コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
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- お前なんか大嫌い!!
- 日時: 2017/01/29 23:27
- 名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: 5/xKAetg)
「何でお前はいつもいつも邪魔ばかりしてくるんだよ!!」
「うるせぇ! テメェの方が邪魔をしているんだろうが!!」
「「お前なんか大嫌いだ、この野郎!!」」
この物語は、
世界の平和を守るために立ち上がった単純馬鹿のヒーローと。
地獄の秩序を守るために立ち上がった俺様で我がまま死神の。
超おバカな——アンチヒーロー小説である。
***** ***** *****
こんにちこんばんおはようございます。また会いましたね、山下愁です。
この作品は『アンチヒーロー小説』とのたまっていますが、実際にはただのギャグです。満載のギャグです。少しの青春も入っていますが、大体は馬鹿です。宣言できます。
さて、クリックしてくださった心優しき読者様へ、この小説を読むにあたってのルールがございます。
守ってくださるとうれしいです。
1 コメントは大歓迎です。
2 荒らし・誹謗中傷・パクリはお断りします。
3 これ別館行きじゃね? と思う方もいるでしょう。大丈夫です。これはここでいいんです。
4 山下愁が嫌い! な方はUターンを推奨します。
5 同じく神作が読みたいという方もUターンを推奨します。全力で。
6 こちらの小説はできるだけ毎週木曜日更新となっています。土日もある場合がございますが、要は亀更新です。
以上を守って楽しく小説を読みましょう!
ではでは。皆様の心に残るような小説を書けるように、山下は全力を尽くします。
お客様!! ↓
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人差し指様 なつき様 モンブラン博士様 蒼様 立花桜様 彩様
目次
キャラ紹介>>01 >>03
プロローグ>>02
第1話『ヒーローの定義』
>>4 >>5 >>10 >>13 >>14 >>18 >>19 >>20 >>23 >>24
第2話『死神の定義』
>>25 >>26 >>27 >>28 >>32 >>37 >>38 >>39 >>42 >>45
第3話『姫君の定義』
>>46 >>47 >>50 >>51 >>52 >>53 >>54
第4話『合宿の定義』
>>56 >>59 >>63 >>66 >>67 >>68 >>69 >>71
第5話『劇薬の定義』
>>78 >>80 >>82 >>85 >>86 >>87 >>88 >>89 >>90 >>91
第6話『幽霊の定義』
>>94 >>95 >>98 >>99 >>100 >>101 >>102 >>103 >>104
第7話『処刑の定義』
>>105 >>107 >>109 >>111
テコ入れ>>112 >>113 >>114
第7話『処刑の定義』
>>117 >>118 >>120 >>125 >>126 >>127 >>130 >>131 >>132 >>133 >>134
第8話『恋愛の定義』
>>135-155
第9話『家出の定義』
>>156-188
第10話『捜索の定義』
>>189-198
最終話『終幕の定義』
>>199-210
エピローグ
>>211
あとがき
>>212
番外編
・ひーろーちゃんねる
キャラクターに30の質問
・椎名昴>>74
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- Re: お前なんか大嫌い!!-勘違い男たちの恋- ( No.98 )
- 日時: 2014/03/13 23:16
- 名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: Qvi/1zTB)
なんか肩が重い。
椎名昴はぐりぐりと肩を回してみるが、肩の重さは変わらない。それに、何故か体調が悪い気がする。
生まれてこの方16年。風邪など引いたことない昴だが、まさかこれが風邪か!? と思った。初体験の『風邪』に驚きを隠せない。
だが、新聞配達のバイトを休む訳にはいかない。借り物の自転車に積まれている新聞は、まだまだたくさんある。それに、そこまで体調が悪い訳ではないので仕事を続行することにした。
「何だろうなぁ……昨日何かしたっけ?」
そういえば不審者らしき男をブッ飛ばしたけど、あれが原因だろうか?
