コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
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- お前なんか大嫌い!!
- 日時: 2017/01/29 23:27
- 名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: 5/xKAetg)
「何でお前はいつもいつも邪魔ばかりしてくるんだよ!!」
「うるせぇ! テメェの方が邪魔をしているんだろうが!!」
「「お前なんか大嫌いだ、この野郎!!」」
この物語は、
世界の平和を守るために立ち上がった単純馬鹿のヒーローと。
地獄の秩序を守るために立ち上がった俺様で我がまま死神の。
超おバカな——アンチヒーロー小説である。
***** ***** *****
こんにちこんばんおはようございます。また会いましたね、山下愁です。
この作品は『アンチヒーロー小説』とのたまっていますが、実際にはただのギャグです。満載のギャグです。少しの青春も入っていますが、大体は馬鹿です。宣言できます。
さて、クリックしてくださった心優しき読者様へ、この小説を読むにあたってのルールがございます。
守ってくださるとうれしいです。
1 コメントは大歓迎です。
2 荒らし・誹謗中傷・パクリはお断りします。
3 これ別館行きじゃね? と思う方もいるでしょう。大丈夫です。これはここでいいんです。
4 山下愁が嫌い! な方はUターンを推奨します。
5 同じく神作が読みたいという方もUターンを推奨します。全力で。
6 こちらの小説はできるだけ毎週木曜日更新となっています。土日もある場合がございますが、要は亀更新です。
以上を守って楽しく小説を読みましょう!
ではでは。皆様の心に残るような小説を書けるように、山下は全力を尽くします。
お客様!! ↓
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人差し指様 なつき様 モンブラン博士様 蒼様 立花桜様 彩様
目次
キャラ紹介>>01 >>03
プロローグ>>02
第1話『ヒーローの定義』
>>4 >>5 >>10 >>13 >>14 >>18 >>19 >>20 >>23 >>24
第2話『死神の定義』
>>25 >>26 >>27 >>28 >>32 >>37 >>38 >>39 >>42 >>45
第3話『姫君の定義』
>>46 >>47 >>50 >>51 >>52 >>53 >>54
第4話『合宿の定義』
>>56 >>59 >>63 >>66 >>67 >>68 >>69 >>71
第5話『劇薬の定義』
>>78 >>80 >>82 >>85 >>86 >>87 >>88 >>89 >>90 >>91
第6話『幽霊の定義』
>>94 >>95 >>98 >>99 >>100 >>101 >>102 >>103 >>104
第7話『処刑の定義』
>>105 >>107 >>109 >>111
テコ入れ>>112 >>113 >>114
第7話『処刑の定義』
>>117 >>118 >>120 >>125 >>126 >>127 >>130 >>131 >>132 >>133 >>134
第8話『恋愛の定義』
>>135-155
第9話『家出の定義』
>>156-188
第10話『捜索の定義』
>>189-198
最終話『終幕の定義』
>>199-210
エピローグ
>>211
あとがき
>>212
番外編
・ひーろーちゃんねる
キャラクターに30の質問
・椎名昴>>74
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- Re: お前なんか大嫌い!! ( No.193 )
- 日時: 2016/11/06 22:45
