コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
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- お前なんか大嫌い!!
- 日時: 2017/01/29 23:27
- 名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: 5/xKAetg)
「何でお前はいつもいつも邪魔ばかりしてくるんだよ!!」
「うるせぇ! テメェの方が邪魔をしているんだろうが!!」
「「お前なんか大嫌いだ、この野郎!!」」
この物語は、
世界の平和を守るために立ち上がった単純馬鹿のヒーローと。
地獄の秩序を守るために立ち上がった俺様で我がまま死神の。
超おバカな——アンチヒーロー小説である。
***** ***** *****
こんにちこんばんおはようございます。また会いましたね、山下愁です。
この作品は『アンチヒーロー小説』とのたまっていますが、実際にはただのギャグです。満載のギャグです。少しの青春も入っていますが、大体は馬鹿です。宣言できます。
さて、クリックしてくださった心優しき読者様へ、この小説を読むにあたってのルールがございます。
守ってくださるとうれしいです。
1 コメントは大歓迎です。
2 荒らし・誹謗中傷・パクリはお断りします。
3 これ別館行きじゃね? と思う方もいるでしょう。大丈夫です。これはここでいいんです。
4 山下愁が嫌い! な方はUターンを推奨します。
5 同じく神作が読みたいという方もUターンを推奨します。全力で。
6 こちらの小説はできるだけ毎週木曜日更新となっています。土日もある場合がございますが、要は亀更新です。
以上を守って楽しく小説を読みましょう!
ではでは。皆様の心に残るような小説を書けるように、山下は全力を尽くします。
お客様!! ↓
粉雪百合様 棗様 碧様 甘月様 甘味様 亜美様 noeru様 日向様 ドロボウにゃんにゃん様 猫又様 狐様
人差し指様 なつき様 モンブラン博士様 蒼様 立花桜様 彩様
目次
キャラ紹介>>01 >>03
プロローグ>>02
第1話『ヒーローの定義』
>>4 >>5 >>10 >>13 >>14 >>18 >>19 >>20 >>23 >>24
第2話『死神の定義』
>>25 >>26 >>27 >>28 >>32 >>37 >>38 >>39 >>42 >>45
第3話『姫君の定義』
>>46 >>47 >>50 >>51 >>52 >>53 >>54
第4話『合宿の定義』
>>56 >>59 >>63 >>66 >>67 >>68 >>69 >>71
第5話『劇薬の定義』
>>78 >>80 >>82 >>85 >>86 >>87 >>88 >>89 >>90 >>91
第6話『幽霊の定義』
>>94 >>95 >>98 >>99 >>100 >>101 >>102 >>103 >>104
第7話『処刑の定義』
>>105 >>107 >>109 >>111
テコ入れ>>112 >>113 >>114
第7話『処刑の定義』
>>117 >>118 >>120 >>125 >>126 >>127 >>130 >>131 >>132 >>133 >>134
第8話『恋愛の定義』
>>135-155
第9話『家出の定義』
>>156-188
第10話『捜索の定義』
>>189-198
最終話『終幕の定義』
>>199-210
エピローグ
>>211
あとがき
>>212
番外編
・ひーろーちゃんねる
キャラクターに30の質問
・椎名昴>>74
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- Re: お前なんか大嫌い!! ( No.133 )
- 日時: 2014/12/21 17:23
- 名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: zCMKRHtr)
さて、あんな1件があった翌日のことである。
