ダーク・ファンタジー小説

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大罪のスペルビア(1/2追記、あとがき、Q&A有り)
日時: 2014/01/02 18:15
名前: 三井雄貴 (ID: Iohw8dVU)

 人生初ライトノベルにして、いきなり長篇です。
初心者ですが厨弐病(邪気眼系の中二病はこう表記した方がそれっぽいと思っているw)をこじらせて書き上げてしまいました!

 ジャンルは厨弐病による厨弐病のための厨弐病な剣と魔法の異世界ファンタジーとなっています。魔王、堕天使、七つの大罪、竜、騎士、といったベタな内容で、私の思い描く彼等を綴りました(天使や悪魔の設定は失○園など、キ○スト教関連の伝承で気に入った説を取り入れ、アレンジしています)

 拙い出来で初歩的なミスも多いことでしょうが、計十二万字程度の完結までお付き合い頂ける酔狂なお方がいれば幸いです(※12/30 二十の罪で完結しました)
 アドバイス、意見などお待ちしています。


 あらすじ:行方不明となった眷属のベルゼブブを捜し、地獄より弟ミカエルの支配する現世へと舞い戻った魔王ルシファーが女騎士イヴと出会ったり、悪魔を使役する指環の使い手・ソロモン王権者や、堕天使となる以前より因縁の宿敵である竜族と戦いを繰り広げるお話。

 登場人物
・ルシファー:七つの大罪に於ける“傲慢スペルビア”を象徴せし魔王。通常時は銀髪に黒衣の美青年。“天界大戰”を引き起こし、弟のミカエルと激闘の末、地獄へと堕とされた。本気を出すと背や両腕脚より計十二枚の翼が現出し、紫の魔力光を纏う。魔力で周辺の物質を引き寄せて武器を生成するが、真の得物は悪魔による魂喰いの伝承を具現化した魔王剣カルタグラ。相手の心をカルタグラで斬って概念を否定し、存在ごと消し去る“グラディウス・レクイエム”や、前方に魔力を集束して放つ光線上の稲妻“天の雷”など破格の奥義を持つ。

・ベルゼブブ:七つの大罪に於ける“暴食グラ”を象徴せし地獄宰相/大元帥。蝿に似た触角と羽を有する幼女の姿をしている。何かと背伸びしがちで一人称は「吾輩」。討ち果たした者の首、として多数の髑髏をぶら下げているが、重いので偽物を用いている。通称・蒼き彗星。空中戦では無敵を誇るものの、子供っぽい性格とドジなことが災いしがち。天界にいた頃よりルシファーの側近で「ご主人様」と慕っている。

・アモン:ルシファーの盟友。“屠竜戰役”こと竜族の征討を観戦していた折にルシファーの圧倒的な強さに惚れ込み、天界大戰に際しては義勇軍を率いて加勢した。見た目は渋い老女。戦いに特化するあまり、両腕は猛禽の如き翼と化し、指が刃状となってしまった。愛する人の手を握ることすら叶わなくなっても、誰を恨むこともなしに潔く今を楽しむ。奥義は怒濤の高速突きを連発する“ディメント・インクルシオ”と、両手より爆炎を噴出しながら最高速度で貫く“煉獄の業火を纏いし一閃パガトリクナス・ツォライケンス”。さらに、リミッターを解除することで、他の武器へと上腕を変化できる。

・隻眼王ソロモン:七十二柱の悪魔を召喚、使役できる“王権者の指環”を継承せし男。左眼を対価として世界と契約、普段は包帯を巻いて隠している。力こそが野望を実現するとし、幼い子供であろうと被験体として扱う等、その為には手段を選ばない。

・イヴ:ヒロインの女騎士。英雄と讃えられた亡き父ローランに憧れ、彼の遺剣を愛用する。戦場で拾った自分を我が子として愛し、騎士としての心構えと剣技を授けたローランが悪魔に殺されたと聞いて復讐を誓い、人一倍の努力を重ね十八歳の若さで隊長となった。美人ではあるものの、女というだけで正当な評価をされないことを嫌い、言動は男勝り。

・アザミ:ヒロイン。長い黒髪の似合う十五歳の美少女だが、ソロモンと天使方による実験で半人半竜の身にされている。一人称は「ぼく」。薄幸な境遇から、心を閉ざしてしまっている。

・ミカエル:。四大天使の筆頭格。ルシファーの弟で“天界大戰”における活躍により、兄の後任として第二代大天使長となった。金髪に黒縁メガネという出で立ちで、常に微笑を絶やさない。神の力があるという武器“鞘より出でし剣”を駆使する。

