コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
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- お前なんか大嫌い!!
- 日時: 2017/01/29 23:27
- 名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: 5/xKAetg)
「何でお前はいつもいつも邪魔ばかりしてくるんだよ!!」
「うるせぇ! テメェの方が邪魔をしているんだろうが!!」
「「お前なんか大嫌いだ、この野郎!!」」
この物語は、
世界の平和を守るために立ち上がった単純馬鹿のヒーローと。
地獄の秩序を守るために立ち上がった俺様で我がまま死神の。
超おバカな——アンチヒーロー小説である。
***** ***** *****
こんにちこんばんおはようございます。また会いましたね、山下愁です。
この作品は『アンチヒーロー小説』とのたまっていますが、実際にはただのギャグです。満載のギャグです。少しの青春も入っていますが、大体は馬鹿です。宣言できます。
さて、クリックしてくださった心優しき読者様へ、この小説を読むにあたってのルールがございます。
守ってくださるとうれしいです。
1 コメントは大歓迎です。
2 荒らし・誹謗中傷・パクリはお断りします。
3 これ別館行きじゃね? と思う方もいるでしょう。大丈夫です。これはここでいいんです。
4 山下愁が嫌い! な方はUターンを推奨します。
5 同じく神作が読みたいという方もUターンを推奨します。全力で。
6 こちらの小説はできるだけ毎週木曜日更新となっています。土日もある場合がございますが、要は亀更新です。
以上を守って楽しく小説を読みましょう!
ではでは。皆様の心に残るような小説を書けるように、山下は全力を尽くします。
お客様!! ↓
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人差し指様 なつき様 モンブラン博士様 蒼様 立花桜様 彩様
目次
キャラ紹介>>01 >>03
プロローグ>>02
第1話『ヒーローの定義』
>>4 >>5 >>10 >>13 >>14 >>18 >>19 >>20 >>23 >>24
第2話『死神の定義』
>>25 >>26 >>27 >>28 >>32 >>37 >>38 >>39 >>42 >>45
第3話『姫君の定義』
>>46 >>47 >>50 >>51 >>52 >>53 >>54
第4話『合宿の定義』
>>56 >>59 >>63 >>66 >>67 >>68 >>69 >>71
第5話『劇薬の定義』
>>78 >>80 >>82 >>85 >>86 >>87 >>88 >>89 >>90 >>91
第6話『幽霊の定義』
>>94 >>95 >>98 >>99 >>100 >>101 >>102 >>103 >>104
第7話『処刑の定義』
>>105 >>107 >>109 >>111
テコ入れ>>112 >>113 >>114
第7話『処刑の定義』
>>117 >>118 >>120 >>125 >>126 >>127 >>130 >>131 >>132 >>133 >>134
第8話『恋愛の定義』
>>135-155
第9話『家出の定義』
>>156-188
第10話『捜索の定義』
>>189-198
最終話『終幕の定義』
>>199-210
エピローグ
>>211
あとがき
>>212
番外編
・ひーろーちゃんねる
キャラクターに30の質問
・椎名昴>>74
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- Re: お前なんか大嫌い!! ( No.123 )
- 日時: 2014/09/20 00:11
- 名前: なつき (ID: Cv75BPHK)
あげときますね。
更新がんばってください!!
- Re: お前なんか大嫌い!! ( No.124 )
- 日時: 2014/10/03 23:01
- 名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: 0qbHtJn6)
なつき様
わぁぁぁありがとうございます!!
まさかあげがくるとは思いませんでした。更新頑張ります。
本編は多分明日あたりに更新できるかと思います☆
お楽しみに!!
- Re: お前なんか大嫌い!! ( No.125 )
- 日時: 2014/10/05 23:35
- 名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: 0qbHtJn6)
「マジでやるのか?」
「マジですよーマジです。だって、死んでもらわなきゃ——地獄に行けないでしょう?」
——いや、それって完全に字が違くね?
