ダーク・ファンタジー小説

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魔法遣いのオキテ(ファンタジー)
日時: 2012/07/11 01:22
名前: yuunagi(悠凪) (ID: wfu/8Hcy)
参照: http://ncode.syosetu.com/n2549z/

・あらすじ

王立魔法科学院——通称「アカデミー」には二つの学科コースがあった。一つは「普通学科コース」。もう一つは「魔法遣使学科コース」。普通科を就学している生徒たちの学び舎はアカデミー。だが、魔法遣使学科——魔遣科を就学している生徒たちの学び舎は……え? 個人事務所?!

・当作品は不規則な構成(時系列)となっていますご了承下さい。
(例)夢見る愚者篇=未来(現在) 物憂う少年の贖罪篇=過去 etc.

・なお、当作品は小説家になろうさま、Arcadiaさまの方でも投稿させていただいていますご了承ください。(只今、諸事情により更新停止中。涼しくなった頃に再開予定)

※お気軽にご感想などをよろしくお願いしますm(。-_-。)m

・夢見る愚者篇(全三十話)
初期メンバーである牧瀬流風が三年になり、中途編入した雨宮彗月が二年になって……。そして、ようやく正式にメンバーに加わる新入生——椎葉姉妹が入所してから早数ヶ月経過したある日に起こった事件の内容です。

※なお、不規則な構成(時系列)となっておりますので、もしかすると……描写等で至らない部分があるかも知れません。ご了承ください。

 序 章 〜夢見る愚者 前 篇〜 其の一 >>01
 序 章 〜夢見る愚者 前 篇〜 其の二 >>02
 第一章 〜夢見る愚者と軟派男〜 其の一 >>05
 第一章 〜夢見る愚者と軟派男〜 其の二 >>08 >>09
 第一章 〜夢見る愚者と軟派男〜 其の三 >>10 >>11
 第一章 〜夢見る愚者と軟派男〜 其の四 >>12
 第一章 〜夢見る愚者と軟派男〜 其の五 >>13 >>14
 独 白 〜牧瀬流風 十八時十三分〜 >>15
 第二章 〜夢見る愚者とくりそつ姉妹〜 其の一 >>16 >>17
 第二章 〜夢見る愚者とくりそつ姉妹〜 其の二 >>18 >>19
 第二章 〜夢見る愚者とくりそつ姉妹〜 其の三 >>22 >>23
 第二章 〜夢見る愚者とくりそつ姉妹〜 其の四 >>24 >>25
 第二章 〜夢見る愚者とくりそつ姉妹〜 其の五 >>26
 第二章 〜夢見る愚者とくりそつ姉妹〜 其の六 >>27 >>28 >>29
 独 白 〜椎葉鳴 十三時十九分〜 其の一 >>30
 独 白 〜椎葉鳴 十四時十九分〜 其の二 >>31
 第三章 〜夢見る愚者とおしどり夫婦〜 其の一 >>32 >>33
 第三章 〜夢見る愚者とおしどり夫婦〜 其の二 >>34 >>35
 第三章 〜夢見る愚者とおしどり夫婦〜 其の三 >>36
 第三章 〜夢見る愚者とおしどり夫婦〜 其の四 >>37
 第三章 〜夢見る愚者とおしどり夫婦〜 其の五 >>38 >>39
 第三章 〜夢見る愚者とおしどり夫婦〜 其の六 >>40 >>41
 第三章 〜夢見る愚者とおしどり夫婦〜 其の七 >>42 >>43
 独 白 〜雨宮彗月 八時一分〜 其の一 >>44
 独 白 〜久遠寺美鈴 十三時十一分〜 其の二 >>45
 終 章 〜夢見る愚者 後 篇〜 其の一 >>46
 終 章 〜夢見る愚者 後 篇〜 其の二 >>47
 終 章 〜夢見る愚者 後 篇〜 其の三 >>48 >>49
 終 章 〜夢見る愚者 後 篇〜 其の四 >>50
 補 遺 〜久遠寺美玲 十三時十一分〜 >>51

・夢見る愚者篇〜After Story〜(全四話)
本篇〜夢見る愚者〜の後日譚です。

 幕 間 〜牧瀬流風 十八時十三分〜 其の一 >>52
 幕 間 〜椎葉鳴 十三時十九分〜 其の二 >>53

・物憂う少年の贖罪篇
アカデミー入学時代。初々しい頃の魔遣科一年、牧瀬流風の物語です。

(1)第三章 〜夢見る愚者とおしどり夫婦〜 其の二 ( No.34 )
日時: 2012/06/23 21:53
名前: yuunagi(悠凪) (ID: wfu/8Hcy)
参照: http://ncode.syosetu.com/n2549z/18/

