コメディ・ライト小説(新)
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- の甼
- 日時: 2019/05/28 00:20
- 名前: Garnet (ID: zbxAunUZ)
題名は『 の甼』です。
『の甼』ではありません。
※次回更新分は、最新レスに加筆、という形で掲載する予定です!
Contents >>
【Citizen】(おもな登場人物 隣のかっこ内は誕生日)
●氷渡 流星 (12/23)
●上総 ほたる (5/4)
●佐久間 佑樹
●柳津 幸枝
>>23(本編未読の方は閲覧非推奨)
●志賀 未來
●小樽 あずみ
●杉ノ内 たえ子
●池本 穣
●柳津 睦実
>>
○ひよこ
○てるてる522
○亜咲 りん
○河童
○上瀬冬菜
(敬称略)
2018年夏 小説大会 コメディ・ライト小説部門 銅賞
ありがとうございます。
これからも少しずつ、大切にこの作品を書いていけるよう、精進を重ねてまいります。
彼らがうまれた日◎2016年5月4日
執筆開始◎2016年5月7日
イメージソング
『Crier Girl&Crier Boy ~ice cold sky~』 GARNET CROW
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──────強く、なりたい
- Re: の甼 ( No.23 )
- 日時: 2018/11/19 14:44
- 名前: Garnet (ID: LXdRi7YQ)
☆『 の甼』第2章完結まで 主な登場人物についてのまとめ☆
wikipedia並みに細かく書くわけでもありませんが、以下、本作品の盛大なネタバレが含まれているので、
□本作を未読であり、ネタバレもされたくない、という方
□まだ第2章完結まで読み終わっていない方
など、ネタバレによって支障をきたす恐れのある場合には閲覧をお控えください。
また、現時点で本編中に具体的な表現・記載がなく(これからも無い可能性あり)、わたし自身が勝手に書き加えたおまけなんかもちょくちょく出てきます。
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・基本情報
明陽町
主人公が以前住んでいた場所。大昔から山村であった。
10年前に近隣の村と合併し、村から町になる。
月美町
主人公が現在住んでいる場所。
明陽町を流れる川の下流に位置している。
町内は川を基準として北区と南区で分かれているが、両区同士の絆は昔から固い。河原の整備もきちんとされており、大きな橋も掛かっているため(自動車通行可の橋と、自転車含む歩行者通行専用の橋があるが、主人公たちはおもに歩行者用の橋を使っている)、小中学校の学区制定は、北区南区問わずにされていることが多い。
ただ、過去に、北区にあった田畑をはらって新しく住宅地を作った影響で、若干、南区は昔からの家系が多く高齢化気味で、北区は町外からやってきた者が多い傾向にある。
・登場人物
★ 氷渡 流星
月美北中学の二年生。弱虫で内気だけど、真面目で思いやりのある男の子。
町内、北区のアパートに住んでいる。
中学一年の二学期の間まではずっと明陽町に住んでいたが、父のDVによる両親の離婚を期に母親と月美町へ移住。こちらの中学には、三学期から通いだす形で転校した。部活には入っていない。
父親似ではっきりとした顔立ちだが、本人は気にしていない。
読書が趣味。家事(特に食品やお金の扱い)が得意である。
