コメディ・ライト小説(新)

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フリーバトラーズ
日時: 2018/01/04 16:00
名前: MESHI (ID: sA8n45UA)

はじめましてー!

MESHI…読み方はそのまま「メシ」です、はい。

でも、そこまでご飯が好きということでも、塩にぎりさえあれば生きていけらァ!!というわけでもありません。1日3食きちんとバランスよく食べます(何の話だ)。

最近、縄跳びをはじめました。後ろとびをしていると、目に縄がバチィ!と直撃し、もう二度と縄跳びはしないと心に誓いました。開始5分のことです。

黙っていると完全に忘れ去られる圧倒的存在感のなさのMESHIがお送りします。

所々文がおかしくなったりすることがあるかもしれませんが、そこのところは生暖かい目で見守ってやってください。(MESHIは存在感が薄い故、メンタルは強いです。いくら存在を忘れられてもへこたれません。ステンレス製の心。)


この小説はオリジナルです。
そしてコメディ・異能力モノです。
たまーに作者の生活記録があります。

1話1話がちょっと長いですが、比較的サラッと読めるかなあ…と思います。

よろしくお願いします!








≪コメントありがとうございました!≫
四季さん


【追伸】

作家プロフィール作りました。書いてある小説の上の方にある「参照」から飛べます。









第1章:『ようこそ、フリーバトラーズへ!』>>1
第2章:>>30

Re: フリーバトラーズ ( No.39 )
日時: 2017/11/26 16:10
名前: MESHI (ID: LGxJAebD)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no=11655

