ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

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Bloody End〜染血の姫君〜 完結。
日時: 2012/02/15 17:51
名前: *荊* (ID: LNgGYvWh)

*荊*です。

未熟者ですが見ていってくださいm(__)mペコリ


気に入ってくださいましたら
ぜひコメントよろしくです!!


◆キャラ紹介◆
茅 冥(ちがや めい)
吸血鬼(?)
朱の魔術師と呼ばれているが、姿を知っているものは皆死んでいるので正体を知っている者は少ない。


十字 花蘭(じゅうじ からん)
研究心旺盛な、笑顔がチャーミングポイントの小さな幼女。

三神 天霞(みかみ かみか)
吸血鬼のような違うような、あやふやな存在。
多重人格者。

シロー(046号)
人造吸血鬼ながら心を持つ。
王に対して不信感を持っている。

ブレイク
最初の人造吸血鬼。



■用語■

人造吸血鬼
王に作られし、吸血鬼。元は人間で、吸血鬼との中性的な面も持つが、吸血鬼になる段階で心を失っていっていることが多い。

ハーフの吸血鬼
人間と吸血鬼の間にできた子ども。吸血鬼は互いに血を交える事で契りを交わすが、稀に人間とその契りを交わす者がおり、その二人の間でできた子ども達はハーフとして生まれる。



呼んで下さった方々、有り難うございます。
心より感謝です!

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Re: Bloody End〜染血の姫君〜 第四章完結。 ( No.41 )
日時: 2011/09/30 23:32
名前: *荊* (ID: MbtYH2rf)

第五章〜朱いヒト〜


血が砂漠を朱くする。
自分の血で朱く染まった姫君と王子がふらつきながら歩いていた。

何度も消えようとする意識の中で、冥は
『私が母さんと父さんを殺したの?』
と問いかけていた。誰かの血に染まった前の記憶は次第に蘇ってきた。自分が窮地に達すると、あの日の出来事のリンクするのか、少しだけでも思い出せた。

