ダーク・ファンタジー小説

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白夜のトワイライト【完結版】番外編を書くのが楽しすぎる……
日時: 2013/07/30 11:19
名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: Drat6elV)
参照: 参照1000突破! 記念企画、イラスト・挿絵募集してます!

世界は不都合だ。
救われた命、消えた命、理不尽な死、理不尽な世。

最期には消えていく存在だと知りながら世界に生かされている気がした。

だとしたら、僕達はゴミで、世界はゴミ箱なのかもしれない。

酷いな、と僕は小さく呟いた。


——————————


【前書き】
初めまして、が多いと思われます。遮犬しゃいぬと申すものです。
このたび、大幅な変更点を加えていますので、リメイクではなく、あくまで完全版として再投稿させていただくことにしました。
この作品は、一年半前ぐらいでしょうか。そのぐらいの時から連載を続けていた作品ですが、内容等が矛盾していたり、設定や進行も多くミスが見られた為、修正で何とかなるとは思えなかったのでもう一度こうして連載を再スタートさせていただきます。

予定としましては、この作品の完結を含め、続偏と過去偏も用意していますが……この完結版の完結だけでも相当な日にちがかかることは必須なので、書くかどうかはまだ未定です;
ですが、またもう一度再スタートということで、元から読者として読んでくださっていた方々、そしてこれから読んでくださるという方々含め、頑張って書きたいと思いますのでどうか応援を宜しくお願いいたします><;
ちなみに、シリアス・ダークの元の小説とは大幅に設定が変更している点が多い為、あくまで新連載としてみていただければ嬉しいです。



2013年新年のご挨拶……>>51

参照1000突破記念企画「イラスト・挿絵募集」……>>73


〜目次〜

プロローグ
>>1

第1話:白夜の光 (修正完了)
【#1>>4 #2>>5 #3>>6 #4>>7 #5>>11
EX【>>13
第2話:身に纏う断罪 (修正完了)
【#1>>14 #2>>15 #3>>18 #4>>19 #5>>20
EX【>>21
第3話:過去の代償(白夜の過去前編) (修正中)
【#1>>22 #2>>23 #3>>24 #4>>25 #5>>26 #6>>27
EX【>>28
第4話:訣別と遭逢 (修正中)
【#1>>29 #2>>30 #3>>31 #4>>34 #5>>35
EX【>>36
第5話:決められた使命 (修正中)
【#1>>37 #2>>43 #3>>46 #4>>49 #5>>53
EX【>>58
第6話:罪人に、裁きを
【#1>>65 #2>>70 #3>>77 #4>>80 #5>>85 #6>>87
EX【>>89
第7話:ひとときの間



【番外編】
『OVER AGAIN〜Fire Work〜』
予告編
>>59

【#1>>90 #2>>91 #3>>93

Re: 白夜のトワイライト【完結版】 ( No.43 )
日時: 2013/03/04 22:48
名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: gM9EmB37)

乱雑に撒き散らばった様々な硝煙の匂いが広がる。辺りは一面、人に忘れられた町のようであった。
人気はなく、まるで繁華街のようであった町並みも今は沈黙が漂っている。活気に満ち溢れていたと思わしき痕跡さえもこの殺風景な風景によって失われてしまっていた。

「これは……」

その町の様子を見て、凪が呟いた。
その両腰には二丁の銃が装着されており、後ろの腰には大型のナイフが備えられている。黒いスーツを身に纏い、金髪のショートヘアを硝煙の香る風に任せていた。
呟いたものの、その表情は凛として変わらず、冷静にそれを見つめている。

「少し前にここで争ったようだな」

まるで現状を確かめるかのように、凪の隣にいた白夜が呟き、歩き始めた。その後をゆっくりと凪も追う。
二人は同じように捜索しているが、共同ではない。どこかそれぞれの目的に順応しているような様子であった。

春たちとはまた別のルートから二人は侵入を成功させていた。道中に住民と遭遇しなかったことが幸いではあるが、繁華街に出る以上は遭遇するだろうと心構えていた。しかし、その予想に反して久樹市の繁華街は無人と化していたのである。

