コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

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【完結】脇役にもなれない君たちへ
日時: 2015/01/25 03:29
名前: みもり ◆EcL409OyWY (ID: DYDcOtQz)

 「脇役にもなれない君たちへ!」


はじめまして。懲りない人です。
タイトルは長いので「にもなれ」って略します。なんか上から目線なタイトルですんません。


※ついっつぁー @iromims

※1/8 2014年小説大会3位入賞ありがとうございます。
※1/25 完結しました。ありがとうございます。(´▽`)

 1/1 参照200突破
 1/3 参照300突破
 1/5 参照400突破 
 1/8 参照500突破
 1/10 参照600突破
 1/?? 参照700突破
 1/21 参照800突破

 episodeA 「私の小さな沈丁花」
 >>1 >>2 >>3 >>4 >>5 >>6 >>7 >>8
 episodeB 「公開処刑的RMT」
 >>9 >>10 >>11 >>12 >>13 >>14 >>17
 episodeC 「汚れた夜に銃声を」(R15くらい 注意!)
 >>18 >>19 >>20 >>21 >>22 >>23 >>24
 episodeD 「落ちこぼれたちのロックンロール」
 >>25 >>27 >>30 >>31 >>32 >>33
 episodeX 「脇役ではいられない俺たちへ」
 >>34 >>35 >>36 >>37 >>38 >>39 >>40
 episodeE 
 >>41


登場人物 >>26


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Re: 脇役にもなれない君たちへ ( No.38 )
日時: 2015/01/23 01:02
名前: みもり ◆EcL409OyWY (ID: DYDcOtQz)


 図書館から出ると、外はもう暗くなっていた。肌寒い冬の風が吹いてくる。私はみんなが冷えないようにと、持ち歩いているカイロを渡そうとして遠山さんに止められた。「西澤さんは、お人好しなところがあると思います。もっと自分のために生きてもいいのに」と少し不機嫌そうに言われる。遠山さんはこんな事を言うが、私は少し前に比べて言いたいことは言えるようになったと思う。だって、こんな私なんかに構ってくれるみんなが居るから。クラスの友達ではないけれど、涼太郎さんも三好くんも遠山さんも、一緒にいて苦ではないし、とても良い友人だと思っている。とくにここ2週間を一緒に過ごした涼太郎さんは私を変えてくれたとっても素敵な人だ。私はこれから毎日のように塾通いになってしまうので、こうしてみんなと会うのもこれが最後。あと1時間程度の付き合いだけれど、このまま終わってしまうのが惜しいくらいだ。

 「今から河川敷に向かえばちょうどいい時間になると思うぜ。えーっと、ふたご座流星群だったよな」

 スマートフォンでなにかを検索しはじめた涼太郎さんを、背伸びして遠山さんが覗き込んでいる。「あ、涼太郎くん。今日は13日じゃなくて14日だよ」と笑う。私もその話に混ざろうとして、三好くんが居ないことに気がついた。
 急いで駆け寄っていくと、「どうしたんだよ、エリカ」と心配そうな顔の涼太郎さんに言われた。

 「と、遠山さん、涼太郎さんっ。三好くんはどこですか」
 「……え、拉致られたんじゃないですか?」

 どこの過激派ですか、と言いたくなるのを抑える。遠山さんのこの言葉はウケを狙ったのかどうか真相は分からないけれど、怖いことを言わないで欲しい。「身代金要求されたら夢乃が払えよ、お前金持ちなんだから」と涼太郎さんまで乗ってくる。

 「どうせまたあいつのことだから、俺たちに黙ってコンビニにでも行ってるんだろ。帰ったかもしれないしさ、先に行ってようぜ」

 スナック菓子に異物とか入れてたりして、と遠山さんが呟く。
 遠山さんや涼太郎さんは、人を落として笑いを取るタイプの人なのだろうか。それなら、ちょっと迷惑だと思う。私のクラスにもそんな人がいる。他人を貶すことでしか、笑いを取れないような人。少しだけ失望してしまった。

