ダーク・ファンタジー小説
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- 白夜のトワイライト【完結版】番外編を書くのが楽しすぎる……
- 日時: 2013/07/30 11:19
- 名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: Drat6elV)
- 参照: 参照1000突破! 記念企画、イラスト・挿絵募集してます!
世界は不都合だ。
救われた命、消えた命、理不尽な死、理不尽な世。
最期には消えていく存在だと知りながら世界に生かされている気がした。
だとしたら、僕達はゴミで、世界はゴミ箱なのかもしれない。
酷いな、と僕は小さく呟いた。
——————————
【前書き】
初めまして、が多いと思われます。遮犬と申すものです。
このたび、大幅な変更点を加えていますので、リメイクではなく、あくまで完全版として再投稿させていただくことにしました。
この作品は、一年半前ぐらいでしょうか。そのぐらいの時から連載を続けていた作品ですが、内容等が矛盾していたり、設定や進行も多くミスが見られた為、修正で何とかなるとは思えなかったのでもう一度こうして連載を再スタートさせていただきます。
予定としましては、この作品の完結を含め、続偏と過去偏も用意していますが……この完結版の完結だけでも相当な日にちがかかることは必須なので、書くかどうかはまだ未定です;
ですが、またもう一度再スタートということで、元から読者として読んでくださっていた方々、そしてこれから読んでくださるという方々含め、頑張って書きたいと思いますのでどうか応援を宜しくお願いいたします><;
ちなみに、シリアス・ダークの元の小説とは大幅に設定が変更している点が多い為、あくまで新連載としてみていただければ嬉しいです。
2013年新年のご挨拶……>>51
参照1000突破記念企画「イラスト・挿絵募集」……>>73
〜目次〜
プロローグ
【>>1】
第1話:白夜の光 (修正完了)
【#1>>4 #2>>5 #3>>6 #4>>7 #5>>11】
EX【>>13】
第2話:身に纏う断罪 (修正完了)
【#1>>14 #2>>15 #3>>18 #4>>19 #5>>20】
EX【>>21】
第3話:過去の代償(白夜の過去前編) (修正中)
【#1>>22 #2>>23 #3>>24 #4>>25 #5>>26 #6>>27】
EX【>>28】
第4話:訣別と遭逢 (修正中)
【#1>>29 #2>>30 #3>>31 #4>>34 #5>>35】
EX【>>36】
第5話:決められた使命 (修正中)
【#1>>37 #2>>43 #3>>46 #4>>49 #5>>53】
EX【>>58】
第6話:罪人に、裁きを
【#1>>65 #2>>70 #3>>77 #4>>80 #5>>85 #6>>87】
EX【>>89】
第7話:ひとときの間
【
【番外編】
『OVER AGAIN〜Fire Work〜』
予告編
【>>59】
【#1>>90 #2>>91 #3>>93
- Re: 白夜のトワイライト【完結版】第3話完結しました。 ( No.28 )
- 日時: 2012/08/26 15:45
- 名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: er9VAvvW)
いつからか、逃げようとしていた。
何故か分からなかった、何故悲しいのか、何故虚しいのか。
大切なものが何か分からなかった。大切なものを守ることが何か。自分のことは分かってるつもりではいた。
君を守れるだけの力がない事も。君のことをどれだけ想っていても、どう足掻こうとも、何も出来ないことも。
そんなことはとっくに分かっていた。だけど、そんなどうしようもないことさえも、僕は大切な君のことを想うと、どうにもならない。
一番悲しませてる僕のせいなんじゃないのか。
だけど、君だけは離せない。離したくない。君に叫びたい。僕はここにいると。君をそこから連れ出したかった。どれだけ未来が見えようとも、それを覆したかった。
どれだけ無力でも、どれだけ悲しい世界であろうが、どれだけ嘘だらけであろうが、この想いは変わらない。
想いほど確かなものはない。言葉が失おうとも、君がどれだけ変わっていたとしても、どれだけ僕のことを忘れていようとも——
一人きりだったら、見つからなかった。この感情は、探してたどこにもなかった。君が持っていた。君が、そこにいるだけで、その感情に触れることが出来た。
「愛するって、大変だね」
分かっている。そんなこと分かっていた。
僕は、君を満足させられない。君を想うしかない。君はどこにいるのか、未だに僕は分からない。もどかしい想いはどこへ行くのか。
「……僕は君の為に。笑っちゃうね。でも……それもいいかな」
この世界は救われない。救いようのない、嘘だらけの世界。
その中に埋もれるように、君はいるのだろうか。
