コメディ・ライト小説(新)

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  の甼
日時: 2019/05/28 00:20
名前: Garnet (ID: zbxAunUZ)

題名は『  の甼』です。
『の甼』ではありません。

※次回更新分は、最新レスに加筆、という形で掲載する予定です!


Contents >>


【Citizen】(おもな登場人物 隣のかっこ内は誕生日)

氷渡ひど 流星りゅうせい  (12/23)
上総かずさ ほたる (5/4)

佐久間さくま 佑樹ゆうき
柳津やなぎつ 幸枝さちえ
 >>23(本編未読の方は閲覧非推奨)

志賀しが 未來みらい
小樽おたる あずみ
すぎうち たえ
池本いけもと ゆずる
柳津やなぎつ 睦実むつみ
 >>


○ひよこ
○てるてる522
○亜咲 りん
○河童
○上瀬冬菜
(敬称略)


 2018年夏 小説大会 コメディ・ライト小説部門 銅賞
 ありがとうございます。
 これからも少しずつ、大切にこの作品を書いていけるよう、精進を重ねてまいります。

彼らがうまれた日◎2016年5月4日
執筆開始◎2016年5月7日

イメージソング
『Crier Girl&Crier Boy ~ice cold sky~』 GARNET CROW


*





 ──────強く、なりたい

Re:   の甼 ( No.1 )
日時: 2018/05/25 21:17
名前: Garnet (ID: /48JlrDe)

第1章 『ブルーアイズ・ガール』







「りゅーうーせーいっ、帰ろーや」

 帰りのホームルームが終わって騒がしくなった、少しほこりっぽい教室の中。
 自分の席である、教室のど真ん中に置いてある机の上で荷物をまとめていたら、クラスメートであり唯一の親友の佑樹ゆうきが僕の名を呼んだ。とんとんと教科書やノートを揃えながら顔を上げると、ふやけた笑顔がこっちに向かってくる。せっかく日直さんが丁寧に並べ直してくれた机を乱しながら。
 案の定、偶然にも日直である、学級委員長の真面目女子に大量の毒針を浴びせられているけど、彼はひらりと身軽にかわし、彼女を見事に黙らせた。

「……だ、男子ってほんとサイッテー!!」

 委員長の彼女が、顔を赤くしながら、長いスカートを翻して女子たちのもとへ駆けていく。
 それを見て満足したのかどうなのか、佑樹は、にっひひっ、と怪しい笑いをそこらじゅうにばらまいた。

「アイツ、もう志望高校決めてるらしいぜ? まだ2年なのにさあ。女子高なんだってよ、ケケケケ」
「気味悪いよ、佑樹」
「その言葉、そっくりそのままお返ししますーっ。いっつも無表情のお前のほうがキモいっつーの!」

 メープルシロップみたいに甘そうな太陽の光が射し込む、放課後の、自由の楽園。
 嘘とほんとの混じり合う笑顔が溢れるこの場所で、無意識に目が細められてしまう。
 リュックサックに残りの荷物を詰め込んでチャックを滑らせ、かたっぽの肩だけに掛けて薄暗い廊下へと歩き始めた。

「お、おい待てよ流星!」

 背中に聞こえる声を無視しながら足を進めること約10秒。
 階段の前に着いたところで、人混みをかき分けながら走ってきた佑樹がようやく追い付いた。
 大袈裟に息を切らしながら、僕の学ランの袖をつまんでくる。

「悪かったからさ、そんな目で見るなよ……」
「別に怒ってない」
「んー……ならいいけど」

 変なヤツ。
 かくいう僕も、こいつの前だと気が楽だ。顔色をうかがう必要もないし、互いにペースがぴったり合う。
 3階から1階へおりていき、薄暗く汗臭い靴箱にたどり着いた頃、佑樹が何気なく口を開いた。

「もうだいぶ、この街にも慣れた?」

 ぽいっと、玄関のタイルの上にスニーカーを投げると、小さく砂ぼこりが立つ。

「うん」
「まあ、前に流星がいたあそこよりは、河の水は汚ないだろうけどな」
「それは完全に、人間に非がある。あっちは上流、ここは、もう少し下れば海に出る。誰かさんたちがじゃんじゃか汚物を垂れ流してくれるおかげで、随分流れが濁ってるよ」
「耳が痛いなあ」

