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十二支牢獄Story
日時: 2011/04/29 22:14
名前: 叶嵐 ◆RZEwn1AX62 (ID: c5zRNdeN)

ハジメマシテ、コンニチワ。
スレを見てくれたことにマジ感謝です。


いつ挫折するか分からないような真の駄作者につきあってくださる方のみ、お残りください。

【注意書き】
1.この作者、挫折経験アリ
2.荒らし駄目・絶対!
3.コメ大歓迎
4.意味不(←ここ重要
5.多分グロアリ…?
6.更新亀以下(←ここも重要

  では、これより始まりますは一人の少女と十二人の囚人の話に御座います。
  お気に召されれば光栄に御座います——————


※お客様※
  ◆アキラ様  ◆*+。弥生*+。様  ◆神凪和乃様  ◆腐女子まん*羽菜。様  ◆ソナー様

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Re: 十二支牢獄Story ( No.56 )
日時: 2011/04/29 22:16
名前: 叶嵐 ◆RZEwn1AX62 (ID: c5zRNdeN)

18話『みんな、ひどいよ』




ゆっくりと、ゆっくりと雲が晴れ、辺りが明るくなってくる。
それに連れ、少しずつ相手のことが確認できるようになって来た。

「死ね!」
「しよう、どけ!」
「……疑。 ぎゃぁあ?!」

間一髪。 数秒前に自分の顔があった場所を、犬の日本刀が通る。
さぁーっ、と血の気が引くのが解る。 頭の中で獅羊の『羊』が騒ぎ立てる。

【逃げようよ! 死んじゃうよ! もう止めてよぉ!!】
……煩い。
「……黙。 おらぁあああ!!」

右手を振り上げ、アキラに襲いかかる。
アキラは、これを拳銃で受け止める。 刃が食い込み動きが止まる。
次に、警棒を振りぬくがこれを俺は左の手の甲で止める。
俺の鉤爪は、腕の所で留める形になっているので手の甲でも防御が出来るようになっている。

「……笑。 どうした。 随分と軽いなぁ、おいっ!」
「げぁっ?!」

一気に両手を振りぬく。 当然、アキラの両手もそれと同時に外側に弾かれる。
そこを狙い、顎に膝蹴りを喰らわせる。
アキラの顔は上を向く。 その後、俺がここでしゃがめば……、

「もらった……!」

犬が飛び出し、アキラの上に馬乗りになる。
日本刀を両手で高々と上げる。 その時、完全に雲が晴れ日本刀が煌めく。

「ぐっ、このっ……!」

アキラが犬の下で暴れるが、もう遅い。
犬の口角が弓なりに上がる。

「やめッ、がぁあああ!」

煌めく刃がアキラの右腕に深々と突き刺さった。
刀に、犬に、返り血が飛ぶ。
犬の目は、獲物をしとめた狼の如く、歓喜に満ちていた。

「……疲。 やったな、犬……ッッ!!」
「が、はっ……」

動かなくなったアキラを確認し、犬に近づく。
その瞬間、

ドス黒い殺気が全身を駆け巡る。 俺は、その場で動けなくなる。
それと同時に犬が数メートル後ろの木に激突する。 何が起こったか、全く見えなかった。

「……いたいよ」
「ヒッッ!!」

一言。 一言だけ発せられた言葉に膝が笑いだし、その場に尻もちをつく。
何もしていないのに全力疾走した後のように息が切れる。
膝だけではなく、全身が震えだした。 底知れない恐怖に完全にのまれてしまった。

「ヤバイヤバイヤバイ!!!」
【逃げよう、早く! 嫌だよ、恐いよッ!!】

出来るなら、俺だって今すぐ逃げ出したい。
………出来るならだ。

「ひどいなぁ……」
ソイツは腕に刺さった刀を軽々と抜き去ると、後方に無造作に投げた。
その後、ゆっくりと立ち上がる。

「……」
静かに。 こちらに視線を向ける。
いまだに血が流れ続けている腕など気にも留めずに、こちらへ踏み出す。

ゾクゥッッッ!!!