穏やかな話し方のわりには用いる言葉にトゲがあったりする。固いリアリストのようだが、言い伝えや伝説は、大人の都合よくねじ曲げられたものや嘘臭いものでなければ素直に信じる人。
彼曰く、明陽での過去を忘れたくて今のような人間になったらしい。本編中でも、体育の持久走が嫌いだと臭わせる台詞(文)があったが、後に"ほんとうの本当は、走るのだって大好きだった。"と自分に語りかけている。
★ 佐久間 佑樹
流星のクラスメートであり、彼の唯一の親友でもある男の子。基本的に表裏が無く、柔軟な性格。時折芽を出すどうしようもない幼さに悩むことがある。
南区在住。
部活には所属しておらず、放課後、途中まで流星と下校したあとは家で妹の面倒を見ていることが多い。
かなりの勉強嫌いだが、勉強しようとしない自分に多少の罪悪感はあるので、テスト数日前になってから喚き出すタイプ。
男子にしては珍しく、女子相手の口喧嘩に強い。
(追記 2018/11/19)
本編中、これまで苗字を出していませんでしたが、単に決めていなかっただけだと思います……。
★ 上総 ほたる
ある日を境に、夕方になると必ず流星たちの通学路である土手に現れるようになった、謎多き女の子。青い瞳が印象的。
彼らと同い年であるが、いつも私服姿。学校には"行かない"のではなく"行けない"らしい。
シロツメクサの冠を数分で作りあげてしまえる手先の器用さは、流星にとってのほたるの第一印象でもある。
純粋な言葉遣いで、無邪気。
出会ったばかりの頃、流星に、いっしょに人捜しをしてほしい、と頼み込むものの、その人が誰なのかも、どこにいるのかもわからないという無茶な願いだった。それによって、彼には手に負えないと判断され警察へ連れていかれそうになったこともあるが、最近は目的を思い出したようで、彼を明陽へと導いているようにも見える。
幸枝の孫。最近は彼女の家に身を置いている。
流星によると"上総ほたる"は偽名らしい……?
★ 柳津 幸枝
ほたるの母方の祖母。
北区の隅に大きく構えるお屋敷に、ひとりで暮らしている。
旧姓は藤波。
もともとは明陽村のノロ(いうなれば巫女のような血統の者)のひとりだったが、生まれ持った緑色の目や、彼女の誕生とほとんど同時に村へ災厄がしがみつくようになったことなどから、自分から出ていくという形で藤波の者たちとともに村から追い出される。
移住先の月美町でもその噂はどこからともなく広がり、ほかの明陽の者に罪はないということを少しでも解らせるため、自分の子どもが巣立つまでは周囲に愛嬌を振り撒き、その後は町民に冷たくあたるなどして自らが悪者になった。攻撃の対象を自分だけに絞るためである。
その頃の名残で、今もごく一部の月美町民、特に昔からの家の者たちには距離をおかれている。
歳の割りに動きは軽やかで若々しい。独特な訛りのあるような話し方が特徴的。
加齢とともに、幼い頃の目の緑色はほとんど消えた。
夫(つまりほたるの祖父)は、ほたるが7歳のときの冬に亡くなった。
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ここまで読んでくださった方がいらっしゃったら、とても嬉しいです。
こんにちは。『 の甼』作者、Garnetと申します。
今回は親記事に挨拶文を載せておらず、このまま完結まで特に何もなければ、折角カキコに掲載しても作者の顔が全く見えないじゃないかという結論に至りまして、このような形をとらせていただきました。
長ったらしい1ページのなかへ更に長文レスを投げつけるようなものですから、次回以降の更新分に邪魔でしたら、飛ばしてくださって構いません。
第二章完結まで物語が進行しましたが、いかがでしたか?
