ダーク・ファンタジー小説

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魔法遣いのオキテ(ファンタジー)
日時: 2012/07/11 01:22
名前: yuunagi(悠凪) (ID: wfu/8Hcy)
参照: http://ncode.syosetu.com/n2549z/

・あらすじ

王立魔法科学院——通称「アカデミー」には二つの学科コースがあった。一つは「普通学科コース」。もう一つは「魔法遣使学科コース」。普通科を就学している生徒たちの学び舎はアカデミー。だが、魔法遣使学科——魔遣科を就学している生徒たちの学び舎は……え? 個人事務所?!

・当作品は不規則な構成(時系列)となっていますご了承下さい。
(例)夢見る愚者篇=未来(現在) 物憂う少年の贖罪篇=過去 etc.

・なお、当作品は小説家になろうさま、Arcadiaさまの方でも投稿させていただいていますご了承ください。(只今、諸事情により更新停止中。涼しくなった頃に再開予定)

※お気軽にご感想などをよろしくお願いしますm(。-_-。)m

・夢見る愚者篇(全三十話)
初期メンバーである牧瀬流風が三年になり、中途編入した雨宮彗月が二年になって……。そして、ようやく正式にメンバーに加わる新入生——椎葉姉妹が入所してから早数ヶ月経過したある日に起こった事件の内容です。

※なお、不規則な構成(時系列)となっておりますので、もしかすると……描写等で至らない部分があるかも知れません。ご了承ください。

 序 章 〜夢見る愚者 前 篇〜 其の一 >>01
 序 章 〜夢見る愚者 前 篇〜 其の二 >>02
 第一章 〜夢見る愚者と軟派男〜 其の一 >>05
 第一章 〜夢見る愚者と軟派男〜 其の二 >>08 >>09
 第一章 〜夢見る愚者と軟派男〜 其の三 >>10 >>11
 第一章 〜夢見る愚者と軟派男〜 其の四 >>12
 第一章 〜夢見る愚者と軟派男〜 其の五 >>13 >>14
 独 白 〜牧瀬流風 十八時十三分〜 >>15
 第二章 〜夢見る愚者とくりそつ姉妹〜 其の一 >>16 >>17
 第二章 〜夢見る愚者とくりそつ姉妹〜 其の二 >>18 >>19
 第二章 〜夢見る愚者とくりそつ姉妹〜 其の三 >>22 >>23
 第二章 〜夢見る愚者とくりそつ姉妹〜 其の四 >>24 >>25
 第二章 〜夢見る愚者とくりそつ姉妹〜 其の五 >>26
 第二章 〜夢見る愚者とくりそつ姉妹〜 其の六 >>27 >>28 >>29
 独 白 〜椎葉鳴 十三時十九分〜 其の一 >>30
 独 白 〜椎葉鳴 十四時十九分〜 其の二 >>31
 第三章 〜夢見る愚者とおしどり夫婦〜 其の一 >>32 >>33
 第三章 〜夢見る愚者とおしどり夫婦〜 其の二 >>34 >>35
 第三章 〜夢見る愚者とおしどり夫婦〜 其の三 >>36
 第三章 〜夢見る愚者とおしどり夫婦〜 其の四 >>37
 第三章 〜夢見る愚者とおしどり夫婦〜 其の五 >>38 >>39
 第三章 〜夢見る愚者とおしどり夫婦〜 其の六 >>40 >>41
 第三章 〜夢見る愚者とおしどり夫婦〜 其の七 >>42 >>43
 独 白 〜雨宮彗月 八時一分〜 其の一 >>44
 独 白 〜久遠寺美鈴 十三時十一分〜 其の二 >>45
 終 章 〜夢見る愚者 後 篇〜 其の一 >>46
 終 章 〜夢見る愚者 後 篇〜 其の二 >>47
 終 章 〜夢見る愚者 後 篇〜 其の三 >>48 >>49
 終 章 〜夢見る愚者 後 篇〜 其の四 >>50
 補 遺 〜久遠寺美玲 十三時十一分〜 >>51

