コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

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お前なんか大嫌い!!
日時: 2017/01/29 23:27
名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: 5/xKAetg)

「何でお前はいつもいつも邪魔ばかりしてくるんだよ!!」

「うるせぇ! テメェの方が邪魔をしているんだろうが!!」

「「お前なんか大嫌いだ、この野郎!!」」


 この物語は、
 世界の平和を守るために立ち上がった単純馬鹿のヒーローと。
 地獄の秩序を守るために立ち上がった俺様で我がまま死神の。

 超おバカな——アンチヒーロー小説である。


***** ***** *****

 こんにちこんばんおはようございます。また会いましたね、山下愁です。
 この作品は『アンチヒーロー小説』とのたまっていますが、実際にはただのギャグです。満載のギャグです。少しの青春も入っていますが、大体は馬鹿です。宣言できます。
 さて、クリックしてくださった心優しき読者様へ、この小説を読むにあたってのルールがございます。
 守ってくださるとうれしいです。


1 コメントは大歓迎です。
2 荒らし・誹謗中傷・パクリはお断りします。
3 これ別館行きじゃね? と思う方もいるでしょう。大丈夫です。これはここでいいんです。
4 山下愁が嫌い! な方はUターンを推奨します。
5 同じく神作が読みたいという方もUターンを推奨します。全力で。
6 こちらの小説はできるだけ毎週木曜日更新となっています。土日もある場合がございますが、要は亀更新です。


 以上を守って楽しく小説を読みましょう!
 ではでは。皆様の心に残るような小説を書けるように、山下は全力を尽くします。

お客様!! ↓
粉雪百合様 棗様 碧様 甘月様 甘味様 亜美様 noeru様 日向様 ドロボウにゃんにゃん様 猫又様 狐様
人差し指様 なつき様 モンブラン博士様 蒼様 立花桜様 彩様


目次

キャラ紹介>>01 >>03
プロローグ>>02

第1話『ヒーローの定義』
>>4 >>5 >>10 >>13 >>14 >>18 >>19 >>20 >>23 >>24
第2話『死神の定義』
>>25 >>26 >>27 >>28 >>32 >>37 >>38 >>39 >>42 >>45
第3話『姫君の定義』
>>46 >>47 >>50 >>51 >>52 >>53 >>54
第4話『合宿の定義』
>>56 >>59 >>63 >>66 >>67 >>68 >>69 >>71
第5話『劇薬の定義』
>>78 >>80 >>82 >>85 >>86 >>87 >>88 >>89 >>90 >>91
第6話『幽霊の定義』
>>94 >>95 >>98 >>99 >>100 >>101 >>102 >>103 >>104
第7話『処刑の定義』
>>105 >>107 >>109 >>111


テコ入れ>>112 >>113 >>114


第7話『処刑の定義』
>>117 >>118 >>120 >>125 >>126 >>127 >>130 >>131 >>132 >>133 >>134
第8話『恋愛の定義』
>>135-155
第9話『家出の定義』
>>156-188
第10話『捜索の定義』
>>189-198
最終話『終幕の定義』
>>199-210

エピローグ
>>211

あとがき
>>212



番外編
・ひーろーちゃんねる


キャラクターに30の質問
・椎名昴>>74

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Re: お前なんか大嫌い!!-勘違い男たちの恋- ( No.23 )
日時: 2012/12/16 22:45
名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: Mj3lSPuT)

 次の日は学校である。
 椎名昴は椎葉すみれという偽りの名前で学校に通っている。その為、ウィッグをかぶって化粧も済まし、「ん、んっ」などと声の調子を確かめている。決して喘いでいる訳ではない断じて(←
 鞄の中に制服をしわにならないように詰め込み、いつも愛用しているヘッドフォンを首にかけて靴を履く。明るいオレンジ色のスニーカーである。

