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Bloody End〜染血の姫君〜 完結。
日時: 2012/02/15 17:51
名前: *荊* (ID: LNgGYvWh)

*荊*です。

未熟者ですが見ていってくださいm(__)mペコリ


気に入ってくださいましたら
ぜひコメントよろしくです!!


◆キャラ紹介◆
茅 冥(ちがや めい)
吸血鬼(?)
朱の魔術師と呼ばれているが、姿を知っているものは皆死んでいるので正体を知っている者は少ない。


十字 花蘭(じゅうじ からん)
研究心旺盛な、笑顔がチャーミングポイントの小さな幼女。

三神 天霞(みかみ かみか)
吸血鬼のような違うような、あやふやな存在。
多重人格者。

シロー(046号)
人造吸血鬼ながら心を持つ。
王に対して不信感を持っている。

ブレイク
最初の人造吸血鬼。



■用語■

人造吸血鬼
王に作られし、吸血鬼。元は人間で、吸血鬼との中性的な面も持つが、吸血鬼になる段階で心を失っていっていることが多い。

ハーフの吸血鬼
人間と吸血鬼の間にできた子ども。吸血鬼は互いに血を交える事で契りを交わすが、稀に人間とその契りを交わす者がおり、その二人の間でできた子ども達はハーフとして生まれる。



呼んで下さった方々、有り難うございます。
心より感謝です!

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Re: Bloody End〜染血の姫君〜 第五章 ( No.46 )
日時: 2011/10/18 22:17
名前: *荊* (ID: PrIJf00M)






深い夜に花蘭は息苦しさを感じ、目を覚ました。
素早く目を開けた彼女の眼前に居たのは苦しい表情をしたブレイクだった。

「君とは契約できると思って居たのにね」

「っっっっ・・ぁぁぇ(はなせ)」

花蘭は眼前に居るブレイクの位置が自分の首だということに気づき、足をばたつかせもがく。

「君が・・・く、・・・君が吸血鬼だったなんてね・・・」

「ぁぁぇ・・・」

「あはは・・・はは・・・笑いがでるよ本当に」

首に当てる手の力は緩めず、器用に顔だけを弛緩させ口元を歪ませた。

「ぁぁっっっっぅぅっ」

暴れる花蘭を馬乗りになって押さえ付ける。

「僕だって辛いんだよ・・・こんな・・・ぐ・・・・・・吸血鬼の血を吸ってしまう何て思ってもみなかったからね」

苦しそうに悶えながら、花蘭の首にかける力を強めていく。

「がッッッぁぁぁっっ」

枯れた声で痛みを叫ぶ。

ブレイクは苦しむ花蘭を血走った朱い瞳を見開き捉える。

「お前なんか・・・吸血鬼なんかころしてや——」

ブレイクを人造吸血鬼にした吸血鬼、自分を奴隷にした吸血鬼、仲間を奪った吸血鬼・・・その吸血鬼として花蘭を殺害対象にし、力を最大値にしようとした時、二人の密室空間が崩壊した。

