ダーク・ファンタジー小説

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白夜のトワイライト【完結版】番外編を書くのが楽しすぎる……
日時: 2013/07/30 11:19
名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: Drat6elV)
参照: 参照1000突破! 記念企画、イラスト・挿絵募集してます!

世界は不都合だ。
救われた命、消えた命、理不尽な死、理不尽な世。

最期には消えていく存在だと知りながら世界に生かされている気がした。

だとしたら、僕達はゴミで、世界はゴミ箱なのかもしれない。

酷いな、と僕は小さく呟いた。


——————————


【前書き】
初めまして、が多いと思われます。遮犬しゃいぬと申すものです。
このたび、大幅な変更点を加えていますので、リメイクではなく、あくまで完全版として再投稿させていただくことにしました。
この作品は、一年半前ぐらいでしょうか。そのぐらいの時から連載を続けていた作品ですが、内容等が矛盾していたり、設定や進行も多くミスが見られた為、修正で何とかなるとは思えなかったのでもう一度こうして連載を再スタートさせていただきます。

予定としましては、この作品の完結を含め、続偏と過去偏も用意していますが……この完結版の完結だけでも相当な日にちがかかることは必須なので、書くかどうかはまだ未定です;
ですが、またもう一度再スタートということで、元から読者として読んでくださっていた方々、そしてこれから読んでくださるという方々含め、頑張って書きたいと思いますのでどうか応援を宜しくお願いいたします><;
ちなみに、シリアス・ダークの元の小説とは大幅に設定が変更している点が多い為、あくまで新連載としてみていただければ嬉しいです。



2013年新年のご挨拶……>>51

参照1000突破記念企画「イラスト・挿絵募集」……>>73


〜目次〜

プロローグ
>>1

第1話:白夜の光 (修正完了)
【#1>>4 #2>>5 #3>>6 #4>>7 #5>>11
EX【>>13
第2話:身に纏う断罪 (修正完了)
【#1>>14 #2>>15 #3>>18 #4>>19 #5>>20
EX【>>21
第3話:過去の代償(白夜の過去前編) (修正中)
【#1>>22 #2>>23 #3>>24 #4>>25 #5>>26 #6>>27
EX【>>28
第4話:訣別と遭逢 (修正中)
【#1>>29 #2>>30 #3>>31 #4>>34 #5>>35
EX【>>36
第5話:決められた使命 (修正中)
【#1>>37 #2>>43 #3>>46 #4>>49 #5>>53
EX【>>58
第6話:罪人に、裁きを
【#1>>65 #2>>70 #3>>77 #4>>80 #5>>85 #6>>87
EX【>>89
第7話:ひとときの間



【番外編】
『OVER AGAIN〜Fire Work〜』
予告編
>>59

【#1>>90 #2>>91 #3>>93

Re: 白夜のトワイライト【完結版】 ( No.3 )
日時: 2012/04/20 21:48
名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: GHOy3kw9)

>>サーヤこりんこさん
初めまして、遮犬と申しますー。
ビル真っ二つとか、大袈裟に書いちゃいましたが、その後の描写は書いてないですねwwあまりプロローグっていうこともあって短めにしたかったという部分からもすみません、もっと真っ二つになってグシャグシャーっと潰れる様子を描いた方が臨場感溢れましたかねw現実味はゼロですがw

あぁ、純粋にありがとうございますw
えっと、コメディとシリアスの方にですね?ちょっと色々と忙しかったりする部分もありますので、あまり頻繁には来れないとは思いますが……コメントの方、させていただきます。させていただくんですが、いい所のほかに自分はこうすれば〜……ということも言っちゃいます。なんていうか、個人的な主観の意見です。あまりコメントを残さない失礼な野郎ですが、目を通させて、コメントをさせていただきます。

長く長くまた連載していくことになると思うので、これからもお付き合いいただければな、と思いますっ。純粋に面白い! と、サーヤこりんこさんにも言って貰える様、努力いたします。
それでは、長くなりましたがコメントありがとうございましたっ。

