コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

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【完結】脇役にもなれない君たちへ
日時: 2015/01/25 03:29
名前: みもり ◆EcL409OyWY (ID: DYDcOtQz)

 「脇役にもなれない君たちへ!」


はじめまして。懲りない人です。
タイトルは長いので「にもなれ」って略します。なんか上から目線なタイトルですんません。


※ついっつぁー @iromims

※1/8 2014年小説大会3位入賞ありがとうございます。
※1/25 完結しました。ありがとうございます。(´▽`)

 1/1 参照200突破
 1/3 参照300突破
 1/5 参照400突破 
 1/8 参照500突破
 1/10 参照600突破
 1/?? 参照700突破
 1/21 参照800突破

 episodeA 「私の小さな沈丁花」
 >>1 >>2 >>3 >>4 >>5 >>6 >>7 >>8
 episodeB 「公開処刑的RMT」
 >>9 >>10 >>11 >>12 >>13 >>14 >>17
 episodeC 「汚れた夜に銃声を」(R15くらい 注意!)
 >>18 >>19 >>20 >>21 >>22 >>23 >>24
 episodeD 「落ちこぼれたちのロックンロール」
 >>25 >>27 >>30 >>31 >>32 >>33
 episodeX 「脇役ではいられない俺たちへ」
 >>34 >>35 >>36 >>37 >>38 >>39 >>40
 episodeE 
 >>41


登場人物 >>26


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Re: 脇役にもなれない君たちへ ( No.28 )
日時: 2015/01/08 19:52
名前: あんず ◆zaJDvpDzf6 (ID: 7pjyJRwL)

はじめまして、あんずと申します!

小説大会の銅賞欄から飛んできたのですが……
尊敬しました。←

整理された文章と、わかりやすい描写がとても好みです。
こんなふうに文章を書いてみたいと憧れました。 

これからも応援しています。

ではでは。

Re: 脇役にもなれない君たちへ ( No.29 )
日時: 2015/01/08 23:02
名前: みもり ◆EcL409OyWY (ID: DYDcOtQz)

>あんずさん

うわあ読んでくれてありがとうございます!なぜかこんな作品が受賞してしまい他の受賞者の方には申し訳ないです:;

文章はぐちゃぐちゃで描写もあんまりなくて、キャラクターばかりが出しゃばってるなあと自分で思ってたので、そんな風に言ってもらえるとは思わなくてびっくりです(;_;)ありがとうございます。
参考になるかはわかりませんが、こんな私の作品でよければまた読んでやってください。コメントありがとうございました!

Re: 脇役にもなれない君たちへ ( No.30 )
日時: 2015/01/09 21:17
名前: みもり ◆EcL409OyWY (ID: DYDcOtQz)

 ローソンで妹が好きそうな生チョコと、母が好きそうないちご大福と、ばあちゃんが好きそうなようかんを買って俺は通学路を歩いていた。シールは4つも溜まってしまった、これをエリカにあげると喜んでくれるだろう。降ってくる雪が、街灯の上に少しだけ積もっているのを見て本格的に冬だな、とため息をついた。俺は冬よりは春や夏や秋の方が好きだ、あの河川敷で遊べるからな。クラスの友達とは、ゲーセンに行ったり映画を見たりなんかしているが、本当は小学生みたいに河川敷で走り回る方が楽しいと思う。基本的に俺は現実逃避が好きだ。

 家の近くまでやっと歩いてきたとき、俺の学校のセーラー服を着た女子がふらふら歩いているのが見えた。ご近所さんの遠山夢乃かな、と思う。しかしあいつは天下の援助交際女なので、この時間はうるさい街でお金を探して走り回っているに違いない。しかも今日は学校を休んでいたらしい。まさかその遠山夢乃が、こんな日に出歩いているわけないよな。……と思ったが、またしても俺の予想は外れた。目が合うと、「あ、涼太郎くん! お願い助けてどうしよう」と、うまく聞き取れない言葉を口から零しながらこっちに走ってくるのは、遠山夢乃以外の誰でもなかったのであった。めでたし。