冷や汗を流し苦笑いを浮かべる昴が最後に(最期に)見たのは、死神が満面の笑みで鎌を振り上げているところだった。
ちなみにその後ろで控えている悪魔は、己を助けることなく、ただただ両手を合わせていた。合掌てか。ふざけんなコラ。
視界が暗転して、目覚めた先に広がっていたのは毒々しいほどに赤い空だった。
一瞬夕焼け? と勘違いした昴だったが、そういえば悠太の野郎に殺されたんだったと思い出す。しかも笑顔で。しかも笑顔で。
「あのクソ死神の仲間め……生きて帰ったらブッ飛ばしてやる」
とりあえず宇宙の果てだな、火星だな、と昴は1人でつぶやいていた。
地獄と言っても、昴が見てきた白鷺市となんら変わらない。ビルがあり、町があり、道があり、川や自然がある。何の変哲もない、普通の町ではないか。
ただ、通行人と店に並べられている商品が何とも言えないのだが。
「安いよ安いよー、死者の目玉が12個入りで300円!! これは安いよ」
「毛髪いりませんかー? 頭にかぶせるとすぐに馴染む妖怪毛髪はいりませんかー?」
「お前、この前何人殺した? 嘘だろ、そんだけ? 俺なんかなぁなんと!! 200人も殺してんだぜすげぇだろ」
「ママー、新しい鎌がほしいー。この鎌の奴、空飛べるんだよー」
地獄である。会話だけ聞いているともはやキチガイ以外の何ものでもない。
昴は「うぇ」と顔をしかめながらも、あの憎きクソ死神を助ける為に地獄を突き進んだ。突き進むしかなかった。
しかし、その足を止めたのはとあるニュース番組だった。ニュース番組って地獄にもあるのかい。
『昨日捕らえられた炎の死神である東翔の処刑についてです』
薄型テレビに映る男性ニュースキャスター(頭から角が生えてた)は、手元の紙を淡々と読み上げる。
その前には人だかりができていて、昴は問答無用で人混みを割って1番前までやってきた。
テレビの画面にさらに小さな画面があり、そこには黒髪に赤みがかった茶色い大きな瞳を持つ少年が映っていた。隣にいるのは銀髪碧眼の、大太刀を持った美少女である。
少年が膝をついているのは、何かの塔の上だった。スタジアムの真ん中に建てられたその塔は、あらゆる方向につけられたカメラの注目を浴びていた。
「……翔……」
画面の中の少年は、見たことがないほどに無表情だった。
昴は、翔のそんな表情は見たことがなかった。何故そんなに無心でいられるのかが分からなかった。今から殺されるのに、処刑されるのに、彼は眉毛1つとして動かしていなかったのだ。
「あー、ついにこの死神さんも殺されるんだねぇ」
「!!」
昴の隣でテレビを見ていた、年老いた鬼がつぶやいた。
瞬時に反応した昴はガッシリと鬼の肩を掴むと、ガクガクと揺さぶる。「おおおおおお」と鬼から悲鳴が上がるが、そんなの知ったことか。
「どういうことだよ、何であいつが殺されるんだよ!?」
「おおおおおおおお前さんちょっと落ち着けけけけけけけ」
「あ、悪い。取り乱した」
ガクガクと揺さぶり続けられた鬼は、げほげほと咳き込んでから理由を話し始める。
「あいつは異端なんじゃ」
「異端?」
そういえば、何度か聞いたことがある。
——煉獄にいたと。
「あいつって、煉獄にいたんだよな? 何でだ? 何で煉獄にいたんだ? 煉獄って何するところだ、どんなところだ? 教えろ!!」
「分かった分かった、1度にいくつも聞くでない。……煉獄というのは異端者を閉じ込めておくところじゃ。
異端者っつーのは、能力を持つ死神のことさ。たまーにいるんじゃよ……そういう奴が。そういう奴は煉獄に閉じ込めておいて、発狂させて、そして自害していくのが常じゃった。
だが東翔だけは違かった。あ奴は正気を失うことなく色のない世界に居続け、そして観念した上層部の死神どもは奴を『一時的に』解放し、処刑を執り行う準備をしておった。
処刑というのが——全てを作り変える『転生』じゃ」
「てん、せい……あいつがあいつじゃなくなるのか?」
「そうじゃな」
年老いた鬼は首肯した。
翔が翔ではなくなるって言ったら、一体何になる? 誰になる?
以前、昴が正気を失った時に見た偽物の翔になるのか? 昴に笑いかけて優しくなるような、そんなアホな翔になってしまうのか?