頭の中でアイツが酷く騒ぎ立てる。 もはや、呼吸がその機能を果たしていない。
足に力が入らない。 熱くもないのに汗が頬を伝う。 酷く寒い。 怖い怖い怖い怖い怖い!!!
走り出すなんて簡単だ。 足に力を入れて……、解らない。 そもそも、力の入れ方ってどうやるんだ? 俺は今までどうやって歩いていたんだ?!
頭の中は考えようとすると、次々にその思考を手放しいていく。

「あ、…・…ヒッ…・…!」
「いたいってば!」

アイツは、警棒を振り上げる。 その動作自体は酷く遅い。
逃げようと思えば、楽勝だっただろう。 ……だが、それは俺が普段の状態なら、だ。
全身が震え、力の入れ方が解らなくなった俺は、ただその動作を目で追うしかできなかった。

ガツッッッ!
……最後に見たのは、近づいてくる警棒だった。



・・・

鈍い音の後に、何かが倒れる音がした。
名前が思い出せないが、確か【十二支】のチビがヤられたか。

……油断……したのかもしれない。
アイツの力が抜けていくのを感じた。 まさか、まだあそこまで力が残ってたなんて思わなかった。

「……油断、してたんだな」
自嘲気味に呟く。 視界がはっきりとしてくる。
全身が痛い。 さっき背中を激しくぶつけたせいで、鈍く痛む。
出来れば、あまり動きたくはない痛みだ。
……ふと思ったが、今の俺には武器がなかった。
「……これが、形勢逆転、と言うのか」

視界の端に捉えた……何だったか、【十二支】の誰かがピクリとも動かない。
死んだか……?

「どこみてんの……?」
「ッ!」

髪を掴まれ、無理矢理違う方向を向かせられる。
目の前にはアイツの顔があった。

「あのさ、おれ、うでがいたい」

感情のない、虚ろな目。 気味の悪い目だ。
「あのさ、おれ、うでがいたい」

一言もしゃべらない俺を数秒見つめる。 その後、少し首をかしげ、無造作に投げる。
「ッうぁ」
軽く投げられたはずなのに、全身に鋭い痛みが走る。
しゃがんでいたアイツは、立ち上がり俺を脚で転がす。 俺は仰向けになる。
痛みに息が詰まる。 意識が遠のきかけるが、辛うじて保つ。

「みんな、ひどいよ」

アイツは、徐に片足を上げ、振り下ろす。 足の下には俺の腹がある。
無心に。 ただ無心に、俺の腹を蹴り続ける。

「がっ、あっ、ゴホッ!!」

蹴りつけられるたびに、肺の中の息が出ていく。
その時、
                       ボギ。 メギ、バギャン。
「ゥアッッ!!」
骨が折れた。
それでもアイツは、蹴り続ける。
息が苦しい。 既に感覚は麻痺し、痛みもない。
体が寒い。 くそ……。 もう、無理……か?
瞼が、重くなる。 体から力が抜け、意識が拡散し始める。
が、

「犬さん!」

「!!」
はぁ? 幻聴か? 聞こえるはずのない声が聞こえた…気がした。
だが、その声のおかげで再び意識が覚醒する。
アイツが足を振り上げた瞬間、俺は最後の力で横に転がる。
うまく、茂みの中に隠れられた。
地面に這いつくばる形になったが、しまった。
折れた骨が肺に突き刺さった。 口中に一気に鉄の味が広がり、口から吐き出された赤い液体が地面にしみ込んでいく。

くらくらする。 どちらにしろ、駄目だったか?
アイツは、足元から突然いなくなった俺を探し、辺りを見回している。
呼吸がうまくいかない。 息を吐くとヒューッ、ヒューッと、空気が抜ける音がする。

「よぉ」
「!」

———茂みから現れたのは、俺の嫌いなアイツだった。

Re: 十二支牢獄Story ( No.57 )
日時: 2011/04/30 00:58
名前: 叶嵐 ◆RZEwn1AX62 (ID: c5zRNdeN)

