ダーク・ファンタジー小説
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- 白夜のトワイライト【完結版】番外編を書くのが楽しすぎる……
- 日時: 2013/07/30 11:19
- 名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: Drat6elV)
- 参照: 参照1000突破! 記念企画、イラスト・挿絵募集してます!
世界は不都合だ。
救われた命、消えた命、理不尽な死、理不尽な世。
最期には消えていく存在だと知りながら世界に生かされている気がした。
だとしたら、僕達はゴミで、世界はゴミ箱なのかもしれない。
酷いな、と僕は小さく呟いた。
——————————
【前書き】
初めまして、が多いと思われます。遮犬と申すものです。
このたび、大幅な変更点を加えていますので、リメイクではなく、あくまで完全版として再投稿させていただくことにしました。
この作品は、一年半前ぐらいでしょうか。そのぐらいの時から連載を続けていた作品ですが、内容等が矛盾していたり、設定や進行も多くミスが見られた為、修正で何とかなるとは思えなかったのでもう一度こうして連載を再スタートさせていただきます。
予定としましては、この作品の完結を含め、続偏と過去偏も用意していますが……この完結版の完結だけでも相当な日にちがかかることは必須なので、書くかどうかはまだ未定です;
ですが、またもう一度再スタートということで、元から読者として読んでくださっていた方々、そしてこれから読んでくださるという方々含め、頑張って書きたいと思いますのでどうか応援を宜しくお願いいたします><;
ちなみに、シリアス・ダークの元の小説とは大幅に設定が変更している点が多い為、あくまで新連載としてみていただければ嬉しいです。
2013年新年のご挨拶……>>51
参照1000突破記念企画「イラスト・挿絵募集」……>>73
〜目次〜
プロローグ
【>>1】
第1話:白夜の光 (修正完了)
【#1>>4 #2>>5 #3>>6 #4>>7 #5>>11】
EX【>>13】
第2話:身に纏う断罪 (修正完了)
【#1>>14 #2>>15 #3>>18 #4>>19 #5>>20】
EX【>>21】
第3話:過去の代償(白夜の過去前編) (修正中)
【#1>>22 #2>>23 #3>>24 #4>>25 #5>>26 #6>>27】
EX【>>28】
第4話:訣別と遭逢 (修正中)
【#1>>29 #2>>30 #3>>31 #4>>34 #5>>35】
EX【>>36】
第5話:決められた使命 (修正中)
【#1>>37 #2>>43 #3>>46 #4>>49 #5>>53】
EX【>>58】
第6話:罪人に、裁きを
【#1>>65 #2>>70 #3>>77 #4>>80 #5>>85 #6>>87】
EX【>>89】
第7話:ひとときの間
【
【番外編】
『OVER AGAIN〜Fire Work〜』
予告編
【>>59】
【#1>>90 #2>>91 #3>>93
- Re: 白夜のトワイライト【完結版】テスト期間中ですが、ぼちぼち再開 ( No.13 )
- 日時: 2013/01/19 12:08
- 名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: 5LwYdnf7)
倉庫内では、とある密約が交わされようとしていた。
「あぁ、事の運びは順調だ。……そっちの方は?」
男が一人、携帯電話を耳にあて、誰かと会話を行っていた。いかにも強面な面をし、その面にふさわしい黒光する服を着ている。また、その男の他にも似たような雰囲気を醸し出す男達が大勢その場を見守っていた。
『まあ順調さ。……それより、近頃"ねずみ共"が嗅ぎ回っているみたいだからね。気をつけた方がいいよ、そちらも』
「あぁ、いらない心配をありがとよ。にしてもあんた、"これ"を集めてどうすんだ? 俺にはただの戦争の遺品程度にしか思わねぇんだけどな」