 彗月の提案で怪しまれないよう周りの空気に溶け込むため「学生カップル」を演じる二人は身を寄せ合いながら一つの望遠鏡に覗き込んでいた。
 しかし、演技とは言え、見たくもない高所からの景色に彗月は足を震わせていた。

 「——見られてるって、誰に?」
 「い、いや、分からん……。み、美鈴はこっちに知り合いは?」
 「居ないけど……」
 「ふ、ふむ、だったら、だ、誰だ?」

 美鈴の回答に思案顔を浮かべる彗月だが、出す声全てが震えてぎこちなさが前面に露わになっている。
 それに活を入れるように美鈴はさりげなく彼の震えている足を蹴って突っ込みを入れた。

 「彗月はこっちに知り合いは居ないの?」

 偽装カップルを演じ続けるため、美鈴は先ほどの仕打ちはなかったように話を続ける。

 「……居る訳ないだろ」

 思いのほか突っ込みの蹴りが強かったのか、彗月は苦痛な表情を浮かべつつも、先ほどよりは声音がマシになっていた。

 ——だが、足は未だに震えたままだ……。

 「あ〜そうだね。こっちに来るのは初めてだったね」
 「とりあえず、このまま偽装カップルを演じながらこの場を離れよう。もしかすると、俺の勘違いで終わるかもしれないし……」
 「えっ!」

 彼の発言に辺りに響き渡るほどの声量で驚いた美鈴は目を「パチパチ」と連続で瞬きをした。
 彼女はまさか長丁場になるとは思ってもみなかったようだ。

 「えっ、て……。何か問題でも?」

 驚く美鈴に対して冷静に返えし、余裕を見せる彗月だが……足は震えている。

 「いや、問題はないけどさ。偽装カップルって言っても何をするの?」
 「う〜ん……手を繋いで歩くとか?」
 「て、て、て、手を繋ぐの!?」

 またもや、彼の発言で辺りに響き渡るほどの声量で驚いた美鈴に「演技を忘れて。何、素になってんだよ」と、彗月が呆れ果てて溜め息を吐く。

 「ほら、周りのカップルたちがやってるじゃん」

 首を「クイっ」と動かして「周りを見てみろよ」と彗月は合図を送る。

 「やってるじゃんって、言われても……」

 恐る恐る美鈴が周りに視線を向けると、カップルたちが手を繋いで「キャハハウフフ」な甘い雰囲気を漂わせ。
 また、あるカップルは売店で購入したソフトクリームを交互に食べ合ったりと、デート未経験の美鈴には刺激が強い光景がそこには広がっていた。

 「ん? 嫌か?」
 「嫌じゃないけど……恥ずかしくないの?」
 「恥ずかしいも何も演じるだけだからなぁ〜。本当のカップルになる訳でもないし」
 「へ、へぇ〜……」

 平然とした態度の彗月に表情を強張らせながら、ぎこちない返事をする美鈴の額には汗が滲み出ていた。

 「じゃ〜手を繋ぐぞ〜」
 「う、うん……」

 積極的に声を掛けて美鈴の手を握る彗月に少し緊張しながらも美鈴は流れに身を委ねて彗月の手を強く握り締める。
 しかし、少し強く握りすぎたのか。
 彗月は少々苦悶な表情を浮かべながら、美鈴に苦言を呈そうと彼女に目をやるや否や、徐に小首を傾げた。

 「……何、赤くなってんの?」
 「あ、赤くなんてなってないわよ!」

 全力で首を振って否定するものの美鈴の頬は紅潮していた。
 彼女とは対極的に冷静さを見せる彗月は照れる美鈴の仕草を好機と受け止める。

 「まぁ〜別に良いけどさ。それにその方が好都合。初々しい感じが出て、周りの奴らも初デートのカップルと見間違えるだろうし」

 と、冷静に解釈している傍らで美鈴は照れ隠しのように俯きながら身体を小刻みに震わせていた。

 「……もう、どうとでもなれ!」

 「ん? 何か言ったか?」

 自分に気合を入れるために小声で呟いた言葉が彗月に聞こえていたのか、不意に尋ねられた美鈴は俯きながらも首を振って否定する。

 「そう? じゃ〜とりあえず適当に歩いてから。ここから降りようか」
 「う、うん」

 二人は周りにいるカップルたちを見習って、手を繋いで歩き始める。
 少々ぎこちないものの、手を繋いで歩く二人の姿は初デートをする初々しいカップルに引けを取らない程度に様にはなっていた。