ユフィーリアの機転により翔を救い出すことができた昴は、さっさと彼をつれて現代へと帰ってきた。そして突然の帰還で呆けた部下たちへ翔を放り投げ、「あとは自分たちでやれ」と命令してさっさと帰ってきた。
もう地獄には行くまい。昴は心の中でそう誓ったのである。
「……で、そんなことがあった翌日にお前は堂々とコンビニにくる訳だなこの野郎」
「お客様は神様じゃないのか。ここの店員は躾がなっていないな。最初から躾け直してやろう、ほらそこに座れ。奥歯を蹴り飛ばす」
「お前はどこの人類最強だ。そもそもお前は人類でもなければ壁の中に住んでいる訳でもない。実際お前がその世界に行ったらその日のうちに巨人と人類両方を滅亡させるだろうな」
レジ台にばらまかれたお菓子の山を見て、粛々と作業に取りかかる昴。ピッピッとバーコードに光をかざしていく。
一方の翔は、加算されていく金額をただただじっと見つめているだけだった。
ちなみにこの2人の空気は、半端なく悪い。他の客がビビッて違うレジに並ぶほど。もう1つのレジを担当している店長は、「あらあら〜?」なんてのんきにレジをやっていたが。
「……まあ、その、なんだ。あの場に貴様が現れて、正直助かったがな」
「一体どういう風の吹き回し? ついに頭が狂っちゃった? 大丈夫?」
怪訝そうな顔で翔を見上げれば、何やらものすごく不機嫌そうな顔で舌打ちをされた。解せぬ。
翔からしてみれば素直に礼を言ったのだが、それをあっさりと冗談か何かで片づけられて不本意という訳だろう。無理もない。翔自体が天敵である昴に礼を言うこと自体が珍しいのだから。
全てのお菓子に光をかざして、合計金額を告げる。
「2,310円になります。さっさと現金置いてけ。ちなみにカードを使うのは許さない」
「カードとは何だ。トレーディングカードか? 遊○王みたいな感じか? あれが使えるのか?」
「使える訳ねえだろ何言ってんだお前!?」
そうだ、これだ。東翔という死神はこれでこそだ。
非常識で、俺様で、いつも自分につっかかってくる阿呆だ。だからこそ、昴も本気で喧嘩ができる訳で。
地獄にて、処刑を甘んじて受け入れようとしていた奴とは大違いだ。相手に掴みかかってこそだろう。
翔は「違うのか……」なんて言いながら、財布から札と硬貨で代金を清算した。やはり俗世の常識に疎いことは変わっていない。あの時の処刑に間に合っていなかったら、一体どうなっていたのだろうか。
ちょうどの金額を受け取って、レシートを「あ、ごめん手が滑ったぁ」とわざとらしく言って、翔の顔面にお札よろしく叩きつける。
数秒固まっていた翔だが、レシートを素手で掴み、わざわざご丁寧にも鎌を出して地獄の業火で灰にしてから昴の胸倉を掴んだ。
「貴様何をする? 店員という存在が、お客様にレシートを叩きつけるとはどういう了見だ」
「手が滑ったって言ったじゃん。それにわざわざ鎌を出してレシートを燃やすってどういうことなの。便利だね、ついでにそこのレシートの山も燃やしておいてよ」
「断る。死神を顎でコキ使う野郎は、貴様が初めてだぞ。責任とれ」
「どういう責任? 俺、お前と責任とって結婚するの嫌だよ?」
「……貴様、やはりそういう趣味か。女の影がないと思ったら……」
「何言っちゃってんのこいつ!? 違うからー、違いますからー!!」
何故か引き気味の翔に全力で否定して、昴はお菓子をレジ袋に放り込んで翔に投げつけるようにして渡した。
翔はちらちらとこちらを不審そうに見ながら、大人しく出て行った。やはりあれはからかっている、絶対にだ。
去っていく背中を見て舌打ちをして、次にレジ台へやってきた客の商品を受け取った。——エロ本だった。しかもなんかかなりきわどい感じでマニアックな。
あー、こういうもの買う奴いるんだなー、なんて思いながらちらりと客を見やれば。
「あ、袋いいや。それだけだし」
「お前かよ!?」
銀髪碧眼。白いシャツにぴったりと足全体を覆う黒いパンツ、それから軍用ブーツというラフな格好に、長い刀を脇に抱えている。
青い双眸が昴を怪訝そうな顔で見上げ、それから「おお」と言ったような表情を浮かべる。
「何だ、ヒーロー君か。いやー、ここでバイトをしているとは思わなかったわ」
「いや、お前女だろ? 何でエロ本を買おうとしてんだよ。馬鹿じゃないの?」
「馬鹿じゃないよ。だって読みたくなっちゃうもん。美人さんが乱れる姿が見たい」
