ダーク・ファンタジー小説

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魔法遣いのオキテ(ファンタジー)
日時: 2012/07/11 01:22
名前: yuunagi(悠凪) (ID: wfu/8Hcy)
参照: http://ncode.syosetu.com/n2549z/

・あらすじ

王立魔法科学院——通称「アカデミー」には二つの学科コースがあった。一つは「普通学科コース」。もう一つは「魔法遣使学科コース」。普通科を就学している生徒たちの学び舎はアカデミー。だが、魔法遣使学科——魔遣科を就学している生徒たちの学び舎は……え? 個人事務所?!

・当作品は不規則な構成(時系列)となっていますご了承下さい。
(例)夢見る愚者篇=未来(現在) 物憂う少年の贖罪篇=過去 etc.

・なお、当作品は小説家になろうさま、Arcadiaさまの方でも投稿させていただいていますご了承ください。(只今、諸事情により更新停止中。涼しくなった頃に再開予定)

※お気軽にご感想などをよろしくお願いしますm(。-_-。)m

・夢見る愚者篇(全三十話)
初期メンバーである牧瀬流風が三年になり、中途編入した雨宮彗月が二年になって……。そして、ようやく正式にメンバーに加わる新入生——椎葉姉妹が入所してから早数ヶ月経過したある日に起こった事件の内容です。

※なお、不規則な構成(時系列)となっておりますので、もしかすると……描写等で至らない部分があるかも知れません。ご了承ください。

 序 章 〜夢見る愚者 前 篇〜 其の一 >>01
 序 章 〜夢見る愚者 前 篇〜 其の二 >>02
 第一章 〜夢見る愚者と軟派男〜 其の一 >>05
 第一章 〜夢見る愚者と軟派男〜 其の二 >>08 >>09
 第一章 〜夢見る愚者と軟派男〜 其の三 >>10 >>11
 第一章 〜夢見る愚者と軟派男〜 其の四 >>12
 第一章 〜夢見る愚者と軟派男〜 其の五 >>13 >>14
 独 白 〜牧瀬流風 十八時十三分〜 >>15
 第二章 〜夢見る愚者とくりそつ姉妹〜 其の一 >>16 >>17
 第二章 〜夢見る愚者とくりそつ姉妹〜 其の二 >>18 >>19
 第二章 〜夢見る愚者とくりそつ姉妹〜 其の三 >>22 >>23
 第二章 〜夢見る愚者とくりそつ姉妹〜 其の四 >>24 >>25
 第二章 〜夢見る愚者とくりそつ姉妹〜 其の五 >>26
 第二章 〜夢見る愚者とくりそつ姉妹〜 其の六 >>27 >>28 >>29
 独 白 〜椎葉鳴 十三時十九分〜 其の一 >>30
 独 白 〜椎葉鳴 十四時十九分〜 其の二 >>31
 第三章 〜夢見る愚者とおしどり夫婦〜 其の一 >>32 >>33
 第三章 〜夢見る愚者とおしどり夫婦〜 其の二 >>34 >>35
 第三章 〜夢見る愚者とおしどり夫婦〜 其の三 >>36
 第三章 〜夢見る愚者とおしどり夫婦〜 其の四 >>37
 第三章 〜夢見る愚者とおしどり夫婦〜 其の五 >>38 >>39
 第三章 〜夢見る愚者とおしどり夫婦〜 其の六 >>40 >>41
 第三章 〜夢見る愚者とおしどり夫婦〜 其の七 >>42 >>43
 独 白 〜雨宮彗月 八時一分〜 其の一 >>44
 独 白 〜久遠寺美鈴 十三時十一分〜 其の二 >>45
 終 章 〜夢見る愚者 後 篇〜 其の一 >>46
 終 章 〜夢見る愚者 後 篇〜 其の二 >>47
 終 章 〜夢見る愚者 後 篇〜 其の三 >>48 >>49
 終 章 〜夢見る愚者 後 篇〜 其の四 >>50
 補 遺 〜久遠寺美玲 十三時十一分〜 >>51