「今度の相手はウイルスかよ…」

真っ黒な画面を覗き込む蘇比ソヒ。自分自身の姿がうつるだけだ。

「ねえねえイチゴパフェまだ!?」

「うるせえな、今作ってるだろうが。」

結局根負けしてパフェを作ることになった蘇比。

冷凍イチゴを1つ鴇の口へねじ込んで黙らせた。

「やっほほ~い!!」

突然、店の入口の扉が勢いよく開け放たれる。

扉に吊り下げられた小さなベルが激しく揺れた。

蘇比と鴇がちらっと横目でみると、そこには満面の笑みの少女が万歳のポーズで立っていた。

「あ、美味しいねこれ」

「ああそうかい」

何事もなかったように会話を続ける2人。

少女は首を捻り、外へ出て扉を閉めた。

「やっほほ~~~い!!!」

再び開け放たれる扉。

「うるせえ!扉壊れるだろうが!」

少女の頭の数cm横の壁によく研がれた包丁が突き刺さった。

「あ、あは。」

少女の笑顔が固まる。

「ひどいじゃないか!いきなり凶器を投げてくるなんて!」

「正当な理由があったからセーフだ。」

少女の隣まで来て包丁を抜いてそのままカウンターへ戻る蘇比。

「え?何、何?わたしが何をしに来たか知りたいって?」

ずかずかと店内に入ってカウンターへ進んでいく。

そこには座ると床から足が離れる、アンバランスな形の椅子が並んでいる。

「何も聞いてないよ!」

無邪気な笑顔を返す鴇。

それくらいではへこたれない少女。

鴇の座っている席に、椅子を近づけて座った。

「暇だったからさ!!」

謎のキメポーズ。蘇比がふーっと息を吐いて、何事もなかったように続ける。

「そういえば、庚はどうなった?」

蘇比がカウンターのテーブルへ細長いグラスに入ったイチゴパフェを出した。

すぐさま食らいつく鴇。

「大分落ち着いてるよ。もうすぐ目を覚ますんじゃないかな。」

イチゴを取ろうとして手をはたかれる少女。

「そうか。」

しばらく鴇がパフェを食べるのを眺める蘇比。

カウンターに放置された瑠璃のスマホが視界に入った。

「あぁ。」

蘇比が面倒くさそうに呟く。

「喜べ、新しいネタがあるぜ」

「ん?」

少女は足をプラプラさせながら蘇比を見上げた。

「次のターゲットはウイルスだってよ。詳しくは瑠璃に聞け」

「瑠璃くん?へえ、珍しいね。」

「よく分からんが、もしお前がこれを断れば一生口をきいてくれなくなるだろうな。」

「それは大変だ、すぐ情報を集めよう!」

慌てた様子で椅子から降りる少女。

さながら反抗期の娘を抱えた父親のようである。

出口に向かっていた少女がピタリと足を止めて振り返った。

「…病原体ウイルスなら、病院に行って予防接種を受けたら万事解決なんじゃないかな?」

そうに違いない、といった自信満々の表情の少女。

ポカンと口を開ける蘇比と鴇。一瞬の静寂が流れた。

「「…だめだこりゃ…。」」


Re: フリーバトラーズ ( No.40 )
日時: 2017/12/03 15:28
名前: MESHI (ID: LGxJAebD)
参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no