「変態か!! ていうか何歳だよ、18歳以下は見ちゃいけないようになってんだぞ!!」
「1500歳」
ケロリ、とユフィーリアは言った。しかも満面の笑顔付きで。
そうだ、こいつも地獄で処刑人をしていた奴だった。昴は自分の日常に現れた新たな人物に頭を抱えるのだった。
- Re: お前なんか大嫌い!! ( No.134 )
- 日時: 2014/12/31 20:50
- 名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: zCMKRHtr)
ヒーローと死神の雑談場♪ 〜ゲストを招いての振り返り〜
椎名昴「早くも1年が終わりに近づいてまいりました」
東翔「年越しそばうめえ」
椎名昴「テメェ、その年越しそば誰が作ったと思っているんだ。悠太の野郎がいないからってカップそばを作れって命令してきたのはお前だろ」
東翔「何のことやら」
椎名昴「無視するな」
山本雫「それでさー、この話に関してウチは全然出ていないんだけどさ? 何なの? 脇役になったの?」
椎名昴「ごめん」
東翔「すまん」
山本雫「謝ってほしくないやい」
ユフィーリア「え、だったらアタシが謝ろうか?」
山本雫「出た」
椎名昴「出た」
東翔「ぞぞ(出た)」
ユフィーリア「食いながらしゃべるな。汚いな」
東翔「ムグムグ……地獄の最強処刑人であり、距離・空間を飛び越えて全てのものを切り捨てる『切断術』を操る阿呆のユフィーリア・エイクトベルだ」
ユフィーリア「ご紹介に預かりました、ユフィーリア・エイクトベルです。阿呆って言った翔はあとで首だけ切断して門前に門松気分で飾っておくのであしからず」
椎名昴「それは困るな。俺が殺す予定だから」
ユフィーリア「大丈夫、しゃべるから」
椎名昴「それは見てみたい。そうだ、額に肉って書いてやろ。定番だろ?」
東翔「ノリノリだ。やめろ」
山本雫「おーい、こっちもゲストさんがきたよー」
凪「騒がしい」
嵜「騒がしいね」
山本雫「アナタに30の質問!! からやってきました、サニ。様のキャラクター様です。歓迎してあげてねー」
椎名昴「歓迎するとなるとな、俺らは喧嘩するしか他はないんだが」
凪「それはなし」
嵜「うん、なしで」
凪&嵜「「だってうるさいのは質問のコーナーで身を持って分かってるから」」
東翔「何も言えん」
椎名昴「右に同じ」
山本雫「また喧嘩したんだねー」
ユフィーリア「それでこの子たちは一体何なの? 見たところ、双子って感じ?」
山本雫「そんな感じかな? まあ、受け答えしたのはウチなんだけども。いやー、嵜ちゃんの方かな? そっちが銃火器持ってるからお姉さん興奮しちゃってね!!」
嵜「早くも帰りたい」
凪「我慢して」
ユフィーリア「少し遠目から見ていた方がいいよ。何か燃えている……触ったらあれだ、燃え移るよ」
凪「そうしよう、嵜」
嵜「そうだね、凪」
山本雫「何故にそこまで遠く行ってしまうのか」
椎名昴「お前のない胸に訊いてみろ」
東翔「…………あえて何も言わんでおく」
椎名昴「え? 何で?」
山本雫「ねえ昴? デリカシーって言葉を知ってるかな? ねえ、知ってるかな??」
椎名昴「めっちゃいい笑顔!! うわ、やめてそのライフルで一体何をする気なの俺の頭を狙って何をする気なの!!」
東翔「騒がしくてすまん」
凪「うん」
嵜「騒がしい」
ユフィーリア「そしてサニ。様にも土下座しようか。『自分の憶測でキャラクターをしゃべらせてすみませんでしたマジでほんとに』」
東翔「俺様は屈しない」
ユフィーリア「別にいいけどね」
山本雫「さて、もうそろそろ終わるか」
凪「見てて面白かったよ」
嵜「うん、楽しかったよ」
山本雫「そう言ってもらえてうれしいよ」
椎名昴「死にそうになった……」
ユフィーリア「それじゃ、次回予告しようか!!」
東翔「次回予告——ん?」
いじめられていた高校生を助けた翔だが、何故かその高校生にしまった翔!
何故かっていうと、相手は翔を女だと勘違いしてしまった様子!? 嘘やん!!
「……俺様に一体、どうしろと……!!」
「ゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラ」
「笑うなポンコツ!!!」
さて、ここでデートをする羽目になってしまったようだが、一体どうなる東翔!!
