ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
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- Bloody End〜染血の姫君〜 完結。
- 日時: 2012/02/15 17:51
- 名前: *荊* (ID: LNgGYvWh)
*荊*です。
未熟者ですが見ていってくださいm(__)mペコリ
気に入ってくださいましたら
ぜひコメントよろしくです!!
◆キャラ紹介◆
茅 冥(ちがや めい)
吸血鬼(?)
朱の魔術師と呼ばれているが、姿を知っているものは皆死んでいるので正体を知っている者は少ない。
十字 花蘭(じゅうじ からん)
研究心旺盛な、笑顔がチャーミングポイントの小さな幼女。
三神 天霞(みかみ かみか)
吸血鬼のような違うような、あやふやな存在。
多重人格者。
シロー(046号)
人造吸血鬼ながら心を持つ。
王に対して不信感を持っている。
ブレイク
最初の人造吸血鬼。
■用語■
人造吸血鬼
王に作られし、吸血鬼。元は人間で、吸血鬼との中性的な面も持つが、吸血鬼になる段階で心を失っていっていることが多い。
ハーフの吸血鬼
人間と吸血鬼の間にできた子ども。吸血鬼は互いに血を交える事で契りを交わすが、稀に人間とその契りを交わす者がおり、その二人の間でできた子ども達はハーフとして生まれる。
呼んで下さった方々、有り難うございます。
心より感謝です!
- Re: Bloody End〜染血の姫君〜 未だキャラ少だけど第四章 ( No.31 )
- 日時: 2011/09/19 12:38
- 名前: *荊* (ID: MbtYH2rf)
帰り道、誰かにつけられていた気がしたが、天霞は苛立っていたので落ちていた缶を蹴飛ばし、速度を上げて家路を急いだ。
からからからと缶が転がる路地に風が一陣吹いた。速度を上げた彼の走りはもはや風と同化している。
家に着いた彼は「ただいま」と言って玄関で靴を脱ぎ捨て、散乱した靴を後から綺麗に並べ、中へ進んでいった。
彼から向かって右手では冥が地ベタに足を伸ばして座り何か考え事をしていて、左手では花蘭が数字と文字をペンで刻ませていっている。
二人とも一言も発さず、風の音さえうるさく聞こえるような静けさが流れていた。
「新聞載ってたんだけどさ」
そういって手に持った新聞を冥に手渡した。
「はしっこじゃない」
冥は天霞が渡した新聞を広げ、痛いところを突いてくる。
何も言えず言葉を失って黙っていると、静寂が続いた。冥は新聞をじっと見つめていて没頭している。
「何か・・・あったか?」
恐る恐る——天霞に怖いものは自分くらいのはずなのに——尋ねた。
「牙の生えた死体・・・って吸血鬼殺しでもしているのかしらね」
「死体は朱の鎧を着ていたって書いてあるから人造吸血鬼じゃないか?」
新聞の説明欄に「朱の鎧を着た牙のある男の死体が幾重にも重なっていて、男達の身元は不明」と書いてあった。
「そうね・・・。じゃあ私達とは違う、他の組織か・・・他にも狙われているヒトがいるってことね」
「だとしたら危険じゃないですかぁ?」
先程まで計算式らしきものを紙に書き込んでいた花蘭が椅子に座ったまま顔だけを冥達の方に向けて言った。
「殺されるかもしれないわね」
冥は笑いを込めて言った。
「そうだな」
だが彼は笑わない。
むしろ真剣な表情をしていた。
少年は事務のように人造吸血鬼を死に至らしめた。
血の鎌を持った彼はまるで死神。
人造吸血鬼が断末魔を上げるよりも速く駆け、狩り、死を授ける。
「お前を殺しにきた」
「へぇ。僕を。・・・それはこっちの台詞なんだけどな」
鎌を肩に担ぎ、足で地を蹴る。
「はや・・・い!?」
人造吸血鬼は間一髪のところで避けた。
「仲間はどうしたの?」
彼は答えを知っていながら聞く。
「死んだ・・・お前に殺されたのだろう?」
そう。彼が殺した。
この鎌はたくさんの生命達によって鮮やかな色を彩られているのだ。
一夜のうちに小隊、いや中隊ほどの人造吸血鬼が天に召された。
「僕だね。そして君も・・・」