お好みの登場人物や場面、表現が、少しでも貴方様の心に残ることができたのなら光栄です。
このお話は、最低でも5章はある予定です。なかば『COSMOS』(現在、無期限更新停止中)のスランプから脱却したい勢いで始めたようなものですが、よくここまで来れたものだなと驚いています。軽く燃え尽きました。(果ててはいませんのでご安心を)
……最近筆がよく進むのは、秋だからでしょうか。芸術の秋だとか読書の秋だとか、言いますし、創作の秋というのも、ありかもしれません。わたしは、ほぼ毎日のように創作活動をしていますが。
次回からは、上総ほたる視点で進んでいきます。ほたるを好きな人に喜んでもらえたらいいな。
参照数の伸び具合から察するに、きっと『 の甼』の読者様は、Garnetの文章を、ちょろっとでも、以前から知っている方の割合が多いのかなと推測しております。仲間内でも、本作を読んでくださっているカキコ民は、比較的長い付き合いである人が多いです。
そう考えると、こんなわたしでも成長できているのかなと、不安半分嬉しさ半分。
自身の感情に左右されて、文章がぐらつくことは無くなったので、そこは自分に拍手です。
物語の書き方だけでなく、相変わらず長いけれど、このような文章を書くことにも慣れてきたようで調子に乗りそうなので、以上をもちまして今回の挨拶とさせていただきます。
お付き合いいただき、ありがとうございました。
『 の甼』をこれからもどうぞよろしくお願いします。
2016/10/10 Garnet
(2018/11/19 加筆・訂正)
- Re: の甼 ( No.24 )
- 日時: 2016/10/12 21:40
- 名前: てるてる522 ◆9dE6w2yW3o (ID: VNP3BWQA)
- 参照: http://From iPad@
こんばんは……お久しぶりですm(*_ _)m
Garnetの新作だー!って、ずっと思ってて「時間ある時に読んでコメントしよう」って思っていたら、全然時間出来なくて凄い時間が過ぎてしまいました(((;°▽°))
だから今も、つい最近少し余裕が出来てきてまた浮上し始めた感じであまり読めてないのが現状です(´×ω×`)
少しずつでも読んで、Garnetの素敵な文章に……なんというか浸りたいなぁと思ってます!
やっぱり本当に、去年とかまでは今では信じられないくらいの勢いで小説とかグダッグダでも書いてたのが本当に信じられない……(((;°▽°))
今は、グダグダ且つ更新ナメクジだし……(´・ω・`)
あまり時間を上手く使えなくて、ついつい他のこととかに時間費やして放置してる自分がいたなぁ……。
なんとなくカキコから遠ざかっていくような感じだったけれど、やっぱり色んな人の小説読んでると書きたいなぁ、って思って←
少しずつ、自分の今の出来るペースで小説書き始めてる最中←
知ってる人とかもどんどん減ってきて、寂しくなるばかりだけど……大先輩で尊敬するGarnetがいてくれて本当に良かったな、って思ってます!(*´▽`*)
本当にまたコメントする、とか言っていつ出来るかは分からないけど小説は読むし心から応援してます!
頑張ってね!
byてるてる522
- Re: の甼 ( No.25 )
- 日時: 2018/11/19 14:57
- 名前: Garnet (ID: LXdRi7YQ)
>てるりん様
(もうこのネタは仲いい人へのお決まりにしようかな)
コメントありがとう。久しぶり!
がーねっつの新作ですよ〜( ^ω^ )
それあるあるですよ〜( ^ω^ ) (わたしの場合それで書き専だと思われているのが問題)
部活大変だもんね。
中学の頃、ある運動部の子を端から見ててさ、そんなに走りつづけていたら、西も東もわからない砂漠にでも迷いこんで野垂れ死んでしまわないのだろうかとか、ぼうっと思ってたことがあるよ。(失礼) あんまり部活一筋なのも、もしある日突然、ぽっかりとそこが欠けてしまったときに……って。世間はそういう子供を誉め称えるものだけど、ほかに二筋三筋くらいあったっていいじゃないかって思うわ、勝手に変な言葉作り出してるけどW
母校のバレー部、県大会とかでてるりんの学校と当たってたら嬉しいな〜【スヤァの顔文字】
中学となると、通学中や休み時間にさあ執筆!っていうのができないから辛いよね。わかる、とてもわかる。
わたしは時間がなかったとき、寝る前に少しとか起きてすぐ少しだけとか決めて、スマホのメモ帳に一行だけでも書いてたりした覚えがあります。物語の構成とかは、家で宿題をしながらでも、お風呂に入りながらでも、学校で自習時間に課題を片付けながらでも、脳内同時進行で組み立てるとか。でもこれは慣れが必要だろうから、他の人はそう簡単にいかないかもしれないっていうのと、もし既にやってたら申し訳ない……
てるりんの文がぐだぐだかどうかはわたしには何とも言えないことだけど、小説を書くことが好きで、強く作家を志望しているとかいうわけでもなくて、この場所が楽しいと思えているのなら、今はそういうところで焦る必要は全く無いと思ってるよ。
あと、これは個人的な見解なんだけども、最近ネットで語彙力語彙力って言い出すの、わたしは正直、表現力が問題だと思うんだよね。語彙力って単語がゲシュタルト崩壊してきてちょっと殴りたくなる。よっ、意識低い職人芸、とか言わない!