・夢見る愚者篇〜After Story〜(全四話)
本篇〜夢見る愚者〜の後日譚です。

 幕 間 〜牧瀬流風 十八時十三分〜 其の一 >>52
 幕 間 〜椎葉鳴 十三時十九分〜 其の二 >>53

・物憂う少年の贖罪篇
アカデミー入学時代。初々しい頃の魔遣科一年、牧瀬流風の物語です。

(3)第二章 〜夢見る愚者とくりそつ姉妹〜 其の六 ( No.29 )
日時: 2012/06/20 19:51
名前: yuunagi(悠凪) (ID: wfu/8Hcy)
参照: http://ncode.syosetu.com/n2549z/14/

 「——ふぅ〜助かったぜ」
 「お互い様だよ。——それにしても、こんな短時間の間にナルちゃんは露出狂にでもなったんですか?」

 そう、苦笑交じりに椎葉姉は口走る。
 椎葉妹がブリッジ回避をした際、腹部の部分が破れてしまい。不可抗力とは言え「へそ出しルック」と化してしまった彼女の様相を見て、椎葉姉は苦笑交じりに茶化したのだ。

 「これは最近流行りのファッションだよ。——それを言うなら姉貴もパンクコスメみたいな事になってるぜ」
 「……えっ?」

 椎葉妹に頬を指さされ、椎葉姉は徐にその頬に触れる。
 すると、右頬に切り傷が出来ており手に血が付いた。血の付いた右手を椎葉姉は見つめながら身体を小刻みに震わせ。

 「ブチっ」と、静かに憤怒し。

 その反動で少し垂れ目気味だった目が鋭く冷たい眼光に変わり果ててしまった。
 それを見た椎葉妹は「あちゃ〜」と額を押えて「言うんじゃなかった……」と後悔する。

 「…………手」

 静かに呟いた椎葉姉の口元は歪み、凄惨な表情がさらされていた。
 そのような姿の彼女から発せられた言葉に、椎葉妹は顔を引きずりながらも、素直に手を差し出し。
 背後で「ぷかぷか」と浮かぶ双子の幼女たちも、椎葉姉の現在の姿には畏怖の念を抱かざるを得なかった。

 椎葉妹が差し出した手に椎葉姉は静かにタッチをして、再び互いの手套に炎が灯る。
 が、椎葉姉の青い炎が黒い炎へ変化しており。
 その炎で今度は弓の形に成形した椎葉姉は、自分の頬に傷を付けたであろうリーダー格の人物に向かって黒い炎で創った矢を射った。

 黒い炎を纏った矢は風を切り。
 目にも止まらぬ速さで先方の左脇腹を射貫くと同時に、黒い炎の矢は激しく燃え盛った。

 「——大丈夫。急所はあえて外していますから……。それに……貴方たちはルクエラのおかげで痛覚が麻痺しているんでしょ……? ——だから、大丈夫……だよ、ね……?」

 凄惨な笑みを浮かべながら静かにそう呟く椎葉姉を目掛けて、肥満体形と中肉中背の二人が指を振って、椎葉姉の右方から氷柱を出現させた。
 氷柱は椎葉姉に命中したのか、その衝撃で姿が見えないほどの白い煙が辺りに発生した。

 しばらくして、風の影響で白い煙が流されて。全貌が露わになったその場所には椎葉姉が黒い炎で大きな盾を創って氷柱攻撃を防いでいた。
 先ほどの白い煙は黒い炎の火力に負け、氷柱が溶けて蒸発したために起こったモノだったようだ。

 椎葉姉は自分に攻撃してきた者たちの事を鋭く冷たい眼光でゆっくりと見つめ、徐に凄惨な笑みを溢した。
 そして、また椎葉妹の手を静かにタッチして。
 再び、黒い炎が灯った左手で今度は黒い炎を纏った長い鞭を成形し。それで果敢にも攻撃をして来た者らを軽く薙ぎ払った。

 すると、見兼ねた椎葉妹が、

 「……姉貴。そろそろやめないと、本当に殺してしまうぜ」

 と、制止に入った。
 いくら「ルクエラ」で痛覚が麻痺しているとは言え。
 身体自体は普通の人間のそれと変わりがない。
 だから、椎葉妹は虫の息になりかかっている者がいるのを発見し、静かに椎葉姉の肩を叩いて制止に入ったのだ。