 「あの、私もう一回図書館見てきましょうか」
 「……三好くんなら図書館の人に厳重注意を受けてる最中ですよ」

 遠山さんが顔を上げて微笑んだ。……最初から、そう言ってほしい。ため息を吐いて、一気にやってきた疲労感に困憊しそうになる。遠山さんは私のような人間を躍らせるのがうまい。
 三好くんが厳重注意されるような理由には、いくつも心当たりがある。まずは借りた本を3ヶ月も延滞していたこと、次に遠山さんと一緒に本を棚から落として散らかしたこと、そして遠山さんと一緒にさっき見てきた感動映画顔負けのセリフを、図書館ではありえないくらいの大声で飛ばしあっていたこと。何を話していたのかはよく聞き取れなかったけれど、ファミレスのケンカ以上にヒートアップしてて、止めに入ろうとして涼太郎さんに「やめとけよ、お前まで一緒だと思われるぞ」と言われて踏みとどまったんだっけ。
 ……それなら遠山さんも厳重注意を受けるはずなのに。

 「あ、私ですか? 逃げてきちゃいました」

 えへへ、と遠山さんは笑う。

 「夢乃ってさ、計算高いってか、悪い意味で頭良いよな」

 涼太郎さんの言葉に何から何まで同意だ。私も遠山さんのように生きられたら、人生少し楽だったのかな。今の自分に不満があるわけではないけれど、歳下なのにしたたかな遠山さんは、私とは絶対的に違う人なんだなあ、と思わされる。

 そこのベンチに座って暇潰そうぜ、ということで私たちは一旦図書館から離れることになった。ご愁傷様です、三好くん。私は明かりが灯る図書館を見上げて、心の中で苦笑いをした。


 時刻は午後7時。スマートフォンの光がまぶしくて、明るさを最大まで下げる。ベンチに座って話をしようにも、私たちは全員学年が違うのでどうにも話が弾まない。例えば遠山さんが、「伊藤先生が昨日出した数学の問題が〜」なんて言う。しかし私と涼太郎さんは、まず伊藤先生がどんな先生かを思い出すところから始めなくてはいけなかった。沈黙が体感で5分は続いただろうか。三好くんはいつまで怒られているのだろう。親なんか呼ばれていたら流星群どころではないな。

 やっと見つけた共通の話題は、もうすぐ学校で開催される校内体育大会だった。私はテニスに出ようと思っているが、遠山さんは女子バレーに出たいらしい。涼太郎さんはきっと、どの種目からも引っ張りだこなんだろうな。遠山さんも運動神経は悪くなさそうに見える。立ち振る舞いとか、雰囲気とかそんなので大体はわかってしまうのだ。

 もうすぐ流星群が見える河川敷に向かわなくては、間に合わないかもしれない。
 そう思った時、涼太郎さんのもっていた携帯から、「どらーげない」なんて単語を連呼する歌が流れ出した。うわあ、と明らかに引いている遠山さんを一瞥し、涼太郎さんは電話に出る。その相手は私たちもよく知っている相手だった。

 「もしもし? 今お前どこに居るんだよ」

 三好くんだ、と私は遠山さんと顔を見合わせる。ふふ、と笑顔がこぼれた。受話器の向こうの三好くんは、なんだか私たちを探しているようだけれど、このベンチは図書館のすぐ前にあるんだけどなあ。やっぱりちょっとあの人は天然だ。

 『……そうじゃなくて、なんか今、西澤さんのストーカーみたいな人に絡まれてるんだけど。図書館の裏で』

 なんだよそれ、と涼太郎さんが言う。遠山さんも驚いている。そして私も驚く。
 私のストーカー、と言ったよな。私はクラスでも目立つ方ではないし、今まで誰かに後をつけられていたりとかそんな経験はない。不安が襲ってくる。三好くんが、怪我とかしていないだろうか。そう思ったときには私は立ち上がって、「様子を見てきます」とふたりに言っていた。

Re: 脇役にもなれない君たちへ ( No.39 )
日時: 2015/01/24 23:37
名前: みもり ◆EcL409OyWY (ID: DYDcOtQz)
参照: 次回+エピローグで一応完結です。ありがとござました!