想像しただけで鳥肌が立ってきた。恐ろしい。
と、ここで誰かが声を上げた。
「——おい、こいつ。人間じゃねえの?」
ビクリ、と昴は肩を跳ね上げる。
「こいつ人間だ」
「人間が何でいるんだ」
「刑場から抜け出てきたのか!?」
「始末しろ」
「殺せ」
やっべぇ、これやっべぇ。昴は思った。
実は悠太にきつく言われていたことがあったのだ。
地獄の住民に、己の存在をばれてはいけないと。まさかのばれてしまうという事実。
否、ここで怖気づいてどうする。画面の向こうには何故か金髪美女が映り込んでいて、『ハニーじゃんけん☆じゃんけんほいっ!! チョキの人、今日はラッキィ!!』なんてアニメ声で言ってやがる。思わずチョキ出してしまった昴である。
「……いやぁ、ばれちゃうとは仕方がねえな」
昴はニヤリと笑った。笑って見せた。余裕の笑みだった。
そしてガッシリと近くにいた親切にも自分に煉獄のことを説明してくれたおじいちゃん鬼を掴むと、大衆に向かって投げた。左腕1本で。
大勢の鬼や亡者を巻き添えにして吹っ飛んだおじいちゃん鬼は気絶し、昴は「ごめんじいちゃん!!」と心の中で謝罪した。
「クソ、こいつ暴れやがった!! 死神呼んでこい!!」
「いや、処刑人つれてこいよ!! あいつらは死神よりも強いだろ!!」
「どっち呼んできたって同じだよ」
地獄の住人は知らなかった。知る由もなかった。
画面の向こうで処刑されそうになっている死神と、この少年は戦っていたのだ。
現世でヒーローと呼ばれた少年は、まぎれもなく死神と同レベルの強さを誇っていた。
足元に落ちていた石を拾い上げて、昴はただ笑う。
「じゃ、大人しく吹っ飛ぼうか」
第三宇宙速度でブン投げられた石を合図に、昴は大衆へ襲いかかった。
***** ***** *****
ユフィーリア・エイクトベルは不思議に思っていた。
何故処刑するはずの自分に、何の説明もないのだろう。上層部は何をしているのだろう。
集められた上層部および死神たちをぐるりと眺めて、ユフィーリアは跪いた翔を見下ろした。
生温い風に黒髪が揺れる。翔は表情1つ動かさずに、その場にただ膝をついていた。俺様な翔からは考えられない姿である。
「……このまま死を受け入れるんだね」
「運命だからな」
翔の答えは変わらずだった。
右手に握られた黒鞘を握りしめたせいで、空華が悲鳴を上げる。「ごめん空華」と謝った。
「ユフィーリア・エイクトベル。これが原稿だ。間違えずに読めよ」
「あーい、分かってますって。いくら昔馴染みでも手加減なんかしませんよ」
ユフィーリアは上司から渡された原稿用紙に目を走らせる。
そこに書かれていたのは、『転生』の儀式についてだった。
ハッと碧眼を上げ、ユフィーリアは上司へ食って掛かる。
「どういうこと? 処刑じゃないの? 転生って……翔は翔じゃなくなるの!?」
「そうだ。こいつには、全てを忘れてもらう必要がある。その為にはお前の『切断術』が必要なのだ、ユフィーリア」
「っ……」
転生に必要なのは、転生対象となる者の体——器である。
ユフィーリアには魂のみを切断する術がある。その術で翔の体を切れば、翔の心は消え去り、新たな心が翔の体に入ることで新たな『東翔』ができる。
だが、その方法だとこの俺様な翔は消滅してしまうのである。
「命令が聞けないのか」
「クソが……」
上司を睨み、ユフィーリアは舌打ち交じりに言葉を吐き捨てる。
すると、ユフィーリアの下の方から声が上がった。翔だった。
「ユフィーリア、構わない。俺様は十分に生きた。だが、心残りがある。貴様がそれを果たしてくれ。俺様からの最期の願いだ」
「……何よ、それ」
こいつは、早くもあきらめようとしているのか。
だが、ユフィーリアに翔は救えない。どうあっても。この場で力を振るったとして、死ぬのは目に見えている。すでに籠の中の鳥なのだ。
「——誰も、誰もこいつを助けようとは思わねえのかよッッ!!」
ユフィーリアの声が、赤い空に響き渡ったその瞬間だった。
ドンッ!! と遠くの方で轟音がした。
雲がはじけ飛び、何かがこちらに向かって降ってくる。しかもピンポイントでユフィーリアと翔の方に。
ユフィーリアは反射的に空華を抜き放ち、降ってくる何かを叩き切った。それは拳大の石だった。
「な、にこれ……」
「あいつか」
唖然とするユフィーリアとは裏腹に、翔は笑う。
「馬鹿がきたか」
- Re: お前なんか大嫌い!! ( No.126 )
- 日時: 2014/10/17 23:14