 「…………えっ? ああ、そうだね……」

 妹の制止に素直に耳を傾け頷いた椎葉姉の目付きは、元の目に戻っていた。
 どうやら、正気に戻ったようである。

 「——さてと、希望通り。力づくで、アンタたちを屈伏させた訳だが……」
 「……そうですね。そろそろ教えてもらえませんか?」

 二人は約束通りに計画を教えてもらおうと尋ねた。
 すると、黒装束の集団が突然、天を仰いで手を掲げ。
 そして、もがくように何かを掴もうと必死に手を動かし始めた。
 「この人たちは何を掴もうとしているんだろう」と、思い。椎葉姉妹はその手の先に視線を向ける。
 と、そこには青い球体が彼らに捕まらんと動き回っていた。

 『——えっ? 精霊……?』

 青い球体を見て力無く口走った椎葉姉妹とは対照的に黒装束の集団は必死に青い球体を追い続けていた。
 何かに取り憑かれたようにそれを懸命に追い求める。
 決死に伸ばす腕も先方に「ひらり」と容易くかわされ。
 そして、崩れ落ちるように膝をつき。這いつくばりながらでも、なお青い球体を掴み取ろうと黒装束の集団は腕を伸ばし続ける……。

 そんな彼らに無情の知らせを告げるように。
 身体から蒸気のようなものが少しずつであったが発生し始めた。

 そんな光景を目の当たりにし「何が起こったのか分からず」椎葉姉妹は首を傾げて間の抜けた表情を浮かべてしまっていた。

 ——数分が経過した頃に、黒装束の集団の身体から炎が発生し。

 それを見て、ようやく何が起こったのか理解した椎葉姉妹は静かに頷いた。

 「……夢想薬の副作用か」
 「……だね」

 と、力無く口ずさむ。
 黒装束の集団は身体を炎に燃やされながらも、今もなお宙に舞う青い球体から視線をそらす事なく、腕を懸命に伸ばし続けた。
 皮膚は焼きただれ、血肉が浮き彫りになりつつある彼らの姿を見るに堪えなくなった椎葉姉妹は視線をそらしてしまう。

 そして、炎は黒装束の集団を燃え尽くして満足したかのように、徐々にその炎の勢いを弱め鎮火していき。
 皮膚が全て剥がれ落ちた状態となった彼らは未だに宙を舞い続ける青い球体を見つめたまま、

 『夢見る愚者たちに祝福を……』

 と、謎の言葉を唱えて。

 ——そのまま静かに息絶えた……。

独 白 〜椎葉鳴 十三時十九分〜 其の一 ( No.30 )
日時: 2012/06/21 22:05
名前: yuunagi(悠凪) (ID: wfu/8Hcy)
参照: http://ncode.syosetu.com/n2549z/15/

 え、えっと……。
 め、鳴(めい)タイムの時間みたいです!

 ふぅ〜美鈴ちゃんに付きまとわれて疲れました。
 それに食べなくてもいいデザートを無理やり食べさせられて、お風呂上がりに乗る体重計が恐ろしいです。

 ……はぁ〜。

 ——さて、夢想薬の噂の究明だったお仕事が何だかややこしい事になっちゃいました。
 おかしな黒装束の集団に命を狙われるような事なんて、した覚えないんですけど……。
 ——少し甲高い声の方が妙な事を言ってましたね。

 「ただ、僕らの大司教様の計画を邪魔されないように時間潰しに付き合ってもらうのみ」と……。

 結局、その計画と言うのは聞けず仕舞いですけど、私たちに少なからず関係がある事なんでしょうね。
 それにあの方々は私たちの知らなくてもいい情報まで掴んでいたみたいですし……。
 どうやって入手したのでしょうか?
 少なからず、私たちが相対した方々は「この世界の住民」である事は間違いないのでしょうけど。

 ——もしかすると、あの方々のお仲間にこちら側の事情を知る人物が混じって、いる?