19話『あーあ、ボロボロじゃん』



茂みの影から聞こえた声。
静かに、影から現れるその姿は、俺の嫌いな奴だった。
「変な所で逢ったな。 てか、何その体」
体さえ動けば、コイツを迷わず切り刻みたい。 だが、残念なことに全く指一本動きはしなかった。
「ダイジョーブ? フハッ! 面白れー。 あーあ、ボロボロじゃん」
人の体をじろじろと眺めまわし、一人笑っている。
藤黄の短い髪に、黒鳶色の目をした【十二支】。

「ぁ………ら、ぇ……ッ」
「あぁ〜ん? 聞こえねーんだけど。 ……てか、お前俺の名前覚えてたんだ。 うわ、珍し!」
ムカつく。 だが、何もできない自分の腹立たしい。 クソッ、やっぱ最低な奴だ。 コイツ。
マジで殺したい。
視線で人が殺せないのが残念でならない。

「っと、そんな目ぇすんなよ。 恐いだろ?」
「っし、……ぇ……!」
「言えてない言えてない。 で、マジで誰よ。 これヤったの」
螺猿のへらへらとした雰囲気が一変し、目が据わる。 たぶん、怒っている。 コイツは時々、意味が解らない行動をとる。 嫌いなはずの俺をやたらと構う。 意味不明。 理解不能。 そういえば、前に看守に半殺しにされた時に現れたのもコイツだった。 他にもあった。 メンドクセェ。 それでも、この状況を打破するにはコイツの力が必要なので眼を向け、相手を知らせる。

「何、あのキレ方。 何したんだよ。 てか、獅羊までいんじゃん。 ったく……」
木の陰からアイツを見た螺猿は、はぁ……と溜息交じりに呟く。
「じゃ、ちゃちゃっとヤっちゃいますか」
最後に俺に余裕の笑みを向け、飛び出していった。

……俺は、少し眠ることにした。



・・・



看守の死は、すぐに監獄全体に広がった。
数日、女子棟は死亡した看守の噂で最高潮に盛り上がった。
皆真実を知るはずもないので、すべて出鱈目の憶測だったが。

因みに、私達は看守の巡回の直前で牢の中に戻ることが出来た。
ナイちゃんが無言で私に抱きついてきたとき、微かに震えていた。 勝手なことをしたことを後悔した。

数週間後、看守の死という事件も流れ去り、皆、元通りになった。

「オイ、そこのガキ!」

いつもの労働の時間だった。 看守が私を呼んだ。
「な、何ですか……?」
「テメェ、今すぐこれいっぱいの水汲んでこい!」
押し付けられたのは、抱えても両手がつくかつかないかぐらいの大きさのバケツ。
これにいっぱいの水と言うと、重さが尋常じゃないのではないだろうか……。

「どうした、おら、さっさと行け!」

反論できるはずもなく、監獄唯一の井戸へと向かう。
普通に歩くと20分ほどかかる。 気が滅入る。

「はぁ……」

これで何度目かの溜息をつく。 ついでに、井戸にもついた。
今時、井戸なんてあるものなのか半信半疑だったが、本当にあるものだ。

「初めて見たかも……」
「何を?」
「え? きゃぁっ?!」

初めて見た井戸の底を覗いていると、後ろから声をかけられた。 その後、手が滑って危うく落ちかけたが、誰かに優しく引き戻される。

「あ、有難うございます……」
バクバクと鼓動を打つ心臓が落ち着くのを待ち、振り返る。

そこには、二人の少年が立っていた。
一人はケイトさんと同じくらいの身長の少年。 どちらかと言うと青年、かな?
もう一人は、私と同じくらいで俗に言う童顔の少年。

「いえいえ、どういたしまして」
どうやら、私を引き戻したのはこの長身の青年らしい。
「君って見たことないけどさぁ、もしかして新人さん?」
「え、あはい」
最初に話しかけてきたのはこの少年かな。

