ダーク・ファンタジー小説

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我落多少年とカタストロフ【完結】
日時: 2014/06/29 22:15
名前: 月森和葉 ◆Moon/Z905s (ID: fCO9WxRD)

「もう、駄目なんだ」
「決まってしまっていることなんだよ」

「なんで?」
「ユウ、あたしのこと好きだって言ったよね?」
「だったら、なんでそんな顔してんの?」

「こんな僕でも」
「いつか、笑える日が来るのですか?」

「愚問だな」


 はじめまして、月森和葉(つきもりかずは)と申します。
 いつもは二次映像に居たり雑談板に居たりリク依頼総合にてイラスト屋をやらせて頂いたりしています。
 興味が沸きましたら、是非とも見てやって下さいませ。

※ここから注意です※
●厨二嫌い、月森のことが嫌いという方は、無理に見て頂かなくてもかまいません。
●荒らしはご遠慮下さい。
●コメントをする際は、ネチケットを守りましょう。

 以上でございます。
 皆様に楽しんでいただけますよう。

2013年3月23日

*イメージイラスト
北城霧  >>3
立花遥香 >>5
理実悠人 >>9
日和北都 >>13
日和三波 >>25

*頂き物
たろす@様より霧 >>28

2014年6月29日完結

Re: 我落多少年とカタストロフ ( No.31 )
日時: 2013/08/03 10:28
名前: 月森和葉 ◆Moon/Z905s (ID: UUbzo1gV)

中間テストも無事に終わった休日。
 霧は、人が溢れる街中で人を待っていた。
 カジュアルな私服に、リュックサックを右肩に掛けている。
 白いパーカーに、黒地に白抜きでデザインがプリントされた長袖シャツ、黒いカーゴパンツ、極め付けが黒いリュックサックという全身モノトーンのファッションだが、それがまた霧の蒼い瞳に似合っている。
 携帯端末の画面で時間を確認し、また視線を前に向けた。
 空は透き通るように蒼い、秋が近い晴れ空だ。
 人混みを掻き分けるように、こちらに向かってくる姿が見える。
 やがて霧の前に立つと、少し息を切らせた様子で慌てて尋ねて来た。
「すいません、お待たせしたでしょうか!?」
 少々乱れてしまったスカートの居住まいを正し、霧の顔を見つめて三波は言った。
「ううん、そうでもないよ」
 作り物でない笑顔を浮かべ霧は改めて三波の姿を見た。
 いつもの素っ気無いセーラー服と違い、随分と華やかな印象である。
 薄い緑のタートルネックに、モスリンの半袖カーディガン、そして少し濃い緑のミニスカートの下に膝下までのレギンスを履いている。
 ショートカットの髪には小花があしらわれたカチューシャを挿している。
「……あの、何か変でしょうか」
 三波が心配になって問うと、霧はますます笑顔になって答えた。
「とんでもない。制服よりすごい似合ってる」
「ほんとですか!?」
 忽ち表情が明るくなり、頬にも赤みが差す。
「うん。それと、今日は僕のことは会長って呼んじゃ駄目。折角二人で出てきたんだから、名前で呼んでよ」
「え、あ、はい……えと、霧さん……」
 顔に満面の笑みが広がる。
「そう。それでいいの。じゃあ行こうか」
 そう言って三波の手を引いて歩き出した。
「え、あの、会長……」
「いいから。この人混みじゃはぐれちゃう」
 霧は行く宛てがあるようでどんどんと歩き出す。
 三波はそれにはぐれないように、掴んだ霧の手を離さないように必死で後に着いていく。
 その関係がいつもとは全く違うように思えて、三波は笑みを零したのだった。

Re: 我落多少年とカタストロフ ( No.32 )
日時: 2013/08/07 14:44
名前: 月森和葉 ◆Moon/Z905s (ID: UUbzo1gV)

 人混みの街を、二人手を繋ぎ歩いていく。
 途中何度か躓きそうになるも、霧の後を必死で追った。
 顔を上げると、こちらに気付いた霧が笑顔を見せてくれる。
 三波は、この瞬間に幸せを心から感じていた。

「ここでちょっと休もうか。待ってて」
 そう言って霧は三波をベンチに座らせると、何処かへ歩いていった。
 その間に携帯端末を確認すると、北都から通信文が届いている。
 内容は、母には詳細を伝えたが、兄には友人と出掛けているというように伝えた、というものだった。
 少し笑って、礼を込めた文章を打ち込み、送信する。
 作業を終えて端末を鞄に仕舞うと、丁度霧が戻ってきたところだった。
 両手に一つずつクレープを持っている。
「どうしたの?」
 そう言いながら片方のクレープを三波に差し出す。
 礼を言い、北都から連絡があったと言った。
「あはは、北都君にも迷惑掛けちゃったね。お土産買って行かないと」
「兄は異様な心配性なもので……」
 この場合の兄とは方英のことである。
「彼はそれっぽいね。なんかこう……性格とか」
「申し訳ありません……」
 恥ずかしそうに俯く。
「大丈夫だよ。ほら、早く食べないと冷めちゃうよ?」
「あっ、はい……!」
 そう言われ、三波は慌ててクレープを口に含んだ。
 中には甘い苺のクリームが入っていた。

Re: 我落多少年とカタストロフ ( No.33 )
日時: 2013/08/14 17:15
名前: 月森和葉 ◆Moon/Z905s (ID: UUbzo1gV)