 ふむ、考えても答えは出ないですね。
 流風ちゃんと彗月ちゃんの調査しだいで何か分かるかも知れないですしね。

 まぁ〜それはさておきと……。

 非常に困った事態に見舞われました。
 これは隠しようのない証拠として挙がっていますし……。
 ホント、困ったものです。

 ——顔の切り傷。

 どうやって美鈴ちゃんに説明したらいいのでしょうか?
 それにこのままではお嫁にいけません。
 ホント、二重苦ですね……。
 鳴ちゃんには「ツバ付けときゃ〜綺麗な肌に元通り」と、親指を立てて勧められたのですが……丁重に断りました。

 ——いつの時代ですか……。

 ふむ、愚痴を言っていても仕方がありませんね。
 正々堂々と切り傷に絆創膏を貼って帰るとします。
 ホント、どうなる事やら……。

 ……はぁ〜。

独 白 〜椎葉鳴 十四時十九分〜 其の二 ( No.31 )
日時: 2012/06/21 22:09
名前: yuunagi(悠凪) (ID: wfu/8Hcy)
参照: http://ncode.syosetu.com/n2549z/16/

  鳴(なる)タイムの時間だぜ。

 ……ったく、美鈴さんって結構しつこいんだな。
 おかげで、食べなくてもいい。にっくきあんちくしょうを食べる羽目になってホント「小ダルマ姉妹」になったらどうしようか……。

 ……はぁ〜。

 えっと……ああ、夢想薬の噂の究明だった仕事がまさかの展開だったな〜。
 変な集団に絡まれるわ、姉貴がキレるわで、大変だったぜ。
 まぁ〜姉貴をキレさしたきっかけを与えてしまったのはアタシのミスなんだろうけど。

 でもさぁ〜あの流れだったら言う所だろ。
 実際、頬に切り傷を付けられてたんだし……。
 だけどさ、元を辿れば全てあの変な集団の所為だよな。
 だから、自業自得って奴だ。

 ——さてと、小難しい事はアタシには分からないけど、あの変な集団が計画していた事って何だったんだろうな。
 姉貴が言うには「あの変な集団が、もしかすると連続変死事件に関わって居たかも知れない」って踏んでいるみたいだけど……実際の所はどうなんだろう。

 でも、電波塔付近で起こった変死事件が最後って言うのは朗報なんじゃないか?
 まだ、確証を得たものでは無いにしてもさ。

 ——ふむ、まとめってこんなものか?

 ——じゃ〜後は愚痴だけだな。

 しっかし、どうしたもんか……。
 「最近流行りのファッション」なんてあの時、豪語したが……いつの話だよって話だよな〜。
 これで美鈴さんは騙せないしな……。

 はぁ〜ホント、どうしよう。

 また、正座させられて。美鈴さんが飽きるまで、ずっと説教をされなきゃならないんだろうな〜このままだったら……。
 一層の事、所々穴を開けて「ダメージ制服」って言えば案外まかり通るんじゃないか?
 ふむ、これは意外な妙案になるかも知れないな。
 じゃ〜さっそく、力づくで引き破って——あれ?

 もし、力加減マズったらアタシどうなるんだ?
 さらに酷い有様になるんじゃないだろうか?
 それこそ秘境で住む先住民みたいな言い訳をしないといけなくなるんじゃないか?

 「——アタシ、今日から裸体族に転向しました〜」ってか?

 ……うん、この案はボツだな。

 ふぅ〜、覚悟を決めるしかないな……。
 「——急成長をして、制服が破れました〜」って、な。
 「それも腹周りが〜」って……。

 ——はぁ〜、情けなくなってきた……。

 さっさと帰るか……。

(1)第三章 〜夢見る愚者とおしどり夫婦〜 其の一 ( No.32 )
日時: 2012/06/22 21:55
名前: yuunagi(悠凪) (ID: wfu/8Hcy)
参照: http://ncode.syosetu.com/n2549z/17/