「あ、じゃぁ自己紹介しないと! 僕は第一区画【十二支】『鼠谷』だ。 よろしくね!」
「あ、うん。 よ、よろしく………」
「で、こっちが同じく第二区画【十二支】『牛裏』だよ」
「よろしくお願いします」
「あ、はい。 こちらこそ……」
「それで、君は?」
「あ、私はレイトです。 『桜宮 レイト』」
お互いに握手を交わす。

「ところで、レイトさん。 あなたはもしかしてこれに水を……?」
「あ、はい。 看守の人にいっぱいに入れて来いって言われたので」
「何なんだよー、その看守! ……なぁ、牛裏。 手伝ってやローゼ!」
「いいですね。 よろしいですか? レイトさん」
「い、いえいえっ! そんないいですよ!!」
「えーんりょしないの! ほら、早く!」

三人で手分けして作業すると、ものの数分で終わった。 だが、ここからが勝負だ。
この大量の水を零さずに戻らなけれならない。

「自分が持ちますよ」
「え、でも牛裏さん……!」
大丈夫です、と軽々とバケツを持ちあげ、歩き出した。
その後を鼠谷君が付いていく。 二人が並ぶとまるで兄弟のような雰囲気だ。

その後、少し話してみるとやはり鼠谷君は私と同じ年だった。 牛裏さんは、物知りだった。
「これでも、飛鳥には劣るのですがね」
そう言って苦笑していた。 飛鳥……?? 誰だろうか。
「飛鳥っていうのは、この監獄1の物知りで有名なんだよ!」
「そうなんだ。 やっぱり二人の知り合いだから、その人も【十二支】なの?」
「ええ。 そうですよ」

この二人といると、自然と口調も和らぎ久しぶりに敬語を使わないで話したかもしれない。
雑談をしながら戻る道は、行きとは違って早く感じられた。

「ここまでですね」
「本当にありがとうございました。 助かりました」
「いーのいーの! ね、牛裏!」
「ええ、ではここで」

そう言って彼らは去って行った。
私は残り少なくなった道を重いバケツを汗だくだくで歩ききった。
その姿を見た看守は動揺を隠し切れていなかった。 まさか私が出来るとは思わなかったのだろう。 だが、実際一人では無理だったろう。 やはりあの二人のおかげだ。


———飛鳥さんっていう人にも逢ってみたいなぁ……。

Re: 十二支牢獄Story ( No.58 )
日時: 2011/05/04 21:20
名前: 叶嵐 ◆RZEwn1AX62 (ID: c5zRNdeN)

20話:『感謝しろよ?』




痛い。
ズキズキと鈍い痛みが全身を包む中、少し動いた程度で派手な音を立て軋むベッドの上で
俺は目を覚ます。
天井が見える。 薄暗く、壊れて役目を果たさない電球がぶら下がっている。
どこかの牢獄だろう。

腕を動かすと、ジャラリという音と引っ張られる感覚がする。
手首にひんやりとした硬いもの感触からして、また繋がれているのだろう。

「……首にまでするのか」
「何がじゃ」

錆ついた扉を不快な音を立て開けて現れたのは、【十二支】の一人だった。
手には薄黄色に汚れた包帯が握られていた。
「何日たった?」
「今日か? お前さんがここに運ばれてきてから……あー、どれくらいだったかのぉ」
「はぁ……、もういい。 どうせ聞いたところで意味はない」
「わかっとるのなら聞くな」
「で、これはどういうことだ」

目の前にいる相手を睨みつけ、腕と足を動かす。
手錠、足錠のせいで一定の所まで来るとそれ以上動かなくなる。

「首にまで錠付けやがって。 何のつもりだ、貴様」
錠は自分の首より少し大きめのサイズだが、息苦しいに変わりはない。
外せ、と抵抗してみるがアイツは静かに俺に近寄り、胸を軽く叩く。

「ッグ……!!」
途端に全身に激しい痛みが駆け巡る。 力が抜けベッドに身を沈める……と言っても、ただ枕代わりに包めた囚人服にどこから持ってきたのかわからない薄汚い布1枚の貧相なベッドだが。

