ダーク・ファンタジー小説

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白夜のトワイライト【完結版】番外編を書くのが楽しすぎる……
日時: 2013/07/30 11:19
名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: Drat6elV)
参照: 参照1000突破! 記念企画、イラスト・挿絵募集してます!

世界は不都合だ。
救われた命、消えた命、理不尽な死、理不尽な世。

最期には消えていく存在だと知りながら世界に生かされている気がした。

だとしたら、僕達はゴミで、世界はゴミ箱なのかもしれない。

酷いな、と僕は小さく呟いた。


——————————


【前書き】
初めまして、が多いと思われます。遮犬しゃいぬと申すものです。
このたび、大幅な変更点を加えていますので、リメイクではなく、あくまで完全版として再投稿させていただくことにしました。
この作品は、一年半前ぐらいでしょうか。そのぐらいの時から連載を続けていた作品ですが、内容等が矛盾していたり、設定や進行も多くミスが見られた為、修正で何とかなるとは思えなかったのでもう一度こうして連載を再スタートさせていただきます。

予定としましては、この作品の完結を含め、続偏と過去偏も用意していますが……この完結版の完結だけでも相当な日にちがかかることは必須なので、書くかどうかはまだ未定です;
ですが、またもう一度再スタートということで、元から読者として読んでくださっていた方々、そしてこれから読んでくださるという方々含め、頑張って書きたいと思いますのでどうか応援を宜しくお願いいたします><;
ちなみに、シリアス・ダークの元の小説とは大幅に設定が変更している点が多い為、あくまで新連載としてみていただければ嬉しいです。



2013年新年のご挨拶……>>51

参照1000突破記念企画「イラスト・挿絵募集」……>>73


〜目次〜

プロローグ
>>1

第1話:白夜の光 (修正完了)
【#1>>4 #2>>5 #3>>6 #4>>7 #5>>11
EX【>>13
第2話:身に纏う断罪 (修正完了)
【#1>>14 #2>>15 #3>>18 #4>>19 #5>>20
EX【>>21
第3話:過去の代償(白夜の過去前編) (修正中)
【#1>>22 #2>>23 #3>>24 #4>>25 #5>>26 #6>>27
EX【>>28
第4話:訣別と遭逢 (修正中)
【#1>>29 #2>>30 #3>>31 #4>>34 #5>>35
EX【>>36
第5話:決められた使命 (修正中)
【#1>>37 #2>>43 #3>>46 #4>>49 #5>>53
EX【>>58
第6話:罪人に、裁きを
【#1>>65 #2>>70 #3>>77 #4>>80 #5>>85 #6>>87
EX【>>89
第7話:ひとときの間



【番外編】
『OVER AGAIN〜Fire Work〜』
予告編
>>59

【#1>>90 #2>>91 #3>>93

Re: 白夜のトワイライト【完結版】 ( No.83 )
日時: 2013/04/02 13:02
名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: cEkdi/08)
参照: http://ameblo.jp/sixyainunovel/

散々更新をほったらかしにしておいて申し訳ない限りです……。
課題に追われ、その他事情に追われ、色々忙しかったりして……とか言いますが、ちゃっかりファジーの方は更新してるっていう(ぁ

まことに恐縮ながら、緑川 蓮さんこと「ぐれりゅー」に白夜のトワイライトの表紙にもなりえる絵をね……描いていただきました!
忙しい合間を盗んで描いていただいたので、昔にやってた恥ずかしいブログにうpしましたぁ。
マジで、更新とかする気も時間もないので画像うp専用のブログになりそうです。何か他に用途があれば教えてください、お願いしますorz

参照より見れますので、どうぞ参照1000突破イラストを!
なお、リク依頼に投稿しっぱなしのイラスト募集スレも安定したら再び上げる予定なので、参加者地味に募集しています……。

それでは、失礼いたします!
近日には最新話更新いたします!
PS:まだ更新分3000文字程度……。予定ではその倍近くにはなりそうな。それでも分からないですが……とりあえず描写が息苦しいです、先生。何とか良作を書けるように頑張ります……。

Re: 白夜のトワイライト【完結版】更新せず絵をあげる駄犬 ( No.84 )
日時: 2013/04/03 11:01
名前: かの ◆XvC//cyygc (ID: P3.L1.aj)

頑張ってください!