 ——電波塔内部。
 家族連れやカップルたちが手を繋いで行き交う第一展望台。

 展望台に設けられた望遠鏡に覗き込む子供は大はしゃぎし。
 カップルたちは身を寄せ合って一つの望遠鏡を二人で分け合うように片方ずつに覗き込み、良い雰囲気を漂わせる。
 ここ衛星都市が誇る絶景ポイントである電波塔第一展望台に傍から見ればカップルにしか見えないとある一組の男女のペアがいた。

 一人は五芒星を象った校章が刺繍された白いブラウスに黒いタイを身に付け。赤と黒の格子柄のズボンを履き、無造作に肩まで伸びた黒髪の女々しい顔つきの少年……。
 もう一人は少年と同様の白いブラウスに赤いタイを身に付け。五芒星を象った校章が刺繍された紺色のサマーセーターに赤と黒の格子柄のスカート、綺麗に腰の辺りまで伸びた黒髪の凛々しい顔立ちの少女……。

 ——雨宮彗月(あまみやはづき)と久遠寺美鈴(くおんじみすず)が第一展望台に足を運んでいた。

 「見て見て、彗月。ここからの景色凄いよ」
 「え? ああ、そうだなぁ〜」

 美鈴が子供のようにはしゃいで指をさすその先には、ここ衛星都市の街並みが広がっていた。小さくなった車や人々が辛うじて見えるほどの高さから見渡す景色は壮大で、夜になれば街並みが光に灯され、車のライトが夜空を流れる星のように下界が人工夜空と化す。
 そのため、夜になるとカップルにとって絶好のデートスポットとなり。
 混雑する事、間違いなしである。

 「……何だが、楽しそうじゃないよね。彗月」

 空返事しか返さない彗月に苦言を呈し、美鈴は少し「ムスっ」と機嫌を損ねた。

 「いや……だから、俺……高所恐怖症なんだよ」

 彗月は外の景色を極力見ないように視線を彷徨わせながら美鈴にそう釈明する。
 電波塔に来る際にも彗月は美鈴に、

 「高所恐怖症だから行きたくない」

 と、伝えていたのだが……。
 美鈴は彗月がいつも面倒臭がって述べる「嘘」だと思い込み。
 半ば強制的に電波塔第一展望台まで名物のガラス張りエレベーターを使用して、こちらに赴いていた。
 しかし、この情けない姿の彗月を目の当たりにしていたら「本当に高所恐怖症なんだ」と思い改めた美鈴だったが……自ずと嘆息を漏らしてしまう。

 「……弱点多すぎない?」
 「チャームポイントって言ってくれ……」
 「いや、どう見てもウイークポイントでしょ?」
 「……人間誰しも弱点ぐらいはあるだろ?」
 「まぁ〜そうだけど……」

 哲学的な押しに美鈴は言い返せなくなり、その言葉に少し納得してしまう。
 それを好機と見た彗月は「こちらも反撃に打って出ないと」と、思い。唐突に、

 「——で、だ……。この際、お前も弱点をゲロっちゃえよ。俺ばかり不公平だろ?」

 と、意味の分からない事を口走った。
 案の定、美鈴はその言葉に首を傾げて呆ける。

 「その俺様理論に共感できないんですけど……。それによ。——元はと言えば彗月が堪え性無いのがいけないんじゃないの? 人前ですぐに情けない姿をさらすでしょ?」
 「耐えられないから弱点って言うんだろ? ……全く、もう少し勉強しろよ。明らか、お前って、ガリ勉だろうに……」
 「ガリ勉言うな」
 「何、言っちゃってんだか。一年前なんてお前……三つ編みメガネの前が——グフッ!」
 「昔の事を持ち出すな!」

 昔にあった恥ずかしい話題を引っ張り出した彗月に「鉄拳制裁」と言わんばかりに美鈴は鳩尾に力の限りの拳を叩き込み。
 鳩尾に鈍器を叩きこまれたような衝撃を受けた彗月は堪らず、膝を着いてうずくまってしまった。

 「……おっ、お前。それで……何で、普通科……なんだ……よっ……」

 美鈴に手を伸ばし、謎の言葉を言い放った後に「ドサっ」と、彗月は床に倒れ伏せてしまい。
 そんなおかしな光景を周りにいた人々が目撃しており。
 少しずつであったが野次馬たちが集まりつつあった。