いや、相手を殴っただけで筋肉痛もしくは風邪のような症状になるのなら、昴はあの天敵である東翔に喧嘩を売った時点で危ういだろう。毎日喧嘩をしているのだから。
「まあいいや。とにかくこの新聞を配っちまえ————うげ、次はテリーさんちかよ……」
あの紅茶馬鹿、面倒癖えんだよな……とぼやきながら、昴はペダルを踏んだ。
ちなみに、怪力である昴は走った方が幾分か早いのだが、走ると新聞がまとめてどこかへ吹っ飛ばされてしまうので、新聞屋から自転車を借りているのである。自転車を買う余裕など、椎名家にはない。
シャカシャカと自転車を漕ぎ、紅藤の住まうマンションを目指す。紅藤の住まうマンションは、昴がバイトをしている新聞屋の新聞を取っている人が多いのだ。
「きょーは、なんそれーめんそーれ♪」
訳の分からない即興の歌を高らかに歌いながら、目的地であるマンションへとたどり着いた。
自転車を駐輪場に止めて、新聞の束を抱える。そして階段を軽快に上って行った。
「やあ、昴君。おはよう」
「どうも、テリーさん。ハイ新聞」
「ありがとう」
ちょうど家から出てきた紅藤へと新聞を手渡しし、さっさと昴は他の階の人へ新聞を配りに行こうとする。
が、相思う嘔吐した時。紅藤が昴を呼び止めたのだ。「ちょっといいかな」と言って。
「何ですか?」
なるべく紅藤にかかわりたくない昴は、それはもう気だるげに振り向いたのだった。
紅藤は不思議そうな表情を浮かべて、首を傾げている。そして何を思ったのか、昴の背後へ向かって拳を突き出した。紅藤の緩やかなパンチは、昴の頬の横をすり抜けて背後を突く。
ん? と昴は後ろを振り返ってみるが、何もいなかった。
「何かいた?」
「あぁ、何かすごく真っ黒な人間」
「ハァ?」
いや、この人本当に訳分からん。いつも以上に。
これ以上付き合っていたら怒られてしまうので、昴は適当に「そうですか」と返事をして新聞を配りに行ってしまった。
残された紅藤は、朝刊を広げてため息をつく。
「なんてことだ。昴君が変なものに取り憑かれてしまったよ」
***** ***** *****
(……大体何だったんだぁ? 今朝のあのクソ死神と言い、テリーさんと言い……俺の背中に何がいるってんだよ。黒い……人間?)
いや、何度振り向いても誰もいないし、鏡を見ても何も映らない。
見間違いで済ませたいのだが、天敵だけではなくて変人さんからも言われるとは、これはいよいよ何かがあるだろう。
とはいっても、昴の視界には何も映らないのだからどうしようもない。どうしたものか、これは。
「……うーん。見えないし、触れないし、一体背後に誰がいるんだよ」
そういえば、霊感というものがある人にはあるようだ。そんな話を昴はふと思い出した。
霊感。いうなれば、幽霊を見ることができる能力。これはヒーローや死神などではなく、一般人も持っている人がいるという能力だ。なるほど、紅藤にはこれが備わっていたのか。
————ていうか、幽霊?