しかし、森のように木という記憶の断片が詰まったあの日の前の記憶より後は、突然現れる崖のようにすっぽりと抜け落ちてしまって思い出せない。

その崖に、その記憶の闇の先に飛び込む事を冥の本能と知性の両方が危険だと判断している。

「殺してなんか・・・いないわよね」

掠れた声で彼女は言い聞かせるように言った。

それでももしかしたらという気持ちと思考は止めようがない。

「顔が朱いぜ?」

彼が冥の照れた時よりも朱い顔の異変を指摘した。

「このくらい・・・」

大丈夫よ、と言いかけた時——

『そういえばくらくらするような・・・?』

自覚したその時だった。

「おい! 大丈夫か!?」

また迷惑を・・・。思ったが斃れる身体を止められはしなかった。






「僕は吸血鬼の村を知ってるよ」

「先に言いなさいよ」

「僕には人間の王を殺す理由があったからね」

「なんだ?」

「命令なんだよ」

「命令・・・!?」

ブレイクは鎌を創造し、冥達に向ける。

「なんだ? その物騒なもんは。しまえ」

「そういうわけにはいかないんだよ。僕は人に造られし吸血鬼だから」

「人造吸血鬼・・・なの!?」

「ああ。だから君達二人を殺すように言われてる」

一歩ずつ近付いてくる彼と距離を取るために彼女らも摺り足で下がる。

「なら何で同僚達を殺したの?」

積み上がった死体は人造吸血鬼のはずだ。

「僕は特命で動いてるから勘違いしてハーフの吸血鬼だと思ったみたいで襲われたからね。鎌を強化するにも役立つし、ちょうどいいから殺したよ」

「・・・お前は限りなく吸血鬼に近い人造吸血鬼だな」

人造吸血鬼なのに飢えを持ち、今も殺人行為に感動を覚えているのだろう。

「どうも・・・それとさようなら」

賞賛した訳でもないのに彼は礼を言った。そして・・・別れを告げた。

「だめですぅ!」

花蘭は横槍を——注射針を少年に刺す。

ブレイクは何事も無かったかのように注射器を払い落とし、花蘭を視界に入れた。

「花蘭ちゃんだけは殺したくなかったんだけどね」

朱の瞳が花蘭を写す。朱の瞳には悲哀と歓喜の相対する二つの感情を宿していた。

「何で夢に堕ちないんですかぁ!?」

「僕は人造吸血鬼だよ? 夢なんかない」

ブレイクは鎌を振り上げる。

「ただ一つだけ・・・あるとしたら・・・・・・綺麗になりたかった、君と」

「え——」

グシュッッ。

「花蘭・・・?」

まるで屍みたいに反応がない。・・・あ、、、、、、。

屍・・・・・・なのか。

「俺達も死んじまうのか・・・?」

「次は君達だよ」

ブレイクは死神のように鎌を構える。

「く・・・」

切り裂かれ——






『足音が近付いてくる。吸血鬼が私を——ああ。切り裂かれるよ・・・』

血が——

「あ・・・夢なのね」

「大丈夫? 魘されてたみたいだけど」

目を開けてからもう一つの幻想に気が付いた。

少年の歯が鋭く、耳が尖り・・・。
彼の姿は吸血鬼にそっくり——否、吸血鬼だった。

「悪い夢だわ」

それとも良い夢かな、と冥は全身から吹き出していた汗を拭った。
血は出ていない。さっきのは幻想ではない、過去。

嫌な夢・・・だ。

そして今も夢・・・?

近付いてくる朱の瞳と朱の髪に怯え、荒ぶる心と血を落ち着かせようとする。

「大丈夫・・・だから気にしないで」

ショートパンツから白い素肌が露出し、今でも汗が肌を濡らしている。
自分の血が流れているのだと錯覚してしまう量の発汗量だった。

私は何に興奮しているんだ、と冥は呆れた。

「うう・・・」

その時、少年は彼女の肢体を眺めていた。彼女の妖艶な魅力が少年を襲う。彼女には吸血鬼、人間問わず、ヒトを引きつける力があった。

「・・・大丈夫?」

冥は先程とは逆に少年に尋ねかけた。

「あ・・・。うん」

少年は我に返り目をぱちぱちとまばたきさせた。

「ごはん、できてるから下に来て」

少年は吸血鬼のくせに親切だった。

「分かったわ、ありがとう」

少年が部屋から去ると、彼女は再び横になり、ふぅと一息洩らした。






リビングで朱い食卓をほおばっていた。

吸血鬼の食事は簡素なものだ。ただ血を飲み干せば食事は終わる。

少年とその母親が出かけた後、二人は辿り着いた運命について話していた。

「二人になっちまったな」

天霞は静かに言った。

「そうね」

冥は素っ気なく、感情を込めずに言い放った。

花蘭が死んだ。その事実は冥の心には響かなかった。その程度の存在だったのか。

違う。

この程度の事では何も感じないように麻痺してしまっているのだ。

「運命なのか・・・この村に辿り着いたのはさ」

天霞と冥が気を失った後、気がついたらこの家に居て、助けられていた。

「私達をいざなっているのかもしれないわね。お望み通り潰してさしあげましょうかね」

「敵わないよ。俺達では」

ブレイクという破壊兵器——人造吸血鬼にさえ負けたのだ。それを造りだした吸血鬼の王に勝てるはずがない。

「それでも私は・・・」

王、が記憶に何か関係しているはずなのだ。直感はそう示している。誰が父と母を殺したのか、謎を解き明かすには王というピースが必要なのである。

「戦うってのか?」

「ええ。私はハーフの吸血鬼・・・私は意味を探し続けるわ」

「俺も・・・姫君についていくぜ」

彼はとぼけながらも優しく笑った。
それは冥にとって何よりも心強く、何でもやっていける気にさせた。

「絶対に死なせないぜお前を」

「心配しなくても私は死なないわ。意味を知るまではね」

「そうだな。俺達はこのままじゃ逝けないぜ」

「ええ」

吸血鬼でも人間でもない存在——自分の存在を掴めないまま、全ての根源、吸血鬼の村に辿り着いた冥は、記憶を取り戻すために王を探すことを決意した。

Re: Bloody End〜染血の姫君〜 第五章 ( No.42 )
日時: 2011/10/03 23:54
名前: *荊* (ID: MbtYH2rf)

