コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
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- 【完結】脇役にもなれない君たちへ
- 日時: 2015/01/25 03:29
- 名前: みもり ◆EcL409OyWY (ID: DYDcOtQz)
「脇役にもなれない君たちへ!」
はじめまして。懲りない人です。
タイトルは長いので「にもなれ」って略します。なんか上から目線なタイトルですんません。
※ついっつぁー @iromims
※1/8 2014年小説大会3位入賞ありがとうございます。
※1/25 完結しました。ありがとうございます。(´▽`)
1/1 参照200突破
1/3 参照300突破
1/5 参照400突破
1/8 参照500突破
1/10 参照600突破
1/?? 参照700突破
1/21 参照800突破
episodeA 「私の小さな沈丁花」
>>1 >>2 >>3 >>4 >>5 >>6 >>7 >>8
episodeB 「公開処刑的RMT」
>>9 >>10 >>11 >>12 >>13 >>14 >>17
episodeC 「汚れた夜に銃声を」(R15くらい 注意!)
>>18 >>19 >>20 >>21 >>22 >>23 >>24
episodeD 「落ちこぼれたちのロックンロール」
>>25 >>27 >>30 >>31 >>32 >>33
episodeX 「脇役ではいられない俺たちへ」
>>34 >>35 >>36 >>37 >>38 >>39 >>40
episodeE
>>41
登場人物 >>26
- Re: 脇役にもなれない君たちへ ( No.1 )
- 日時: 2014/12/24 01:58
- 名前: みもり ◆EcL409OyWY (ID: DYDcOtQz)
目の前に妖精さんが立っている。
「だから、何回も言ってるでしょ。ないの? 青い薔薇」
ふりふりのワンピースで身を包んだ妖精さんは、至って真面目な顔で私を見つめていた。そんな午後8時。
アルバイトを始めて2日目。私はコンビニに居る怖いお兄さんやスーパーで割り込みしてくるおばさんが嫌で、この花屋でアルバイトを始めたのに。働くということはこんなにも辛いのかと、ひしひしと感じさせられた。
この妖精さんは、「困った客」に分類される。接客業においての一番の敵だ。
15分ほど前に舞い降りた、人間で言えば高校生くらいの妖精さんは、しばし狭い店内を物色したあと私のもとへすたすたとやって来た。「青い薔薇が欲しいんだけど」と言い、フリルがふんだんに踊るワンピースのポケットから有名ブランドの財布を取り出す。ちらっと覗くその財布の中には、幼い風貌からは予想できないほどお札が入っていて。それにたじたじしている間に機嫌を損ねてしまったようで。
「お、お客様ぁ。青い薔薇というのは、従来の原種では、どう交配しても出来ない奇跡の存在なんです……。遺伝子組み換えを駆使して、ようやく近年できたんです。最近は一般に流通していますが、こんな片田舎の花屋では、ちょっと……」
「へぇ、そうだったんだぁ」
思いっきり怒鳴られる覚悟はしていた。最後の方は我ながら尻すぼみになっていた。しかし、この妖精さんは、奇跡の存在、と言ったところで瞳を輝かせる。私からしたらこんなところでそんな格好をしているこの妖精さんの方が、奇跡の存在なのだが。
「ねえ、私どうしても青い薔薇が欲しいの!」
妖精さんは、レジに身を乗り出す。同姓でもどきっとしてしまう。あ、こんな近くにこられたら誰でもどきっとするか。
漂うのは甘いお酒と香水が混ざったような匂い。これだけでくらりとして、倒れそう。大きな瞳に、長い睫毛。世間ではこれを可愛いと言う。先ほどとは打って変わってご機嫌になった妖精さんは、鼻歌を歌いながらレジの側にあった辞典を捲り始めた。
「入荷したら、この番号に電話してちょーだい。あ、名前? ゆの。将来の夢の夢に、あの滑り台みたいな漢字あるじゃない? あれで、夢乃!」
財布からメモ用紙をさっと取り出して妖精さん、もとい夢乃さんはレジに置いた。「それじゃあ、私これからいっちょ運動しなきゃいけないからもう行くね。バイト頑張ってね〜」と短いスカートをひらりと翻し、妖精さんは夜の街へ消えていった。去り際、私の方を見て、小さく手を振って。
episodeA 「私の小さな沈丁花」
花屋でアルバイトをする、普通の高校生。それがこの私です。
少しだけ友達がいて、少しだけ勉強ができて、少しだけ運動ができないのが特徴です。
今までの人生は、敷かれたレールの上を逸れないように、必死に走ってきました。
特別なものなんて、必要ありませんでした。他の人と一緒なら、それで良かったのです。
それが、私です。
- Re: 脇役にもなれない君たちへ ( No.2 )
- 日時: 2014/12/16 20:07
- 名前: みもり ◆EcL409OyWY (ID: XnbZDj7O)
「エリカちゃん、お願い! 今日だけ委員会の仕事代わってくれないかな〜。実はあたし今日彼氏と二ヶ月記念日なの。お願いっ」