- 名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: vfLh5g7F)
「ウォォォォォオオオオオオオオオオオ!!!!」
怒号。そして轟音。
それらをまとって、椎名昴は市街地を走り抜ける。それはもう、人間とは思えない速度で。
大地を踏み砕かんばかりに駆け抜け、風はびゅうびゅうと耳元で鳴く。人間が出す速度じゃない速度で、昴は走っていた。
ヒーローの昴だからできることである。————ちなみにその速度、新幹線と同等の速度を叩きだしていた。
「待てぇぇぇぇぇ!!」
「追いついてみろぉぉおおおおおおおおお!!」
背後の方で死神どもの怒号が叩きつけられるが、それ以上の声で跳ね返す。
誰もこの速度に追いつけやしない。追いつけるものなら追いついてみろ。こちとら一時を争うのである。
だが、それを遮る勇気ある者がいた。昴に煉獄が何たるかを説明してくれた、あのおじいちゃん鬼だった。昴の行く方向に通せんぼをして、声を張り上げる。
「行かせぬぞ!! この先へ、人間は!!」
「ごめんおじいちゃん、少し邪魔!!」
昴はおじいちゃん鬼に謝っておきながら、本気のグーパンチを叩き込んだ。グーパンチというより、それはラリアットだった。
新幹線がよぼよぼの鬼の体にぶち当たり、おじいちゃんは血みどろのお空へ放物線を描いて飛んで行く。キラン、と遠くで星となり、ぼんやりとおじいちゃんの笑顔が見えた。合掌。
鬼にぶつかったところで、昴の体が傷つく訳がない。スピードを落とさぬまま、道を突き進む。
昴からさらに距離が開いたところで、死神たちの唖然とした言葉。
「……あいつ、本当に人間か? 追いつかないんだけど……」
「いや人間だろ……生命数も問題は、ないと……」
「でも、あんな人間がいて、たまるか……」
そう思うのも仕方がないだろう。
何せ、昴は毎日あの死神と戦っていたのだ。死神と同格——否、それ以上かもしれない。
奴も普通の死神ではないのだ。全てを焼き尽くす炎『地獄業火』を操る死神——当たり前のように普通の死神とは違う。
だが、昴はそれでも戦ってきた。どちらが勝って、どちらが負けたか分からない。あいつと協力したことも数知れない。——結論から言って、並大抵の奴が昴に勝てる訳がなかった。
「はっけぇぇぇぇぇん!!」
見えてきたスタジアムの壁。
何人もの死神が、鬼が、不思議な姿をした生物が、昴めがけて攻撃を仕掛けてくる。
昴はそれら全てをかわし切り、そして——
「邪魔!! DEATH!!!!」
手近にいた女の鬼にラリアット。ロケットのように飛んで行き、仲間を巻き込んで女の鬼は星となった。合掌。
悲鳴と怒号と指示の声が聞こえてくる。飛んでくる攻撃を回避し、昴はスタジアムへ駆け込んだ。さながら車のドリフトの如く、ギャギャギャギャッッ!! とカーブして止まる。
広々としたスタジアムの中央に聳え立つ鉄塔。その上には、銀髪碧眼の少女と——昴の望んだ死神の姿があった。
「何故ここにきた」
その死神が、昴へ問う。
もちろん、昴の答えは決まっていた。
「お前をぶっ殺すのはこの俺に決まってるからだろ」
***** ***** *****
スタジアムの外が喧しい。同時に、スタジアムの中もざわめき始める。
ユフィーリアも「何事か」と赤い空を見上げていた。誰しもが予期せぬ事態に慌てていた。
——たった1人を除いては。
『ユフィーリア……翔、笑ってるよ』
「……何か知ってんの?」
跪いて処刑を待つ炎の死神——東翔。彼だけが、うろたえる死神の上層部を、処刑人たちを眺めてただ笑っていた。
ユフィーリアは眉を顰め、彼に問いかける。
彼は何か知っているのかもしれない。もしかしたら、翔の部下が助けにきたのかも。だとしても、無駄である。ただの死神が、ユフィーリアに敵う訳がない。
空華の柄を握りしめ、「答えろ」と命令する。
「いや、なに。馬鹿がきたか、と思ってな」
なるほど、貴様がくるとは珍しい——翔はポツリとそう落とした。
彼は何か知っている。この騒がしい原因を知っている。
即席で組まれた原因の鎮圧部隊が、スタジアムから飛び出した。ユフィーリアは呼ばれなかった。彼の処刑があったからだ。
しかし、鎮圧部隊として飛び出したものは、30秒ほどで空を飛んで行った。こちらに近づいてくる原因に吹っ飛ばされたのだ。
「ねえ、誰がくるの?」
「馬鹿だな。馬鹿で、阿呆で、間抜けで、お人よしで——だが強くて、面白くて」
一拍置いて、翔は告げた。
「俺様の大嫌いな奴だ」
————ギャギャギャギャッッ!!!
