ダーク・ファンタジー小説
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- 我落多少年とカタストロフ【完結】
- 日時: 2014/06/29 22:15
- 名前: 月森和葉 ◆Moon/Z905s (ID: fCO9WxRD)
「もう、駄目なんだ」
「決まってしまっていることなんだよ」
「なんで?」
「ユウ、あたしのこと好きだって言ったよね?」
「だったら、なんでそんな顔してんの?」
「こんな僕でも」
「いつか、笑える日が来るのですか?」
「愚問だな」
はじめまして、月森和葉(つきもりかずは)と申します。
いつもは二次映像に居たり雑談板に居たりリク依頼総合にてイラスト屋をやらせて頂いたりしています。
興味が沸きましたら、是非とも見てやって下さいませ。
※ここから注意です※
●厨二嫌い、月森のことが嫌いという方は、無理に見て頂かなくてもかまいません。
●荒らしはご遠慮下さい。
●コメントをする際は、ネチケットを守りましょう。
以上でございます。
皆様に楽しんでいただけますよう。
2013年3月23日
*イメージイラスト
北城霧 >>3
立花遥香 >>5
理実悠人 >>9
日和北都 >>13
日和三波 >>25
*頂き物
たろす@様より霧 >>28
2014年6月29日完結
- Re: 我落多少年とカタストロフ ( No.41 )
- 日時: 2014/01/26 10:11
- 名前: 月森和葉 ◆Moon/Z905s (ID: QxIgp5vM)
「——、行きますよ」
北都が言った。
怖いことなど何も無い筈なのに、何故か威圧されるような恐怖感を覚える。
ゆっくりと、一歩を踏み出す。
ただそれだけのことが酷く億劫に思えた。
そうやって一段一段階段を上ると、唐突に開けた場所に出た。
すべてが何も無い、数メートルはあるだろうかという壁に囲まれた広間の様な。
そこからまた、中心に向かって細長くカーペットが敷かれていた。
よく見ると部屋の奥は一階分はあろうかという高さに床が持ち上がり、その壁を這うように階段が張り付いている。
その中央に恭しく置かれた小さなテーブルと、玉座。
「やあ」
そこに、彼らが捜していた、彼が座っていた。
「き、霧……?」
彼らが戸惑ったのも無理もない。
霧は豪奢な椅子に腰を下ろして座っていた。
その服装が、まず普通でなかった。
暗い蒼の生地に、金ボタン、そして肩章を付け、同系色のベルベットの外套、白い手袋。それだけでなく、服の裾やそこかしこに丁寧な刺繍が施されている。
それを着ている彼も、いつもと様子が違っていた。
いつもの優しい笑みでなく、どこか自嘲的な、皮肉な笑みを浮かべている。
そして、肩まで伸びた髪。
「霧、それ……」
悠人が言うと、霧は伸びた髪の一房を摘みあげて言った。
「ああ、これかい?」
霧が姿を消していたのはたった数週間。その間に伸びたとしては長すぎる。
「そうか、こちらとは時間の流れが違うんだ……」
半分は独り言だったに違いない。彼らには、その言葉は全く理解できなかったからだ。
「僕はね、つい昨日まで別の世界に居たんだよ」
彼の声以外に音は聞こえない。全員が黙りこくってしまっている。
「そうしてこっちに戻ってきて、君たちの端末に通信文を送った。僕が別の世界に居た訳は、そのうち分かると思うよ」
少し眼を細めて微笑む。
その笑みさえ、別人のようだ。
三波は、ふと霧の言葉を思い出した。
『僕はね、この世界の人間じゃないんだ』
「霧さん、もしかして、この前のは——」
少し怯えた顔で言うと、霧は眼を伏せて答えた。
「うん、そうだよ。三波ちゃんには本当のことを言った。あの時は夢だと言ったけど……」
肘置きに両手を付き、立ち上がる。
「君たちの世界では数週間しか経っていないでしょう? でも、僕の時間では数ヶ月が経ってるんだ」
