コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
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- お前なんか大嫌い!!
- 日時: 2017/01/29 23:27
- 名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: 5/xKAetg)
「何でお前はいつもいつも邪魔ばかりしてくるんだよ!!」
「うるせぇ! テメェの方が邪魔をしているんだろうが!!」
「「お前なんか大嫌いだ、この野郎!!」」
この物語は、
世界の平和を守るために立ち上がった単純馬鹿のヒーローと。
地獄の秩序を守るために立ち上がった俺様で我がまま死神の。
超おバカな——アンチヒーロー小説である。
***** ***** *****
こんにちこんばんおはようございます。また会いましたね、山下愁です。
この作品は『アンチヒーロー小説』とのたまっていますが、実際にはただのギャグです。満載のギャグです。少しの青春も入っていますが、大体は馬鹿です。宣言できます。
さて、クリックしてくださった心優しき読者様へ、この小説を読むにあたってのルールがございます。
守ってくださるとうれしいです。
1 コメントは大歓迎です。
2 荒らし・誹謗中傷・パクリはお断りします。
3 これ別館行きじゃね? と思う方もいるでしょう。大丈夫です。これはここでいいんです。
4 山下愁が嫌い! な方はUターンを推奨します。
5 同じく神作が読みたいという方もUターンを推奨します。全力で。
6 こちらの小説はできるだけ毎週木曜日更新となっています。土日もある場合がございますが、要は亀更新です。
以上を守って楽しく小説を読みましょう!
ではでは。皆様の心に残るような小説を書けるように、山下は全力を尽くします。
お客様!! ↓
粉雪百合様 棗様 碧様 甘月様 甘味様 亜美様 noeru様 日向様 ドロボウにゃんにゃん様 猫又様 狐様
人差し指様 なつき様 モンブラン博士様 蒼様 立花桜様 彩様
目次
キャラ紹介>>01 >>03
プロローグ>>02
第1話『ヒーローの定義』
>>4 >>5 >>10 >>13 >>14 >>18 >>19 >>20 >>23 >>24
第2話『死神の定義』
>>25 >>26 >>27 >>28 >>32 >>37 >>38 >>39 >>42 >>45
第3話『姫君の定義』
>>46 >>47 >>50 >>51 >>52 >>53 >>54
第4話『合宿の定義』
>>56 >>59 >>63 >>66 >>67 >>68 >>69 >>71
第5話『劇薬の定義』
>>78 >>80 >>82 >>85 >>86 >>87 >>88 >>89 >>90 >>91
第6話『幽霊の定義』
>>94 >>95 >>98 >>99 >>100 >>101 >>102 >>103 >>104
第7話『処刑の定義』
>>105 >>107 >>109 >>111
テコ入れ>>112 >>113 >>114
第7話『処刑の定義』
>>117 >>118 >>120 >>125 >>126 >>127 >>130 >>131 >>132 >>133 >>134
第8話『恋愛の定義』
>>135-155
第9話『家出の定義』
>>156-188
第10話『捜索の定義』
>>189-198
最終話『終幕の定義』
>>199-210
エピローグ
>>211
あとがき
>>212
番外編
・ひーろーちゃんねる
キャラクターに30の質問
・椎名昴>>74
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- Re: お前なんか大嫌い!! ( No.128 )
- 日時: 2014/11/10 17:15
- 名前: 蒼 ◆udrqXHSxjI (ID: A9wxTbZM)
初めまして、蒼(アオ)と言う者です。その内、小説を此処で書かせてもらう予定ですが、まだ感想専門です☆(それ、言う必要有るの? by昴)
タイトルに惹かれて、初めてこのサイトで読んだ小説が、山下愁 様のこの作品でした!!