 ——途中。

 第一展望台にある売店で先輩方を見習い、ソフトクリームを購入して交互に食べ歩きながら、

 『そろそろ、良い頃だろう』

 と、二人はエレベーター前に足を運び、到着するまでしばしの小休止となった。

 「なぁ〜美鈴。お前、何かぎこちないよな〜」

 今までの演技を振り返って彗月は美鈴に少し苦言を呈する。
 ぎこちなさを出すのは結構だが、行きすぎた所作は逆に相手に演技だとバレる可能性があるため、アドバイスの意味を込めて述べた言葉だった。

 「しょうがないでしょ! ……初めてなんだから」

 少し照れながら釈明する美鈴に何か納得出来る要素があったのか、彗月は大きく頷く。

 「——ああ、ガリ勉だからな」
 「ガリ勉言うな。……それなら彗月はどうなのよ?」
 「え? ああ、俺は学科上いろいろとさせられるからさ」

 彼女の唐突な質問に少し気の抜けた表情を浮かべながらも彗月はしっかりと返答する。

 ——魔遣科の都合上。

 仕事の依頼によっては潜入調査のようなものがあり、その都度その場に相応しい姿で出向く事になる。
 しかし、久遠寺美玲の事務所では主に椎葉姉妹が潜入調査を行うために流風や彗月は滅多に行う事は無い。
 そのため、今回の「偽装カップル」は彗月にとっては久しぶりの役所で、冷静さを装ってはいるが……緊張して、少し硬くなっていた。

 【チン!】

 と、エレベーターが到着したのか、ベルの音が鳴り。
 それに乗り込もうと二人は足を踏み出した所までは良かったのだが……。

 ——突然、彗月の足が止まってしまった。

 彗月はこの時まですっかりと忘れていた。
 ここ、電波塔のエレベーターは全面ガラス張りのユニークな造りをしていた事を……。
 少し目を赤くしながら小さく首を横に振って、

 「無理……」

 と、美鈴に訴えかけるが強引に手を引っ張られてエレベーターに搭乗する事になり。
 彗月は「ガタガタ」と足を震わせながら美鈴の影に隠れた。

 「……こ、これ大丈夫だよなっ? なっ?」
 「はいはい、大丈〜夫。——大丈夫だから引っ付くな!」

 恐怖で身体を震わせる彗月を軽くあしらい、先ほどとは立場が逆転した瞬間であった。
 その様にエレベーターガールが口元を押えて、ほくそ笑んでおり。
 美鈴は少し申し訳なさそうに、

 「行って下さい」

 と、彼女に促す。
 美鈴の言葉で業務に戻ったエレベーターガールはボタンを押して扉を閉め。

 ——エレベーターを下降させる。と、

 「——あの世への誘いだぁ〜〜〜〜!」

 下降するエレベーター内で訳の分からない事を彗月は叫びながら。
 無情にもエレベーターは地上に向かって下降して行った……。

(2)第三章 〜夢見る愚者とおしどり夫婦〜 其の二 ( No.35 )
日時: 2012/06/23 21:55
名前: yuunagi(悠凪) (ID: wfu/8Hcy)
参照: http://ncode.syosetu.com/n2549z/18/

 電波塔から無事脱出した二人だったが、未だに偽装カップル作戦を継続していた。
 これは「念のため」と言う事で継続中なのだが……。

 一番の理由としては、やはり電波塔から降りて来てから生気が抜け切ったようにげっそりとヤツれてしまった彗月が、あまりにも心もとない足取りで。
 それが心配になった美鈴が介抱がてら身体を支える形で腕を組み、先ほどよりも密着度が増した結果になってしまっていた。

 「大丈夫?」
 「……大丈夫じゃない。生きてる心地がしない……」

 今にも吐きそうな程に青ざめた顔色でそう語る彗月の足取りはもう見るに堪えない有様になっている。
 ほぼ、女の子である久遠寺美鈴に引っ張られるような形で腕にしがみ付き、情けない姿をさらす彗月に行き交う人々は「何事か」と食い入るように見つめる始末……。

 問題児に対する気苦労が絶えない美鈴はもう慣れてしまっているのか、あるいはもう開き直っているのか、人々が向ける奇異な視線には無反応で、

 「早くコレをどうにかしないと」

 と、思う一心で身体を動かしていた。

 「……ねぇ〜彗月。本当に誰かに見られてたの?」

 先ほど、電波塔で彗月が感じた妙な気配。
 それはただの彗月の勘違いで終わってしまったのかどうかを確かめるために彗月に尋ねた美鈴は徐に辺りをきょろきょろと見渡す。

 「……ああ、そうだなぁ〜」

 他人事のように唸った後に彗月は「くんくん」と匂いを嗅ぎ始めた。
 その行動に美鈴は堪らず首を傾げて、呆気にとられてしまう。
 それは確かめるのなら普通——怪しい輩がいないか辺りを見渡すのが、定石だと。
 美鈴は考えていたのだが……実際、彗月が行ったのは「匂いを嗅ぐ」と言う意味の分からない行動だったから。