「断罪とは別の、何かの意思が働いている気がする」

突然、白夜が言い出したことに対し、凪は少し怪訝に近い表情をした。
今回の目的はあくまでも断罪の連行であり、その他の意思が働いていようが、任務には何ら関係はない。白夜の言い草はどうもそれとは見当の違う方向にあると思ったのである。

「というと、何だ」

凪はすぐに表情を戻し、そう返した。白夜は凪の方へと振り向かず、言葉を続ける。凪の視線の先には、白夜の着ているパーカーのフードへと向かっていた。

「見れば分かるだろう。明らかに、おかしい点がある」
「……"死体が一つもない"、か」

白夜の言葉に凪は即答した。
硝煙の匂いが"何故か"蔓延する中、どういうわけかその中に血の匂いは混ざっていない。銃は放っていることは硝煙の匂いのおかげで分かるが、血の匂いはなく、またその発生源となるであろう死体も見当たらないのである。
しかし、明らかな硝煙の匂い。それにこの無人状態の繁華街。不気味な違和感がこの繁華街を覆っていた。

「元々、ここに住民はいなかったと考えるとどうだ? 既にどこか避難し、この繁華街は使われていなかった……」
「だとしてもおかしい。何故硝煙の匂いが漂っている? 無人となったこの町が放置されていたのであれば、漂うはずがない。それに、陳列している商品はどれも腐っていない。先ほどまで人が住んでいた証拠だ」
「……なるほど、そうか。つまり……」
「あぁ。ここにいた住民自体が、銃を放った。争いを始める為に」
「だから別の意思が働いていると?」
「恐らく、エルトールである俺達にも敵意を向けるはずだ。別の意思が住民を動かし、奮起させた。……そうだとしたら、一体——」

と、そこまで白夜が話した途端、凄まじい爆音が響いた。その迫力は離れている白夜と凪にも伝わり、二人は何か言葉を交わすまでもなく走り出す。
まるでその爆音に引き寄せられていくかのように、繁華街を越えた先、センター街へと向かっていった。

途中、特にこれといって異変は感じなかったが、立ち込める硝煙の匂いは一層酷くなっているような気がしていた。
そして、センター街にようやく辿り着いたその先には、

「あら、思ったより来るのが早かったなぁ」

センター街の中心部にいる何者かが言い放つ。
木々があちこちに植えられ、中央に噴水があり、周りにはビルなどが建ち、明らかに人通りの多い場所のはずが、その者とその周りにいる民間人らしき者達、そして——


「待ってたよ……白夜光」


いつかの仮面を身につけた者が噴水の下部に座り、仮面の下で笑みを浮かべた。

——————————

「現れた」

途端、呟いた。それを聞いた傍にいた少女が不思議な顔をして見返した。
妖艶な雰囲気を纏ったその女性は、着物を翻し、上空を見た。その瞬間、爆発音が少し遠くで鳴り響いたのである。

「か、"神楽"様っ!」

妖艶な響きを持つ女性へと、蒼い長髪の髪を揺らした少女が驚いたように声を出した。

「そろそろ行こうか。……僕の客人が出揃ったみたいだしね」

笑みを浮かべる。が、それは嬉しそうでも悲しそうでもない、狂気という言葉が似合う表情だった。それを見た少女、千原 双(ちはら そう)は少し不安そうな顔を見せた。

「また……戦い、ですか?」
「そうだね。双、嫌かもしれないけど、少しの間"もう一人の君"でいた方がいいね」
「血を……流すんですね」

悲しそうな顔をする双とは裏腹に、神楽こと断罪はナイフを懐から取り出すと、それを見て驚愕した双を置き去りにして自分の手を自ら斬りつけた。
血が噴出し、それが双へとかかる。少量ではあるが、目の前で血が噴出したところを見た双は目を見開き、瞳孔が完全に開いてゆっくりと気を失いかけた——が、力が抜けたように手を伸ばし、顔が俯いただけで、何とか千鳥足で地上に踏みとどまっている。
それが数秒間続いた後、ゆっくりと顔をあげる。その表情は、笑みだった。狂気に満ちた笑みが、先ほどのあどけない少女の顔に浮かんでいたのである。