Re: 白夜のトワイライト【完結版】 ( No.4 )
日時: 2013/01/18 00:55
名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: 5LwYdnf7)

 暗い部屋の中で目が覚めた。目がそこに慣れているのか、微かにではあるが薄暗い光が外から少し漏れている為、周りの様子が何となく把握できる。
 周りにあるものはほとんどダンボールの山だった。そこら中に積まれ、中に何が入っているかまでは分からない。ただ埃が表面についているものや、ついていないものもあるぐらいの違いだけである。
 そんな部屋の中で少年と少女がいた。

 言葉を発することもなく、少年は黙って目を覚ました。周りの様子を確かめ、そうして自分以外に少女の存在がいることに気がついたであった。
 気配と、微かに見える人物像を頼りにダンボールを押し退けて見る。手についた埃など気にすることはなかったが、自分の手足が双方結ばれていることを動かしてみてやっと気付いた。
 少し埃臭いのを我慢して、這いずりながら少年は少女へと近づいてみる。微かにではあるが、一定のリズムで聞こえてくる吐息を聞き取り、少女は生きていることを確認。どうやら寝ているようだった。

 どうしてこんなところに閉じ込められているのか。少年は何も思い出せない。思い出そうとしても、頭の中には何も無いのである。ただ人間として生きていく知識があるぐらいで、思い出やその他日常の記憶などが全く無くなっていた。
 そのことに気付くこともなく、どうしようかと少年はその場で少女を見つめるばかりで、辺りを見回すこともなく、ただそこに佇む。

(このまま、死ぬんだろうか)

 言葉が脳裏を過ぎっていく。少年は力が抜けたように床へと寝転がると、少女の背中を見つめた。自分と同じぐらいの歳の少女。この少女も、自分と同じように死ぬのだろうか、と考えてしまっていた。
 ——だがしかし、そんな考えは途中で強制終了される。それは、突然物音を立てて、開くはずのない扉が開いた為だった。

 眩しい光が目に差し込んでくる。思わず目を細めてしまうが、しっかりと光の差し込んでくる方を見た。 そこには、一つの人影がハッキリと映っていたのである。

「——大丈夫か?」

 子供の姿。白いパーカーを着た銀髪の少年がそこにいた。

「俺は月影 白夜。お前達を助けに来た」

 銀紙の少年の後方より差し込んでくる光は少年の目へ当たり、だんだんと人影に覆われて失っていく。気付けば、月影 白夜と名乗る銀髪の少年は目の前にまで来ていた。そして、白夜も、目の前にいる少年少女を見つめる。
 倒れている少年の目は虚ろ気に白夜を見つめており、少女は寝息をたてていた。どちらも、衰弱しているように見える。ゆっくりと近づき、白夜は二人に結ばれていた手足の縄を解いた。

「動けるか?」

 白夜が聞いても、少年は答えない。答えたくても答えられないようだった。声が出ない、というより自分の置かされた状況が把握できていないのか、呆然としている。
 しかし、白夜の声が耳に届いたのは確かなようで、少年はゆっくりと頷いた。
 そして、光が少し射し込む。少年の顔へと、ゆっくりと。

 ——少年の眼は、先ほどまで両目共に黒色だったが、何故か今は銀色の眼を左目から見せていた。


——————————

第1話:白夜の光

——————————


 世界は劇的な変化を遂げた。
 それは何時からのことだったかということはこの世界に住む者からしたら関係ない。ただ、世界がそう望み、そう変化しただけ。それがいかに必然的なことであろうとも、人間達にとってその過程のことなどどうでもいいことだった。

 世界は普通ではなくなったのは、突然のことだった。
 インターネットの無数飛び交う情報の中に一つの異次元が突拍子もなく現れたのである。その異次元の正体は不明で、解析しようともまるで分からない、まさに謎の情報物体だった。
 科学者達はそれを解明しようと試行錯誤を繰り返し、何度も実験を試みたが、一つのある事実が判明する。
 その事実は、この物体そのものがまさに異世界だということだった。この世界とは根本的に違う、科学的に存在する異次元世界。つまり、パラレルワールドのようなもので、電脳世界と呼ぶのに相応しいものだということである。
 電脳世界には未知の部分が多く、科学者の誰もがその存在を恐れる中、とある一人の科学者が人類で初めて電脳世界へと足を踏み入れた。その科学者がアクセスし終えると、見た目は何も変わらなかったが、とある変化が現実世界で起こる由縁となってしまったのである。