それならこの髪も納得出来るでしょう? と微笑む。
「僕は本当にこの世界の住人じゃないんだ。強いて言うのなら——」
「神の国の人間だ」
唐突に、彼の後ろから声がした。
「お前たちのような下等生物には分からないだろうが、この次元とは別の次元に、神の国が存在するのだ」
霧の後ろから現れた人物は、黒い外套を着てフードを目深に被っている。霧の夢の中に出てくる人物。
その人は霧の肩を抱くと、少し誇らしげに言った。
心なしか、霧の表情が硬く強張る。
「作り話や妄想の世界でない、本当の世界がな。なぁ、我が息子よ」
——息子。
霧の肩から手を離し、フードを下ろす。
外套が床の上に落ちると、そこから現れたのは、白いローブを纏った白髪の男性だった。
確かに霧に似ている。がしかし、決定的に違うのはその表情だった。
霧はいつも優しげな表情をしているが、現れた男性は優しげな様子はどこにもなく、皮肉で、相手を嘲笑うような、そんな表情をしていた。
肩下までの髪は特徴的な髪留めで纏め、後ろはそのまま背中に流している。
光を宿さない瞳は、暗い深海の色だ。
その眼は挑発的に光を反射し、こちらを見据えていた。
「——はい」
霧が、その声に答えた。
それだけで、その人物が霧の父親だということは、彼らには疑えなくなってしまう。
我らが生徒会長の言うことは絶対だ。特に、彼の下に就いている二人には。
あまりのことに動けなくなってしまった四人を他所に、霧の父親だと名乗った男は言う。
「さぁ、儀式を始めようか」
- Re: 我落多少年とカタストロフ ( No.42 )
- 日時: 2014/03/01 09:26
- 名前: 月森和葉 ◆Moon/Z905s (ID: QxIgp5vM)
「さぁ、儀式を始めようか」
「…………」
そう言うなり、男は闇に姿を消した。
それを見届けると、霧は玉座の横に据えられたテーブルに歩み寄り、その上からガラスの杯を持ち上げた。
「君たち、僕の名前は知ってるよね。北城・霧・コラプス。三つ目の名前、人種の壁が無くなる様につけられたってことになってる。知ってるよね?」
彼が持ち上げたのは、糖蜜色に輝く杯をガラスの飾り玉や宝石で彩った美しい杯だ。
「大抵の名前には意味がない。先祖の名前だったり、出身地だったり、様々だ。でも、僕の場合は違うんだ」
霧はどこから持ってきたのか、酒瓶を傾けると、その杯の中にゆっくりと注いでいく。
「コラプス。僕の名前はね、異国の言葉で、『破壊』という意味なんだ。笑っちゃうよね」
最後まで注ぎ切ってしまうと、空になった瓶をテーブルの上に置き、堅い表情をして息を呑んでいる彼らの方を向いて言った。
「嘘くさいやり方だと思うかい? 実はね、僕もそう思っているんだ。こんな、漫画みたいなやり方でいいのかってね。そういう考えをする時点で、僕はもう感化されているのかな」
手に持った杯に眼を戻し、大きく息を吐き出した。
「——君たち、覚悟しててね」
霧の蒼い目が、いつもより真剣に煌く。
彼らには、その動作が酷くゆっくりに見えた。
手袋を嵌めた手から、芳醇な液体が満たされた杯が離れる。
そして、ゆっくり、とてもゆっくりと、大理石の床に落ちていく。
はっ、と我に返ると同時に、杯が割れる音が響いた。
「……?」
何も起こらない。相変わらず、大理石で囲まれた部屋は寒々として変化がない。ただ、霧の足元で豪奢な杯だったものが割れている。
一人、霧だけがとても悲しそうに顔を歪め、そっと呟いた。
「——ごめんね」
途端、激しい揺れが彼らを襲った。
「きゃ……!」
遥香と三波は立っていることが出来ず、その場に尻餅を突いて座り込む。
「な、何……?」
上を仰ぐと、堅い大理石の天井にヒビが音を立てて刻まれていく。
「あ、あ……!」
三波が呆然と上を指差す。
「どうした、三波?」
彼女に促されるままに天井を見上げた北都の表情が凍りついた。
「天井が……!」
落ちる!