「やめろブレイク。そこまでだ」

「誰だ!?——王・・・・。はい」

ブレイクは扉を開いた人物に一瞬動揺し、その人物の言葉に花蘭の首を掴む手の力をゆっくりと解いていった。

「かはっっ! ・・・ごめんなさいですぅ。騙していてぇ・・・」

花蘭は身体の上に乗っているブレイクを押し倒し包み——

「おい、まっ——」

——花蘭は王の制止を押し切り、ブレイクの首筋に噛み付いた。

「やめろ・・・よ・・・・・うぐっっああぁ!! ・・・な・・・んで」

ブレイクの真っ赤な瞳を瞼が塞ぎ、花蘭が首から口を離すと柔らかいベッドに頭を埋めた。

「なれますよぉ契約者。私とでも」

花蘭は眠りについた死神に向けて呟いた。

「そんなことをしたら君はブレイクをもっと苦しませることになるぞ!? それに・・・ブレイクはもう人造吸血鬼じゃいられなくなる・・・」

「ブレイクはもう兵器じゃなくなるんですぅ・・・」

死神の頭を撫でる彼女は何といえばいいのだろうか。

死神は優しそうな少年の顔で、どこを血で汚すわけでもなく、清廉な身体で眠っている。

「お前は変わったな」

「私ですかぁ? それともこの可愛い死神ですかぁ?」

花蘭は惚けてみせた。

「可愛い・・・か。やはりお前は相変わらず末恐ろしい吸血鬼だ」

「どうもですぅ。でも・・・私もいつまでもこのままじゃいられないようですねぇ」

ブレイクと契約——互いの牙を朱く染める——をしたことにより、止まっていた花蘭の体内の針が時を刻み始めた。

花蘭の止まっていた時間が動き始めたのだ。

「お前もブレイクも使い物にならなくなったようだ。しかし、契約とは面白い。最後の時までじっくり削らせてもらうぞ」

「ええ。いいですよぉ」

にやりと吸血鬼の少女は笑みを形作った。

吸血鬼となっていく人造吸血鬼の死神は血だけが暴れる中眠り続け、吸血鬼の幻術師は王が去っていった後も死神が痛みに顔を歪ませる姿を見つめ続けていた。

「綺麗なものですねぇ・・・」

朱い髪に花蘭は見惚れていた。彼女達吸血鬼がいつも見ている朱となんら変わらない色のはずなのに、違う何かを感じる。

その朱い髪はこれまでいくらかの朱に染まってきたはずであるのに、それに負けず、色を保ち続けている。

「もう少しだけあなたの血を・・・・・・」

彼の顔と肩に手を当てて首に口を近付けた。
すでに彼女の牙の後がある。彼女は彼に血を与えられた事で薬で止まっていた身体の成長が再開したため吸血鬼に変貌を遂げ、その口には牙、その耳は尖って、その喉には飢えが襲う。

血を吸わずにはいられない。

・・・ゴクリ、ゴクゴクゴク——

「久しぶりだと美味しいですねぇ・・・」

純粋でない人造の吸血鬼の血でも美味しく感じられる自分が虚しくも感じた。しかしブレイクの血は格別なのだと思いもした。

そもそもスパイとして投入された花蘭はあんな場所で冥と出会うべきではなかったのだ。

全くの偶然で。

彼女は冥の事をただのハーフの吸血鬼だと思っていた。彼女が王の娘であり、王女であり、姫であり・・・それを花蘭は知らなかった。

そして彼女自身も知ってはいなかった。知ったのはこの王宮に戻ってからだ。

ブレイクがシローと血の刃を交え、二つの刃が同時に砕けた後に王室に招かれ、そこで王と冥の面影がある少女、そして冥にそっくりな女性の写真を見た。


彼はその時。


「ああ、これか・・・死んでしまった妻と娘だよ」

そう言った。冥の記憶の世界では両親は二人共死んでしまいその朱の記憶が支配しており、冥だけがその朱の中で生きていたはずだ。

その話とかみ合わなくなる。やはりこの写真は見間違えだったのか。

「そうですかぁ・・・」

冥と出会った事を王は知らず、花蘭は冥と出会った事で生きる意味を知ろうとしていた。

生きる意味を掴もうとするハーフの吸血鬼達の姿を見てきた花蘭はようやく自分が生きてきた意味を悟ったのだ。

時から逃げ、スパイとなり、人間になりすまし。

花蘭は王の僕として生きてきた。

両親は安寧のまま多くの人間の血を喰らいながら何一つ不自由のない時間を過ごし死んでいった。

決して吸血鬼を恨んでいるわけではないのだが、何かが違う。

人間を養殖し、吸血鬼が頂点に立つ——王はそのようなやり方をしてきた。しかしそれは違う。

吸血鬼は人造吸血鬼というものを造ってはいけなかったのだ。

花蘭は時折早くなるブレイクの息に不安を感じながら、彼が完全なる吸血鬼となるその日を待った。

彼が花蘭の血を吸い続ければいつかは吸血鬼となる。

例え彼が望まなくともそれが契約というものなのだ。

Re: Bloody End〜染血の姫君〜 第五章 ( No.47 )
日時: 2011/10/22 15:55
名前: *荊* (ID: PrIJf00M)

吸血鬼のぬめりとした血をまだ感じる。人間の血よりも気持ちが悪く、感触が記憶に残っている。

しかし、その記憶を埋め尽くすくらいに目の前の一軒の家が心を深く抉り、記憶をむしかえす。

ここで——。

——父さんと母さんが死んで、私は朱くなった——

「誰が殺したの? ねぇ・・・ねぇ・・・・・・答えてよ・・・」




シローは自らの刃が砕け散った瞬間——脳裏に焼き付いて離れないその瞬間を思い浮かべ、手の平を銀色のナイフでなぞり、血を手で皮膚になすり付けて気持ち悪い感覚を楽しみ、手の平を広げ血を操作し大気に浮かせた。