私は、恋愛小説が好きなんですが、それと同じ位、非・日常生活的なファンタジックなお話も大好きなんですっ。はい。
この作品は、キャラがとっても個性的と言いますか……魅力的。うん、魅力的で、何時の間にかに引き込まれてます。この世界に。
昴・翔。その他キャラ、全員好きなんですけれども、誰か一人を挙げるならば、やはり、出雲君ですね。私の中では(笑)
あ、いや。別にナイフマニアだからとか、怖い理由で好きな訳では無いですよ!? 主な理由は、うーん。翔をからかう所とか、悪戯している所が好きなのと。私も出雲君になって、皆を困らせたいな、と言うのが一番でしょうか。←
こんな面白い小説を書くのは、違う意味で大変かなぁと思いますが、これからも頑張って下さい!! 長くなりましたが、応援してますっ。
ではでは、大好きな出雲君がこれからも活躍されることを祈って……(笑)
- Re: お前なんか大嫌い!! ( No.129 )
- 日時: 2014/11/22 21:08
- 名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: zCMKRHtr)
蒼様>>
初めまして、山下愁です。閲覧ありがとうございます。
そしてなんと、えーっ!? カキコ初めて読んだ小説が山下のこのアホッタレな小説だとは……ちょっと嬉しかったりしましたww
さて、ご返信を(バッ
出雲君が好き——ということで、いやこいつはロリコンの上で上司をからかうド腐れなのでやめておいた方が——おや、誰かがきたぞ。
そんなことは置いといて。
この小説は何と言っても、昴と翔のバトル()が売りになって——いるのかどうか分からないが、私は売りにしているつもりです。
ひたすらに言い合いをさせておこうと思っています。ていうかもう、2人を争わせるのが楽しくなりつつある山下愁です←
頭の悪くなりそうな小説を閲覧していただきまして、誠にありがとうございますorz
出雲君も活躍させていきますので、更新頑張ります。
小説ができたらぜひとも見に行きますね!! 小説を書くという行為は大変だと思いますが、お互いに頑張りましょう!!
- Re: お前なんか大嫌い!! ( No.130 )
- 日時: 2014/11/22 21:36
- 名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: zCMKRHtr)
暗く、引き込まれそうな双眸がユフィーリアを射抜いた。
ゆらりと幽霊のように立つ、目の前の少年。今まで戦っていたヒーローとは打って変わって、さながらそれは——。
化け物のようで。
『——あの子、一体何者、なの?』
空華の言葉で、ユフィーリアは攻撃を仕掛けた。否、仕掛けなければいけないと思った。
攻撃せねば、死ぬのはこちらである。かつて誰かが「戦わなければ勝てない」と言ったように、攻撃しなければ死ぬのだ。
青い刃が美しい軌道を描き、少年の上を滑る。だが。
「————」
少年は無言で、右腕を振った。
その瞬間だ。
ユフィーリアの手の中にあった、空華が吹っ飛んだ。
「!?」
くるくると回りながら飛んで行き、ざっくりと遠いところの地面に突き刺さった空華。慌ててユフィーリアは空華を取りに駆けだすも、少年の動きの方が早かった。
瞬きの速さでユフィーリアの横に現れ、回し蹴り。少女の細い肢体は、宙を舞った。
ざわつく観衆。彼女の上司も、同僚も、部下も、悲鳴を上げる。何とか四肢に力を込めて立ち上がろうとしたところで、少年の腕に阻まれた。
子供らしい未発達の腕。その細腕のどこからそんな力が出るのか分からないが、簡単にユフィーリアの体は宙に浮く。胸倉を掴まれたのだ。
「あ、ぐ、ぅ」