『それを決めるのは君ではなく、依頼者であるこの僕だろう? とやかく言う筋合いはない』
「……なあ、それに何か利益があるって言うなら、俺らも手を貸すぜぇ? 勿論、利益は山分けだけどなぁ」
『全くいらない交渉だね。君たちは僕に言われた事を従えばいいんだ。いらない浅知恵など働かせるな』
「……あ? 何だと……? てめぇ——!」
と、その時。
入り口が勢いよく開かれたことによって男の言葉が途切れることとなる。
『……ほらほら、ねずみが来た』
携帯から発せられていた男の声はそう言い残した後、小さくプツッと音を鳴らし、通話を終了させた。それさえも気付かないほど、男は目の前にいる者のことを凝視している。周りの者共が一斉に銃を構え、入り口の方から立ち込める煙の奥にいる何者かを見据えて待っていた。
程なくして煙がなくなり、奥からゆっくりと姿を現したのは、
「武装警察第三部隊所属、日上 優輝だ。武装警察権限により、生死は問わない。投降するなら今の内に従え」
見た目的にまだ若く、いかにも新米そうな面立ちのうえ、そこに現れたのはその青年、日上 優輝一人だった。
「……ククク、ハハハハッ! おいおい、こんなところに迷い込んで、一体何の用だ?」
男は笑いが堪えきらなかった、とでも言うように高らかに声をあげて笑う。思っていたものとは違う、目の前にいるものはどうにでもならないものではなく、どうにでもなりそうなものに見えたからである。
「……笑わせるなよ? 武装警察とやらは期待していたものより、よっぽど腑抜けだったようだなぁ!」
笑い声を止め、男がそう言い放った途端、笑い声が周りの男達からあがる。しかし、それも束の間。黙って見ていた優輝に向け、冷酷な表情で男は告げた。
「——殺れ」
その瞬間、男達は一斉に銃を放った。20人あまりいただろうか。それらの手に握られていた銃の声は途切れることなど——ないように思えた。
「発砲してきたのはそっちから。正当防衛に、職務執行妨害も成立するな……っと!」
「え、な……! ぐはぁ!」
優輝から一番近い前方にいた者が突然声をあげて、手から銃を地面に落とす。今頃銃弾塗れになっているはずであろう優輝の存在は既に元の場所におらず、優輝が呟いた言葉は倒れた男以外の男達には誰も届いていない。
自分達の仲間が一人倒れたことに気付かず、男達は銃声を鳴り響かせる。しかし、一瞬の気配の内に迫り来る予感を感じ取ったが、それは既に遅く、二人目の犠牲者が声をあげて倒れていた。
どうやら倒れた男達は何かによって斬り付けられたようで、肩から腰の方までかけて一気に斬られている。二人目の犠牲者を確認したところで、男はようやく優輝の姿を発見することが出来たが、優輝のその姿は先ほどまでの若造とは違っていた。
己の背丈を越えるほどの大太刀を両手で構え、その刀身は薄い青色の光を後方より照らされる月の光を背景として灯されている。
威風堂々としたその姿は、圧巻の一言であった。
「お、お前……まさか……」
男はいつの間にか汗をかきながら、恐れるべき相手を確認した男は震えながら両手で銃を構える。
優輝の両手に握り締められた大太刀は蒼い光の弧を描き、目の前の味方を両断していく。その際に、男は見てしまったのである。
通常では有り得ない光景を。優輝は、銃弾を幾度となく"一刀両断"していたのだ。
「う、撃て……! 撃てぇーッ!!」
男の言葉と同調するかのように、優輝へと目掛けて銃弾を放つ。だが、優輝は横へ体を転がらせ、手に持つ大太刀で銃弾を所々弾き、両断しては凄まじい速度で近くにいる男を斬り付けていく。男達は優輝に目掛けて銃弾を放つことに夢中になっていた為、多少広いこの倉庫内でも仲間同士で相打ちすることもあった。
着実に人数を減らす優輝の存在は男達にとって既にただの若造などではなく、畏怖の象徴として捉えられることなど容易である。
「くそ……! くそっ! こんな若造に……!」
苦し紛れの言葉を吐き、いつの間にか空になったマガジンに気付かず引き金を引く男の脳裏には、あることが思い出されていた。
それはこの倉庫での密約。そしてその内容と、"電話をしていた相手"との約束事。
全ては"ある計画"のために。自分はその計画のために——
「ま、待てッ!」