「お前さんの全身の骨は今、イカレとるんじゃ。 大人しくせい」
「……チッ」
看守如きにここまでの体たらく。 クソッ、胸糞悪い。

「ウーッス、飛鳥ぁー薬草とって来たぞー」
「……はぁ」
扉から現れたのは、螺猿としようだった。

「あ、犬起きたんだ。 てか、今溜息ついたろ。 失礼な奴だなーお前」
「煩い」
「あーあ、全くここまでせっかく運んできてやったのになー。 そんな態度でいいのかなー」
「キモイ」
「苦労したんたぞー。 なんせお前と獅羊二人かついで、そっから飛鳥探して」
「うざい」
「暴れるお前をベッドに繋ぐのだってきつかったんだぜー?」
「これやったの、テメェか!」
「てかお前さぁー、死にかけてまだ無意識に抵抗するってどんだけだよ。 不死身か」
「黙れ」
「押さえつけようにも、下手に馬乗りとかになったらお前死んじゃうかもジャン? 本ッ当、骨が折れたぜ」
「……」
「それから、飛鳥の代わりに薬草探しに行ったりさぁ。 疲れたんだぞー、感謝しろよ?」
「テメェ……いっぺん死ね!!」

思わず体を起こそうとすると、激しい眩暈と痛みに襲われる。

「……呆。 螺猿さん、からかって遊ぶの止めましょうよ。 はい、頼まれてた薬草」
「おお、すまんな。 さてと、いっちょ頑張るとするかのぉ」

・・・



数週間前。

看守アキラと二人の【十二支】犬と獅羊の交戦結果、アキラの圧勝だった。
俺が行くまでは。

突然の爆発音と少女の悲鳴。 頭に浮かんだのは、大嫌いな奴と先日知りあった少女の顔だった。 嫌な予感がした。

直感に従い、走りついた先にいたのはボロボロの犬だった。
地面に這いつくばり、既に虫の息のアイツは俺の姿を見ると途端にしかめっ面になった。
そこだけはいつも通りのアイツに半ば安心しつつもついからかってしまう。

【十二支】最強に近い犬をここまでいたぶれる奴はそう多くはいない。
木の陰から見た姿はやはり、看守のアキラだった。
それの近くに獅羊が倒れているのが見えた。 【十二支】は大体の奴が余程のことがない限り死ぬことはない。 間に合いさえすれば大丈夫だろう。

さて。

「じゃ、ちゃちゃっとヤっちゃいますか」
その時見たアイツの顔は不機嫌そうだった。

ブチ切れた看守に一番効果的な攻撃方法は不意打ちに限る。

木陰から出たら、一直線にアキラの所まで走り抜ける。
相手がこちらを確認するより速く、強烈な一撃を入れる。
俺が走り出して、約2秒。 顔がこちらを向く。 正直に言って、この振り向き方は気持ち悪い。
相手が警棒を振りぬくより速く。
速く。 アイツの顔面に飛び蹴りを喰らわせる。

不意打ちで足の踏ん張りが利かず、この一撃をモロに喰らったアキラは後ろの壁にめり込む。
ここまでだ。
これ以上戦えば、助かるものも助からない。

獅羊に駆け寄り、意識を確かめる。
額が切れ、血が流れていたが死ぬほどではない。 他にも大した怪我はしておらず、少しホッとする。

「問題は、犬か」

獅羊を脇に抱え、犬の所まで走る。

「おい、犬。 ……オイ!」
呼んでも反応がない。 まさかと思い、覗き込むが犬はただ眠ったようだった。
「……はぁー。 ビビらせんなよ、ったく」
気が抜け、危うく獅羊を落としかける。
腕や足は曲がっていなかったが、骨はダメになっているのだろう。 慎重に肩に担ぐ。
やはり通常の半分の体重とはいえ、少年二人は大分重いが、今の状況。 そんなことも言ってられない。