 三好くんが言っていた場所は、図書館の裏。私を一人で行かせられないと判断した涼太郎さんと遠山さんが付いてくる。図書館の裏というと、あんまり人通りもない薄暗い場所だった気がする。日も沈んでしまったこの時間帯に、あんな危険な場所に行くだなんて考えただけで恐ろしい。遠山さんの行きつけのネオンが光る町にも負けず劣らずの危険スポットだな、と私は思った。

 「あっ、西澤さん。ごめんなさい、心配をかけて」

 図書館の裏の壁に寄りかかってスマートフォンを見ていた三好くんが、私に手を振っている。
 ……あれ、と思ってしまった。てっきり、大男に殴られている三好くんを想像していたから、こんなに余裕そうに微笑んでいるのが不思議だった。そして、肝心のストーカーはというと、三好くんの前に立っていた。挙動不審で身長も三好くんより少し高いくらいの男子が、私を見るなり全身で謝罪して土下座の体制を取ろうとする。それを必死で止めると、三好くんが「良いんですよ、それくらいのことをした奴なんで」と言い捨て、スマートフォンに視線を落とした。

 「おいっ、お前! エリカに何したんだよ!」

 後ろから走ってきた涼太郎さんが、今まで見たこともないくらいの眼光でその男子を睨みつける。
 私はその男子に見覚えはないし、別に何かをされたという訳でもないのだが、気味が悪いことには変わりない。涼太郎さんに「見逃してください」と青白い顔で謝りながら見上げるその男子が、少しかわいそうになってきたけれど、この人は悪い人なんだ。ほだされちゃいけないんだ。

 「さっき、西澤さんたちを隠し撮りしてたから問いただしてみたらボロが出たっていうか。どうします、西澤さん? こういうのは通報するべきだと思うんですけど」
 「……でっ、でも……」

 隠し撮りと聞いて、ぞっとした。三好くんは「カメラロール見たんですけど、もう僕もびっくりして言葉が出なかったです」と続ける。そう語る三好くんの表情に、優越感というか、人を見下したような高圧的な物を感じてしまい、私は何も言えずに黙り込んでいた。
 パニックを起こしそうな私の代わりに、遅れて来た遠山さんが話し出す。

 「……あなた、名前は?」
 「……あ、遠山さん……?」
 「なんであたしの名前知ってるのよっ」

 やばいよこの人、と言って遠山さんが後ずさる。着ている制服はコートのせいで見えないけれど、きっと私たちの青鳥高校のものではない。困っていると、涼太郎さんが「その制服あれじゃないか、中央」と言って、ぱちんと手を合わせた。涼太郎さんと同じ中学校出身の三好くんも、そういえばそうだね、と端末から顔を上げた。

 「……中央? ってこんな制服だったの? ってことはあなた中学生?」

 無言で頷いたその中学生に、遠山さんがため息を吐いた。なんだかその態度が先輩みたいだな、と思って失礼にも笑いそうになる。よかった、一応話は通じる人だったようだ。ここで暴れだすような人だったら、それこそ通報しなくてはいけない。いくらストーカー行為をしていたとはいえ警察に通報するとなると心が痛む。まだ不審そうな目線を彼に向けている涼太郎さんを差し置いて、次は私が話した。

 「あのう、どうしてこんな事をしたんですか?」
 「……」

 素直に応対していた中学生が、下を向いて俯いた。聞いてはいけないことを聞いてしまったかもしれないな、と私は密かに反省する。助けを仰ごうとして顔を上げると、三好くんはそのスマートフォンで中学生くんの失態を撮影でもしそうな顔をしているし、涼太郎さんもさっきの怖い眼光のまま睨みつけている。遠山さんだけは「大丈夫、別に西澤さんは怒ったりしないわ」と、中学生くんと同じくらいの目線までしゃがんで背中をさすっているけれど、私が中学生ならこんな怖いお兄さんお姉さんに囲まれてまともに話せるわけがない。

 そんな中、この人は何を話すのか。全員が固唾を飲んで見ていると、数秒間を置いて彼は答えた。

 「……バンド、やってるって聞いたんです。俺、青鳥高校に入ったら、音楽やりたくて、それでいろいろ調べてたんですけど……」
 「へ、」

 ぽかん、と口を開けるしかできなかった。
 いち早く我に帰った涼太郎さんと目が合う。今、バンドって言ったよな、と話す、その表情はさっきとは全然違って、おもちゃを買ってもらった子供みたいにきらきらした目をしていた。「俺たちの知名度がここまで上がったってことだぞ」と、一人で勝手に喜んでいる横で、遠山さんが私を勝手に入れないでちょうだい、と苦笑いをした。
 涼太郎さんは、彼に指をさして叫ぶ。