- 名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: 5/xKAetg)
おかしい、おかしい。絶対におかしい。何がおかしいかって、何故ならそこにいないのがおかしい。
いたはずなのだ。窓から見えていた。それなのに、何故いなくなるのか。そういえば、家の門扉が少しだけ開いているような気が……。
餌の入った皿を持って呆然と立ち尽くす赤い髪と緑色の髪を持つ、通称一人クリスマス野郎——ジャンバルヤ=ダイマリン。愛犬の中納言義久がいなくなっている。愛情に飢えている自分に、いつも曇りなき眼で見つめてくれて懐いてくれているあの雑種犬が。
「中納言んんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんん!!!!」
ジャンバルヤの悲鳴が蒼穹へ響き渡った時、彼の中心から光があふれ出した。
***** ***** *****
やってきた場所は翔の自宅があるぼろアパートである。
翔はその二階に住んでいるのだが、その隣にはヒーローの集団が住んでいる。今の時間帯なら忌々しいヒーローはバイトで不在だろう。経験からしてそうだ。
押しても意味のないボロボロのインターフォンなど無視して、翔は犬を抱えたまま薄い扉をノックする。その隣に立つユフィーリアが怪訝そうな顔をしていた。
「……ヒーローにでも頼るのかよ。お前ってそういう奴だったっけ?」
「違う。ヒーローではなく、ヒーローの友人だ」
そう、あのヒーローの友人を自称する青年ならば、この犬の所在を割り出してくれることだろう。
ノックから数十秒置いて、「はーい」という応答があった。施錠が外され、建てつけの悪い扉が軋んだ音を奏でさせながら、ゆっくりと開いていく。
中から現れたのは、透き通るような翅を背中に持つ美少女だった。青い瞳をぱちくりと瞬かせ、少女は不思議そうに首を傾げる。
「どちら様?」
「グローリア・イーストエンドはいるか?」
美少女に対して、上から目線の態度を変えることなく翔は質問を投げかけた。
対する美少女はそっと翔の顔面を鷲掴みにすると、ほっそりとした五指に遠慮なく力を込めてきた。見た目は美しい普通の少女(背中から翅が生えてるけど)なのに、翔の顔面を万力の如く締めつける五指には美少女らしかぬ力が宿っている。どうしたものか。
当然、翔には激痛が襲いかかってきた。
「イタタタタタタタタ!?!! 貴様何をする!!」
美少女の腕を振りほどき、翔は鷲掴みにされた顔面を確認した。大丈夫、変形はしていない。
相手は特に悪びれた様子もなく、楽しそうに笑いながら「ごめんごめん」と謝罪した。全然謝罪の気持ちが込められていなかった。やはりヒーローの集団はろくでもない者ばかりだ。
近くで傍観していたユフィーリアは、腹を抱えてケタケタと笑い転げていた。ついでに蹴り飛ばして黙らせた。
「もう一度言う。グローリア・イーストエンドはいるか?」
「いるよ。ちょっと待っててね」
美少女はあっけらかんと頷き、部屋の中に戻っていく。開けっ放しになった扉から「オーイ、新人。返事しろー」「僕、一応名前があるんだけど」「君にお客さんなんだけど、ヘッドロック決めちゃった」「僕にお客さん? ろくでもなさそうだから追い返してくれる?」「ハーイ」などと聞こえてきた。出てくる気はないようだ。
玄関先に出てきた美少女を押しのけて、翔はヒーローの部屋へずかずかと上がり込んだ。おじゃましますの一言もなかったが、靴だけはきちんと脱いで上がった。そこら辺の常識は悠太に躾けられているのだ。
台所を抜けた先にある畳の部屋では、立派なデスクトップパソコンの前に胡坐を掻いて座っている青年と、白衣を着た子供と小学生男子が落書きをしたような犬なのか猫なのかよく分からない生き物が戯れていて、そして部屋の隅に目的の人物が体育座りで小難しい本を読んでいた。
珍客を確認する為に目的の人物である黒髪紫眼の青年——グローリア・イーストエンドは顔を上げたが、相手が翔であることを確認すると再び視線を本へ戻した。