 俺の制服を掴んで、涙も浮かべて、なにかとんでもないことをやらかしてしまったかのような表情の夢乃にただならぬ気配を感じる。左手に握っていたのは白い封筒で、うっすら福沢諭吉の顔が見えた。またいつも通り援助交際してきたのだろう。俺が知る限りでは、夢乃は中2の頃から夜10時くらいに帰宅していたから、今更援助交際になんの罪悪感も感じていないはずなのに。

 約束を破っちゃったとか、裏切っちゃったとか涙ながらに話す夢乃を笑わせるためにありとあらゆる持ちネタを披露しても、夢乃は通学路の真ん中で震えているだけだった。すぐ近くの公園にあるベンチに座らせて、ココアとコーンポタージュを自販機で購入して渡すことにする。今日は出費が多いな。
 きゃあきゃあとけたたましい声ではしゃぎながら、ブランコを立ち乗りしていた小学生たちが、突然やってきた高校生に好奇の目線を向ける。

 「……ごめん、涼太郎くん。私、やっぱり辞められなかったみたい」

 こいつも主語がないので理解に苦しむな。泣いている女の子にそんなことを言うわけにはいかないので、黙ってココアを差し出すと、夢乃は無言で受け取った。
 夢乃に断りを入れて封筒の中を確認すると、そこに入っていたのは7万円。……7万円か、俺のお年玉7年分に相当する。「……ほとんど覚えてないけど、アブノーマルで、過激だったみたい」と夢乃は言う。学校を休んで何をしているんだか。

 「夢乃が援助交際してるのは昔からだろ? 今更なんで泣いてるんだよ」
 「だって、昨日辞めるって本気で思ったのに。気が付いたらホテルにいたんだよ、もうダメだよわたし」

 ココアを飲ませて落ち着いてきた夢乃は、自虐するように微笑んだ。こっちをガン見する小学生に小さく手を振って、「ああもう、小学生っていいなあ」と呟く。

 そして、ぽつぽつと語りだした。

 もともと援助交際なんて、少しもやりたくなかった。可愛い服が欲しいだけだった。ちょっと稼いだらやめるつもりだったのに、有名になってしまった夢乃の携帯には着信が絶えない。ほぼ無理矢理な形で、繰り返すにつれ金銭感覚も恋愛観もぐちゃぐちゃになってしまった、と。
 学校でも裏で陰口を叩かれ、本当の友達も居ない。家族にはもちろん言えない。唯一頼れる兄は、2年前から行方がわからない。そんな中で夢乃に優しく接してくれたのが三好で、援助交際を辞めることを提案したのも三好らしい。
 紆余曲折あった結果、過ちをもう繰り返さないように、ついでに三好にも課金をやめてもらうように、「夢乃が三好の金を管理し、三好が夢乃の金を管理する」という方法で解決したのが、昨日。

 そして今日夢乃はまた援助交際してしまったのである。

 「馬鹿かよ!」
 「……ご、ごめん……気が付いたらホテルにいたの……」

 コントみたいな展開だ。さっきまでの昼ドラでわくわくしていた自分がアホみたいに思えた。それに三好は夢乃が援助交際していることを知っていたし、夢乃も20万の課金を知っていた。つまらない。急にどうでもよくなってきた、俺は困ったときのお助けお兄さんじゃないんだからもう勝手にして欲しい。

 「お前さ、そんなんじゃまともな金銭感覚なんか一生身につかないって。意思弱すぎだっつーの」
 「……だよね、知ってるよ。問題はこれを三好くんが知った時だよ」
 「投身しかねないよな、あいつ……」
 「こ、怖いこと言わないでよ!」

 やっぱり、女っていうのは約束も守れないやつばっかりだ。はるかもそうだった、あいつは痩せたい痩せたいって呪文のように言うくせに、30分後にはポテトチップスを齧っていた。わたわたしている夢乃が、ふいに「……いいよね。私も西澤さんみたいな女の子なら、よかったのに」と言う。いや、エリカも相当変な女だぞ。医者になりたいというのも、明日になればころっと忘れているだろう。