Re: 白夜のトワイライト【完結版】更新せず絵をあげる駄犬 ( No.85 )
日時: 2013/05/29 00:35
名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: 2mcH.5bJ)
参照: 久々更新です……; 生存しています! これからも宜しくお願いします!

 人を救うということが、どれだけ難しいことなのか。どこまで到達すれば、それは人を救えたことになるのか。永遠に守り続けるのは無理だ。そんなことは分かっている。だから、今を必死に守ってきたのだ。未来のことはどうであれ、この先にどんな世界が待っていようとも。
 大切な人を、たった一人だけ。この数十億にもなる人口の中で、ただ一人だけを守ろうとしただけだ。たった、それだけのことなのに。

 どうして、叶わない。どうして、果たせない。どうして、守れない。

——————————

 目の前の光景に全てを奪われていた。

「そんな……」

 思わず、言葉が詰まる。
 春の目の前に、確かにそこに存在するのは銀髪の少年ではなかった。そこに佇み、異常とさえも思えてしまう雰囲気を漂わせた"銀髪の青年"。何度も見たことのある、記憶に残る顔が浮かび、それと瓜二つの青年がそこにいた。

「白夜……光……?」

 震えた声で、確かにその名を告げる。
 認めたくはない。しかし、どうしてもそう思わざるを得ない。何故ならば目の前にいるこの青年の顔は、見知った銀髪の少年そのものなのだから。
 青年と姿を変化しつつも、本質は変わらない。感覚で分かってしまったのだ。目の前に佇む銀髪の青年は、月影 白夜なのだと。
 確証は、無い。だが、根拠のない自信が春には芽生えていた。それは目の前にいる少年の虚ろな瞳を覚えていたからである。

「あの時と、一緒の……」

 危惧していたのかもしれない。あの頃、初めて白夜という少年と出会ったその日から。
 春は、いつしか昔の自分と白夜を重ねていた。エルトールとして活動する前、悲惨だった生活、生きる気力も無かったあの日々。自らを通して白夜を見つめ、いつかは壊れてしまうかもしれない、と心のどこかで気にかけていた。
 そして今、危惧していたことが現実となっているのかもしれなかった。

 春の目の前で虚ろな瞳を下に向け、そこに立ち尽くす銀髪の青年の姿。いつも見慣れているはずのサイズの合わないパーカーが今では窮屈に体を覆っている。
 冷静に考え、春は辺りを見回す。一様に街に住民の姿はない。この広場でさえも白夜と春を除いて誰も存在していなかった。
 しかし、その割に辺りは瓦礫や炎上してもはや原型を留めていない横転した車、無惨に切り裂かれた木々の数々が散乱している。恐らく、争った形跡だと思われるが、この場には白夜一人しか確認できない。同行動していたはずの凪の姿さえもその場にいない不思議な状況だった。
 考えるべきことは、今の白夜の状況を作り出した張本人がまだ近くにいるかもしれないということ。凪は何らかのトラブルに巻き込まれ、今も敵と交戦中の可能性があるということ。どちらにせよ、目の前にいる白夜は普通ではない。少なくとも、青年の姿となっているのだから明らかに異常が起きているのだと判断した。

(何があったのか分からないですが……とにかく、白夜光の意識をハッキリさせなければ何も始まらない……)

 右手を握り締める。汗ばんだ感触が伝わりつつも、春は決心した。未だに意識のハッキリしていない様子の白夜に触れ、フラッシュバックを起こさせる。そうして意識を取り戻そうと考えたのだ。

「白夜光……」

 小さく呟き、ようやく歩みを進める。虚ろな目を未だに地面へ向けたままの白夜に近づいていく。星屑の粒子が右手に纏わり、光を帯びる。それをゆっくり、白夜に差し伸ばし——触れる、後一歩の寸前。