 「——ちょ、ちょっと。早く起きなさいって……。これじゃ〜私が悪いみたいじゃないのよ!」

 慌てふためく美鈴の姿に周りの野次馬たちがひそひそ小声で何やら有らぬ話をし始め、さらに美鈴は焦ってしまう。
 そんな美鈴に対して、事を引き起こした張本人は身体を小刻みに震わせながら、笑うのを必死に堪えているように見受けられた。

 その様子を両親に手を繋がれた無垢なる子供が見ており、

 「このお兄ちゃん。笑ってるよ」

 と、指さして大声で口走る。
 子供の言葉に我に返った美鈴はふと、彗月に視線を向ける。
 そこには子供に指摘され、嘘だとバレた気まずさから尋常じゃない量の汗を噴き出す彗月の姿があった。

 「はぁ〜づぅ〜きぃ〜!」
 「あっ! はい! すいませんしたぁ!」

 美鈴の怒号にすぐさま起き上がった彗月は綺麗な土下座を決め込んで全力で謝罪する。
 額を床に強く擦りつけて綺麗に三角に折られた腕の角度……。
 「土下座選手権」なるものがあったら正しく優勝するであろうほどの綺麗な土下座に美鈴は怒るのも馬鹿らしくなって、額を押えて嘆息を吐いた。

 群がっていた野次馬たちも、

 「な〜んだ、ただの痴話喧嘩か」

 などと呟きながらその場から退散していき、事無きを得る。

 「彗月、早く立ち上がって……。こっちが恥ずかしいから」

 嘆息交じりに立つように促し。
 その言葉に彗月は誠意が伝わったと思い、安堵の表情を浮かべながら立ち上がった。

 「——さてと、そろそろ降りるか」

 立ち上がりざまに彗月は欠伸をしながら、そんな言葉を口ずさむ。

 ——はっきり言って、彗月はこんな事をしている場合じゃなかった。

 夢想薬の噂の究明調査をさっさと終わらせ。
 そして、事務所にあるいつものソファーで惰眠をむさぼりたくて堪らずにいた。

 「……え? もう、降りるの?」

 彼の突然の提案に呆けながら言葉を漏らした美鈴。

 「だって、ここにいてもしょうがないし……」
 「第二展望台には行かないの?」
 「お前……俺の事、絶対許してないだろ……」

 嘆くように呟く彗月に美鈴は首を傾げて不思議そうな表情を浮かべた。
 彗月が「高所恐怖症」と言う事を先ほどの姿を目の当たりにして、理解出来たはずなのにも関わらず。
 さらに追い打ちをかけるような提案を真顔で口走った天然娘に彗月は頭を抱えたのだ。

 「はぁ〜……。まぁ〜いい。——美鈴、今は第二展望台には行けないと思うぞ」
 「えっ? どうして?」
 「どうしたも何も、昨日——あっ」

 途中まで言葉を言いかけて、彗月はすんでの所で何かを思い出し、徐に口をつぐむ。
 その行動に美鈴は首を傾げる。

 「どうしたの?」
 「いや、何でもない」
 「……もしかして、あの厳重態勢の事を言っているの?」
 「……ああ」

 電波塔に入る際、入り口の前で出くわした数人の警備員。
 それと第一展望台にも見回りに数人の職員が出払っていた。
 普段でもいるにはいるのだが、昨夜の事件の事があり。
 いつも以上に人数を動員している。

 「何があったんだろうね」

 美鈴は昨夜起こった事件の事は何も知らない。
 それで彗月は流れ的に思わず話しそうになったのを飲みこんで誤魔化してはみたが、バレるのも時間の問題と思い、話す事にした。