・夢見る愚者篇〜After Story〜(全四話)
本篇〜夢見る愚者〜の後日譚です。

 幕 間 〜牧瀬流風 十八時十三分〜 其の一 >>52
 幕 間 〜椎葉鳴 十三時十九分〜 其の二 >>53

・物憂う少年の贖罪篇
アカデミー入学時代。初々しい頃の魔遣科一年、牧瀬流風の物語です。

独 白 〜雨宮彗月 八時一分〜 其の一 ( No.44 )
日時: 2012/06/28 22:22
名前: yuunagi(悠凪) (ID: wfu/8Hcy)
参照: http://ncode.syosetu.com/n2549z/24/

 えっと、彗月タイムらしい。

 ……全く、何でこっちはこんなに人が多いんだろうか。
 おかげで気分は悪くなるわ、美鈴に殴られるわ、で災難だらけじゃねぇ〜か。
 今日の占い、結構上位にランクインしてたのにも関わらずに、だ。

 ——ったく、役に立たんな……。

 まぁ〜いい、報告だ。
 あの後、雷使いに話を聞き出した所、何でも夢見る愚者(?)なる集団の幹部クラスらしいんだ。
 まぁ〜他の連中が夢想薬を飲んでやっとこさ魔法遣いモドキになるんだから当然ちゃ〜当然なんだが、その他の連中も幹部クラスみたいなんだよ。
 てっきり下っ端だと思ってた……。

 ——夢想薬を飲んだからさ。

 で、話を聞いていると何でも時統べる魔女には優秀な眷属どもが五名ほどいて、そいつらの相手を夢見る愚者の幹部連中が受け持つ事になったんだとよ。
 つまり、俺たちの相手をしながら大司教と呼ばれる人物の作戦遂行のための時間稼ぎをする事が幹部連中に課せられた任務らしい(まぁ〜狙う相手をミスってる時点で計画は失敗だがな)

 つぅ事は、流風やくりそつ姉妹も俺たちみたいに対峙したって事、か……。
 まぁ〜アイツらに限ってド素人当然の輩に負けるって事は無いだろう。

 ——それに、だ。

 俺たちに対して一番人員を割いていたみたいで。
 夢見る愚者の集団の中で唯一魔法が使える三人の内の二人もこちらに割いたようだ。

 ——もちろん、最後の一人は大司教と呼ばれる人物だ……。

 ——それともう一つ。

 どうやって夢見る愚者と名乗る集団が俺たちの情報を掴んでたかと言うと……結局のところ何も分からなかった。
 ただ言える事は、こいつらは大司教って奴が掲げる理想、思想に感銘を受け陶酔しきっている。
 大司教の命令とあらば、何でもやってきたらしい……。
 雷使いから聞けた話はこんなものだ。

 後は、所長が大司教って奴から話を聞き出すだけだが……。
 あの人、最近書類処理ばかりで動いてないから大丈夫かな……。
 まぁ〜いいか、所長が負ける訳ない。
 人の心配より己の心配をしなきゃ、な……。

 ニンフは……まぁ〜ご希望通りケーキとかで機嫌を取るとして、問題は美鈴だ。
 どう機嫌を取ろうか……。
 やはりこちらもニンフ同様に甘い物か?
 それとも服とか、装飾品とか……?

 ——ああ、もう何でもいい!

 何だって買ってやる。
 アイツの事を守れなかった自分への贖罪だと思えばいい。
 ああ、その通りだ、俺!

 ——ただし!

 くれぐれも高い物以外でお願いしやぁ〜す……。

独 白 〜久遠寺美鈴 十三時十一分〜 其の二 ( No.45 )
日時: 2012/06/28 22:27
名前: yuunagi(悠凪) (ID: wfu/8Hcy)
参照: http://ncode.syosetu.com/n2549z/25/

 美鈴タイムです。
 今日一日色々な事があったなぁ〜としみじみと思います。

 ——ふむ、少しお年寄り臭いかな……?

 まぁ〜いいや、えっと……流風さんたちが調査している夢想薬の噂についてですけど、何だか物騒な事になっちゃいましたね。
 まさか、追われる事になるなんて夢にも思いませんでした。
 でも、楽しかったなぁ〜。

 ——あっ、お姉ちゃんたちには内緒ですよ。

 皆、心配性だからね。

 さて、夢想薬の件について(学科違いであり部外者である)私の口からはこれ以上の事は何も言えませんので、愚痴コーナーに参りましょう。
 まずはメイちゃん、ナルちゃんの事かな?