「——っ!?」

 突然、白夜の姿が"消えた"。
 春の右手が虚空に伸ばされる。そこに、勿論白夜の姿はない。それに気付いたその直後、

「ぅぁぁあああ゛あ゛!!」

 春の後方より唸り声に似た叫び声が聞こえた。春は後ろを振り返るよりも先に体を倒して横転する。瞬間、元より春がいた場所に白夜の右手が駆け抜けた。
 神々しい光を右腕全体に帯びたその巨大な"光の手"は駆け抜けた直後、炸裂する。光の粒子がそれぞれに交じり合い、白いそれらは誘発的に爆発を巻き起こしていく。
 寸前で避けた為、距離が近かった春もその爆風に巻き込まれて軽々と飛ばされた。地面に転がり、幸いにもそれほどのダメージは負わなかったが、直撃していたものならば重傷は避けられなかっただろう。

「そんな……」

 小さく呟く。それは覚悟していたものの、苦しい現実だった。
 白夜が攻撃を仕掛けてきたのである。意識が朦朧としているのか定かではないが、それは春を敵として認識し、排除すべく襲い掛かってきた証拠だった。
 呆然と白夜を見つめるのも束の間、既に白夜は春の方に顔を向けていた。

「ッ!」

 再び白夜の右手が振るわれ、その刹那白い光が球体の群を作り上げていき、炸裂する。
 何とか間一髪距離を取り、避けることに成功はしたものの、白夜の動きは尋常ではなく、速い。通常の人間ならば避けることさえも不可能なほどに。
 それでも春が避けられているのは、春の能力である"記憶再生能力"にある。
 この能力を用いる際に脳の一時的な活性化が起こる。その活性化とは脳の働きを速めること。それに伴って星屑の粒子により相手の脳とシンクロさせることによって相手の記憶を読み取り、記憶再生フラッシュバックさせるのである。
 その副作用によって引き起こされる内の一つに相手の行動パターンを脳が普通よりも遥かに速い速度で読み取り、体に反応させる。結果的にそれは人よりも速い判断力を持つこととなり、また行動の速さも一般人と比べると格段に速くなっているのだ。
 だが、しかし。

「う……ッ!」

 突然、春の頭に痛みが奔る。一瞬ではあるが、無意識の内に頭を手でおさえてしまうほどだった。
 副作用は決して良いことばかりではない。良い面もあれば、悪い面もあるものである。
 先ほど同様に判断能力を駆使して体を動かしていると、能力の副作用としては反応するが、元々ある春の"一般人の脳"では過労すぎる行為だった。このまま幾度も続けて使用すると、ただの頭痛だけでは済まなくなってしまう。最悪、脳死も有り得るほど危険な能力なのである。
 だが、春が意識的に体を動かして行動しているわけではなく、この副作用は"春本人が断固として拒否しない限り勝手に発動してしまう"。
 その為、本来ならば戦闘行為をすべきではない。が、いざ戦闘を行えば相手の行動を無意識の内に読み、超人の域を優に入るほどの身体能力を持ち合わすことが可能だった。

(……長期戦は、出来ない。相手は月影 白夜。決して敵ではない……私がすべきことは、既に判断している)

 低いままの姿勢であった己の身を起こす。白夜は先ほどまでの横暴な態度を見せず、当初のような虚ろな瞳でどこか虚空を見つめていた。
 だが、その間も白夜の右手は次々と白い光を吸収し、雷のように光は荒々しく蠢いている。本来ならばあるはずの"もう一つの能力"は左手に込められていない。それが何を意味するのか、春には想像もつかないが、ただ目の前の白夜にある右手の力は凄まじい破壊力を持つものだということは既に理解していた。
 今現在ではまだ右手を振るった結果だけに過ぎないが、使い方を変えれば未知の事態が起きるかもしれない。まだ把握しきれていないのが現状である今、下手に近づくことは出来なかった。

(せめて、もう一人助けがいれば……)

 ふと、秋生の姿が浮かんだ。だが、瞬時にその姿を消し去る。秋生は私を先に行かせる為にあの場に残ったのだ。
 助けなどいらない。心の中で決心する。この場で今やるべきことは、目の前の白夜を止めることだと己の中で自己解決させた。
 首謀者は必ずいる。白夜がこのように姿を変えた理由がそこにある。だがそれは、今白夜を止めてからでなければどうすることも出来ない。このまま自分を逃がすということを今の白夜はしてくれそうに無い。それどころか、敵意を向けている。
 風月 春が、何とかするしかなかった。