 それが、能力——キューヴの誕生だった。

 キューヴとは、電脳世界を通して得られる能力のことで、元々の能力が人間それぞれの体内に潜在しており、なおかつそれが覚醒された時、現実世界にてキューヴたる能力が発動できるようになるというものだった。
 電脳世界は、まさに人間に新たな力を加えた脅威の世界。しかし、それら多くの謎がある反面、それを有効活用出来れば世界は素晴らしい変化を遂げる。そんな電脳世界を、人々はいつしかこう呼んだ。

【エデン】と。

 初めて電脳世界へと足を踏み入れた科学者は、潜在能力が覚醒し、人類において初めての電脳能力者となったのである——

 今では、電脳能力者は政府機関を通して教育までもがされる時代でおり、能力者も居住を共に出来るように設定された専用都市までもが存在する。能力の使用は禁止されているが、警察側でも能力者を逮捕する為に電脳能力者を配備することとなり、能力の使用は黙認されるほどの影響を受けていた。

 そして、世界は次第に狂っていくことになった。
 ——数年前に起きた、世界中の悲劇となってしまった"あの戦争"をきっかけとして。

——————————

 大きく円状に囲まれた膜のようなものが大空を旋回している都市に、月影 白夜と少年達の姿はあった。
 旋回しているのは流れ星のように煌く光が何度も膜の外側を行き来している。これも電脳世界、エデンの影響によるものであった。薄い膜のように、あらゆる物質などを防ぐ結界代わりになるバリアが張られているのだ。それは、この都市に住む能力者達の為であり、能力によって街が壊されるのをこの膜が内側外側関係なく防ぐ役目を担っている。内側は勿論だが、外側に関しては攻撃してくる外敵のみにしか反応はしないが、このバリアが破られたことは今までに一度も無い。

 白夜達は、そんな都市の中を歩き回り、巨大に聳え立つビルの前へと着いた。真上を見上げて階数を数えるだけでも一苦労しそうなこのビルの中へと連れ込む。淡々と入っていく白夜の後ろを、少年はいそいそと着いて行き、少女は相変わらず白夜の背中の上で眠っていた。
 ビルの中に入ると、忙しそうに人が行き交う平凡な会社風景がそこに広がっていた。広いホールフロアに、受付が配備され、エスカレーターが上り下り両方が3つ完備されている。エスカレーターの上には、エレベーターが4つほど見え、色んな人が上へ下へ左右へと移動を繰り返しては忙しなく働いていく。

 少年の姿はあんなホコリ臭い場所に放り込まれていたこともあって、とても薄汚れていた。それは白夜の背中で眠っている少女も同じこと。行き交う人々は、そんな少年の姿と、背中に少女を背負っている白夜の姿を見て見ぬフリを繰り返していた。
 ゆっくりと白夜は受付の方へと向かい、受付で営業顔をしている20代前半の女性へ、

「"アンダー"に用がある」

と、白夜が言った。
 それに対し、ピクリとも表情を変えず、女性はゆっくり頷くと、手元にあるパソコンの画面を見つめ、数十秒時間が経過した後、ようやく女性の口が開く。

「……了承しました。お名前をどうぞ」

 女性の無機質な声に応答するように、白夜もそれを淡々と返答する。

「月影 白夜だ」
「……確認しました。どうぞ、奥へとお進みください」

 無線機のようなものが急にピーっと音を鳴らした。その音を聞くや否や、白夜は奥の方にあるエレベーターへと乗り込む。4つある内の一つではなく、受付のより奥の方にある隠されたエレベーターにである。
 少年もそこへ乗り込み、白夜は閉と書かれてあるボタンを押す。ドアはゆっくりと閉まり、エレベーターは重音を響かせて動き出す。そのエレベーターには階数を表すボタンが一つもない。ただ扉の上に地下を示す表示だけがあり、もの凄い勢いでエレベーターは降下する。地下へ、地下へと辿り着いたその先には——