「さあ!!第1回…有意義な…作戦会議を始めるよ!皆席について!さあ早く!!」

「なんか一言余計なのが入った気がするよ!?」

次の日___

蘇比ソヒのレストランでそう声高々に宣言したのは少女___ではなく、瑠璃ルリである。

少女は「瑠璃くん…やっとわたしの苦労を分かって助手になる決心をしてくれたんだね…!」と涙ながらに感激していたが、勿論違う。

「さてさて…情報収集はしてきたよ、さあ読んで!」

テーブルの上に百科事典ほどの厚さの紙の束がドンと置かれた。

あからさまに嫌な顔をするトキ浅葱アサギ。ここにカノエが居たら間違いなく眉間に皺を寄せているだろう。

結局、紙の山に手を付けたのは少女だけであった。

「要はあれだろ、この『おーむ』?っていう『ういるす』?をボコボコにすればいいんだろ?」

電子機器に弱いR。

「正確にはウイスルの製作者ね。残念ながらウイルスに物理攻撃は与えられないから。」

ウイルスが3次元に存在したら殴りかかりそうな勢いの瑠璃。

朱殷は包帯の中で静かに寝息を立てている。

「ねえねえ、これたまに全く関係ない資料入ってない?」

少女が掲げるコピー用紙には『マカロン専門店、駅前にOPEN!』という丸っこい文字が並んでいる。

「あ、それ?昨日公開されたばかりの最新情報だよ。たまたま見つけたんだ。」

その紙は瞬く間に蘇比の手に収まった。

「でかした、瑠璃。それで俺は何をすればいいんだ」

チョロい……その一言が蘇比を除く全員の脳内に浮かんだ。

「ありがとう蘇比さん!」

キラキラとした笑顔を返す瑠璃。その笑顔が悪魔のように見えたのはきっと気のせいである。

「今回は情報収集がすごく重要になってくるんだ」

今回に関係のある資料と関係のない資料を選別している緋。

「半分くらい関係ないやつだな」

口笛を吹く瑠璃。妙に上手い。

「庚さんはたぶん戦闘は無理だから情報収集の方にまわってもらうよ。それで~」

「そういや庚くんあれからどうなった?」

少女の質問に思わずピクリと作業の手が止まる。

「え、あ、えっと、もう歩けてたよ。」

「うっへぇ~普通の人なら動くことすらできないだろうに。流石ね庚ちゃん!」

浅葱が感心したように目を輝かせる。

「それで~」

「ソッヒー、お腹すいた。」

「…それで~…」

「今日は何もねえよ、定休日だ。」

「…それで~!」

「おい蘇比、このペペロンチーノって旨いのか?」

「話聞いてたか、休みじゃない時に来い、倍の値段で出してやる。」

「何それ、客によって値段変えるんですか~?いいんですかそんなレストラン~?」

「表出ろこの野郎」

「いや~うんうん、庚ちゃんはやっぱり凄いわ!」

「だよねー!庚くんいいよねーー!!イケメンだしねーー!!ね、緋くんもそう思うだろう?」

「ぅぐぇっほげっほ!!」

「緋りん大丈夫?」

「…『緋りん』?」

「ZZZ…」

突然、テーブルがドスンと震えた。

「お黙りッ!!!」

鬼の形相の瑠璃。

その背後には無数のナイフやフォークが浮いており、全ての刃先が正面を向いている。

飛び上がって椅子の上に正座するメンバー。

「自由すぎるんだよ皆!発言する時は手をあげてから!分かった!?」

「「はいッ!!」」

どこかの軍隊かというほどの見事な返事。

こほん、と小さな咳払いをする瑠璃。

それから、かつてないほどの有意義な会議が行われた。


Re: フリーバトラーズ ( No.41 )
日時: 2017/12/10 15:40
名前: MESHI (ID: xDkHT39H)