 嘘を吐くなんてお姉ちゃん悲しい!(流風さん風)

 ——ゴホン、冗談はさておき。

 二人が私の事を心配してくれるのは嬉しいけど、それ以上に二人の事の方が私には心配だよ。
 幾ら、魔遣科で魔法についての勉強し、扱う事が出来るとは言え、年頃の少女が危険な目に遭うような事に目を瞑る事は出来ないよ。
 でも、お姉ちゃんはそこの所は配慮しているみたいで、本当に危険な仕事は流風さんや彗月に全部押しつけているみたい。

 ——あれ?

 これって配慮しているのかな……?
 本当に危険な仕事なら所長であるお姉ちゃんも自ら出陣するんじゃないのかな?
 一応、教官兼責任者だし……。

 ふむ、お姉ちゃんの事だから自分が興味抱いた事柄じゃないと食い付かないだろうから滅多な事では動かないだろうなぁ〜。
 それにいつも書類処理に追われているから身動き取れないだろうし……。

 ——さて、続いては彗月、か……。

 ホント、アイツってば信じられないわ!
 年頃の娘に向かって涎は付いてるわ、昔恥ずかし話を持ち出すわで、デリカシーってモノが欠けてるわ!
 そ、そりゃ〜口を開けて眠っていた私が悪いかも知れないけど、けどぉ!
 言い方ってモノがあるでしょ!?

 ……はぁ〜、いいわ。

 彗月が何かおごってくれるらしいからお言葉に甘えるとしましょうかね。
 何にしようかなぁ〜。
 確か、ニンフさんが甘い物をねだったみたいだから……私もそうしようかな?

 ふむ、悩みますなぁ〜。

 自費じゃないだけに普段買えない物とか……?
 いや、それはいくらなんでもね……。
 やっぱり、私も甘い物にしようかな。
 あっちこっち行ってお腹が減った事だし……。
 それに久しぶりにニンフさんとガールズトークに花咲かせたいしね。

 ——うん、そうしよう。

 じゃ〜そう決まった所で彗月たちと街へ繰り出そうとしましょうか、ね……。

終 章 〜夢見る愚者 後 篇〜 其の一 ( No.46 )
日時: 2012/06/29 22:03
名前: yuunagi(悠凪) (ID: wfu/8Hcy)
参照: http://ncode.syosetu.com/n2549z/26/

 ——とある某所。
 女性は頭上に両手を掲げ、伸びをする。
 大きく息を吐き、デスクワークで凝った肩首を軽く揉みほぐしながら女性は徐に口を開いて、

 「——そろそろ出て来たらどうだ?」

 と、自分以外誰も居ない部屋の中、何者かに声を掛けた。
 その声に応えるかのように深く被った黒い紳士帽に同系色の外套姿の中年男性が、何も無かった空間から元々そこに居たかのように、スッと姿を現した。

 「……いつから気付いていた?」

 男性は指摘された事に驚く事無く、女性に問う。
 その問いに女性は口元を歪め、凄惨な笑みを浮かべる。

 「私の妹がここに入って来た辺りからだよ——侵入者」
 「そうか。——ここに足を踏み入れた瞬間、か……」

 女性の返答に男性は冷静に頷き、納得する。

 「——ったく、気を使ったぞ。指摘していいものかと、な……」

 頭を掻きながら気だるそうに男性を揶揄する女性に対して、男性は「ふん」と鼻で笑い返し、女性に何かを投げつけた。
 それを女性は受け取り、徐に目を通し始める。

 女性が男性から受け取ったものは至って普通の写真で、計六枚あった。
 その写真には制服姿の学生らしき若い男女が写し出されており、女性にはこの写真に写る人物たちに心覚えがあった。
 しかし、表情には出さずにあくまで冷静さを保っている。

 「これが、どうしたと言うのだ?」
 「他意はない。ただの若い男女の写真だ。——ただ、解せないのはそこに写っている黒いのだよ」

 男性が「黒いの」と指摘したとある写真。
 そこに写し出されているのは、頭に乗せた小さな黒のシルクハットに真っ黒で艶やかなドレスを身に纏う、綺麗な黒髪の澄んだ黒い瞳が特徴的な若い女性だった……。