 能力者達が集う都市。いや、世界というのだろうか。能力を自由に行使し、マナーもルールもまるでない。
 そんな無法地帯が地下に都市として大きく広がっていた。

Re: 白夜のトワイライト【完結版】 ( No.5 )
日時: 2013/01/19 12:27
名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: 5LwYdnf7)

 地下街は何番街にも分かれており、それらごとに雰囲気や治安も全く違う。まるで一つ一つの違った街がまとまったように、この壮大な地下街は作り出されていた。
 上空では地面に放たれた太陽の光を吸収し、それらを地下街に降り注がせてはいるが、やはり直射日光とは根本的に違う。擬似太陽光はどこか薄暗く、それは全体的に注いでいる為に、地上よりもだいぶ薄暗い印象を受けてしまうのだ。
 環境的には何番街か分かれているぐらいであり、地上と同様に学校などもある。だが、基本的にアンダーで暮らす子供や夫婦は地上の住民から遠ざけられた存在であることは間違いなかった。どうしてこのような格差社会が作られたのか。その原因は昔に起きた"ある大規模な戦争"がきっかけとなっている。

 白夜達は05番街と呼ばれる場所へと足を踏み入れた。関所のような場所があり、大きく壁で覆われている。そんな境界線自体がない番街も多いが、ここは別格だった。
 05番街は通称、化け物の巣窟と呼ばれるほどに普通の人間は勿論、極悪犯罪者から恐れられる場所だからである。
 そんな05番街にある巨大な要塞のような建物へと通じる大きな扉の隣には、不機嫌そうな男と、それを宥める気弱そうな少年がいた。

「何で俺らが守り番なんだよ!」
「まあまあ……落ち着いて? だって、じゃんけんで負けちゃったんだし、仕方ないよ」
「じゃんけんで守る側か狩る側かを決めるってのがそもそもおかしいだろ! 実力で決めやがれ!」
「そうかもしれないけど……ディストさんがそれでいこうって言っちゃったんだから、仕方ないよ」
「仕方なくねぇよ! ディストもな、何であいつが団長なのか、俺には全く理解できねぇな! じゃんけんで決めるなよ! じゃんけんで!」

 その二人は見たところ何かを言い争っているようだ。
 不機嫌そうな男の名前は、和泉 憐(いずみ れん)。短気な性格で、標的が目の前にいると、それが罠だとも考えずに突っ走っていく。能力者、及びに政府などに称されるアバターコードという呼称は、嵐桜らんおうと称されていた。性格の割には、綺麗な呼称であるが、その名の通り、能力もそれを表現したかのようなものである。
 物腰の柔らかそうな男の名前は、宮辺 葵(みやべ まもる)。見た感じ通り、穏やかな性格である。性格通り、争い事は嫌っているが、相手が凶悪能力犯罪者であるならば話は別。性格などからかけ離れた行動を見せる場合もある。アバターコードは、鷹ノたかのめと称されており、その呼称に相応しく遥か遠くの敵を発見出来る眼と、少しの音でも聞き分けることが出来るなどといった探知能力も発動することが出来る。その能力を用いて背中にあるスナイパーライフルを含めた銃器を専門に扱う。

「そんな怒らなくても……あ! 白夜君っ!」

 宮辺が白夜の存在に気付き、指を差して言い放つ。白夜は自分の名前が呼ばれても気にせずに、無表情で歩みを進めた。その白夜の背中をよそよそと着いて行く少年の姿もそこにある。