男が声を出したのは、それから数分後のことである。
20人あまりもいた男構成員らは誰もかれも負傷しており、うずくまっていたり、倒れている者もいた。
たかが数十分後のことで、ここまでの被害を被ったのだ。それも、ただ一人の若造に。
優輝は、男の叫び声に似たものを聞いて、手に持っていた大太刀を止める。正常に立ち上がっている者はこの男以外、既に存在しなかった為だった。
「と、取引をしよう……! 俺たちが、ここで何をしていたか……それと交換だ! そ、その代わり、俺は見逃してくれ! 頼む!」
「取引……? ……内容によるかな」
「内容なんて、とんでもねぇもんだ! これは極秘なんだ! いいか? 俺たちが依頼されたのは——!」
その時、鋭い銃声が倉庫の中で鳴り響いた。
優輝の目の前で怯えながらも話そうとしていた男の額には、いつの間にか赤黒い丸型のものが刻まれている。その刹那、そこから多量の血が噴出すると同時に男の体はゆっくりと地面へと伏していった。
突然の光景に何が起きたのか暫し理解できず、優輝はただ呆然とその場から動けずにいたが、
「——ぁーあ。喋ろうとしちゃったから」
「誰だ?」
既にこの倉庫の中にいた男達は片付けたはずだったが、声はどこからともなく聞こえてくる。声の持ち主は姿を現さず、倉庫の中でその声を反響させていた。
「ふふっ、よく一人で突入しようと思ったね? 能力者がいると思わなかったの?」
「能力者がいないかどうかなんて、武装警察の手にかかれば簡単に分かる。それに……」
「それに、黒獅子の情報もあるかと思った?」
「ッ、何でそれを知っている!」
突然、声を荒ぶらせる優輝の姿を見ているのか、声の主は高らかに笑い声をあげる。
「そんなに怒らないでよ。君、なかなか面白いよね。興味深いと、僕は思ってるんだよ?」
「何……? 正体を現せ!」
「ははっ、残念だけど、そんなことをしちゃったら面白くないじゃあないか。……まあでも、近い内君には正体を見せるかもしれないね」
「近い内に……? どういうことだ?」
「さぁね。お楽しみってところにしといてよ。……ふふっ、それじゃ、僕はもう行かないと。面白いものを見させてもらったよ——日上 優輝君」
「待てっ! 誰なんだお前は! 黒獅子と一体何のつながりが……」
優輝の叫び声も虚しく、声の主はその場から去ったようで、返事は勿論、気配さえも感じることが出来なかった。
それと同時に、気付いたことがある。男が話していたこの場所での交渉。恐らくその交渉品と思われるものが消えていたのだ。声の主が持ち帰ったのかどうかは定かではないが、消えてしまったことには変わりはない。
「クソッ……!」
唇を噛み締め、苛立ちを露わにする。黒獅子の情報はまたも得ることは出来なかったのだ。そのことが一番自分にとって最悪の結果であった。
そんな優輝に、突然無線から連絡が入ってくる。苛立ちを抑えながらも、無線を出ると怒声が突然無線から聞こえてきた。
『おいっ! 日上! お前今どこにいる!?』
「……もう既に任務は完了しましたよ。倉庫内は制圧しました」
『お前……また一人でやったのか!? 何度も危険だと言うのが分からんのか!?』
「危険なのは分かってます。けど、毎回成功させてるんだから、別にいいじゃないすか」
『よくない! お前は自分の立場も考えろ!』
「立場って何なんすか。……"あのじいさん"が俺の義理の親だからですか? 橋本さんはそんなこと関係ない人の一人だと思ってたつもりなんすけどね」
『誰もそんなことは言っていないだろう! 俺は一上司としてだな……!』
「あぁ、もう説教なら後で聞きますから。……ちょっと待っててくださいよ」
優輝が無線越しにそう言う最中、不意に何かが倉庫の奥の方に見えた。それは薄暗い、何も無い空間のように思える。倉庫の奥は夜の月の光が天井から差し込むぐらいで、明るさなどまるでない。闇しかないその奥の方に、何かが光っているような気がした。
無線から上司の橋本の声が何かを叫んでいる中、優輝はゆっくりとその場所へ近づいていく。
ダンボールがその場所にだけ多量に詰まれ、明らかに不自然な壁の造りがあった。どう見ても何かがあると思った優輝は、そのダンボールを崩し、奥を調べてみる。するとそこには——