「あはっ、おはようございます、"断罪"様っ!」
「おはよう、双」

柔らかい表情で笑みを浮かべる断罪だが、その表情はどこか畏怖を感じさせる雰囲気を漂わせていた。しかし、それに対して双は興奮したような笑みを浮かべ、勢いよく喋り出した。

「あはっ、血が見れる、血が見れるんだねっ!? そうでしょっ? 私を呼んだのは断罪様っ、そういうことですよね? 殺すんでしょ? "この子の中"にいたら、すぐ気を失っちゃうから自分で血を味わえないの! だからね、すっごく楽しみにしてたのっ! あぁ、今すぐ殺したい! 誰でもいいから、早く早く……ッ!」
「ふふっ、相変わらず元気そうだね……。それじゃあ、味わいに行こう——惨劇スリルを、ね」

——————————

「っぷは、やっと地上だな……っと」

マンホールのような丸い円盤を移動させ、地上へと秋生は顔を覗かせた。見た限り、周りに人気はない。そのことを確認すると、ゆっくりと地下から這い出した。
秋生が出たのを確認すると、続いて春もそこから這い出す。二人はその場の確認を行った後、秋生が最初に声を出した。

「えらく……人気がねぇな」
「侵入する時はあれだけ警備されていたのに……中はこんなにも手薄……不自然、ですね」

二人が辿り着いた先は、センター街から少し近い3番街だった。
1番街に相当するのがセンター街。2番街が繁華街に相当する。二人が着いた3番街は、主に能力者が生活をし、結果的に一般人はあまり生活しないスペースであった。
全部で6番街まであるが、その中でも3番街が最も小さいスペースである。自治都市を掲げてはいるが実際、能力者に与えられたスペースは狭い。

「青空を拝むだけで、俺らは我慢しねぇといけねぇんだよな……」
「突然、どうしたのですか?」
「いや……あまりに人気がねぇってことは、ここに嫌気がさしたのかもなって思ったんだよ」

どこか不満そうな表情を浮かべつつ、秋生は辺りを注目しながら歩いた。春は、そんな秋生の様子にどこか重なった違和感を感じていた。
エルトールに所属する理由。その根本的な部分は、もしかするとこういう些細な理由であり、なおかつ当たり前のことなのかもしれない。そう思ったのだ。
それは、単なる人間として、本物の太陽と青空を見たい。そういう当たり前の常識が剥奪されている。物心のついた頃には既に能力が覚醒していた。いつからエデンが発見されたのか、ましてや誕生した時がいつなど分かるはずもない。だが、実体のないそれは恨む対象にはならず、元からこうであったと認識せざるを得ない。そういう人種になってしまった、己の不運だと春は思っていた。

「……だから、抜け出したんでしょうね」

あの重く、苦しい生活から。

「何か気付いたのか?」
「いえ、別に……それにしても、人の気配さえもありませんね」

知らず内に零れてしまっていた自分の"思い出"とやらを閉じ込めて、春は上手く話を戻した。

「あぁ、全くだ。てっきり民衆の中に紛れ込んでやがると思ったよ。そんで探し出すのに苦労して……ってのを予定してたんだが、これじゃあ断罪がいるってことよりも神隠しを疑うわ」

おどけたように肩を竦めて秋生は言った。
質素な家が出揃う住民街のような場所であるが、あまりに人気がない。生活感らしきものもあまりなく、不自然な様子が漂っていた。

「少し奥まで行ってみるか……何か分かるかもしれねぇし——」

と、その時。
目の前に一人、何者かが立っていた。黒い装束のようなものに包まれ、黒いマントのようなものを纏っている。ただ遠目からでも分かることは、目が赤く光っているということであった。

「何だ……?」

秋生が言葉を漏らした後、目の前にいる黒マントの者は突然腰元からおもむろに剣を取り出した。それを確認した後、次第にその姿は暗黒に染められる。それが消えたかと思うと、刹那に気配を察知した秋生と春は互いに左右へと体を転ばせた。
元より二人がいた場所には、いつの間にか背後にまわった黒マントの男が剣を二つ、振り下ろしていた。