 「……二つ、怪しい匂いがする」

 匂いを嗅ぎ終わったのか、唐突にそんな事を口走り、美鈴はさらに首を傾げる。

 「……怪しい、匂い?」
 「ああ、何か焦げたような煙の匂いとフルーツ系の——そう、甘ったるい匂い……」

 何かを思い浮かべながら指折り数えて、そう話す彗月。

 「どうしてその二つが怪しい匂いって感じたの? 候補的に前者の臭いの方が怪しい感じがするけど……」
 「ああ、第一展望台で嗅いだ人の匂いを記憶してたからさ」
 「は? 匂いを記憶?」

 彼の言葉に美鈴は間の抜けた表情をさらしてしまう。

 「そう」

 彗月は偽装カップルを演じている最中、予め第一展望台にいた人々の匂いを嗅いで記憶していた。
 その記憶の中から、電波塔を出てからずっと匂って来ている匂いを探り当てて、二つの候補を挙げたのだ。

 「……警察犬みたいだね」

 驚異的な彗月の能力に美鈴は嘆息交じりに皮肉る。

 「まぁ〜そのおかげで人の多い所に行けないんだけどな……」

 美鈴の皮肉に頷いて見せ、自分もこの特殊能力染みた嗅覚に嫌気がさしていると言わんばかりに彗月は表情を歪めた。
 ただ、このような特殊能力が備わったのは、彼——雨宮彗月の背景を鑑みるに至極自然の事であった。
 その理由として、彗月は久遠寺美玲たちと出遭うまで、とある事情で自らの視力を封印していたのである。

 それの弊害……。

 ——いや、それを補う部分で、彼の場合。

 人並み以上に嗅覚が優れてしまった、と言った所だろう。

 「で、その匂いがする人たちが私たちの事をつけて来ている、と?」
 「そういう事になるな。たまたま行く方向が一緒なのかも知れないけど……」

 電波塔を出てから二人は歓楽街に伸びる大通りを南下していた。
 電波塔を境に南側はショッピングモールや若者らが集まる歓楽街があるため、人が多く行き交う事が必至で「その可能性も捨てきれない」と彗月は考えていた。

 「……はっきりしないなぁ〜」
 「しょうがないだろ。怪しい気配を感じたには感じたけど、ソイツの顔を見た訳でもないからさ」
 「ふむ……じゃ〜走ってみる?」
 「え?」

 思いもよらなかった美鈴の発言に彗月は思わず口を開け、間の抜けた表情をさらし、少しの間フリーズしてしまった。

 「ほら、こういう場合って……つけて来る人を撒くために走ったりするじゃん」

 何かしらの媒体から得た情報をそのまま垂れ流しただけの美鈴の発言に少し立ち眩みを覚えた彗月だったが、

 「走ったりするじゃんって、お前……。まぁ〜いいけどさ。——もし、違うなら誰も追いかけて来ないだろうしな」

 と、満更でもないと言った風な返答をした。

 「そうそう。人ごみの少ない場所に走り込んで物陰から追いかけて来た人を驚かす。——で、どうかな?」
 「うん、その案に乗った」
 「じゃ〜」

 二人は組んでいた腕を一度、解き。
 再び手を——今度は強く繋ぎ直した。

 『スタート!!』

 その掛け声と共に手を繋ぎながら二人は走り出した。
 人ごみを掻き分けながら走り抜ける二人の表情はどこか楽しげな面持ちで、このピンチとも何とも言えない不確かな雰囲気をただ楽しむ、映画のワンシーンのように見受けられた。

 行き先も決めないで、ただ人ごみの少ない場所を目指してひたすら走り続ける二人の事を怪しい服装の集団が後方から一定の距離を保ちつつ追いかけていた。
 そんな事も知らずに二人は大通りから脇道に逸れて、路地に入り。
 どこか見通しが良くて、なおかつ身を潜められそうな場所を探索しながら路地裏を手を繋ぎながら駆け抜ける。