「あぁ……橋本さん。すみませんけど、少しだけ遅れますよ」
『……って、やっと返事をしたか、と思えば何だ? 遅れる? 一体何があった!?』
「いえ……まあ、簡単に言えば——興味深いものを発見しました』
奥には、科学研究所のような施設に続く、特殊な構造で出来たものが後に続いていたのであった。
- Re: 白夜のトワイライト【完結版】テスト期間中ですが、ぼちぼち再開 ( No.14 )
- 日時: 2013/01/19 12:26
- 名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: 5LwYdnf7)
一体自分が何者なのか、分からなかった。
ただ恐怖に塗れていた日常の中に、普通はない。安全もない。恐怖しかなかった。
その先に何があるのかさえも分からず、私はどこへ行けばいいのか探していた。
探した先に何があったわけでも、どう変わったわけでもなく、私はただ恐怖に怯えていた。それでも、前へと歩かなければならない。
生きる為に。
——————————
第2話:身に纏う断罪
——————————
眩しい電光灯の光がおぼろげに見えた。ゆっくりと視界が開けていくが、光に慣れず、視界は不安定にぼやけており、ここがどこかさえも分からない。
「起きた?」
優しそうな女性の声が聞こえてきた。すぐにそれは隣に座っている女性のものだと分かったと同時に、その女性が自分の手を握っていることが感覚として伝わる。次第に視界が鮮明になってきた所で、慌ててその手を振り払った。
ベッドの上でずっと寝ていた少女は、怯えた表情を見せ、必死に握られていた手をもう片方の手で擦る。その後鋭い視線を看病にあたっていた女性、風月 春へと向けた。
しかし、何も言わず、ただ春は少女の顔を見つめる。その表情は、本当に心配しているかのような、悲しそうで安堵の様子も伺える、不思議な表情を浮かべていた。
少女は春のそんな様子を見て、少しは警戒心がなくなったのか、睨むことを止めて周りを見回し始めた。
殺風景な個室で、その中に少女と春はいる。その部屋にあるベッドには少女が。そしてそのベッドのすぐ隣にある椅子に座って看病をしていたのが春だった。
電光灯の光がただ眩しく少女には感じる。久しくこの明るさを知らなかったように思えた。ずっと暗い場所で、暗い暗い、闇の中を逃げ回ってきたような気がしたのである。
「……大丈夫?」
少女は、いつの間にか深刻そうな顔をして考え込んでいた。それを春が心配そうに聞いてきたわけだが、少女はその返事を飲み込んで、春から目線を逸らす。
「……ここはエルトール。貴方は人質としていたところを、私達の仲間が助けて、今貴方はここにいるのです」
春の言葉を耳に聞くが、少女は黙ってただ前を向くばかり。春はゆっくりと口を再び開いた。
「貴方の名前を、教えてくれますか?」
「……知らない」
初めて少女が呟く。春に目を合わせてはいないが、少女はちゃんと返事を返したのだ。そのおかげで春の表情が少しだけ和らぐ。
「……よかった」
「……?」
突然、春が安堵のため息と共に口に零した言葉がどうにも引っかかった。名前を名乗るのを拒否して、何故安堵する必要があるのだろう、と。
少女は少し違和感のようなものを持ちながらも、目線は決して春には向けない。何かの抵抗のような様子さえも伺えた。
「まだ、話してくれるってだけでも安心出来ました」
少女の違和感、目には見えない視線を多少なりとも感じたのか、春は笑顔で言った。その様子を見て、少女は不思議な表情で思わず春へと視線を投げかける。
そんなことを言われたのは少女にとって人生史上、初めてのことだった。
たった一つの、こんな何気ない言葉だけでここまで動揺するとは少女にとって予想外のこと。先ほどとは打って変わり、今度は春の目から目が逸らせない状態になってしまっていた。
「……? どうしたの?」
「……ッ! な、何も……ッ!」
声をかけられたことでようやく目線を逸らせたが、心臓の高まりまでは治まってくれない。
「……あ、そうだ。自己紹介してないですよね? えっと、私は風月 春。ここ、エルトールで能力犯罪者を取り締まっています」