「外したか……」

男が声を漏らしたのとほぼ同時に秋生は刀を構え、春はナイフを構えた。

「おいおい……いきなり誰かも名乗らずに攻撃してくるなよ」
「ふっ、それもそうであったな……。アバターコード、"斬将"だ」
「アバターコードということは……」
「能力者——かよッ!」

横斬りを仕掛けてきた黒マントの男に反応し、秋生は刀でそれを受け止める。笑みを少し浮かべた黒マントの男は、掛け声と共に連続で秋生へと攻撃を仕掛けていく。上下左右から来る攻撃の数々を刀で受け止め、体を反転させる。そのわずかな隙をついて攻撃を仕掛けた。

「遅いっ!」

黒マントの男は、すかさずその攻撃を感知し、もう一方の剣で刀を受け止め、秋生を蹴り飛ばした。

「うわっ!」

秋生の体を宙に浮き、そのまま蹴られた方向へと飛ばされる。
だが、その間に固まった黒マントの男の動きを逃さず、春がナイフで斬りかかった。

「くっ……!」

間一髪、黒マントの男は避けるが、頬にナイフが微かに当たり、斬り傷が一閃浮かび上がった。
もう片方のナイフで腰元を刺そうとする。黒マントの男は剣を振るい、そのナイフを弾いた。

「ぬぅっ!」

もう片方の剣を下から斬り上げる。春は後ろへ飛び、それを避けた。だが、その間に距離を詰められ、黒マントの男の強い攻撃が春へと襲いかかろうとした。

「陽炎、追風おいかぜ!」
「ッ!!」

春に剣が振るわれる前に、秋生の掛け声に合わせてその手から陽炎が浮かび上がった。それらはそれぞれ火球のような物体となって黒マントの男へと放たれていく。
思わず、黒マントの男はそこから後ろへとステップをして退いた。

「ほぅ……貴様の能力は、陽炎か」
「……一体何だってんだ。俺らに何か恨みでもあるのかよ?」
「そんなものはない。ただ……俺は雇われた」
「雇われた? 誰にだ」
「教えるわけがなかろう……。もっとも、お前等をこの先に通す事はない。つまり、ここで死ぬということだ。これから死ぬ者に教える義理もなかろう」
「へぇ、言ってくれるな」

秋生の持つ刀がゆっくりと炎に包まれていく。緑と黒の混ざった鬼火のようなそれは、次第に刀を全て包ませた。

「大和撫子、先に行け。ここは俺が引き受けた」
「何を勝手にほざいている。何人たりともこの奥へは——ッ!?」

秋生の姿が黒マントの男の目の前から消えたかと思うや否や、黒マントの目線の下で刀を構えていた。

「余所見してると、死ぬぞ」
「な……ッ!」

上に振り上げた刀は黒マントの男の左肩を斬り裂いた。だが、反応した男が後ろへと瞬時に体を傾けた為、そこまで深い傷ではない。
血が肩から流れ落ちる。それを見た春は立ち上がり、素早く移動を始めた。

「させるか……ッ! ぐ……! ぐぁぁっ!」

すると、軽い傷であったはずの先ほどの切傷から炎が発生した。その熱による痛みによって怯んだ男は思わず剣を一つ手から落としてしまった。
秋生の刀に纏っている鬼火は対象を燃やし、持続させることの出来る。業火刀ごうかとうと呼ぶそれが黒マントの男の傷をより深く与えていた。
そうして怯む男を前に刀を向け、不敵な表情を浮かべながら秋生は口を開いた。

「吾妻 秋生。アバターコードは月蝕侍。お前の相手は俺だ。名前ぐらい覚えとけ」
「ぐ……ッ、許さん……!」

侮辱に近い感覚を受けた黒マントの男は立ち上がり、剣を構えた。未だ燃え続ける左肩を差し置き、右手で剣を持って秋生と対峙した。

「本命前の……いい準備運動になりそうだな」

Re: 白夜のトワイライト【完結版】 ( No.44 )
日時: 2012/12/16 13:52
名前: かの ◆2cawlrbjPU (ID: M8lfW802)