「貴様、無視するとはどういうことだ」
「僕、君のことに興味ないもん」
サラッと酷いことを言うが、翔はめげなかった。グローリアが読んでいる本を取り上げ、遠くへと放り捨てる。本を投げ捨てられたグローリアは明らかな敵意を翔へと向けたが、翔が犬を抱きかかえているところを見て瞳を瞬かせた。
「その犬、どうしたの? 攫ってきたの?」
「そんな訳ないだろう。迷い犬だ、この犬の所在を割り出してほしい」
ハッハッハ、と荒い息で周囲に視線を彷徨わせる雑種犬を、グローリアの目の前に突き出す。
グローリアは怪訝な表情で翔と犬へ交互に視線をやり、やれやれと肩を竦める。緩やかに虚空へ手を伸ばすと、その手には鈍色の鎌が握られていた。刃と柄の接合部には懐中時計が埋め込まれた、不思議なデザインの鎌である。
翔が突き出している犬の目と鼻の先に鎌の先端を突きつけ、グローリアは静かに呟く。
「適用『永久暦』」
次の瞬間。
犬を覆うように透明な四角い箱が出現する。立体映像のようで、翔の腕を貫通しているのだが痛みはなかった。
グローリアはさらに呪文を唱える。
「『再生』」
すると、四角い箱が翔の足元にも出現した。見る間にその箱は大きくなり、部屋全体を包む。
半透明な箱の壁——スクリーンのようなものに、犬の映像が映し出された。広い庭で一匹で遊ぶ犬に、誰かが近づいていく。
赤い髪と緑色の髪を持つ男。その手には餌皿が握られていて、犬はその男に嬉しそうに近づいていく。男の足にじゃれついて遊ぶ犬は、男に差し出された皿に顔を突っ込んでドッグフードを食らっていた。
ジャンバルヤ=ダイマリンだった。
「ジャンバルヤ=ダイマリンの飼い犬だったのか」
「君だったら僕の力を使わないでも所在を割り出すぐらいはできたはずだけどね」
映像を消しながら、グローリアは厭味ったらしく言う。
「君って死神でしょ? 犬の住所ぐらいは分かるんじゃないの?」
「馬鹿を言え。管轄が違う。動物は俺の管轄ではないのだ」
「ふぅーん、死神にも管轄ってあるんだね。知らなかった」
特に興味もないのか、ほぼ棒読みのグローリア。
ともあれ、犬の所在が分かったのならば飼い主に犬を届ける必要がある。飼い主の居場所なら翔も把握できる。さっそくジャンバルヤ=ダイマリンの住所を死神の力を使って検索をかけたところで。
————ドゴンッ!! と。爆発が起きた。
弾かれたように遠くを見る翔。グローリアも怪訝な表情で部屋の外を見ている。
パソコンの前に胡坐を掻いている青年が、ふわふわと覚束ない声音で言う。
「そのジャンバルヤって人のところで、爆発が起きたみたいだな」
爪を噛みながら、青年が続けた。
「止めに行った方がいいんじゃね?」
爆発を聞いたらしいユフィーリアは、「ひゃっほー!!」と叫びながら駆け出していった。
翔もジャンバルヤ=ダイマリンを止めるべく、慌ててヒーローの部屋から駆け出していく。その後ろにグローリアがついて行ったのは言うまでもない。
- Re: お前なんか大嫌い!! ( No.194 )
- 日時: 2016/11/23 22:07
- 名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: 5/xKAetg)
「ありがとうございましたー」
買い物を済ませた客をお辞儀と共に送り出した昴に、店長からの優しげな声がかけられた。
「お疲れ様すばるん。もうそろそろ休憩に入っていいよー」
「あ、アザッス」
店長からの申し出をありがたく受け取り、昴はバックヤードで休憩に入っていた。
入っていたのだが。
遠くの方でドゴンッ!! という爆発音を聞かなければ、平和な休憩時間を過ごせていたというのに……。
「……あの馬鹿死神がなんか爆発でもさせたか?」
チッ、面倒なことを増やしやがって。
昴は心の中で舌打ちをすると、座っていたパイプ椅子から重い腰を上げた。何故あの死神の尻拭いまでしてやらなければならないのだろう。考えるだけでも苛立ちが増す。