・ガブリエル:四大天使の紅一点。スタイル抜群、男を魅了する美貌と思わせぶりな言動で、大人の女性に憧れるベルゼブブから嫉妬されている。“必中必殺”の弓矢を所有。狡猾で、ルシファー謀叛の黒幕であると噂される。

・大鎌のアリオト:“異端狩り”の暗殺者。フードの下は小柄な美少女だが、一人称「アリオト」で無表情、寡黙という不思議ちゃん。“Ad augusta perangusta(狭き道によって高みに)”の詠唱と共に、無数の分身を生み出す“幻影の処刑人”を発動できる。


 ※)追記:>>047で、あとがき及びシリーズ他作品の展開について少し触れています(ネタバレ含む)
 >>048で、参考文献、最後に>>049で、ご意見に対するコメントを一部ですが、書かせていただきました。

Re: 大罪のスペルビア ( No.30 )
日時: 2013/12/22 12:32
名前: 三井雄貴 (ID: dfKYMG8n)

                † 十五の罪 “竜の視る夢” (中)


「……許さない」
 デアフリンガーの震え声。
「よくも長老を……!」
 敵意を剥き出しにして、ルシファーへと一直線に突き進む。
「あの者の境遇は変わらぬ。永遠の眠りを与えた……其れが、せめてもの奴への手向けだ……! 双方同意の上で決闘を行い、望まぬ方が生き残ったと不満を垂れるとは片腹痛い。我等の長きに渡る因縁も知らずして十数年生きた程度で理解った様な口を叩くな! 力はより強大なる力によってのみ制される。他に術を知らない我が身は、此の理の通り焼き尽くし、斬り刻み、葬るのみ。然れど力しか持たぬ俺が愚かな存在なら、其れ以下の力無き貴様は何だ」
 刺すような眼光で向き直る魔王。
「……じゃあ今ここで殺されても文句ないな!?」
 ツェーザルが前に歩み出て剣を抜いた。
「相手が誰だろうと武人は多くを口にしない。語るには己の磨いた技ひとつで済むからな」
「フン、此の身に語り掛けてみるが良い」
「いや、ここは僕が!」
 憎しみに燃える形相で、弟も抜刀する。
「デアフリンガーお願いやめて。もう大切なひとを失いたくない」
「待て。あの目を見ろ。今のデアフリンガーを止めることは誰にもできない」
 悲痛なアザミの嘆願を制するツェーザル。
 彼が撃ち込むのと、仇敵が双剣を生成するのは、ほぼ同時であった。剣を交差させ、振り下ろされた白刃を受け止める。
「んな間に合わせの剣なんか叩き折ってやるよ!」
 デアフリンガーの斬撃を淡々と往なしてゆくルシファー。呼吸が乱れた一瞬を見逃すこと無く切先を弾き上げて高速で自転し、胴を斬り払った。
「……くそッ!」
 裂けたデアフリンガーの上着が舞い落ちる。疾さと正確さを両立した挙動。手癖の読めない多彩な引き出し。
(剣技でも歯が立たないのか……!)
 地面を嘗めるようにして下方より斜めに斬り上げるが、軽く防がれた。文字通り火花を散らす両者の剣。
「見えない、見えない!」
 飛び跳ねながら観戦するベルゼブブ。アザミは胸に両手を当てて不安そうに見守っていた。
「うぉおおおおッ!」
 少年の手数は一向に減ることを知らないものの、ルシファーはたちどころに捌き続ける。撃ち込んでいるデアフリンガーの方が後退する程の目力。
「……善戦したが、やはり地力の差が勝敗を決したな」
 ベルゼブブによじ登られながらアモンが結果を悟る。
「いや、アイツはまだ終わらない」
 防戦一方の弟へ向けられる眼差しは、依然として光を失っていなかった。
「このぉお……ゴフッ!」
 踏み込みに突きを合わせられ、前のめりに崩れ落ちる。
「貴様らは師の遺志を踏み躙るのか。敗れても誇りに殉じた者はいる。然れど今の貴様らは誇りを忘れた負け犬だ」
 頭上より冷酷な言葉が浴びせられた。
「……てめぇを、たお…す……」
 ルシファーを血眼で仰ぎ見ると、震える上体を起こそうとする。
「くっそぉおおおッ!」
 立ち上がって怒濤の刺突を繰り出すデアフリンガーであったが、ルシファーは宙返りして躱し、後ろ回し蹴りを後頭部に見舞った。
「気が済んだろ。半殺しっつーか九分の七ぐらい死んでるよ、コレ」
「此の身を討とうとするとは愚かしい。首は折れていない筈だ」
「もう終わりでいいでしょ……おかしいよ、こんなの…………」
 堪らず嘆くアザミ。