その場にいた全員がそのように判断した。そう、霧も。
「何故——」
霧が上に向かって叫んだ。
「何故! 約束を破った! 僕がお前の言うことを聞くから、彼らには危害を加えるなと約束しただろう! お前の中で約束の不履行は当たり前のことなのか!?」
四人が唖然として固まる。
そうしているうちにも少しずつ壁が崩れていく。
彼は猛然と階段を駆け下りると、四人の元へ行って言った。
「ここはもう崩れる。早く外に出るんだ!」
「しかし、会長! 出口が!」
彼らが入ってきた扉は、既に落ちてきた天井や壁の残骸で塞がれてしまっている。
霧は歯噛みした。最初から、これが目的だったのかもしれない。いや、目的を完全に果たすために、必要な行為といったところか。
「僕を騙したな!」
一際大きく吼えると、逼迫した顔で振り返る。
「早くここから出るんだ。君たちはまだ、生きなくちゃいけない」
「会長!」
それは霧にも言える事なのではないかという意味で北都が叫んだが、彼は聴く耳を持たない。
「遥香、三波ちゃん、立てる?」
二人を立たせると、皆を先導して走り出す。
瓦礫の山をすり抜け、外へと。
- Re: 我落多少年とカタストロフ*一周年有り難うございます ( No.43 )
- 日時: 2014/03/23 22:48
- 名前: 月森和葉 ◆Moon/Z905s (ID: zPUN4CtQ)
「あっ!」
途端、三波が小さく悲鳴を上げて倒れこんだ。
三人が同時に振り向く。
「三波ちゃん、大丈夫!?」
彼女は顔を顰め、足首を押さえているようだった。
「挫いたのか!?」
兄である北都が駆け寄って言う。
頷きはしないが、その表情から肯定しているのは分かる。
皆が黙りこくってしまった中、霧は違った。
肩から外套を外し、三波の肩に掛ける。
「三波ちゃん、大丈夫? 少し我慢しててね」
そしてポケットからハンカチを引っ張り出すと、方膝で屈んで三波の足を固定し始める。
突然の出来事とはいえ、他の皆が呆然としているのに対し霧は極めて冷静だった。
「少し痛むかもしれないけど、これで大丈夫だから。でも家に戻ったら必ず病院で見てもらってね」
固定したばかりの足から目を離し、自分は膝を突いたまま立った三人の顔を交互に見た。
「ここまで来れば、きっともう大丈夫な筈だ。壁は崩れてはいないだろう?」
確かに周りを見るとヒビは入っているものの、崩落はしていない。
ここからなら出口を捜すことも難くないだろう。
「君たちは先に出てて」
「し、しかし会長は……」
すると、彼にしては滅多に無い鋭い眼で北都を制した。
「僕はまだ、やらなきゃいけないことがあるんだ」
そう言って立ち上がる。
彼らに背を向けて走り出そうとする霧に、座り込んでいる三波が声を張り上げた。
「あの!」
咄嗟に霧が振り向く。
「——また、帰って来たらまた、何処かへ一緒にお出かけしましょうね」
最後に強張った顔がふっと緩んで優しい笑顔をつくる。
「……ああ、そうだね」
今は鋭くなっていた蒼い眼が、柔らかく微笑んだ。
「また、髪飾りを買ってあげるよ。楽しみにしててね」
それだけ言うと、今度は本当に走って行ってしまった。
彼らはそれが見えなくなるまで見届けると、北都が霧の外套ごと三波を抱え、工事現場に突如として現れ、突如として崩壊を始めた大理石の建物を後にした。
霧がたった今来た道を引き返し、豪奢な椅子があった場所に駆け戻ると、もうすでにそこはさっきまでの様子を残してはいなかった。
そこはまるで宇宙空間のように黒く瞬き、足場が見えずに宙に浮いているようだ。
ところどころにカンテラが浮き、辺りを優しく照らしているものの、やはり足元は見えない。
「やあ、来たね」
何処にあるか分からない場所に立ち、彼の父と名乗った男は彼を待っていた。
- Re: 我落多少年とカタストロフ ( No.44 )
- 日時: 2014/05/06 18:59
- 名前: 月森和葉 ◆Moon/Z905s (ID: fCO9WxRD)
「どうして約束を反故にした」
湧き上がる感情を押し殺し、彼は低い声で言った。
「どうして? 私には分からないね、どうしてお前は彼らの見方をするのか」
彼は、心の中で押し殺した感情が大きく膨らむのを感じていた。
「私は、お前のためになることをしたつもりだよ?」
「ふざけ——!」
霧が大声を張り上げようとした瞬間、男の姿は其処には無い。
では何処へ行ったのかと見回すと、彼の斜め後ろに立っている。
「どうして怒るのかね? 私には分からない」
心底不思議そうな顔をしているので、憤りを通り越して何故か哀れむような気持ちになった。
そんな霧の心情を察知したのか、また彼の前から消える。