「少々、手荒ですが……緊急事態です。仕方ありません」

 虚ろな瞳を相変わらず虚空に向けたままの白夜に向けて——いや、"自分自身"に向けて言い放つ。
 そして、解除する。"能力を100%引き出す"ために、自らにかけられてリミットを。


「——"人体覚醒リミットオーバー"」


 それは能力者に与えられた、悲痛なまでに"普通"と遠ざける"異常"な手段。


——————————


 日上 優輝は託された任務を全うする為にひたすら走り続けていた。
 しかし、その最中にだんだんと状況を不思議に思い始めていた。

「……あれ、さっきまで雨って降ってたっけ?」

 汗と混じりながら、雨かどうかの区別は見た目では分からない。だが、視覚として雨が降っている——ように見えていた。

「でも……当たって、ない?」

 雨は、当たっていなかった。優輝の体に、一粒も。
 しかし、視覚としてはちゃんと雨を捉えている。捉えていながらも、それは"動いていなかった"。

「何だ……これ……。どうして、今まで気付かなかったんだ……?」

 立ち止まり、手のひらを見つめてみた。すると、一滴の水が手のひらの上に落ちる。それは次第に二つ、三つと増え、空を見上げると雨が降り始めていた。

「もしかして、これって……」

 普通ならば、有り得ない。有り得ないはずだが、有り得てしまう。それが電脳世界エデンによって引き起こされた世界の異常なのだから。
 しかし、これが考えられるとしたら——

「俺が今目にしていることと、実際に起きていることは、違う……!?」

 雨は、再び音を無くした。


——————————

『お詫びも兼ねて、生存確認』
 ……申し訳ございませんでしたッ!
 本当、すみません……。なんやかんや言って、結局これだけの規模での最新話です。
 この後の展開は非常に分岐点になっちゃうところなので……ぶっちゃけ、謎とか伏線が多すぎてそれの回収に必死になってます(ぇ
 そんなわけでございまして、ちゃんと生きてます。波乱万丈というわけでもなく……えぇ、本当に。

 更新が遅れたのは、話の展開に凄く悩んでしまい、今回のお話だけで10回以上書き直しました……。なので、総計4万文字は書き直した感じになります、えぇ……。自分でも若干引いてます(ぁ
 そんなわけで、普通にバトる方向でいっちゃったわけですが……急に消えたラプソディとか、白夜の能力の覚醒って何それ意味不明って感じで、最後に何か春ちゃんとか、優輝とかが意味不明な感じで締めちゃいまして……。
 優輝の最後のあれは、本当にその場凌ぎな感じがして自分でも気持ち悪いです、はい。
 でもでも、結構今回の一連の時間軸の謎的なものの根本になりますので、ご理解いただけたらな……っていうか、完結版なのに何でこんな未熟なんでしょうかといわれたら、作者自体が未熟過ぎました、すみません。

 そんなわけで、全体の修正は終わっていないわ、久々に更新したらグダグダな展開やら、色々と迷走している感じが漂いまくっていますが、やっと最新話が書けて実はホッとしています。挿絵で延ばしたりして、本当ごめんなさい……。

 それでは、生存しています! これからやっと話の方向が決まりましたので更新を円滑していけたらと思います!
 長くなりましたが、これからもどうか宜しくお願いいたします! 

来ました〜 ( No.86 )
日時: 2013/07/09 15:36
名前: エルセ(元かの (ID: 1QpV5ZBE)

お久しぶりです!
禁止令出てますけど、何とか親の目を盗んで来れました。
さて、感想ですが、やっぱり面白いです!この作品!