 目蓋を開ける。
 空はこんなにも高かったのか。高いなあ。目の前にこんなに広がっているのに届かないなんて……あれ? なんで空が目の前に————
 ふと見回すと抉られた脇腹からか、鮮血がとめど無く流れている。
(届かないのか、僕は……届かないまま終わるのか…………)
 いや、確かに空には手が届かないかもしれない。でも剣士は鍛えた分だけ強くなれる。長老は僕を最後の弟子にしてくれた。なのに、なのに……僕はその期待に応えられずに終わるのか?
「辛いか? 其れが身を斬られる痛みだ」
 朦朧としているデアフリンガーを見下ろして問う。
「……それでも、僕は戦うことをやめるわけにはいかないんだ……!」
 血溜まりより身を起こし、再び正対した。
「然れば努々失念でない、剣を持つと云うことは其の切先を誰かに向けると云うこと。そして己も剣を向けられる覚悟と共に生きてゆかねばならぬ」
 ルシファーも構え直す。
(……長老、この技はあなたに教わりたかった…………)
 佇立瞑目。少年の周囲に波動が満ちてゆく。
「あん? あの身体で奥義を出そうってのかい」
 首を傾げるアモン。
(信じろ、強く信じるんだ。必ず僕ならできる……!)
 一帯の小石が音を立て、風も吹き荒れ始めた。脈動する大地に立ち昇る翡翠色の魔力光。
「馬鹿な! あれを習得する段階にはまだほど遠いはず!」
 ツェーザルの見解に反し、地響きは増強の一途を辿る。
「——大地の逆鱗ウーアゲヴァルト・エルガー!」
 両手を広げ、双眸を見開くと、高らかに唱えた。
「ほう」
 緑の燐光を帯びて殺到する限り無い石、石、石。長老と比べれば規模は控えめだが、恰も意思を持っているかのようにルシファーへと集中する。
「おお、やりやがったアイツ!」
「童貞とは思えんほどの技だ! 童貞には変わりないけど」
 口々に驚嘆する観戦者たち。
「……ハァ、ハア…………」
 発動を終えたデアフリンガーが片膝を突く。土煙が去ると、全周より絶え間無く浴びせられていた岩石は悉く砕かれて、かの者の足元に散らばっていた。
「終わりだ」
 滑るように目前へと迫ったルシファーに剣の柄をみぞおちへと撃ち込まれ、血反吐を噴き出して彼は倒れ込んだ。

Re: 大罪のスペルビア ( No.31 )
日時: 2013/12/22 22:10
名前: 三井雄貴 (ID: QeckcS/R)

                 † 十五の罪 “竜の視る夢” (後)