東翔「おい、これって」
椎名昴「ゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラポー」
山本雫「次回も」
凪&嵜「「お楽しみに」」
ユフィーリア「サニ。様もありがとねー」
- Re: お前なんか大嫌い!! ( No.135 )
- 日時: 2015/01/11 18:28
- 名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: zCMKRHtr)
第8話
問題
マザーグースの歌の中で、『スパイスと素敵なものでできている』と表現されているのは何でしょう。
模範解答
女の子
椎名昴の答え
今夜はカレーライスにしよう
採点者のコメント
晩飯の献立を聞きたくなかったな
山本雫の答え
人生
採点者のコメント
マザーグースってそんな壮大なものを『スパイスと素敵なもの』で表現するかな
ユフィーリア・エイクトベルの答え
ていうかマザーグースって誰ですか
採点者のコメント
辞書を引け
東翔の答え
女の子
採点者のコメント
まさかの正解……だと!?
第8話 恋愛の定義
- Re: お前なんか大嫌い!! ( No.136 )
- 日時: 2015/01/17 23:30
- 名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: zCMKRHtr)
「畜生……こんなに長引くとは思わなんだ……」
深夜の人気のない道を、翔はブチブチと文句を言いながら歩いていた。
彼は死神である。前回の話で少し事情があって処刑されかけたが、まあなんとか現世に帰ってこられた訳である。
そんなこんなで仕事である魂の狩猟を再開させたら、いきなりたちの悪い魂に引っかかってしまった。いわゆる悪霊である。しかもかなりガラの悪い。
目の前まで詰め寄られたと思ったら、罵声を浴びせる始末である。そりゃあ誰だって死にたくはなかった。罵声を浴びせてきた当本人(というより悪霊)は、突然の交通事故で亡くなったのだ。
だが、そんなことを翔が知る由もない。いや、実際は死因は分かっていたのだが、同情する余地もない。そんなことは死神ではなくて、八百万の神様にでも言ってほしいものだ。
「……ああクソ、気分が悪い。それもこれもあの悪霊のせいだ。クソッたれ」
ドスドスともはや地面を穿たん勢いで歩き続ける翔。
実は奴の罵倒が、何よりも気に食わなかったのだ。
あの悪霊は、こともあろうに翔のことを、「女顔!! 女のような顔して、恥ずかしくねえのか!! 気持ち悪い!!」と叫んだのである。
好きでこの顔に生まれた訳ではない。翔はすでに地獄へ送ったあのクソ野郎に対して舌打ちを送る。
この顔は、父親に似たと言われている。出雲も悠太も口をそろえて「父親に似ている」と言ったのだ。翔は父親など知らないのだが。煉獄に閉じ込められている時も、奴は1度も顔を出しにこなかったのだから。
そもそも、翔はこの顔を気にしたことは1度もない。確かにあの憎きクソヒーローには「女顔死神」とか言われるのだが、別に大した問題ではないと思ったのだ。この顔でも、声は低いし喉仏もある。身長も日本人男子の平均身長だ。あと態度もでかいので女には見られないだろう。
「……コンビニでも行こう。イライラしている時は甘いものが1番だと聞く」
ふむ、そうだな、そうしよう。翔は1人で頷いて、コンビニに向かうことを決めた。
その時である。
遠くの方から、話し声が聞こえてきた。
「や、やめてください……放してください」
「うるせえな。こんなぬいぐるみに話しかけてるなんて気持ち悪い!! 大体、顔も女々しいしよぉ。女なんじゃねえの? ちょっと脱げよ。確かめてやる」
「や、やだ!! やめ、たすけて……!」
(……ああ、何だ。強姦か)
鬱陶しいものだ。こちらは今まさに「女顔」と悪霊相手に罵られて、現在その言葉には非常に敏感なのである。
敏感だからこそ、翔は切れた。ブチ切れた。
「おい、貴様。そんなところで何をしている」
道路をすぐ曲がったところ——路地裏にて、2人の少年がやり取りをしていた。
1人は金髪のガタイのいい少年である。耳にだけでなく、顔中にピアスをして服装もだらしがない。補導経験があると言われても納得できよう。
