ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
 入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)

Bloody End〜染血の姫君〜 完結。
日時: 2012/02/15 17:51
名前: *荊* (ID: LNgGYvWh)

*荊*です。

未熟者ですが見ていってくださいm(__)mペコリ


気に入ってくださいましたら
ぜひコメントよろしくです!!


◆キャラ紹介◆
茅 冥(ちがや めい)
吸血鬼(?)
朱の魔術師と呼ばれているが、姿を知っているものは皆死んでいるので正体を知っている者は少ない。


十字 花蘭(じゅうじ からん)
研究心旺盛な、笑顔がチャーミングポイントの小さな幼女。

三神 天霞(みかみ かみか)
吸血鬼のような違うような、あやふやな存在。
多重人格者。

シロー(046号)
人造吸血鬼ながら心を持つ。
王に対して不信感を持っている。

ブレイク
最初の人造吸血鬼。



■用語■

人造吸血鬼
王に作られし、吸血鬼。元は人間で、吸血鬼との中性的な面も持つが、吸血鬼になる段階で心を失っていっていることが多い。

ハーフの吸血鬼
人間と吸血鬼の間にできた子ども。吸血鬼は互いに血を交える事で契りを交わすが、稀に人間とその契りを交わす者がおり、その二人の間でできた子ども達はハーフとして生まれる。



呼んで下さった方々、有り難うございます。
心より感謝です!

Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11



Re: Bloody End〜染血の姫君〜 ただいま第四章 ( No.36 )
日時: 2011/09/24 17:44
名前: *荊* (ID: MbtYH2rf)

人造吸血鬼の掃討作戦が失敗に近付いていく様子を見ている吸血鬼が居た。

「真っ昼間からよくやるよ」

小さく呟き、死んでいった兵士達を見る。

彼らは天国にいったのだろうか、それとも地獄にいってしまったのだろうか。

・・・どこにも、いけなかったのだろうか。

彼自身もぎりぎり数えきれる程の人造吸血鬼達をこの手で屠ってきた。

殺すという行為は殺された側のヒトの運命を破滅させるということになるのだ。殺す事が重罪とされるのはそのためである。

他人の運命を破壊することでしか未来を掴めない吸血鬼と呼ばれる存在はどれほど不完全で、悪しき存在かが分かる。

ただでさえ不完全であるのに、そのハーフともなれば・・・。

人間も完全な訳ではない。人は人を殺す。殺さずとも生きていけるのに。

しかし、動物もまた動物を喰らい生きている。人間も例外ではなく、生命体は生命を奪うことによって自分の栄養源とする。

太陽からの授けものだけで生きていけるのは植物ぐらいだろう。

動物は不安定で不完全なのだ。死のサイクルで周り、一方を喰うことで生き延び、その生命も他方の生命体に食べられ、食べたものは生きていく。そして、一つの生命体が朽ちると円が壊れてしまう。