「……ガー! デアフリンガー!」
 耳朶を打つ、慣れ親しんだ声。視界がぼやけている。そして四肢の感覚が麻痺しているようだ。
「兄上……僕は…………」
「無理に立たなくていいんだ。もう終わったんだよ」
 傷が激痛に苛まれている。いや、でも————
「まだ終わっちゃいねえ……!」
 心の焔はまだ消えていなかった。
「よせ、もう勝負はついた」
 諌めるツェーザル。
「僕は忘れない。兄上がいつも口にしている騎士たる者は自分にも他人にも嘘をついてはいけないという言葉を。長老を奪ったあの男と我々を裏切った者たちへの憎しみを……僕は決して忘れはしない……!」
「もうやめてよ……生きてほしいって師の思いを踏みにじるのが弟子なの?」
 アザミが涙ぐんで腕を掴む。
「なんでだよ……アザミも納得できんのかよ!」
「できるわけないでしょ!」
 感情を見せないで生きてきた彼女が、鬼気迫る見幕で一喝した。
「できるわけなくても……今、自分のすべきことを投げ出すのは子どもだよ。デアフリンガーも大人になりたいなら現実を受け止められるようになって」
「死ぬ時は一緒と約束したではないか。死に急ぐなデアフリンガー。こんなに早くあちらへ逝けば長老がどんな顔をするか……残された私は、どんな顔をすればいいのか……! 頼む弟よ。これ以上もう……家族を失いたくない」
 ツェーザルも懇願する。
「兄上は強いな、弟ですら一度も涙を見たことがない。僕は死なんよ。それで兄上が泣いたとしても、この世にいなきゃその泣き顔を見れないからね」
 横たわる弟は苦笑してみせた。
「竜王は最後迄戰い続けたぞ。そして、気高く武人として死した。フューラーが護ろうとしていたのは村と云う谷の外面のみであったか? あの者は村が滅んでも、貴様らに志を託したのだ。長老の分迄、貴様らが懸命に生きるが良い」
「ああ、精一杯生きてやるよ。せいぜい寝首をかかれないよう気をつけることだね」
 傷だらけにも関わらず、活き活きとした表情でデアフリンガーが答える。
「私も長老の弟子として相応しいように必ずやもっと強くなる……そして天使軍を討ち果たしてみせる」
「奇遇であるな。俺も天使を打倒しようと思案していた」
 弟に続いて決意を露わにしたツェーザルを横目で見遣るルシファー。
「いつも気がつくと周りに人が集まってんだから驚きだ」
 紫煙を燻らせ、遠巻きに眺めるアモンが語る。
「振り回されてばかりなのに、どうしてかみんな離れられない。いつの間にかご主人様に背負われているのだ」
 ベルゼブブも満足気に頷いた。
「此の世界に口があろうと、其れは勝者の言葉しか語らない。各々が思う旨有って臨んでいるであろうが、我等に共通する目的は唯一つ……勝利することだ」
 ルシファーは立ち上がると、遠方に目を移す。
「然らば早速一勝目を飾るとしよう」
 一同に緊張感が奔った。
「ガブリエルのねーちゃんか」
「然であろうな。アモン、其処な兄弟と共に迎撃に当たれ。ベルゼブブはアザミを連れて此の地を離れよ」
「ガブリエルなら吾輩が……」
「否、お前はアザミを護れ」
 大人の女性に憧れる彼女がガブリエルに嫉妬していることを天にいた頃より理解していた主君は、執着心で我を見失って窮地に陥ると予見したのだろう。
「……きみは……?」
 顔を曇らせて尋ねるアザミ。
「大蛇の退治は頭を潰せば事足りる」
 そう述べると、ルシファーは颯爽と立ち去った。

「いくらなんでも多すぎるでしょ、常識的に考えて。それにしても……いったい何なんだよ、こいつら…………」
 押し寄せる敵兵を蹴散らしながらデアフリンガーが絶句する。
「お前それ地獄でも同じこと言えんの? 見りゃ分かんだろ、人ならざるなんちゃらっつーヤツだ」
 土塊の集合体と言うべき質感。人間どころか、生物ですらないと異形の姿が告げていた。理性が存在するとは思えないが、辺り一面に蠢く彼らに関して理解ることが一つ。目も鼻も無い顔が主張している。こちらが全滅するまで止まることは無い、と。
「まったく、キリがないねぇ……ッ!」
 アモンは疾走しながら両腕を硬化させ、往く手を埋め尽くす土人形を次々と斬り捨ててゆく。縦横無尽に戦場を駆ける二人だが、相手の減った実感が依然として得られない。
「どこかに親玉がいるハズだ……この大群の司令塔になってるってならソイツをつぶせばてっとり早いんだけどねぇ」
 天高く跳躍して眼下の十数体を焼き払い、デアフリンガーの傍らに着地した彼女が呟く。
「奥に攻め込んだ兄上が見つけてるかも。行って。あとは僕が何とかするよ」
 背中合わせで戦うアモンを流し見ると、深緑の魔力光を波紋状に放射して周囲の敵影を粉砕した。
「……アンタ未来が長いんだから無理すんなよ」
 背後の少年を肩越しに一瞥する地獄侯爵。
「そっちもね」
 不敵な面構えでデアフリンガーも応じる。軽く苦笑いを浮かべると、彼女は突風の如く走り出した。

 荒涼とした断崖の上で対峙する天使と堕天使。
「お久しぶり。あたしに会えなくて寂しくなかったぁ?」
「其の癇に障る声を聞かずに済んで寿命が延びた」
 射抜くように見据える。
「まあ相変わらずひどいお人。寿命ってもうこれだけ生きてるのに何を望むの」
「今の望みは……貴様の囀りを止めることか」
「あら、嫌だわぁ。おしゃべり好きだもの。あなたが今ここで死ねば聞かずに済むことじゃない」
 ガブリエルを取り巻く空気が一変した。
「……覚悟は出来ておろうな」
 ルシファーの眼に紫炎が宿る。
「だーかーらぁ、死ぬのはあなたの方よ」
 大岩をも揺るがす波動を伴い、彼女は薄紅の魔法陣を大量に展開した。

Re: 大罪のスペルビア ( No.32 )
日時: 2013/12/23 12:26
名前: 三井雄貴 (ID: gdK5hR0W)

                † 十六の罪 “死が二人を別つ刻” (前)