「おはよう、いつまで眠ってるんだ? 幻想使いが夢見てどうするんだよ」

朱髪で朱い瞳に優しさを宿した死神がベッドで眠る少女に呼びかける。

「あ・・・うぅうう。・・・私、生きてる? 死んで・・・ない? ここは天国じゃない・・・」

花蘭は久しぶりに開けた瞼に重みを感じながら、瞳に差し込む光が眩しく目を細めた。

「夢じゃないよ」

確かに彼は言う。しかし花蘭はまだ自分が生きているという事が飲み込めずにいた。

彼女は確かに目の前の彼——ブレイクに斬られ、血を流したのだ。

今は優しささえ見えるブレイクの瞳に殺意を宿していたのがはっきりと見えていた、なのに殺されていない。

死んでいない。

「何で・・・なんですかぁ?」

「天国に行けたのなら、よかったかもね。でもここはただのこの世。僕は君を斬ったよ。あの感覚は覚えているよ。トビコをかみ砕いた、プチッという感覚に似ていた・・・」

ふふ、と笑う彼は、人造吸血鬼・・・。吸血鬼だ。

「なら何で私は生きてるんですかぁ?」

「それはね・・・」

彼はもったいぶって優しい・・・と表現して正しいのか、おかしな笑みを浮かべた。

「君が吸血鬼になったからだよ」

「へ?」

吸血鬼。どこまでもおかしな存在で研究対象。未だ未解明。

花蘭にとってそんな存在である吸血鬼に自分がなってしまったとでも言うのかこの少年は。

「そんな馬鹿なことが——」

「僕の血を混ぜたんだ。君は四分の一ハーフ・・・クォーターとでも言うのかな」

「それもただの混血じゃなくて・・・人造吸血鬼のハーフ・・・?」

そんな馬鹿な事があるとでも言うのだろうか。
花蘭は自分の存在が急に遠のいた気がした。自分が分からないのだ。

『これが冥さんの言っていた存在を見つけるということ・・・』

だが、冷静に対処できる問題ではない。自分は人間から吸血鬼になってしまったのである。

「そうだよ。君の中で僕の血が流れている。吸血鬼の・・・それも人に造られた吸血鬼の穢れた血がね」

「何ででしょぉかぁ・・・少し心地いいんですぅ・・・」

小さな手で硝子を破壊し、破片を握る。思いきり。

「これが・・・私の汚れた血、ですかぁ」

やはりおかしくなってしまったのか?
おかしな愉しさを覚えた花蘭は自らに問いかけた。

こんな事するなんて正気じゃない。

分かっている。しかし病院のような白いシーツのベッドを濡らす自分の血が汚らわしくとも美しく感じる自分が嗤えて仕方がないのだ。

「君も僕と同じになったんだ」

二人は嗤った。

ブレイクと花蘭は狂ったように互いの存在を掴みあった。


夕陽が破壊された窓から差し込み、二人の一つの陰を写した。

Re: Bloody End〜染血の姫君〜 第五章 ( No.43 )
日時: 2011/10/05 00:39
名前: *荊* (ID: YiQB1cB2)