春の自己紹介を耳では聞いているものの、先ほどと同じように目を逸らした状態へと戻り、少女はそのまま目線を逸らしたままを保ち続けた。
その様子を見て、春は悲しそうな顔でため息を吐こうとしてしまったその一歩手前、
「……ヒナ」
「え?」
「私の、名前」
少女は、少しだけその閉じ込めた殻にヒビを入れた。しかし、光は眩しく照らしてはくれない。それは春にも分かっていた。少女の中では、まだ暗闇は続いている。延々と、どこまでも。
それでも、春は少女の、雛の言葉を笑顔で、歓喜で表した。安堵のため息さえも出る。
「よろしくね? ヒナ"ちゃん"」
「……ッ!!」
慣れない呼ばれ方をし、まるで猫のように体全体を強張らせるヒナへと、春は笑顔で手を差し延ばす。
その手は、どこかで見たことのあるような、そんな気がした。けれど、ヒナには何時のことだったか思い出せない。思い出したくないのか、思い出せないのか。それさえも分からないままに、ヒナはその手へとおそるおそる手を伸ばした。
「ふぎゃああああ——!!」
その時、凄い叫び声というより断末魔に近いものが部屋の外から聞こえた。その声に反応し、ヒナは思わず手を引っ込める。春はというと、またいつものことか、とため息交じりに言わんばかりの表情をしていた。
ドアの向こうでは男の声が双方に言い争っているような様子が繰り広げられていたのである。
「あぁ? 入っていいんだろうが」
「いや、いいとは思いますけど! でも今は春さんが看病中というか!」
「うるせぇ! そんなことは聞いてねぇ! 邪魔するぞ!」
「ちょ、邪魔するなら帰っ——!」
と、その時、引き裂くような炸裂音が鳴り響いた。 それはとてつもない音で、爆風のような熱気が部屋の中にも入ってくる。しかし、次第にそれは抑え切れずにドアをぶち破って室内へと入り込んできた。熱風が途端に吹き上がり、室内温度は上昇する。その男がいるだけで、温度は上昇していくのだ。
それはその男の能力のせいであった。
「っと、派手にやっちまったな」
季節はもう梅雨の時期だというのに、それにそぐわないジャケットを着て、首元にはもふもふとした毛のマフラーのようなものをつけている。全体的に奇抜といえるその格好をした男は、サングラスで目は見えない。
しかし、部屋に入るや否や、呆れた表情をした春と、驚き声も出ない雛の姿を見つけると、サングラスを外して嬉しそうに近づいてきた。
「お帰りなさい、と本来は言うべきでしょうが……今回は許せませんね? "紅蓮閃"」
「相変わらずだなぁ、風月はよぉ。鑑 恭祐(かがみ きょうすけ)って、いつになったら呼んでくれるのかねぇ」
"紅蓮閃"と呼ばれる男、鑑 恭祐は両手をわざとらしくおどけるが、春はそれを毎度のことようにスルーし、雛へと再び視線を向ける。
「大丈夫。一応、この人も私達の仲間だから」
「おいおい、一応って何だよそりゃぁよ? 随分ひでぇ言い様だとは思わねぇか?」
「はぁ……月蝕侍、これだから鑑をここに入れないでくださいとあれだけ……」
部屋の入り口、先ほど鑑が自身の能力でこじ開けた扉の近くで倒れている人影が見えた。炭を頭から浴びたかのように黒ずんでいるその男こそが月蝕侍こと吾妻 秋生である。
「いや……俺に、鑑さん止めろとか……無理な話だろ……ガクッ」
まるで力尽きたように手を虚空へと向けて伸ばしていたのだが、それは小さな音を立てて地面へと落ちていった。
「何がガクッ、ですか……。演技をするなら、もっと上手くなってからにしてください」
と、呆れた声で春は呟いた。雛は何が何だか分からないかのように呆然とした立ち振る舞いをしていた。 そして、数歩先にいた鑑が雛へと視線を向け、若干怯えているヒナの顔を覗き込みながら、
「にしても……これが"白黒"が見つけたっていう人質か?」
秋生と春をそっちのけで雛を見つめつつ言った。鑑は見た目的に二十歳ぐらいの若い年代だが、どこか子供っぽさのような部分もあり、大人っぽい部分もあるのが鑑である。その鑑に見つめられた雛は少し強張り、体を後方へと引かせた。
「別に、捕って食うわけじゃねぇんだ。そんなにビビらなくてもいい。逆に変な奴が来れば俺等が追い返してやるよ」
