
「外されたんじゃない、最初からないんだよ!! あれは僕たちが知ってる椎名昴じゃない!!」

 なにッ!? と三人が反応したと同時に、椎名昴は攻撃を仕掛けてきた。

Re: お前なんか大嫌い!! ( No.202 )
日時: 2017/01/04 22:09
名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: 5/xKAetg)

 風邪を引いたことは生涯で一度もなかった。
 だから、こんなに眠くなるとは思わなかったのだ。
 白衣の男に注射器で薬を投与された瞬間に、急激な眠気に襲われた昴の意識は泥の底へずぶずぶと沈んでいった。そんな感覚に襲われた。

 わずかに意識が浮上したが、瞳は開けられなかった。
 全身が冷たくて、まるで水風呂に頭から浸かっているような感覚が肌を通して伝わってきた。
 呼吸は難なくできたが、指先一つ動かせなかった。

(————おれは————)

 俺は、誰だ。
 一瞬だけ、ほんの一瞬だけ自分のことが分からなくなった昴だが、すぐに意識は深淵へと落ちていく。
 遠くの方がやけに騒がしかったが、気にも留めなかった。


***** ***** *****


 目の前の少年は、間違いなく椎名昴だ。翔の知っている、あの忌々しいヒーローだ。「クソヒーロー」「女顔死神」と互いに罵り合って殴り合うことを日常茶飯事としているあの感情豊かな少年だ。
 彼が敵味方関係なく襲いかかってくるという状態に陥った瞬間を見るのは、これで四度目だ。白い床を陥没させた椎名昴は、散り散りに飛び散った四人のうち、最も近かった翔へと狙いを定めてきた。
 うつろな黒い双眼で睨みつけられると、手足がすくんでしまう。だが、ここで動かなければ殺されるのは翔の方だ。震えそうになる四肢を叱責し、翔は紅蓮の炎を纏う鎌を構えた。

「クソヒーローめ、せっかく助けにきてやったというのに恩を仇で返すとは!!」

 まあいい。これで堂々と殺す口実ができた。
 ブルン、と炎を纏った鎌を薙ぐと、広々とした白いホールに熱風が駆け抜ける。パッと赤い花が白い部屋に咲くと、ハラハラと花弁が散る。
 拳を構える椎名昴を取り囲むように紅蓮の花が咲き乱れ、花弁が一枚一枚散っては火の玉となって燃える。ボッ、ボッ、と空気を燃やして小爆発を引き起こし、そして。

「今度こそ、くたばれ。ヒーロー」

 口の端を吊り上げた翔は、鎌の先端で床を叩いた。カツンという小さな音を引き金として、椎名昴を巻き込んで紅蓮の火柱が立ち上る。背後でグローリアの悲鳴じみた声が聞こえてきたが、翔は清々しい気分だった。ようやく怨敵を倒すことができたのだから。
 ところが。
 バタンッ、バタンッ。白い部屋の扉が二度開き、今しがた倒したはずの椎名昴が二人現れる。どちらも茶髪、うつろな双眼が特徴だ。

「嘘だろ!? あいつ、影分身でも使うのかよ!!」

 ユフィーリアの悲鳴。そして彼女は、二人のうち片方の椎名昴の首を斬り落とした。いともたやすく、呆気なく落ちた首。頭部をなくした胴体は膝から崩れ落ちて、動かなくなる。
 翔は再び鎌を構え直すと、先端に紅蓮の炎を灯らせる。炎の熱気を感じながら、椎名昴の体を切り裂いた。歪曲した刃が椎名昴の胴体を袈裟に切り裂き、遺体を骨も残さず燃やす。
 倒したはずだ。これで終わりのはず。
 なのに。

「どうして……ッ!!」
「クソ……影分身にも程があるだろ……ッ!!」

 部屋に入ってきたのは、五人の椎名昴。姿かたちがそっくりというか——同じだ。何もかも。髪色から髪型、服装から顔立ちまで全てが。
 各々の武器を構えた四人は、じりじりと距離を詰めてくる五人の椎名昴から距離を取った。
 その時だ。


『やあ、そこにいるのはアリスではないか?』


 頭上から降ってきた、マイクを通した男の声。その声が聞こえたと同時に、四人へ襲いかかろうとしていた椎名昴の軍団がピタリと足を止めた。
 顔を上げると、高みの見物を決めている白衣の男が一人いた。眼鏡を輝かせ、疲れ切った顔立ちをしている。翔が彼の名前を確認すると、彼は『椎名』とあった。奇しくもヒーローと同じ苗字である。
 翔と雫とユフィーリアは彼に覚えがなく、また四人の中にもアリスという名前がつく人物はいなかったのだが、グローリアだけが彼の呼びかけに応じた。

「『先生』——昴を、どこへやった!!」
『昴? ——ああ、タナトスのことか。君は随分、あの個体に肩入れするね。あれは私が人類を殲滅する為に開発した兵器だというのに』

 先生と呼ばれた男は、グローリアへ嘲笑を贈った。——ってちょっと待て。

「人類の殲滅だと? 奴がか!?」
『そこにいるのは死神の——誰か忘れたな。君も実に興味深い。炎を操ることから君はさしずめ、「フィアンマ」と名付ける方がいいかな?』

 粘ついた視線を送ってくる男に、翔は心底ムカついた。ヒーローよりも性質の悪い相手だ。
 いや、そうではない。
 普段から世界の平和を守り、人類を守っているヒーローの昴が——人類を殲滅する為に生み出された兵器だと? そんな話、とても信じられるものではない。
 確かにその剛腕は幾度となく人の命を危険に晒したが、昴は一度だって人を殺そうとか思ったことはない。——翔を除いて。

『これらは全員、私が全て作ったものだ』

 先生と呼ばれた男は、意気揚々と語る。


『人造人間タナトス——それがこの兵隊たちだよ』


 何が楽しいのか、男は哄笑を上げた。マイクを通して聞こえてくる笑い声が不愉快で、翔は眉根を寄せた。

『一人だけ——そう、一人だけだ。何を思ったのか余計な知識をつけて「自分は人類を守るヒーローになる」とか言って、研究員の一人を誑かしてこの研究施設を飛び出したのさ。以来六年間行方知れずだったが、今日ようやく戻ってきた。最高傑作で、最高のできの兵隊だったのに、余計な記憶も植えつけてしまって……ああ嘆かわしい』
「余計な記憶って何よ。笑えないし」

 雫が銀色の狙撃銃を構えるのと同時に、五人の椎名昴が一斉に雫めがけて小石を投擲してきた。五つの小石全てが第三宇宙速度を叩きだして壁に衝突、見事に白い壁を穿った。
 その怪力は、四人の知る椎名昴にそっくりだった。いや、そのものだった。

『だが茶番劇も終わりだ。奴の記憶を全て消去し、まずは貴様らを殺させよう。邪魔な奴を排除することによって、私の人類滅亡計画は幕を開けるのだ』

 恍惚とした表情で告げた男は、『入ってきたまえ』と呼びかける。
 入り口からぞろぞろと椎名昴が大量に入ってきて、五人から十人——百人と膨れ上がる。どこまでいるのだ椎名昴。
 ずらりと並んだ同じ顔に、翔は極小の舌打ちをした。面倒なことになった。


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