「いつか失ってしまうものであろうとも、僕はやり遂げるよ」
君の為に。世界は僕達を"殺したんだ"。どれだけ違うとしても、歪むことはない感情はここにある。
変わらない、変わらず僕はここにいる。
「——"黒獅子"様」
声が突如、男の考えを遮った。薄暗い部屋の中で、黒獅子と呼ばれた男は顔を上げる。何の会話もないまま、男はただ頷き、そして口を開いた。
「成功したようだね」
「はい。……手はずは済みました」
暗闇の向こう、黒獅子と対峙するその方は、仮面をつけている。声では女と思われる。しかし、それ以外には何も分からない。
「じゃあ始まるんだね——この"嘘の世界"を壊す為の、全てが」
何故か、悲しそうに黒獅子と呼ばれた人物は呟いた。
まるで、名残を惜しむように。
「——"ディスト"。君は一体何をしているのかな……?」
——————————
【あとがき】
どうも、遮犬です。
何故この時点であとがきを……と思う方がいると思われます。読んでいただいている方がいるならば……のお話ですがw
実は、ここまでが序章です。物語にやっと触れていくのはここからということです。一応、区切りがついているので、あとがきでも書こうかと思いました。
中途半端な演出が多かったと思いますが、勿論第4話以降より明らかとなっていきます。
ルトとは結局誰なのか。研究所関連のことはどうなったのか。白夜の過去はこれから本編と深く関わってきます。
やっと出せた黒獅子の描写って感じです。正直、どこで出すか悩んでいたところではありますが、序章の終わりに出すのが一番かなぁなんて。
こうして序章を読み返してみると、グッダグダですね……。エルトールのことも全然書けてない部分が多いですし、まだまだご紹介したいところがあります。
最後に伏線として黒獅子とディストの関係を何か書きましたが、この関係も見て欲しいところではあります。
ついで、予定としては番外編も書きたいと思っています。那祈とユリアの過去編とか……一応番外編でも書くものは大体決まってる予定です。
果たして読んでいただける方がいらっしゃるのか分かりませんが、回収できるの貴方ってぐらい伏線を張りまくりな形ですけど、頑張って書きたいと思います。
今まで読んでいただいた方、そしてもしかするとこれから読んでいただいた方、本当にありがとうございます。
出来る限り濃密な内容にしたいと思い、長文が多くてまことに申し訳ないです。それでも読んでいただける方、出来れば完結まで読んでいただけたらと思います。
完結版と書いてあるように、完結までまだまだ途方もないですが、頑張っていきたいと思います。
第一章、第4話からです。
白夜の過去等がこれからどのように物語と関係してくるのか。第二の主人公でもある優輝等の活躍も期待していただきたいところです。
以上、長くなりましたがこれにてあとがきを終了させていただきます;
改めて、ここまで読んでいただいた方々、ありがとうございました!
- Re: 白夜のトワイライト【完結版】一応、序章終了。 ( No.29 )
- 日時: 2013/02/15 02:36
- 名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: 5LwYdnf7)
どうしても拭い捨てることの出来ないそれが胸の奥で鼓動と共にふつふつと脳内へと映像を映し出していく。その鼓動は止むことはない。もしその鼓動が止む時が来たならば——全てを、忘れ去る事ができるのであろうか。
——————————
第4話:訣別と遭逢
——————————
「——はぁ……はぁ……ッ」
この日は、よく晴れた日であった。
しかし、ここは息が苦しい。この場でもがけば、少しは楽になるのだろうか。
日常は、意外にも簡単に崩れ去る。いつも平凡な毎日だったはずが、わけも分からず、理不尽に破壊される。日常なんて、本当に些細なものだった。ただ、それを経験していないから日常がつまらないという言葉が吐き出せる。
誰が想像するであろうか。
家に帰れば、いつも見飽きるほど見た家族の姿がある。その日常には辛いことや悲しいこともあるが、家族はそこにいる。そこで笑う。そこで暮らしている。毎日繰り返しのようで、少しずつ変わっていく日々。そんな日々が、突如として予想にもしていない運命へと捻じ曲げられることになるなんてことを、
一体、誰が想像できるであろうか。
「な……な、に……これ……?」
この時の記憶が今でも思い返す時がある。考えてみれば、よく声が出せたものだ。いつもの日常の中の予想していなかった出来事。それは普段見ることのない、臭うことのない、この風景と異臭。
どうしようもない恐怖が途端に目覚める。恐怖が目覚めたことで、気がついた。
目の前にあるのは——血の海だと。
血の海が一面に広がっていた。そこには見慣れた人がいた。
姉だ。姉がそこに横たわっていた。目を見開いて、恐怖に怯えたような表情をしている。怖い。助けて欲しい。いくら願っても、そこには毎日のように微笑んでくれた姉のいつもの姿は無い。どこにも無い。