「んー? 昴、学校?」

「あ、起きてきちゃった? 行ってくるから、そこのニートに『きちんと今度は敵の情報を掴んでおけこの野郎』とドスの利いた声で言ってくれるとありがたいな」

 ぼんやり眼で見つめてきた6歳の少女、結城小豆に言う。
 小豆はこくりと頷くと、「行ってらっしゃい」と告げた。
 昴は小豆ににっこりとした笑みで手を振りかえすと、ドアを開けた。錆びた階段を下りて朝日がさんさんと降り注ぐコンクリートの道を歩む。その途中にいたあのクソ死神の従者である瀬戸悠太に挨拶する事も忘れない。こいつは翔の従者であって翔ではないのだから。
 しばらく歩くと小さな公園があった。朝なので誰もいない。辺りに誰もいない事を確認してから、昴は公衆トイレへ全力奪取した。そして男子トイレに飛び込み、バタンと扉を閉じる。

 〜数分後〜


「……今日も人いなくてよかった……」

 見事に椎葉すみれとなった昴は、額を手の甲で拭う。慣れてきたとはいえ、まだまだ油断はできない。
 鞄を両肩に通し、ヘッドフォンを頭につけて歩き出す。たまにすれ違う同じ町内に住まう人々に笑顔であいさつしながら、今日も学校に通うのだった。
 が、ここでいつもと違う事が起きてしまったのである。

「おい、そこ」

 昴の目の前に降りてきた、黒い影のようなもの。
 夜の闇にも負けない黒いコート。そして同色の長い髪を赤い髪紐で結わいている。女みたいな顔をしているのにもかかわらず、背負った赤い鎌でそのイメージが払拭される。
 東翔。
 昴の1番の天敵であり、あの世界を焦土と化せるぐらいに最強の死神である。

(げぇ……朝から嫌な奴に会った……)

 心の中で昴は顔をしかめた。が、表には出さない。何故なら、今は椎葉すみれだからだ。

「えーと……どちら様ですか?」

 にっこりとした笑みで問いかける。
 翔はじっと昴を見下ろし、そしてため息をついた。殴りたい衝動に駆られる。

「どうやら……怪我をしている様子はないようだな」

「ハ?」

 これには昴は地の声を出してしまった。
 翔が目をこちらに向けてきたが、神のような速さでそらす。そして咳払いをしてから、再び笑顔を作った。

「何の事かな?」

「いや……昨日、怪獣が現れたから、平気かと思っただけで……。あ、いきなり関係ない奴にそんな事を言われて混乱するよな……」

 誰だこの純情少年は、と心の中でツッコミを入れる昴。でも顔には出さない。笑顔笑顔。
 しかし、額には青筋が浮かんでいる。これ以上こいつと共にいたら吐き気がすると考え、昴は翔を強行突破する事を心に決めた。

「あ、じゃああたし、学校あるから……心配してくれてありがとう」

 えへへ、と笑って翔の横を駆ける。こいつといたくないいたくない。
 しかし、ここでアクシデント。何と、この死神、敵である昴の腕を平然と掴んだのだ!

「!!」

 混乱と驚きで昴の思考は停止する。今の現状を把握すると、昴が翔の腕を握っている。死神って案外手が冷たいんだなー、てか冷え性? という心の声は当然のように口に出さない。
 今すぐ手を振り払いたい衝動に駆られたが、何とか理性で持ちこたえ、反対の拳を握り、丹田に力を込めて翔の方を振り返る。

「……何ですか? あたし、遅刻しちゃいそうなんだけど……」

「……あ、悪い」

 パッと手を離し、翔は照れ臭そうに頭を掻く。昴はそんな死神の姿を見て吐き気を催す。
 何だ、この男。何だこの死神。何だこの雰囲気は!!

「————じゃあ、気をつけろよ?」

 昴には見せない笑顔で、翔はその場から飛び去った。
 唖然とした表情で立ち尽くした昴は、はっと我に返り、今が椎葉すみれである事も忘れて、空に向かって絶叫した。


「東翔!!!」


「お前なんか、大嫌いだぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」



 第1話 ヒーローの定義 エンド!!