(……おのれ、我が奥義でも有効打には至らないか…………)
 一時的に相応の手傷は負わせはしたが、死すべき運命の円舞曲が止んだ直後には、斬りつけた箇所が修繕し始めている。ツェーザルは肩で息をしながら、眼前の巨兵が再生してゆく光景に目を瞠った。先程からこの破壊者は、損傷、再生、反撃を繰り返している。早くも回復が完了したようだ。つまり、次の行動は————
「くっ……!」
 反撃。そして追撃。疲弊した剣士を容赦無く襲う力任せの打撃。彼は跳び退いて避け、岩陰に滑り込んだ。
(止まった……?)
 物陰にいる敵は感知できないらしい。体勢を整えつつ打開策を考えねば……いや、打開のしようがあるのか? 魔力は消耗し、自慢の剣もあの再生力の前には決定力に欠ける。とはいえ、この親分格を仕留めない限り、味方も幾千体と知れぬ雑兵との果て無き潰し合いから解放されることは無い。
(私がやらねば三人とも終わるのか。このようなところで…………)
 負けたくなかった。負けず嫌いな性格もあるが、何より武術も痛みも知らないような暴れるだけの相手に負けることが悔しい。あの悪魔たちは尋常ならざる魔力を有していながらも、あくまで剣技を競おうと望む自分を灰にすることなく、斬り合いに付き合ってくれた。しかし、立ちはだかる巨体は目の前にあるすべてを破壊し尽くすだけの存在。幼き日より戦いに身を投じてきて今更死など恐れはしない。だが、剣士としての誇りを蹂躙され、仲間を守れず死んでゆくことは死する苦痛よりも耐え難い。
(なぜだ。戦うために、勝つために鍛錬を重ねてきたのに……なぜ、こんな自我も持たない相手に屈さねば…………)
「なぜ無理なんだ! なぜ私はこんなところで終わるのだぁあああ!」
 大声で喚き散らす。
「——うっさいねぇ、勝手に無理って決めつけんじゃないよ。だから二十歳過ぎても童貞なんだろが」
 姿は見えないが、耳に憶えのある声が響いた。
「ディメント・インクルシオ……ッ!」
 聳える巨躯に無数の風穴が穿たれてゆく。
「……この技は……!」
 塞ぐ猶予も与えずに絶え間無く貫き続ける刺突の嵐。遂に土壁を突き破り、アモンが降り立った。
「さ、一転攻勢といこうか」
 ツェーザルを見定めて呼びかける。
「……って、登場するや否や岩陰に隠れて言うなよ!」
「すみません、思ったより傷口がすぐふさがったの見て本能的にヤバいなって」
 頭を掻く地獄侯爵。
「あの再生速度は確かに異常。相性的にも打つ手がない」
「なるほど、ちょっと気になったんだがいいかい?」
 顰面で腕組みをして彼女が問う。
「どうした? 弱点が分かったのか!?」
「あ、いや……ここってホントに安全か気になっただけだ。落ち着いて作戦たてられんのかなって」
「……今すぐここから出されたいか」
 ツェーザルの目はいまだ死んでいない。寧ろ武人たるに十分過ぎる程の威圧感でアモンを凝視している。
「……で、本題だが熱ならどうだ? 打撃が通用しなくとも熱さにも強いとは限らねえ」
「魔術なら試した、やはり再生されてしまったが……」
 俯く剣士。
「——その魔術ってヤツは、人知を超えた高温だったのかい?」
 この期に及んでなお、彼女の眼差しは覚悟と自信に満ち溢れていた。
(この者はできないことは言わないだろう。そろって死を待つだけなら賭けてみる価値はある……)
 咳払いを挟むと、ツェーザルは顔を上げる。
「いっせーのーせっ、で行くぞ」
「なんだそりゃ、ガキか」
 斯く言いつつも、満更でも無いようなアモンの顔。
「いざ、いっせーのぉおおッ!」
 ツェーザルは満足気な微笑みを一瞬見せると、掛け声と共に飛び出してゆく。
「おいバカ待……」
 アモンが制止するよりも先に、彼は標的の足元へ肉迫。残りの力を振り絞るようにして連撃を叩き込む。
「私に構わずやれ! 悪魔のくせに余計な感情に惑わされるな! 人知を超えた高温とやらで私ごと焼き尽くしてみせろ!」
 叱咤するツェーザル。
「なに言ってやがる! 仲間を手にかけるなんて武の道に反するだろが!」
「お前こそ何を言うか、共通の目的は勝利することだろ! 早く大義を全うしろ!」
 幾度弾き飛ばされようと、怯むこと無く喰らい付く。
「……分かった。記念すべき一勝目を飾るにふさわしいのブチかますとするよ!」
 意を決したアモンの付近に渦巻く緋色の魔力光。
「ゆけぇえええ……!」
 血反吐を溢しながら、ツェーザルが檄を飛ばす。
「灼熱の炎を……喰らいなァ!」
 大地を震わせ、暴風を纏い、赤々と輝くアモンの両手。
「——煉獄の業火を纏いし一閃(パガトリグナス・ツォライケンス)!」
 高らかに言い放つと、噴出する爆炎を前方に集約し、彼女は突進した。
「……フッ、熱そうな炎だ」
 好敵手に見守られ、アモンは火力と速度を上げてゆく。
「これで……」
 振り子の如く上体を反らし、撃ち込む一突きは必殺必滅。
「どうだぁあああッ!」
 ツェーザル諸共、紅焔に包む。
(……デアフリンガー、お前は生きろ…………)