と言って、高笑いする鑑の姿はどう見ても初対面の相手に振舞う行動ではない。
鑑の言った白黒、というのは白夜のことである。鑑は幾度とか白夜と共闘したことがあり、そのたびに任務を必ず成功させていた。白夜のことを白黒という愛称で呼ぶのはエルトール内でも鑑しかいない。
鑑のサングラスの奥には、大きな目が映っていた。 黒い、その大きな目のある二枚目のその顔は不敵に笑みを浮かべて、雛へとそれを向ける。
「よろしくな、譲ちゃん」
その笑顔には屈託のない少年のそれがあった。
- Re: 白夜のトワイライト【完結版】テスト期間中ですが、ぼちぼち再開 ( No.15 )
- 日時: 2013/01/19 12:45
- 名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: 5LwYdnf7)
小さな子犬が鳴く。それはダンボールに入れられた子犬。
公園のすぐ傍で、日の光も当たらないその陰で子犬は鳴いていた。それは捨てた主人を待つ声なのか、それは分からない。しかし、その声を耳にし、近づく者は小さな子供達が興味本位で近づき、ほどほどに相手をしてその場に放置するぐらいで、行き交う人々は誰もが見知らぬふりをする。
だが、そんな子犬に差し伸びる手があった。
日傘に、涼しそうな薄い着物を着ているその女性は、柔らかな表情を浮かべて子犬に笑いかける。
「一緒に行こうね」
女性は、子犬を抱きかかえた。その重みはとてつもなく儚い気がして——
女性は、涙を流した。
——————————
アスファルトの地面がまるで生きているかのように蒸し返していく。少しの水滴も逃さないかのように水はアスファルトの中へと飲み込まれていく様が簡単に見て取れる。
梅雨の時期ではあるが、今日はその中でも特に暑い日であるらしい。更にこの間降った雨で地面がジメジメして無駄に気温が上昇している。
そんなアスファルトの地面を踏み、とある施設へと向かう一人の青年がいた。
警察とは異なるその存在、能力者を取り締まる存在であるその施設、武装警察へと日上 優輝は向かっていたのだ。
ジメジメとした暑さにやられ、汗が体中から出てくるのに嫌気を差しつつも額の汗を拭いて一歩ずつ歩いていく。
目の前にはパトカーが何台もとめられており、見た目はほとんど警察署と変わりない。
ようやく入り口へと入ったかと思うと、涼しい風が前の方から吹いてきた。それを味わいつつも優輝は用のある地下へと向かう。
忙しなくテーブルワークを行っているロビーを抜け、脇にある階段を下りていく。下へと降りていくと、一つの大きめの扉が見えてきた。
日上はそれを見つけるや否や、懐からカードのようなものを取り出して扉のすぐ横にあるカードリーダーへと差し込んだ。すると、電子音が小さく鳴り、扉が音を立てて開く。日上は勿論、カードを取ってからその中へと入って行った。
中は普通の仕事場と何ら変わりはないが、何か変化があると言うならばそこはボロかった。
埃などが所々に見え、すぐ扉の上の方に掲げられている"能力犯罪課第三部隊"と書かれてあるプレートが若干ズレていたりする。一言で言えば、汚さが目立つ職場であった。
「やっと戻って来やがったか!」
鬼のような形相で、更に怒号を室内に鳴り響かせるのは30代半ば程度に見える男である。男は爪楊枝を咥え、噛みながら優輝へと近づいてきた。
「あぁ、橋本さんじゃないですか」
「なぁにが橋本さんじゃないですか、だ! 一人でまた勝手に行動を起こしやがって! 俺の身にもなりやがれ!」
「……の割には、何か食事をしていらしたみたいですけど?」
爪楊枝はともかく、橋本の口周りには何かの食べカスがあることを優輝は発見し、それを見つめながら指摘する。
「め、飯ぐらいはいいだろう! とにかく、反省しろ!」
「何をですか?」
「単独行動をだよ! 他に何があるんだ!」
「橋本さんも、酒癖悪いのも反省してくださいね?」
「俺のことはいいんだよ! 俺のことは! それとこれとは話が別だろうが!」
橋本の怒号がこの職場で訪れることは珍しくない。日常茶飯事なことで、特にその矛先が優輝に向くことが普通だった。
「にしても……いつ見てもボロいっすね、この職場」