もう1人は、濃紺のショートヘアが特徴の少年だった。眠たげな双眸には涙を浮かべ、小さな体を震わせている。彼が胸の前で抱いているのは、巨大なウサギのぬいぐるみだった。可愛らしくリボンが結ばれ、ワンピースの洋服も着せられている。
だが、その濃紺の髪を持つ少年が、あまりにも小さかった。翔は身長173センチなのだが、遥かに小さい。いうなれば、そう——小学生。
「あ? 誰だテメェ」
金髪の男がすぐに反応を示した。
翔は金髪の男と濃紺の髪の少年を見比べて、それから侮蔑と可哀想なものを見るかのような目を金髪の男へ向けた。
「……貴様、えーと……成田ハジメとやら。夜中に小学生へたかり行為か。感心せんな」
「う、うるせえ!? ていうかたかりじゃねえよ、馬鹿じゃねえの!?」
「……………………………ああ」
しばし黙考したあと、翔は何かに思い至った。ポンと手を叩き、己が導き出した答えを述べる。
「やめておけ。そんなところで行為を致すのは不衛生すぎる。きちんと室内で行った方が双方の為にも——」
「何の話をしてんだテメェは!?」
「ナニの話だ、阿呆」
「そういうんじゃねえよ、この野郎!! テメェも女みたいな顔をしやがって、生意気な!!」
金髪の男は地雷を踏み抜いた。もう地雷のあとを知っているのに、平気で踏み抜いたかの如く。
普段は身の丈を超す大鎌を振り回している翔だが、貧弱ではない。種明かしをすると、あの鎌は結構な重量があるのだ。その為、翔は腕力が強いのである。ちなみに昴ほどでもないが、握力もかなりのものだ。
では、どうして握力や腕力の話になったのか。
翔はスタスタと金髪の男にまで歩み寄ると、がっしりと彼の大きな顔を掴んでコンクリート壁へ叩きつけた。
「ぐがぁ!?」
顔面を叩きつけられて、悲鳴を上げる男。
しかし、2度も女顔と言われた翔は完全にブチ切れていた。それはもう大層ご立腹である。彼を怒らせることができるのはこの世で、あのポンコツヒーロー(椎名昴)だけかと思ったが、案外違うようだ。
そのまま翔はガツンガツンと男の顔面をコンクリート壁へ叩きつける。顔の原型が分からなくなるまで叩きつけたあと、持ち前の腕力を使って男を放り投げた。ゴロゴロと地面を転がる男は、なんとか立ち上がって、這うようにして逃げた。
その背中を見送り、翔は残った濃紺の髪の少年へ目を向けた。
怯えたような目で見上げていた少年の名前が、ふと翔の視界に映る。
桜瀬聡里。年齢は——16歳。解せぬ。
「……無事か」
「あ、ハイ。あ、あの……」
「驚かせたようだな。だが、気にするな。あの程度で人間は死なん。あと、小学生と間違えてしまったことを謝罪する」
「い、いえ。気にしていません。いつものことでしゅ……いつものことですから」
おどおどとした口調で話す少年。
翔はそんな少年の顎を手に取って、無理やり己へと向けた。怯えたような、そして困惑した少年の目が翔の赤茶色の目とかち合う。
その目を見た翔は、一言。
「貴様の目は、紺色をしているのだな。きれいだ」
「え——」
「俺様はもう行く。さらばだ」
颯爽と去ろうと翔は少年へ背を向けた。
だが、少年は翔を引き止めた。
「あの!!」
「なんだ」
引き止められ、翔は素直に応じた。くるりと振り返れば、そこには何やら必死な顔をした少年が。
「お、おにゃ、お名前はなんて!?」
「東翔だ」
覚えておけ、と翔は言い残して今度こそ去った。
人助けもいいものだ、とひっそりと死神の少年が思ったのは秘密だ。
ちなみに、先ほどの少年が取り残されたその場で「翔さん……」と恍惚とした表情でつぶやいていたのは言うまでもない。
- Re: お前なんか大嫌い!! ( No.137 )
- 日時: 2015/02/08 18:22
- 名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: zCMKRHtr)
朝である。どう考えても朝である。
蒼穹には輝く太陽が昇り、人間は活動をし始める。
白鷺市のヒーローである椎名昴もまた、活動を始めていた。朝は新聞配達のバイトから始まるのである。人間の範疇を軽々と通り越して、もはや化け物じみた脚力を駆使して白鷺市を爆走していく。ひそかに小学生からは『人間新幹線』として七不思議的な存在として崇められている。本人は全く知らないのだが。
そして本日も無事に新聞配達を終えた昴は、メインのバイトである喫茶店へ出勤する為に身支度をしていた。
「おーい、理人。俺はもう————」
行くぞ、という言葉は昴の口の中に消えた。