Re: 白夜のトワイライト【完結版】久々更新です!ごめんなさいっ; ( No.87 )
日時: 2013/07/24 16:47
名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: Drat6elV)
参照: お久しぶりです;パソコン不調、テストを乗り越えてようやく更新です

 能力者とは、異能な力を持った人間のこと。
 普通の人間達は、そんな彼らのことを異常者として見てしまう。今までいるはずのなかった異常な存在が目の前に突然現れた時、人はそれを畏怖の対象として見改めてしまった。
 何も、彼らは望んで能力者になったわけではない。望んで"ここにいるわけではない"。
 彼らはただ、生きたかった。人として、己として、生きたかった。
 いくら世界に拒絶されようが、他人に、友達に、家族からでさえ疎まれようが。
 彼らは人間であり、それは風月 春も同じことだった。


——————————


 降りしきる雨はいつの間にか音を無くし、時が止まったようにその場に留まっていた。正確に言えば、雨は速度を緩め、その場にほぼ停滞しているような状態であった。
 春の外見からは特にこれといって変化はない。しかし、そこには人間にあるべきものの"欠如"が表れていた。
 それは、表情である。
 先ほどまで苦難の表情を浮かばせていたが一転、無表情と言葉で表すよりも、感情というものがそもそも存在しない。
 見る者全てが恐れを抱くような——冷徹な表情へと豹変していた。

「目標……確認」

 小さく呟き、目の前に対峙する白夜をただ見つめる。
 我を忘れたままの白夜の表情は何を考えているのか想像を絶するほどに虚ろである。しかし、その体は素早く春に向かって動き、神々しく光輝く右手が唸りをあげて一瞬の内に春の懐へ——届く前に、突然の衝撃によって白夜はその行動を強制的に終了させられた。

「……ッ!?」

 思わず、その虚ろな瞳を見開いた。
 それはただ、白夜の頬を叩いた程度のものだが、重みのあるそれは確かに手ごたえがある。
 春の右手が拳の形を作られ、それはしっかりと白夜の頬に向けて伸ばされていた。白夜の頬に届き、なおかつ白夜はその衝撃を頬に感じた。その甲斐あって白夜の突如仕掛けた奇襲は防がれてしまったのだから、何が起きたのか当の本人は全く理解が出来ない。
 だが、春は一寸たりとも動いてなどいない。ましてや、あの白夜の速さに先ほどまでならば避けるしか手段がなかったはずなのだ。
 これらが意味することは、つまり、春は白夜の奇襲を瞬間的に読み、なおかつそれよりも速い反応でカウンターを繰り出したということになる。

「全て、"視えています"」
「ッ!」

 春の右手には粒子が纏われ、そのまま腹部に殴りかけようとした直前に白夜の光り暴れる右手がそれを阻止するべく、横に一閃。しかし、それも読んでいた春は体全体を脱力することによって避けると、空いた左手で腹部を強打した。その速さは今までの春とは比べ物にならない。
 左手の拳で強打された白夜の華奢な体は腹部を中心にして曲がり、力の向きに従って後方に飛ばされた。
 人間の力は普通の生活をする中で100%の力を出していない。その力は温存され、人体に対して危機が生じた時に稀に発生するケースがある。
 それはあくまで一般の人間のケースであり、能力者になれば身体そのものが改善され、自らその力を自由自在に扱うことが出来る。幾度か鍛錬を積むだけでコントロールできるようになるが、発揮することで身体に悪影響を及ぼす危険性もある。
 これが人体覚醒。人間の力をコントロールすることによって引き出した力である。

「……?」
 
 人体覚醒によって能力に磨きがかかり、より俊敏な反応をとることが可能になった春は白夜の身体に触れたことによって何か違和感を左手に感じていた。
 まるで、"中身が何もない"かのような空虚な感触。人間とは思えない体温、殴ったという感覚が全くない。それらが春に違和感を感じさせていたのだ。

「ぅ、ぅぅうああ……! うぁぁああ……!!」

 違和感を確かめるよりも先に、白夜が唸り声をあげると左手で頭を抑えた。見えない何かを抑えているかのように、髪の毛がくしゃくしゃになっても強く、強く頭を抑え続ける。

「うぁぁああああ!!」

 すると突然、狂ったように叫び声をあげると白夜は右手を大きく構え、春に向かって駆け出した。

「仕方ないですね……そろそろ、目を覚まさせてあげましょう」

 対する春は右手に光を帯びた粒子を纏わせると同時に両目がほんのりと赤色に変化した。向かってくる白夜を赤色の瞳は見据え、右手を前方に差し出す。
 右手に纏わりついていた粒子が背中側にも廻り、羽のように展開させて右手と一体化した。