Re: お前なんか大嫌い!!-勘違い男たちの恋- ( No.24 )
日時: 2012/12/20 21:50
名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: Mj3lSPuT)

ヒーローと死神の雑談場♪ 〜ゲストを招いての振り返り〜


椎名昴「どうも、白鷺市のヒーローを務めています。椎名昴です」

東翔「白鷺市を手始めに支配しようと考えています、東翔です」

椎名昴「ていうか何でお前がここにいるんだよ。さっさと帰れ今すぐに」

東翔「帰りたいが帰れないという言葉を教えてやろう。あとあと使うかもしれないぞ? 俺のような年になれば」

椎名昴「お前何歳?!! 1000歳を越しているよな、絶対越しているよな?!」

東翔「フフン、1600歳だ」

椎名昴「何世紀分を跨げばお前のような年齢になれるんだよ。少なくとも15世紀ぐらいは跨がないといけねぇぞ?」

東翔「そこは気合でどうにかなるだろ。テメェならできる」

椎名昴「できねぇよ。死んでるよ」

東翔「さて、このコーナーはまぁ第1話が終わったという事で、『げすと』というものを招いての反省会らしいが。おい、トンコツ。『げすと』とは一体何だ?」

椎名昴「今トンコツって言っただろ。何だよトンコツって。俺はトンコツじゃねぇよ、どこが食材に見えるよ。髪の毛か?」

東翔「あぁ間違えた。ポンコツ」

椎名昴「よほどぶっ飛ばされたいと見た。よし、歯を食いしばって両手を頭の上で組め。木星ぐらいまでぶっ飛ばす」

東翔「やれるものならやってみやがれ、このポンコツ」

椎名昴「上等だコラァァァァァァァァアアアア!! 表に出ろ、勝負だコラァァァ!」

東翔「上等だ、今回こそ白黒はっきりつけてやる!!」

黒影寮の昴「あの」

黒影寮の翔「おい」

昴&翔「「何だコラァァァ!!」」

黒影寮の昴「何だって、呼ばれてきたの他に理由があるの?」

黒影寮の翔「できれば即刻帰りたいんだが、いいよな? いいよな?!」

黒影寮の昴「ダメだよ、翔ちゃん。すぐに帰ったらお祝い的なものが言えないだろ?」

黒影寮の翔「そんなの誰かしらに任せりゃいいだろ。あー、とー、あれだ。空華とか、睦月とか、銀とか」

黒影寮の昴「はーい、このわがまま死神は無視してください。俺は椎名昴。黒影寮の副寮長を務めているんだ。よろしく」

椎名昴「おぉ。俺と同じ名前じゃないですか。同志よ!!」

黒影寮の昴「ハ?」

東翔「全国の『しいなすばる』は死ねばいいと思う。山下愁が書いている小説限定で」

椎名昴「まずはお前が死んで来た方が世の為人の為俺の為だと思うんだ。どう思う?」

東翔「それはテメェの事か? 自殺してそれを裁くのは俺だぞ?」

椎名昴「俺じゃねぇよお前だって言ってんだよコラ!!」

東翔「何だとコラ!!」

黒影寮の昴「ねぇどうしよう、翔ちゃん。この2人——ていうか俺らなんだけど、めちゃくちゃ仲悪くない?」

黒影寮の翔「喧嘩するほど仲がいいとはよく言うが、ここまで忌み嫌っていると面白いな。人間とは面白いものだ」

東翔「少なくとも俺は人間じゃねぇ、死神だ」

黒影寮の翔「奇遇だな、俺もだ」

黒影寮の昴「そこで共感されても、俺は反応できないよ?」

椎名昴「うわー、こいつ女顔死神に似ているな————ってうわち?!! 何、何でいきなり炎で攻撃!! ていうかそっちの俺も攻撃してくんなよ!」