 「……昨日、飛び降り自殺があったみたいなんだよ」
 「飛び降りって、ここから?」
 「ああ。それが第二展望台にある非常階段から外郭に出たみたいでさ」

 平然と彗月は嘘を吐いた。
 実の所、まだ侵入経路が分かっていない。
 人が滅多に使用する事の無い「非常階段」だと言う説が一番濃厚だったために口走ったにすぎない。

 ちなみに第二展望台は行くのに別料金が発生するため、ほとんどカップルが使用する程度で第一展望台よりは人が極端に少なくなる。

 「そこ狙ったんじゃないか」と、巷ではそう囁かれているが……。

 未だに不明瞭である。

 「なるほどね。だから、第二展望台は封鎖されていると、言いたいのね」
 「ああ、そうだ」
 「で、それと彗月たちが調べている夢想薬って薬の噂と何か関係がある、と……」
 「ああ、そうだ——って、え?」
 「うんうん。分かった分かった。だいたいの流れは理解出来たわ……」

 彗月をハメた美鈴は椎葉姉妹から得た情報と照らし合わせ、彼らがやらんとしている事の流れを把握し、徐に頷く。
 椎葉姉妹は夢想薬の噂についての話だけで、夢想薬によって犠牲者が出た事は一言も話してはいなかった。

 ——もちろん、昨夜あった事件の事も……。

 しかし、彗月は美鈴にまんまとハメられ、口を滑らせてしまい。
 秘密を漏らす事態に至ってしまった……。

 「……俺って奴は……」

 そんな自分の無能さに肩を落として嘆く。

(2)第三章 〜夢見る愚者とおしどり夫婦〜 其の一 ( No.33 )
日時: 2012/06/22 21:59
名前: yuunagi(悠凪) (ID: wfu/8Hcy)
参照: http://ncode.syosetu.com/n2549z/17/

 「で、彗月はどこまで調べたの?」

 自分の無能さに嘆く彗月を後目に妙にやる気を見せる美鈴は調査の進行具合について投げかける。が、

 「え? いや、これが全然進んでない」

 顔の前で手を振って真顔でそう答えた彗月に美鈴は額を押えて大きく息を吐いた。

 「……ホント、無能ね」
 「……すいません」
 「まぁ〜しょうがないか……。彗月はこっちに来るのは初めてだもんね」

 「ふぅ〜」と、息を吐き。
 「彗月を咎めてもしょうがない」と、美鈴は考えを改めた。

 「……ご理解頂き感謝いたす」
 「あっ。そういえば、今日はいつものヤツは大丈夫なの?」

 突然、思い出したように美鈴が口走ったとある懸念。
 それは彗月の特殊体質についての事だった。
 いつもの彼なら人の多い所では気分が悪くなり、不機嫌になるはず。
 だが、現在の彗月はそんな素振りを見せず、いつも以上に元気なのを美鈴は疑問に感じたのだ。

 「え? ああ、そうなんだよ。今日は何だか清々しい気分なんだ。なんつうか解放されたって言うか、一皮も二皮も剥けたような感じ?」

 ——彗月は知らなかった。

 大勢人が行き交う大通りで吐いてしまった事を。
 それのおかげで現在、調子が良いって言う事も……。

 ——それともう一人、彗月にトドメを刺した事が記憶に無い美鈴……。

 そんな彼らから華麗に記憶を奪った「とあるカマトト少女」の存在は実に大きなもので、そのおかげで全て丸く収まっていた。

 ——主に異物の後処理方面で……。

 「……意味が分からないんだけど、要するにすこぶる元気って事ね」
 「ああ」
 「それは良かったわね」
 「それはそうと美鈴は何でこっちに来たんだ? まさかと思うが……俺の事だけでこんな所まで来たって訳じゃないだろ?」
 「え? うん、それもあるんだけど……。——何だか、こっちに来ないといけないような気がして、さ……」

 自分でも良く分からないと言った風に少し歯切れの悪い返答をする美鈴に何か心当たりがあるのか、そんな返答に彗月は感慨深く頷く。

 「まぁ〜あれだよ。——若気の至りって奴だよ。突然、逃避行したくなる感じ?」
 「……意味が分からないんだけど、つまり——気にするなって事ね」
 「ああ、そういう事。俺が学校サボる事も気にするなって事だ」
 「それは無理」
 「……チッ」
 「今、舌打ちしたでしょ?」
 「……小鳥のさえずり、じゃね?」
 「そういう事にしといてあげるわ……」