Re: 大罪のスペルビア ( No.33 )
日時: 2013/12/24 00:52
名前: 三井雄貴 (ID: ocKOq3Od)

                † 十六の罪 “死が二人を別つ刻” (中)


 崩落しながらも、再生活動を止めようとしない敵の司令塔。
「うぉおお、まだまだぁあああ……!」
 燃えた傍から修復させる隙も与えず、強引に押し切った。


 巨大な魔法陣の上に佇み、空中で相対する最強悪魔と四大天使の紅一点。
「曲がりなりにも熾天使の端くれの程はあるな。片時とは云え、此の身と渡り合い、斯様に魔力を費やせるとは」
 自身の発する風圧に外套を波打たせてルシファーが口にする。撃ち合いが一段落ついた模様だが、互いに目立った外傷は無い。
「せっかくその気になってくれたとこ悪いけど、守りに定評のあるあたしの防壁はそう易々とは破れないわよぉ。さっきのなんちゃらメテオだっけぇ? 残念ッ、あれもう対策されちゃってるのよねー。四大天使の権能“穢れ払い”であらかじめ身を清めておけば七つの大罪に反応することもない。さぁどうします魔王さま、こっちは切り札もまだ使ってないのに早くも手詰まりかしらぁ」
 黙したままルシファーが右腕を伸ばした。
「だからぁ……」
 紫の魔法陣が壁のように延々と連なってゆく様を目にして、ガブリエルが呆れてみせる。
「甘いって言ってるでしょ」
 だがしかし、魔力弾の斉射に続けて、ルシファーは無数の羽を射掛けた。
「え……ッ!?」
 矢の如く殺到する黒羽に悲鳴も掻き消される。乱気流に巻き込まれたかのようにして降下してゆくガブリエル。
「——甘いのは貴様であったな」
 地に伏した彼女の面前に、泰然と魔王は舞い降りた。
「……許さない。このあたしに傷をつけたなんて許さない……!」
 殺気に満ちた形相で傷だらけの身体を起こす。
「彼はあなたとの直接対決に水を差されないことをお望み。邪魔になりそうなあたしにあなたの愉快なお仲間たちと潰し合いをさせるつもりだったみたいね。でも残念だったわぁ。あたしが今ここであなたも含めて全員皆殺しにしちゃうんだもの。今頃あなたのお友達のとこにもあたしの兵隊さんたちが向かってるわ。皆殺しにするようにしてあるからその場の人間が死に耐えるまで暴れ続けるわよぉ」
 衣を切り刻まれ、白い肌が露わになった手には弓が握られていた。
「じゃああなたも死になさぁい。このあたしが奥義で殺してあげるんだからそんな怖い顔しないで喜びなさいよ」
 ガブリエルが弦を引き絞ると、稲妻が閃き、薄紅色の燐光に覆われた矢が姿を現す。
「くっ……!」
「躱そうたって無駄よぉ。この矢は必中必殺」
 射角より外れようとする標的を嘲嗤う女天使。
「運命が相手を押し潰す……いくらあなたが疾くても、この矢から逃れる術はないわ」
 弓が撓み、周囲に放射される魔力光が彼女の色白な顔を映射する。
「さあ。死にさらせ、悪魔ァアッ!」
 目も眩まんばかりの煌めきを伴って矢が解き放たれた。旋風が地面を薙ぎ払い、岩々を砕いてゆく。地響きと共に崩落する崖。遥か上空まで立ち昇った薔薇色の閃光が雲を四散させる。すべてを支配する轟音と眩耀。無数の矢に分裂すると、恰も意思を持っているかのように、横滑りして避けようとする獲物に四方八方より襲いかかった。