背伸びして、自分も周りも意味のわかっていない言葉を使うだとか、ただ人の真似をするだけだとか、そんな見掛けだけの繕いなんて長くは続かないし余計成長しない。何でこうハード面ばっか……ああもう、言い出したら止まらないから止めます! わたしが偉そうに言えることでもありませんでした!
コメント返信欄を荒らしてどうする、これに対する反論レスでスレッドが荒れたらどうする!
※一庶民のただの憶測です
わかる、他の人のスレッド読んでると、創作意欲わいたりするよね〜(ФωФ)
さあ、じゅんあいらいたぁのんびりふっかt(
素敵な文章、だなんて。大先輩で尊敬するGarnet、だなんて。きみの言葉で、自分の寿命が伸びていくのが目に見えるようにわかる! ありがとうてるりん!
定期的に褒めると長持ちしますって、トリ○ツかって感じだけど、今その意味がわかったww
ほんとにてるりんは褒めるのがうまいんだから……でも何もあげられないぞ、TwitterとLINEを教えるくらいしかできないぞ(傍迷惑)
わたしもてるりんと、こうして交流を続けられていることがとても嬉しいです。
またそっちにもお邪魔するね!
これからも創作生活を続けて、頑張っていきます。
是非いつか、この作品も読んでくだしあ……
応援ありがとう!
See ya later!
(2016/10/15 原文投稿)
(2018/11/19 加筆・訂正)
- Re: の甼 ( No.26 )
- 日時: 2016/11/10 20:14
- 名前: Garnet (ID: w32H.V4h)
ときどわたしは、どうしてこの場所にいるんだろうと思う。彼の隣に、母の娘に、この家に、この町に、この国に、この星に、この宇宙に。どうして人間として生きているんだろう。
ほかの場所でもよかったはず。ほかの生き方でも良かったはず。それでもわたしはこの運命を選んだ。いつ解れて、千切れてしまうかわからないこの運命を。端からほどけかけていた脆い綱を、あの人は今この瞬間、しっかりとその手で繋ぎ留めてくれたんだ。涙が、とまらない。
彼の名をふと口にする。
薄い涙の味に混じって、儚く今にも消えてしまいそうな、それでいて美しすぎる名前が、情けないわたしの声に絡み付いて離れなかった。
「ほたるさん、君を呼び捨てられないのには、もうひとつ、別のワケがあるんだ」
聞こえるはずのない声を、はっきりと鼓膜が捉えてしまったのは、これまた運命なのでしょうか。自らの意思だったのでしょうか。
「その名前、偽物なんだよね」
気がついていたかな。わたしは何度も、あなたを呼び捨てていたんだよ。
狸寝入りに気づいたのかもしれないあなたは、祖母の呼ぶ声に弾かれるように畳を蹴り上げて出ていった。
良くも悪くも、わたしは嘘が巧くない。そのせいで、もう何人の心を傷つけたのだろう。
誰もいなくなったこの部屋の温度が、きっと3度くらいは落ちたと思う。その温度分があなたなのだと考えたら、理由のわからない生ぬるい涙が、こめかみに重なりあうようにして滴り落ちていくのがよくわかった。
「わたしは、大好きな人を、流星くんを、大切な人たちを最後まで守りたい……」
訴えかけるように言葉を紡ぎながら、重い身体をゆっくりと、起こす。
だめじゃない、上総ほたる。泣いたって、どうにもならないんだから。
首から提げた、細いチェーンに引っ掛かる金色の指輪を両手に包み込み、目を閉じた。
わたしは昔から、泣いてばかりいる。だからせめて、流星くんの前では決して涙を流すまいと努力してきた。弱いわたしから生まれ変わりたい、強くなりたい。その一心で。
「どうか、力を貸してくださりませんか」
明陽の者たちを見守り続けてくれていた、神様。