「…………いやいやいやいや、まさか」
昴は幽霊の存在を信じていない。いや、別に怖い訳ではないのだ。ヒーローに怖いものなどありはしないのだ。そうだ、そうなのである。
「————あ、おい。ポンコツh「ぎゃぁぁぁぁクソがぁぁぁぁああああああああああああああああああああ!!!」うぉ!? いきなりポリバケツを投げて来るなこの馬鹿野郎が!!」
反射的に傍にあったゴミいっぱいのポリバケツをひっつかみ、自分に声をかけてきた怨敵にぶん投げた。
第3宇宙速度を超えてもはや光の速度を叩きだしたポリバケツは、空中に溶けて消えた。ゴミごと消えた。
声をかけてきた(きやがった)のは、あの宿敵である東翔だった。きょとんとした表情で立つ翔を、昴は恨みがましく睨みつける。
「……何だよ」
昴は低い声で問いかけた。
「テメェの後ろに何かいるからな。じっとしていろ、テメェごと燃やさない」
「おい!! 後ろには何もいないだろ!! いないよな、俺には見えないからいねえんだよ!!」
赤い鎌を構えた翔に、昴は全力で否定した。
しかし、空気の読めない死神は、その否定を否定した。
「何を言っている。のしかかっているだろう、真っ黒に焦げた人間が」
「————」
ビキリ、と昴は固まった。
これをチャンスと見たか、翔が鎌を構えたその瞬間。強風が吹いた。
原因は昴だった。コンクリートの舗装路を踏み抜く勢いで1歩を踏み出し、全速力で駆けだした。
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
その日、ヒーローの情けない悲鳴が白鷺市に響いたという。
取り残された翔は、炎の灯った鎌を構えたままぽかんとしていた。
- Re: お前なんか大嫌い!!-勘違い男たちの恋- ( No.99 )
- 日時: 2014/03/20 23:12
- 名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: Qvi/1zTB)
嘘だ。うそだー。うーそーだー。
そんな言葉ばかりが、椎名昴の頭の中をぐるぐると巡った。もう何度巡ったかもわからないぐらいに巡った。
一心不乱に走って走って走りまくって、でもヒーローだから疲れとかそんなの感じないしどうしたらいいのか分からなくなって——白鷺市の果てにきた。
息を切らせて土手を上り、静かに流れる川を見つめる昴。水面がきらきらと輝いていて美しい。少し落ち着いた。
「な、何なんだよあいつ……いつも通り変だぞ」
舌打ち交じりにつぶやいて、昴はその場に腰かけた。
緑色の短い草が、手のひらをくすぐる。服が汚れるぐらいどうってことはない。ゴロリと寝転がって、空を見上げた。
今日は変だ。
肩が重いし、色んな人には背中を気にされる。背中には何もいないのに、何もいないと信じているのに、それを覆すかのような発言。怨敵・東翔でさえも、愛用の赤い鎌を構えて「真っ黒に焦げた人間がのしかかっている」と言ったのだ。
信じるものか。誰が信じてなるものか。
「絶対に何もいないんだ……そうだ、絶対そうだ……」
「何が絶対そうだ、なの?」
「あfjわwkんr;おうぃhくぁおんvじゃ;っひうぇhqun/?!!!」
声なき悲鳴を上げた昴は、反射的に拳を振り抜いた。寸のところで我に返り、声をかけた相手を第3宇宙速度で殴らずに済んだが。
声をかけたのは、山本雫だった。いつものように黒いパーカーを着て、フードを被ってその美貌を隠している。フードの下にある顔は、本当に美しいものだ。空のように青い髪と海のような藍色の瞳の相性は抜群である。
雫は目の前に突き出された昴の拳に臆することなく、彼へ質問を投げかけた。
「一体どうしたの? 何があったの?」
「い、いや……」
「それよりさぁ。後ろにのしかかっている真っ黒焦げの人間は一体誰ぇ?」
うーそーだー(本日2回目)
ダッと駆け出そうとしたが、それは叶わなかった。パンッと銃声が聞こえ、昴はその場に膝をつく。
ガンガンと内側から殴られたような頭痛が襲う。昴は頭を抱えてうずくまる。かすむ視界が捉えたものは、銃口から白煙が立ち上るリボルバーを構えた雫だった。
傍から見てれば銃刀法違反なのだが、雫の能力は人を物理的に傷つけるのではなくて精神的に傷つけるものだ。ロケットスタートをしようとした昴を、雫は見事その背中を撃ち抜いたのである。外傷はないが。