スタジアムの床を削りながら滑り込んできたのは、茶色の髪の少年だった。幼い顔立ちのせいで、中学生ぐらいに見える。ヘアバンドのように装着されたギアつきのヘッドフォンが実に特徴的だった。
「何故ここにきた」
翔はその少年に問いかけた。
少年は、当然とでも言うかのような口調で答えた。
「お前をぶっ殺すのはこの俺に決まってるからだろ」
面白い。
この少年は、面白そうだ。
そう考えたユフィーリアは、自然と動いていた。鉄塔からヒュッと身を落下させ、華麗に着地を決める。誰かがユフィーリアを止めたが、彼女には届いていなかった。
「翔を助けにきたの?」
——この少年は、きっと翔を救ってくれる。
——己を倒し、きっと。
ユフィーリアはその願いを込めて、空華を引き抜いた。黒鞘から青い刀身が現れる。
少年は笑った。
「一応な。処刑なんてさせてたまるかよ」
「じゃあ、アタシを倒しなよ。アタシが翔の介錯人だ」
大太刀を構え、名乗る。
「——ユフィーリア・エイクトベル。処刑人です。よろしくね」
「椎名昴です。ヒーローです。よろしくされてやる」
- Re: お前なんか大嫌い!! ( No.127 )
- 日時: 2014/11/02 23:21
- 名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: vfLh5g7F)
ユフィーリア・エイクトベル。
地獄では罪人に罰を与える存在である『処刑人』の1人である。また、彼女はこう呼ばれていた。
——曰く、最強と。
彼女は独特な技を使う。彼女自身は切断術と呼んでいるのだが、その魔法じみた攻撃方法がまた厄介なのだ。
ユフィーリア・エイクトベルの刃は空間を超えることができる。
彼女が「切る」と思って相棒である空華を振り抜けば、その相手を必ず切り殺すことが可能なのである。たとえその敵が遠くに離れていこうとも、彼女は確実に切り飛ばす。
その切断術を切り抜けた者は、今まで誰1人としていなかった。だから彼女は最強と呼ばれていたのだ。
だと言うのに。
(強い……)
目の前の少年の拳を受け止める。
だが、その力があまりにも強すぎて、ユフィーリアの体は数歩下がった。数歩下がった分の足跡ができる。
最強たるユフィーリアは、純粋に少年へ強さを感じていた。拳を受け止めた手が痛みを伝える。
「……ハハッ」
面白い。
ユフィーリアはニヤリと不敵に笑んで、空華の柄を握ったのだった。
***** ***** *****
強い。尋常ではないぐらいに、彼女は強い。
ユフィーリア・エイクトベルと名乗ったか。攻撃の出が早すぎる上に、その攻撃の軌道が読めない。刃なら振られる軌道が見えるのに、だ。
まして彼女の持っている『空華』という名の長大な刀は、刀身が青い。青い軌跡が昴の目に映ってもいいのだが。刀身が青い軌道を描いて振られたとしても、別の場所が切れるのだ。
「うらぁ!!」
考えてはならない。昴は右拳を突き出した。
ドッパァァン!! という轟音と共にユフィーリアへ拳を受け止められてしまう。舌打ちをして拳を戻し、今度はハイキックをお見舞いした。
これもまた彼女の腕で捌かれてしまう。伊達に最強を名乗っている訳ではなさそうだ、一筋縄ではいかない。
「——シッ!」
「ふぬぁ!? 危ねっ今見たあれ! すげぇ俺今イナバウアーした!!」
もはや緊張しすぎていて、テンションがハイになっているようだ。昴は背を仰け反らせてユフィーリアの斬撃をかわしたことを、両手を叩いて喜んだ。