 ——そして、ようやく見つけた人の気配が無さそうな、廃墟寸前の雑居ビル……。

 その雑居ビルには、中央部分が吹き抜けとなった広場があり、そこには所々雑草が生い茂っていた。
 そんな場所に到着した二人はさっそく、吹き抜けの広場を囲うよう建てられた雑居ビルの支柱裏に息を殺して身を潜める。

 自分たちを追いかけて来る者が本当にいるのかと、確かめるためにじっと広場の方へ視線を向けていると、彗月が記憶した匂いと共に黒装束姿の集団が辺りをきょろきょろと見渡しながら現れた……。

第三章 〜夢見る愚者とおしどり夫婦〜 其の三 ( No.36 )
日時: 2012/06/24 20:15
名前: yuunagi(悠凪) (ID: wfu/8Hcy)
参照: http://ncode.syosetu.com/n2549z/19/

 「作戦成功?」
 「ああ、そうみたいだな」

 まさかここまで作戦が上手く運ぶ事になるとは思わず、拍子抜け感が否めない表情を浮かべる二人は黒装束の集団の様子を窺う。
 黒装束の集団は全員で五名おり、何かを探すように辺りを詮索していた。

 その行動に柱の陰に身を潜めていた二人は彼らに気付かれないように忍び足で雑居ビルの建物内に潜入し。身を隠せそうな部屋を探しまわる事にしたのだが、どこもかしこも物が取っ払われており、隠れ蓑に出来るような物が全くなかった。

 「チッ……。ここもダメか……」

 彗月がそう悪態をついた。
 二階まで上がって来た二人はこのフロア最後の部屋を今し方、見終わった所で。
 まだ、上階があるにも関わらず、隠れる場所が無くて彗月は少々苛立ちを覚えたのだ。
 そんな彼をなだめるように美鈴は彗月の手を優しく握った。

 「……どうするの、彗月。——戦うの?」
 「……相手の出方次第だけどな。——だけど、もしもの事があったら、美鈴……」

 力強い眼差しで彗月は美鈴の事を見つめ。
 咄嗟の事に美鈴は視線を彷徨わせて、たじろいでしまう。

 「……な、何?」

 美鈴は少し表情を強張らせ、たどたどしさを孕ませた声を発する。

 「……お前が邪魔だ。だから、お前が隠れられる場所をこうして探しているんだが……」
 「……ホント、もう少し言い方ってモノがあるでしょうに……」

 彗月の図星だけども心無い言葉に美鈴は徐に嘆息を吐いて額を押えた。

 「回りくどく言うよりはマシだと思ったんだが?」
 「分かったわ……。こっちはどうにかして隠れそうな場所を探すから、彗月はあの人たちの相手を……」

 先ほどとは反対に今度は美鈴が力強い眼差しで彗月を見つめ。
 その視線に何かを感じ取ったのか、彗月は目を閉じて感慨深く頷いて見せた。

 「……了解。——しくじるなよ」
 「こっちのセリフよ。事が終わったら……」
 「ああ、分かったよ。携帯に電話する」
 「違うでしょ。——明日、一緒に学校へ行こうね」

 微笑みながら言った美鈴の言葉に鼻で笑った彗月は彼女を残して、黒装束の集団が未だに自分たちを探しまわっているであろう広場に向かって駆け出した。
 彼が行く末を見届けた後に美鈴は小さく息を吐き、

 「自分もやる事しないと……」

 と、思い改めて足を踏み出した。

 この作戦は……。

 ——と、言うより。今までの行動は全て自分の身を案じてくれた彗月の優しさだと言う事を察していた美鈴は自ずと唇を噛み締める。

 もしも、あの黒装束の集団が自分たちを狙っているのなら彗月の身の安全のためにも、自分が彼らに捕まる訳にはいかない。

 そう心に誓い。

 ——久遠寺美鈴は安全な場所を求め、彷徨い歩く……。

第三章 〜夢見る愚者とおしどり夫婦〜 其の四 ( No.37 )
日時: 2012/06/24 20:19
名前: yuunagi(悠凪) (ID: wfu/8Hcy)
参照: http://ncode.syosetu.com/n2549z/20/

 「居た?」
 「いえ、どこにも居ません」
 「ふむ……建物内、かな?」

 黒装束の集団を束ねるリーダー格らしき人物が仲間たちに指示を出し。
 探し終わって一時報告に戻ってくる仲間と会話を交わす、広場風景……。

 その光景を雨宮彗月は高みの見物と言わんばかりに、広場を見渡せる雑居ビル二階テラスの縁に取り付けられている鉄製の手すりに腰掛けて、優雅に佇んでいた。

 「——誰をお探しですかな? 隊長殿」

 上から見下ろし、小馬鹿にしたような口調で彗月は黒装束の集団に投げかける。
 突然、投げかけられた謎の声に黒装束の集団は少しうろたえたが、その声の主を探さんと辺りを見渡し。