「くそ・・・壱が・・・・・・」

朱い壁に張り付いている鏡に映る血の粒子と自分。
醜い。醜い? 醜い、・・・醜い。

敗北を喫したわけではなくとも、硬化させた血が砕けたというのは負けに等しい。ブレイクの鎌は半壊はしていたが、全壊ではない。

あの状態であれば十分に次の一手が打てた。なのにブレイクは二撃目に行動をうつさなかった。

もしかしたらブレイクも自分の血の刃が壊れた事に驚きを隠せなかったのかもしれない。

しかし殺せるものを殺さなかったというのは死神としてどうだろうか。ブレイクはわざと殺しを選択しなかったのだ。

彼は完璧な死を追求している。

シローはその呆れた完璧主義によって助かったのだ。

自らの命の危うさに顔を歪めている鏡の自分など全然見えておらず——
やっと我にかえり、醜さに気付いた。

とても、とても・・・とてもとてもとても——醜い。

醜さとブレイクに対する怖気を感じていた時、シローの部屋の周囲の壁に張り巡らせている情報網が来訪者を告げた。

壁にすり込まれた血が反応したのだ。

シローの予想通り足音が近付いてくる。

「シローさん。侵入者が発見されました。既に住民が殺害されています。犯人はハーフの吸血鬼とみられます」

「ああ、分かった」

ハーフの吸血鬼と聞いてかつてブレイクのせいで捕らえる事ができなかったハーフの吸血鬼二人を思い出したが、すぐに切り捨てた。

ブレイクの報告書には二人を殺害したと書いてあったのだ。
ブレイクに限って自分から完璧主義をぶち壊すような事をするはずがない。死神の称号は伊達ではないのだ。それはシローの昨日の戦闘で身に染みて分かっている。

シローは机の引き出しから朱い液体の入った瓶を取り出すと、一気に飲み干した。

そして体内で自分の血へと変換されたその液体を手の平の切り口から体外へ排出し、皮膚を覆っていく。

シローは真紅の鎧を纏い、部屋を出て行った。

彼は伝達係の人造吸血鬼の後をつけていく。

真紅の鎧を纏うと彼は不思議と頭がよく働いた。先程までは苛立っていて荒んでいた心も今では静まり、冷静さを取り戻していた。

街の中にハーフの吸血鬼が出没するのは極めて異例・・・というわけでもない。実際に過去にも人間と吸血鬼が結婚して子どもを産み、その子どもに両親が殺害される事件が発生している。

考え込んでいた時、ある気配を感じた。朱の兜を粒子に戻し、その気配と対面した。

「僕は先にいくよ」

ブレイクはすれ違いざまに耳元で呟いた。




朱いのは誰・・・?
冥は記憶でいっぱいの家に向かって呟いていた。

Re: Bloody End〜染血の姫君〜 第五章 ( No.48 )
日時: 2011/10/23 14:01
名前: *荊* (ID: PrIJf00M)

第六章〜朱くなった奴隷〜

俺は豊かで大きな街に住んでいた。その街は人間の街の中でも比較的豊かで、俺ハ底辺の人間だったけど、それなりの暮らしをしていた。

それがあの日——崩れて、無くなって・・・。


俺は奴隷になった。


いずれブレイクという存在になる彼は灰色の髪をしていて、その頃の彼は死神でもなんでもなく、奴隷となってしまった彼自身も人造吸血鬼でも部隊長でもなかった。

偶然同じ牢屋に入れられた彼らは、昼でさえも薄暗く夜は真っ暗で自分の指先まで視界が届かないといった場所で生活を共にしていた。

一日中部屋の隅で動かない彼を観察してから何日が経つのだろう。

彼はシローの視線に気付いていながら、一度だけ少し首を動かし顔をシローの方に向けただけで、それからと言ったもの、微動だにせず目を見開いたまま壁を見つめている。

いつ寝ているのか。検証しようと挑戦した事もあったが、いつもシローが先に眠ってしまった。

「う・・・」

不意に彼が動いた。どうしたのかとシローは釘付けになった。

「寒い・・・・・・」

シローが彼と出会ってから彼が最初に発した言葉は普通すぎて、思いがけない言葉だった。

話しかけようにも彼の不思議すぎる雰囲気に飲まれ、口を開けなかったのだが、意外にも彼は普通の感性の持ち主であり、言語も通じる事が分かった。

寒いのも当然である。今は真冬・・・・・・だろうからだ。

実際の気候など地下深くに閉じ込められている奴隷である彼らに知る由ももない。

ここがどこかも知らない。彼が住んでいた街は暖かかったが、どこまで連れてこられたのか分からない。

ほとんど肌を隠しきれていないシローには寒く感じられた。ここに連れてこられたままの格好のため衣服は汚れていて、気絶させられるまで抵抗したためか所々破れていて、当然シローは奴隷という身分なので補修などされるはずもなく、それを頼めるはずもない。