「……ねえ、昴。逃げない?」
「に、にげない……あたま、どうにか……」
「本当に? 約束できる? 嘘ついたら1万回銃弾撃ち込んで、精神科行きどころか廃人にしてあげるからね?」
「わかった……わかったから……」
雫は再びリボルバーを構える。今度は苦しむ昴の脳天を狙った。
白魚のような指が、引き金を引く。
「満月の抱擁」
歌うように言葉を紡ぎ、銃口からは白い弾丸が吐き出された。それは昴の脳天を見事に撃ち抜く。
その途端、スッと先ほどまでの頭痛が嘘のように消えた。
「何なんだよ、今日は。3回も『真っ黒焦げの人間が〜』なんて言われてんだぞ俺……」
頭痛がなくなった頭をさすりながら、昴は服の砂を払って立ち上がる。
雫は「気づいていないの?」と眉を顰め、パーカーのポケットから板のようなものを取り出した。小さな手鏡のようである。それを昴へ押しつけた。
「鏡は真実を映す。多分映ってるよ、見てみな」
昴は半信半疑で、雫の鏡を覗き込んだ。
茶色い髪の毛に童顔。頭にはくせ毛を押さえるかのように装着されたヘッドフォン。どこからどう見ても椎名昴だ。
その後ろに、黒い影のようなものがいた。いや、正確に言うならばそれは——真っ黒に焦げた人間だ。
「————ピッ」
電子音のような短い悲鳴を上げて、昴は再び石化した。
一体、これは、何だ。何を映している。そこには誰もいないはずなのに、何故自分には見えるんだ。
「あれぇ?」
固まった昴の顔を、雫が覗き込んできた。
「もしかしてさぁ————幽霊とか、嫌いなタイプ?」
それからの意識はない。
- Re: お前なんか大嫌い!!-勘違い男たちの恋- ( No.100 )
- 日時: 2014/04/03 22:50
- 名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: Qvi/1zTB)
少年には黒い影が見えていた。
人間にまとわりついたり、背後でじっとしていたり、黒い影は様々なことをしている。
だけど、決して悪いものだとは思えなかった。人間たちはそれに気づいてない様子で、影をまとってどこかへと歩いていくのだから。
「なあ」
少年は、その影が何であるか知りたかった。
だから、訊いてみた。
「……あの黒い影って、一体何だ?」
——そこからの記憶はない。プッツリと途絶えてしまった。
***** ***** *****
「……ぁ」
目が覚めたら、そこは自然の天井が広がっていた。
つまりは青い空。白い雲。すげえ美しい。キレイキレイ。なんて言っている暇ではない。
「ここどこだっ! あ、河原か!!」
昴はガバッと目が覚めた。そうだ、河原だ。自分は河原で倒れたのだ。
では何故? 何故河原で倒れていたのか。首を傾げて考えてみるが、よく分からない。前後の記憶があいまいなのだ。どうしたものか。
すると、背後で気配を感じた。普段から死神を相手にしているヒーローだけあって、バッと振り向いて反射的に拳を握る。戦闘準備はOKだ。
背後に立っていたのは、黒いパーカーにフードを被った少女——山本雫だった。
「お前か……」
「いきなり倒れたんだからね。介抱してあげたうちに感謝しなさいな」
「へーへー、ありがとうございましたー」
適当にお礼を述べた昴の横を、赤い弾丸が通り過ぎていく。いや、さすがに昴もさっきのお礼の言い方だとムカつくけど。
ここはもう真剣に感謝した方がいいのかもしれない。何故なら、相手は宿敵の東翔ではないからだ。
「ありがとうな。何かしたか、俺?」
「別に何も。うなされてもいないよ。死んだように眠っていただけ」
雫は隣に腰かけると、「飲め。奢りだ」と昴へミネラルウォーターのペットボトルを投げてよこした。
素直にペットボトルを受け取った昴は、キャップをパキッと軽く開けた。冷たい水が喉を通り過ぎて行って、心地がいい。
「……ねえ、一体何があったの? もしかして、ヒーロー様は幽霊の類が苦手とか?」
「……苦手というか、物理攻撃が効かない相手とはどうやって戦ったらいいのか、よく分からなくて、だな……」
そうだ。そうなのだ。
昴が気絶した理由は、まさにそんなところである。
自分の拳が効かない相手には、強気に出ることができないのである。
まして、彼は幽霊という存在を信じていない。妖怪なら殴ってでも服従させるのだが、幽霊は別だ。専門の職業ではないと祓えないし、倒せない。