 そして、雑居ビルを見上げると、そこには手すりに腰かける少年の姿があり。
 それを捉えた黒装束の集団は揃って口元を歪めた。

 「……そちらからお出ましとはね」
 「それはこっちのセリフだけどな。アンタらが電波塔でこっちを見張っていた事を気付いてなかったとでも?」
 「……なるほど」

 リーダー格の人物はあの時点で自分たちの存在がバレていたのかと知り、頷く。
 途中からおかしな行動を取り始めた彗月たちの意図がようやく理解出来た瞬間である。

 「で、アンタたちは何者? それとどうして俺を狙う?」
 「私たちはただの革命者だよ。それと君は面白い事を言うね。——『俺』をじゃなくて『俺ら』じゃないのかな?」

 もう一人……。

 ——久遠寺美鈴が「この建物内のどこかにいるって事はバレバレだよ」と諭すような言い草で彗月の言葉を訂正する。

 「……言葉の綾だ。気にすんな。それとまだ質問に答えてもらってないんだが?」
 「そうだねぇ〜暇潰し、時間潰しって所だよ」
 「その暇潰し、時間潰しとやらはストーカー行為までするのか?」

 この言葉に黒装束の集団は少しきょとんとして変な間を開けた後に突然、口元を押え「クスクス」と笑い始めた。
 彼らの姿に彗月は眉をひそめ、少ししかめ面になる。

 「ホント、君は面白いね」
 「……どういたしまして」
 「で、さぁ〜。一つ提案なんだけど……」
 「サイン以外なら何でもいいぜ」

 彗月の言葉にリーダー格の人物は腹を抱え、苦しそうに大笑いする。
 それにつられて他の連中も腹を抱えるまではいかないけれど、大笑いした。

 「……ホント、面白いなぁ〜君は……。ああ、愛おしくなるよ。……だけど、生憎サインじゃないんだよね。——時統べる魔女と我らの大司教さまがサシで殺り合うだけの時間を稼がなきゃならないんだよ。だからさ、結果はどうあれ、決着がつくまでさ……。私らと暇潰し、時間潰しの余興に付き合わない?」

 笑い過ぎて涙が出たのか、目元を拭きながらリーダー格の人物がそう話し。
 その言葉に彗月は「ビクっ」と少し身体を強張らせた。

 ——時統べる魔女。

 ——大司教。

 この二つのワードに引っ掛かった彗月。

 「大司教」と呼ばれる人物は「彼らを束ねるリーダーだろう」と瞬時に理解出来た彗月だったが……。
 「時統べる魔女」と呼ばれる人物は「自分が思い描いている人物と彼らが思い描いている人物とでは、差異があるんじゃないか」と推測した。

 ——それは、何よりもこの状況が物語っていたからである。

 しかし「相違があろうと、その人物に危険が及んでいるのならすぐにでも助けに行かないと……」と、結論付けた彗月は小さく息を吐き、気持ちを切り替えた。

 「……拒否権は?」
 「この会場に来場したその瞬間、君には拒否権はありませ〜ん。強制参加となりま〜す。ちゃ〜んと招待状を見てくれたかな?」

 「ひらひら」と彗月と美鈴が写った写真を見せびらかせ、それを「招待状」と見立てているのか、文字も何も記されてない写真を指さしながらリーダー格の人物はそう軽口を叩く。

 「……生憎、招待状は受け取って無いんでな。そちら側のルールなんて知らん」
 「まぁ〜そう言わずに、ね。楽しもうよ。折角のパーティーなんだからさ」
 「そこまで言うなら丁重に持て成せよ」
 「かしこまりました。——では、さっそく……」

 燕尾服を着こなす執事のような丁寧なお辞儀をして、先方は「パン、パン」と、二度軽く手を叩いた。
 その合図と共にリーダー格の人物以外の四人は身構えて臨戦態勢に入る。
 彼らの行動に彗月は怪しく口元を緩めてから、そのままためらう事無く二階から飛び降りた。

 膝を曲げ。

 右手を着き。

 そう格好良く着地をしてから周りに聞こえない声量で、

 「……死ぬかと思った」

 と、彗月は呟いて徐に左手で胸を押える。
 自分が「高所恐怖症」と言う事を忘れて格好を付けるためだけに、二階テラスの手すりに腰を掛けて、彼らの事を見下ろしていたのだ。