君も、この鎌の色の一つとなる。
「私は任務を全うする」
「人造らしいね」
大きく振りかぶり、斬撃が路地に切り傷をつけるくらいに鎌を振った。
人造吸血鬼は範囲を予測し離脱する。
しかし彼も遠心力を利用して身体を回転させながら鎌を振り回す。
乱舞。
人造吸血鬼は避けることしかできない。そしていずれは——。
彼は乱舞を縦回転や横回転に変化させながら彼を追い詰めていく。
「こんなことじゃ天国にいけないな」
呟いて・・・。
彼は人造吸血鬼の身体を捉えた。
「あ・・・」
回避不可能。
朱が飛散した。運ばれた死体はまた一つ山を大きくする。
死体の山に座り、彼はこう言う。
「天国には行けないな・・・」
と。
少年は天国を目指す死神だった。
- Re: Bloody End〜染血の姫君〜 未だキャラ少だけど第四章 ( No.32 )
- 日時: 2011/09/20 23:15
- 名前: *荊* (ID: MbtYH2rf)
陽が昇り、日差しが強くなってきた。朝の寒さから比較すると夏の暑さとまでは言わないが、暑く感じる。
ランニングシャツを着ているとしても冥の肌は日射程度に屈する事はないのだが、日差しが鬱陶しかった冥はカーテンを閉めようと立ち上がった。
カーテンに手を掛けて・・・閉めようとしたところで手を止めた。
「それにしてものどかよね」
冥は窓から外を見て言い、カーテンを思い切り閉めた。
シュッとカーテンの留め具とカーテンレールの間で摩擦音が発せられる。
「そうか? 吸血鬼の死体がごろごろしてるんだぜ? 物騒な村だよ」
彼は自分も数人を上半身と下半身を分裂させて死体をその場に遺棄した張本人であるというのに他人事かのように言った。
「物騒かもしれないわね・・・でも吸血鬼の村にしては豊かすぎない?本能で生きる吸血鬼には新聞なんてものはいらないし・・・食糧が売ってあるのなら血くらい売ってていいものじゃない?」
「それだと便利だなぁ。血の料理本とか出たら売れそうじゃね?」
冗談交じりに言った。
「やっぱり人によって血の味が変わったりするんですかぁ?」
花蘭は吸血鬼にしか理解不能な人間視点の素朴な疑問を問う。
「そうだぜ。美味しさは違う。調理したら味も調整できていいかもしれないな」
「私はそのままが一番美味しいと思うわ」
それに・・・と冥は控えめに付け加え、私料理できないし、とあまり言いたくなかった事をトッピングした。
「贅沢しろよ俺が作るからさ、お姫様だろ?」
「何の?」
冥は質問を質問で返す。
「吸血鬼の」
さも当然かのように言う彼の言葉を聞き逃しそうになったが、しっかりと意味を捉え直した。
「吸血鬼の姫? 私が?」
「そうだぜ、姫様」
口角を多少上げながら天霞は言う。そのため本気なのか、冗談なのか、冥には判別できなかった。
少し考え冥は口を開いた。
「・・・ならあなたは私の命令を聞いてくれる?」
「なんなりとお申し付けください」
冗談だと白状すれば何も言わないのに・・・冥は天霞の冥を試すような態度に困惑しながらも、会話を楽しみ始めていた。
天霞は薄笑いを浮かべながら、姫君に忠誠を誓う。
「じゃあ・・・・・・」
言いかけて言葉に詰まった。
『私は何を命令しようとしていたんだろう?』
とんでもない命令をしようとしていた気がしてならなかった——吸わせて欲しい——冥の最大の表現方法で彼女達吸血鬼にとっての契りだった。
『そう、契りだ』
昔の記憶が戻ってきた。
吸血鬼の血を吸ったら・・・・・・
「やっぱりいいわ。それにしてもあなたは吸血鬼のくせにタバコを吸うのね」
「ああ、好きだからな」
タバコのケースを開き、シャカシャカと振って遊ぶ彼の姿を見て思った。
『こいつの何がいいんだろう』
と。思って、その思いを自分で笑った。
- Re: Bloody End〜染血の姫君〜 未だキャラ少だけど第四章 ( No.33 )
- 日時: 2011/09/22 00:00
- 名前: *荊* (ID: MbtYH2rf)
箱からタバコを取り出し口にくわえる。
冥から笑われていた。当然だろう。吸血鬼には全く意味のない行動なのだから。
「久しぶりのタバコだぜ」