そう考えると吸血鬼もまた動物という枠に当てはまるのかもしれない。吸血鬼だって動物なのだ。

「はぁ、疲れたな」

頭を休ませる。

「どうでもいいね」

吸血鬼の定義など彼には関係がない。

「行くかな」

彼は、少年は生きているのだ。

吸血鬼と人々から畏れられ、忌み嫌われる彼らは血を吸う行為で生命を維持する。

「朱なんて美味しそうな色を纏っているじゃないか」

少年は舌なめずりをした。

「いけない、天国逝くには吸血鬼の部分を出しちゃいけないんだった。・・・僕はこの鎌で仕方なく人造という理から外れた存在を砕くんだ」

仕方なくだよ、と自分に言い聞かせるように言葉を続けた。






村外れのここでは一軒家がぽつぽつと幅を開けてあり、空き地が多い。

「そういえばさ、何でこれだけ騒いでヒトが出てこないんだ?」

天霞が尋ねた。

吸血鬼の村でもさすがにこれだけ血が出ていれば驚きもするはずだ。

「殺したからね」

シローは答える。

平和ボケしている吸血鬼だとしても抵抗すればそれなりの力は発揮するだろう。だがシローはそれをいとも簡単に「殺した」と一言で片付ける。

人造吸血鬼は本物を越えた。ならば天霞は——ハーフの吸血鬼は本物も偽物も越えたということになる。

「殺した・・・かぃ。なら俺はお前を殺せば本物になれるのか?」

「本物? 君は所詮半端物には違いないよ」

「そうだよな」

槍を両手で構えた。

「ああ、変わらず、変われないんだ。俺達も君も」

シローは相変わらず無の構えだ。彼を取り巻く血も変わらない。

得体が知れないので懐に飛び込めない。

天霞は心の中で舌打ちをする。黒が出てきそうな気分だった。天霞は苛立っている。

「・・・うおおおおおぉおおお!」

迷いを捨てて血を結束させる。転がっている人造吸血鬼の血に自分の血を混ぜていたのだ。

血が槍の刃を修飾していく。

刃が伸びる——しかし。

「危ないね。こんなものがあったら部下もやられるわけだよ」

シローは特に慌てずに空中の血を刀に換え、受け止めていた。

突きという一点に集中した小さな刃を鋭く細い刀で、何事もなかったかのような無気力さで切り上げ、弾く。

刀はまた消える。

「なんだよそれは・・・そっちこそ秘密兵器じゃないか」

天霞はどんな攻撃も受け止めるような絶対防壁のシローの技——居合い斬りを打ち崩せずにいた。

「俺はこの力じゃ何もできない。誰も守れないし、自分が苦しむだけだ。だからせめて自分だけは生きようって思ったんだ」

「最低だな。無理矢理にでも守ろうとは思わないのか? それが男ってもんだぜ」

「思わない。生きる事が先決だ。自分が生きてれば何かはできるかもしれない」

冷めた目を天霞は見つめる。

人造吸血鬼が死ぬ事に怒ったり、でも切り捨てたり、シローが何を思って居るのかが読めない。

食えない男だった。

彼はやはり無の構えでゆっくりと歩み寄ってくる。

「今できなければ何もできないと思うけどな」

「それでも俺は生きられる方法を選ぶよ」

「なら何で俺と戦うんだ? 数で押してきた方がいいんじゃねぇのか?」

「無駄な死は生みたくないんだ。君は強い」

すでに散ってしまった命にシローは目を細める。

「そりゃどうも!」

シローが零距離まで近付く前に、天霞は自分から赴く。

「いえいえ」

腰に手を丸め、構えるとその手の隙間に刀が構築され、抜き放たれた血の刀は天霞の血槍を受け流した。

「く・・・」

天霞は態勢を崩す。槍が地に刺さり身動きがとれない。
血槍を手放すのに時間を掛けてしまった。

「君は強い。しかし・・・」

しかしの後の言葉は行動によって示された。

刀を血に還さず、刀を握ったまま次の一歩を踏み出す。

「そ・・・」

新たな血槍を創り出しても間に合わない。天霞は棒立ちした状態で自分が死に冒されていく刹那を見ていた。

シローが近付いてくる。コマ送りのようによく見えた。
頭はよく働くのに手を動かせない。身体の全てが敗北感に満ちている。

「——!?」

その瞬間だった。






死神が現れたのは。






「そんな朱く染まっちゃいけないよ。天国にいけなくなる」

死神は鎌を構えて言う。

朱い目に朱い鎌、朱い唇、朱い髪。

朱すぎる彼は死神と呼ぶに相応しい格好だった。

「死神・・・?」

天霞は疑問を持った。

天霞が殺されると思った瞬間に、天霞とシローの間に飛び込んできた少年に対して。

「こんな時に・・・!」

シローは戦闘態勢を放棄し、無の構えに戻った。

あのシローが慌てている。

「何者だ・・・?」

人造吸血鬼にとって死神。そして、天霞にとっては天使。

その少年は・・・。

「僕はブレイク。未来の天国の住人だよ」

ブレイク——破壊。

天国にはそぐわない彼の言葉は笑えない冗談だった。

Re: Bloody End〜染血の姫君〜 ただいま第四章 ( No.37 )
日時: 2011/09/25 21:57
名前: *荊* (ID: MbtYH2rf)