だが、斬撃はかわしたはずなのに、昴の背後にあるスタジアムの客席に刺傷が作られた。彼女からは、距離があるというのに。
「……ハイ、質問いいですかー」
「何でしょうかね。答えられる質問ならいいよ。アタシ馬鹿だから加減してね。アタシでも分からないものだったら——そうだな」
斬撃を繰り出しながら、クイッと刀を握っていない左手の親指を突き立てた。
その先にいたのは、処刑(転生)を待ち構えている翔だった。きょとんとしたような表情を浮かべて、ユフィーリアに指さされたことを不思議そうに眺めている。
「あいつが説明してくれるさ」
なすりつけた。
「じゃあ質問!! どうして斬撃をかわしたはずなのに、後ろのスタジアムがバンバン切られていくんでしょうね!! 攻撃をかわしたらかわしっぱなしじゃないんですかね!!」
お構いなしに質問をした昴。
パァン!! と鋭い音がして、昴とユフィーリアの間の距離が開いた。両者共に肩で息をし、消耗しきっているようだった。
すると、ユフィーリアは笑った。からりと笑った。
「アタシの斬撃は、距離を飛ぶ。たとえアンタが攻撃をよけようとも、その先に何かがあれば距離を飛び越えて『それ』を叩き斬る!!」
「嫌な攻撃だなオイ!!」
昴は叫ぶ。非常に厄介だ、この野郎。翔よりも厄介な奴ではないか。
どうやってブッ飛ばそうかと身構えて考えているところで、周りからの野次が飛んでくる。
「何を戸惑ってやがるユフィーリア!!」「人間相手だぞ!!」「殺せ」「殺せよ」「今すぐ処刑を」「歯向かう人間に断罪を」「罰を」「殺せ」「殺せ!!」
こぞって昴を「殺せ」と叫ぶスタジアムの死神たち。それが嫌なコーラスとなって、辺りを漂う。
昴は聞かないようにしていたが、フラストレーションがたまっていったのか、スタジアムに向かって怒声を叩きつけた。
「うるせぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」
拡声器も使っていないのに、昴の声はよく響き渡った。
「うるせぇ!! 今俺はこいつと戦ってんだろうがよ。邪魔するならこいつブッ飛ばしたあとまとめてブッ飛ばして——」
「戦いの最中に」
昴が気づいた時には、すでに青い軌道は昴の上を走っていた。
より正確に表すなら、昴の耳の上を。ヘアバンド変わりに使っていた、ヘッドフォンを切断していた。
バラリ、とヘッドフォンが地面にカツンと音を立てて落ちる。昴の漆黒の瞳が見開かれた。
「よそ見をしちゃいけないよ」
ユフィーリアが不敵に笑む。それから彼女の手にした空華が大上段に振り上げられる。
——だが。
——誰も気づいてはいなかった。
——いや、少なくとも、翔は気づいていた。
ころせ。
「——ぁ?」
ユフィーリアの鳩尾に、拳が突き刺さっていた。貫通はしていない。いつの間にかめり込まれていた。
ふわっと彼女の体が浮かび上がり、ズドンッ!! と大砲の如き轟音を立ててスタジアムの方へと吹っ飛ばされる。数人の死神を巻き込んで、彼女は止まった。
「いてぇ……一体——」
なんなの、という言葉は声にならなかった。それよりも先に、昴の蹴りが飛んできた。
腕を使って攻撃を受け流そうとしたユフィーリアだが、威力に耐えられずに再び宙を舞う。何度か硬い地面に叩きつけられて、ようやくユフィーリアは立つことができた。
「……アンタ、ちょっと」
ユフィーリアは見た。
昴の瞳に、光はなかった。
翔があの合宿で見た瞳と、同じものだった。
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