「何で? どうして? 君のその探究心は何なのだろうね。人間独自の精神、と言ってもいいのだろうか? 一度、詳しく研究してみたいものだ」
今度は斜め上に浮かんでいる。
もう、重力やら何やら全て地球の法則を無視している。
でも、敢えてそれは言及しなかった。しても意味が無いからだ。
「普通、“あちら側”の者たちはそういう思考を持ち合わせないものだ。他人のことはどうでもいい、自分のことだけが重要なのだ」
「そんなだから、“あちら側”は進歩しないんだ……!」
吐き捨てるように言うと、男の表情が変化した。
「お前にそれを言う権利は無い筈だ。“向こう”に住まわない者にとやかく言われるのは、さぞかし気分が悪かろう」
余裕の笑みを湛えていた顔が歪む。
そう、個人で出来る物事には限度がある。
ならば数人で力を合わせれば良い物の、彼らには協力するという概念が存在しないのだ。
そんな世界が崩壊を始めるのも、時間の問題だろう。
「そうか……分かったぞ……」
何処が地面かも分からない地面に立ち、彼は確信していた。
“あちら側”が崩壊を始めているのだ。
だから、こちらの世界も崩壊させ、あわよくば乗っ取って自分たちの世界を“こちら側”に再構築しようとしている。
「そんな身勝手なことが許されると思っているのか……!」
すると、唯一“こちら側”にいる“あちら側”の人物は平然と答えた。
「ああ、思っているよ。いいかい、君は小さな虫の巣を見つけたとして、その上に新しい建物を作ろうとするのを戸惑うかい?」
言ってしまえば、“こちら側”の世界は“あちら側”からしてしまえばその程度に過ぎないということだ。
霧は自嘲気味な笑みを浮かべると、その場から一歩下がる。
「お前は……実は僕のことなどどうとも思っていなかったのだな。僕のことなぞどうでもよくて、この世界が欲しかっただけか?」
「そんな訳があるか。何のためにお前が17になるまで待ったと思っているんだ。お前が世界の頂点にいなければ意味が無いのだ」
男は心底心外だと言う様に細い眼を丸くした。
「それで? お前は僕の血縁だということを理由にしてほとんどの統治を自分でやろうというのか?」
するとまた男は眼を見開いて少し悲しそうな表情を作った。
「息子よ、父は悲しいぞ。可愛い我が子を利用したい親なぞどこにいる?」
現にここにいるではないか。
彼は、この父と名乗る人物を信用してはいなかった。
父だというのは本当かもしれない。
けれど、彼が言うにはその行動は自分のためになることなのだろうが、霧にはそうは思えない。
自分を名ばかりの王に仕立て、裏で手を引こうとしているのは眼に見えている。
霧が正面を睨み付けたまま微動だにしなくなると、白い外套の男は困ったようにため息を吐いて見えない椅子から腰を上げた。
「ねぇ、お前はこれを見ても、まだこの世界を明け渡さないと言うのかい?」
- Re: 我落多少年とカタストロフ ( No.45 )
- 日時: 2014/05/17 22:59
- 名前: 月森和葉 ◆Moon/Z905s (ID: fCO9WxRD)
「ねぇ、お前はこれを見ても、まだこの世界を明け渡さないと言うのかい?」
男が右手を真横にあげ、水平に動かすと、唐突にそこに巨大な像が出現した。
そこに映っているのは、見慣れた街の風景だ。
しかし、何か違和感がある。
道路や建物の一部が著しく崩壊しているのだ。
その崩壊は止まる様子を見せず、堅いコンクリートの地面に穴を穿ってゆく。
霧は思わず歯噛みした。
何とか崩壊を止めさせなくては。
それには、まずこの男——!
「どうした? ——うっ」
彼が男に体当たりを食らわせたのだ。
気休め程度にしかならないが、何もしないというのも不安である。
うつ伏せで倒れた男の腕をとり背中で固定する。
付け焼刃ではあるが、ちゃんとした先生に習った本格的な体術である。
まさか男も高校体育仕込の柔道に負けるとは思ってもいなかったのだろう。
驚いた表情で地面を見つめている。
「今すぐ崩壊を止めろ! でないとこの腕をへし折る!」
緊迫した表情で霧が叫ぶと、男は呆れたようにため息を吐いた。
「お前は私一人斃したところで、これがどうにかなるものだと思っているのか?」
「……何?」
男は首だけを動かして笑みを含んだ眼でこちらを見る。
「少し前、テレビが核変動の危険性を放送していたのを知らないのか?」
「それがどうしたって言うんだ!」
「分からないのか。それほど前から準備をしていたということは、止めるのも一朝一夕ではいかないということだよ」
それを聞いた途端、霧は愕然とした。
それでは、“あちら側”から“こちら側”を護ることなど今からでは到底出来ないし、ましてや友人達を救おうとするのすらままならない。
呆然とした霧の脚の下で、男が笑った。
「ほら、お前はどうするんだ? 彼らを護るんだろう?」