血に対する欲望を煙をふかすことで満たしていく。この行為がどれだけ馬鹿なことで無駄なことなのか、冥は承知しているから彼を笑うのだ。
彼も知っていて吸っている。タバコにも血と同じで依存性があり、習慣付いているようなところがある。
「そんなもので満たされるの?」
冥は尋ねる。前は彼もタバコを吸う人間を見て、そんなもので気がまぎれるのか、と思っていた。
でも今では尋ねられる側になっている。
何をしようとどこまでいこうと飢えは彼女らハーフの吸血鬼を襲い呪縛し続ける。
天霞だって十二分に知っている。
「タバコだっていいもんだぜ。一瞬だけなら自分を欺けるしな」
彼はこんなナスの葉の包みもので解き放たれてくれる易しい呪いでないことを自覚していながら、一瞬だけのその時でも満足していた。
「一瞬だけで何が変わるの? 逆に現実逃避した後の虚無感の方が辛いと思うけど」
「逃げるのの何が悪い? 俺は逃げ続けることでここにいるんだよ・・・・・・ちょっと待ってろ」
ゆっくりと近付いてくる足音を耳が感じ取り、天霞が外を見るために外胃に出て行く。
「私も——」
「だめだ」
天霞はすぐに否定した。彼お得意の否定だ。
しかしこの時に限っては・・・優しい否定だった。
「なんでよ!?」
冥は声を荒げ引き下がらない。
「諦めの悪いお姫様だな。姫君は姫らしく籠の中にいてくださいな」
天霞は急に謙って、少しむかつくような口調で言った。
「何が姫よ・・・こんな事なら姫でいたくないわ」
言葉では反論しながらも天霞の言葉に落ち着きを取り戻していた。
冥は彼の言葉に弱いのだ。
「吸血鬼の・・・じゃなく俺の中の姫でもあるんだよ。だから籠の中で何も知らないでいてくれ」
天霞が知る事を罪と言っても・・・それでも彼女は知りたがっている。
しかし冥は天霞の言葉に弱いのである。
なぜなら冥はお姫様などと言われるのが堪らなく——。
「タバコの火が消える前に終わらせる」
彼はタバコを人指し指と中指で掴み煙を吐きながら言い残し、再び口にくわえた。
彼は王に仕える兵士だった。今日は一日に二人も殺すというハーぢなスケジュールだった。
特に意識したこともなく、コミュニケーションを取っているわけでもないのだが、同僚達が死んでいくという訃報を聞き、同じ境地に立つ者として少しは悲しみを抱いていた。
任務に当たる人手が少なくなったからと言って一人当たりの仕事量を増やすというのはどうだろうか。
必然的なことだが、不条理に思えてならない。
「俺をなんだと思って居るんだよ」
と言い、ただの駒か、と自分で突っ込む。なんとも言い難い悲しい光景だった。
しかし小さく洩らしたそれらの愚痴は本来彼らには会ってはならぬ事である。
彼らは王の最強最悪で絶対的な忠誠を持つ人間の人間による人間のための(?)吸血鬼なのだ。
忠誠を反する行為となってしまう。
「一網打尽か・・・人使いが荒いね」
これまで自我を持ったとしても高すぎる自尊心と自己主張、自意識過剰ぐらいの意識だった。
自我を保つためには全てを捨てるか、全てを誇張するか。
二つで一つ、真実は一つであるはずなのに、彼は自尊心を持つわけでもなく、はたまた全ても捨てきれず、中途半端に冷めた感情を持った人造吸血鬼だった。
- Re: Bloody End〜染血の姫君〜 ただいま第四章 ( No.34 )
- 日時: 2011/09/23 01:58
- 名前: *荊* (ID: MbtYH2rf)
火が煙を立ながら導火線のようにタバコの筒を削っていく。
「冥にはタバコが消えるまでに終わらせるってかっこつけて来たけどな・・・この数はやばいぜ」
やる気のなさそうな鮮やかな真紅の鎧を纏った人造吸血鬼(?)が朱の鎧をぞろぞろと引きつれて来た。
「お出迎えとは丁重にどうも」
やる気なさそうに肩を落とし、真紅の鎧は言った。
無気力な目が透けて見えるようだ。
「出迎えに何を出すかは君達次第だけどな」
「じゃ、お茶くれます?」
「血しかありませんけど?」
「じゃあそれで結構です。ちょうど喉渇いてたから」
人造吸血鬼も血を飲むのか。
じゃあ——
天霞は素早く動き、同時に手に血の槍を握る。
「粗茶ですが」
——人造吸血鬼の血はいかがかな?