とりあえず腹いせと称して捨てる予定の空き缶を握りつぶしてから、レジをポチポチと打ち込んでいる店長に「ちょっと世界を救ってきます」と告げてコンビニから飛び出した。ヒーローだから許される言葉である。
広々とした駐車場に出てきた昴が目撃したのは——
「……光?」
蒼穹を一直線に駆け抜けていく、白い色の光だった。
****** ***** *****
翔が駆けつけた時には、辺り一面が更地となっていた。マンションは瓦礫の山となり、舗装路はめくれ、木々は焦げてしまっている。
更地の中心にいたのは、赤と緑の髪が特徴の見知った人物——ジャンだった。頭を抱え、膝を折り畳み、球状になった彼は光球と化している。ジャンの全身から光が溢れ、それが一直線に束ねられて空に照射される。
雲を貫いた閃光は、途端、連続で爆発した。ボボボボボボンッ!! と大地を揺るがす爆発音が足元から伝わってくる。
「どうなっている……!!」
舌打ちをした翔は、愛用の鎌を握りしめてジャンの放ってくる閃光に備えた。いつも「愛がほしい」だのとのたまっている彼が、ここまでの実力を持っているとは知らなかった。この辺り一帯に住んでいた住人は無事だろうか。
すると、ガラガラと瓦礫を蹴飛ばして銀色の何かが翔の視界に飛び込んできた。身の丈を超える大太刀『空華』を握りしめた銀髪碧眼の少女——ユフィーリアである。喜び勇んでジャンのもとまで向かっていった彼女は、何故瓦礫の山から出てきたのか。
「よう、翔。遅かったじゃねえか」
「ユフィーリア、どこへ行っていた」
「近場の住人を避難させてた。褒めろよ。お前の仕事に負担がかからねえようにしてやったんだぞ」
まあ、死んだらアタシも処刑人として刑罰を加えなきゃいけねえんだけどな、とユフィーリアは肩を竦めた。一応は地獄の者としての責務を果たしたようだ。
遅れてグローリアもやってきた。更地となった辺りを見渡して、その紫色の瞳をわずかに見開く。
「すごいね。一面の時間を戻してあげなきゃ。——でもその前に」
グローリアの視線が、更地の中心にいるジャンへと投げかけられる。翔も、ユフィーリアも、光り輝くジャンを睨みつけた。
翔が抱えている雑種犬が、光り輝くジャンを悲しそうな目で見つめている。尻尾は垂れ下がり、「どうしてご主人は光ってるの?」とでも思っているのだろう。
「昴が住んでるこの町を、これ以上は壊させない」
「無害な人間を見殺しにしてなるものか」
「楽しませてくれよなァ?」
『うん、ユフィーリアだけテンション違うね』
グローリアは時計が埋め込まれた歪な鎌を握りしめた。
翔は紅蓮の炎が噴き出す鎌を正中に構えた。
ユフィーリアは愛刀を腰元で構え、居合の体勢を取った。
————そして、町の命運をかけた勝負が始まろうとしたその瞬間。
「うおおおッ!? なんだこれどうなってんだ!?」
聞き覚えのある声に、その場にいる三人の思考が停止した。
光の球となっているジャンから、一筋の閃光が発射される。しかし発射された閃光は、角度を強制的に曲げられて地面を穿った。コンクリートに穴ができた。
瓦礫を飛び越えやってきたのは、茶色の髪の少年。コンビニの制服を着たままで、耳元を覆うようにして厳めしいヘッドフォンをしている。
彼の姿を発見したグローリアは明るい声で、翔は苦々しい声で、彼の名前を呼ぶ。
「昴!!」「——クソヒーロー」
「オイクソ死神。お前だけは覚悟しろよ」
瓦礫の山を駆け下りてようやく地面を踏みつけるに至った昴は、翔を睨みつけて、
「つうかこの騒ぎはお前がやったんじゃねえのかよ。ついにぶち殺せると思ったのに」
「簡単に死ぬ訳にはいかんな。——あれを見てみろ」
昴の視線が、ようやくジャンへと向けられた。
光の球となっているジャンを見た昴は、足元に転がっている小石を拾い上げて割と全力で投擲する。
「——セィヤッ!!」
第三宇宙速度で投げつけられた石は、早くもジュッと燃え尽きながらも衝撃波を纏いながらジャンの頭部へ炸裂する————!!