だから、寒い。

外気に冷やされる地下は、逃げ場所のない冷気がこもり、彼ら——奴隷達の体温を奪っていった。

「・・・ちょう・・・だい」

最初は彼が何を口走ったのか、シローは聞き取る事ができなかった。

「え?」

尋ねかえした頃には——

「うわっっっっっ!!」

——彼の目に殺意が宿っていた。

部屋の隅に抜け殻のように座っていた彼の姿ではない。・・・獣、そう、獣だ。

「暖かいもの・・・・・・ちょうだい」

暖かいもの、それが何を指すのかは彼の目を見れば分かった。

血だ。

彼は吸血鬼のように血を求めている。

シローを連れ去った時の——シローの母を平気で嗤いながら殺した時の吸血鬼達と似ている。

殺される・・・直感したが、彼は力も何も持たない少年。
力が使えたのであればとうに母を救うために使っている。

密室。逃げる場所など——。

殺されてしまって僕は彼を暖めるためのただの液体となる・・・。

死を覚悟した時だった。

「うるさいぞ!」

兵士らしき男が見回りに来た。男が口を開いた時に垣間見えた牙は尖っている。男は吸血鬼だ。確かにここは吸血鬼の住む場所。

ブレイクもまた吸血鬼に喰われてなくなるただの人間。

みんな消えてなくなるのだ。

「あは・・・ははは」

そう思うと嗤えてきた。

「何を嗤っている?」

「すみません・・・笑いが・・・はは」

「まぁいい。もう就寝の時間だ」

「はい」

ブレイクは何も喋らなかったが、いつの間にか部屋の隅という定位置に戻っていた。

こんな変化を望んだわけではない。しかしこの変化はいずれ大きな変革となって現れる。

次の日、彼はいなくなった。

何も語らず、何も動かなかった彼が・・・消えた。

存在は無に等しかったが、昨日大きく変わり、そして今日になってまた大きくなった。

彼が消えたという事実が彼の心に衝撃を与えた。

Re: Bloody End〜染血の姫君〜 ( No.49 )
日時: 2012/01/12 18:21
名前: *荊* (ID: PrIJf00M)