 「……どうしよう、自分で言う勇気もないし、隠し通せる自信もないよ……」

 弱々しい声が、大好きだったはるかと被る。
 はるかは悩んだとき、すぐに薬を飲もうとした。「だってキミに迷惑はかけられないもん」と言うけれど、こっちとしては意味不明な薬を飲まれると不安になる。そして少しずつ、俺に頼ってくれるようになって、何か辛いことがあれば二人で河川敷に転がって、夕日に向かって叫んでみたり、四葉のクローバーを探したりしたものだ。そして秋がやってくるある日、はるかはなんの前触れもなく自分の学校の屋上から飛び降りて死んだ。こうやって思い返すとあっけない話だが、当時の俺はもう立ち直れないほど落ち込んだんだっけ。
 思い出すとこの場にいてもたってもいられなくなるので、なんとか忘れようとして横を見ると、また重圧に耐えかねた夢乃がすすり泣いていた。

 はるかがどんな事情を抱えていたのかは未だにわからないが、このまま夢乃を放っておけば、いなくなってしまいそうな気がした。
 俺は持っていたローソンの袋を夢乃に渡す。

 「とりあえず、今日はすぐ家帰って寝ろ。明日のことは明日考えとけばいいだろ。三好もお前と同じくらい馬鹿だから、話せばわかってくれるって。二人でまた考えてけばいいじゃん」

 我ながら無責任な言葉だったが、夢乃は袋を受け取って、ありがとう、と小さな声で言った。そして、気分転換にゲームセンターに行きたいなどと言い出した。気まぐれなやつだ、と笑いそうになるが、元気が出たならなによりだった。

 まさにあのネオン街みたいな汚れた街が舞台の、ガンシューティングゲームがあるらしい。援助交際で疲れきった夢乃にとっては最高のストレス発散みたいだ。ローソンの袋を持って、ネオン街に銃声をぶち込みに行く夢乃は、さっきよりとても頼もしく見えたのは内緒にしておこう。笑顔で手を振り、近くの寂れたゲーセンに向かう夢乃を見送った。背中が見えなくなったとき、あることに気がつく。

 「……あ、シール」

 これでは明日、エリカに怒られるかもな。小学生も帰る時間になりつつある公園を出て、「明日の朝ローソンに行く」という予定を付け足し、帰路に着いた。

Re: 脇役にもなれない君たちへ ( No.31 )
日時: 2015/01/10 18:48
名前: みもり ◆EcL409OyWY (ID: DYDcOtQz)
参照: めっちゃ陰鬱な話書いてすいません…

 どうして「はるか」という名前のやつは、学校の屋上から飛び降りようとするのだろうか。いや、こう言ってしまえば全国のはるかさんに申し訳ないな。はるかははるかでも、三好の方のはるかと俺は、昼休みの、人通りの少ない廊下で取っ組み合いの喧嘩になっていた。

 昼に偶然出会った三好に、それとなく夢乃の事を聞いてみたら、三好もなんとなくわかっていたらしい。不安そうな顔で「今日は朝から夢乃さんがおかしくて、もしかしたらなんか隠してるかもしれない」と言われたので、俺は夢乃の為にもこの前の会話を全部教えたのだ。それがまずい判断だったんだと思う。話し終える頃には、夢乃さんが僕を裏切ったんだ、だなんて言ってこの世の終わりみたいな顔をしている三好が居た。軽率な発言を控えると昨日決めたばっかりだったのにな。夢乃の援助交際依存性と一緒で、長年体に染み付いた習慣はそう簡単に消えたりしないらしい。


 「もう僕のことなんかほっといてよ!」
 「あいつはもう4年くらいエンコーしてるんだぞ、すぐやめられるわけ無いだろ!」
 「で、でも1日も約束守らないなんて絶対おかしいじゃん、僕とのことは遊びだったんだよ!」

 屋上の方へ走り出す三好を取り押さえるも、火事場の馬鹿力だとかなんかそんな感じの魔法パワーのせいで俺のほうが床に倒れ込みそうになる。それより、「僕とのことは遊びだったんだよ」か。やっぱり昼ドラじゃないか。しかし昼ドラと違うのは、屋上への鍵なんか空いていないということだった。がちゃがちゃとドアノブを回すも、ドアは微動だにしない。1年以上前とはいえ、同じ市内ではるかの件もあったからこういうところの取締はしっかりしているみたいだ。