「効いたよ。完璧な一撃だった」
 かの者を灼き破った悪魔の後姿に称賛を贈り、ツェーザルは膝より崩れてゆく。
「馬鹿野郎が。勝手に先走りやがって……なんでアンタが死ぬ必要が…………」
 駆け寄って抱き止めると、変わり果てた彼を痛ましい面持ちで見つめるアモン。
「あの者と撃ち合っていずれは死ぬ身。最期に強者の奥義を味わって逝けるのなら武人の誇りと共に殉じたと言えよう」
 焦げついた顔で剣士は力無く笑った。
「戦ってみて分かった、お前は私より強い。お前の攻撃なら何とかなるかもしれない……そう考えただけのこと、そしてその推論は当たっていた。どうだ悪魔、騎士だって合理的に判断するのさ」
 自嘲するように苦笑いを浮かべるツェーザルを掴む手に力を込め、彼女は顔を顰める。
「——何してんだ兄上。何寝てんだ……そこで……何してんだよ!」
 険のある表情で立っているデアフリンガー。
「立てよ。兄上はどんな鍛錬からも脱落することを許してくれなかったよな……俺も認めないぞ、あなたが人生から脱落することを……!」
 言葉無しに弟を見上げ、兄は微笑んでいる。
「なあ早く立て、立ち上がってくれよ……僕より強い唯一の剣士なんだろ?」
「お前も十分もう強いさ。もはや俺が鍛錬する必要なんてない」
 両肩を震わせるデアフリンガーに、達観した笑顔を返した。
「おい、うぬぼれんなって言ってたのはてめぇだろうが。我ら兄弟は二で一人前……そうだろ!?」
「フフッ……お前はもう一人前だ、デアフリンガー。長老に伝えておくよ、弟が強くなったと————」
 そう伝えると、ゆっくりと切れ長の両目を閉じるツェーザル。
「なんで立ち上がらないんだよ兄上……いつも口にしてたじゃんか、騎士たる者は自分にも他人にも嘘をついてはいけないと。なんで誰よりも騎士らしく生きた兄上が最後に背いた? なんで先に死にやがった! 死ぬ時は一緒と……一緒と約束しただろうが……!」
 如何に豪胆なアモンといえど、居た堪れずに目を背けてしまう。眠るかのように穏やかな兄の死に顔も、魂を絞り出さんばかりに慟哭する弟の泣き顔も直視することは出来なかった。

Re: 大罪のスペルビア ( No.34 )
日時: 2013/12/25 14:57
名前: 三井雄貴 (ID: FEqFrkLe)

               † 十六の罪 “死が二人を別つ刻” (後)


「……おの……れ…………」
 片膝を突き、ガブリエルを睥睨する。
「ふふっ、苦しいかしら」
 肩を震わせて苦悶するルシファーを蹴り倒し、地を転げ回る様を恍惚と見下ろす彼女。
「悔しいでしょ、恨んでも恨みきれないあたしに倒されるなんてねぇ」
 天を仰いだ彼は、心身を蝕まれる苦痛に歯を食い縛る。
「あの時、あなたたち惜しいところまでいったのに、あたしが動かなかったから負けたようなものでしょう? 馬鹿ねぇ。みじめに没落してゆくあなたたちに付き合うわけないのに」
「——ずる賢さは昔からだったねえ。やっぱ美人は得なのかい?」
 その声に続いて閃耀が生じたと思いきや、数発の魔力弾が飛来した。
「……あら、お久しぶり。この正確な狙いだとまだボケてはないみたいねぇ。見た目の方は神に見放されてしまったみたいだけど」
 鮮やかな宙返りを見せると、新手の影に呼びかけるガブリエル。
「達人との果し合いは心躍るが、戦いしか出来ない腕にしてくれと願った憶えはないんだけどねえ。まったく……愛する者の手も握れなくなっちまったよ」
 雲の切れ間より月光が異形の姿を照らし出す。
「ま、この手もこれはこれで気に入ってんだけどさ……ッ!」
 満月を背に跳躍するアモン。
「……第二形態“liberatio(解放)”——弓(アルクス)!」
 弓状に変化させた左腕に右手を添えると、その先端より分裂してゆくように棘の如き突起が生成される。大量の針として射出されたそれらは、同じく宙に舞ったガブリエルを追尾するように全周より群がった。
「ざーんねんッ!」
 即座に結界を発動して受け止め、悉く灼き払う女天使。
「第三形態“liberatio(解放)”——鎌(ファルクス)!」
 今度は鎌と成した両腕を以て、アモンは斬りかかる。
「あいにくだけどあたしの守りは熾天使でも最高の堅さなのよねー」
 強固な魔法陣は破れる気配が無い。それでも彼女は、苦しそうに息を荒げて怒濤の連打を浴びせ続ける。
「あなたのその権能、発動すればするほどご老体に負担がかかるんですってねぇ。そんなに暴れていつまで理性を保ってられるかしら、おばあさんっ」
 攻撃の手が衰えた隙に距離を取ると、ガブリエルは再び弓矢を具現させた。
「させるかーッ!」
 双眸を血走らせ、肉体を脈動させる地獄侯爵。
「……最終形態“suscitatio(覚醒)”——放射(ラディウス)!」
 全身より伸び出でる棘状の突起物が鞭さながらに撓り、一斉にガブリエルへと迫った。