「るんらら~~~ん!!ららるぅ~~~~ん!!!」

街の噴水前。

「ひゃっは~い!!るる~~~ん!!!」

蛍光ピンクのウサギフード付きのパーカーを着た男が大声で歌いながらスキップで通り過ぎていく。

時々フードから覗く赤い髪。

猫のように細い目。

キラキラ輝く笑顔。

「あ、お姉さん元気?飴ちゃんあげるよ!」

通りすがりの女性に棒付きキャンディーを掴ませる。

女性は青い顔をしながら引き攣った笑みを返した。

「さあ!今日も元気にいってみよう!!」

そのままラジオ体操を熱唱し始めた。

「うるせえ!!!」

ウサギフードに踵がめり込む。

その攻撃は茶髪の男性___蘇比ソヒからのものである。

約3時間に及ぶ『第1回・有意義な会議』をやっと終え、いつもより若干不機嫌である。

地面に倒れこむウサギフードの男___リン

「誰!?おいらの至福の時間を邪魔しないでよ!迷惑だなあもう!!」

「迷惑はそっちの方だろうがこの不審者が!!」

蘇比のワイシャツの胸元には金色の細いネックレスがかかっている。そして、耳には銀色のピアスが数個。

手には糸のように煙をあげる煙草。鋭い犬歯が覗く口元。そして柄の悪さ全開の目つき。

もう"そっち"の方にしか見えない。

「「うわぁ…」」

お互いの頭からつま先までを眺める。

「「だっせぇ…」」

どこかで見たことのあるような風景である。

燐は同じくだりを仮面男とした覚えがあったのでスルーした。

蘇比も今日はお気に入りのワイシャツではなかったのでスルーした。

「お兄さん、いきなり踵落としはやめてほしいな。」

「回し蹴りだ。」

一瞬の静寂。

「お前のような奴は口で言っても通じなさそうだったからな。」

「正解!」

舌打ちをする蘇比。

「お前なあ、なんでこんなところで熱唱してんだよ…カラオケ行けよ。」

「あのね、おいらこの前スカイダイビングしたんだ!それで楽しくて楽しくて興奮が冷めないんだよ~!」

燐がびょーんとジャンプする。

「うるせえよ…自慢したいならツ〇ッターとかやりゃあいいだろうが。」

燐は蘇比を無理矢理噴水の傍のベンチに座らせる。


___妙なのに捕まってしまった。

「あ、おいら燐。よろしくお兄さん。」

燐が袖で隠れていた手を出して握手を求めた。

渋々手を差し出す蘇比。

人々は"組"の方のような男とと蛍光ピンクウサギの男の2人の握手をなるべく見ないように足早に通り過ぎた。

すると、燐がハッとしたように口を開く。

「ねえねえ、お兄さん、変な仮面つけて今までなんで職務質問されてないのか不思議でたまらないダッサい人何処にいるか知らない?」

蘇比の頭に一瞬にして日本刀を背負った仮面男がニヤニヤ笑いながら出てきた。

Rである。

「…知らないこともない。」

脳内からピースサインを決めるRを抹殺する蘇比。

「そっかそっかー!うん、えっとね、燐っていうセンスの塊のイマドキイケイケ男子がスカイダイビング成功したって伝えといて!」

「は?」

目の前のウサギフードと『センスの塊のイマドキイケイケ男子』が一致しない。

「イケイケって死語じゃねえのか?」

大袈裟にため息をつく燐。

「っこれだから素人は…。『イケイケ』はね、一周回って今や流行語なのさ!」

そんな話は欠片も聞いたことがない。

「あ」

また手が見えなくなるまでまくっていた長い袖を戻し、ポンと手を打つ燐。

「そうそう、何かまた国が異能者に対する政策を始めるみたいだよ。」

「は?」

「なんだっけ、レベル調査かな。そんな感じのやつ。近々調査員が全国の異能者を調べるって。」

蛍光ピンクのウサギフードを被る男の言葉には説得力がまるでない。

「お兄さん達にはちょっとばかし都合が悪いんじゃない?」

蘇比の表情が固まった。煙草から灰の塊が地面へ落ちる。

「…は?」

「う~ん、過去に起こした事件だとか~、そーゆーのも調べられるからさあ~。おいら逃げ回ってるんだよね~。」

「…お前異能者なのか。」

「ま~あね!ただのしがない異能情報屋だよ!」

歯を見せてニカリと笑う燐。

蘇比はまだ疑いの眼差しを向けている。

「ふふ、信じるか信じないかはアナタ次第!」

パクり感のするセリフと共に、燐はヒラリとベンチを飛び越え、ウサギのように軽やかなスキップで人混みへと消えた。

Re: フリーバトラーズ ( No.42 )
日時: 2017/12/19 16:45
名前: MESHI (ID: xDkHT39H)


