ダーク・ファンタジー小説
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- 我落多少年とカタストロフ【完結】
- 日時: 2014/06/29 22:15
- 名前: 月森和葉 ◆Moon/Z905s (ID: fCO9WxRD)
「もう、駄目なんだ」
「決まってしまっていることなんだよ」
「なんで?」
「ユウ、あたしのこと好きだって言ったよね?」
「だったら、なんでそんな顔してんの?」
「こんな僕でも」
「いつか、笑える日が来るのですか?」
「愚問だな」
はじめまして、月森和葉(つきもりかずは)と申します。
いつもは二次映像に居たり雑談板に居たりリク依頼総合にてイラスト屋をやらせて頂いたりしています。
興味が沸きましたら、是非とも見てやって下さいませ。
※ここから注意です※
●厨二嫌い、月森のことが嫌いという方は、無理に見て頂かなくてもかまいません。
●荒らしはご遠慮下さい。
●コメントをする際は、ネチケットを守りましょう。
以上でございます。
皆様に楽しんでいただけますよう。
2013年3月23日
*イメージイラスト
北城霧 >>3
立花遥香 >>5
理実悠人 >>9
日和北都 >>13
日和三波 >>25
*頂き物
たろす@様より霧 >>28
2014年6月29日完結
- Re: 我落多少年とカタストロフ ( No.46 )
- 日時: 2014/05/25 21:19
- 名前: 月森和葉 ◆Moon/Z905s (ID: fCO9WxRD)
画面の中では相変わらず彼らが崩れ落ちる瓦礫から逃げ惑っている。
「…………それが、どうしたと言うんだ」
何かが変わった、彼の中で。
霧は今まで組み伏していた男から手を離すと、ゆらりと立ち上がった。
「……僕の髪が今ではこんなに長いのは、なんでかな?」
髪の一房を取り上げて、ぽつりと言った。
最初は何のことかと思ったが、男はやっと気付いたらしい、立ち上がって霧を止めようとしたが、もう既に遅い。
霧は踵を返して走り出した。向かうのは先ほどまで彼が座っていた玉座のあった場所である。
場所に面影などは既に無いが、空間は繋がっている。
「やめろ……!」
何も無い空間に勢い良く飛び込む。
すると、霧の身体がふっと消えた。
何処へ向かったのかというと、“あちら側”である。
“こちら側”と“あちら側”は時の流れが違うのだ。
それならば、向こうからならこちらの崩壊を止められるのでは?
答えは、正解なのである。
男も急いで“あちら側”に向かおうとするが、もう遅い。
スクリーンに映った街は、もとの平静さを取り戻そうとしている。
街を行く人々は、何が起こったのかという表情をしていて、さっきまでの阿鼻叫喚が嘘のようだ。
「ああ……!」
- Re: 我落多少年とカタストロフ ( No.47 )
- 日時: 2014/06/01 22:14
- 名前: 月森和葉 ◆Moon/Z905s (ID: fCO9WxRD)
男が膝から崩れると、奥から霧が戻ってきた。
「貴様、なんてことを……!」
忌々しいを通り越した目つきで睨まれるが、霧はそんなことは気にしない。
じんわりと笑って言った。
「向こうの人を従順に育ててくれて有り難う。僕の言うことは全て正だって教育して貰ったみたいだね。直ぐに言うことを聞いてくれて助かったよ」
そのまま男に背を向けて出て行こうとする霧に、男は罵声を放った。
「お、お前は“あちら側”に住まう人々がどうなってもいいと言うのか!」
ぴたりと止まってゆっくりと振り返った。
「僕はそんなことは知らない。僕が大切なのは僕が今まで住んでいた“こちら側”の世界で、“こちら側”に居る僕の友達なんだ」
何の躊躇もなくそう言うと、また前を向く。
しかし、彼は歩き出すことなく小さく呟いた。
「——ねぇ、一つだけ聞きたいことがあるんだ」
「…………」
男は地面に膝を突いたまま答えない。