「さて、どこ行こうか」
 クレープを食べ終わり、移動しようと霧が立ち上がってズボンをはたく。
 三波も立ち上がって、霧に向かって言った。
「あの、私行きたいところがあるんです。良いですか……?」
 遠慮がちに問うと、霧は笑顔になって返した。
「駄目だなんてとんでもない! 一緒に行こうよ。ね?」
 霧の笑顔に、三波も顔を輝かせる。
 二人並んで、再び人混みの流れに乗った。
 人の流れを掻き分け、あまり早いスピードではないが着実に進んでいく。
 霧の前を歩いていた三波の足が止まった。
「ここです」
 ガラス製のドアに手を掛けると、それはあまりに軽く、音を立てずに開いた。
 店内はひっそりとし、ピアノ音楽が静かに流れている。
 女性店員はこちらを向くと、にっこりと笑っていらっしゃいませ、と優しく言った。
 不思議な雰囲気の店だった。
 置いてある商品などは女の子向けのアクセサリーや小物等なのだが、時間だけがゆっくりとしていて、まるで骨董屋のような風情である。
 辺りを見回すと、三波は恍惚のため息を漏らした。
 よほど訪れたかったのだろうか、何を見るのにも深緑の瞳がきらきらと輝いている。
「素敵……」
 こういう一面を見せられると、霧もどきっとすることがある。
 三波はいつも生徒会室で真面目に電卓を叩き、書類を記入している人物だ。
 それが、こんなにも女の子らしい別の一面を見ると、まるでその人の秘密を知ってしまったようで、嬉しいような申し訳ないような気分になるのだ。
 彼女が今見ているのは、髪に飾る類のアクセサリーである。
 霧もそこに近近付き、台の隅の方に置かれていた銀色のヘアークリップを手に取った。
 銀と緑で作られた、小さな薔薇があしらわれている。
「三波ちゃん」
「はい?」
 嬉しそうな表情のまま三波が振り向く。
 そんな三波の眼鏡を取り、髪にそのヘアークリップを付けてやる。
「やっぱり。似合うよ」
 彼が嬉しそうに笑うと、彼女もまた一層嬉しそうに微笑む。
「では、これを買ってきます。ちょっと待って頂けますか」
「いや、いいよ」
 三波の髪からクリップを抜くと、霧は自らレジの方に向かい、代金を払った。
「はい。僕から三波ちゃんにプレゼント」
「そんな……! 悪いです。お金、払いますから……」
「いいんだ。僕に奢らせて? 僕が君に何かしてあげたいんだ」
 僕はもうすぐいなくなるだろうから、という言葉は口の中で泡になって消えた。

Re: 我落多少年とカタストロフ ( No.34 )
日時: 2013/08/26 21:52
名前: 月森和葉 ◆Moon/Z905s (ID: UUbzo1gV)

 ガラス製の扉を開け、人いきれの世界に戻る。
 その後二人は何処へともなしに、町中を歩いた。
 他愛の無い会話を挟み、笑顔の二人だ。

 やがて日は傾き、橙色の光が世界を包み込む。
「今日は、有難うございました」
 そう、嬉しそうに三波は言った。心なしか彼女の顔が赤く染まって見えたのは、夕日の所為だけなのだろうか。
 霧が眩しそうに蒼い眼を細める。
「僕の方こそ有難う。——少し、僕の話をしてもいいかな?」
 少し首を傾げ、無言で続きを促す。
「——僕はね、この世界の人間じゃないんだ」
 蒼い瞳に深い憂いが宿る。
「僕はもしかしたら君たちと会えないような、遠い所へ行ってしまうかもしれないんだ」
「き、霧さん……?」
 三波の表情が堅く強張っていく。
「そうなってしまっても、僕のことを、ずっと、忘れないでいてほしい。僕のことが嫌いでも、北城霧という人間が生きて、君たちと一緒に笑っていたということを、いつまでも忘れないで居て欲しいんだ。それが、僕のたった一つの願いだよ」
 彼は、丸い瞳を細め、優しく微笑む。
 かわりに三波は、今にも泣きそうな表情だ。
「そ、それは……」
「もちろん、今のは僕の見たこの前の夢の話で、僕の頭の中だけの話だ。でも、僕が君たちに忘れられてしまうのは怖いから。僕は君たちを、なによりもかけがえの無い人たちだと信じているから」
 肩に掛けていたリュックサックを下ろし、いつの間に買ったのか紙袋を取り出して三波に手渡した。
「これ、僕から。北都君の分も入っているから、彼にも渡しておいてくれると嬉しいな」
 そう言うと、霧はリュックサックを両肩に背負い直し、三波に背中を向けて走り出した。
「ごめんね、僕ちょっと用があるんだ! 送ってあげられないけど、気をつけて帰ってね!」
 三波も紙袋を胸に抱き、もうすでに遠くなってしまっている霧に向かって精一杯の声で言った。
「霧さんもお気をつけて!」
「うん!」
 夕焼けの太陽の中から、霧の弾んだ声が返ってくる。
「また、明日……!」
 何の気もなしに明日また会いたいという三波の純粋な言葉だが、霧は口元を悲しそうに歪め「うん」と頷いた。

Re: 我落多少年とカタストロフ ( No.35 )
日時: 2013/09/24 06:30
名前: 月森和葉 ◆Moon/Z905s (ID: UUbzo1gV)

 彼女と別れ、川原まで一歩も立ち止まらずに走ってきた。
 まっすぐに前を見据えて。
 彼の眼に滲んだ涙をパーカーの袖で拭いとり、携帯端末を取り出して通話を発信した。
 霧はもう、ただの高校生の顔ではなかった。
 確信に満ちた、一人の男の顔つきで、夕日に反射する川の流れを見つめていた。


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