「——星羽しょうは

 白夜の右手と交差したかのように見えた直前、光り輝く羽を纏った右手は暴れ狂う光を"押さえ込み"、すかさず粒子に包まれた左手を白夜の額に優しく小突き、目を閉じた。
 粒子が白夜の頭に入り込み、脳内を瞬時にフラッシュバックさせていく。白夜の過去が、春の知り得なかった事実が、今このような形で知ることになってしまった。
 ——しかし。

「……やはり、これは"記憶の断片"ですか」

 と、春は呟いた。
 それとまた同じくして、左手を離して目を開ける。瞳は赤色を帯びておらず、元の深い黒色に戻っていた。目の前に呆然として立つ白夜は抜け殻のようで、生気がまるでない。
 そして、その瞬間。目の前の世界が突然歪み始めた。
 世界の崩壊を示しているかのように、着実と世界は色を変えて、形を変えていき、見えてきたのは——

「もう"トリック"が見破られちゃったかな?」

 声が聞こえた。
 世界は"現実"の広場に戻り、そこにはラプソディの姿とうずくまる白夜の姿があった。

「貴方の仕業だったのですね、ラプソディ」

 冷静に、春は語りかけた。曇り空はあるも、少々の雨が降っているだけで、先ほどまで体感していると思っていた降りしきる雨の様子は一つもなかった。

「ふふ……そうだねぇ。全て、僕の狂気による喜劇さ。今更分かったところで、時間稼ぎにそれは過ぎなかったわけだしね。今、真っ白なキャンパスに狂気で塗り潰しているところだったけど、それも、もう終わったところだよ」
「貴方が私に見せていた幻覚の狂気は、白夜の記憶の断片から作り出されたものですね?」
「あぁ、そっか……"君の能力"だったら分かるよねぇ。いらない記憶だからね、それは。"新しい記憶"が既にあるから、必要ないんだよ」
「……久樹市に人がいなかったのは、ここは既に"汚された土地"なんですね?」
「汚されたと聞いちゃ、"犠牲"になった人達が報われないねぇ? 君の推理は当たっているよ。かのトワイライト実験によって汚染した土地は何年かの月日を経って空気を汚濁していき、その空気は"死の風"と呼ばれ、吸った空気の濃度によって致死する……能力者には抗体があるからねぇ。白夜君達ご一行をお招きするには最適の場所じゃないか?」

 笑みを浮かべているのか、仮面に隠れた口から多少の笑い声が混じっていた。ラプソディは、この状況を楽しんでいるのだ。待ち望んでいた結果に酔い痴れている。
 前方にうずくまったままの白夜に動きはなく、視線は自然とラプソディ一点へと注がれた。

「まあ、必要だったのは白夜君だけなんだけど……バレないように工夫したよ。狂気によって狂わせた"彼ら"を仕向けて入り混じらせることで現実と幻の境をうやむやにしたからね。いいトリックだとは思わないかい?」
「あの人間達はやはり、普通の人間……? 狂気によって狂わせ、死の風に汚染されながら……」
「ふふふふ、そうだよ。どのみち、彼らは死ぬべくして死ぬ運命だったんだ。虐殺よりマシだよねぇ? 少しでも生きながらえたことを逆に感謝して欲しいよ。……まあ、エルトールや武装警察が自分達を徹底的に殺しに来るってことで、必死になってたんだけど。ふふふふ、滑稽だよねぇ!」

 笑い声が響き渡り、数秒間それが続いた後、ラプソディは言葉を続ける。

「ま、もう用はないよ。白夜君の"中にあるそれ"も確認して覚醒させた……これからが楽しみだよ、ふふふふ……」
「一体何を企んでるのですか? 貴方は誰の差し金で——」

 と、そこで春の脳裏に一人の呼び名が浮かんだ。聞いただけで、何も分からない。けれど、今回の白夜絡みの関連は全て、そこにあるのではないか、と。


「……"黒獅子"の指示ですか?」


 問いかけてから数秒後、ラプソディから発せられたのは、

「さあね?」

 その時、不気味な怖気が春を包んだ。嗤っている。この男は、確かに嗤っていた。狂気がそこにあった。おぞましいその"何か"が。

「それじゃあ、僕は行くよ。……じゃあね」
「……ッ、待ちなさい!」

 得体の知れないものが春を邪魔し、行動を遅らせた。既にラプソディはそこに姿はない。ただあるのは、静けさと少々の雨が降るのみだった。

「白夜光……!」

 そこでようやく、春は白夜の元に駆け寄ることが出来た。触れた体は雨に濡れ、冷たさを帯びている。体は今まで通りの子供の姿だったことに多少の安堵を感じつつも状態を確かめる為に両手で触れてみた。