「飛鳥……かな、やっぱ」

【十二支】中最も博識な男。 『飛鳥』。 第十区画最上階収容。

彼ならこの二人を治すことなど簡単なことだろう。 この監獄に来てしばらくした時、看守に両目をもぎ取られたが今は、そんなことも気にせずに今まで培った知識で生きている。
ただ、盲目になって以来、方向感覚が狂ってしまったのか彼は、無自覚の方向音痴になってしまった。 酷い時は散歩の途中で崖から転落し、三日ほど飲まず食わずで死にかけていたところを他の奴に発見されたこともあるらしい。

「み、見つかるかな……」

いささか不安はあるものの、今は動くことしかできない。
俺は、自分の直感を信じ走る事にした。

Re: 十二支牢獄Story ( No.59 )
日時: 2011/05/08 19:38
名前: 叶嵐 ◆RZEwn1AX62 (ID: c5zRNdeN)

21話:『けが人を落とすとは、鬼か』





奇跡だった。

自分でもそう思う。 まさかたった3分ほどで、森の中の木の一本の前で気絶している飛鳥を見つけることが出来るなんて。 気付いた時には、獅羊を落としてしまっていた。
獅羊が落ちてつぶれる音で意識を取り戻した飛鳥は、気配を感じたのかこちらを振り返り一言言った。
「けが人を落とすとは、鬼か。 お前さん」

目がある位置にボロ布を無造作に巻き、後ろで適当に結んでいる。 年の割にジジイくさい話し方をする。 だが、誰もコイツの知識に勝てるものなど居ない。 あと、笑い方が無駄にキモイ。

飛鳥に獅羊を担いでもらい、十区画の最上階に向かう。

時々後ろを振り返れば雑草かきわけ全く別の方向に行こうとする。 コイツといると、ただ歩くだけで疲れる。

「はぁ……こっから真っすぐだからなぁー、いいな飛鳥。 真っすぐだぞ」
「知っとるか? この葉には消毒作用があってのう、これの葉を生で飲み込むとだな……」
「っておい、飛鳥?! どっちに行ってるんだよ、真っすぐだって言ってるだろ!」
「ふむ、お前さん。 このワシに真っすぐと言うのか。 わしは何時でも真っすぐ歩いとわい」
「とか言いつつ、ちゃっかり左に曲がって……ダメ駄目! そっちは崖だからぁー!!」
「五月蝿い奴じゃな。 もう少し、静かにできかんものかな」
「だぁまれぇー!! だぁーーー!! 担いでるのは一人なのに、荷物的には三人に増えた気がするぅー!!!」

埒が明かない。 そう判断した俺は近くに伸びていたつるを飛鳥の首に巻きつける。

首輪か、そういえばこのつるにはちょっとした歴史があってだな……と勝手に説明を始めるコイツをこのまま本気で絞め殺してやろうかと思案したが、背中のとても低い人肌の体温を感じ、ギリギリで思いとどまる。

時折後ろから文句が聞こえた気がしたが、全力で無視して目的地を目指す。
荷物に同情の気持ちを持つほど俺は出来た人間ではないのだ。

この監獄にエレベーターなどと言う便利な文明が発達している訳もなく、かといって階段を一段一段上るのも時間の無駄に等しいので、壁を登ることにする。

「飛鳥、獅羊貸して。 はい、こっち来て。 少し揺れるけど勘弁してね」
「階段を登ればよかろう。 全く理解に苦しむ」
「そーかそーか、アンタは階段で登り出たいのかぁー。 じゃぁ、先に行っててもいいよな?」
「老体を労れ、馬鹿もの」
「アンタは一体いくつなんだよ」
「56」
「え、嘘マジ?!」
「冗談じゃ」
「投げ捨てていいか」
「クキャキャキャキャッ! まだまだ青いのぅ」
「……」

笑い方気持ち悪ッ!