彼らは宮殿に近付いていた。

死神の容姿をした少年——ブレイク。
彼もまたハーフの吸血鬼であり、血を操る能力を持つ者だ。

ブレイクは天使でも死神でもない。ただの吸血鬼であり破壊者。

王からの使者——刺客、人造吸血鬼を鎌の一振りと朱い視線で退け、宮殿を潰すと言った彼の後に、天霞は冥と花蘭を連れてついていっていた。

「何で近付けるんだよ? 俺が歩いてた時は駄目だったぜ? なぁ、冥」

「ええ。こんな・・・宮殿を近くで見たのは初めて」

神出鬼没の宮殿は現れても近付けはしなかった。なのに今は目の前に宮殿がある。

「知ってるよね? 花蘭ちゃんは」

「え、私ぃ・・・えっとぉ・・・」

花蘭は答えられなかった。

この日、この時間しか道が開けない事を冥は知っていた。しかしそれを喋る事はできなかった。王に恐怖しているからではなく、ただ冥が幸せそうにしていたからだ。

花蘭にはもう冥が自分の存在の意味など追う必要などないように見えた。

恋、愛。

冥をそのような心が支配していたのであれば、また改めて闇夜に身を投じる必要などないと思ったからだ。

しかし何故少年が知っている?

「教えて」

冥が突き詰めた。

「えっとぉ・・・」

まだ言えずにいた。

「働いていたからだよ」

何も言えない花蘭の代わりに話を続けたのはブレイクだった。

「どこで?」

ブレイクに冥は尋ねる。

「宮殿で、だよ。僕もそうだった。あの宮殿で雇われていた。でも殺されそうになって逃げてきたんだよ。どういうわけか、僕は生涯追われる身らしいね」

新聞に載っていた人造吸血鬼狩りはブレイクの仕業だったと彼自身が前に語った。

「それで、何で花蘭は隠していたんだ?」

天霞は怒らず静かに花蘭に尋ねた。

「・・・二人が綺麗だったからですぅ」

綺麗、花蘭の目には冥と天霞が宝石よりももっと煌めいているように見えた。

「綺麗・・・?」

冥は意味を理解できなかった。

「そうかい。血よりも綺麗なもの・・・。あるのかもな」

天霞は分かったような口をきく。果たして本当に意味を捉えて言っているのか。

天霞は知っているのだろうか。

冥の思いを。血より綺麗だというものを。

「とりあえず、中に入ろう。終わらせてから話せばいい」

「ええ・・・」

冥は宮殿を前にして違和感を感じていた。

『何かが違う・・・』

「どうしたんだ? 行かないのか?」

天霞が冥に尋ねる。

「行くわよ」

三人に遅れて、冥も歩み出す。

「おい、お前達なんだ!?」

普通だと現れもしない客に門番の兵士が戸惑う。

「ごめんなさい」

これから行うことに謝罪してからブレイクは宮殿の兵士を路地にキスさせた。

「うぐ・・・」

吸血鬼のように強くはなかった。

「何で人間が・・・?」

「従えているんじゃないか?」

「そうね」

吸血鬼による統治国家・・・馬鹿なものをしているものだわ、と冥は思った。

血が必要なら食べに行けばいい。外食すればいいだけのこと。

なのに王は隠居生活を送っている。吸血鬼の王らしからぬ事だ。きっとその血はさび付いているに違いない。

『王、あなたは答えを知っているわよね?』

宮殿内に居るであろう王様にハーフの吸血気の姫君は尋ねた。

「舞踏会をしているようだね」

開かれている扉から踊っている数人の男女が見えた。

「こんな日に踊っているの・・・。馬鹿ね」

「精一杯踊ろうぜ」

「ええ」

「あのぉ、私踊りはできないんですがぁ・・・」

「見てればいい、俺達の踊りを」

宮殿内の人間達は何も知らずに楽しそうに踊っている。



血の舞踏会が幕を開けた——。

Re: Bloody End〜染血の姫君〜 ただいま第四章 ( No.38 )
日時: 2011/09/27 01:10
名前: *荊* (ID: MbtYH2rf)