圧迫される喉。呼吸が苦しくなる。
腕を振りほどこうとユフィーリアは手足をばたつかせるも、その力は及ばない。
「 」
不意に、少年の口が動いた。
唇が紡いだ音のない言葉は、確かにこう告げていた。
——ころせ、と。
ユフィーリアの背筋に寒気が走る。殺される。彼女の直感はそう告げていた。平素は死を恐れないユフィーリアだが、この時ばかりは彼の手ずから与えられる死に恐怖した。
死を覚悟した、その時だ。
「おい、クソヒーロー」
観衆のざわめきも、処刑人たちの悲鳴も、その声が響き渡った瞬間にピタリとやんだ。同じように少年の力も、緩められる。
硬い地面に尻を打ちつけ、ユフィーリアは顔をしかめた。だが、解放されたと分かって、すぐさま立ち上がって空華に飛びつく。青い柄にしがみつけば、空華の泣き出しそうな声。
『大丈夫だった、ユフィーリア!?』
「あー、あー、……一応平気だよ、死にそうにはなったけど」
喉の調子を確かめて、空華を抜くユフィーリア。
しかし、攻撃をすることはなかった。
処刑場に、熱気が生まれたからだ。
その場にいる全ての者が、その炎を目撃した。
争いの中で生まれた、紅蓮。渦を巻いて、毒々しい赤い色をした空をも焼き焦がさん勢いで、火柱が上がる。それを操っているのは、1人の少年だ。
赤い鎌を掲げ、死神は不敵に笑んだ。炯々と光る赤い双眸が、三日月を描く。
「さあ、椎名昴よ。この俺様が相手してやる。だから——」
今ここで、くたばれ。
***** ***** *****
時をさかのぼって数分前。昴に異常が発生した頃。
翔の処刑は忘れ去られ、昴の処理に周りが追われていた。もちろんユフィーリアもである。
鉄塔の上に放置された翔は、昴の異変にいち早く気がついた。——見たことのある瞳だったからだ。
「……あいつ……」
ユフィーリアが奴の腕1本で吹き飛ばされる。地獄で最強を誇る、あの処刑人がいとも簡単にだ。
これはまずい。非常にまずい。処刑人の、しかもユフィーリア・エイクトベルが殺されたとなれば地獄は大惨事だ。彼女の強さは、地獄では有名なのだ。
しかし、翔にどうすることもできない。相棒の赤い鎌がなければ、何もできやしない無力の死神なのだ。
——それが、どうした?
「……おい、貴様!! 何を——!!」
周りの処刑人が騒ぎ立てた。だが翔の耳には届かない。
意識を集中させ、息を整える。体が熱くなる。じゅわ、と音がした。手が自由になった。——翔を拘束していた手錠が、高熱によって溶けたのだ。
何故溶けたのか? それが翔の能力であるからだ。
自由になった四肢を確認し、翔は立ち上がる。処刑人たちが「座れ!」「大人しくしろ!」と叫んだ。そいつらを、まとめて睨みつける。
処刑人たちの震える虹彩に映った翔の顔は、笑っていた。しかも笑みを形作る瞳が、赤い。燃えているようだ。
「ユフィーリア・エイクトベルに奴は止められん。どう足掻いたって不可能だ。貴様らは奴に殺される運命をたどるしかない」
ユフィーリアの苦しそうな姿が目の端に映った。
翔は、白く細い右手をスッと差し出した。握手を求めるかのようなその姿に、処刑人たちは戸惑う。
桜色の唇は、音を紡いだ。
「こい————炎神(ヒカミ)」
翔の手に炎が生まれた。紅蓮の炎は徐々に形を成していき、1本の鎌を作る。身の丈を超す大鎌を手にした翔は、右腕1本でそれを振った。
次の瞬間。
爆炎が翔の背後に出現した。
数人の処刑人を問答無用で焼き殺したが、翔は分かっていた。わざとである。己をここにつなぎとめた、せめてもの腹いせである。
昴の暗い瞳が、こちらを向いた。だから笑ってやった。
「さあ、椎名昴よ。この俺様が相手してやる。だから——」
鎌を構えて。相手は拳を握る。
「今ここで、くたばれ」