朱の鎧を朱で斬り、血の器に溜めた朱の鎧の首から零れる血——人造吸血鬼の血を彼に投げ飛ばす。
「どうも」
先程とは打って変わって真紅の鎧は怒りを鎮めたような声で言い、地に転がった血の器を足で踏み潰しす。思い切り踏んだ後もごりごりと足を動かし、粉末になるまで砕き続けた。
器の形が完全に無くなり、欠片さえも目に付かなくなってから、ようやく彼は落ち着きを取り戻し、真紅の仮面を脱ぎ払った。
美形の顔が覗かせる。しかし怒りにふるえる姿でも、彼は偉く無気力な顔だった。
その綺麗な顔の中でも目だけは一点に天霞を見つめ、明らかな殺意を宿している。
顔を歪ませず目だけに力を込めるとは器用なものだ、と天霞は内心笑っていた。天霞にはまだ笑う余裕があった。
天霞の頭の中で白が黒く濁っていく。
すると頭はすっきりとしていった。まるで麻薬でも飲んだかのように。
「・・・殺せ」
先に殺すという単語を発したのは真紅の鎧を纏う彼だった。
「了解しました、046号中隊長」
046号と呼ばれた真紅の鎧はいきなり動いた。だが目標は天霞ではなかった・・・頭を鷲掴みにされたのは中隊長のナンバーを呼んだ朱の鎧だった。
「その名で呼ぶなと言ったはずだが?」
「す・・・すみません」
人造吸血鬼は身の危険を感じると恐怖する機能は人間と同様付いたままだ。恐怖は忠誠を誓う面でも重要であるからだ。
彼らは人間でもないが、ロボットでもない。
人に改造されたというだけで吸血鬼なのだ。存在が歪んでいるという点から見ればハーフの吸血鬼も彼らも変わりはしない。
彼——046号は優しく冷たい笑顔をつくり「分かればいい」と言った。
「で、では何とお呼びすれば・・・?」
頭を解放された吸血鬼は怯みながらも尋ねた。
「シローと呼べ。それで構わない」
046号もシローもさほど変わりはないように思えた。でもその人造吸血鬼の考えを消し去るようにシローは続けた。
「・・・俺は番号が好きじゃないんだ。まるで俺が創られた存在みたいだからな」
実際、シローは創られた存在であるというのにそれを知っていながら否定したいとシローは言う。
「・・・了解しました」
否定したい、その感情は天霞にも通じる所があった。
「殺す・・・か」
殺す事は生命の否定であり、この世を生きる生命体にとっては最大の否定だ。
殺害という否定で生きる意味を見つけるということから考えると、吸血鬼という生き物は血から自分の意味を酌み取る大きな力を持っているのではないだろうか。
「さて、死んでくれ」
シローが手を挙げ合図すると大勢の人造吸血鬼達が血を硬化させ始め、態勢を整えていった。
「火が消えちまったよ」
タバコは短くなって——天霞は冥との約束を果たせなかった。
しかし命の火まで消すつもりは毛頭無い。
「やるか」
血槍を両手に産み出し、右手に構える槍は切っ先を上げ、左手に構えるそれは少し垂れ——いつでも動かせて、自らも動ける状態を作る。
戦いは静かな内から始まっていた。
台風の目よりも不穏な静けさが未来の戦場を包んでいる。
血槍を握る天霞を囲んでいく朱の鎧は、町外れの舗装されていない道路を覆い、不気味さを醸していた。
- Re: Bloody End〜染血の姫君〜 ただいま第四章 ( No.35 )
- 日時: 2012/01/31 23:52
- 名前: *荊* (ID: LNgGYvWh)
今さら言えるはずがない。
冥が戦いたいとうずうずしている時に、花蘭は考えていた。
花蘭には秘密があった。
花蘭は、天霞に思いを馳せ握り締めた手に血を滲ませる冥を一瞥し、また花蘭の意識は自分の思いに飲み込まれていった。
「・・・私があの宮殿で勤めていたなんて・・・」
「何か言った?」
「いえ何も」
笑顔を都合良く取り繕い、難を逃れようとする少女はまるで大人だった。
大人な少女は以前城で研究していた。
『何で吸血鬼が吸血鬼の研究をしていたのでしょうかぁ?」
吸血鬼の村の王が何故吸血鬼を調べる必要があるのか・・・。そして何故この村の王は吸血鬼を殺そうとするのか。
冥達のように王もまたハーフの吸血鬼で自分を探し続けているとでも言うのか?