「可笑しいと思ったわ。ここには人間の香ばしい匂いしかしないもの」

冥は王に言い寄った。

「私は吸血鬼ではないよ。だからといって君達のようなハーフでもない」

「ハーフ? なにそれ? ・・・でも思い出したわ。初めてヒトを殺した感覚と高揚感は。・・・私は——」

『私は、一体誰を殺したんだろう?』






天霞は獣のように暴れていた。
王の配下達を食い散らかす彼は醜く、血よりも汚く穢れ、彼の黒が浮き出ているように感じた。

「違う違う違う!! 人間! これも・・・人間だ! 今欲しいのは人間の血じゃないんだぜ・・・。俺ハきゅウケつキをコロシたイんダ!」

天霞が狂っていく光景を目の当たりにして冥は何もできなかった。
その手には二本の剣が握られ、冷静を失った状態の天霞を殺める事など容易いことであるのに、動けない。

もちろん、殺す気など米粒ほど、否、雪の小さな結晶ほどもないが。

しかし、何もしないまま脱力感と言えばいいのか・・・言い表そうのない気持ちを味わうのはあの日以来だった。


——冥の目には同じ色の朱に写った——


「繰り返す訳にはいかない!」

全ての根源、王を断ち切る。それは天霞にも譲れない。自分の手で。

殺してしまえと本能が叫んだ。冥は血の乱舞を踊ってみせる。

「こんな綺麗な朱を見たのはいつぶりだろう・・・」

花蘭は凄惨な朱を見ていた。綺麗すぎる朱を感じたのは冥を切り裂いて以来の事だった。

冥の血と線は綺麗なものでしたぁ、と花蘭は冥の吹き出た朱の思い出と冥を幻覚で自由自在に操った時の爽快感を思い起こす。

「うぉぉおおお!」

呆けていた花蘭に兵士が走っていく。一つしかない門の前で突っ立っている花蘭を見れば標的にされるのも当然のことだった。

道を切り開くため、それならば少女でさえも殺す事を厭わない。

「ああ・・・子どもに手を出すなんてとちくるったのですかぁ?」

今までは冥や天霞、ブレイクが狩り続けていたためヒトはやってこなかったが、やっとおこぼれが現れたようだ。

「本当に馬鹿ですねぇ」

いかにも狂った少女は大の大人の兵士に向かって平然と侮辱を並び立てる。兵士が剣を掲げ、全速力で近付いて来ているというのに。

「え・・・?」

考える事を思い出した時にはすでに夢の中に居た。

「つまらない夢」

花蘭は吐き捨て、彼を夢の深淵に堕とす。

「うああああぁぁああ!」

目を瞑りながら叫ぶ兵士は実に滑稽だった。兵士は夢に落ちたことだろう。

「子どもなんですよぉ。手加減してもらわなきゃ」

子ども・・・の花蘭は兵士の髪を掴み上げ、朱が散っている床に兵士の顔面を押しつけた。