「そんなことよりだ! 報告書を書いてさっさと提出しろ!」
「や、それをやろうとしたら橋本さんがこうして……まあいいですよ」
橋本の隣を通り、優輝は自分の席へと向かい、座る。それを見届けた橋本はまだ言い足りないところがあるのか、少しの間そこに突っ立っていた。
能力犯罪課と呼ばれるものは署によって異なるが、様々な部隊によって分かれている。全体としての総まとめは能力犯罪課と呼ばれるものだが、実際は部隊そのものが各部署として扱われているのが現状である。
特に、この第三部隊というのはその他部隊よりも比較的に扱いが酷い。他の部隊は皆仕事スペースが十分に設けられているのだが、第三部隊に関してはこのように地下で、それも狭くボロい職場なのであった。
どうしてこのような扱いを受けているのかというと、第三部隊のモットーが関係しており、そしてそれは事件を解決まで導くこととしている。そのモットーは理論上とても立派であり、正当な印象を持つが、上層部の連中にとってはなかなか邪魔な存在であった。
その為、そのモットーを変えない限りはこのような扱いを受けざるを得なくなっている。端的に言えば、嫌がらせであった。
それぞれの部隊には各担当の部長がおり、その部長がモットー等を決めて部隊ごとで事件を取り扱うのだが、第三部隊には先ほどの優輝が行った任務などの危険な仕事がほとんど任されている。
やりがいとしては一番第三部隊が多いと思われるが、危険も扱いも酷いのであまり行きたくないと思う者は数多く。他部隊でも厄介だと思われたものは第三部隊に集まる、というのも過言ではなかった。
実際に、その中の一人が日上 優輝のことである。
「橋本さん、報告書書きましたよ」
「あぁ、こういうところは仕事早いな」
橋本は頷いてその報告書を受け取る。殺風景な職場の中には橋本と自分以外に無人であることを優輝は気付いた。
「あの、他の人は?」
「任務中だ。部隊ごとに何人か派遣されて一つの任務にあたるそうだ」
「へぇ……あの、そこまで大きな任務って、何かあったんすか?」
「あった、というべきか……指名手配中の能力犯罪者の目撃情報があったりしたんだ」
橋本の言葉に優輝は目の色を変え、名前はと聞いたが、橋本はそれを数秒見つめた後、爪楊枝を指で折り、それをゴミ箱に捨てて言った。
「氏名は神楽 社(かぐら やしろ)。通称"断罪"と呼ばれる能力犯罪者だ」
と、橋本の口から放たれた言葉を聞いて優輝はその強張った表情を緩める。
「断罪って、犯罪者なのにそう呼ばれてるんですか?」
「神楽が自分で名乗っているんだが……どうにも似合わないよな」
近くの小さな冷蔵庫を開け、そこから缶ビールを二つ取り出した。片方を優輝へ渡そうとしたが、優輝は昼間なんで、と断った。
「……それより、何で続きを捜査させてくれなかったんですか」
「続きって……お前の見つけたっていう、あれか?」
プシュッ、と缶ビール特有の音が鳴る。換気扇が重い音を響かせる中には新鮮な音のように思えた。
優輝の見つけたあの謎の施設の捜査を止めたのは橋本だった。
優輝はどうしてもあの場所を調べたい思いが込み上げていたが、それは当初の予定の中ではないことであり、第一優輝の単独行動の時点で当初の予定とはかけ離れていた為に、これ以上の単独行動はこれからの捜査に対して不利になることがあるだろうと見て止めたのである。
「それでも、俺は……」
「……まだお前、引き摺ってんのか」
「……何が言いたいんですか」
「分かってるだろう。俺も分かってる。お前がそう動きたいって気持ちもな」
缶ビールを片手に持ち、思い切りよくそれを飲んだ。喉へ何度かそれが通った後、缶ビールをテーブルの上に強く叩きつけるかのようにしておき、優輝を見つめる。
「でもな。それはお前の都合だ。それでお前が死んだらどうにもならねぇ。その単独行動は勇気でも何でもねぇ、ただの復讐にしかねぇんじゃねぇのか」
「分かってますよ、そんなことぐらい。ただの復讐でしかならないってことも。それでも、俺は——!」
ドンッ! と、唐突に大きな物音が室内に響く。 どうやらドアを開いた音ようで、それによって優輝の言葉は喉の奥の方へと消えていってしまった。