相変わらず、面白いです。
これからもがんばってください。

Re: 白夜のトワイライト【完結版】 ( No.45 )
日時: 2012/12/16 15:40
名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: JzVAb9Bh)

>>かのさん
再びのコメント、ありがとうございますっ!
相変わらずダラダラと遅い更新ですが、そう言っていただけるととても嬉しいですb
今現在更新分を書いてる最中で……頑張って更新していきたいと思いますっ。応援ありがとうございますー!
改めて、コメントありがとうございましたっ。

Re: 白夜のトワイライト【完結版】 ( No.46 )
日時: 2013/01/01 23:43
名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: JzVAb9Bh)
参照: かなり悩んだ展開です;なので遅れました、すみませんorz

「お前は……」

仮面の男と対峙し、白夜は言葉を漏らした。
エルトール襲撃の際に遭遇した仮面の男。それが今、目の前に再び現れたのである。
爆発音の原因はあちこちに炎上して転倒した車がある為、恐らくそれらを爆破したのだろうと推測することが出来る。仮面の男がそれを行ったのか、もしくはもう一人の男がそれを行ったのかは定かではないが、爆破を行った理由は不明であった。

「ふふ、また会ったねぇ?」

不気味な笑みを浮かべているのであろうが、それが仮面の下に隠されて確認できない。その代わりのように、仮面の男の傍にいる男が笑みを浮かべた。

「君の救出劇、なかなか良かったで? 一部始終見させてもらいましたけど、大半の連中は爆風で吹き飛ばして気絶させる程度。一番手っ取り早い方法やろうけど……甘いわ、白夜クン」

調子に乗ったような口調で白夜を挑発するかのように流暢と言葉を並べていく。
言っている内容は既に想像がついていた。恐らく、昨日の事件のことだろうと。これまで幾度と任務をこなしてきたが、人質事件は滅多にない。それも、人質がいる状況なら能力者集団のエルトールではなく、警察に届出をするのが普通である。エルトールは警察のような義務に命じて任務を執行するのではなく、あくまで能力者個人として悪人を断罪するという名目上で行っている為、人質などがいるという把握はそもそも必要性がない。

しかし、白夜はあの人質事件に少なからず疑問を抱いていたことによって、この男がその場で自分の行動を見ていたということ自体に不信感を漂わせた。
最初に疑問を抱く点として、依頼者が明確でないこと。それはディストの口からも告げられていない。極秘のことらしく、聞き流してはいたが、よく考えると敵が散々窃盗や人殺しまで罪を重ねてきた極悪集団である。それらが人質にとるということは、それだけの"価値"があったということ。考えられるとしたら、依頼者はこの事件を隠したがっているか、あるいは別の理由が考えられる。

しかし、連中の規模はあれだけではない。他にも大勢に派閥が分かれており、各地に散らばっている。だとしたら、人質がなくとも簡単に逃げることが出来たのではないか、と考えていた。

「……何が言いたい?」

謎ばかりが闊歩していく中、白夜は開いての反応を確かめつつ、口を開いた。
真意をここで問いただしたとしても、恐らく何も得ることは出来ないだろう。それが分かっているからこそ、聞いたということもある。答えないならば、この真意は何か意味があるのだろう。
言葉を待つ間がとても長く感じられる。しかし、その始まりは男の不愉快な笑い声だった。

「あははっ! 白夜クン、やっぱり君は面白いなぁ……。いや、特に意味はないねん。たまたま君を見かけたから、つい見てみたくなってなぁ」
「たまたま? あの場所は人が住む場所から遠く離れた廃墟だ。そんな言い訳が通用すると思ったのか?」
「ふふ、こりゃ失敬したわぁ。たまたまやなくて……君が本当に"月影 白夜"なんか確認しただけやねん」
「何……?」

男の言葉がどこか意味深な雰囲気を匂わせていた。しかし、白夜にはその正体が掴めない。何かを隠しているということは分かるが、それは実体のない何かであるがうえにこそ分からずとも感じられたのだ。
ただの言い回しなのか、それとも別の陰謀か。その二つのどちらを選択するにしても、まだ十分な確証は得られていない。