「白夜? あいつは人質の救出込みの面倒臭い仕事をやってたんじゃ……って、うぉ! 本物じゃねぇか!」
「そりゃ本物だよ! 僕が視認してるのに」

 宮辺の能力が間違いを生じたことは今まで一度もない。その能力を抜きにしても、宮辺の眼はかなり良く、すぐに相手が誰か認識することなど容易に可能である。

「そのガキ共が人質か?」
「……あぁ」
「へぇ……なんでもなさそうなガキ共だけどな……」

 和泉が少年を見つめてそう呟くと、数秒経った後に白夜へともう一度口を開いた。

「なぁ、白夜——」
「白夜君! 今回も活躍したってことですよね? さすがですっ!」

 すると突然、隣にいた宮辺が和泉の言葉を遮って介入する。それによって和泉はその短気な性格を思い切り爆発させた。

「てめぇ……葵! 人の声を遮ってんじゃねぇよ!」
「和泉君はどうでもいいから、門を開いてあげなよ」
「な……! お前な!」
「早く! 子供達も衰弱してるから!」
「……後で覚えとけよ」

 こんな会話が二人で交わされた後、悔しげに和泉は門の操作を解いた。仕掛けは暗証番号と合言葉式となっており、更に門前のみ見える監視カメラを作動させ、メンバーの誰か確認できるようなシステムも備わっている。
 それならば何故暗証番号と合言葉が必要なのかと言うと、姿形や声までも同じくさせる能力が存在することを予測している為だった。もしくは違った能力でそれらが突破されることを恐れ、こうした二つのセキリュリティを行っているのである。

「あー、えーと……あぁ、そうだこれだった」

 和泉は暗証番号の代わりとなるキーボードを出現させ、慣れた手つきでキーワードの文字を打ち込んだ。
 すると、大きな門が盛大に開くのかと思いきや、左端のところが一部外れ、スライド式に開いた。

「この門、まやかしにしては大きすぎるように思うんだが……」

 和泉が言ったように、その大きな門は優に15mを到達している。それほどの大きさを誇る壁はどこを見てもこの門ぐらいしかなかった。
 門を超えた後には地上にある街と同様に結界が張り巡らされている為、空を飛んで入るという手段も不可能である。ただし、中から外に出る際にはそれは関係無くなってしまうわけだが。

「飛行系の能力持った奴等的には相当この結界は鬱陶しいだろうな。俺には分からんが」
「何を和泉君はぶつぶつ呟いてるの? 早く白夜君達を中に入れてあげなよ!」
「……マジで、葵。後で覚えてろ」

 スライド式の扉を力強く開くと、和泉は入れと言い残すと再びムスッとした表情で巨大な門にもたれかかる。
 白夜達は何も言わず、その奥へと入っていく。

 門の奥に待ち構えていたのは、白と黒色のみで作られた外壁に、真正面から見ただけでは計りきれないほどの大きさを持つまるで要塞のような城だった。


「お帰り、白夜君。——"エルトール"へ」


Re: 白夜のトワイライト【完結版】 ( No.6 )
日時: 2013/01/19 11:55
名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: 5LwYdnf7)

 ——エルトール
 それは能力を使った凶悪犯罪者による犯罪を取り締まる、いわばキューヴを使った警察組織のようなものと役割はほぼ同等のように思えるが、根本的には警察と比べても全く違う。
 国からエルトールを設立しろと命令されたわけではない。能力者が次第に増え、それを用いた犯罪が増え、こうしてアンダーが作られたことからエルトールはいつしか設立していたのだ。
 そして、その存在が世に広く認められるようになったのは、世界を狂わせたといっても過言ではない、とある戦争がきっかけだった。
 エルトールはその戦績と共に、戦争等を引き起こす凶悪能力犯罪者を断罪するという目的を掲げて認められたのである。

 その結果、エルトール本拠地はこの地下都市と呼ばれるアンダーへと設置されるようになった。地上ではキューヴを覚醒していない通常の人間も沢山いる。キューヴの力を利用することを反対している派もいた。 その理由として、力は戦争の根源であり、また未知の力であるがうえに信用が出来ないことが主である。

 電脳世界は突然発見され、そこからキューヴという能力が覚醒していった歴史の中で、その得体はまだ知れない。いわば、人類を脅かしかねない未知の力なのだ。安全の保障はまるでない。
 それでも、能力者は未だ増え続けている。きっとどこかで増え続け、次第にそれは誰の責任でもなくなり、それが分かっていて能力者達は迫害されていく。
 世界は今もなお、人々に異変をもたらそうとしていた。