月光りが降り注ぐ宵。小さな女の子が一人木の下で本を読んでいた。
夜目が利く彼女らは月光の弱い光でも小さな文字も見る事ができる。

「やっと夜だー!」「寝過ごすかと思ったー」「僕も・・・」

静寂を壊すように男の子達が遊び始める。

良い鬼は遊ぶ時間だ。

「ヒトごっこしようよー」「いいよ! じゃあ誰がヒト?」「あ、こいつでいいじゃん」「そうしよう! いいよね? ×××くん?」「・・・・・・うん」

彼女の記憶の抜け落ちた名前。

小さい鬼達の中で牙を持たない少年は愛想笑いと苦笑いを混ぜ合わせて零で割ったような、何も宿していない空虚な笑みを浮かべ、彼は小さく頷いた。

「早くヒトしろよ」「そうだそうだ」

牙を持たない少女が本を奪われ、背の小さな少女は一回りほど大きい彼らの手の先にある高みの書物に手を伸ばそうと奮闘する。

しかし届くわけもなく。

「やめてよ!」

彼女が叫んでも彼らは憎い笑みを見せるだけだ。

気持ちの悪い笑い。

「おい、かみか! パス!」「あ・・・」

書物をキャッチする。

「ほらこっちだ!」

パスくれ、と素振りをする彼に書物を投げる。完璧な投球だった。寸分の狂いもない。

こうして彼、かみかも笑いの中に溶け込んでいった。

自分を守るために。






吸血鬼の村、そこは二人の故郷の地だった。

「吸血鬼の血は飲んじゃいけないのよね?」

「そうだぜ。こんな忌々しい血なんか飲むな」

「でもこれが私にも流れてるんでしょ?」

冥は少年の血を手に取り、手の受け皿から零して様子を観察する。

「ま、そうだけどさ。半分は人間の血じゃないか」

「似たり寄ったりよ」

「それもそうだな」

冥は少年にあの頃の吸血鬼の少年の姿を重ねた。同じ容姿、同じ身長。例え彼女を助けた恩人だとしても吸血鬼であることには変わりはない、

吸血鬼など消えてしまえばいい。

彼女に芽生えたものはとてもじゃないが綺麗なものではなく、哀れな、復讐という二文字の感情だった。

「俺もこんな奴らに媚び売ってたなんて思うと気持ちが悪いぜ」

しゃがみ込み、整った吸血鬼の少年の顔を見る。触れて・・・爪で弾く。柔らかい肌。しかし硬くなってきているだろうか。

「許して、なんて言っても許してあげないわよ、天霞くん?」

「やめてくれよ、くん付けなんかよ。・・・あの頃はごめんな」

「・・・ええ」

ハーフの吸血鬼は迫害を受けた。天霞も同様だったのかもしれない、と冥は思った。許したくはないが——。

天霞も怯えていたのだろう。目の前の小さな少女がいじめられている姿を見て、自分にも魔の手が及ぶのではないかと考え、だからこそ彼女を救う事ができなかったのかもしれない。

弱いものだ。人間も吸血鬼も、ハーフの吸血鬼も。

「こんな小さかったのね・・・吸血鬼も」

「そうだな・・・怯える必要なんかなかったんだよな俺達はさ」

ハーフの吸血鬼にしかない血を操る力を知っていたのなら、権力を握るのはハーフの吸血鬼の方だったのだ。

存在意義が分からなくとも冥らにはそれを探すための力がある。

カチャッ。ドアが開いた。少年の母親が入って来たのだ。

しかし二人は慌てない。

「あなたたち・・・・・・え!? ・・・・・・うぅぅぐ・・・」

「死になさい。私は吸血鬼が嫌いなの」

扉が開く前よりも早く——瞬時に剣を造り、刺す。

心臓を捉えた完璧な一撃だ。

「せっかく恩うって食べようと思ってたのに!」

にんまりと少年の母親が歪んだ満面の笑顔で牙を見せつけた。

「・・・せめて綺麗にいきゃよかったのにさ」

冥が剣を抜いて母親が床に倒れた後、天霞は音を立てず静かに近付いて槍を軽く仰向けの母親の真上に持ち上げ、振り下ろした。

槍が突き刺さり、二つ目の穴があく。

「う・・・ぎ・・・あ・・・・・・あぁ・・・・・・」

穢れた水たまりに触れないように飛び越えて天霞は死体から離れた。

「っとと」

血に触れそうになりよろけた。

「とても気持ちがいいわ。吸血鬼・・・この血は吸血鬼の血! ・・・ここに来たのはこのためよ。神様は私達に吸血鬼を根絶やしにするために力を授けたんだわ」

「やめろよ」

「え? なに? やめるわけがないでしょう。これは始まり、序章。これからいっぱい屍が転がるのよ? いいじゃない」

「そういうわけじゃなくてさ・・・」

「じゃあなによ?」

「神なんかさいねぇんだからさ、・・・だからさ、そんな馬鹿げた事言うのやめろよ」

狂いだした彼女を宥めるように天霞は言った。

「ばかげた? ・・・違うわ。素晴らしい事よ。私は吸血鬼を殺す力を持っている。これはとても素晴らしい事」

「違うぜ。俺らは自分の存在意義を欠落させる事で力を持ってるんだ。何も知らず、力も持たない人間の方がよっぽど幸せだ」

吸血鬼の力は存在の欠片。

「存在も手に入れるわ。そのためには吸血鬼を殺す必要がある。確かにここで私の両親は死んで・・・私は存在を失ったの」

「殺す・・・。俺の黒だって言ってるさ。でも違うだろ? それは吸血鬼の本能や欲望だ。俺達の本当の望みじゃない」

人間に恩を売って安心させて食糧を与えてしっかり肥やしてから食するような吸血鬼と天霞達の存在は紙一重なのだ。

一つ越えてしまえば、吸血鬼と化してしまう。

冥はその線を超えようとしている。吸血行為を愉しみとして捉えるようになっているのだ。

やはり、人間の王の村で吸血鬼の血を飲んでしまったことが悪かったのだろうか。それか、元々眠っていた吸血鬼の血に含まれるものが呼び覚まされてしまったのか。

ならば天霞にも起こってしまうことなのだろうか。

それとも既に起こってしまったのか・・・?