が、当然ぶつかる寸前で閃光によって弾き飛ばされてしまった。無念。
「ジャンさんの癖に生意気だ」
「全面的に同意する」
そしてヒーローと死神は、いつものようにあの台詞を叫んだ。
「「お前なんか——大嫌いだッッッ!!」」
- Re: お前なんか大嫌い!! ( No.195 )
- 日時: 2016/12/08 22:38
- 名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: 5/xKAetg)
土曜日更新予定
今日のところはあげでお願いします。
- Re: お前なんか大嫌い!! ( No.196 )
- 日時: 2016/12/11 22:04
- 名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: 5/xKAetg)
光の乱舞。石を投擲しても、炎を浴びせても、全て一筋の光に薙ぎ払われる。当然斬撃が届くはずもない。
ヒーローの昴も、死神の翔も、処刑人のユフィーリアも暴走状態に陥っているジャンに手を焼いていた。どうしても攻撃を届かせることができないので、彼を正気に戻す手立てがない。
飛んでくる光線はなんとか跳ね除け、時にグローリアが時を止めたりして凌いでいるが、それも時間の問題だ。コンクリートの地面が穿たれまくって穴ぼこだらけである。
「クッソ、近づけねえんじゃどうしようもねえぞ!!」
飛来してきた光線を寸のところでかわす昴。光線が頬を掠めたのか、その頬に一筋の火傷ができた。ひりひりした痛みを感じつつ、昴は足元に転がっていた大きめの瓦礫を蹴飛ばした。
何の変哲もない少年のどこからそんな力が出てくるのか、ドガッ!! と蹴飛ばされた瓦礫は光球に包まれたジャンめがけて飛んでいくが、当たる寸前でジャンから放たれた光線が微塵に切り刻んでしまう。
「ユフィーリア、どうにかできんのか!!」
「できる訳ねえだろうが!! 眩しくて斬れやしねえ!!」
翔の言葉に、ユフィーリアが悲鳴を上げた。視界に入った如何なるものでも斬ることができるユフィーリアにとって、光との相性は最悪だ。なにせ、見えなければ斬れないのだから。
最強の処刑人も使えなければただの役立たずである。この場で唯一役に立っていると言えば、グローリアの時を操る力ぐらいのものだろうか。
すると、突如としてジャンが悲鳴を上げた。
「————ォォォオ————オォォォォオ————」
悲鳴というより、それは雄叫びだった。悲しみを纏った雄叫び。
刹那、ジャンを包み込んでいた光球から光線が触手の如く生えた。うねる光り輝く触手。暴れる触手は、周囲の瓦礫やコンクリートを焼き払い、薙ぎ払い、暴れて暴れて暴れ狂う。
その場にいた昴と翔とユフィーリアが巻き込まれるのは、必然のことだった。
「「「ぎゃああああああああああああああ!?!!」」」
悲鳴を上げて暴れ狂う触手から逃げる三人。完全に劣勢の状況へと追い込まれている。
「やばいやばいやばいって!! 何これ何あれ!?」
「クソヒーロー語彙力が大変なことになっているぞ。大丈夫か? 主に頭が」
「お前はこんな時になっても俺のことを馬鹿にしてくるって何なの? どういう神経してるの? 主に頭の方」
命の危機に瀕しても昴のことを馬鹿にしてくる翔に、昴は今度こそ本気で殴ってやろうかと拳を構える。主に頭を狙えば死神だってタダでは済まないだろう。それに気づいたらしい翔も、同じように身の丈ほどの赤い鎌を構えてきたのだが。