 「よっしゃ少年、俺がお前を新メンバーにしてやるよ! 名を名乗れ!」

 街灯の切れかかった光が、ちかちかして目に痛いな。
 懐かしいその言葉は、いつか私が花屋で言われた言葉とまったく一緒で笑いそうになった。

 「え、待ってよ。こいつ犯罪者だよ、西澤さんのストーカーじゃ……」
 「細かいことは良いの、三好くんは黙っててっ」

 遠山さんが三好くんが話しているのを遮る。中学生くんは立ち上がって、何かを言い合っている三好くんと遠山さんには目もくれず、かろうじて聞き取れるほどの小さな声で、特に珍しくもない自分の名を名乗った。

 まさか、私たちが一人の人生を変えてしまうとは思わなかった。そして彼には申し訳ないけれど、私たちはバンドグループでもなんでもなくて、ただ遊んでいるだけなんだ。それを告げようとしたけど、やめておいた。世の中には知らないほうがいいこともある。

 「……ああ。でもごめんよ、少年よ。もうすぐで俺は卒業だし、エリカは受験勉強があるんだ。まあ、そこの2人と仲良くやってくれ」
 「いつから僕は涼太郎のバンドメンバーになったんだよっ」
 「そーよ、私は放課後忙しいの、いろいろと!」

 目をぱちぱちさせて私たちを見ていた少年が、へら、とぎこちない笑顔を浮かべた。こんな馬鹿みたいなお兄さんやお姉さんを目にしたら、そりゃあ笑っちゃうよな、と思う。
 遠山さんが「時間もういい感じですよ。今から行かないと間に合わないんじゃないかな」と、腕につけている高そうな腕時計を見た。

 「あっ、あの、迷惑をかけて、すいませんでした」
 「いや、全然大丈夫だよ。やっと俺たちにもファンがついたってことだよな!」

 絶対違うと思うけど、と三好くんが吐き捨てる。その三好くんの提案で、彼の携帯に入っていた私たちの写真は全部削除された。ただひとつ、5人でカメラに向かってピースしている、いま撮影されたこの写真を除いて。


 図書館がある街の方から離れるにつれて、人がいなくなっていく。暗い道の、少し前を歩きながら、間に合いませんよと遠山さんが焦っている。時間にはちゃんとしている人なのか、それともそこまでして流星群が見たいのか。
 私は意を決して遠山さんが居る所へ走って、こう言った。

 「大丈夫ですよ、今からでも、十分間に合いますよ。……ゆのちゃん」

 えっ、と遠山さん、もとい夢乃ちゃんが足を止めた。そして、私を見て優しい笑顔を浮かべた。

 「……そうですね、エリカちゃん」

Re: 脇役にもなれない君たちへ ( No.40 )
日時: 2015/01/25 03:44
名前: みもり ◆EcL409OyWY (ID: DYDcOtQz)

 星がきらきら光っている。昔友達と寝転がった河川敷が近づくにつれて心拍数が上がっていく。
 こんな時に自転車があれば良いのにな。俺は友達と3人乗りまでならしたことがある。エリカも夢乃も三好も軽そうだからいけるか、4人乗り。肝心の自転車が落ちていないこの道は、夜が終わる向こうまで続いているようだった。
 左手には空き地、右手には河川敷が広がる道をずっと歩いていけば、俺や夢乃の家の方面に出る。この時間になると人もいないし、自転車ともすれ違わないし、車もそれほど走ってない。4人で並んで歩いていても、誰の邪魔にもならないのが、とても心地いいというか、世界すべてが俺たちのものになってしまったかのような感覚になる。

 エリカと夢乃はいつの間に仲良くなったのか、ラインを交換して楽しそうに話している。クラスでもちょっと浮いた者同士、仲良くしてくれればいいと思う。暇になったので、談笑する二人に羨ましそうな目線を向けていた三好の肩を叩くと、必要以上に驚かれた。
 きっと世間はこれを青春と呼ぶのだろう。明日の授業中にふと今日の出来事を思い出して、ぷはっと吹き出して、前の席のやつが不審そうに見てくるような、そんななんでもないこの時間は好きだ。エリカと会うのも、夢乃や三好と遊ぶのも、これが最後だからこんな感傷に浸れるのだろうか。まだ遊んでいたいのに、現実は容赦なく選択を迫って来るから嫌いだ。

 「見て、星が綺麗だよ」

 夢乃が夜空の下をくるくる回っている。こんな表情ができる人なのかと思った。
 汚れ切った夜の街で、酷い世界ばかり見てきたせいでいつも濁った色をしていた瞳が、少しだけ輝いているのが見える。「今日は5万円」だとか、「昨日は過激だったんだよ」なんて語っていた夢乃が今、流行りの服の話をする年頃の女の子のようにはしゃいでいる。
 その少し離れたところで、俺は口を開いた。