死体が二つ——吸血鬼の親子が一つ屋根の下に死していた。

「俺も少し嗤っちまったぜ・・・」

「早くいくわよ」

「ああ、分かってるよ」

家を出て行く彼女の後を走ってつけた。
走る事で心臓の鼓動が早まった。


二人の身体が脈動を続ける限り、吸血鬼の血は流れ続けている。

Re: Bloody End〜染血の姫君〜 第五章 ( No.44 )
日時: 2011/10/16 23:54
名前: *荊* (ID: PrIJf00M)

意識を持つ人造吸血鬼の一人であるシローの血にもまた吸血鬼の血と人間の血の混ざった血が流れている。

シローは人造吸血鬼達の組み手の様子を見ていた。

疾風のように踏み込み血の剣を踏み込む者ばかりで本当に統制のとれた隊だ。全員が全員、型どおりの完璧な組み手をするのだ。

実に滑稽である。人間の血を流していながらミスを犯さない。寸分さえ違わない正確さというか、ただこなしているというか、しかし無気力なわけではなく、ある程度の覇気は感じさせる。

彼たちは強い心を持たないのだ。個々に思考は持ち、それぞれに違っているはずだ。しかしそれ以上のものを意識しない。

意識してしまえば体内のバランスが壊れてしまう。

人造吸血鬼とは普通では存在し得ない存在であり、それは世界を支配している理によって左右されない。だが、理から外れているからこそ元に戻そうと、バネの弾性力のような力が働く。

故に心があっては痛みを感じ、自分の存在を否定するようになってしまい、最後には自ら死を選んでしまうといった例が多くあり、シローはそれらを見てきた。

シローは特別で貴重な存在だ。それはブレイクも同じである。

「いつも見てるけど面白いな」

彼たちは同志であり同志ではない。なぜなら彼らが心を持たないからだ。

彼たちは志を持たないのだ。唯一あるとすれば王の下した命令の遂行、それだけのために生きているようなものである。

王が歩いてきた。今日は見学にでも来たのだろうか。

「ハーフ殺して何がしたいんだよ・・・」

小さく言葉を放った。

「なにか言ったか?」

「いえ。いつもはお目になられないのに、どうされましたか?」

「見に来てみただけだよ。悪いか?」

「いえ」

王が彼らに目を向けたのでシローも王の視線の延長線上へ目を移す。

「ヒトがヒトをいじるとああなるのだな」

人造吸血鬼は不完全だというのか。

「そうですね」

血が疼いた。仮にも同族が罵られているのだ。不完全な存在に、不完全な存在だと。

吸血鬼は人間を喰わなければ生きられない、不完全な生き物だ。

「完璧な僕だよ。しかしな、何かが足りない。・・・・・・足りないことが足りないのだ。お前やブレイクみたいにな」

「私やブレイクのように・・・ですか?」

シローもブレイクもやはり不完全な存在にすぎない。不完全な吸血鬼が造っているのだから当然のことだろう。

よっぽどな突然変異がない限りは完全体が生まれる訳がない。
それは一つの生命体だけで生態系を壊してしまうような、大きな変化だ。

何にも干渉することなく、自分の中だけで全てを自己完結するような生体が生まれるとすれば、生態系の輪は崩れてしまうことになる。

人間は限りなく近付いているとも言えるだろう。自分で栽培を行い、植物や生命を育て、やがて喰らう。

数十年前、今の王が即位した時、吸血鬼も家畜の育成を育てた。

それが今の彼らであり。シローであり、ブレイクなのだ。

意味を失い、家畜として生活を続け、次々と実験体に選ばれた者達が牢屋から連れて行かれ、何時になろうとも返って来ず、彼らは怯えるようになり、やがては彼ら自身も実験体となり——ごく一部の者は吸血鬼となって外の世界を見るようになった。

しかし彼らは空虚な心に——目に、何を写しているというのか。

目の前の敵は確かに写しているのだろう。ならば一体何を意味として生きる?