 三好のポケットから何か落ちたのを見て、俺は咄嗟に拾い上げる。慌てて三好はその紙切れを俺から取り上げようとするけど、俺が少し腕を上げたら、三好の身長ではいくらジャンプしたとしても届かない。どうやらコンビニのレシートらしいそれを見てみると、今日の朝8時にメロンパンとカフェオレというとても美味しそうな物を買っていた。会計は5000円を超えていて……おかしい。なんでメロンパンとカフェオレで5000円もするんだよ。

 「かっ、返せって——」
 「カード代か……」

 呆れて言葉も出ない。口を開いたら反吐が出そうだ。

 結局夢乃も三好も、お互いの金をちゃんと管理する、と上辺だけ取り繕った仲良しごっこをしているだけで、裏ではこうやってルール違反を平気でする。夢乃が聞いたらどう思うだろう。いや、夢乃もこいつと同じことをしている。もう俺は人間不信になりそうだ、せっかく助けてやってるのにこいつらはなんの改善もしようとしない。
 実はわかっていた、世界なんてこんなもんだ。表面では綺麗に完結したストーリーの裏では、絶対に表では語られることのない物語が存在する。

 「だ、だって、今日からイベントが……フェスが、スキル上げが……うわあああああっ」

 号泣して俺の横を走り去っていく三好をただ呆然と見ていた。
 俺は握り締めていたレシートを床に捨て、思いっきり踏み潰す。ばたばたと騒がしい足音が遠くなっていく。

 金って嫌だな、と誰に言うでもなくでもなく呟いた。ここまで酷いと、三好のゲームデータを消し、夢乃には二度とネオン街に近寄らないように、常に見張りをつけるくらいはしないと改善は無理だろう。それか、もう病院に行くべきだ。
 もうすぐ昼休みも終わる、授業なんか出たくないな。保険室に行くことも考えたが、サボリ常連の三好や夢乃に合う可能性を考えて辞める。三好の方のはるかもこれから飛び降りを決行するのだろうか。俺はまた夢乃を慰めなくてはいけないな、なんて最高に失礼で的外れなことを考えていた。


 「……あ、涼太郎さーん! あのっ、あのですねー!」

 舌っ足らずな声が俺の名前を呼び、振り返ると笑顔のエリカが走ってきていた。「ごめんなさい、遅くなりました。遠山さんとお話していたんです」と息を弾ませて言う。そういえば、話があるからとエリカに呼び出されたんだっけか。そんなことも忘れるくらい今は放心状態だった。

 「私、昨日で花屋さんのアルバイトやめたんですよ」

 俺から少しだけ目線をずらして、エリカは言った。嘘だろ、この前始めたばっかりじゃないか。俺もバイトの最長記録が2週間なので気持ちはわからなくもないが、さすがに辞めるには早すぎだろ、毎日頑張っていたのに。
 エリカはまっすぐ俺を見て言う。

 「そして、涼太郎さんと会うのも、これで最後にするって決めたんです」
 「……は? なんでそうなるんだよ!」

 思わず大きな声を出してしまい、びくんとエリカの体が跳ねる。「あっ、ごめんなさいっ、ごめんなさい。でも、決めたことなので」とエリカは気まずそうに笑った。エリカはこうやってすぐ謝ろうとするから、優しく接することを決めていたのに、また謝らせてしまった。しかしこんな時にそんな話をするエリカもタイミングが悪い。もっと心が落ち着いている時にして欲しかった。

 「あの、私、前に医者になりたいって言ったじゃないですかぁ。それをお母さんに相談したんですけど、お母さんも私の夢を応援してくれるって言ってくれたんです。でも今の成績じゃどうしても無理で。……これから、塾に通わせてもらうことになったので、放課後は会えないんです」