 「そいつに見覚えは無いか? ……いや、貴様が——久遠寺美玲、か?」

 少し確証がないのか、男性は確認するように目の前にいる女性——久遠寺美玲にそう投げかける。
 美玲は戸惑いを見せる男性を嘲笑うかのように「ニヤリ」と不敵な笑みを漏らす。

 写真に写る女性こと「久遠寺美玲」と、この場にいる赤髪アップスタイル、白いブラウスにタイトスカートと言ったラフな服装に綺麗な赤い瞳が特徴的な「久遠寺美鈴」は全くの別人と言っても過言ではないほど、似ていなかった。

 しかし、男性は写真に写る女性を「久遠寺美玲」だと信じている。
 だが、久遠寺美玲と思わしき人物が自分の目に前にいるけれど、写真に写る女性と姿形が全く異なっている。

 目の前にいる女性が久遠寺美玲なのか。

 それとも、写真に写る女性が久遠寺美玲なのか……。

 ——男性は少し揺らいでいた。

 「……ふむ、良く撮れているではないか。——これは私だよ、侵入者。それも外界用の姿の私だ……。マニアの間では高値で取引されているプレミアものだぞ。良かったな」

 自分が写った写真をまじまじと見つめながら自画自賛の言葉を呟いた美玲。
 その言葉が彼にとっては確固たる証拠、証言になり、少々心が揺らいでいたものの男性は何も言わず、自ずと不敵な笑みを溢してしまった。
 まるで長年追い求めていたものをやっとこさ見つけたと言った風な表情である。

 「それで、侵入者。私に何か用か? ——いや、言わなくてもいい。大体の予想が付いた……。お前が夢見る愚者と名乗る集団を率いる大司教と呼ばれる人物だな?」
 「……ふん、優秀な部下からの報告か?」
 「いや、それは違うね。私は自前にある程度の情報を仕入れていたのだよ」

 美玲の言葉に男性は疑問を感じる。
 「予め調べていたのなら、自分たちが企てていた事を把握済みだったはず、それなのに……」と、考えを巡らせていると美玲が薄笑いを浮かべながら、

 「だったら——なぜ、部下たちを調査に行かせたのだ、と言いたげだな。それは言わなくても察しろよ、侵入者」

 と、煽るような口調で男性にそれとなく諭す。

 「なるほど……ワザとそうしたのか」

 彼女の意図を汲み取った男性は徐にそう口ずさむ。
 男性の計画は——そもそも「使徒」と呼ばれる幹部連中たちが美玲の部下たちとその他一名(流風、彗月、椎葉姉妹、美鈴)の殺害及び時間稼ぎをしている間、自ら敵将である久遠寺美玲を討つ、と言ったモノだった。

 しかし、美玲がその計画を見破っていたにも関わらず、あえて部下である牧瀬流風たちに「噂の究明」と題して調査に行かせた。
 それでも、まだ男性だけが気付いていない誤算が継続として残っている。

 「おい、侵入者。この私とタイマンしたいんだろ? だったら、場所の移動を要求する。ここじゃ折角、私がお膳立てしてやったのにあいつらが帰って来てしまうだろ?」

 美玲は上から目線の傲慢な態度で男性に場所移動を要求した。
 男性はその要求を呑み、二人は物で散らかった部屋を縫うように進み。
 出入り口である扉の前で美玲が唐突に、

 「侵入者。——お前のホームグラウンドは一八一三軸の世界か?」

 と、男が暮らす世界軸を尋ねた。

 ——世界軸とは、タイムタイムと呼ばれる古の魔具が指し示す指針の事で。ありていに述べれば、その世界の名称のようなモノ。
 例えば、一八一三軸の世界の事を「流風タイム」と呼称したりと……。

 しかし、この「○○タイム」と言う呼び名はただの隠語であり、正式名称ではない。
 各々その世界軸の名称は異なる。が、一般的にはやはりタイムタイムの指針通りの呼び名になるケースが多い。