「くぅ・・・・・・はぁ」

彼はそんなことを考えると吸血鬼の血を注入された傷痕のある首筋が少し痛んだ。

「大丈夫か?」

「はい」

こいつが全てを奪った。

奴隷となったシローの家族も死に、母が残した弟も守れず実験材料に連れて行かれ、

「しかし成長速度が少し速いようだな。完全に融合したとはいえ、最初から吸血鬼の血が混ざっているわけではない人間と拒否反応でも起きているのか」

王はシローの顔を見て言った。脳内を見透かすような暗い黒の瞳だ。

「・・・分かりませんが・・・・・・」

シローは言葉を詰まらせ、王の目から顔を背けた。

全ては王によって、その配下によって殺されたというのに、今ではその配下になり下がっている。

仇の下にいるような皮肉な状況になってしまうのであれば、あの頃のまま——奴隷の頃の王を憎み続けていた頃のままでいたいと願っても、もう彼は人造吸血鬼なのだ。

しかし、力を手に入れた。王から授けられた力で王を殺すというのも皮肉で面白い話になるかもしれない。

反抗すべきなのだろうか、とつまらない戦闘演習風景を見ている王の横顔を横目で見ながら考えていた。

彼の王に対する忠誠心を表す刃はブレイクによって打ち砕かれた。

そのブレイクは今、王直属の部下として活躍していると耳にした。

なにやら花蘭とかいう人間を匿っているらしいという事も同時に聞いたが・・・もう王にはシローの力は必要ないということなのだろうか。

今日来たのも見納めというだけなのだろうか。

彼は誰のためにも生きる事の許されない自分の力の哀れさに落胆しつつも、驚かせてやろうかと密かな反抗心を滾らせていたりもした。

「では帰る。後は頼んだ」

「はい。こんな昼間にご苦労様です」

中途半端な鬼はウサギの皮——ではなく吸血鬼の皮と全身を覆う鎧を被って自分を屈強な鬼に見せようと努力する。

王の前ではただの実験体であり、中隊長であり、・・・配下なのだ。

「あ・・・忘れていた。・・・シローよ。ブレイクと闘ってはみないか?」

シローの闘争心を知っているかのように、またそれを沸き立てるかのように王は言った。

Re: Bloody End〜染血の姫君〜 第五章 ( No.45 )
日時: 2011/10/18 00:55
名前: *荊* (ID: PrIJf00M)

始め、日陰の吸血鬼専用の観覧用座席に座る王の一声で、緊張感がどっと増し、二人の放つ気だけで大気が揺れるようだった。

「吸血鬼の血を吸ったとからしいが、その身体は大丈夫か?」

演習場を飲み込んでいた雰囲気を破ったのはシロー吐いた毒だった。

「大丈夫だよ。お前の相手はこの身体で十分だからね」

負けず劣らず、ブレイクも闘志を剥きだしにして言葉を返す。

「言ってくれるじゃんかよ」

零の構え——シローは血の破片を空中に浮遊させる。何にでも対応できる構え、それが零の構えであり、この構えは最高点で全ての始まりだった。零という技の名はこれから始まる戦いを意味していたのだ。

対してブレイクは華奢で女性的な部分を窺わせる顔立ちには見合わない大きな真紅の鎌を太陽の下にかざし、獣のような目で獲物の動向を探っている。

「君は自分の身体だけ心配したらいいよ!」

先に動いたのは死神だった。朱が広いフィールドを蹂躙する。
王宮内に設置された見晴らしの良い砂の演習場に煙が舞った。

「どうなったんだ・・・?」

王はブレイクの一閃の先を見つめる。早すぎる彼の動きから遅れて立った煙が王と——

「どうでしょうねぇ・・・・・・」

——花蘭の視界を遮った。

「いたのか十字」

「さっき来ましたよぉ」

二人とも煙の先を透かしてしまう程に視線を移すことなく見つめているが、風のない今日の気候は二人の心のもやもやとした苛立ちを払うこともしなかった。

「・・・!?」

「あ」

ついに花蘭と王の吸血鬼特有の超感覚が捉えた。

シローがブレイクの勢いに乗った一撃を受け止めている。

「さすがは零の構えだね。あの頃から変わってない」

「そりゃどうも」

シローは攻撃に対して対応するにあたって必要な角度の剣を、正確に血を繋ぎ合わせていき創り出して、鎌を刀で受け止め——散らばっている血をつなぎ、ブレイクの背後に三本の刀を創り出して串刺しにしようと操る。