2つの勢力が、ぶつかった。
- Re: お前なんか大嫌い!! ( No.131 )
- 日時: 2014/12/05 23:20
- 名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: zCMKRHtr)
長い夢を見た。やはり、奴が出てくる夢だった。
でも、ここは白鷺市じゃなくて。見たことのない町だった。見たことのない建物の中で、奴と2人きりで勉強していた。
奴はとても頭がよくて、そして教え方が上手かった。何度分からないと言っても、根気よく何度も教えてくれた。難しい問題が解けたら、「おめでとう」と褒めてくれた。
だから、笑って答えた。
——ありがとう、翔ちゃん。
***** ***** *****
殴る。蹴る。椎名昴の『普通の』攻撃は、1つ1つが強力である。トラックというより、ロケットにでもぶつかったような勢いだ。
極力、昴の体に触れないように攻撃を流す翔。その姿は余裕そうである。
それはそうだろう。彼にとって、この状態の昴と戦うことは2度目である。しかも今回は人間の世界ではなく、己が故郷の地獄だ。この世界が焼け滅ぼうが、知ったことか。
翔は昴から距離を取り、鎌を振り上げた。美しい曲線を描く刃に、紅蓮の炎が灯る。——全てを焼き尽くす、地獄の業火だ。
「……おい、ポンコツヒーロー。よくも散々暴れて、俺様の処刑の場を壊してくれたな」
自然と翔の唇に、笑みが浮かぶ。
この場で殺すことができれば万々歳だ。こいつを殺して俺も死んでやろう——いや、それはダメか。
とにかくこの椎名昴を殺すことに、東翔という死神は尽力してきた。常に戦い、口で争ってきた。「殺す」「殺してやる」などの血なまぐさい応酬は日常茶飯事だ。
1度目は突然のことだったので、対応できなかっただけだ。2度目こそは平気だ。本気を出す。
「まあ、そのことに関しては感謝している。貴様を殺さずにして、早々に新たな俺様として生まれ変わるのは気が引ける」
「……殺す」
昴の口からは、音のない言葉が放たれた。いつもの昴だったら、きっとこう。
——殺す!! いや絶対に殺す!! 俺が殺して新たな東翔を作り出してやる!!
そのぐらい突っかかってきてもおかしくはないのだが、今の彼は感情とかそういうものがない。何もかもが消え失せている。
というより、そう、翔の声が聞こえていないようだ。
あの時もそうだ。そう言えば、彼の特徴ともいえるヘッドフォンをしていなかった。今も、ユフィーリアに切られたことにより、ヘッドフォンの残骸が地面に転がっている。
常の昴。今の昴。見比べて、記憶と照合し——頭のいい翔は、1つの答えを導き出した。
「……なるほどな」
鎌を担ぎ、ニヒルに笑う。
周りは気づかなかった答え。そして解決方法を、翔は導き出した。
「貴様、元から耳が聞こえていなかったのだな。ヘッドフォンはおそらく補聴器代わりか。耳が聞こえなくなると、そのように異常をきたすのだな」
昴の攻撃が降ってきた。寸前のところでバク転して宙を舞い、攻撃をよける。
数瞬前まで翔が立っていた場所には、見事なクレーターができていた。さすがポンコツでも怪力ヒーロー、もはや化け物だ。
椎名昴をこの場で殺してやろうかと思ったが、やはり気が引けた。いつもの状態でない昴など、椎名昴ではないからだ。
あの騒がしい馬鹿を倒してこそ、本懐である。
「ユフィーリア!! ユフィーリア・エイクトベル、生きているか!!」
「勝手に殺すなや!!」
すぐさまツッコミが叩き込まれた。
見れば薄く汚れた銀色の髪に、吊り上がった碧眼。長い刀を肩に担いだ、1人の処刑人が立っていた。
ユフィーリア・エイクトベル。地獄で最強の処刑人である。
「貴様、あいつの攻撃を1分ほど耐えられるか」