犬が落ちないよう、腕の袖を銜える。 両脇には意識のない獅羊、まだ何かを呟いている飛鳥。 全く、重いな畜生。
自嘲的な笑みをこぼし、腰をかがめる。
足のばねを使い、一気に壁を駆けあがる。

駆け上がると言っても、ただ鉄格子付きの小さな窓の枠に足の指を引っ掛け、飛び上がっていくだけだ。 重力に逆らうために、形がぶら下がっている犬がずり落ちようとする。
この距離で落としてしまうとそれこそ止めだ。

焦りで力が入り、登る速度が上がる。

飛鳥が何か叫んでいる気がするが、そちらに回す程の余裕はない。

壁を駆けあがる途中で足をかけた窪みが崩れる。

「ッ?!」
大分脆くなってきている。 そのまま左足が滑り落ちる。 バランスを崩しかけるが飛鳥が手を伸ばし、近くの鉄格子を掴んだおかげで何とか踏み止まる。 そこからゆっくりとバランスを立て直す。

「フーッ、フーッ……!」
心臓がバクバクと暴れ出す。 無理矢理息を整え、一度冷静になる。

「落ち着け、馬鹿ものが。 勢いだけの若造が年寄りの助言も聞かず突っ走るな。 命を落とすぞ」
飛鳥の意見はもっともだ。 脂汗が頬を伝う。

「とりあえず、そこの壁をブチ抜け。 一段と脆くなっとるはずじゃ」
口を開く訳にはいかないので、コクリと頷く。
一瞬思案した結果、やはり使えるのはここしかないだろう。

「……お前さん、まさか」
俺の顔を見た飛鳥は、何かを感じ取ったのか声が引きつっている。

足に腰、腹筋その他もろもろの筋肉を使い、少し上半身をそらす。 俺の口角が弓なりに曲がる。

「正気とは思えんな」
うっせえ。 心の中で反論すると同時に上半身をもとの場所に戻す。
そのまま頭を壁に強く打ちつける。

「頭突きなどと……。 いいか、脳細胞と言うのはな……ふっ、くは! クキャワハハッ!!」

飛鳥の雑学講座と称した説教を聞いている暇などないのだ。 それを止めるなら、くすぐる程適切な方法はないだろう。

「や、止めっ! キャクハハハハ!! 止めんか、ばっ、馬鹿ものぉ!」

腕に抱えられた状態でジタバタと暴れるので再びバランスを崩しかけ、二人で焦る。

壁は予想以上に脆く、直ぐに人一人ほどなら通れる穴が開く。
その間、散々飛鳥に叫ばれたが獅羊を受け取り、俺も棟の中にはいると流石に黙った。

そこからひたすら階段を登った。


「はぁあああ〜。 疲れたぁ……」
やっと自由になった口から数分ぶりの言葉を発してみる。
犬を脇に寝かせ、その場にへたり込む。

彼を横眼で見ると、微かに胸が上下していることから死んではいないらしい。 ただ体温は普段より数度下がってきているようだった。

「犬の様子はどうじゃ」
「危ないよ。 いまにも死にそうだ」

「そういえば、獅羊の方は?」
「あれなら問題はない。 数日安静にしていれば治る」
「それは良かった」
「まぁ、今一番の問題はソイツじゃがな」

そう言うと飛鳥は、自分の牢の中のボロいベッドに犬を運ぶように俺に言うとどこかに消えた。

獅羊は床に横たわっていた。 しっかり呼吸しているので、心配はないのだろう。

それよりも、飛鳥がどこに消えたか少し不安だったが、アイツに言われた通りにベッドに犬を寝かせる……が、
「ガぁッッ!!」
「?!」

————俺は突如、横から来た衝撃にあっけなく飛ばされた。

Re: 十二支牢獄Story ( No.60 )
日時: 2011/06/18 17:00
名前: 叶嵐 ◆RZEwn1AX62 (ID: c5zRNdeN)

20話:『俺はアンタのその顔が一番恐ろしいよ』





ガンッッ

「ッ……! な、何が……」
「ぐぅう……」

壁にぶつかった衝撃で目がちかちかする。
混乱している頭を軽く左右に振ると、獣の唸り声のようなものが聞こえてきた。

(何でこんなところに獣が……?)

まだかすかにぼやける目で辺りを見回すが、獣のような影など見当たらない。
見えるのは、横で床に直接寝ている獅羊と、錆びれた扉。 後はボロイベッドとその上に座る犬…………え?