退屈な授業が終わり、次の時間の準備をしている時、普段話さない子に唐突に声を掛けられた。
手を合わせてお辞儀しているのは、同じクラスの皆木さんという女子生徒。顔は可愛い性格は良い頭は良いの三拍子揃った人だ。私はあまり話したことはないが、悪い噂は聞いたことが無い。
人気者は日陰者に疎まれるとよく聞く。
日陰者はねちねち人気者を叩く反面、人気者は日陰者にも、平等に優しい。私はどちらかというと大人しいので、付き合う友人たちも目立たない人が多い。付き合っていく上でそれは薄々気付いていた。
彼女達の人生は、彼女達が主役だ。しかし私達はどうだろう。人を妬み、人を僻み、上に嫉妬して下を貶して。私達の人生は、私達が主役であるべきなのに、周りばかり見ているのは、何故なのだろう。
私は笑顔を浮かべて、答えた。
「もちろんですっ、頑張らせていただきます!」
すると皆木さんは予想通り顔を上げた。「わぁ、ありがと! たのむよっ」と私の手を握り、明るい友達たちの輪に戻っていく。そんな彼女の背中を数秒見つめた後私は視線を机の下に戻した。
同級生相手でも敬語が抜けない自分を、変だと思いながら。
皆木さんは、保健委員だ。それもただの保健委員ではない、副委員長だ。下手な失敗は許されない。保健室に石鹸を取りに行くというだけの作業だが、私は廊下を歩きながら妙に緊張していた。
花屋のアルバイトの面接を受ける時は、もっと緊張したっけ。楽にしてくださいね、とか笑顔が素敵ですね、と言われた、優しい面接だった。
初冬の風が容赦なく窓を打ち付ける。
寒いなあ、と私は指先に息を吹きかけた。昨日花を買いに来た妖精みたいな女の子は、腕も足も露出していたが、季節はすっかり冬。学校の行き帰りにコートを着ていたり手袋をしていたりする生徒が増えてきた。
「あれっ?」
冷たい保健室の扉を開くと、そこにはいつも居るはずの保健医が居なくて。書類が雑に置かれたテーブルの横にある洗面台、いくつかのバケツにぞうきんに、カーテンがかけられたベッドが4つ。そしてアルコールの匂い。保健室というのは、小学校も中学校も高校も変わらないものだ。
「……石鹸、借りにきたんですが……」
私の声は誰もいない保健室に虚しく響く。数秒立って教室に戻ろうとした時、皆木さんの顔が浮かんできた。彼女は私を頼ってくれた、裏切るわけにはいかない。私は一人でぶんぶんと首を振る。
石鹸というのは、大抵、洗面台の下のタンスに入っている。小学校でも中学校でもそうだった。私は意を決してゆっくり近付き、コップがたくさん置かれた洗面台の前まで来て、しゃがみこむ。この中の石鹸をひとつ教室に持って帰ればいい、それだけだ。私は唾を飲み、取っ手に手を掛けた。
「失礼します」
「ひっ、ひええ!?」
突如がらりとドアが開く。やましい事はしていない筈なのに、私は咄嗟に立ち上がって振り返った。
ドアの向こうには、可愛らしい顔立ちをした大人しそうな女の子が居た。スカーフの色から察するに、一年生である。ひい、びっくりしたぁ。
「同じクラスの三好くんが朝会で倒れてから、今までずっと帰ってこないので様子を見て来いと頼まれまして」
大人しそうな彼女は、私の制服を見て先輩だと気付いたのか丁寧な敬語で話し始めた。私の奇行には気付いていないのか気付かなかったフリをしてしるのか、何事も無かったかのように保健室に入ってくる。恐らく彼女は、私のことを保健委員だと思っているだろう。
さっきは見落としたが、彼女の言葉で今更気付く。保健室の4つのベッドのうち1つは使用中となっていた。彼女は閉まっていたカーテンを開けて、「みよしくーん」と問いかける。
三好くんと呼ばれた彼は、こっちが恨めしくなるくらい気持ちよさそうに、静かな寝息を立てていた。ああ、私もこのくらいぐっすり熟睡したいです。
「はあ、やっぱり。三好くん、一週間くらい前からろくにご飯食べてないし、寝てないんですよ」
三好くんを呼びに来た彼女は、ぽすんと保健室の使われていないベッドに腰を下ろした。性別が逆だけど、眠れるお姫様を起こしに来た王子様に見えてちょっと笑いそうになる。
「来週定期試験もありますし、きっと忙しいんですよぉ。あ、でも季節の変わり目は風邪に気を付けなきゃ、いけませんね」
「そうですね。私も今日ずっと腰が痛くて。喉も変な感じなんです、風邪かなぁ」
彼女は私を見て、小さくはにかんだ。純情で清楚なイメージを与える彼女は、「三好くん、起きたら教室に行かせてください。よろしくお願いします」と立ち上がった。
彼女をそのまま見送ろうとした時、私はある事を思い出した。本当はこのまま帰しても良いのだが、律儀な彼女ならやってくれるだろうと淡い期待を抱いて、引き止める。
「あ、あのぉ! すいません! 保健室利用カード書かなきゃいけないので、名前を教えてもらってもいいですか?」
ドアに向かっていた彼女の足が止まる。
「1年2組、遠山夢乃です。遠い山に、将来の夢の夢に、あの滑り台みたいな漢字あるじゃないですか。あれで、夢乃です」
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