 先の一八一三軸然り。

 一三一一軸然り、と……。

 「なぜ、そのような事を聞く?」
 「いや、ホームグラウンドの方がお前にとってやりやすいかと思ってな」
 「ふん、ずいぶんと余裕だな」
 「まぁ〜それなりの場数は踏んでいるつもりだ。それに今日は調子が悪いなどと言った言い訳をされても困る」
 「……私はただの流浪者だ。帰る場所など存在せん」
 「そうか……。なら、行こうか」

 美玲が行くように促してから男性は徐に扉のドアノブに手を掛けた。
 すると、扉の上に掛けられた波形の長針と短針だけの装飾品が「ジリジリ」と音を立ててゆっくりと動き。
 一時十一分なのか、十三時十一分なのか定かではないその辺りを指して「チン!」とベルの甲高い音が鳴った。

 そして、ゆっくりと扉を開いて、二人は事務所を後にした……。

終 章 〜夢見る愚者 後 篇〜 其の二 ( No.47 )
日時: 2012/06/29 22:09
名前: yuunagi(悠凪) (ID: wfu/8Hcy)
参照: http://ncode.syosetu.com/n2549z/27/

 ——タイムタイム内部。

 無数の時計たちが「カチカチ」と音を立てながら時を刻み。
 時折り鳴り響く、心地の良い鐘の音色が辺りを包み込む吹き抜けの空間……。
 その空間には時を刻む時計以外は何もなく、天から降り注ぐ淡白い光が異世界のような雰囲気を醸し出していた。

 そして、この世界の中央には巨大なゼンマイを象ったようならせん階段がそびえ立っており、その階段に向かって大司教呼ばれる男性と久遠寺美玲は足を進める。
 二人が目指すらせん階段は天から降り注ぐ淡白い光に照らされながら、下方に向かって伸びていた。

 「——エスコートしてくださる? 侵入者さん」

 丁寧口調と共に黒い手套を付けた手が男性に差し伸べられ、ふとそちらに視線を向ける彼の視界には、先ほどの写真に写っていた黒の久遠寺美玲が映り込み。
 予期せぬ事に男性は無表情ながらも少し動揺しているように見受けられた。

 事務所で対峙した久遠寺美鈴とは違い、気品に満ちた物腰と雰囲気、口調もどことなくおっとりとした丁寧口調に様変わりしている現在の久遠寺美玲は、

 「どうかしましたか? 殿方なら女性をエスコートするのは習わしかと……」

 と、一向に差し伸べた手を引いてくれない男性に痺れを切らしたのか、そう指摘する。
 指摘された男性は渋々ながら腕を出して、そこに美玲は手を掛け。
 二人は腕を組みながら、らせん階段を一歩ずつ進んで行く。

 ——先の見えないらせん階段。

 一段踏む度に時を刻むように鳴り響く、ゼンマイが巻かれる音色が何かの暗示のような錯覚さえ覚える。

 「ねぇ〜侵入者さん。どうして私たちを狙うのかしら? そこだけがどうしても掴めかったの。教えてくださる?」

 ねだるような仕草で自分たちを狙う理由を美玲が尋ねる。
 先ほどまでの久遠寺美玲とは正反対の態度に少し対応に困るのか、男性は頑なに口を閉ざして何も言う事は無かった。
 そんな無愛想な態度に頭に来たのか美玲は頬を膨らまし、むくれてしまい。

 「いいですよ、別に……。後で言いたくなるようにたっぷりとお仕置きをしちゃいますから覚悟しといてくださいね」

 ウインクを送り、不敵な笑みを浮かべながら美玲はそう告げた。

 ——終始、無言の中。

 先の見えないらせん階段を一段ずつゆっくりとした足取りで下る二人の目の前に突如として現れた、淡白い光を帯びたモヤ。
 そこに躊躇いも無く、足を進める二人は淡白く光るモヤに吸い込まれるように無数の時計たちが時刻む、この不思議な空間から姿を消した……。

(1)終 章 〜夢見る愚者 後 篇〜 其の三 ( No.48 )
日時: 2012/07/01 01:04
名前: yuunagi(悠凪) (ID: wfu/8Hcy)
参照: http://ncode.syosetu.com/n2549z/28/