振り向いた先にいるのは、1人の少年と1人の少女。どちらもパソコンへと熱心に視線を注いでいるようだが、実質は違う。
パソコンのディスプレイに映し出されていたのは、男と女が『バッキューン』して『ドゥルルルル』している場面だった。なんかデジャヴ。
「2人してなんつーものを見てるんだこの野郎ども!!」
「「うぎゃん!?」」
音もなく2人の背後に立った昴は、迷いなく彼らの脳天にチョップを叩き込んだ。だが、それほど力は入っていないようだった。
いくらビルを吹き飛ばし、河原を吹き飛ばし、クレーターを作るほどの脚力を発揮したとしても昴は人間(じゃないかもしれないけど、でも人間)である。たとえチョップした瞬間、相手の脳漿を炸裂させて狂ったように踊らせることができたとしても、昴はやらない。
殴られた脳天を擦りながら、2人——橘理人と結城小豆は振り向いた。
「何するんだよ、昴」
異議を唱えたのは理人の方だった。
しかし、全年齢が対象でありしかも健全な小説サイトに不釣り合いで不快な映像を見せた彼を叱らなければならなかった。というか叱れ。
「何するんだよ、じゃないよこのお馬鹿!? 何なのまた変態チックなものを見て。ご近所さんになんて言われてるか知ってる?」
「変態」
「そうだよその通りだよ。小豆ちゃんもこの馬鹿と一緒になって見なくていいからね。ていうか18歳未満は見ちゃダメな奴だからね」
「攻め方がぬるい」
「もうやだこの6歳児!!」
キリッとしたかっこいい表情で、何とも言えないような台詞を言う小豆。
昴は頭を抱えた。どこで教育を間違えた。
「とにかく、俺はバイトに行くからね。理人、今度小豆ちゃんの前で不埒なものを見たら————もぐからな」
「え、どこを」
「そのふわふわした頭で考えろ。じゃーな」
建てつけの悪い木の扉を開き、しっかりと施錠する昴。いくら家主のヒーローが留守だと言っても、彼らも腕の立つ同居人だ。特に小豆は毒に匹敵する劇薬を昴の食事に紛れ込ませて、彼を3日間ほどトイレとお友達にさせた経緯を持つ。
あの時はマズメシだったなー、とかふわふわと考えながら錆びついた階段を降りようとした時だ。
カンカン、と誰かが上がってきた。ボロアパートの2階に住んでいるのは、昴の他に1部屋だけだ。その1部屋は、昴が最も忌み嫌う奴である。
「……げ」
「げ、とはなんだ。こっちがげ、だ。げ」
黒髪を左下で結んだ女——の顔をしているけど実際は男である。真っ黒なロングコートをなびかせて階段を上ってきたのは、隣人であり最大の敵である東翔だった。
あからさまに顔をしかめた昴を指摘し、翔は舌打ちをする。どうやら彼は仕事帰りのようだ。そんなの昴には関係ないのだが。
通常ならここで罵り合ったのちに喧嘩のパターンだが、今日は違った。翔は昴の横を通り抜けただけで、何もしてこなかったのだ。
「……何もしてこないのかよ」
「何かしてほしかったのか」
「いや別に。こっちも急いでるし」
「じゃあいいだろう。俺様は疲れているのだ。寝る」
明らかに顔が疲れているようだったので、昴はそれ以上何も言わなかった。
部屋の中に入っていく翔を見送って、昴も喫茶店へと向かう。
階段を降りたところで、昴は気づいた。
階段のところになんかいる。
ずいぶん可愛らしい少年である。紺色の髪を持つ、ぬいぐるみを抱えた少年だ。年は——小学生ぐらいだろうか。
「おい、こんなところで何をしてんだ?」
「あ、えっと、翔さんはあそこの家に住んでいるんですか?」
「……何お前、あいつと知り合いなの?」
知り合いだったら倒さねば。
昴がひそかに拳を構えたところで、少年は顔を真っ赤にして否定した。
「ち、違いますよ!! えっと、その……し、失礼ひまひゅ!!」
「あ、おい!?」
盛大に噛んだ少年は、猛スピードで昴の前から走り去った。
先ほどの赤い顔を鑑みると、昴はなんとなく察した。察したからこそ、笑った。
これは面白いことになった。
だがしかし、協力はしない。しばらくはこのまま様子見と行こうか。
「へえ、少年。面白いね」
あの死神に恋をしたか。
だが少年、1つ言わせてもらうとお前は決定的なミスを犯している。それはとんでもないミスだ。
「あいつの性別は、男だぞ?」
声低いの分からないのか?
ここにはいない、あの紺色の髪を持つ少年に昴はそっとアドバイスをした。
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