——————————

 白夜と少年、そして白夜の背中で未だ眠ったままの少女と共に城内へと入っていった。
 中は白を基調とした外観で、シャンデリアやレッドカーペットなどの洋風の振る舞いを見せている。しかし、外から見た城の圧倒感とはまた違い、どこかそれよりも控えめな感じさえするほどだ。
 広間には真ん中に大きな階段があり、その奥の方には広場が見えている。中には大きな公園にありそうな噴水が中央にあり、その周りには色とりどりの花々が植えられてあった。
 そして何よりも入り口より続くレッドカーペットの一直線上に緩やかな階段が続いており、それはまるで御伽噺の世界のような別世界である。

「あら? 白夜光……ですか?」

 その階段の上には、日光の光が当てられ、眩しく光が輝いているのを背景にして女性が一人立っていた。
 日光のせいでよく顔が見えにくいが、その声は白夜の記憶の中で確かに存在している。

大和撫子やまとなでしこか」

 白夜がそう呟くと、丁寧に腰を曲げてそこにいる女性は頭を下げた。
 女性の見た目はアジア系の女性で、とても若く見える。白夜の外見こそ子供だが、その女性は10代と言っても充分にまかり通る。しかし、その雰囲気は若さとは別の色気があり、気品に満ちていた。
 程なくしてから頭を上げた大和撫子こと風月 春(ふうげつ はる)は、嘘がないと思わせるような純粋さのある笑顔で白夜を見つめる。
 白夜の隣にいた少年は黙って春の顔を見ていた。それに気付いた春は、白夜から少年の方へと目線を向き直す。

「その子は……人質の?」
「あぁ、そうだ」

 春の質問に白夜は即答した。
 少年はその様子を春の顔と白夜の顔を交互に見て伺う。それを見た後、春は急に控えめな笑い声をあげ始めた。

「何がおかしい?」
「いえ……ふふっ、白夜光には悪いと思うけれど、二人共、並んだらそこまで身長差がないですね」

 春の言葉を聞き、白夜は思わず少年の顔を横目で見た。少年も白夜の方へと向く。その二人の似ている仕草からか、春は再び笑い声を小さくあげてしまった。

「……悪かったな」

 白夜は小さく、少し不機嫌そうに呟いた。春は、その様子を見て嬉しそうな顔をすると、また笑みを浮かべた。

「お疲れ様でした、白夜光。……団長室でディストさんが待ってますよ」
「分かった。……すまないが、この二人を見ててもらえないか?」
「構わないですが……人質救出の確認として、ディストさんに見せるべきではないですか?」

 不思議そうな表情で春は白夜に訪ねた。白夜はゆっくりとレッドカーペットの上を歩き、春の元へと近づいていく。それに少年もついていき、背中に眠っている少女は未だに白夜の背中の上で揺られていた。

「気になることがある」

 白夜の言葉に、再び何かを尋ねようとした春だったが、不意に飛び込んできた少年の顔を見た瞬間に言葉を飲み込んだ。

 春の後方から照らされた光が、少年の顔へと差し込む。
 そしてその少年の目には、それぞれ違う色が映えていた。

——————————

 カタカタ、と音が小刻みに鳴り響いていく。
 暗い部屋の中、様々なモニターが立ち並ぶ。それらを凝視しながら手元にある様々な機械を弄繰り回している男がいた。

 男の年代は50を過ぎているように見えるその外見の姿が印象的だった。
 角ばった眼鏡をつけ、茶色く適度に手入れを入れていないように見えるボサボサの髪の毛を無理矢理に一つに輪ゴムのようなもので留めている。留めた後の部分の髪は乱れて少し黒ずんでいる部分もあった。
 顔はまるで生気がこめられていないかのように、青白い色をしていた。目の下には隈が出来ており、あまり寝ていないことが分かる。額にも黒ずんだ炭のようなものがついていたり、所々汚さが表れていた。
 まるで学者のような服装を着てはいるが、その自慢の白衣もいまや黒ずんだり黄ばんでいたりと、様々に汚れが逆に目立ち、台無しである。