「大丈夫ですか、白——」
「……るな」
「え……?」

 ただ、うずくまっていたのではない。白夜は手で自分の顔を押さえていた。そこから垣間見えた中の表情は——

「俺に……触るな……ッ!!」

 その手の中から赤い瞳が春を睨み付けていた。
 感覚的に、春は手を離してしまう。単純に、無意識的に、本能的に、"触れてはならない"と感じ取っていた。ここにいるのは自分の知る白夜光ではない。おぞましい——"能力者"だった。
 だが、それはたった一瞬のこと。次第に顔をあげ、雨が降り続く中、白夜は空を眺めた。


「どうして、こんなにも、空は————遠いんだろう」


 瞳は既に黒色に戻っていた。先ほどみたあれはまやかしだったのではないかと思えるほど、その表情はあまりに悲しみに明け暮れて、泣いているようだった。
 声をかけるべきなのか、そうではないのか。果たして自分はどうすることが正しいのか分からないまま、春はただその場で白夜を見守っていた。見守りながら、あの記憶の断片の中に見た"光景"を思い浮かばせる。そしてそれを、この白夜に見せるべきなのかどうかも、まだ春には判断しきれなかった。

「——そこにいるのは、誰だ?」

 が、しかし。
 代わりに出てきたのは、全く別の人の声だった。足音が次第に近づいて行き、白夜と春の前に姿を現す一人の存在。

「そこで何をしている? この惨状は……お前たちは一体……何者だ?」

 拳銃を構え、背中に大きな太刀を背負った男。日上 優輝がそこにいた。
 油断のないように、拳銃をしっかりと握り締め、距離を縮めて行く。

「質問に答えろ。お前たちは何者なんだ?」

 繰り返す質問。恐らく、この者は武装警察なのだろうということが春には予測がついていた。自分たちはエルトールであると伝えたところで、この場を切り抜けられそうもない。それは、この惨状の始末と何故ここにいるかということの情報を公開しなければならないからだ。様々な質問をされるに違いない。エルトールは基本的に目の敵にされていることが多い為である。
 考えが思いつかない。この状況、この場合、どうするべきか。迷っている内にも距離が詰められる。喉から何とか声を絞り出そうと、春が口を開いたその直後、

「——復讐者だ」

 小さく、白夜が呟いた。その目は確かな決意が込められていた。

「復讐だ。すべて、全てを断罪する。俺の……この手で、必ず……!」

 その目の先に一体何を見ているのか。答えは、白夜を除いて誰も知らない。
 誰も、知らない。


——————————


「……それで? 成功したんだね?」
「はい。予測通りに事が運びました」
「ふぅん……良かったよ。僕がやっちゃうと、色々ややこしくなってしまうからね……」
「……しかし、良い獲物を見つけてしまいました」
「獲物?」
「はい。私にとって、最優先の獲物です。久々に何か得ることが出来そうな予感がします」
「……君のそんな嬉しそうな表情、久しぶりに見た気がするよ」
「えぇ。胸の奥に溜まったこの"狂気"を発散することが出来る相手がやっと見つかりましたからね」
「……構わないけど、僕の指示通りにも、お願いするよ?」
「はい、勿論です。……では、任務に戻ります————"獅子様"」
「やめてくれないか、その呼ばれ方は捨てたよ」
「申し訳ございません。ですが、この呼び方は久しく呼んでいませんでしたので」
「……それじゃ、頼んだよ」
「はい、仰せのままに……」

 扉が閉められる。会話がなくなると、角砂糖を一つ取り出し、カップの中に沈めた。
 マドラーを動かし、角砂糖は溶けていく。そして一口。

「……やっぱり、"紅茶"は口に合わないよ」

 そう一言だけ、呟き残した。



第6話:罪人に、裁きを(完)


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