 青い薔薇をお渡しできなくてすみません、とエリカはまた謝った。やめてほしい。そんなの、必要ない。
 いつもより輝いている瞳を直視出来なかった。……夢乃とか三好とか、気にしている場合ではないんだったな。俺より後輩のエリカの方が、進路を先に決めてしまうとは。さすが俺の後輩だと思う。床に落ちたレシートが俺を笑う。

 「……おう。たまには連絡しろよ!」
 「はいっ。私、絶対絶対全力は尽くしますので! 涼太郎さんも、頑張ってくださいね!」

 ああ、もう昼休みも終わりですね、とエリカは言って、俺にお辞儀して自分の教室棟へ帰っていった。頑張れなんて、なんの根拠もない言葉が痛い。俺はまだ何も決めていないというのに、何を頑張れというのか。

Re: 脇役にもなれない君たちへ ( No.32 )
日時: 2015/01/11 21:33
名前: みもり ◆EcL409OyWY (ID: DYDcOtQz)

 エリカとはあっけなさすぎる別れだった。このまま二度と会うこともない、完全なお別れだ。これからひとりで地道に勉強して、エリカは医者になって、俺は適当になんかの職に就いて、一生出会うこともないのだろうか。そんなの、はるかと同じじゃないか。生きていても会えないなら、死んでいるのと同じではないか。

 「おい、エリカ!」
 「ひぇぇ、なんでしょうっ!?」
 「……最後に、話をしよう。今日の放課後、マックな」

 決めたのが昨日なら、まだ塾は始まっていないはずだ。
 どんな話をするかなんて決めていないし、別に話なんかしなくてもいいと思う。でも、お別れくらいはちゃんとしたかった。
 今度こそちゃんと自分の教室へ向かって、階段を降りていくエリカがとても遠くに見えた。


 「……っ、じゃあなんで僕にあんな態度取ったんだよ! か、勘違いするだろ!」
 「そこまで思わせぶりなことしてないわよ! 大体私三好くんの事なんかただの友達だと思ってたんだもんっ、本当は私20歳のイケメンな彼氏がいるのよ!」

 なんでこうなったんだろうか、と思いながら前に座るエリカを見る。エリカは苦笑いして、「静かにしましょう?」と二人を止めようとするけど、三好と夢乃はファミレス中に聞こえてしまうのではないかと思うほどの大声でケンカしている。……いろいろ思うところはあるけど、どっちもご存命でよかった。また俺の周りで誰かが死なれても困る。


 放課後俺とエリカは合流し、いつものゆるい流れでマックへ——とはいかなかった。俺の期末試験の点数が平均32点だった日より、場の空気は沈んでいた。その理由は間違いなく、こうして会うのはこれが最後だからだろう。結局バンドはできなかったな。うーん、でも、エリカと走り回ったここ2週間は、音楽で例えるなら確実にロックだな。そう思ってマックに行こうとする俺を、エリカが制止した。

 「……ほら、最近異物混入とか、あるじゃないですかぁ?」

 ……ということで来たのがこのガストであるが、運の悪いことに隣の席で昨日俺に泣き付いてきた夢乃と、今日俺から泣いて逃げ去った三好が大絶賛言い争い中だった。一番会いたくなかったんだけどな、こいつら。
 そういえば、始めてエリカとマックに行った時も、隣の席で高校生カップルがケンカしていたな。ほら、やっぱり恋なんてこうなるのがオチだ。

 というか、もう三好は夢乃を、夢乃は三好を、見放してしまえばいいんだと思う。ゲーム課金も援助交際も、お互いには何も迷惑をかけていないんだから、もう全て忘れてただのクラスメイトという関係に戻ってしまえばいいのに。それができないのが、人間の恋とかいう特有の感情なのか。くっだらねえ。

 「……わ、私三好くんなんか居なくても全然大丈夫だわ。課金も勝手にすれば良いんじゃないの。だって私20歳のイケメンな彼氏が居るから」
 「で、でも遠山さん、昼間あんなに嬉しそうに三好くんのこと……」
 「うるさいわね! あんたは黙っててよ、エセ保健委員!」