そこには、日常の欠片すら残されていなかった。
「い……ぁ……!」
声が出せない。いや、出してはいけないとその時悟ったのかもしれない。
血の海は夥しい(おびただしい)ほどの量で床を彩っていた。木目さえも見えないほど血の海がそれを消し去っていた。よく奥の方へと見ると、更に血が続いていた。
それは、弟の姿だった。弟も、自分より早く帰ってきていたのだ。姉は受験生で、早く家に帰っているのは分かっていたが、弟は今日に限って外へと遊びに行っていなかった。
もはや、弟の横たわる姿を見て理性はどうでもよくなっていた。気づけば、血の海など気にせずに靴下で弟の元へと駆け寄っていた。
「透! 透ッ! どうして……!」
弟は姉と同じように、血の海の中心にいた。姉のように目を見開いてはおらず、弟は安らかに、眠るように目を閉じていた。
弟の透を抱きしめ、悲しみに嘆いていたその時だった。
「——優輝」
それは、聞いたことのある声だった。後ろを振り返ると、そこに立っていたのは父親だった。
父親の体中血塗れで、着ているシャツなどが台無しであった。かけている眼鏡にも血がついている。顔にも血がついていて、いつも優しかったはずの父親が怖く思えた。
「父さん……! 何で、透が、姉ちゃんが……!」
「そうだね……悲しいことだ。でも、すぐに悲しくなくなる……」
「え……? どういう——!?」
その時気づいた。父親の様子がおかしいことに。
父親が現れた方、それは台所。そしてその台所には——母親が横たわっていた。当然のように、血塗れであった。
では、何故父親だけ生きているのか。そこで思ったことがある。
どうして、父親の眼鏡や顔の上部などに血がついているのか。
それは、死んだ家族を目の当たりにし、たとえ抱き付いたとしても出来るものではない。考えられるとするならば、それは——返り血であった。
「と、父さん……もしかして……」
「優輝……父さん、もう駄目だ……。全て、終わりだよ……最後ぐらいは、幸せに、家族全員で死にたいんだ……」
隠していたのか、動揺して単に気づかなかったのか分からないが、父親の右手にはしっかりと包丁が握られていた。刃にはべっとりと血がついている包丁を。
父親が、家族を皆殺しにしたとそこで分かった。。優輝は運よくそこには出くわさなかった為、殺されなかった。いや、帰ってきた今殺すつもりだったのだろう。一番反抗力の高い、長男の優輝とは一対一の方が都合が良いからである。
「や、やめてくれよ……父さん……!」
「優輝……死のう? 父さんも、お前を殺してから死ぬよ……母さん達を殺して、俺も死ぬ。そうだ、そう決めたんだ……あはは、ふふ……!」
既に父親は狂っていた。この状況をおかしく思えるほどに、それは狂った殺人鬼のようだった。
優輝は、何も出来ずに近づいてくる父親を恐れて一歩ずつ退いて行く。すると、その途中でひんやりと手に感触があった。
見ると、それは金属バットだった。弟が野球で使っていたもので、いつも愛用していたバット。
この時、何を思ったのかあまり覚えていない。ただ、無我夢中で怖くて押し潰れそうなのを必死で誤魔化したかった。それよりも、いつもの日常へと早く夢を醒まして欲しくて、何度も願った。
何度も、何度も。願うたびに、金属バットを大きく振りかぶって、そして——
「うわぁぁぁぁああああああ!!」
『————速報です。今日未明、とある住宅内で父親が無理心中を謀り、母親ら計3名を殺害しました。凶器は包丁で、家族全員を突き刺し、殺害した模様です。殺害した父親は逃亡を図らず、丁度学校帰りだった長男と出くわし、殺害しようとしましたが、長男は金属バットで逆に撲殺した模様。近所の住民が異変に気づき、警察へと連絡し、警察が到着した時には既に酷い惨状の中で衰弱している長男の日上 優輝君を発見しました。現在、被害者である日上 優輝君は病院へと搬送されました。繰り返します——』
——————————
「——日上。日上ッ! 起きろッ!」
眠っていた優輝を起こす声の持ち主は橋本であった。橋本が仁王立ちで優輝を上から見つめていた。
「何ですか、橋本さん……」
「何ですか、じゃねぇ! 早く仕度をしろ。仕事だ!」
仕事というのは第三部隊のみに命じられた断罪を追い、行方不明となった特殊部隊らの捜索のことである。
「分かってますよ。先に行っといてください」
「お前って奴は……! せっかく起こしに来てやったのに、何だその言い草は!」
ぶつくさと文句を言いながらも、橋本は言われたように部屋の外へと出て行った。それを見届け、優輝はゆっくりと背伸びをした後、溜息を吐いた。
父親が最後に言った言葉がある。父親の死ぬ間際、ようやく俺はバットを置いた。父親はもはや元の顔ではなかったが、声だけは日常としてそこにあったはずの父親の声であった。
「奴が……」
「……え?」
一瞬、何を呟いたか分からなかった。どうして死ぬ間際に言うのかも分からなかったが、父親はこの時——涙を流していた。
本物の父親に戻ったのだと。その父親を金属バットでボコボコに、血塗れにしておきながら思えたものではない。だが、最後の父親の言葉は何を言うのか。そればかりが気になり、耳を傾けた。そして、言い放たれた言葉は——