「僕は、僕の大切な世界しか護れない。自分に関係ないことなんて知ったことじゃないと考える人間だ。——でも、こんな僕でも、いつか、笑える日がくるのでしょうか?」
彼の大きな瞳がゆっくりとこちらを向く。
蒼い眼はより一層煌きと翳りを増し、悲痛な悩みを訴えているようだ。
「……愚問だ。実に愚問だよ……」
表情は長い髪に隠れて見えないが、微かに肩と語尾が震えているようで、感情があらわになる目前である。
それ以上そこに留まることはなく、霧は男に背を向けて歩き出した。
もう後ろを振り返ろうとはしなかった。
街はたった数分の間に起きた事態に理解できず、人々は空を仰いでは困惑の表情を浮かべている。
そんな中彼の一風変わった服に眼を向ける人など誰も居なく、何の問題も無く自宅に戻って鍵を閉めた。
- Re: 我落多少年とカタストロフ ( No.48 )
- 日時: 2014/06/15 21:05
- 名前: 月森和葉 ◆Moon/Z905s (ID: fCO9WxRD)
数週間が経ち、街の人々が忙しさに先日の出来事を忘れかけた頃。
遥香と悠人、それに三波と北都は彼を捜していた。
危険を顧みず、今来た道を駆け戻っていった彼。
詳しいことは何も分からないが、彼が自分達と、さらに街の人々まで全て掬い上げてしまったのだろうということは想像に難くない。
文化祭が近付き、放課後だというのに校内はまるで昼休憩の時のようにざわついている。
今日は教師と生徒による、文化祭のための会議が開かれている。
主催は生徒会だが、代表である霧が不在なために副会長である北都が代理を務め、その横で三波が書記としてノートにペンを走らせている。
その会議も今日は終わり、代表が帰ってきたことで各団体はますます盛り上がりつつ準備を進めている。
文化祭当日に生徒会がすることは来賓や来場客の相手などのほぼ裏方作業なので、そう盛り上がってもいない上に柱である霧が不在なのでは上がるモチベーションも上がらない。
ホワイトボードに書かれた文字を消し、動かした机と椅子を元の場所に戻す。
そうして二人が会議室を出ると、遥香と悠人に出くわした。
「うわっ……!」
危うくぶつかりそうになったところで、悠人が声を上げる。
「……なんだ、お二人でしたか」
ほっとして北都が言うと、今度は別の方向から悲鳴が聞こえた。
「うわぁあっ!」
少年の声に、何かが落ちるバサバサという音が重なる。
途端、四人は一斉にそちらを向いた。
声の主は廊下を折れた先に居るらしい。
それに気付くと、誰が先導するでもなく駆け出す。
先ほどの声には聞き覚えがあった。
もしやとは思うが、まさか、まさか——!
ばたばたという音を立て、人の少ない廊下を走る。
走ったことと緊張で息が上がっている北都の前に、見覚えのある少年が一抱えほどもある大きなダンボールを置き、床に散らばった書類をかき集めている。
どうやらダンボールの底が抜け書類が滑り落ちてしまったらしい。
「会長!」
後方の階段から二人分の声がして、振り返ってみるともう一人の生徒会の会計と書記がやってきているところだった。
「大丈夫ですか!」
生徒会室は階段を上がった直ぐのところにある。
おそらく先ほどの悲鳴を聞きつけてやってきたのだろう。
「ごめん、大其君、折角揃えてもらったのに混ざっちゃった……」
「いえ、大丈夫です。また揃えます」
「あ、後ね、このプリントまだ提出してないよね? 吉野ちゃん。直す箇所見つけたんだ」
「はい、了解です!」
四人の前でてきぱきと仕事を捌く姿は相変わらずで、変わったところと言えば肩まで伸びた髪を小さく結んでいることくらいだ。
「あ……」
「き、キリ!」
悠人が叫んだ。
それはもう、悲痛と歓喜が混ざったような声で。
「みんな、久しぶり」
蒼い眼が微笑む。
彼が、帰ってきた。
- Re: 我落多少年とカタストロフ ( No.49 )
- 日時: 2014/06/29 21:44