「ふふ、ふふふ……」

 その時、機械を動かす手を止め、突然笑い声をあげ始めた。

「ようやくだ……ようやく、完成するぞぉ……!」

 男は、モニター画面を見つめ、そう呟く。

「私の……最高傑作が!」

 画面の中には、三つの巨大なカプセルが置いていた。人の形をしたものが三つ閉じ込められ、中に込められた液体よって浮かび上がっている。


「神の……完成だ!」


 薄暗い部屋の中、歓喜に満ちた男の笑い声が満ち溢れていった。

Re: 白夜のトワイライト【完結版】テスト期間中ですが、ぼちぼち再開 ( No.7 )
日時: 2013/01/19 11:58
名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: 5LwYdnf7)

 白夜の申し出通り、春が二人を預かることを確認すると、白夜は階段を登っていった。現団長であるディストに会う為にである。

 団長といっても全権限があるわけではなく、この本拠地を取り締まっている。団長とは別にオーナーは存在し、そのオーナーたるものは本拠地にはいない。オーナーいわく、地上の空気は美味いからという理由で地上に住んでいるらしいが、実際のところは詳細不明である。
 各地にエルトールの団員が散らばり、それぞれに個人で地上などで活動している中、エルトール本拠地には少人数しか残っていないが精鋭もまた多い為特に苦ではない。

 階段を登っていくと、奥に待ち構えていたのは先ほどとは世界観の異なるエレベーターが横に一列、5つ設置されていた。
 そのエレベーターを挟むようにしてある左右にはそれぞれ階段が存在し、その幅もまた広大である。この場所を中心としてエルトール本拠地は成り立っているのだ。

 先ほど白夜が出会ったのは風月 春のみであったが、他のメンバーは任務で出て行っているか、一般人に紛れて生活をしている者が多数である。
 原則として、通常の人間には犯罪者でなければ能力を使用してはならないことを条件として地上での生活を一応了承されている。しかし、その結果裏切り者も多く、ルールを破って能力を使用する団員もいた。
 そうした中、エルトールに反発を覚える者が多いのは納得出来る。治安維持の為、能力犯罪を減らす為だとはいえ、能力者を地上に住まわせる行為そのものは矛盾しているのだ。エルトールの存在はそんな反発もあるが、そうは言っても必要不可欠な存在であり、その存在に賛否両論の意見が住民達の中では存在している。

 白夜は即座にエレベーターへと乗り込んだ。このエレベーターのある二階フロアを基準として様々な部屋に分かれている。そして何より、一番最上階までの10階の間、つまり2〜9階では用途が別々の部屋に分かれ、それぞれに意味を持つ役割があった。しかし、今では従業員も少なくなり、それらの部屋が使われることは特に無い。

 10階のボタンを押すと、エレベーターは重音を響かせて動き出す。急速で上階へと向かっていき、あっという間に団長室のある最上階、10階へと到達した。

 エレベーターが開くのを見届けると、白夜はエレベーターから降りた。そこにもまたレッドカーペットやらが広がり、広大なフロアがある。そしてその奥には、材質の良さそうな大きな木の扉が待ち構えていた。
 扉へと向かうと、白夜はドアノブを握り締め、その重い扉を開く。

 すると、中から甘い匂いが突然漂ってきた。

「うーん……角砂糖はやっぱりいいね。何個入れても足りやしない」

 その声は部屋の奥の方、入り口の方へ向いていない大きな椅子の向こう側から聞こえて来た。その左右には古い本棚が並べられている。更にその奥に大きなガラスが張ってあり、そこから外の風景が一望することが可能。重厚な作りをした机が椅子の途中を挟み、その上には角砂糖が大量に入った透明な瓶が置かれていた。
 大きな椅子が座っている人物を隠し、見えているものはそこから横に伸びた手と、それに握られているティーカップのみである。