「奴が……無茶苦茶に、した……。何もかも、奴のせいだ……」
「奴? 奴って誰だよ! 父さん!」
その時、父親と目が合った。虚ろな目で、今まで見たことのない父親の表情だった。
「"黒獅子"……」
「クロ……シシ……?」
聞いたことのない名前。明らかに動物ではない、人を指している名前だろう。その黒獅子という人物は一体何者なのか。どうして自分の家族をここまで無茶苦茶にしたのか。父親とどういう関係が——
その時、家の外からサイレンの音が聞こえたと共に、あまりの出来事で衰弱したのか、床へと倒れてしまった。
「っておい! 早くしろよ!」
と、思考がここで途切れた。
優輝が顔を上げると、そこには既に橋本の怒り顔があった。過去は過去のまま。でも、今をどうにかは出来る。精一杯生きていく。そして、黒獅子を探し出し、全てを自供させるその日まで——
「わかってますって。今用意してるじゃないですか」
「今ってお前、さっき俺ここに来たよなぁっ!?」
「あれって、便所に用があったんじゃなかったんですか?」
「お前にだよ!! わざわざ何でお前のところまで来て便所借りんとならんのだ!」
怒る橋本の姿を見て、笑う。あの頃の自分はそうやって笑えるなんてこと夢にも思っていなかった。どういうわけだか、微笑が零れてくる。
今ここにいる全てを感謝しているつもりだった。その為にも、自分の贖罪を全て消し去りたいと思っていた。
「よし、行きましょうか。橋本さん」
「お前な……!」
今日は、よく晴れた日であった。
- Re: 白夜のトワイライト【完結版】第4話更新 ( No.30 )
- 日時: 2012/09/11 23:37
- 名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: LcKa6YM1)
彼女は黒のタンプトップを着ており、下は動きやすそうな迷彩柄のものだった。まさに軍人のような見た目の彼女だが、その冷徹な雰囲気でそれさえも消滅させていた。
黒髪を一つにまとめた彼女が向かう先は、エルトール。ようやく任務を終えて帰還する途中である。肩からかけてあるバッグをものともせず、彼女は歩いていく。凹凸のハッキリしたボディーラインを描いたその見た目に釘付けにされる男も勿論いた。
「おいおい、待てよ姉ちゃん」
ひんやりとした空気の漂うアンダーにて、彼女は目の前に現れたのはガラの悪そうな男が4,5人である。それぞれがナイフやらを持ち、下品な笑みと笑い声をあげて彼女を見つめた。
「荷物を置いていきなぁ。……にしても、いい体してやがんなぁ? どうだぁ、お前、俺の女に——」
「邪魔だ」
彼女は無表情で言い放った。彼女の表情は帽子の鍔に隠れてよく分からないが、明らかに冷えた表情で言っていることを物語る言い振る舞いであった。
「なんだぁ? てめぇ……ここをどこだか知ってんのか? 4番街だぞ、4番街! 俺らの巣に来たってことは……誘ってんだろぉ?」
「……あぁ、4番街か。それは気付かなかったが……無法地帯の4番街は、確か"殺し"もありだったよな?」
「何を今更言ってんだ? お前! 当たり前じゃねぇか! だから、お前を今ここで——」
「そうだ。お前を今ここで、私に二度と口を利けないようにしてやる」
「な——!」
その瞬間、彼女はタンクトップの中にあったハンドガンを取り出し、瞬時に引き金を引いた。銃声が瞬く間に響き渡り、それと同時に立ち塞いでいた男の肩へと弾丸が貫いた。
「ぎゃああああッ!!」
「あ、兄貴ッ! て、てめぇ! よくも兄貴を——!?」
別の仲間が銃を取り出そうとしたが、彼女はその瞬間を逃さず、顔面を蹴り上げた。勢いよく後ろへと吹き飛ぼうとする中、その他の仲間達が一斉に発砲しようとしたが、いつの間にか彼女の手に持たれていた二丁拳銃によって銃を持った手を撃ち落されていく。つい一瞬のことであった。
「な、何だこいつ……!」
撃たれた手を抑えつつ、もう片方の手で銃を再び拾おうとしたが、その隙に彼女は腹を蹴り上げ、その勢いのままからだを捻りあげ、回し蹴りを男の顔面へと浴びせる。鼻血や口から血が飛び出し、地面へと倒れた。
「ひ、ひぃいっ!!」
悲鳴をあげ、逃げようとする男の足を撃ち抜き、その場で倒れさせる。ようやくかと嘆息しようとしたその時、後ろから聞こえた微かな音によって更に体を反転し、捻らせる。それと同時に銃声が鳴り響く。一人、まだ銃を持てた男が発砲したのである。
しかし、銃弾は彼女を打ち抜くことはなく、彼女の体が反転して捻り、地面へとしゃがむ前の残像へと抜けていった。
しゃがんだ後の動作も忘れない。彼女は冷静に銃を構え、即座に男の銃を持った手と足を撃ち抜いた。
「ど、どういうことだ……! こんな女に、俺らが……!」
「愚弄だな。殺さないだけまだマシだと思え。今日は久々に機嫌がいい」
二丁拳銃を納める。それから踵を返すと、また目的地へと向けて歩き出した。
彼女の正体は、エルトールの中でも有数の実力者兼ディストの親衛である。