大体、ハーフの吸血鬼が吸血鬼の頂点に立つ事など可能なのか。
「・・・天霞は大丈夫かな」
冥が健気に心配する。その姿は獣になど見えなかった。
ただの女。
乙女にしか見えない。しかし冥は黙って帰りを待てる都合の良い女などではない。
困難には自分から立ち向かい、全てを血の剣によって切り裂いて来た。
まず困難に成り得るものなどなかった。ただ一つだけあるとするならばそれは自分の存在であり、自分の記憶であり、この村、吸血鬼の村である。
謎めいたこの場所だけが冥にとっての壁であり、答えだった。
生きる意味がこの村にある。ハーフの吸血鬼の存在の意味がここにあるのだ。
なのに冥はこの村で出会った天霞に惹かれ、そして願っている。
願うよりも思うよりも早く行動していた冥には今まで見られない変化だった。
「大丈夫ですよぉ、天霞さんは冥さんと同じなんですからぁ」
「同じ?」
「ええ」
「そう」
どちらもそれ以上の事は語らなかった。すでに冥には答えなどよりも先に大事なものが生まれていたからだ。
——それは恋——
「くそ。多いんだよ・・・・・・はっ!」
声を発し力を高め——二槍をクロスさせた。
二槍の交わる座標に居た人造吸血鬼は身体に刺さった二つの槍を見つめ、自分の血を目に焼き付けて事切れた。
死を確認する前に二槍を肉体から抜き、一方は右方の敵を受け止め、もう一方は左方を。
左右の敵を同時にを薙ぎ払い、身体を回転させて左手の槍で右方の敵を突き刺す。
「ぐ・・・・・・」
斃れる瞬間だけを見て再び槍を抜き、血を払う。
『お前も汚れたもんだなぁ」
黒が言う。
確かにそうかもしれない。
天霞の白さはもはや純白とは言えず、灰色・・・黒に近付いているような色になろうとしていた。
白への別れなど告げている暇はない。元来、白と黒は二つで一つの存在であって別れている事がおかしいのだ。
黒を知ってしまった天霞はもう白いままではいられない。
思いに耽るのは槍を抜かれた人造吸血鬼が地に落ちるまでの一瞬で、また左方に向き直り、右手に握る槍を突き出す。
「朱い・・・」
餌食となった人造吸血鬼は感想を述べた。
天霞の右手の槍は朱の鎧を突き破り、朱の鎧は彼の新鮮な血によって深い朱に染め直されていく。
「そうだぜ。朱い」
横に薙ぎ、突かれた腹から半身が切り裂かれ、血を垂れ流す——槍は斃れた彼の横に立つ男を断ち、跳躍して一気に距離を詰めてくる敵に対しして、形を変え、小さな雫と化し降り注ぐ。
地上と平行に降り注いだ血の雨は空中の人造吸血鬼達を肉片にした。
「ふっ!」
生き残った穴まみれの朱の鎧を左手の槍で切り伏せ、再び血の雫を集結させて右手に槍をもたらす。
「儚いもんだ。せっかく吸血鬼になってもこんなに早く死骸になってしまう。人間も吸血鬼も死んでしまったらただの骸。ホント無様なもんだよ」
死んでいく人造吸血鬼の哀れさを謳ったのはシローだった。
中隊長は戦力がなくなっていくという計算や策略ではなく、散っていく命を見て、阿呆だな、と思っていた。
シローもまた人に造られし吸血鬼だ。だからこそ理解できる。彼らは吸血鬼になってしまう段階で心を失い、意味を失い、存在を失い、何のために生きているのかを考える脳さえも失いそうになっている。
シローだけが思考を巡らせることができた。
何故、生きるのか、意味を追い求める事ができた。・・・だからこそ辛い面もあるのだが。
しかしそれさえも知る事が許されず、ただ散っていく人造吸血鬼はもっと哀れだろう。
「俺だって死ぬんだよな。それにお前も」
敵は後十人。
それらはシローを中心に立っている。
シローに向けて右手の槍を水平に振り上げた。
「そうだ。俺も死ぬ。046として造られた俺は死する事でやっと意味を持つんだろう」
「ああ。死ぬ時ぐらいは意味を持たせてやんよ」
振り上げた槍を肩に持ってきて力を込め——投げる。
高速で飛んだ槍は前方のシローを貫くべく空気を切り裂いて進んだ。
「でも——」
彼は言う。
「——まだ死ねない」
刀が槍を斬った。
「そうかい、でも俺は殺すぜ。例えお前が拒んでも、俺はその拒絶も拒絶する」
刀が消える。刀を構築していた血が空中を華麗に舞う。
「俺も負ける気はない。君らは下がって」
「了解しました」
従順なる兵士達は道を空け、空白のできた道をシローは歩き天霞に近付いていく。
吸血鬼とされた人間とハーフの吸血鬼が対峙した。