 ——とある某所。

 ドレスの裾をたくし上げながら久遠寺美玲が駆け抜ける。
 目に付いた廃墟と化した鉄筋コンクリートの物陰に身を潜め。
 そこで手中に収める黒と白の対となった神々しい装飾が施された二丁拳銃に彼女は弾をゆっくりと装弾する。

 二人は異空間から出てくるや否や何も会話を交わす事無く即、開戦。

 ここ「一三一一軸」の世界……。

 ——通称、久遠寺タイム(美玲タイム、美鈴タイム)とも呼ばれるこの世界では流風タイムと違い、魔法遣いと一般人が当たり前のように共存し、お互いに尊重しあいながら平和に暮らす豊かな世界だった。
 そんな世界に「アカデミー」と呼ばれるこの世界最大の教育機関があり、そこに流風たちは通っている。

 「……ふむ、久しぶりの戦闘で身体が鈍っているみたいですね」

 思っていた以上に身体が動かず、美玲は徐にそう嘆く。
 この世界では人目を気にする事無く思う存分に力を振るう事が出来るが、関係の無い一般市民まで巻き込む訳にはいかず、市街地から離れた人気のない廃棄された町で二人は戦闘を繰り広げていた。

 「ねぇ〜。侵入者さん。どうしてこの私とマンツーマンになりたかったのかしら? もしかして、ダンスのお誘い?」
 「戯言を……。貴様が政府の懐刀——時統べる魔女である事は百も承知。他の者たちでは荷が重いと判断し、この私が自ら出向いたまでだ」

 男性はそう述べながら右手に持つロッドを大地に力強く突き刺した。
 すると、突き刺したロッドに装飾された黄土色の宝玉が光を帯び、それに呼応するようにロッドを中心にうねうねと大地がうごめき。
 そして、ロッドを取り込むように大地が覆いかぶさって、徐々に人型のような物が形成されて行く。

 「今度は土人形です、か……」

 人型の物体を見て、美玲は静かに呟いた。

 「ゴーレム」と呼ばれる土人形は優に三メートル以上はあり、ごつごつとした筋肉質のような巨体から繰り出される攻撃は地形を変えるほどの威力を彷彿させる。
 召喚者である男性の指パッチンの合図でゴーレムの眼球と思わしき物体が怪しく光り、起動し。
 美玲が身をひそめる物陰にゴーレムは巨体を揺らしながら大きな足音を立てて進む。

 決して速いとも言えないスピードで歩み寄り、射程範囲内に入ったのか、ごつごつとした太い右腕を美玲がひそむ物陰に向けて叩き込み。
 轟音と共に鉄筋コンクリートの壁は崩れ落ち、砂塵が舞うその中には久遠寺美玲の姿はどこにも無かった。

 「——侵入者さん。貴方は大きな間違いを犯しています」

 と、どこからともなく美玲の声だけが聞こえ。

 「それは——侵入者さんが言う時統べる魔女は私ではなく。私の愛しき妹——久遠寺美鈴ですよ。私はただの彼女の架け橋であり、踏み台なのです……。それに私は政府の懐刀なんて大層な役職になんて担ってはいませんわ」

 「ふふふ」と、微笑みながら美玲は男性にそう指摘した。
 美玲のこの言葉に先方は唇を噛みしめ、身体を震わせる。

 「……ふざけるな」

 無表情を貫いていた男性は徐に怒りを露わにして語気を強めた。

 「ふざけてなんていませんわ。——ただ、私たちを狙ったのはある意味正解だったのかも知れないですわ。……過信はしてはいないですけど、私たちを潰せば世界征服をしたも当然ですからね。まぁ〜侵入者さんたちの目的が世界征服だったらの話ですけど……」
 「仮に貴様の言う通りだったとしても、私にはやらねばならない事がある……」
 「……そう」

 その返事を持って美玲の声は聞こえなくなり、しばらく静寂が辺りを包み込んだ。
 静まり返る空間に突如、

 【バン! バン!】

 と、言う乾いた二発の銃弾が鳴り響き。
 男性はゴーレムを呼び戻し、盾代わりにする。
 美玲が放った二つの銃弾はゴーレムに弾かれ、銃声音ならびに銃弾が飛んで来た方向で相手の居場所を逆算した男性はゴーレムに合図を送り、その合図と共にゴーレムが大きく口を開けた。