「1分!? 無理だって。アタシ、あいつの攻撃を30秒も持たずに放り投げられたよ!? アンタがこなかったらアタシは今頃」
「最強の貴様だから頼めることだ」
赤い瞳で真っ直ぐ見つめられ、ユフィーリアは口を噤む。もごもごと何かを言いたそうにしていたが、「あーもう!!」と乱暴に銀髪をガシガシ掻いた。
翔より少しだけ前に出て、空華を抜き放つ。青く光る刀身を昴へと向けたまま、翔へ。
「……何か策でもあるんでしょうね?」
「もちろんだ。策がなければ1分耐えろ、とも言わん」
視線をかわさず、ただ2人は1人の化け物を食い止める為に作戦を実行した。
***** ***** *****
知らない場所にいる。奴と共に。
奴は難しい本を読んでいる。英語だ。タイトルだけじゃなくて、文章も英語。笑いながら「こんなのも読めないのか」と言った。読める訳がないだろう。
奴に反論すれば、「悪かった」とやはり笑いながら謝られた。絶対に面白がっている。
恨めしげに奴を睨みつければ、別の声。今度は女の声だ。コンコン、と部屋のドアをノックして、現れたるは銀髪の女。
もうそろそろで夕食の時間ですよ。
そうか、もうそんな時間か。おい、昴。今何時か分かるか?
奴に時刻を訊かれたので、時計を確認する。と言っても、携帯のディスプレイに表示されているものだが。
無機質な数字は、『6時48分』を示していた。
6時48分だって。そっかー、もう飯かー。めっちゃ勉強した気がする。
昴は頑張っていたぞ。珍しく。
珍しくとか言うなよ。いつも頑張ってるだろ、褒めてくれてもいいんじゃないの?
ハイハイ、すごいすごい。
それ貶されてるようにしか聞こえない!!
軽口の応酬。でも、少しだけ違和感。
——いつもこいつとは、こんなほのぼのとした言い合いをしていただろうか。いや、もっと凄まじかったような気がする。
ふと首を傾げれば、奴の心配する言葉。
調子が悪いなら部屋に戻って寝ているか? それとも、俺の部屋を使うか?
いや、いいよ。俺も××ちゃんのご飯食べたいし。
そうか。××、今日の夕飯は何だ?
から揚げですよー。
やったね。俺の好きなものじゃん!!
——椎名昴。
ふと、頭の奥で誰かに名前を呼ばれた。
振り向いても誰もいなかったので、気のせいということにした。だって、名前を呼んだ声の主はここにいるのだから。
待ってよ、翔ちゃん。抜け駆けはずるいよ。
- Re: お前なんか大嫌い!! ( No.132 )
- 日時: 2014/12/14 00:13
- 名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: zCMKRHtr)
奴の攻撃を耐えろ、と翔は言った。
ならば耐えるしか方法はない。耐える、と言っても椎名昴の攻撃はユフィーリアにとって死に匹敵する。
深淵の瞳で真っ向から睨まれ、正直逃げたい気持ちでいっぱいである。だが、ユフィーリアはそれでも戦場に立った。空華を抜き、正中で構える。
『ゆ、ユフィーリア……無茶だよ、勝てっこないって』
「勝てなくても何でも、やるしかねえだろ」
それしか方法はない。
空華の情けない声を一蹴して、ユフィーリアは地面を蹴った。
風を切り裂いて、彼女の矮躯は突き進む。スタートダッシュを決めた地点には亀裂が走り、見事なクレーターができていた。
弾丸の如き速度で昴の前に躍り出たユフィーリアは、薄青の刃を振る。
「————お了り空」
一閃。
横薙ぎに空華を振ったユフィーリア。距離を飛び越えるその斬撃は、確かに昴を捉えた。
しかし、昴はすでに攻撃を避けていた。殺す力が込められた手のひらがユフィーリアの鳩尾めがけてつき込まれ——
「うぉっとい!!」