ここで霊的スペックでもあればよかったのだが、あいにく一般人(とはだいぶかけ離れているが)の椎名昴にそんなラノベ要素は持ち合わせていないのだ。いや、すでに怪力がラノベチックなのだが。
「……へー、いいこと聞いちゃった。あの死神に言ったらどうするの?」
「確かにあいつに関しては最大の強みだよなぁ」
だってあいつ、死神だもん。死者とか召喚できるに決まっている。
そうなったら非常に面倒くさい。倒せる気がしないし、多分気絶すると思う。
「それにしても珍しいね。昴はヒーローだから、てっきり霊的スペックを持っているかと思ったけど。普段から見えないの? うちは見えるのに」
「普段から本当に見えない。何にも見えない。見えたためしがない」
残念だけどな、と昴は肩をすくめた。
こちとら10歳以前の記憶がないのだ。昔はあったかもしれないが、今はどうなのか知らない。
いや、今はとにかくこの背後にいるだろう黒い影をどうにかしたい。
「なあ、山本雫。お前はこの後ろにいる黒い人間はどうにかできないのか?」
「できないなぁ。うちはあくまで精神を攻撃するからね。あくまで人間を対象としているんだけど……幽霊まではさすがに無理かなぁ」
畜生、雫でも処分できないとは。
ムゥと昴は唇を尖らせて、この先の対策を考える。
やはりプライドを何もかもを捨ててあの死神に祓ってもらうか、このままこの黒い人間と共存していくか。
「よし、俺、こいつと生きるわ」
前者をコンマ1秒で捨て去った昴だった。よほど嫌か。
雫は驚いたように、フードの下にある藍色の瞳を丸くした。
「いいの? 祓ってもらったらいいんじゃないの?」
「あのクソ死神に頼んだら、体まで焼けるかもしれない。ぶっちゃけまだ死にたくないしな」
「だったら早くにその幽霊を祓った方がいいぞ。何か危うい雰囲気がする」
————あれぇ? 第3者の声が聞こえたなぁ。
昴は頭に装着しているヘッドフォンを1度外して、耳をほじる。そして頭を掻いて、大きく伸びをしてから立ち上がった。右拳をしっかり握り、背後に立つあの馬鹿な死神に振りかぶる。
「いきなり背後に立つんじゃねえよ幽霊がしゃべったかと思っただろうがぁぁぁぁぁああああああ!!!」
「心優しい死神様が幽霊を祓ってやるから大人しくしてろぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおお!!!」
今日も白鷺市では犬猿の仲の2人が喧嘩してます。
- Re: お前なんか大嫌い!!-勘違い男たちの恋- ( No.101 )
- 日時: 2014/04/17 22:26
- 名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: Qvi/1zTB)
前回までのあらすじ〜☆
昴に幽霊が取り憑いた。
翔がそれを祓おうとした。
2人でいつも通り喧嘩。
今北産業の人はぜひ戻って読んでみよう!
ぜぇはぁ、とかなり長い間喧嘩をしていた為、2人はかなり疲れていた。膝をついて肩で息をするほどに。
特に昴は、これはおかしいと感じ始めていた。
椎名昴というヒーローは、底なしの体力と怪力を誇るヒーローだからだ。何でこんなに疲れるのだろうか。謎である。きっと背後に張りついている幽霊の仕業だ。
「……いい加減、大人しく、していろ……!」
「やな、こった……! 体が重いッ!!!」
「その幽霊が乗っているからだ! 大人しくしていろと言っているのに!!」
いや、身の危険を感じたら誰でも大人しくできないと思う。
何度でも言おう。昴と翔は犬猿の仲だ。お互いが大嫌いで、「死ねばいいのにていうか殺す」と思っているほどだ。
だというのに、このクソ死神は一体何を考えているのやら。恩を売って返してもらおうとでも思っているのか知らないが、とにかく幽霊を祓えとうるさい。うるさいったらうるさい。
何が目的だと言わんばかりに睨みつければ、翔はフンと鼻を鳴らした。
「テメェを殺すのはこの俺だからな。幽霊にかすめ取られてしまったらたまったものじゃない」
「どさくさに紛れて幽霊ごと俺を燃やそうとか思ってんじゃないだろうな。心の片隅にでもそんな思いがあったら全力で応戦させてもらおう」
「そんなことある訳ないだろう。ただ恩を売って、お礼としてシュークリームを作ってもらおうと」