次の日、また次の日、……次は隣の住人が。

次々と住人が牢屋から去っていく。
それは、本人の意思によるものではない。他人の干渉によるものだ。

そもそも奴隷に自由など存在するはずがなかったのだ。

少しの食糧しか与えられなかった毎日ではあったが、その毎日をこれほどまでに愛おしく思った事はなかった。

奴隷が連れ去られていくのだ。そして……帰ってきたものはいない。

彼が下を向いていると、足音が近付いてきた。



こつこつこつ。



彼は恐怖で怯え震える。



こつこつこつ。



次は僕なんだ。
彼は思うと怖くて怖くて。

身体の震えを抑えきれなくなった。

足音が大きくなって……止まった。


ぎぃぃぃぃ。



錆びた牢屋の扉が不気味な音を立ててあいた。

男が入ってくる。

彼はいつもは少年が縮こまっていた部屋の隅に身体を寄せた。

「イヤダイヤダイヤダイヤダ」

彼は呪文のように繰り返し言う。

しかし、男は無言のまま彼の身体を担ぎ、部屋を出た。



こつこつこつ。 ぎぃぃぃぃ。



牢屋の扉が閉まった。






身体に力が漲るようになった。
しかし、その代償として、常に喉の渇きが取れなくなった。

なんで僕は人を殺しているのだろうか、と疑問を持つような通常の意識は、彼が白衣の人間達の手によって、肉体を解剖された時、なくなってしまった。

彼は完全に王の支配下になった。

王は高みの見物を行っている。その下のドーム状の研究室では、人造吸血鬼同士の、互いの命を求める戦争が巻き起こっている。

奴隷達の屍の上に立つ一人の少年が居た。

「あいつやるね」

王の隣の少年が呟いた。彼はブレイク。その名は王がつけた名だ。

ブレイクもまた、屍の上に立った人造吸血鬼だった。

「二人目だな。おい、あれを上に」

「はい」

研究室の扉が開き、銃を装備した研究員が確保にかかった。

「死ぬよ」

「そうしたら合格だ」



バンッバンッッバンッバンッッッッッ。ダダダダダダダダダッッッッ。



発砲による光と血が、ブレイクと王の視界を埋め尽くした。。

「ほらやっぱり」

死んだのは研究員達だった。

彼は銃弾を躱し、彼らをただの肉体へと変換した。

「ブレイク。頼んだぞ」

「はいはい」

ブレイクは鎌を創り出し、階段を下りていった。

血に飢えた獣。それを創り出すために、奴隷は集められたのだった。

Re: Bloody End〜染血の姫君〜 ( No.50 )
日時: 2012/02/01 00:44
名前: *荊* (ID: LNgGYvWh)

シローがブレイクと呼ばれていた男に気付いたのは、吸血鬼の村だと偽っていた人間の村で、刃を交えた後だった。

巨大な鎌には見覚えがあったような気がしていたのだ。

しかし、戦いに余計な感情を入れてはいられなかった。

一瞬の迷い、思考の停止が命取りになる。朱を奪い合うような、吸血鬼の戦いは一瞬で全てが決まる。

事実、奴隷から吸血鬼に成り上がって間もない頃、シローは糸も容易くブレイクに取り押さえられ、屈服させられた。

「あの時は負けた……でも今ならな」

と言っても、結局は相打ちというか……敗北なようなものだった。それが結果だ。

「それにしても遠いな……。あとどれくらいだ?」

「あと……五㎞です」

「歩くのか?」

「はい」

「はぁ……」

小さな足音と言えど、集団ともなれば大きな足音もすれば、大きな煙も立つ。しかし、その集団の中で不満を洩らすのは彼だけだ。

灼熱の大地のなか、朱の鎧をまとった彼らは、黙々と歩き続ける。

『しんどいわ……。こいつらやっぱ、人造だわ』

マニュアル通り——完璧な彼らを従えて、シローもまた歩いていた。


目指すは、茅 冥の家。


ブレイクが取りこぼしたとされるハーフの吸血鬼。
それを殺しに——。





ブレイクは——それと、もう一名は——一足はやく人里離れた冥の家に向かっていた。

辺鄙な場所に住んだものだと彼は思った。

「遠いな」

「そうですねぇ。冥さん達はひっそりと暮らしていたんですねぇ。なのに……」

その先の言葉は紡がなかった。それはまだ、明らかではない、明らかにしてはいけない真実かもしれないものだからだ。

花蘭は答えを知ろうとしていた。

しかし、それは……。

冥の存在意義を奪ってしまうわけにはいかなかった。

そして、真実は自分で追い求めこそ意味がある、花蘭はそう思った。

「何があったのだとしても、僕は吸血鬼を殺す。それが使命だ」

「何でですかぁ? あなたは吸血鬼じゃなくなってるんですよぉ?」

少し成長した花蘭の身体が、それを証明していた。

「これはね……。僕の願いなんだよ。僕をこんなにした吸血鬼を許さない。ホントはこんなことしたくない……。でもね。殺さなくちゃいけないんだよ。いずれは君も」

「私はそんな簡単には逝きませんよぉ。あなたの解剖死体の横で死にましょう」

「解剖なんてなってやらないから」

ふっ、とブレイクは笑った。無邪気に笑えば少年にもなるものだな、と花蘭は思った。

苛酷な運命を背負う者が、自らの精神に矛盾を与える事は珍しいことじゃなかった。

精神をねじ曲げるのは、内部からと、外部からの力とある。

ブレイクの場合は、外部から手を施された事で人造吸血鬼という背理の存在になり、そのために精神が改変したのかもしれない。

また、花蘭の力のように、外部から与えられる場合もある。

花蘭の血には精神を惑わせる作用がある。

彼女の力は精神に矛盾を与えるのだ。


彼の矛盾を消し去れるものならば、彼女の血で消し去りたかった。

しかし、所詮は朱に朱を混ぜただけだったのだろうか。

完全な吸血鬼になった暁に、彼はどんな運命を選ぶのか。
当然、鎌を失う事になり、飢えには苦しまなければいけない。

選択が間違っていたのか、と花蘭は足を一歩進ませる毎に、ブレイクとの距離を感じていた。






奴隷、そんなものから抜けだそうと必死だった、ブレイクとシローは、道を違えながらも、自らの存在を消去を夢見ていた。


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