 ——もちろん、その間は恐怖でずっと身体が震えたままだった訳だが……。

 「——で、アンタはパーティーに参加しないの?」

 何事もなかったように平然を装いながら、他の者らと違い何も準備をしていないリーダー格の人物に不意に投げかけた彗月。
 その問いに、

 「君は先にメインディッシュ、デザートから食べる派なのかい?」

 そう軽い口調で発せられた言葉に彗月は「にやり」と不気味に微笑んだ。

 「……なるほど、ラスボスって訳ね」
 「その方が盛り上がるでしょ?」

 彗月に負けじと、こちらも不敵に微笑む。
 そして、右手で銃の形を作り、銃口を彗月に向けて、

 「バン!」

 と、口ずさんで、スターター役を演じた。
 その即席スターターピストルの音と共に、彗月を中心に扇状に展開していたリーダー格以外の四名は一斉に彗月に向かって動き出した……。

(1)第三章 〜夢見る愚者とおしどり夫婦〜 其の五 ( No.38 )
日時: 2012/06/25 20:58
名前: yuunagi(悠凪) (ID: wfu/8Hcy)
参照: http://ncode.syosetu.com/n2549z/21/

 彗月は彼らの行動を目で追う。
 相対する黒装束の四人はそれぞれ大柄、長身、中肉中背、細身と背格好はてんでバラバラだが、それなりに統一性のある動きを見せており、大柄の人物が手振りで他の三人に合図を送る。

 その合図に頷いて、三人は正面、右方、左方と三方向に展開し。
 彗月を背後にある壁際に追い込み、そこで一旦、三人は立ち止まった。
 そのまま攻撃に転じて来ると思っていた彗月は少し拍子抜けな表情を浮かべるものの、彼らが怪しい行動をしないかと、目を配らせる。

 ——すると、突然、上空が暗くなり。

 気になった彗月は一瞬三人から視線を反らし、その暗くなった上空を見上げる。
 と、そこには三人に指示を送っていた大柄の人物の姿があり。
 彼は隙を狙って高く跳躍しており、自らのアドバンテージを遺憾なく発揮させんと上空から彗月目掛けて右腕の拳を叩き込む。

 彗月を囲んでいた三人は巻き込まれないよう後退し。
 彗月もすんでの所で横っ跳びをし、転げながらもその拳をかわす。
 大柄の人物が叩き込んだ右腕の拳は地面に突き刺さるインパクトの瞬間!

 ——その一帯が凍りつき、氷柱が地面から飛び出した。

 その光景に彗月は目を見開き、驚きの表情を浮かべながらもどこか余裕があるのか、

 「ピュ〜」

 と、口笛を吹いてみせた。

 「——夢想薬の効力って、さほどオリジナルと差がないんだな」

 大柄の人物の力を見て、感心したのか頷きながらそう呟く。
 はっきり言って彗月はこの目で確かめるまで夢想薬の力を全く信じていなかった。
 資料で視認した——宙に浮く、氷の木を創った、など……。
 ある程度の事しか出来ないと思っていたからだ。

 「へぇ〜。あれを見て、よく夢想薬のおかげだって分かったんだね」

 感心するリーダー格の人物だが、何かを隠しているのか彗月の解釈に不敵な笑みを浮かべていた。

 「まぁ〜その調査のために動いてんだけどな」
 「ああ、そうだったね……。——わざわざ異世界からご苦労様です」

 敬意を表すように敬礼をして彗月の事を挑発する。
 しかし、彗月は挑発には乗らず、リーダー格の人物が述べた言葉に気を取られていた。

 「……お前、どこまで知っている?」
 「さてさて、何の事でしょうか?」

 表情を強張らせながら彗月は尋ねるが、リーダー格の人物はまともに取り持つ事は無く軽くあしらう。

 「……チッ。まぁ〜良い。このオードブルたちを食してからメインディッシュを堪能する事にする」
 「そうそう、その意気だよ。まだまだコース料理は始まったばかりだからね。胃もたれには注意してね」

 残りの黒装束の三人も大柄の人物に続くかのように懐から液体が入ったガラス瓶を取り出して自らの手首を刃物で切り付けた。
 そして、液体が入ったガラス瓶に己の血液を垂れ流し、赤く染まった液体を一気に飲み干す。
 と、液体を飲んだ三人は一斉に苦しそうに首を掻きむしるような動作を取り始めた。

 泡を吹き。

 瞳孔が開き。

 焦点が合わないほどに眼球が揺れ動く。

 徐に何かを掴み取ろうと天に腕を伸ばし、空を握りしめた三人の口元は歪み不敵な笑みを溢しながら、一斉に彗月を見据えた。
 彼らの行動に彗月も応戦せんと腰の辺りに左手を伸ばし、そこに何かモノがあるかのように空気を掴み。
 その何かを抜き取らんと右手を伸ばした所で……。