 確かに下水処理場はあるけど、数も少ないし、肝心の河自体にゴミを捨てる人もいるから、なかなか綺麗にならない。酷いときなんて、防犯登録シールを剥がした自転車が、ヘドロを被ってまるごと1個出てきたことがあるらしい。
 …………もうすぐ、こっちに引っ越してきて1年になる。あの町の川は、そのまま飲んでしまいたくなるくらい澄んでいた。
 上流と下流。同じ一本の流れで繋がっているのに、それはまるで別の生き物のように表情を変えてしまう。同じ川を見ているはずなのに、どうしてこんなに、ほとりの住民の性格まで違うんだろう。
 かかとに引っ掛かる靴を直して外に出ると、強い北風が吹いてきた。髪を掻き乱される。思わず、Yシャツの下で鳥肌が立つ。

「さっむ! そういえば、もう10月も真ん中過ぎたんだよなぁ」
「そうだな」
「……で、木曜日には定期テスト」
「…………そう、だな」
「今日、火、水って、全然時間がねーぞ! どうしよう!!」

 騒ぐ彼をうるせぇと小突きながら、工事中エリアを避ける為に土手へ上がる。いつもなら、今上ってきた階段の下で別れるんだけど。
 同じことを考えているのか、隣の中学の制服姿もちらほら見受けられた。
 僕は、中学校と同じ、川の北側にぽつんと建つ小さなアパートに。佑樹は、南側へ川を渡った先のすぐそば、一軒家に住んでいる。
 水に裂かれてこそいるけど、北と南とで町の名前は変わらない。逆に、南北で伝統や文化をわかり合おうと、昔から強い絆で結ばれているんだって。
 視界にくっきりと、いつも佑樹が渡っていく橋が見えてきた頃、僕の家に繋がる通りへ、コンクリートの階段が下ろされる。
 残念ながらと言うべきかは知らないけど、この辺でこいつとはお別れだ。

「じゃあまた明日な、流星」
「ああ」

 軽く手を振って、何となく、立ち止まった。
 綺麗にオレンジ色を滲ませる空へ遠くなる、黒く細い影。何だか、非現実的な世界に身を置かれたような感覚がしてくる。
 テスト勉強は順調だし、家に帰っても母親が待ってるだけだから、赤茶色のアスファルトを越えて、草の上に腰を下ろした。さっきより風が弱くなっていて心地いい。
 もっと明るければ、小説を読めるのに。
 いつの間にか、坂を下りたところの芝生を歩いている、白いワンピースの女の子を見詰めながら、そう思った。よく目を凝らすと、黒っぽいGジャンも羽織っている。
 横顔しか見えないけど、僕と同い年くらいかな。
 彼女は、肩に垂れる髪と、短めなワンピースの裾をふわりと浮かび上がらせながら、しゃがみこんだ。シロツメクサを掻き分けて、その白い花を摘んでいくと器用に編んでいく。すると、何分もしないうちに、真ん丸な冠が出来上がった。
 満足そうに微笑んで、ちょこん、小さな頭に乗せると、立ち上がってくるくると踊り出す。
 見ているこっちまで、いっしょに踊りたくなるような笑顔だ。

「ふあぁぁあ……っ」

 ……と、不意に欠伸ひとつ。
 睫毛に付いた滴を、目を瞑って手の甲で拭った直後。
 もう一度、女の子がいた方へと目をやったものの、その姿は音もなく消えていた。
 まるで夢でも見ていたみたいに。
 クローバーたちの揺れる温かそうな場所には、真新しいシロツメクサの冠だけが、眩しく光を跳ね返していた。

Re:   の甼 ( No.2 )
日時: 2016/05/10 23:21
名前: Garnet (ID: T0oUPdRb)






 きっとあれは、あの子は、ただ散歩をしていただけだ。
 たまたま学校が早く終わって、私服に着替えて、あそこに散歩に来て、花の冠を作っていたら家の人が迎えにでも来たんだ。きっとそうだ。
 …………なのに、なのに。
 来る日も、来る日も、来る日も。
 あの場所に来る度に、彼女が姿を現しては消えていく。
 しかも、毎日、同じ格好で。あの、丈の短い白いワンピースに、黒っぽいGジャンを着て。
 そんな怪奇現象じみた体験に嫌気がさして、金曜日は土手に上がらずに大回りして家に帰った。
 別に、仮に彼女が幽霊だと名乗ったとして、それを否定するようなことはしないんだけど、むしろ受け入れてあげたいんだけど、未知の存在に関わるのは本能的に駄目だ。
 僕は弱っちいから。


*




 月曜日、僕は思わず佑樹にそのことを話した。

「……毎日、同じ場所に女の子が?」
「ああそうだよ、着てる服までいっしょなんだ」
「……で、オレがいないときにその子が現れて、気が付いたらいなくなってると?」
「そうだよ」