ブレイクは鎌でシローの握る刀を払い身体を軸に鎌を回転させて、背後から近付く刃も纏めて破壊する。

「危ない危ない」

余裕のような口ぶりではあるが、額には冷や汗を滲ませていた。
後方に回避したシローは再び零の構えに戻る。

ブレイクも一呼吸置いてから鎌を所定の位置に戻した。

肩にかかえる鎌の刀身は朱く輝き、異彩を放っている。
実におぞましさを感じさせる刃物だ。

その刀身は人造吸血鬼、人間、ハーフの吸血鬼、様々なヒトの血を吸ってきた。
故にブレイクが持つ鎌にはただのものの重さと共に、殺された者の怨念などの違う重さを持っている。ただの鎌ではない。死神の鎌なのだ。

死者の血を吸って育った鎌は新たな死者を創り出していく。

今、ブレイクはその鎌を軽々と持ち上げ、シローの血を鎌に捧げようとしている。

「何も変わらないだけじゃいけないんだよ」

ブレイクは変化を持たない零の構えに呆れを零し、その構えを崩さんとして加速しながらシローの懐に飛び込んだ。

シローも当然応戦する。先程と同じように彼の攻撃を弾くに十分な刀の耐久度と角度を計算して創り出し、その完璧な状態の刀でブレイクの攻撃を防ぐ。

ブレイクの駆ける道筋をなぞるように、後から砂煙が追いかけてくる。

しかしシローの洗練された血達は砂の一粒さえも主人に届かせはしなかった。だから彼は目を瞑りもしなかった。

飛び込んでくるブレイクの身体だけを真っ直ぐ捕捉し、刀で弾き——離し——次の刀を握りブレイクの身体を切り裂く。

ブレイクは間一髪の所で身体を翻すも、刀が自分の皮膚に触れ、衣服を破っていく感覚を味わっていた。

「・・・僕の血かよ」

小さく洩らし、左腕から滴り落ちる血を一瞥し、すぐに獲物に顔を向けた。朱の瞳は怒りを写す。

ドロッとした血の感覚からシローの刀が腕を深く抉った事が分かった。

もしかしたら筋肉が切れたかもしれない。考えてみれば腕の感覚が薄まっている。神経も切れている可能性がある。

動かない左腕を垂れるが、試しに片手で鎌を持ち上げてみた。

片手では安定性と力加減に欠けるが、闘えないこともない。

「もうやめ——」

花蘭が叫んだが

「だめだよ!」

ブレイクは子どものように駄々をこねた。この戦闘に負ける訳にはいかないのだ。人造吸血鬼の頂点に立つ者として。

始まりの人造吸血鬼として。

彼は手をもぎ取られようと鎌を降り続けなければいけない宿命にあるのだ。

「やる気ならしゃあねぇな」

余裕を取り戻している046号が彼の力を増幅させた。彼は怒りという朱色を鎌に混ぜ、さらに成長させていく。

「あれは・・・・・・?」

王が遠くで驚いていた。遠方の声でも今の彼には十分に聞き取れた。彼が吸血鬼の血を多く摂取してしまっているからだ。

始まりの人造吸血鬼として、そして初めての人造吸血鬼から完全なる吸血鬼への転身を試みるヒトとして勝つしかないのだ。

相手を地面に這い蹲らせる。それが吸血鬼の力。

自分の存在意味を手に入れるための力だ。

巨大化させた鎌は彼の身体の三倍にまで大きくなっていた。

「でかいな・・・」

果たして受け止められるのかどうか。

攻めに転じる事もできず、シローは他人事ではないのに行く末を見守るばかりで刀を抜き放つことができなかった。
零は絶対防御ではあるが、攻めるための技ではない。

それを知っているブレイクは安心して鎌を成長させることができた。

言うならば二人は矛と盾。絶対の攻撃力を誇る矛と、絶対の防御力を持つ盾。

矛盾する二人の存在がこの勝負の決着の付かない現状を産み出していた。

「終わらせるっ!」

叫んだブレイクが巨大すぎる鎌を振り上げ——

「俺の台詞だぁ! ・・・構え壱!」

——シローもまた構えを変更し、二刀を交差させ砂の中を猛進する。

木霊した声は広い演習場を包みこみ、その覇気は砂煙を巻き込んで彼ら二人の勢いを加速させた。

両者がぶつかるその時——全ては決した——。


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