 その口から体内に取り込んだ岩石などの鉱物が混ざり合わさった大きな砲弾のようなものを成形し、それを放たんと自らを砲台と見立てて、低く唸るような雄叫びを上げながら口から砲弾を発射。
 発射された砲弾は物の数秒で西方向の廃墟たちを破壊の限りを尽くし、砂塵と共に大きな地響きを辺りに鳴り響かせた。

 「……そのような玩具で我がゴーレムを打ち破る事は出来まい」
 「そう、思いますか?」

 男性の背後からゆっくりとした足取りで美玲は姿を現して不敵にそう呟いた。
 彼女の気配に気付いた男性はゆっくりと背後を振り向く。

 「……何が言いたい?」
 「侵入者さんは破壊と創造を司る双龍神のお話はご存知?」
 「生憎、お伽噺には疎いんでな。そのような話は聞いた事が無い」
 「……そう。——なら、別に結構ですわ」

 美玲が言う「破壊と創造を司る双龍神」とは、遥か昔の何もない世界でのお話——。

 自らの力に溺れた「破壊を司る神龍」と「創造を司る神龍」の双子の龍たちが毎日のように創造しては破壊と言った行動を繰り返し行っていた。
 そこで業を煮やした双龍神を生みし者が力に溺れた双龍たちに天罰を与えた。
 しかし、自ら生み出した双龍たちには本来の役目を担ってほしいと強く望んでいた生みし者は双龍たちをあるモノに形状を変え、この強大な力を正しく扱える者が現れるまで世界のどこかに隠した……。

 ——と、言うお伽噺が魔法遣いたちの間で囁かれていた。

 そのあるモノは「伝説の魔装具」として扱われるのだが、如何せん情報源がお伽噺という不確かな物である事は紛れもない事実で、実際その魔装具を見たものは誰もおらず。
 しまいには人々が勝手に「伝説の魔装具とはこういう物だ」と、レプリカを作る始末。

 ——そのような曰く付きの話をなぜ、この状況で美玲は切り出したのだろうか?

 久遠寺美玲はそれ以上、何も語る事無く、静かに双銃を男性に向けた。
 その直進的な行動に男性は案の定、ゴーレムを盾に身をひそめる。
 それでもなお、美玲は双銃の引き金に手を掛け、焦点を合わせた。
 男性はゴーレムに合図を送り、口を大きく開けさせて先ほどの砲弾を成形させる。

 「——粛清だ。久遠寺美玲っ!」

 男性の雄叫びと共にゴーレムは砲弾を発射。
 砲弾は風を切りながら猛スピードで美玲目掛けて一直線に進む。
 それでも、美玲はその場から一歩も動こうともせずに双銃を先方に向け続ける。
 そして、美玲は徐に口元を緩め、凄惨な笑みを浮かべた。
 今にも高笑いしそうなほどに凶悪な笑みを浮かべながら双銃の引き金を引いて——発砲した……。

 乾いた二発の銃声から放たれた銃弾は猛スピードで目の前に迫りくる砲弾に着弾する。
 しかし、小さな弾丸ではゴーレムが成形した砲弾を相殺する事など到底出来ない。
 砲弾はその勢いを保ったまま美玲を射貫き、砂塵と砲弾が地面に着弾した際に生じる大きな地響きだけが辺りを包み込んだ。

 廃墟とは言え、鉄筋コンクリートで出来た建物を粉砕するほどの威力を誇る砲弾を避ける事無く、真正面で受けた彼女が無事で済むはずがない。

 ——だから、男性は勝利を確信した。

 たとえ、相手が時統べる魔女じゃないにしろ、どのみち対峙する相手だったのだから。
 「結果オーライ」と、男性は考え改めた。

 「これで……同志たちが報われる……」

 男性はそう呟くと膝を着いて顔を押え。

 ——そして、涙を流した……。

 長年に及ぶ、目的を達するために行動をしていた男性はその目的を後もう少しで達成する事が出来る、その喜びに浸っていた……。


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