そんな二人めがけて、ジャンの光球から生えた触手が襲いかかる。蛇の如く勢いよく飛び出してきた触手が、今にもジャンそっちのけで殴り合いに発展しようとしていた二人へ牙を剥いた。
が。
「適用『時間静止』」
「お了り空!!」
片方の触手は時間が昴へ襲いかかる寸前で時が止められ。
もう片方の触手は翔へ襲いかかるその瞬間に両断された。
「グローリア!!」「ユフィーリアか」
喧嘩を強制終了した昴と翔は、自分たちの前に出てきた黒髪紫眼の青年と銀髪碧眼の少女の名を呼ぶ。
グローリアがくるりと昴の方へ振り返り、にっこりと微笑んだ。
「大丈夫だよ、昴。もうすぐ終わる」
「え、何それどういうこと?」
「ああいうこと」
見てごらん、とグローリアがジャンの方へと指を向ける。全員の視線がジャンへと注がれた。
ジャンめがけて駆けていく雑種の犬。ジャンの飼い犬が瓦礫を飛び越え、ご主人様が埋め込まれた光球の前にたどり着くと、キャンキャンと甲高い鳴き声を上げた。
暴れ狂っていた触手が、突然勢いをなくす。光が徐々に収まり始める。
「————中納言?」
「キャンキャン」
フッ、と。光が消えた。
中に埋め込まれていたジャンが現れ、ジャンの足元をぐるぐると回り続ける雑種犬を抱きかかえる。彼の端正な顔立ちは見る間に輝き、その雑種犬に顔を埋めた。
「中納言んんんんん!! どこへ行っていたんだ、探したぞ!!」
飼い犬は嬉しそうに尻尾を振り回している。ご主人様に抱きかかえられたのが嬉しいようだ。
仲睦まじい飼い主と犬を目の当たりにした昴と翔とユフィーリアに、どっと疲れが襲いかかった。今までのやり取りは何だったのか。
終わりを察知し、昴へ終結を宣告したグローリアは朗らかに笑いながら、「適用『永久暦』」と唱えていた。彼の操る時の魔法によって、ボロボロになった周囲の時間が元に戻され、何事もなかったかのようにマンションや家屋が並んだ。
- Re: お前なんか大嫌い!! ( No.197 )
- 日時: 2016/12/17 23:04
- 名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: 5/xKAetg)
「ぶえっくし」
テラスに設置されたテーブルを拭きながら、昴が盛大にくしゃみをする。
今日は喫茶店のバイトである。店内でにこやかに接客をしていた店長が、「椎名、風邪を引いたなら病院へ行け」という言葉が飛んでくる。
最近めっきり寒くなってきたからか、北風が本当に冷たい。ズズッと鼻水を啜って、店長に「大丈夫です」と告げた。
テーブルを拭き終わって店内に戻ると、暖房の効いた温かい室内が出迎えてくれる。ほへえ、と間抜けな声が出てしまったことは秘密だ。
「おや、椎名昴君。風邪でも引いたかい? ヒーローでも人間、風邪は引くのだね」
「テリーさん、あえて聞きますけどその紅茶は何杯目でしょうか?」
最近寒くなってきた影響で外で飲むことはなくなり、店内で優雅に紅茶を啜っている紅藤へ昴はジト目で問いかける。
紅茶のカップを揺らしながら、「ん?」と紅藤は首を傾げ、さも当然とでも言うような口調で答えた。
「なに。これで十五杯目さ」
「お前の膀胱ってどうなってんの。宇宙なの? 宇宙なの?」
「ははははは」
「笑って誤魔化そうとするな」
いくらお代わり自由の店だからと言って、さすがに十五杯も紅茶を飲むだろうか。彼はいつトイレに行くのだろう。まさかアイドルに盲信している者が「アイドルはトイレなんかに行かないから」とでも言うような感じで——?