「あー! もう無理!」
優輝にとって、その声は慣れ親しんだ声だった。
長い黒髪に、凹凸のハッキリした体つきで、スタイルの良いその女性はムシャクシャした様子でドアを開けて入ってきたのだ。
「ま、まあまあ……千晴さん、落ち着きましょうよ……」
その女性、柊 千晴(ひいらぎ ちはる)を宥めながら続いて入ってきたのはどうにも気弱そうな感じのショタな雰囲気が抜けきれない少年だった。
「もー、相原君も少しは言ったらどう!? にしてもあの態度はないよね! 私達の方が成績はいいのに、どうせ第三部隊? 絶対見下してる!」
「まあまあ……いつものことなんだし、仕方ないよ……」
「仕方ないって、そればっかりだよね? もっと自信持っていかないとダメだよ!」
「ごめん……」
そしてこの少年の名前は相原 祐太(あいはら ゆうた)である。
二人共、橋本と優輝と同じく第三部隊に所属している仲間であった。
「千晴は自信ありすぎなんだろうが」
「誰がよっ! ……って、橋本さんに、優輝? 二人共、いたんだ?」
「いたんだ、じゃないだろう、柊。文句を言いながら戻ってくるなとあれほど……」
「細かいことはいいじゃないですか! 橋本さん! ……それで、こっちのアホがまた単独行動したって聞いたんですけど、大丈夫なんですか?」
軽く目線で千晴は優輝の方を向いて鼻で笑いながら言う。それを見た優輝も黙ってはおらず、ついついその挑発に乗っかってしまった。
「おい、誰がアホだよ、誰が——」
「あんたしかいないじゃない」
「こ、この野郎……! 言わせておけば……!」
「ふ、二人共、落ち着いて……」
気弱に宥める相原が介入しても、この二人の勢いは止まらない。橋本でさえもこの二人が本気で言い争いや喧嘩をした時はもうどうしようもない状態にさえなる。この二人の騒動が抑えられるといったら——
ガチャ、とそこで再びドアの開く音が聞こえた。その時点までは誰もがそれに気づかない。いや、一人気付いた者がいた。相原である。相原は、その入ってきた人物を見て、驚いた様子でその者を見て頭を下げた。そして、その人物が一言、
「あら? どうしたの?」
ただその一言だけで、先ほどまで言い争いをしていた二人がピタリとそれを止め、声の主の方へと顔を向けた。
4人が全員、その方へと顔を向けるや否や、少し青ざめた顔色を見せて、入ってきた者へと頭を下げる。
その者は、薄い着物を着ていた。綺麗な顔立ちをしており、どこか大人びた様子もありながら、子供染みた様子も見えるその人は、白く細い腕に——何故か子犬を抱いている。
「や、八雲部長……!」
橋本が思わず口に出したその名前。
この着物の女性は、紛れもない、武装警察第三部隊の部長、八雲 涼風(やくも すずか)であった。
小さな子犬が固まる4人を見て一つ、鳴き声を室内に響かせる。
- Re: 白夜のトワイライト【完結版】 ( No.16 )
- 日時: 2012/07/24 16:04
- 名前: 世移 ◆.fPW1cqTWQ (ID: r6RDhzSo)
おひさしぶりです、遮犬さん!
新しく執筆されて嬉しいです!それに前よりも執筆レベル上がってません?読みやすくなっていますし。
前白夜トワイライトとどう変わっていくのか楽しみにさせてもらいます!
- Re: 白夜のトワイライト【完結版】 ( No.17 )
- 日時: 2012/07/26 22:38
- 名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: Wzrhiuo9)
>>世移さん
お久しぶりですー!世移さん!
描写などが以前よりも地道に上がった、と共にこれからも上がらせていく為にリメイクさせていただきました!
物語等もおかしな部分などがありましたので、全て書き直してもう一度書こうかなぁと思い立ちましたので……
前の白夜のトワイライトよりも読みやすく、そして面白く書いていきたいと思っています!
出来れば応援、よろしくお願いいたします;
コメント、ありがとうございました!頑張りますっ。
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