 至極まじめに話しているというのに。隣を歩く佑樹は、バカバカしいとでも言うように目元をじとりと湿らせる。
 そして、いつもと同じように、土手の上へと続く全ての段をのぼりきったとき。

「じゃあさ、オレもそこに連れてけよ」
「えっ」
「だって、お前があんまり真剣な顔で言うんだもん。ここは信じてやりたいぜ」

 にへらっ。
 また、不思議な笑い方で僕に言う。

「佑樹……」

 ほら行くぞ!と、彼は僕の腕を引っ張って、地を這う河の流れに逆らって、土手を走り始めた。
 脚がもつれそうになりながらも、僕も走る。
 単純に、信じてくれようとするその言葉が嬉しかった。僕はいつも、誰にも信じてもらえなかったし、信じる相手もいなかったから。
 過去の嫌な記憶がフラッシュバックしかけたから、思いきり首を振って、汚いものを奥深くへ押し込んだ。

「あっ、ここだよ、ここ」

 そのまま通りすぎそうになって慌てて指をさすそこには、やっぱりシロツメクサたちが揺れるだけ。
 スニーカーをガリガリ言わせて急ブレーキを掛けた佑樹も、きょとんとしている。

「何だよ、ここって、いつもオレらが別れるとこじゃんか」
「そうだよ」

 息を切らしながら、ふたりして周りをキョロキョロ。
 この一週間で随分日の入りも早くなったようで、夕陽色は、濃く、眩しく、僕らを照らした。
 紺碧の道も、キラキラ、光を乱反射させる。

「…………やっぱ気のせいじゃね?」

 いつも柔らかい顔をする佑樹が、今日は何だか、硬くて苦い、わざわざ貼り付けてきたような笑いかたをした。
 ……下手くそ。

「じゃ、帰るよ。今日は妹と留守番なんだ」

 何も言えなかった。
 ひとことくらい何か言い返してやればよかったけど、僕は生憎、頭の回転まで遅い。
 だから、考えて考えて、編み込んだ言葉を声にしようとしたときには、もう彼の後ろ姿は橋のど真ん中。どう頑張ったって、追い付けそうにもなかった。
 情けない。

「    っ」

 もう帰ろうと思って、階段へ足をかけた瞬間。
 誰かに呼ばれたような、話しかけられたような、そんな気がして、河原のほうへ振り向いた。
 まさか。
 この角度では、まだ見えない。
 無視をするにも違う勇気が要りそうだったから、仕方なく、もう一度土手をのぼりきって身を乗り出した、ら。

「うわっ?!」

 爪先が引っ掛かって、身体が浮かび上がる感覚がしたかと思えば、赤い空と青い地がぐちゃぐちゃに混ざり合う。
 随分長い間転がり続けて、ようやく世界が静けさを取り戻したかというころ、じんじんと全身に痛みが走り出した。受け身すら取れない人だから、本当に開いた口がふさがらない。呆れすぎて顎が外れそうだ。
 身体を起こしながらすっ転んだ方向を見上げると、上の方で雑草に引っ掛かっていたリュックサックが、タイミング良く僕のいるところへ滑り落ちてきた。もう中身がどうなっているかわからない。
 リュックを引き寄せて、ぼふりと顔を埋めた。青臭いにおいがした。

「ついてないよなぁ、ほんっと」

 素直にへこむ。ぼこぼこに。
 理由なんて言いたくもない。考えただけで、軽くあの世に行きたくなる。

「ついてるよ」
「?!」

 突然背後からしたその声に、猫みたいに飛び上がってしまった。
 振り向いたら、なんとそこには例の少女。

「草がいっぱいくっついてる」

 何の気配もなく後ろに現れた彼女は、まさしく僕のお尋ね人だった。
 すらりと長い脚。レースっぽい白いワンピース。黒のGジャン。肩に垂れる、濡れるような黒髪。
 そして。
 不気味なほどに、この景色に映える、現実味のない青い瞳。
 いなくなって、出てきて、消えて、現れて、何者なの、君は。
 そっと伸びてくる手に、ふつふつ沸き出てくる恐怖が限界に達した。
 痛みなんてどうでもよくなって、無我夢中で駆け出して。走って、走って、我に帰った頃には家に着いていた。
 お風呂場で、頭から熱いシャワーを被っていた。
 わずかに濁り排水口へと流れるお湯を見つめながら、懲りもせず混乱する頭で僕は呟く。

「きっと夢だ」
 
 


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