 「そんでさ、三好。どうなったんだよ、夢乃のこと」
 「……もうわかんないよ。きっと、振られたんだよ」
 「だよな。そうだよな。お疲れ」

 あの夢乃のことだから、うまくはぐらかしたんだろう。明確な答えなんか出さないだろうな、あいつなら。ただ、図書館で告白っていうのはちょっとだけかっこよかったかもしれない。案の定空気の読めないエリカが止めに入ろうとしたが、あのシチュエーションは、女子ならさっき見た映画の何倍も憧れるだろうな。ただ相手が、ゲームに20万も入れるアホじゃなければもっと良かっただろう。
 主に慰めの意味で俺よりずっと低い位置にある頭をぽん、と叩く。鼻をすする音が聞こえて、大丈夫かと二度見する。俺も彼女が自殺したときは一生分くらい泣いたから、気持ちはわかる。前でエリカと楽しそうにくるくるしている夢乃はまったく人騒がせというか、罪な女というか。

 「来年は、夢乃さんとクラス離れればいいのにな」

 強がりでも何でもない、紛れも無い本心であるその言葉が胸に痛かった。
 こっちを振り返って、写真撮りましょうよ、とはしゃぐエリカに返事を返す。


 よく星が見える場所に付いて、俺たちは腰を下ろした。もちろんベンチなんて近代的なものは置いておらず、ただ川の流れる音だけが響いている。満天の星空を見上げて、わあ、きれいだね、なんて夢乃はまだ浮かれている。

 「みなさんは、流れ星にお願いできるとしたら何を願いますか?」

 私はですねー、やっぱり医学部合格です、とエリカは夜空を見上げた。その横に居た夢乃は、「宝くじ当たんないかなあ」と呟く。お願いごとを考えたのはいつぶりだろうか、思えばけっこう俺は夢ばかり見ているようで現実主義だったみたいだ。さっきの彼のこともあったし、やっぱりロックスターだよなあ、と思って、少し考えてそれを訂正する。

 「今は就職だよな、やっぱり」
 「……だよね、3年生だもんね」

 高校生活も、残り3ヶ月ないんだ、今だってこうしている場合ではない。この夜がいつまでも続いていればいいのに。明日も朝の電車で三好に遭遇して、エリカと笑って、放課後夢乃が泣きついてくるような、そんな日常がずっと続いていればいいのに。いつか俺たちも大人になって、今抱いている夢や希望を全部潰して、死んだような目をしながら生きるのだろう。そんなの嫌だ。いつだって俺たちは、こうして青春していたいんだ。進路なんか、現実なんか、就職なんか消えてしまえばいいのに。ずっと高校生で、何をしても笑って許される学生でいれたらいいのに。なんで大人になんかならなきゃいけないんだ。

 「あ、流れ星」

 黙って夜空を見ていた三好が唐突にそう言った。慌てて俺たちも目線を上にずらすも、流れ星は既に消えていた。「三好くんって、運がいいんだね」と夢乃が笑う。夜のせいで誰の表情もよく見えないのが、今は好都合だった。

 エリカは前に進むことを選んだが、俺も三好も夢乃も、今抱えている問題の解決を先延ばしにすることを選んだ。俺は近々絶対に決めなきゃいけない大事な選択をするのだろう。三好や夢乃はこのままずるずると悪事を続けるのだろうか。俺からすればどっちも馬鹿なのだが、こいつらの高校生活はあと2年ある。2年でまたいろいろ変わっているのだろうな。全てはさっきの、あの新人ロックンローラーにかかっているのだ。責任転嫁? いやいや、とんでもない。

 どこまでも広がる夜空の下で、エリカが笑顔で何かを呟いた。俺の聴力が正常なら、「私、ずっとみんなが大好きです」と言っていた。
 どこまでも広がる夜空を見上げるだけの青春。主役になれない俺たちにはこれがぴったりだろう。結局何も変えられなかったのだから、脇役を名乗るのすらおこがましい。しかしこの世界は、俺たちに優しいようで、またひとつ流れ星が夜空を翔けていった。