「何笑ってる? 気持ち悪いよ?」

「いいじゃないですかぁ・・・ブレイクも笑ってますよぉ? それよりも私を助けに来てくれたんですかぁ?」

「うん・・・」

困ったように彼は頷く。

「死神は意外と親切なんですねぇ」

「死神・・・ね。うん、まぁ僕も子どもを見捨てる程鬼畜じゃないつもりだけど」

ブレイクは走ってきてくしゃくしゃになった無造作な髪を掻いた。

「十分鬼じゃないですかぁ、何人の首を狩ってると思ってるんですかぁ?」

指で数えてから・・・ブレイクはさぁ、と手を横に広げて言った。

「みんな鬼ですよぉ。ここに居る人はみんな。人間もみんな」

花蘭という人間は吸血鬼を知るために何人を切り開き、その度に嗤ったのか、花蘭は過去を思い出しながら人数を数えていったが、当然覚えているはずがない。

そんなものなのだ。花蘭にとって——そしてブレイク達にとって、殺すとは、大した事ではなく、数える程のことではなくなってしまったのである。

ブレイクは花蘭の前に立つ。零れるヒトと笑み。

鬼は疾風のごとく駆ける。

冥は逃げ惑うヒトの中を蹂躙する。駆逐し王を探す。

「どこ・・・?」

「王室に逃げ込んだみたいだな」

同じように血の噴水の中を駆け巡る天霞が言った。

「そうみたいね・・・ふふ面白いわ」

また一つ、噴水が生まれた。しかし天霞はそんなことになど目もくれず、王室へと続く扉を探した。

「あれだぜ」

彼が指を差す。

「そうね、でももう少し踊らない? ハーフの吸血鬼を弄んで切り刻んでおもしろがっていたような奴らを野放しにはしたくないの」

死の舞踏会は彼らが嗤い続ける限り終わらない。

「いいぜ」

彼もまた笑いヒトを狩る。

「また人間か」

吸血鬼ではない。全く手応えを感じないのだ。

「そうね、少し可笑しいわ」

殺した中に吸血鬼は居なかった。しかし誰もが裕福そうな格好をしており、事実王に招かれるような奴らだったのだろう。

『何故、吸血鬼の王はハーフの吸血鬼を殺める?』

冥には疑問だった。もしかして王はハーフの吸血気であり、自分を探すために同類を殺すという不器用な手段を執っているではないかとも考えられる。

だが、分からなかった。

何で・・・こんな殺す必要があるのか。
自分にも王にも尋ねかけた。



——何も分からない。誰か、血に染まる私を助けて——



そう心の中で叫びながらヒトを斬り殺す冥はあの日と変わらなかった。

Re: Bloody End〜染血の姫君〜 ただいま第四章 ( No.39 )
日時: 2011/09/28 00:05
名前: *荊* (ID: MbtYH2rf)