 馬鹿な返しに嘆息交じりに答えた美鈴は少し疲労困憊と言った感じにげんなりする。

 「そもそもの疑問なんだけど。どうしてそこまで俺を学校に行かせたがるんだ? もしかして、友達いないの?」

 執拗に学校へ行くように促す美鈴の行動に今更疑問に感じた彗月はそれとなくとは程遠い率直的な質問をぶつけた。
 そんな彗月の投げかけに美鈴はさらに大きな嘆息を吐いた。

 「……その言葉。彗月だけには言われたくなかったわ……」
 「え、違うの? じゃ〜何で?」
 「折角、通ってるのに行かないなんて勿体なくないの?」
 「いや、全然。むしろ……お前の普通科の方が面倒臭そうじゃん。休み以外、毎日行かなきゃならないんだろ?」
 「いや、それが世の常識でしょうに……。まぁ〜魔遣科
まけんか
が特殊だから仕方が無いね」
 「そういう事」

 牧瀬流風、椎葉姉妹や雨宮彗月が学ぶ通称、魔遣科(正式名称、魔法遣使学科=まほうけんしがっか)はほぼ学校に来る事が無い。
 主に一年生の頃に決めた事務所が学校と化し、課せられた依頼のノルマさえクリア出来れば進級出来る。

 ——ただし、二、三年生のみ。

 一年生はさらにレポートの提出が義務付けられている。

 それでも、牧瀬流風と椎葉姉妹は毎日欠かさず学校に通っているのだが、雨宮彗月だけは事務所にあるいつものソファーで惰眠をむさぼる始末……。
 そんなぐうたらな学生生活を送る彗月に懸念を抱いた久遠寺美鈴は健全な学生生活を送らすために日々奮闘しているのだが、彗月には何の意味も成さず、現在に至る。

 それと魔遣科で学ぶ彗月が学校に通わなくても留年しない事は美鈴も重々承知なのだが、いかんせん真面目スキルがそれを邪魔して、普通科のように考えてしまう事しばしば……。

 「それでもさ、学校に行こうよ。お姉ちゃんも毎日居られたらウザいと思うよ」
 「所長にも面と向かって言われ続けてるよ。学校へ行けこの引きこもりが、って……」

 不真面目な久遠寺美玲までもが雨宮彗月に対して口を酸っぱくして言い続けているようだが……。

 ——しかし、本意気で言っているのかは、定かではない。

 「ほら、やっぱりウザがられてるじゃん。でも、お姉ちゃんの事だからどうせ面倒臭い仕事をしている前で気持ち良さそうに眠る彗月の事が憎たらしかったんじゃない?」
 「……流風と同じような事を言うんだな」
 「いや、だって。流風さんと特に妹である私ってお姉ちゃんとの付き合いが長いからさ、だいたいの事は分かっちゃうよ」
 「ふむ、だったら新たな寝床を求め——いえ、何でもありません……」

 悪寒が走るほどの気配を感じてすぐさま訂正した彗月だったが、美鈴の視線とは違う少し妙な気配を感じ取り、さり気なく辺りを見渡した。

 ——しかし、怪しい輩は居らず。

 至って和やかな雰囲気を漂わす、団らん風景が辺りに広がっているだけだった。

 「確かに妙な気配を感じたはずなのだが」と、彗月は怪訝そうな顔を浮かべて、小首を傾げる。

 「……どうか、した?」

 突然、様子がおかしくなった彗月の事を心配してか、不安げな表情を浮かべながら尋ねる美鈴に彗月は周りにさとられないようにとある行動を取った。

 ——それは普通の学生カップルに見えるよう、徐に美鈴との距離を縮めたのだ。

 彗月の唐突な行動に美鈴は少し驚いた表情を見せたが、彼の真剣な顔を見ていると「これはただ事じゃない」と察し。
 とりあえず小さく息を吐いて、平常心に戻した。

 「……気のせいかも知れないが……。——俺たち、誰かに見られているかもしれん」
 「……え?」

 小声で突然、発せられた彗月の言葉に美鈴は状況が飲み込めず。

 ——間の抜けた返事をしてしまった……。


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