黒影寮の昴「翔ちゃんの事を悪く言うと————殺すよ?」

黒影寮の翔「……女顔……ビッチと、女と同等……ひぐ、ぐす」

黒影寮の昴「わぁぁぁ! 泣かないで翔ちゃん! ほらね? 大丈夫だから、馬鹿にする奴は俺がぶっ飛ばすから!」

東翔「何故泣く」

椎名昴「俺に訊かれても」

黒影寮の昴「翔ちゃんは女の子が嫌いなんだよ。ごめんね」

東翔「気にするな。誰にだって弱点はある」

椎名昴「お前の弱点は常識がないところじゃないか? この前はトラックに轢かれそうになっていたところを逆にぶっ飛ばしていたし」

東翔「テメェの弱点は勉強か? この前釣り銭の額を間違えていなかったか?」

椎名昴「あれはレジを打ち間違えたの! 悪いか!!」

東翔「ほう、打ち間違えた!! バイト首にならなきゃいいな」

椎名昴「誰のせいだと思っているんだこの馬鹿————!!」

黒影寮の翔「……ところで、何でテメェらは喧嘩しているんだ?」

黒影寮の昴「俺と翔ちゃんは仲良しだよ?」

昴&翔「「こいつとだけは仲良くなりたくない」」

黒影寮の昴「あらら」

黒影寮の翔「俺は昴に助けてもらってばかりだったぞ。一般常識は全部昴から習ったしな」

黒影寮の昴「逆に俺は翔ちゃんに勉強を見てもらっています。いやぁ、翔ちゃん頭いいから」

東翔「何で俺がこの馬鹿に勉強を教えてやらなきゃいけねぇ」

椎名昴「何で俺がこの常識知らずに常識を教えてやらなきゃいけないの?」

昴&翔「「何だとコラァァァァァア!!」」

黒影寮の昴「何なんだか……」

黒影寮の翔「放っておけ」

黒影寮の昴「それではみなさん、俺らが出演している『黒影寮は今日もお祭り騒ぎです』をよろしくお願いします! 仲のいい椎名昴と東翔が見たい方はおすすめです」

椎名昴「以上、第1話でしたー」

東翔「次回は新キャラ登場だぞ」

Re: お前なんか大嫌い!!-勘違い男たちの恋- ( No.25 )
日時: 2012/12/20 22:19
名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: Mj3lSPuT)

第2話


 問題
 以下の文章の空欄を埋めなさい。
 死神とは『』である。


 模範解答
 死神とは『人の死を司り、永遠の時を刻む神の事』である。


 東翔の答え
 死神とは『まさしく俺!』である

 採点者のコメント
 自意識過剰にもほどがある。


 椎名昴の答え
 死神とは『ほらー、あれだろ? あの鎌持って人をバンバン殺していくあれ。いつかぶっ飛ばしてやらなきゃいけない奴だよな。うん』である。

 採点者のコメント
 答えが長い。あと台詞みたいに活用するな。


 山本雫の答え
 死神とは『ちょっと分からないのであとで事務所に来てください』である。

 採点者のコメント×2
 誰だよお前!!


 第2話 死神の定義

Re: お前なんか大嫌い!!-勘違い男たちの恋- ( No.26 )
日時: 2012/12/23 22:50
名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: Mj3lSPuT)

 その日の神崎学園には、1人の転入生がやってきていた。
 どこの話にも共通するものだが、例外にもれず、主人公のあの2人のもとへやってきていた。
 その転入生の容姿を見て、2人——本名は椎名昴と東翔だが——椎葉すみれと瀬野翔子は唖然とした表情を作った。