 先輩に向かって失礼極まりない夢乃に、エリカは「ひ、ごめんなさい! 許してください!」と今日一番の謝罪をする。「あんたそうやって謝るけど、あんたなんかに謝られても私は全然嬉しくないし、その謝罪に価値があるとも思えないんだけど?」とでも続けそうな勢いの夢乃を止めると、三好が反論してきた。めんどくさいなあ。

 「僕だって、夢乃さんのことなんかどうでもいいよっ。夢乃さんが毎日誰とも知らない男相手に何をしてたって、別に気にしないし……」
 「でも三好くん、前に保健室で、あんなに遠山さんのこと……」
 「西澤さんには話してないです!」

 再び謝罪モードに入るエリカを見て、「お前も何も言わなきゃいいのに」と言う。でもエリカは本気で、二人を仲直りさせたいと思っているのだろう。俺からしたら三好と夢乃のケンカなんて、近所の野良猫と野良犬の争いよりもどうでもいいので、本当は今すぐにでもエリカと店を出てモスバーガーに行ってもいいのだが。

 「200万もゲームにお金入れてるくせに。ラブホの入り方も知らないくせに。テストで0点取るくせに。そんなんで、私に指図しないでよ!」
 「夢乃さんだって人の携帯勝手に見て魔法少女になりたいとか突然言い出すダメ人間じゃないか!」
 「魔法少女は私の正義なの! 生きがいなの! バカにしないでよ!」

 ……ああ、楽しそうだなあ。200万? 魔法少女? 何の話だよ。
 ふとエリカに視線をやると、鞄から問題集のようなものを取り出して、ぱらぱらと捲っていた。
 外では部活にもクラブにも所属していない中学生達が、談笑しながら帰宅している。俺はガラスのコップをテーブルに置いた。

 「ここでいくらケンカしたって、三好は課金をやめられないだろうし、夢乃は援助交際をやめられないと思うぞ」

 だから、お互い認め合って、解決方法を少しずつ考えてくしかないんじゃねーの、と言おうとしてやめた。さすがにかっこよすぎるか、俺。

 「涼太郎は黙ってろよ!」
 「そうよ、あんたには話振ってないのよ!」

 散々な言われようだな。お前らなんか俺が話を聞いてあげなければ、今頃死んでたかもしれないのに。とくに「み」が付く方。
 エリカが少し顔を上げて、「ふふっ」と笑った。

 「本当に、仲良しですよね、二人共」

 どこをどうみたら、そんな解釈になるのかわからないな。まあ、二人共対立するところもあるけれど、本質的には似た者同士だと思う。これ以上間違いを起こさない方法といえば、ずっと二人でくっついてればいいのかもしれない。なんだかんだでバカップルだよな、と言ってエリカを見ると、満面の笑顔で頷かれた。

 「……っはあ、もー、つかれたあ」
 「ですよねですよね、お疲れ様です、遠山さん」

 がたんと椅子にもたれかかる夢乃に、エリカが水を渡した。「ありがとうございます、西澤さん」と言って、夢乃はコップの中の水をほぼ一瞬で飲み干す。
 メニューにばつの悪そうな目線を向けている三好は、今日の昼はなにか食べただろうか。俺が邪魔したから昼食どころではなかっただろうな。

 「……俺のおごりでいいから、食いたいもの食って落ち着けよ」

 俺とエリカの最後の部活動がこんな形で終わるとは納得がいかないな。でも、諦めてメニューを手に取ろうとする夢乃と、それを見てほぼ反射的にメニューを差し出す三好を見ていると、別に良いかなと思った。もともと、夢乃や三好は俺のバンドに加入する予定のメンバーだったんだ。やっと4人揃ったという事だ。なにより、エリカがとても楽しそうにしている。俺もエリカも1年なら、こうやって一緒にケンカしていたのかな。

 「わあっ、涼太郎さんのおごりですか? それならですね、ええっと、私はハンバーグとポテトと……あっ、このハヤシライス美味しそう!」

 冬の太陽は、今日も仕事を終え沈んでいく。目の前ではしゃぐエリカを見ながら、俺は財布を取り出したのだった。


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