天霞が我を失う程に血をあさっていた頃。




「あれ? 冥は・・・?」

気付いた頃にはもう居なかった。






「あなたは王?」

「そうだよ」

やや怖がっているような震えた声で王は答える。

「吸血鬼の? それとも・・・人間の?」

「・・・・・・人間の」

小さく明確な答えを言った。
王は吸血鬼の王ではなく、人間の王・・・。

「可笑しいと思ったわ。ここには人間の香ばしい匂いしかしないもの」

冥は王に言い寄った。

「私は吸血鬼ではないよ。だからといって君達のようなハーフでもない」

ハーフの吸血鬼・・・。まるで糸がほどけてしまったような、そんな感覚だった。

「ハーフ? なにそれ? ・・・でも思い出したわ。初めてヒトを殺した感覚と高揚感は。・・・私は——」

思い出せるはずなのに。ピースはそろったはずなのに、上手く組み合わせられない。

『私は、一体誰を殺したんだろう?』

そのピースだけが欠けているのだろうか・・・。

「どうした?」

「うるさい!」

ブスッッッ。

「あ・・・」

いつの間にか顕現した血の剣が冥の手にしっかりと握られ、その剣は人間の王の胸を貫いていた。

『こうやって、お母さんとお父さんを殺したのかな?』







「とてもいい色ね」

と言いながら冥は目から水を流していた。

それを隠すように舌を向く。

彼女は血がこびり付いた手で水を拭くけれど、水の色を確認しても透明なその水は血に溶け込んで手の血が薄くなっただけで色など確認できるはずもない。

血のついた忌まわしい手で拭った頬が朱くなっている。

「大丈夫か?」

思わず声がした方に顔を向けた。

獣のようだった彼の目が普段の優しい目に戻り、見つめられる冥は吸い込まれそうな瞳に対抗するように彼の瞳から目を逸らさない。

でも天霞の瞳は水の屈折によって揺れていた。

水を払うために何度もまばたきをして、朱を流して青白くなって固まっている王を見下ろす。

「とっても良い色」

王は王室の金色の壁にもたれ掛かるようにして倒れている。

「悪趣味なやつだぜ」

天霞は冥の横顔を見ていた。悲しそうだ。・・・あり得ない。悲しそうにしていた。

冥が血を見て、悲しそうにしていた。

「本当に・・・本当に・・・・・・」

そう言うとまた言葉を続けられず、涙を流し——床に手を付いた。

「大丈夫か?」

彼は冥を支えるように手を冥の身体に当てる。

「私、あなたが好きみたい」






ブレイクは花蘭を守るように戦っていた。・・・否、彼にとっては戦った、というほど体力を使う行為ではなかった。

ただ「殺した」というだけであり、数学の問題を解くのと同じように簡単な作業なのだ。

定理も定義も法則も、何も必要ない。鎌を振り下ろせば死骸が飛ぶ。
それだけのことなのである。

「怪我ない?」

「はいぃ。私は大丈夫ですけどぉ」

「ああ・・・これは全部ヒトの血だから大丈夫だよ」

ブレイクは黒服から肌、何から何まで朱になっている自分を確認し、苦笑いをした。

「そうならいいんですけどぉ。鎌、大きくなりましたねぇ」

「うん。あの数だから・・・ちょっと重いかな」

ジョークのつもりなのか、ブレイクの身体の三倍はある鎌を上に投げ、軽くキャッチしてみせた。

彼の鎌は朱を吸って成長する。
転がった死体の数だけ鎌は育ち、その大きくなった鎌はまたヒトを喰らう。

「面白いですねぇ、あなたの血は」

「解剖してみる? いつかの君のように」

「もぉあの頃とは違いますよぉ」

花蘭はこの宮殿で冥を切り刻んだ頃を思い出した。

「そう? 君の好奇心は僕も怖いくらいだよ?」

「・・・そうですかぁ?」

少し考えてから、分かりませんねぇ、と思考を放棄した。

自分の仕草など自分からは見えない。いくら考えた所で分かるはずもなかった。いかに花蘭が彼の鎌を見つめていて、好奇の視線を送っていたかは。

「もぉつまんないですし、私達も行きましょうかぁ?」

仰向けになっている骸を足でつんつんとさわり、遊びながら花蘭は言った。

「そうだね。みんな踊り疲れちゃったみたいだから」

床に斃れる彼らは決して踊り疲れたわけではなく、踊っていたのは四人だけだったのであるが。

「あれですかねぇ?」

花蘭は少し開いている扉を指差す。

「うん。行こう。僕も答えを知りたいから」

彼らは知っていた答えを。

「そうですねぇ・・・」

答え合わせ、それと答えに対して冥達が何を感じているのか。

それを知るために扉へ向かった。

Re: Bloody End〜染血の姫君〜 ただいま第四章 ( No.40 )
日時: 2011/09/29 00:59
名前: *荊* (ID: MbtYH2rf)