「転入生の山本——えーと、あめしたさん?」

「雫です。山本雫」

 目の悪い初老の世界史教師(担任。来年で定年を迎える)に紹介された、全身黒ずくめのその転入生。男子がこの学校の制服として着る学ランの下に黒いパーカーを羽織り、さらにフードを被っている。表情は完ぺきに分からない。だが150前後の身長と小柄な体躯、そして『山本雫』という名前から、おそらくは女子だという事が推測できる。
 すみれはぽかんとした表情のまま、翔子の方へと目をやる。
 翔子も翔子で彼女の異様な容姿を「おかしい」とでも思ったのだろう。唖然としたままの表情をすみれへと向けていた。

「……改めて、山本雫です。よろしく」

 フードの下から垣間見える桜色の唇に笑みを浮かべて、山本雫はお辞儀をした。
 転入生とは、異様な雰囲気を漂わせる奴が大体である。しかし、彼女の『異様』は本当に異様だった。

***** ***** *****

 それからすみれは翔子と下校し、途中で椎名昴となって帰宅する。
 帰宅したらしたで、ピンク色の頭を持つ女子高生と小豆が取っ組み合いの喧嘩をしていた。片や小豆の小さな鼻に指を突っ込んでグーッ! て上げている。片や手にした泥団子を必死に食わそうとしている。
 もう何が何だか分からない状況である。誰か助けて。
 この時ばかりはプライドを放り捨ててあの女顔死神を呼ぼうかと本気で考えたが、理性で抑え込む事に成功する。

「飴ちゃん飴ちゃん、何してるの? 何で小さい女の子をいじめているの? 仮に16歳だとしても相手は見た目6歳児のいたいけな少女ですよ?」

「いやだってさぁ」

 小豆を背負い投げてから、甘党飴は立ち上がった。むぅと唇を尖らせ、昴に反論する。

「あいつが飴ほしいとかいうから。飴は私だけのものだ!!」

「いやお前だけのものでもないから」

 静かにツッコミを入れてから、昴は普段着に着替える。なるべく女子の同居人に見られないように壁に隠れながら、赤いTシャツに黒いパーカーを羽織ってジーンズを穿く。
 それから今もパソコンに向かいっぱなしの同居人——橘理人に目をやってから、その背中に問いかける。

「今日も画面の中の彼女は元気か?」

「今日はそっち関連の仕事はしてない。……おかしな奴が学校に転入してきたらしいな?」

「あぁ、もう分かってんだ」

 当たり前だぜ、と得意げに言いながら、理人は振り返った。切れ長の鳶色の瞳を曲げながら、

「だって、昴は大切な大切な俺の友達だもんな。だからこそ、あいつの事をできるだけ調べておきたかったんだよ」

「……聞かせてもらおうか。お前の調査報告」

「了解。たまげるぜ、こりゃ」

 カタカタとディスプレイに何かを打ち込んでから、画像を出す。
 そこに描かれていたものは、青い髪を持ち深海色の瞳を持った美しい少女の映像だった。エロ画像かと思ったが様子がおかしい。彼女の立っている場所——クレーターのようなものができている。それに、地面は灰色だ。
 空は漆黒の色。銀色の斑点が散りばめられ、夜空が演出されているのが分かる。

「……月?」

「あぁ、山本雫——と言ったか。多分あいつは——」

 ガリッと爪を噛んでから、理人が告げる。

「かぐや姫だ」

***** ***** *****

 瀬野翔子から東翔へと戻って帰宅し、翔はため息をついた。
 同居人であるメアリー・クジョウインに抱きついている男——加堂玲音を見てプライドなどゴミ箱に放り捨ててあのポンコツヒーローに助けを求めに行こうかと考えた。
 が、それを理性で何とか抑える事に成功し、翔は畳の部屋へ足を踏み入れた。

「あ、お帰りなさい翔様。お疲れのようですが」

「今日は7件だったな、自殺者。いい加減に何とかしなきゃいけないが……あのポンコツヒーローのせいでどうにもならん。マインドコントロールが得意な奴を誰か呼んでほしいところだが……その前に悠太、1つ訊いていいか?」