「…なんでお前生きてんだよ。」

「そんなに死んでほしかったですか?」

「別に。」

白いベッドの上であぐらをかいているカノエ。薄緑色の患者用の服を着ている。

はだけた胸元からは、薄く血の滲んだ包帯が見える。

「…なんでそんな遠くに座ってるんですか?」

「…別に。」

ベッドの反対側の病室の端にちょこんと座っているアケ

恥ずかしすぎる勘違いによる事故(事件)から立ち直れていない。

庚はそんな緋を見て不思議そうに首をかしげた。

「じゃあ一応僕の能力の説明をざっくりしておきますね。」と、包帯でグルグル巻きにされた右腕を上げた。

「僕の能力は力を強化するというより、発動する本人の体を強化するんです。…多分、落ちる時にこの強化を全身にかけたから傷が少しは軽減されたんじゃないですかね?」

他人事のように呟く庚。

「それにしても首の骨すら折れてないってどうなんだよ」

「僕もそれが不思議なんですよね…いくら強化したといっても内臓くらいぶちまけると思ってました。」

唐突にグロい話をされて声を詰まらせる緋。

「あ、」

緋がポンと手を打つ。

「何ですか?」

「私、敵じゃなくなったから。」

「?」

ポカンとしている庚を見てニヤリと笑う緋。

立ち上がって腰に手を当てる。

「そう、私もついこの前からフリーバトラーズ!」

一瞬、病室内の時が止まった。

「…恥ずかしくないんですか、それ?」

「…恥ずかしいわ。」

壁に頭を打ち付けて反省する緋。

しばらくの沈黙。

ふーっと一息して、その場をリセットした気になった庚が、メロンパンの袋を開ける。これはなぜかベッドの隣の小さな机に置いてあったものである。

その直後、携帯電話の着信音が鳴り響いた。

驚いて、再び壁に頭を打ち付ける緋。痛そうな音がした。

「もしもし」

すぐに電話に出る緋。

腕をめいいっぱい伸ばした先の手に携帯電話を握っている。

その姿を不思議そうに眺めながらメロンパンにかぶり付く庚。

「あ、浅葱さんですか?」

『そそ~、こっちの準備できたから庚ちゃん案内してきて~。』

「了解です。」

『ついでに昼ごはんに食べようと思って庚ちゃんの病室に置き忘れたメロンパンも持ってきてくれる?』

「メロンパン?浅葱さんの?」

庚が口の動きをピタリと止めて半分食べたメロンパンを見つめた。

『じゃ、よろしく~。』

「はい。」

通話終了のボタンを押そうとする緋。

『あっ!』

「わっ!」

緋が10㎝ほど飛び上がった。

庚はもうメロンパンを食べきることにした。

『アレの準備進んでる?』

「さあ?でも少女リーダーが張り切ってたんで多分大丈夫だと」

庚の耳がぴくりと動いた。

『はは~ん、了解。じゃあね~。』

通話終了のボタンを押して電源を切る緋。

「わっ」

緋の耳元で庚の声がした。

「うぎゃあああああ!!!」

棒状になって飛び上がる緋。壁に頭をこれでもかというほど打ち付けた。

「何すんだ馬鹿野郎!」

振り向きざまに背後に回っていた庚の腹にグーパンチを飛ばす。

「いや…こんなに驚くとは思ってませんでした」

緋のグーをひらりとかわす庚。緋が小さく舌打ちをした。

「ところでなんで少女あのひとが会話に出てきたんです?」

「えっ、あ、え~えへへ~。」

目をキョロキョロ泳がせる緋。

「…また何か良からぬことを皆さんで考えてるんですね、よく分かりました。」

庚が深いため息をつく。

緋はまだ目を泳がせながら携帯電話をポケットに仕舞った。

「今から病院を移るぞ、外に出る準備して。」










作者コメ:ここにコメント書くのは久しぶりです…!どうも、MESHIです。
近況報告に参りました。読み飛ばしても、本編に全く影響はございません。

年末年始は忙しいと言いますが、私はいつも通りです!いつもまあまあ暇でまあまあ忙しいです(だからどうした)!

さて、この『フリーバトラーズ』、ついこの間まで1か月に1回(大体)の更新だったのですが、これからは完全に気分で更新します!(笑)…といっても、規則性がなくなるだけで、1か月に1回のペースは大体そのままでいこうと思います。
たまに1か月に2回更新されたり、逆に一か月半ほど放置されたりみたいな事になるかもしれませんが、気長にお付き合いください。

こんな小説を読んでくださっている方、いつもありがとうございます!

Re: フリーバトラーズ ( No.43 )
日時: 2018/01/04 15:46
名前: MESHI (ID: sA8n45UA)

【番外編】お正月茶番



一同は、見慣れない部屋に召集された。

「…なんです、ここ?」

庚がきょろきょろと部屋を見回す。

床には畳が敷いてあり、扉は紙でできているようで、外の明かりが柔らかく差し込んでいる。壁には床の間まであった。ご丁寧に花が生けられている。そして定期的に中庭から聞こえる「カポン」という間の抜けた音がいちいち気になる。

「あれじゃない?あのほら、日本の。」と、瑠璃がスマホをポケットから取り出し、何やら検索し始めた。

「二ホン?」「あれだろ、寿司の。」

鴇が不思議そうに首を傾げた。その隣で寝転がって完全にくつろいでいる蘇比に、Rの蹴りが飛んだ。

「和室だろうがどう見ても。東の方にちっさい島があったろ?アレだよ。」「おいお前さっきなんで蹴った?」

蘇比の仕返しの蹴りを間一髪で避けるR。

「そうそう。これだっけ?」

瑠璃がスマホの画面に開いた世界地図を拡大した。

「それニュージーランドな。その上だ。」

Rが背後から覗き込んで拡大した箇所を訂正した。その両脇から庚と鴇と蘇比が画面を見る。

「「「…へぇー…。」」」

だからどうしたという話である。そもそも知りたいのは日本の位置ではなく、ここに呼び出された理由なのだから。

「呼び出した本人、来てないね…。」

唐突に朱殷の声がした。部屋の端の方で、包帯の山がモゾモゾ動いている。ここに来てから一度も喋らなかったので、皆その存在を忘れていた。

「そうよ、呼び出して置いてこないってどういうこと?」

浅葱が不機嫌そうに腕を組む。

「そういえば緋りんも来てないね。」

鴇が横になって転がって遊び始めた。庚も便乗して横になった。着ている黒い中国服は、和室に異様に合っていない。
その横ではRと蘇比が、無言の座布団投げ合戦が繰り広げている。