こいつは本当に甘いものが好きだな、オイ。
昴は額を押さえてため息をついた。どこまでも欲望に素直な奴だ、面白いぐらいに。
だがしかし、それぐらいで命が救えるのならお安い御用。昴は案外料理が上手いのである。喫茶店でアルバイトをしているが、期間限定のお菓子を作っているのである。もうヒーロー辞めてパティシエになれよ。そしたら翔と和解できると思うから。
一時休戦と宣言し、これ以上喧嘩をしないように保険として雫を間に入れた。
「それで、俺の背後にいるこの幽霊さんは一体何なんだよ? 真っ黒焦げなんだけど」
「おそらく火事か何かに巻き込まれて死んだ奴だろう。顔が原型を留めていないぐらいに黒い。さすがの俺でも黒い人間としてしか認識できない」
「うちもそうだよ……何なの昴。何か変な人でも食べた?」
「ふざけんな。俺はカニバリズムなんか持ってねえよ……あ」
そういえば。
あの時、バイトの帰り道。深夜、家の前に現れた謎の人。姿が見えなかったが、不審者だと思って殴ってしまったあいつ。
あいつを殴ってから、幽霊か何かと言われるようになったのだ。絶対にあいつが原因だ。
昴が「あ」なんて言ったから、翔と雫はそろって首を傾げた。
「どうした」
「バイトの帰りに不審者殴ってからこんなことになった。昨日ぐらい」
「……」
翔の瞳は物語る。「昨日でこうなるのか」と。その瞳に応えてやりたかった、うるせぇと。
昴はチッと大きな舌打ちをしてから、明後日の方向を見上げた。もうそうするしかなかった。
「何が原因なんだろうねぇ? その人が現れた理由的な」
「さあな。とりあえず、その幽霊を燃やす。じっとしていろ、上手く焼けねえから」
「お前は人類最強の兵士長か!?」
「人類ではないな。最強ではあるが。山本雫、そいつを羽交い絞めにしろ」
雫は昴の後ろに回ると、羽交い絞めにした。
別の意味で暴れたくなった。何故なら、雫は女の子だから。さらに明確に表現するなら、胸が当たるのだ。背中に。
小ぶりながらもふっくらとした柔らかい女性の象徴が、ぎゅうと背中に押し当てられる。やっべこれ、どうしたらいいんだこれ。
その時である。
「うぉぉぉおおおおおおお」
あれ、何か聞こえた。
うめき声的なものが聞こえた気がする。
そろり、と振り向いてみると真っ黒焦げの人間が、真っ黒焦げの口を大きく開けていたのだ。至近距離に。
——あ、俺死んだ。
「…………ふぅ」
「あれ、昴? おーい!?」
「おいポンコツヒーロー、気絶するなおい!!」
本日2度目のブラックアウトを経験した。
- Re: お前なんか大嫌い!!-勘違い男たちの恋- ( No.102 )
- 日時: 2014/04/24 22:32
- 名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: Qvi/1zTB)
背後になんかいた。何かいた。
いや、もう何かって言うか真っ黒焦げの人間なんだけど、めちゃくちゃ怖かった。こっちにガッポリ口を開けていたものだから。
そして昴が目を覚ませば、見慣れた天井が飛び込んできた。薄汚れた天井——昴が住むアパートの天井だ。汚れ模様も同じなので、ここは昴が住んでいる部屋だと認識する。
じゃあ、一体どうやって帰ってきたというのか。
「……すげーな。ついにワープ機能まで備えたか」
「な訳ないだろ、アホ」
ぼんやり天井を見上げていた昴の顔面に、真っ白い紙の束が落とされた。パァン、というかドスッという音がした。
思わず「ふぐぅ」という情けない声を上げて跳ね起きると、いつもはエロニートの理人やロリっ子毒殺仕事人の小豆がいるはずの部屋が、今は翔と雫の2人だけしかいない。
「あぁ、この部屋にいた奴らは全員隣に移ってもらった」
「あ、なーるほど。だから3人しかいねえのな……つーか、この紙束は一体何」
跳ね起きた反動で床に落ちた紙束を拾い上げれば、何かの経歴書だった。
顔写真が載っていて、名前が記入されていて、住所とか年齢とか生年月日とか死亡予定時刻とか書かれてて————
「おいいいい!? これって、これって!」
「あぁ、死神が魂の回収で使うリストだ。ちなみにその紙束は一昨日のものだ」
「ちょ、待て! これ一昨日!?」
この分厚さは広辞苑まで行かなくとも、大辞泉は軽く超すぞ? ていうか同じぐらいだぞ?