「ハイ、どうぞ」

 エプロン姿プラス鎌の異様な格好をした従者の死神、瀬戸悠太の姿を見てため息をついた翔。
 死神がそれでいいのか、と胸中でつぶやきながら、玲音を指した。

「あれはどうするつもりだ。地獄へ送り返せ」

「そうは言っても翔様。すでにメアリーを気に入っているようだけどね」

「もういいや。来たからには仕事もやらせろよ」

 俺は疲れたというなり、翔は畳の上にごろ寝を決行。王子なのに。
 そこへ出雲が帰宅し、地獄の王子様である翔の姿を見て嘲笑う。

「王子なのにww」

「テメェ殺すぞ」

 翔は出雲を睨みつけ、再びごろ寝。
 出雲はそんな翔の背中へ、

「山本雫の正体をご存知ですか?」

 などと問いかけた。
 正体? と翔はとりあえず答えを返す。

「えぇ。正体です。彼女は少なくとも——人間ではありません」

「じゃあ何だ。神か」

「一言で表すならば宇宙人ですね」

 宇宙人と聞いて、あの変態クリスマス野郎のジャンを思い出した翔。

「彼女は——かぐや姫ですよ」

 その単語を聞いて、同時刻にヒーローと死神はこう答えを返した。


「「んな訳ねぇじゃん」」

Re: お前なんか大嫌い!!-勘違い男たちの恋- ( No.27 )
日時: 2012/12/27 23:24
名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: Mj3lSPuT)
参照: ヤンデレ違うよ。BLでもないよ。

 今日のバイトは解体工事のバイトである。力が強いのでこんな仕事は朝飯前。
 着々と古いビルが解体されていく中で、昴は思った。
 こんなビル、俺が1発で吹き飛ばしてやろうかと。
 高さは10階建てとまぁまぁな高さではあるが、それでも限界15階建ての昴にとってはお手の物だ。15階建てのビルまでなら素手で吹っ飛ばせます。
 え、じゃあ他の高さのビルはどれぐらいだって? 記憶にございません(by昴)

「新入りー、この鉄筋を動かしてくれ」

「はいはーい」

 親方であろう年配の男に命令され、昴は上から降りてきた鉄筋コンクリートを片手で持ち上げる。昴にとっては木の枝を持つような感じである。
 全員の頭に当たらぬように気を配りながら鉄筋を移動させた時、ふとある事に気づいた。
 誰かがいる。
 工事現場に、誰かがいる。

「……あんのクソ死神か? 工事現場にも来るのかよ」

 ここ隣町だぞ、とぶつくさつぶやいて、昴は闇の向こうを睨みつけた。が、いつもの死神ではなかった。
 確かに東翔は全身真っ黒の黒いコートを着ているが、相手はそうではなかった。頭からつま先まで真っ黒なのは分かる。だが、ぽっかりと浮かびあがる藍色の瞳が見えたのだ。

「……誰だよ、お前」

「……へぇ。こんなところで働いているんだ、今どきのヒーローって」

 鈴を転がすような高い声が、闇の中から帰ってくる。
 辺りは既に暗い。街頭だけが頼りである。ゆらゆらと体を揺らしながら現れたのは、なんと、山本雫だった。
 昴は眉をひそめた。何故、彼女がこんなところにいるのだろうか。

「……ヒーローって、知っているのか?」

「隣町ではひた隠しにしているようだけど、うちは知ってるよ? 椎名昴君」

「こっちだって、お前の名前を知っているぞ。山本雫」

「あらら。有名だねぇ」

 ケタケタと楽しそうに笑う雫だが、表情は読めない。声だけが笑っているのかも知れない。
 昴は警戒しながら、じりじりと後退をし始めた。こいつと構っているとバイト代が……。