「け、犬??」
「うがぁぁああああ!!」
「うわあああっ?!」

ガツン!

咄嗟に横に転がると、数秒前に自分の顔があったはずの壁に犬の拳がぶつかる。
壁自体は砕けることはなかったが、犬の拳の骨が砕ける音がした。 見ると、指が三本ほど有り得ない方向に曲がり、手の近くの裂傷からは血が噴き出した。

「う゛う゛ぅ、ぅううううう!!!」
「おまッ、馬鹿! ヤメロ!!」

口の端からはバタバタと唾液と血が流れ落ち、砕けた拳からも少し流血している。 今は普通に立っているが、少し歩くたびに犬の全身の骨が軋む音が聞こえる。

だが、犬はそんなことを気に留める様子もなく、足元に転がっている獅羊を軽々と片手で持ちあげ、振り上げる。

「オイ! マジで止めッ……!」
「ガぁああっ!!」
俺の声をかき消すような怒号とともに、獅羊を俺に向かって投げた。

振り上げた瞬間、犬の肩が外れたのか速度は遅い。 だが、ここで俺が避けると獅羊が壁にぶつかる。 そこで首を折って死ぬようなことがあってはマズイ。

「ッガぁ!」

獅羊を受け止めたは良いが、そのまま壁に激突する。 その衝撃の強さに思わず咳き込んでしまう。
「て、ッめ……この野郎っ!」

上に乗っていた獅羊をどかし、飛びかかり、犬に馬乗りになる。 暴れないように、両手を掴み強く床に押さえつける。
メギ、パキンッ

「ぐ、ぁっ」
「ッ?!」

その時、骨の折れる音がする。 反射的に手を放すと、そこから顔面を殴られる。
鼻にクリーンヒットし、鼻血が出る。 それとともに上体が仰け反ってしまい、犬に投げ飛ばされる。
ガツンッッ
「あっぎぃ……!」

丁度扉の横の壁にぶつかる。 衝撃で動けず、ずるずると落ちるようにうずくまる。
本日二度目の眩暈と共に頭痛が加わる。
痛い。 鼻血で拭った手が赤く濡れる。

「派手にやっとるようじゃのう」
「あ、飛鳥……・?!」

そこにひょいと現れたのはどこかに消えていた飛鳥だった。
手には大量の小瓶と草が抱えられている。

「お前さんまで治療するにはちと薬草が足らんかのう……」
「ふん、いらないよ。 にしても……うぉっ?!」

壁を支えに立ちあがったところにまたもや犬の拳が突き出される。
その拳を壁にぶち当たる前に、手首をつかみ受け止める。

ギリッ。
犬は、引いても押しても抜けない手に少し驚いたようだったが、直ぐに俺を睨みつけ、奇声とともに反対の拳で殴りかかる。

その拳を避け、もう一方の手で受け止める。

俺の手を振りほどこうとする度、体中の裂傷から鮮血が流れ出る。

「飛鳥! 何かないのかっ、麻酔とか持ってないの?!」
「んぁ? 持ってはいるが、ここで使うのにはちともったいない気も……」
「どうでもいいって! 早くしないと犬が!」
「いっつじょーくじゃ、ジョーク。 そのまま抑えておけよ」

途端に飛鳥の口角がつりあがる。

「螺猿、片方、離せ」
「あ、あぁ」

素早い動きで腰から何かを抜き出し、急に離された反動で後ろに振られた腕をつかむ。 脈をろくに探すこともせず、飛鳥は、手に握ったものをそこに躊躇なく付きたてる。

「っぅあ!」

犬は、痛みに体を大きく仰け反らせたが、直ぐに膝から崩れ落ちた。

「俺はアンタのその顔が一番恐ろしいよ」
「何じゃい、わしの老い先短い唯一の楽しみを否定するんじゃないわい」
「目が見えないのに治療するか? 普通」
「治療しなきゃ、お前さんら、今頃生きとらんわい」

クケケケケと不気味な笑いを零す飛鳥を、俺は改めて怖いと思った。


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