「白夜光。お前は……あの男と知り合いなのか?」

不意に、今まで口を開かなかった凪が白夜に問いただした。しかし、目線は真っ直ぐと男、ではない。その奥におり、どういう表情を浮かべているのか分からない仮面の者に向けられているような、そんな遠くを見つめる瞳であった。
しかし、言葉と瞳とは裏腹に、手はしっかりと腰にある二丁拳銃へと伸びていた。

「いや……前の男は見ていない。奥の、仮面の男は見たことがある」
「どこでだ?」
「エルトールの門前だ。絶撃が戻る前に事件が起きたことは……聞いているか?」
「あぁ……あれか」

その時、どこか不自然な、凪にしては間の抜けた返事をしたような気がした。しかし、白夜は言葉を続ける。

「その発端らしき男が、仮面の男だ。あの時は問いただすことも出来ずに逃げられた」
「なら、決定だな」

白夜が返事をする前に、凪はとてつもない速さで拳銃を抜き、それがようやく確認できた頃には既に二、三回の破裂音がセンター街に鳴り響いた。

「ごっつう速いなぁ。噂通りやね、その身体能力?」

男は平然と、弾を腹部に直撃させていた。しかし、血は全く出ていない。それどころか、直撃したというのに未だ銃弾は男の腹部、直撃点で回転を続けていた。

「にしても短気やなぁ……。もうちょい待たれへんのかい?」
「何を待つ必要がある? 我々の任務は断罪の連行だ。邪魔な者は——排除するのみ」

途端、即座に凪はその場から飛び出した。ナイフを右手に、左手には拳銃へと変更させており、男へと難なく近づく。そして、素早い動きでナイフを男へと振り下ろす。

「はっやいわー。"ラプソディ"さん、どないしましょ」

ナイフを振り下ろした速度はとてつもなく速く、通常の人間では捉えるのは難しいほどの速度をそれは保っていたが、男は避けるどころか、手でナイフを持つ手首へと当てて止めた。凪はそこから蹴りを繰り出すが、男は手でそれを防ぎ、一旦両者は離れた。
ラプソディは変わらず、足を組み、手を組んだ態勢で動かず、黙っていたが、遂に口を開いた。

「構わないよ。僕は話があるからね。……ねぇ? 月影 白夜」
「……お前には、聞きたいことがある。素直に答えなければ、容赦はしない」

白夜の言葉に、ラプソディは高笑いをした。肩を小刻みに上下させ、笑いを堪えながらようやく立ち上がった。

「答えたら、容赦してくれるのかな? ……ふふ、あはははは! 偽善者にでもなったつもりかなぁ? そんなもの、君の中の"狂気"を飼い殺しにしているに過ぎない。君は元々そんな面をしていい人間じゃない。分かっているんだろう?」
「俺の、何を知っている……?」

白夜の両腕に光が灯る。お互いに真逆の色合いを魅せながら、しかしラプソディは続ける。そして、その言葉は白夜の核心を突くものであった。


「己の使命とすることで、現実から逃げている君は何だい? "自らの狂気"によって、生きる理由の全てを無くしたというのに」


「——ッ!!」

その瞬間、白夜の両腕が先ほど以上の輝きを灯らせた。その目は既に通常ではない。怒りに満ちた白夜の表情だった。

「どうして、そのことを知っている、貴様が……ッ!」
「ほら、暴れて見せてよ。そうしたら、教えてあげるよ。君の探している黒獅子のことも。そして——ルトのことも、ね」
「な……ッ!?」

白夜にとって、それは己の使命としてきた。
黒獅子が唯一の情報。しかし、ルトのことを知っている人間が、目の前にいる。全てを知っているらしいこの男に全てを聞き、その後から背負ってきた全てがやり直せるかもしれない。そんな、淡い、抱きも出来なかった感情がだんだんと奥の方から膨らんでいることを感じた。