「そういえばそうね…。変なことに巻き込まれてないといいけど。」「例えば?」鴇が聞き返す。

「うーん、少女リーダーに使いっぱしられてるとか。」

浅葱がそういった瞬間、廊下側から慌ただしい足音が聞こえた。

「何だ?」

座布団合戦を中断するRと蘇比。

一人の影がふすまに映ったと思うと、その瞬間ふすまが勢いよく開け放たれた。
スパン!という音ともに、緋が飛び込んでくる。

「あら、緋ちゃんどうしたの?可愛い恰好して。」頬に手を当てる浅葱。

緋は白い着物を着ていた。金と赤の柄が鮮やかな振袖で、太い帯には大きなリボンがついている。栗色の髪は高い位置でゆるく団子にされ、金色の簪が差さっている。

「たっ、助けて!」

浅葱の背に隠れる緋。必死の形相である。

続いて、廊下から軽やかな足音が聞こえた。一緒に下手な鼻歌も聞こえる。

「緋く~ん!出ておいで~!怖くないよぉ~!」

少女の声である。その瞬間、一同が警戒モードになった。

「…何があったのかしら?」

浅葱が繰り返し聞いた。

「いや、呼び出しのメールが来たから、集合時間より10分早めにここについたんです…。そしたら少女あいつにいきなり監禁されてこんなビラビラした服着せられて…。」

「10分前?えらく張り切ったわね。」

「…10分前集合が良いかなと思って。」

ちなみに、招集がかかって時間ぴったりに全員が集まったことは一度もない。

「緋さんって意外と真面目ですよね。」

「うるさい」

庚を思い切り睨む緋。

「で、今に至ると…少女あいつの変態趣味もここまでくると怖いな。」

蘇比が身震いした。

すると、開けられたふすまから少女がひょこっと顔を出した。豪華絢爛な着物を身にまとい、ご機嫌の顔である。興奮からなのか、頬紅をつけすぎたのか、頬が赤い。

「やあ皆!ここに緋くんが来なかったかい?」

息を潜める緋。浅葱が素知らぬ顔で中庭を指さした。

「そっちの松の木に登ってたのは見たわ。」

それを聞いた瞬間、驚くべき速さで中庭へ駆け出す少女。

部屋に一瞬の静寂が流れた。

「…よーし、逃げるか。」

Rがおもむろに立ち上がって廊下へ出る。

「…そうね。」

一同は、やれやれだという表情で部屋を後にした。






一方少女は、松の木に登ったあと、部屋へ戻ってきた。

「やれやれ…いないじゃないか。逃げ足が速いなまったく…。」

しかし少女は笑顔である。

「まあいっか。いまから始める『日本のお正月パーティー』をしていればその楽し気な雰囲気に釣られて出てくるに違いない!」

天照大神作戦である。

「通販で色々日本っぽい物も買いこんだし。」

中庭に並べられている道具の数々。大型の凧や杵と臼まである。

少女は懐から拳大のクラッカーを取り出し、丁寧に閉じられたふすまを思い切り開けた。

「皆!ハッピーニューイヤー!!!」

誰もいない和室に、パン、と虚しくクラッカーの音が響いた。

「…あれ?」












作者コメ:あけましておめでとうございます!!少し遅くなりましたが、お正月番外編です(笑)戌年…( ̄ー ̄)ニヤリ


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