どうか、ふたつの町に、愛を。ご加護を。
第三章『ライアー・ボーイ』
「えっ、こ、こ、コロッケ?」
2番目にお風呂をいただいて、まだわずかに乾ききらない毛先をタオルで押さえながら居間に向かうと。流星くんが、おばあちゃんと一緒に、食卓に美味しそうな料理を並べていた。その中には、ついこの間見たばかりのような気がする、おばあちゃん特製の焼きコロッケも入っていたのだ。かなりの和食嗜好な彼女が、こう短いスパンでまたコロッケを作ったということにびっくりしている。
そして同時に、呑気に長風呂してしまったなと申し訳ない気持ちになってきた。入浴剤や給湯器の機種が実家のものと同じだからか、ついつい安心してのんびりしてしまったから。
「どうしたの、またコロッケ作ったの?」
「ぼっちゃんが教えて欲しいと言うもんでね。丁度材料も揃っておったし」
だぼだぼな御古のパジャマの袖をまくり直し、3人分のグラスと湯呑に飲み物を注ぎながら訊ねると、彼女は意味ありげに微笑みながらそう答えた。その意味がわからずに変な眉のしかめ方をしながら首を傾げる。わたしの知らないところで、何かがあったみたい。
「お母さんが揚げ物嫌がるんだ。だから、油が少なくても出来るやり方を知りたくて。この間ご馳走になったのがすごく美味しかったんだよ」
最後の皿にサラダを盛りながら、一番風呂を10分で終えた、見事にサイズぴったりな部屋着姿の彼が嬉しそうに言う。お母さんと喧嘩をしたのかなと察してはいたけど、この様子なら随分落ち着いたんじゃないだろうか。
おばあちゃんがわたしの背中を優しく叩いて、向かいでパイプの折り畳み椅子を広げた。わたしは、いつも彼女が使う木の椅子に座る。その隣で流星くんが座るのは、生前におじいちゃんが使っていた、おばあちゃんのよりも少し大きな椅子だ。
流星くんの横顔が薄ぼんやりと、遠い記憶のおじいちゃんの輪郭に重なる。7年前まで、彼は確かにここに生きていたのだということ。今、その彼は本当に亡くなっているのだということを、痛く実感させられたような気がした。
「いただきます」
3人で手を合わせて、少し重いお箸を手にした。合図もしていないのにぴったり挨拶が揃って、ちょっとだけ可笑しくなった。
さっきまで乏しかった食欲が、3人でテーブルを囲んだ瞬間に、柔らかい風船みたいに膨らんでいくのが不思議。大好きな人たちと一緒に食事が出来ることが、こんなに幸せなことだったんだと、久しぶりに思い知らされている。無力感と幸福感は紙一重だ。
……お母さんと、お父さんと、また、3人でこうやってご飯を食べたい。おばあちゃんたちといるのも楽しいけど、ふたりに、会いたい。流星くんがつくってくれたコロッケをゆっくりゆっくり咀嚼していたら、思わず瞼が熱をもって、泣いてしまいそうになった。
それに気づいた彼に「ごめん、不味かった?」と心配されてしまったので、わたしは、首がねじれそうになるくらいの勢いで髪をぶんぶんと揺らし、
「そんなことないよ! 今まで食べたどんなものより、美味しい!」
そう言って、涙なんかに負けないくらいに、笑いました。
- Re: の甼 ( No.27 )
- 日時: 2016/11/10 20:13
- 名前: Garnet (ID: w32H.V4h)
すっかり冬らしくなった今日も、透明な夜空で、お星さまたちは風前の灯というように揺れて夢幻的な景色を作り出していた。
生憎わたしは星座にはとんと詳しくなくて、理科の授業で習うような最低限のものしかわからない。今も、オリオン座とやらは何処に浮かんでいるんだろうと、暗闇の中に好き放題殴り書きしている最中だ。