 願い事は、冬の夜空の中に消えていった。

Re: 脇役にもなれない君たちへ ( No.41 )
日時: 2015/01/25 03:16
名前: みもり ◆EcL409OyWY (ID: DYDcOtQz)

   episodeE

 「——本当に久しぶりだな、エリカ。3年ぶりくらいじゃないか?」

 「そうですよねえ。あ、聞いてください。私、ちゃんと卒業できるみたいなんですよお。ギリギリでしたけど」

 「……まさかエリカが、あの大学に入るとは思わなかったよ」

 「えへ、成績は下の方なんですけど、毎日楽しいですよ」

 「ところでこのガストに来ると、あいつらを思い出すよな。三好と夢乃。元気かな」

 「おふたりとも、東京に行っちゃいましたからね。夢乃ちゃんとはたまに連絡取りますが」

 「二人は今でもケンカしてるのか?」

 「……いえ、夢乃ちゃんと三好くん、高校の2年に進級するときにクラス離れちゃって、それっきりらしいです」

 「だよな。やっぱそうだよな」

 「……なんだか、悲しいです。仲良かったのに」

 「いや、ダメだろあいつらは。離したほうがお互いの為なんだよ」

 「そうなんですか。涼太郎さんがそう言うなら、そうなんでしょうねえ」

 「医学部のくせに相変わらずだよな、お前は。……そういえば、俺今は自動車屋で働いてるんだよ」

 「そうだったんですか。自動車かあ……私、とろうかなって思ってるんです。免許」

 「免許か。エリカももう21だもんなあ。早いなあ」

 「ほんとですよ、ついこの前じゃないですか、流れ星見たの!」

 「……ああ、あの後さ、家に帰って母さんに叱られたんだよ。11時過ぎてたじゃん、あの時」

 「あれは夢乃ちゃんが『焼肉に行こう』って言いだしたのが悪かったんですよ」

 「そんな前のこと、よく覚えてるよな」

 「だって、あれが私の一番の高校生活の思い出でしたから」

 「……あんなのが?」

 「はい!」

 「お前らしいっていうかなあ……」

 「……ふふ、ねえ、あと一つ話したいことがあるんです。大学を卒業したら、籍を入れることが決まったんです」

 「……マジで?」

 「はいっ。大学の1年の頃からお付き合いしていた方なんですけど、とっても素敵で」

 「……」

 「来春からは、奥山エリカになるんです」

 「……やっぱ、3年も経つといろいろ変わるんだなあ」

 「ええ。……これも、あの時私を変えてくれた涼太郎さんのおかげなんでしょう。ありがとうございました」

 「……礼を言われるほどのことはしてねえよ。エリカの人柄だろ、それは」

 「そうでしょうか。……成人式でこれ言ったら、みんな本当に驚いてて、こっちが拍子抜けしたっていうか」

 「そりゃあ驚くわな、エリカが結婚かあ。俺も年取るわけだ、ほんと」

 「やだ、まだまだ先は長いんですよ?」

 「……そうだな」

 「それじゃあ、またいつか。奢ってくれてありがとうございました、失礼します」

 「……ああ、じゃあな」


 ————午後3時、某ファミレスにて。ダッフルコートを着た裕福そうな女性と、貧乏そうな男性の会話より。

Re: 【完結】脇役にもなれない君たちへ ( No.42 )
日時: 2015/01/25 03:28
名前: みもり ◆EcL409OyWY (ID: DYDcOtQz)

こんばんはっていうかもう朝です。一応これで完結となります。読んでくださった皆さんありがとうございました。
最初はなんでもいいから私も皆さんみたいに小説を書きたいって思って始めたのが、思えばここまで来ていました。自分の好きなものばっかり書いていた結果キャラクターが暴走してこんなことになってしまいましたが、書いている私はとてもたのしかったです(´▽`)

なんと途中で小説大会で入賞してしまうという事態(未だに信じられてないです)や、心優しい方が応援してくださったおかげで、ここまでこれたのかなあと、思っております。
エリカたちと試行錯誤しながら書いてきたこの1ヶ月はとっても私にとっていい経験になりました。
このような経験をさせていただいた小説カキコ様に圧倒的感謝。なんだか意識高い系の人みたいです。

(誰も気にしていないと思いますが)次回は、卒業をテーマにした小説を複雑ファジーで書く予定です。それとは別に、コメディ板で中短編を連載しようかと思っています。少しでもみもりの文章に興味を持っていただけたら、見に来てくれたらなあと思います)^o^(

ではではこれにて! みなさん、ほんとうにありがとうございました!おやすみ!


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