分厚い真っ白な死亡者リストを鷲掴みにして、昴は目を丸くした。そして何ともない表情でパラパラと白い紙をめくっていく翔を見やる。
その視線に気づいたのか、紙面から顔を上げた翔が眉をひそめた。
「何だ、一体」
「いや……こんな分厚いものを狩ったんだなぁ、と」
「そんなものだぞ。死神の仕事は、下手をすればブラック企業よりもブラックだからな。いや、もう人を殺している時点でブラックなのだが」
いいから火事で死んだ人間を探せ、と翔に命令されて、渋々昴は紙をめくり始める。
こんな仕事量をこなしている翔は、ある意味すごいと思う。よくワーカーホリックにならないものだ。死神の仕事をしたことないので分からないのだが。
しかもこれ、外人の魂まで混じっている。これ外国まで狩りにでも行ったのか。
「なあ」
「何だ」
「外人の魂はどうするんだ? わざわざ外国まで取りに行くのか?」
「日本に住んでいる奴だけだ。俺の管轄は日本だ。日本全体の魂を狩るのを仕事としている」
「日本人これだけ死んでいるんだな……」
「事故や殺人、病死、老衰……その他色々あるんだが、俺はその中でも自殺の項目をなくそうとしている。まだ終わらぬ命を自らの手で絶つ愚行——俺は絶対に許さん」
その手に握られている白い紙が、ぐしゃりと歪んだ。
翔には翔の思いがあって、人類を支配しようと思っているようだ。昴が「自殺ダメ絶対」なんて注意喚起したところで聞く人間などいるだろうか。そうなると、支配した方がよほどいいかもしれない。
特に、翔は命に関する仕事に携わっているのだ。
そっと紙の束を見下ろせば、1番上の真っ白な紙に記載された男の死因が『自殺』とあった。大人しそうな顔をした男だった。
「テメェのリストが配られれば真っ先に狩ってやるのだがな」
「畜生。少しだけジーンときた俺の感動を返せ」
こいつは最後の最後で雰囲気を壊す馬鹿野郎だった。
昴はチッと盛大に舌打ちをして、パラパラと紙をめくっていく。相手の死因は『殺人』『事故』『自殺』の3つに絞られる。
死んだ経歴に目を走らせて、火事で死んだ奴をピックアップしていく。おいおい、一昨日の死亡者リストで6人も火事で死んでやがるぜ。
「火事で死んだ人ってこのぐらい?」
「1週間分のリストで何人いるんだよ……本ができるぜ」
こんもりと山を作った火事で死んだ死亡者リストを呆然と眺める昴と雫。
唯一平気なのは翔だけで、ポンポンと1番上のリストを叩きながら「まあ、200人前後だな」とポツリとつぶやく。何で人数を瞬時に把握できる。
「わぁ、いつも死神ってこんなにたくさんの人を殺してたの? もうスイーパーじゃん。掃除屋じゃん」
「殺すと言うな。狩ると言え。——まあ、あとはこうするだけだが」
翔は山となった書類を、ポンと鎌で叩いた。
すると、真っ白な紙から真っ白な光があふれ出して、ふわふわと空中に浮かび上がる。翔の周りを囲うように浮かぶ書類1枚1枚に目を通し、翔の手が1枚の紙を取った。
男の写真と、名前。死因は『自殺』で、焼身自殺。
「あ」
「まさに」
「こいつだな」
顔が一致した。
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