「——此処は……一体……?」
 気が付くと、ルシファーの前方には見覚えのある風景が広がっている。久しく目の当たりにしていなかったが、決して忘却ること無き場所。
「俺は何を…………」
 澄み渡った空気。眩い程に明るくありながらも、夜空に瞬く星々のように、あらゆる存在が美しく輝く。そして、彼方には二つの人影。
(ミカ……エル……?)
 遙か先といえど、神眼を有する彼が見紛うことは無い。何より、如何に遠く離れようとも、如何に永らく相見えずとも、かの者の姿は否が応でも視える。
その弟の傍らに佇む者は———
(……大天使長時代の俺、か)
 まだ冥府へと堕とされるより前、あの頃はミカエルとよく眼下に広がる世界を眺めては語り合った。その遠き日の思い出が、自身の眼前にある。
「兄さん、将来の夢は何?」
 ミカエルが屈託無く笑って尋ねた。
「以前も明かしたであろう。愛すべき此の世界を、天使を、其れ等凡てを護ってゆくことに他ならない」
 呆れたようでいながらも、上機嫌に語る自分(ルシファー)。
「また聞きたくなったんですよ。兄さんが変わってしまっていないか心配しましたが、今の言葉を聞いて安心しました」
 弟も嬉しそうに戯けてみせた。
「戯言を……此の俺が変わると申すか。俺は変わらぬ、俺の視ている存在を護り続ける迄だ」
「できますよ。兄さんならきっとできる! だって兄さんは他者を誰よりも思いやれる方じゃないか、優しい兄さんのことだもの」
「他人事にするでない。お前と俺で共に成し遂げることよ」
「分かってますってー。ねえ兄さん、約束しましょ! その未来へ二人で手を取り合って協力してくって」
 ミカエルが目を輝かせる。
「良いだろう。仮に俺が変わり、此の身が誓いを違える行いに至った日にはミカエル、お前が止めよ。お前が宣言に反すれば、此の俺が手ずから制裁を加える」
「いやー、やっぱ天界最強と名高い神の右席だねー。でも決意を伝えてくれて嬉しかったですよ。このミカエル、心にとどめておきます! まあ僕も命が惜しいし、こんなおっかない相方を裏切るなんて愚かなことする気ありませんって」
 喜ぶ弟を、苦笑しながら見守る大天使長。
「——実に、此の上なく愚かしいな」
 二人の幻影は瞬く間に燃やし尽くされ、一面が火の海と化す。夥しい数の悪魔の軍勢が浮かび上がった。
「良き幻想(ゆめ)が視れたか、敗北者よ。斯様な夢物語の結末が世界を灼き滅ぼす業火であると云うのに」
 中央で憐みに満ちた嘲笑を浮かべる悪魔……この男も他ならぬルシファーである。だがしかし、先程の天使とは全く異なる闇の権化。
「……フッ、己自身にも会えるとは面白き日だ」
 自嘲(わら)って見遣る。
「理想を求め、渇望した哀れな貴様は漆黒へと染まった。あれ程までの罪と罰を受けて尚も力を望むと云うのか?」
「毒を喰らわば皿、皿を喰らわば毒を持った相手をも喰らい尽くす性質(たち)でな。斯様なものも含め、負のあらゆる事象を飲み干してこその魔王だ」
 自身を正視して答えた。
「……相も変わらず救えないな」
「云ったであろう、俺は変わらぬと」
 ルシファーが切れ長の眼を見開くと、その肢体が紫の魔力光に覆われ、足元より焔の波が迫り上がってゆく。
「如何にも。俺は——」
 火力は勢いを増し、正面の彼らに打ち寄せた。
「俺は……俺は、魔王ルシファー……!」
 灼熱に支配される世界。緋色に包まれた悪魔の群れがたちどころに無に帰す様を見届け、地獄の王者は毅然として宣言した。


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