 ——ある事に気付き、

 「……あっ」

 と、呆けた表情をさらし、彗月は思わず間の抜けた声を上げてしまう。
 しかし、その間に黒装束の集団は大柄の人物を先頭に、他の三人は大柄の人物のサポートといった陣形を組み、彗月に向かって攻撃を仕掛けていた。

 大柄の人物が冷気を漂わせる拳を地面に叩き込み、彗月の足元から氷柱を発生させ。
 彗月は氷柱攻撃を軽々と避けるが、そこを狙って今度は長身の人物が左腕を薙ぎ払うよう振って炎を放出。
 細身の人物が左腕を高く掲げ、そこから勢いよく振り落とすと、彗月の真上で茶色に輝く五芒星の陣と共に岩石が出現し、そのまま彗月目掛けて落下させる。

 彼らの波状攻撃に、

 「チッ」

 と、舌打ちをし、苦虫を噛み潰したような表情を彗月は浮かべつつも、まず炎の攻撃を地面に身体を伏せて避け、すぐに態勢を整えてから上から自分目掛けて落下してくる岩石の対処法として前に向かって歩き、悠々とその攻撃も避ける彗月。
 標的を失うも、なお落下する岩石は彗月の後方に、

 【ドスン!】

 と、鈍い音を立て、砂塵を巻き上げながら地面に追突した。
 彼らの攻撃を避け終わった後、すぐ妙な気配を察知した彗月は徐に首を「ひょい」と横に傾ける。
 すると、先ほど地面に落ちた岩石に突然、亀裂が入り、歪な楕円状の凹みが出来上がっていた。

 その正体は、牧瀬流風のモノとは程遠い精度ながらも風を圧縮した弾丸を波状攻撃の最後の砦として中肉中背の人物が彗月に向けて発射させていたのだ。
 しかし、彼が放った風の弾はその歪さから空気に同化する事無く、自然の風の流れを壊す結果となり。
 結局、彗月に容易く気付かれ、避けられてしまった。

 「さっきの言葉は訂正する。——やっぱりマガイ物はマガイ物だわ」

 そう辛辣な言葉をふっかけた後に何を思ってか、彗月は徐に両膝を着き、正座の態勢に入ってしまい。
 余裕な表情を浮かべていた彼が突然、そのような行動に出たものだから相対していた四人は「自分たちの力に恐怖を抱き、降伏してきたのだ」と踏み、勝ち誇ったように笑い始めるが……。
 リーダー格の人物だけは彗月の行動をジッと見つめたまま「何をするのだろう」と警戒を怠らずにいた。

 しかし、彗月は目を瞑り、相対していた四人の思惑通りにそのまま顔を伏せ、土下座をしてしまった。
 その行動にはさすがのリーダー格の人物も拍子抜けしたような表情を浮かべてしまう。
 けれど、その期待を裏切るように彗月は、

 「……出て来い、ニンフ」

 と、祈るように唱えた。
 すると、その声に呼応するかのように彗月の背後に透き通るほどの白い肌艶、澄んだ碧い瞳に暑苦しい白い拘束衣姿の久遠寺美鈴と同じぐらいの年頃の白髪少女が、腰の辺りまで綺麗に伸びたその白髪をなびかせながら現れた。

 「……そろそろ慣れてください、彗月さま」

 現れて早々、彗月に苦言を呈する「ニンフ」と呼ばれた白髪少女は少し呆れた表情を浮かべる。

 その言葉を適当にあしらいながら立ち上がって相対していた四人を見据える彗月の瞳は牧瀬流風や椎葉姉妹のように謎の少女の影響で瞳の色は変わる事無く、澄んだ黒い瞳の色のままで。
 彗月は改めて腰の辺りに左手を伸ばし、そこに何かモノがあるかのように空気を掴み、その何かを抜き取ろうと右手を伸ばして勢いよく引き抜いた。

 すると、空気を掴んだ左手から大量の水が溢れ出し、そこから抜き取ったであろう剣の形を成した水が彗月の右手に収まる。

 「……全く。ナイフとフォークぐらい用意しとけっての。素手で食わせる気か」
 「それはそれは、こちらの不手際で申し訳ありません……。——でも、結果オーライでしょ?」

 彗月は先ほどの水剣を更に鋭利なモノへと、形状変化させ。
 徐に剣先をリーダー格の人物に向け「ニヤリ」と不気味に微笑んだ。


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