冥の身体を支える手から一瞬力が抜けたが、すぐに我に返って冥を支え直した。

冥も態勢を立て直し、天霞はゆっくりと手をのけた。

「今のって・・・? ・・・嬉しいな。姫君から言ってくれるなんざ光栄だぜ。でも・・・・俺達の恋は絶対に実らない」

それは決まってしまっていること。

「なんで・・・? 私はあなたを・・・」

ただの殺人衝動とは異なる、どこからか沸いてくる熱い感情を確かめながら言った。


——冥は殺したいほどに天霞を好きになっていた——


そんな冥を天霞は優しく抱き寄せる。
彼もまたどうしようもない気持ちを抱え、感情を我慢するために彼女を抱いた。

「えっ」

冥は吐息の混じったような可愛らしい声を洩らす。

小さな声でも今では零す事なく、全てが耳に届く。

「俺達は結ばれない。何故なら俺達はハーフの吸血鬼であり、吸血鬼の血を吸ったら吸血鬼に近付く、そんな存在だからだ。・・・でもそんなことどうでもいい」

禁忌だとしても構わない、と思うようになってしまうまで感情は強くなってきていた。

冥は無言で彼の瞳を見つめていた。
考えていた。彼の事を。同じハーフの吸血鬼、天霞のことを。

「好きなのに・・・・・・・・・・うっ・・・・・・・」

衝動と戦う彼女と彼は口づけを交わした。

唇が離れた後も驚きの表情で彼の瞳を見つめている冥を、彼も見つめていた。

「ハーフ同士が契りを交わしたら一方は完全な吸血鬼になり、もう一方は・・・死をもって人間になっちまうんだぜ・・・」

契り・・・契約・・・互いの血を吸う儀式。

「そんな・・・」

二人は他人の血で自分を朱く染め上げた。そして二つの朱は重なり合う。
しかし二人は悲しげに見えた。

まるで別れを噛み締めるように。

「だから俺達は結ばれないんだよ・・・・・・たとえ——」

彼は冥を強く抱き締め、耳に口を近付け、血を舐め上げた舌で一度冥の耳を撫でてから言葉を紡いでいく。

「たとえ、好きでもな」

告げられた一言はどんな斬撃よりも衝撃的で、冥の心を貫いた。






少し開いている扉の隙間から中を確認して、ブレイクは目を背けた。部屋が朱くて汚かったからではない。逆に二人が重なり合う姿が神聖的すぎたからだ。

死神の朱い目には辛すぎる光だった。

「どうしたんですかぁ?」

「いや・・・なんでもない。でも今は入らない方がいいよ」

「え? なんでですかぁ?」

「あ——」

ブレイクが止めようとするのをよそに、花蘭は扉から金箔で光り輝く王室を覗く。

「これは・・・綺麗すぎますぅ・・・・・・」

金箔が光輝き、どんなに綺麗だとしても、また朱がどんなに二人を穢れさせたとしても、二人の重なっている姿は神々しいもので、何者にも犯されない強く確かな光をまとっていた。

「朱よりも綺麗なもの・・・あったね」

二人を見て、ブレイクは思った。


——世界の色は朱ばかりではないのだと——


「でも・・・儚い綺麗さですぅ・・・」

一生続く輝きなどないだろう。しかしそんな馬鹿げた事を信じてもいいとブレイクは感じていた。

口に出さずとも彼は永遠の可能性・・・冥と天霞にそういったものを感じていた。

「綺麗で居て欲しいよ・・・」

自分は綺麗になれない、と決めつけていたからこそ彼は二人に願いを託し、自分は汚く朱に染まろうと思っていた。

「ブレイクもですよぉ?」

彼女はウィンクして言う。

「え? 僕?」

ブレイクは戸惑った。鎌で振り払える惑いではない。

できれば綺麗になってみたい、一度は蝶のように舞うのもいいかもしれないとブレイクは考える。

蝶にも朱は似合うだろうか。

違う・・・蝶になどなれるはずがない。

鎌を創造している血を体内に返還する。一気に身体が火照り、元々そこまで削られていたわけでもないが体力が回復していく。

「僕は・・・綺麗にはなれないよ。僕は朱すぎるから」

死神が綺麗さなど求めるはずもない。だが彼は天国を求める。それがブレイクの存在の矛盾だった。

「ブレイクは綺麗ですよぉ。なんなら私が綺麗にして差し上げましょぉかぁ?」

「遠慮しとくよ。綺麗な肉片に仕上がってしまいそうだからね」

「・・・・・・そんなことしませんよぉ・・・」

花蘭は白き純真と思われる感情を晒す。

「・・・そうか?」

白さを疑うブレイク。
ブレイクは朱以外の色は信用できなかった。死は裏切らない。死は死であり他の何者でもなく、朱はその象徴だ。

死は覆る事はない。

だからこそ重要だ。一度きりしか死ねない。
その先が天国か地獄か、一度しかチャンスはない。

ブレイクは死をもたらし、そして死を畏れ、それでも死を渇望し、矛盾と呼べる心を鎌という形で振っていた。

彼の鎌は心。

捻れたブレイクの心だ。


朱い心、朱い——。



——朱い恋は決して実る事はない——


Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11