「必ず……話してもらうぞ……ッ!」

決意を込めた白夜の言葉に、決められた使命は果たしてあるのか。
変わりようのない過去が、白夜の荒ぶる心を煽り始めたのであった。

——————————

一方その頃、優輝と橋本は爆発音の聞こえた場所へと向かっていた。しかし、方向がよく分からず、何より先ほどから住民の姿が一向に見えない為場所も特定できずにいた。

「くっそ、どっち行ったらいいんだ?」
「結構広いんですよね、自治都市は。6番街まで分かれてますから」

走る二人の元に耳元から音が聞こえてきた。通信用のイヤホンが装着されていたことを思い出し、耳を傾けた。

「聞こえる?」

千晴の声が優輝と橋本の耳元から聞こえた。

「あぁ、聞こえるよ。何か分かったことがあるのか?」
「まあね。自治都市の情報なんだけど、不可解なことがここ最近いくつも起きているらしいのよ。だけど、それを表に出したことは一度もなくて……断罪には関係ないと思うんだけど、失踪者について関係あるかもしれないって思って」
「教えてくれ」

話している間にも優輝と橋本は誰もいない路地を走り抜けていく。

「何だか、住民の失踪事件が相次いでいるらしいのよ。でも、町の外に出た形跡はないみたいだし、失踪届けも出されてない。まるで、神隠しにあっているかのような……存在が消えていくっていうのかな。住民が忽然と消していくっていう事件が起きているみたい」
「確かに……警備には人が大勢いたけど、中はまるでゴーストタウンみたいだ。誰もいない……人気さえもないよ。警備の中には、銃に慣れてない人間もいたから、住民だとは思ったんだけど……」
「……もしかすると、知られたくないものが、その町にはあるのかもしれない。それに特殊部隊も巻き込まれて、謎の失踪をした……?」
「まさか、住民はともかく、どうして特殊部隊まで? あんな銃もロクに扱えないような連中に殺されるとも思わないし……」
「……あ、そういえば、久樹市には自治都市として完成する……今から丁度一年前かな? それ以前の時に研究所があったはず。それも極秘の研究所が」
「……怪しいな。ベイグランドの連中か? それとも……」

と、そこで言葉が一旦途切れる。丁度そこは分岐点になっていた。真っ直ぐか、左右に分かれる道がある。

「どうする? 二手に分かれるか?」

一度止まり、橋本が左右、そして直線の道を確認した後に言った。奥を覗いても、その先には何があるわけでもなく、ただ道が続いている。

「危険だとは思うけど……爆発音の在り処が気になりますね。何かが起こっているのは間違いない……センター街を目指して別々のルートで、後から合流するのもありだと思います」
「よし……分かった。必ず通信は繋いでおけよ? 絶対油断はするな」
「分かってますよ。橋本さんこそ、油断しないでくださいね?」

冗談を言うような口調で優輝は言った。その冗談に対して、橋本はいつものしかめっ面をしなかった。何故か深刻な顔をして橋本は口を開いた。

「……優輝」
「ん? 何ですか?」

一瞬の間が開き、真っ直ぐ優輝の瞳を見て橋本は呟くように言った。

「死ぬなよ」
「え……?」

その言葉がどうしてか、優輝にとって変な感触がした。
橋本は真面目な顔で、そう、それは"いつもとは違う真面目な顔"で。だからこそ変な感触がしたのである。
優輝が返答する前に、橋本は右の道へと走り去っていった。
壁に囲まれて爆発によって引き起こされたであろう煙さえもよく見えない。つまりゴールもまた分からない。そんな迷路のような路地に一人でいると、先ほどの橋本の言葉がより意味深に感じ取れるのであった。

「……まあいいか。早く急がないと……!」

橋本に続いて、優輝も真っ直ぐの道を駆け出していく。
どこに辿り着くか分からない、迷路のような道を。

Re: 白夜のトワイライト【完結版】 ( No.47 )
日時: 2012/12/22 11:29
名前: かの ◆2cawlrbjPU (ID: M8lfW802)

ルトというのが毎回、気になっています。
白夜は過去に何があったのか、黒獅子の計画って?と思うことがたびたび・・・・・・。でも、そこが面白いです。
これからも、頑張って書いてください。


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