- 名前: 月森和葉 ◆Moon/Z905s (ID: fCO9WxRD)
「ごめんね、長い間留守にしてたから仕事が溜まってて、髪を切りに行く暇がないんだ」
そういった理由で髪を結んでいるというのだが、なにやら動物の尻尾のようで可愛らしく映ってしまう。
彼は何も語らない。
あの後何があったのかも、この世界になにが起きたのかも、自分達はどうして今ここにいられるのかも、何も。
ただいつもと変わらない笑顔で、静かに自分たちのことを見つめている。
彼が語ろうとしないということは、自分達は知らない方がいいことなのかもしれない。
世の中には、知らずに居ることの方が幸せなことだってあるのだ。
だから、僕らは甘んじて彼の決断を受け入れよう。
僕らが彼に救われたということは、彼が語らなくても分かる。
彼はそういう人なのだ。
自分の手柄を、決して人に開けかしたりなんかしない。
それが、世界を救ったのだとしても。
人は、雨には勝てない。
どんなに技術が発展して、どんなに生活が便利になっても、人類は傘を差すしか雨を避ける方法を持ち合わせていない。
そして、自分たちで作り出した時間を、自分だけで知ることも出来ない。
自分たちが作り出した時間という概念を、小さな”時計”という道具でしか知る術は無いのだ。
そんな愚かしい人間を、彼は愛しているのだ。
彼は自分が人間とは違うということを知っている。
それを知っている上で、彼は人間を愛している。
同等の存在として、いや、もしかしたらそれ以上の存在として認識している。
だから、そんな彼だから、僕らは彼が大好きなのだ。
彼が生まれ持った才能だとか、そんなものには全く関係なく、彼のその優しさと愛情に惹かれて、自ら彼に付いて行きたいと願う。
彼が生徒会長になるときもそうだったのだ。
教師に推薦され、立会演説会の壇上に立ったのだが、その時は決選投票にも関わらず殆どの票が彼に入ったのである。
相手は悔しがったが、自分より良い指導者になるだろうと言って争いの場を降りたのだ。
なんて潔い姿なのだろうと思ったのだが、また彼も、彼の持つ雰囲気というか、人柄に惚れたのかもしれない。
ああでも、もうそんなことはどうでもいいのだ。
一時は見知らぬ世界に飲み込まれてしまうかと思ったが、彼はちゃんと元の場所へ戻ってきた。
それでいいのだ。
僕達はもう、それだけで充分だから。
もしかしたら、また彼の父と名乗る男がやってくるかもしれない。
でも、その時はその時だ。
そんなことは、その時に考えればいい。
彼が居てくれれば、大丈夫だろうと、心の底からそう思えるから。
彼の言う”あちら側”の世界では、彼はガラクタかも知れない。
でも、”こちら側”に居る僕らからしてみれば、彼はガラクタなんかじゃない。
大切な仲間で、リーダーで、そして彼なのだ。
秋の空が、近付いてきている。
彼らの夏が、終わりを告げようとしていた。
- Re: 我落多少年とカタストロフ ( No.50 )
- 日時: 2014/06/29 22:19
- 名前: 月森和葉 ◆Moon/Z905s (ID: fCO9WxRD)
長い間お付き合い有り難うございました。
我落多少年とカタストロフ、これにて終了でございます。
イラストを用意したのですが6号館が使えなかったため2号館に掲載させて頂きました。
よろしければ見てやってください。
リンクが貼れないだと……。
そのうちPixivにも掲載します。すいません。
感想、ご意見などございましたらこのスレッドでも雑談板でも私のブログでもどこでも書き込んで下されば嬉しいです。
次回作はゆっくりですが構想を始めています。
どこの板かはまだ決まっていませんが、その時には読んで頂ければ幸いです。
ラブコメとゆーか恋愛メインの予定。そんなもの書けるのかというご指摘はともかく。
この小説を読んでくださった方、私に関わってくれた全ての方に感謝を込めて。
有り難うございました。
2014,06,29,SUN 月森和葉