——————————
「おい、ちょっと待て。今の話はマジか?」
一方その頃、エルトールでは鑑がディストに向けて異論を申し上げていたところであった。
「当たり前じゃないか、鑑君。僕はね、いつだって大マジなんだ。だから今回も——」
「"あいつ"を戻す必要はねぇだろ! 俺が本部にいる限り……!」
「……話をする以前に君、僕の言葉全く聞いてないね?」
呆れた様子のディストだが、鑑の言葉が留まったことを見て、まるで全てを理解したかのように満足した笑みを浮かべた。
「ふふ、今回の侵入の件で……天下の紅蓮閃、鑑 恭祐でも多少は負い目を感じるわけかい? ……だが、安心していいよ。そのことは関係ない。確かに鑑君は心強いし、君がいてくれたら館が燃えて崩れ去ることはあるかもしれないし、何か色々大変なことになりそうだけど、守ってくれると信じている」
「ならどうして"あいつ"を戻す必要が——!」
「正直に言おうじゃないか。うん、まあ、彼女はやっと任務が終わり、こちらに戻れて機嫌よくと来ている。それを帰れ、だなんて言えないだろう? いくら天下の紅蓮閃、鑑 恭祐でも黙る、私の親衛なのだから」
鑑を分かっているつもりではいた。あいつ——いわゆる彼女の性格や気性などを考えると、今は戻したか戻していないかの問題ではない。
確かに帰ってくればエルトールの警備は万全すぎていた。彼女の戦闘能力はさすがディストの親衛でもあるのか、エルトール随一とも言っていいほどの実力であるからだ。
まず問題視するべきは、彼女の気性的との関係であった。つまり、鑑は彼女の性格とは合っておらず、毎度のようにストレスが溜まっているといっても過言ではないほどであるからだった。
「にしても……何で今なんだよ、今。白黒が"例の症状"で引き篭もってる時に……」
「白夜君のは突然だった。僕もビックリしたさ。いわば、不慮の事故だね……おっと、そろそろ来たようだね」
ディストの宣言通り、エルトールの門が開いた。丁度二人はエントランス、つまり門を開いた中のロビーにおり、それを出迎える形となった。
現れた彼女を見て、鑑は絶句し、額に汗を流す。その一方で、ディストは涼しい顔で拍手をしていた。
「おかえり——"絶撃"(ぜつげき)の凪君」
前方には、先ほど戦闘をしてきたとは思えないほどの涼しい顔をした彼女がそこにいた。バッグを肩にかけ、威風堂々という言葉がふさわしいとも思えるその風格は彼女を見るだけで伝わってくるほどである。
門の外では、数日前と同様に和泉と宮辺が門番をしていた。凪の後姿を見て、唖然としたような表情をしている。
無論、鑑が今ここで知らされたように、和泉と宮辺は凪が帰ってくるということは聞かされていなかった。ディストのいい加減な様が目に浮かぶようである。
「ただいま戻りました、ディスト様」
「うん、相変わらず固いなぁ、凪君は……。とりあえず、お茶でもどうだい?」
「せっかくなので、いただきます」
ゆっくりと歩いてくる凪は、まるでディストしか見ておらず、その隣にいる鑑のことなど眼中にないようであった。
「って、待て待てッ! 俺にも挨拶ぐらいはしろよ!」
「……あぁ、いたのか鑑」
「お前相変わらずだな……」
冷たい視線と無表情で凪はディストの隣にいた鑑を見て言い放つ姿を見ては、鏡もまた溜息でそれを返した。
人混みの中で待ち合わせたとしても、鑑ほどの風貌があれば目立つほどであるが、依然として凪はまるで存在すらなかったように振舞う。わざとなのか、冗談なのかその無表情から読み取ることは出来ない。
「まあまあ、凪君。これでも鑑君はずっと君をここで待っていたんだよ? 感謝ぐらいしないと」
「な……!? お前はバカか! そんなこと誰も——」
「ご苦労だったな。しかし、ディスト様だけで結構だ」
「……もう好きにしてくれ…………」
大きく溜息を吐いてその場で頭を抱える鑑は放っておいて、ディストと凪は最上階へと向かっていった。
ずっとその様子を伺っていた和泉と宮辺が二人顔を合わせて、また"あの時"のようなものが見られるのかと冷や汗半分、微笑半分といったところであった。
——————————
「うっ……!」
鋭い頭痛が走る。そのことで途端に目が覚めた。またここか、と嘆息する。しかし、過去の夢よりか幾度かマシであった。まだ現実の方が良い。自分が罪を被ることで、過去の代償を背負うことで、全てを無くそうとしていた。
そうしたことで、楽になれるから。結局は、自分の緩慢であることに気付き、拳を握り締める。
消えない罪が、体を蝕む。その全ての代償を乗り越えた先に、一体何があるというのか。
まだこの"嘘だらけの世界"の真相を解明出来ない。白夜は密かに新たな思いを馳せていた、その時である。
突然、ドアが開け放たれた。防弾防音のこの部屋は、ディストと春の持つマスターキーでしか静かに開けることがまず不可能である。つまり、そのドアの前にいたのは——
「うん? ……あぁ、そういえば外からも防音だからノックの音も聞こえないんだったね。これは失敬したよ、僕としたことが」