隣の部屋でも、彼の空を見上げている気配がする。少しだけ窓を開けているらしく、時折わたしたちを隔てる襖がかたかたと音を立て、冷気が足元で無遠慮にさざ波を立てている。
寒いとは思うけど、窓を閉めるように要求するつもりはない。頭が冷えて、何事に対しても冷静に思考を働かせられる気がするから。同じ理由で、冬という季節自体も、夏よりはずっと好きだ。
そんなことを考えていたら、庭の向こうの、まだ電気が点いて明るい一軒家の窓際にいる人と目があったような気がして、考える間もなく、自分を隠すようにカーテンの裏に飛び込んだ。時間差を作って、頬がかっと熱くなる。
何でこんなことするんだろう。
埃臭いそこに顔を埋めて、情けなくなる。びくびくしながらそっと、外を覗いてみたけれど、さっきの部屋の電気は消えて、遮光カーテンも閉めきってあった。たぶん眠ったのだろう。力ない溜め息が、部屋の中に思ったより大きく響いた。
昔からこう。いつもこう。要りもしない緊張で凝り固まって、よく周りの目を気にするし、そのせいか人と上手く接することもできない。仲良くなりたい、誤解をときたい、ふつうに生きていきたい……。その想いは人並みにあるはずなのに。
「あ…………えっと、ほたるさん、まだ起きてた?」
襖の向こう側から、彼の穏やかな声がしみだしてきて、思わず肩がはねてしまった。
「うん……。なんか、眠れなくて」
応えながら深呼吸して、くしゃくしゃに乱れた髪を直そうと、姿見に掛かった桃色の布を引いて下ろす。それと同時に、そっと窓を閉める音が聞こえた。
布が畳の上に、月明かりが銀色の表面に滑り込む。
「僕も」
後ろに声を聴きながら、鏡の中のわたしと、目を、合わせ、て、て。て?
そこで、ざわめき、せめぎ合う頭の中が、瞬間冷凍されたように働かなくなるのを感じた。意識が身体から抜け落ちてしまいそうだ。
──────目、目が、目の色が、青い。何で。何で?
がたん。
音が立つのを気にも留めず、鏡の枠に力いっぱい両手でしがみつい……てしまいそうになったところで、我に帰った。何週間か前の朝にも、洗面台の前で同じようなことをやらかしたというのに、何をまた驚いているのか。
開けるよ、と彼が続け、鏡の中で薄い壁が開いて温度差のある空気が流れ込んできた。わたしは何事もなかったかのように、猪毛のヘアブラシで大雑把に肩まで垂れる髪を整え、爪先を上手く使って回れ右をする。
振り向いた先に佇む流星くんは、いつもとは違う面持ちに見える気がする。瞳への光の入り方が、まっすぐで、迷いがない。けれど、比較的彫りの深い顔のあちこちに厚塗りの陰が重なりあって、逆に、不安が大きくにじんでいるようにも見えた。
「どうしたの?」
「……あの、話したいことがあって」
どちらともなく窓際に腰を下ろし、向かい合った。あの河原で、何度もそうしたように。
風に伸びた雲が退けて、澄んだ月明かりがわたし達をそっと包み込んでいく。
夢の中みたいだと思った。ついこの間まで、夕焼けに染まる世界に閉じ込められていた"わたし"が、真珠色の月光も浴びることができるようになったのだから。
「途切れとぎれになってでもしてくれた、幸枝さんの話を聴いてて、思ったんだ。これは、今、僕らがやらなくちゃならないことなんだって。そうに違いないって。今を逃したら、また同じことが繰り返されると思うんだ」
「……流星くん」
思い出す。たくさんの色。
生まれ持った色、家族の色、初めて目にした色、心惹かれた色、ふたりだけの色、苦しい色、切ない色、ずっと前から背負っていた色。
わたしの世界の色が、鮮やかに、豊かになったのは。間違いなく、あなたに出逢ってから。
「ねえ、ほたる」
ああ、流星くんなら、どんな星座も一瞬で見つけちゃうんだろうな。
「夜が明けたら、ふたりだけで明陽に行こうか」