そこまで推測してしまい、昴は「いやねーよ」とセルフツッコミを入れて業務に戻った。次は店内の掃除である。
布巾を弄りながら裏へ引っ込もうとした昴の視界の端に、赤と緑色のふわふわとした髪がよぎる。
「…………愛が、ほしい」
丸テーブルに突っ伏したジャンは、ぼそりと切実に呟いた。常に聞いている気がする。
そういえば彼のせいで昴と忌々しき死神の一派は大変な目に遭ったのだが、一発ぐらいは殴ってもいいんじゃないかと思ってしまう。昴の本気は第三宇宙速度でジャンを地球外までぶっ飛ばしてしまうほどなのだが、軽くデコピンぐらいは許されるのではないだろうか。
突っ伏されたままの後頭部へとデコピン準備をした指をそっと近づけるが、
「…………ぎぶ、みー、あい」
ブツブツブツブツと愛がほしい愛がほしいと呟いているジャンを見て、昴はデコピンをやめようと思った。そして何も言わずに店の裏へと引っ込む。
再び表に出てきた昴の手には、皿に乗せられたザッハトルテがあった。ガッシャン、とわざとらしく音を立ててジャンが突っ伏している机へ叩きつけると、ジャンはのっそりと顔を上げた。
「ジャンさん、俺の奢りです。本当は一発ぶん殴りたいところですけど」
散々な目に遭わされたしな、という言葉はあえて飲み込んだ。
ジャンの表情が見るからに明るくなっていく。いいのか、とキラキラした瞳が問うている。昴が何も言わずにバイトの仕事へ戻ると、「ありがとう……ありがとう……」と言いながらザッハトルテを食べていた。
なんだかんだ、彼は酷い扱いしか受けていない気がするので、たまにはこういうことがあってもいいだろう。
紅茶のカップを磨いていた店長がジト目で昴を睨みつけ、「あとで請求するからな」と低い声で言ってきた。元よりそのつもりだ。
その時だ。
カランカラン、とドアベルが来客を告げる音を店内に響かせる。
「いらっしゃ——」
にこやかに客を出迎えた昴は、その表情を引き攣らせた。
やってきたのはあの忌々しき死神——東翔だった。そばにはユフィーリアと、何故かグローリアが。
昴と目が合った翔は意地の悪い笑みを浮かべて、
「きてやったぞ、クソヒーロー。せいぜいもてなせ」
「帰れ。全力で」
店員ともあろう者の台詞ではない。客を拒否するなとありえない。
やれやれ付き合ってられるか、と昴が奥へ引っ込もうとすると、店長のラリアットが昴の顔面に炸裂した。レジカウンターを飛び越え、床に転がる昴。
「椎名、店員が客を拒否する権利などあると思うか」
「すんませんッ!!」
死神よりも恐ろしい、地獄の底から聞こえてきそうなおどろおどろしい声で店長に注意されて、昴は敬礼で返した。仕方なしに昴は三人を店内の適当な場所へ案内する。
メニューをグローリアとユフィーリアに手渡し、翔には乱雑に投げて渡して「ごゆっくりー」と棒読みで去ろうとした。
「オイ、クソヒーロー。俺はザッハトルテがいい」
「もうない。ジャンさんが食ってるのでラスト」
なんだとッ!? と驚愕の表情を浮かべる翔。椅子を跳ねのけて立ち上がった彼は、今しがたザッハトルテを完食したジャンを睨みつける。
「貴様ッ!! ジャンバルヤ=ダイマリン!! 吐け、吐き出せッ!!」
「むぐぁいいいいい一体なにごと……!?」
店内が騒がしくなってきたところで、昴は今度こそ本当に店の裏へ引っ込んだ。
客に提供する為のケーキを作ろうとしたところで、再び「ぶえっくし」とくしゃみ。ここが厨房じゃなくてよかった。
なんだか少し体も怠い気がするし、翔に対するツッコミもキレがなかったような気がする。額に手を当ててみるも正確な体温は分からないが、少しだけ熱い。
本格的に風邪でも引いただろうか。昴は残念ながら保険証を持っていないのだ。
「仕方ねえ。久々に行くっきゃないかな」
明日のバイトは休むか、と昴は呟きながら厨房に足を踏み入れた。
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