そこに突っ立っていたのは、ディストだった。左手には紅茶の入ったカップが握られ、右手にマドラーを持ち、それで紅茶を渦巻かせていた。
笑みはそのままにして、白夜の方へと見つめるディスト。ドアから少し入ったところから踏み込んでこようとしない。その理由が何となく分かった。
「そろそろお目覚めかと思ってた頃なんだ。お客人と共に、君に依頼したいことがあってね」
ディストが言い切った直後にその後ろから人影が現れた。
それは、凪であった。ここで、白夜と凪は初めて出会うこととなる。凪が"とある任務"によってエルトールから離れたのは、もう二年ほど前になる。つまり、白夜がいた頃よりも前に任務で離れていたのである。
凪に関わらず、エルトールのあらゆる能力者達は地上などに出て自分で活動をしている者が多く、緊急要請の任務でしかその者達と顔を合わせることはない。これでも新参の内に入る白夜にとってはこういった元々いたメンバーと初顔合わせというのは特に珍しいことではなかった。
「うん、こっちは"絶撃"の凪君。そして、凪君にも紹介するけど、ベッドに座っているあそこの少年は月影 白夜君。通称、白夜光だね」
「白夜光……2年前だったか、その頃暴れていたベイグラント(放浪者)か」
凪が白夜の方へと見つめる。ベイグラントとは、能力を覚醒したものが規則を破り、地上をどこでも徘徊する者のことを言う。二年ほど前、白夜はそのベイグラントであった。
「……それがどうした。あんたには関係の無いことだ」
「ふっ、確かにそうだ。見た目は子供だと聞いていたが……本当のようだな」
冷笑する凪とそれに対峙するかのように見つめる白夜。どうにも険悪な雰囲気が漂っていた。
「二人共、落ち着いて。これだと、二人で仕事が出来ないじゃないか」
「仕事? ディスト様、私は今任務に帰ってきたばかりなのですが……」
即座に異論を述べたのは二人の内でもいいそうにない凪の方であった。先ほど任務から帰ってきたばかりで、また仕事に行けというのは確かに酷なことであるだろう。それも、前の仕事が長期過ぎる任務であったがうえの小さな反発であった。
「凪君、言いたいことは分かるよ。……白夜君にとっては、まあいいことなのかどうか分からないけど、やった方がいい任務だろうね」
「どういう意味だ?」
ディストは勿体ぶったように笑みを浮かべると、言い放った。
「待ちに待った、黒獅子関連の任務だよ」
「何……!?」
ディストの言葉に反応し、思わず言葉が飛び出した。ベッドからも飛び降りるが、そこをディストから微笑と共に静止された。
「危険も伴うし、可能性っていう範囲だから。そこまで期待はしない方がいいけれど……行くとしたら、チームを組みたいと思ってるよ」
「チーム?」
白夜の言葉は明らかに不快を示すような言い方だった。しかし、ディストはそれを挑発するかのような笑みで返した。
「そうさ。チームメンバーとしては白夜君を始めとして、春君、秋生君、そして——凪君の4人編成でいくよ」
「……その任務、私が必要ですか? 黒獅子とは関係ないことですし、三人編成でも事足ります。私が行かなくても——」
その瞬間、静かな空気が流れ落ちた。ディストから放たれているのか、その空気は発言を失ってしまうほど凍りついたものであるが、ディストはそれでも笑みを浮かべる。先ほどの凪の冷笑とはまた別の冷笑。
「僕が必要だと判断したんだ」
その言葉で、全てが解決したかのように凪は何も言わなかった。
「白夜君も、いいね?」
「……俺は俺のやるべきことをする。誰がいようと関係ない」
「ふふ、いい威勢だね。その調子で頼むよ」
と、笑い声をあげるディストであるが、実際何を考えているのかまるで分からない。エルトールの団長にして、彼の能力など戦闘をしている場面を"誰も見たことがない"。実際には普通の人間で、エルトールの中でも実は一番弱いのではないかという噂が流れるほどである。
そんなディストであるが、先ほどのような突然の凄まじい雰囲気を醸し出す異常なオーラ。あれだけで十分只者ではないと思える。
ディストは団長室で待っていると声をかけた後、部屋から出て行った。その後を凪も続こうとしたが、その途中で立ち止まった。
「過去が全てではない」
白夜の全てが、まるで見透かされたかのような一言に、凪が部屋から出て行くまでの様子を終始呆然と見つめていた。
その後の静けさから一変、白夜は胸の奥から湧き出てくる過去を走馬灯の如く巡らせて、大きく息を吐いた。
そして、歩き出す。
物語の歯車はようやく廻り始めることを心待ちにしていたのであった。
- Re: 白夜のトワイライト【完結版】 ( No.31 )
- 日時: 2012/09/25 00:28
- 名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: kzK7vPH9)
- 参照: 更新遅れて申し訳ございません;
寝ている間が一番平和な時というのは事実なのかもしれない。
夢の中がどんな世界であろうと、目覚めることが出来ればそこは現実としてあり、その世界を体験していながら思いを別の場所に移すことが出来る。