——ようとしたところで、ユフィーリアは空華によって昴の攻撃を弾いた。
それでも攻撃の余波はあったのか、ビリビリと空華を持つ手がしびれる。だが攻撃を受け流した空華は、悲鳴じみた声でユフィーリアを訴えてきた。
『酷いユフィーリア!! こんな扱いをするなんて!!』
「悪かったってば。あとで磨いてやるから、今は耐えろ」
『酷いような酷くないような!? もうどうでもいいや、うん!!』
空華も開き直ったようだ。
ユフィーリアは1度昴から距離を取り、再び空華を構える。
ゆらりと立つ昴は、幽鬼のようだ。ぐるりとこちらを見据える黒い瞳は、キラキラと輝く黒曜石を通り越して、深淵を覗いているようである。その双眸で見つめられて、ユフィーリアの体が震えた。
こんなところで怖がっている訳にはいかない。ちらりと後方を見やれば、瞳を閉じて何やらぶつぶつ言っている翔の姿がある。
(……1分ってどれぐらいだ? 何秒経った、今)
面倒だ。実に面倒である。
翔の処刑は面倒だし、いざ処刑しようと思ったらヒーロー登場してくるし、そんなヒーローは暴走しているし。
ユフィーリアはそっとため息をついた。
「……ツイてねえな、今日」
自嘲し、蹴った。今度は前ではなくて、上へ。
ロケットの如く発射されたユフィーリアはぐるりと空中で横に回転する。勢いをつけて、空華を振った。
「——お了り空!!」
その攻撃は見切ったとばかりに、昴の体が動く。そして拳を握ろうとした——が、できなかった。
「……!」
「意識はなくても、きちんと分かるんだね」
地面に着地を果たし、ユフィーリアは笑った。
昴は己の右拳を見つめている。その視線の先には、何もなかった。
——何も、なかった。
言葉の通りである。何もなかったのだ。昴の右腕が、肩からごっそりとなくなっていた。
「え? 何をしたかって? 決まってるじゃない、切ったんだよ?」
きょとんと当たり前のことを、ユフィーリアは口にした。
では、何故、血が出ていない?
昴の切り落とされた腕は、遥か遠くへ転がっている。死体のようにピクリとも動かない。昴は切り落とされた自分の腕を眺めているだけだ。
ユフィーリアは空華を鞘に戻し、その技名を告げた。死刑宣告のように。
「——神無月」
ぐるりと昴の首がこちらへ向けられた。
空華を抜くべく柄に手をかけたが、数瞬遅かった。ユフィーリアは首を昴に捕まれ、宙ぶらりん状態になった。
『ユフィーリア!!』
空華の悲鳴。
息が苦しくなる。酸素が回らなくなる。視界がかすんでくる。それでも、それでも、だ。
ユフィーリアは笑った。
「ナメんじゃねえよ……テメェ、よぉ」
グッと掴まれた喉に力が込められる。声を出すことすら難しくなるが、それでもユフィーリアは言葉を紡ぎ続けた。
「この勝負、アタシたちの勝ちだ」
————ちょうど1分が経過した。
カチン、と何かが嵌まる音がして、昴の左手の力が緩められる。同時に、彼の頭に何かが装着された。
ユフィーリアが壊した、昴のヘッドフォンだった。耳を覆うようにして、ヘッドフォンが嵌め込まれる。そのヘッドフォンを嵌めたのは、まぎれもなく彼だった。
昴の後ろで不敵に笑う、黒髪の死神。その双眸は、紅蓮の色に染まっている。
昴の瞳に、光が戻った。ユフィーリアの体が重力に従って地面に落ち、叩きつけられる。
ケホッと咳き込みながら視線を持ち上げれば、昴と翔の両者が向かい合っていた。
「……どうやら戻ったみたいだな。ポンコツヒーロー」
無表情に、だが、口元に笑みを浮かべながら死神。
「うるせえクソ死神。あっちではサブイボ出るぐらいに優しかったのによ」
目を吊り上げ、だが、笑いながらヒーローは告げた。
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