「待ってよ、逃げるの?」

「逃げねぇよ、バイトあるから帰れ鉄筋コンクリート投げるぞ」

「へぇ? あ、じゃあさぁ……君に1つだけ訊いていいかな? 大丈夫大丈夫、簡単な事だよ」

 雫は相も変わらず明るいテンションの声を保ったまま、問いかけた。


「炎の死神——知っているかな?」


 炎の死神? と昴は首を傾げた。普通の死神とどう違う。
 あぁ、まさかあのクソ死神の事かなーとか思いつつ、昴は答えた。

「それなら仕事じゃね? あいつの仕事は大体夜が多いっていうし……白鷺市を探し回れば見つかるぜ。あとはコンビニ巡ってみろよ、コンビニスイーツ求めに来るかもしれねぇから」

「ふーん、ありがと」

「でも何であのクソ死神の事を探してんだよ? 何かするのか?」

 闇の中に消えようとしていた雫は、ふと昴の方へ振り返った。わずかに見えた口元に笑みを浮かべて、昴の問いかけに答える。


「だって、死神を殺せたら————面白いじゃない?」


 ふっと、雫は闇の中に消えてしまった。
 最後の言葉に、昴は思考を止まらせる。ぴたりと立ち止まって、ぐるぐると思考を巡らせた。
 今、彼女は何と言った?
 というか死神を殺せたら面白いじゃないと言った?
 冗談じゃない、あの死神を殺すのは————この俺だ。

「よーし、ちょっと休憩だー」

「親方! すんません、少し家に忘れ物したんで取りに帰ります!」

「え、あぁ? 気をつけろよー」

 ヒーローの事は秘密にしているのにもかかわらず、昴は目を疑うような速さでコンクリートの道路を駆け抜けた。
 あのフードの少女よりも、死神に会う為に——恋の意味でじゃありませんあしらず。

***** ***** *****

 ドドドドド、という音を聞いた気がする。
 翔は今まさにドアノブに手をかけていたが、ふとその音に気が付いて手を離す。街頭だけが輝く目の前の道路だが、なんかドドドドドというまさに牛の大群でも迫ってくるような音がした。
 眉をひそめて、首を傾げる。

「気のせいか?」

 いや、気のせいな訳がない。確かに聞こえるのだ。
 この音は、まさに嫌な予感がする——。
 翔はその嫌な予感を察知して、柄の赤い鎌を取り出した。そして迫りくる脅威へとその銀色の刃を向け——

「あーずーまーしょぉぉぉぉぉおおおおおう!!!」

 暗闇の中から突如として飛び出してきたのは、なんとあのポンコツヒーローの椎名昴だった。
 昴は跳躍1つで2階へと飛び乗り、翔の胸倉をつかむ。何が何だか分からぬ状況に、翔はされるがままだったが、コンマ1秒で自分がどういう状況に立たされているのか知る。

「テメェ! いきなり胸倉をつかむとはどういう——」

「答えろ!!」

 すごんだ表情で怒鳴られたものだから、思わず「お、おぉ?」と頷いてしまう。

「……炎の死神って、お前の事か?」

「知らなかったのか? 今まで炎を使いに使いまくっていただろ。あれで分からないとか頭の中身を疑うぞ」

「じゃあも1つ……死神って死ぬの?」

「俺の炎は同族をも殺せるが……まぁ多少の事で死ぬ事はないな。つかいつまで胸倉つかんでんだよ離せクソが」

 ペシッ! と昴を振り払い、襟元をただす翔。
 すると、昴はその場にへなへなと座り込んでしまった。何かに安心したかのように。

「おい、どうしたんだよ。そんな奴じゃねぇだろ」

「今さっき、山本雫に出会った」

「……かぐや姫の?」

「かぐや姫の」

 2人で顔を見合わせてしまう。

「何だって?」

「『死神を殺したら楽しいじゃない?』てふざけた事を言ってた。月のない日は気をつけろよ」

「馬鹿。今も新月だよ」

「東京の空は汚いからなー、月も見えねぇよ」

 なんだかんだ言って仲いいんじゃないの? と思った。
 いや、違うんです。昴は「自分が殺すのだこの死神を」と思っているので。他の奴にとられたくなかったんですね、殺す権限を。


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