秋生は、毎度のように食堂でうたた寝をしていた。安らかな温度の元、寝やすい施設の揃っている食堂の座敷へと転がり、両手を組んだものを枕として寝るのが既に日課のようにもなっているのである。
今日もまたうたた寝をして夢の世界へと誘われる。この時間が一番平和で、争いもないのだろう。安らかな寝息をたてていた。
しかし、その時。その安らかな寝息をたてる秋生へと近づく影があった。
その影は真っ直ぐに伸びていく。そしてその影を表すものである綺麗な人の手が秋生の肩へと当たった。手はそのまま小さく二回肩を叩くと、反応を見張るかのように虚空で静止した。
「起きて下さい」
程なくして、透き通るような声が秋生へと投げかけられた。また声の主は手を差し伸ばし、再び肩を叩く。その動作が何度か繰り返されるが、秋生がおきる様子は微塵もない。どころか、先ほどよりも寝息が大きくなった気さえもする。
「……仕方ないですね」
と、嘆息した様子と共に吐き出された言葉と共に、ゆっくりと親指と人差し指を秋生の頬へと近づけ、そしてそれをつまんだ。
「いひゃいいひゃい! いへへへへ! なんひゃひょへ! (痛い痛い! いたたたた! 何だこれ!)」
突然の痛みによって上手く言葉が喋れない。寝起きということもあり、考えも廻らないまま起こされたような形であった。
「ふふっ、あまりに起きなかったもので……」
その犯人である春は楽しそうに微笑を浮かべている。秋生にとっては全くいい迷惑であった。
「もっと他に起こし方あったでしょ……」
「肩を叩きました」
「もっと他にだよ! 何で肩を叩くの次は頬をつねるんすかっ」
「ですから、やってみたかったんです」
再び笑顔で言われてしまい、とうとう秋生は反論の言葉を止めた代わりに溜息を吐いた。
「それで……一体何の用で?」
頬を離した春へと、そのつねられた頬を手で擦りながら聞く。いつものように柔和な感じの対応で春は口を開いた。
「平たく言えば、仕事です」
「仕事? 最近にしては珍しいな。……それで、内容は?」
「えぇ。内容は団長室で、団長自らがお話しするそうです」
「あぁ、なら団長室に行けば……って、え? 団長室?」
「えぇ。団長室です」
秋生は耳を疑った。業務スマイルかどうかは分からないが、笑顔を浮かべている春とは実に対照的な表情をしていた。
今までの任務は団長がディストの性格通りにいい加減なことが多く、内容等を伝達されて依頼書を頼りに任務をこなす形になるのだが、今回のように団長自らということは滅多にないのである。そもそも、団長としての役割を正当に果たしたことなどあったのか不思議に思うくらいである。
そんな実際は正当であるはずだが、このエルトール本部では不可解に思える今回の任務は秋生が怪しむには十分な理由を持っているのであった。
「気持ち悪いな……まさか、ディストさんが自らって……」
「そこまで考えすぎずとも良いのではないですか? 私も呼ばれましたし」
「え、春も?」
「業務中ですので、大和撫子というコードネームで呼んでくださいね。……えぇ、私も呼ばれました。どうやら同じ任務に属するようですね」
春と任務をすることなどいつ以来だろうと考えてしまうほど、秋生は春と任務を行っていなかった。春の現在の主な役職といえば書類等の担当や、精神面の治療、尋問等の戦闘能力が必要とされる任務向きではないのである。
そんな春が呼ばれた理由も気になるところであるが、わざわざ団長室に招かれる理由が分からない。
「……まあ、なら行ってみますか。団長室に」
「そうですね、仕事の内容を聞きに行かなくてはいけませんし」
と、一瞬だけ春は寂しげな表情をして言った。すぐに秋生から顔を背け、後ろ姿を見せる形になったのでそれ以上秋生からは分からない。
たまに見る寂しげな表情。今はどんな表情をしているのか。
秋生はそんなことを考えながら、その後ろを着いて行った。
——————————
沈黙が漂う。というのも、言葉が発せないほどの重圧が秋生に襲いかかっていたからである。
団長室へと招かれ、春と共に入ったまでは良かった。だが、その後扉の向こうを見るや否や、秋生は絶句したのだ。
「ん……? 確か、月蝕侍か?」
「え……?」
突然の声と混じる目の前の光景。そこにいたのは、秋生にとってあまり見覚えのない人間ではあるが、エルトール内では伝説と化さえもしている人物であった。
「私のことを覚えているか?」
「あ……あの、もしかして……"絶撃"の凪さん、ですか?」
「覚えていてくれていたか。久しぶりだな」
凪は悠然と団長室の中にいた。元からそこにいるのが当たり前かのように、とても自然に目の前へと現れたような感覚。秋生はこの目の前にいる彼女だけで既に困惑してしまっていた。予想だにしていない、まさかの出来事だったからである。
「お、お久しぶりです……」
「そんなにかしこまらなくてもいい。気にするな」
「は、はぁ……」
気にするな、という方が無理であった。