 手はゆっくりと椅子に隠れ、少しの沈黙が訪れた。紅茶を飲んでいるようだったが、啜る音は一向に聞こえない。エルトール本拠地の現団長であるディストは紅茶などを飲む時、啜り音が鳴ることを嫌っている為、その癖だろうと白夜は容易に想像することが出来た。

「ふむ……さすが、地上から取り寄せただけあるよ。この紅茶は美味だ。角砂糖もとても甘くて……あ、白夜君もどうかな?」

 その時、大きな椅子がゆっくりと半回転する。まるで白夜がこの場所を訪れることが分かっていたような言い草で、ようやく白夜と向き合った。
 中性的な顔立ちをしているディストは、天然のものと思わしきウェーブのかかった白髪の前髪をティーカップを持っていない手で触れると、組んでいた足を逆に組み替える。

「美味しいよ? この紅茶」
「……任務を完了してきた」
「ふぅ、僕のオススメの紅茶より任務かい? なかなか仕事熱心なのはとてもいいことだけど、紅茶は——」
「気になることがある」
「本当に、君は僕の話を聞く気はないんだね……。……まあいいや。それで、気になることとは? 任務は完了してきたんだろう?」

 ディストは少々悲しそうな顔をして一息吐き、音を立てずに紅茶を口にする。それから何が気に食わなかったのか、ディストは透明な瓶から角砂糖を二つほど指で摘むとそれらをティーカップの中へ入れた。

「今回の人質のことだが——あれは何だ?」
「あれ? 角砂糖足りなかったかな……? ……あ、聞いてるよ。あれって?」

 ディストはいつもの調子で話す。この調子は白夜が苦手であり、ディストとの会話を毛嫌いしていた。
 相手の調子を崩すような話し方。どこかで聞いたような気もするが、白夜は思い出せずにそのまま話を続ける。

「子供が二人人質として発見されたが、見た感じ貴族の子供でもなく、政府関係者の子供とも思えない。孤児院にいたような、そんな子供だ。その子供を人質とするメリットがない。……だが、一つだけ人質になり得る理由が分かった」
「へぇ、それは?」
「これはまだ男の方しか確認していないが——両目の色が違う。光が当たると、反応して二つの目が違う色を見せる。通常では黒目同士、それはカラーコンタクトというわけでもない」

 白夜の話を黙って耳にしながら、ディストは度々紅茶を飲んでいた。しかし、音が聞こえない為、実際にちゃんと飲んでいるのかさえも見た目では分からない。
 透き通っているディストの目は真っ直ぐ、好奇と共に白夜を見つめていた。

「なかなか面白そうだね、その子。それに、まだもう一人人質がいるんだよね?」
「あぁ。そっちは女だった。歳は見た目は男と同じ歳だろう」
「そっちも気になるね……。ふふ、それで、その子達はどこに?」
「大和撫子に預けて分析を頼んでいる」
「さすがだね、白夜君。じゃあ引き続きその子達を——」
「それと、まだ話がある」

 言葉を遮った白夜に対し、ディストは少しだけ眉を上げて反応する。しかし、白夜の表情は先ほどまでとは明らかにどこか違った声色と表情で言葉を繰り出していた。

「黒獅子の情報は?」

 一瞬、ディストの紅茶を飲む手が止まった。そして真っ直ぐ、白夜の顔を見つめてどこかわざとらしく、嘲るように小さく笑い、

「あぁ……まだそれは入っていないよ。依然、捜査中ってところかな」
「……これ以上情報が掴めないのなら、契約は破棄させてもらう。いいな?」
「ふふ、まあまあ……。分かっているよ、白夜君。せっかく一年も一緒にやってきたというのに、今更お別れなんて酷い結末じゃないか」

 ディストはおどけたように言うが、白夜はその言葉に何も返さず、そのまま背を向けて部屋から出て行った。
 その様子をディストは見つめ、ゆっくりとコーヒーを机に置き、角砂糖をまた一つ手にとる。


「黒獅子、ねぇ……」


 ポチャンッ、と普段ならば音が鳴らないはずの角砂糖が音を立てた。


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