凪がとある任務でエルトールを離れてから早くも2年。その月日よりも前に秋生はエルトールに在籍していた。これでも春と同じほどの戦歴を積んでおり、戦場へと駆り出ていた頃の春の姿はあまり知らないが、任務はこなしていたので噂には聞いていた。
エルトールには、化け物の中の化け物がいると。
それはエルトール内でも噂されるほどの逸材で、それも女だという。
それを聞いて驚いたのは今では懐かしい話のようにも思えていたが、初めてお目にかかった時は鬼気迫るような気迫を感じ、とても女と思えないほどの殺気染みた何かを秋生は感じていた。
ただすれ違っただけだが、伝説と化しているその女は無表情の鉄面皮を美人の顔立ちが一層引き立たせており、見惚れてしまったのを覚えている。
その時、初めて声をかけられ、月蝕侍というコードネームを覚えてもらった。しかし、どうも合いそうにない性格だったので秋生自身は苦手としており、凪が任務で本部を離れると聞いた時は小さく胸を撫で下ろしたりもしていたのだが……
「ここにいるっていうことは……凪さんも、任務で?」
「……二年もかけて任務をこなしてきたばかりだというのに、休息の時間も無く次の任務だ」
「た、大変ですね……」
何と声をかければいいのか分からず、その場限りの一言を言ったが、凪の機嫌が損ねているのかどうかも表情では全く分からない。
少し眉が下がったところを見ると、やはり疲れがあって休みたいと思っているのだろう。ディストの命令によってそれも無くなったことに対して少し困っているような"空気"を秋生は感じた。
一方、当のディストは同じ室内にいた。凪が目を少し向けるのに合わせて秋生もそちらへと目を向ける。
いつものように自分の机へと座り、角砂糖が多量に入った大きなビンから摘んではカップの中へと放り込んでいた。それを見て嬉しそうに子供を想像させるような無邪気さでいるディストは何個かそれを入れた後、ゆっくりとマドラーを手にして掻き混ぜ始めた。
それを見た凪は無表情を崩さず、小さく溜息を吐いた。それを見る限り、凪にも感情の切れ端のようなものは存在するのだろうかと秋生は思っていた。
「お久しぶりですね」
その時、不意に凪へと声をかけた者がいた。透き通ったその声は不意だとしても聞き取れるほどの鮮明なものでった。
「大和撫子か。久しぶりだな」
「2年もの間、任務ご苦労様です」
「ありがとう。長らく留守をして悪かった」
お礼と謝罪の言葉を並べるが、表情は何一つも変わらない。それはいつものことのように何も言わず、春はその顔に多少の笑みを浮かべて再び口を開いた。
「いつお戻りになられたのですか?」
「ついさっきだ。急な任務らしく、私も同行することになったが……大和撫子も参加するのか」
「そうみたいですね。私も呼ばれましたので……メンバーはこれだけですか?」
「——いや、後もう一人いるよ」
春と凪の会話を今まで全て聞いていたかのように、話を割り込む形でディストが突然声を出した。しかし、様子は先ほどのあまり変わらず、何か気に食わなかったのかまた角砂糖を追加して掻き混ぜ、カップに口をつけて中に入っているであろう紅茶を少し飲む。すると、今度は好む味になったのか、満足げな表情をしてマドラーで紅茶を掻き混ぜた。
「もう、一人……?」
春に代わって、秋生が呟いた。春は大体誰か分かっているような様子で、凪もそれと同様の振る舞いをしていたからだった。
その時、扉が開く。音が小さく団長室へと響いていく。それは何かの始まりを告げるかのような、長く響いた小さな音だった。
「来たね」
思い通りだと言わんばかりの笑みを浮かべてディストは呟いた。
扉の前に立っていたのは、まだ幼い姿をしている少年の姿。見た目だけでは測りきれないその瞳の強さ。銀髪が異常に目立っている少年はそこに存在していた。
「もう一人って……白夜光かよ……っ」
再び驚きを露にしつつ呟いた秋生以外、全員がこうなるだろうという結果が既に分かっているかのような表情をしていた。
数十秒間、そんな沈黙が流れてから白夜はゆっくりと団長室の中へと入っていった。そして、凪と春、そして秋生の前で立ち止まった。
「……全員揃ったね。それじゃあ、今回の任務について説明しよう。分かっていると思うけど、今回の任務は君達4人で動いてもらうから、よろしくね」
ディストはいつの間にか空になった紅茶を机の上に置き、口元を歪ませてそう言った。
- Re: 白夜のトワイライト【完結版】更新再開 ( No.32 )
- 日時: 2012/09/25 08:14
- 名前: 結城紗枝 (ID: QYM4d7FG)
初めまして!ただいま入院患者(1人で転んで骨折w)
の結城と申します。
とっても暇で,最近カキコで小説を読みふけっている,
怪しい人です(笑)。
この小説は,主人公の気持ちと言動が,とっても真剣で,
良い意味で嘘がなくって,よく伝わってきて,まだ序章が
過ぎたところなのに,すうっと入りこめてました。楽しく
読めたので,感想を残させてもらっちゃいました//
これからも,遮犬サンworldを楽しみにしてます!
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