ダーク・ファンタジー小説

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魔法遣いのオキテ(ファンタジー)
日時: 2012/07/11 01:22
名前: yuunagi(悠凪) (ID: wfu/8Hcy)
参照: http://ncode.syosetu.com/n2549z/

・あらすじ

王立魔法科学院——通称「アカデミー」には二つの学科コースがあった。一つは「普通学科コース」。もう一つは「魔法遣使学科コース」。普通科を就学している生徒たちの学び舎はアカデミー。だが、魔法遣使学科——魔遣科を就学している生徒たちの学び舎は……え? 個人事務所?!

・当作品は不規則な構成(時系列)となっていますご了承下さい。
(例)夢見る愚者篇=未来(現在) 物憂う少年の贖罪篇=過去 etc.

・なお、当作品は小説家になろうさま、Arcadiaさまの方でも投稿させていただいていますご了承ください。(只今、諸事情により更新停止中。涼しくなった頃に再開予定)

※お気軽にご感想などをよろしくお願いしますm(。-_-。)m

・夢見る愚者篇(全三十話)
初期メンバーである牧瀬流風が三年になり、中途編入した雨宮彗月が二年になって……。そして、ようやく正式にメンバーに加わる新入生——椎葉姉妹が入所してから早数ヶ月経過したある日に起こった事件の内容です。

※なお、不規則な構成(時系列)となっておりますので、もしかすると……描写等で至らない部分があるかも知れません。ご了承ください。

 序 章 〜夢見る愚者 前 篇〜 其の一 >>01
 序 章 〜夢見る愚者 前 篇〜 其の二 >>02
 第一章 〜夢見る愚者と軟派男〜 其の一 >>05
 第一章 〜夢見る愚者と軟派男〜 其の二 >>08 >>09
 第一章 〜夢見る愚者と軟派男〜 其の三 >>10 >>11
 第一章 〜夢見る愚者と軟派男〜 其の四 >>12
 第一章 〜夢見る愚者と軟派男〜 其の五 >>13 >>14
 独 白 〜牧瀬流風 十八時十三分〜 >>15
 第二章 〜夢見る愚者とくりそつ姉妹〜 其の一 >>16 >>17
 第二章 〜夢見る愚者とくりそつ姉妹〜 其の二 >>18 >>19
 第二章 〜夢見る愚者とくりそつ姉妹〜 其の三 >>22 >>23
 第二章 〜夢見る愚者とくりそつ姉妹〜 其の四 >>24 >>25
 第二章 〜夢見る愚者とくりそつ姉妹〜 其の五 >>26
 第二章 〜夢見る愚者とくりそつ姉妹〜 其の六 >>27 >>28 >>29
 独 白 〜椎葉鳴 十三時十九分〜 其の一 >>30
 独 白 〜椎葉鳴 十四時十九分〜 其の二 >>31
 第三章 〜夢見る愚者とおしどり夫婦〜 其の一 >>32 >>33
 第三章 〜夢見る愚者とおしどり夫婦〜 其の二 >>34 >>35
 第三章 〜夢見る愚者とおしどり夫婦〜 其の三 >>36
 第三章 〜夢見る愚者とおしどり夫婦〜 其の四 >>37
 第三章 〜夢見る愚者とおしどり夫婦〜 其の五 >>38 >>39
 第三章 〜夢見る愚者とおしどり夫婦〜 其の六 >>40 >>41
 第三章 〜夢見る愚者とおしどり夫婦〜 其の七 >>42 >>43
 独 白 〜雨宮彗月 八時一分〜 其の一 >>44
 独 白 〜久遠寺美鈴 十三時十一分〜 其の二 >>45
 終 章 〜夢見る愚者 後 篇〜 其の一 >>46
 終 章 〜夢見る愚者 後 篇〜 其の二 >>47
 終 章 〜夢見る愚者 後 篇〜 其の三 >>48 >>49
 終 章 〜夢見る愚者 後 篇〜 其の四 >>50
 補 遺 〜久遠寺美玲 十三時十一分〜 >>51

・夢見る愚者篇〜After Story〜(全四話)
本篇〜夢見る愚者〜の後日譚です。

 幕 間 〜牧瀬流風 十八時十三分〜 其の一 >>52
 幕 間 〜椎葉鳴 十三時十九分〜 其の二 >>53

・物憂う少年の贖罪篇
アカデミー入学時代。初々しい頃の魔遣科一年、牧瀬流風の物語です。

(1)第二章 〜夢見る愚者とくりそつ姉妹〜 其の四 ( No.24 )
日時: 2012/06/18 22:43
名前: yuunagi(悠凪) (ID: wfu/8Hcy)
参照: http://ncode.syosetu.com/n2549z/12/

 規制線が張られ、一般人が立ち入らないようにしている一画には場違いな大きな氷樹がツイストしながら地面から生えていた。
 氷樹は少し溶けかかっており、水滴が氷の枝から滴り落ちている。
 その滴り落ちる水滴が太陽の光にさらされ、反射して辺りを幻想的な雰囲気を漂わせていた。

 「——でっけえ〜氷の木だな〜」
 「——うん。それに何だかこの辺り一帯だけ少し肌寒いような気がする」

 椎葉姉妹は彗月と美鈴と別れてから止む無く中断していた調査を再開していた。
 そして、現在——昨夜起こった変死事件の三日前に起こったとある変死事件現場に赴く二人は、未だに溶けずに残っている氷樹を眺めていた。

 昨夜、起こった電波塔付近の事件現場から西の方角に四、五キロ離れた閑静な住宅街にある公園のど真ん中に突然、生えたこの氷樹……。
 通称「アイスツリー事件」と、名付けられたこの事件の目撃者は居らず、人通りが少ない夜中に生えたとされている。

 ただ「氷樹が生えた」って言う事だけなら、珍しいモノを見たさに野次馬たちが溢れ返り盛り上がりを見せている所ではあるが、先ほどの事件現場と違い。椎葉姉妹以外誰もいなかった。
 「熱しやすく冷めやすい」と言うのか。昨夜、起こった事件現場と違い。中心街から離れているせいなのか人っ子一人いない。
 その寂れた公園内で二人は何か手掛かりがないか調査を開始する。

 この事件で犠牲になった人数は三名。

 昨夜、起こった事件と同じく。焼け焦げたように皮膚が剥がれ落ちて血肉が丸見え、人体模型のような状態で、氷樹の枝に突き刺さった形で発見された。
 「上空から氷樹の枝に向かって遺体が落下してきたのか」それとも「元々遺体の状態で氷樹が生えた際に枝に突き刺さり、発見された形になったのか」あるいは「そもそも生きていた状態で氷樹の枝に突き刺さり、後に身体が発火したのか」などと、様々な見解がされているこの「アイスツリー事件」は未だに進展の気配がなかった。

 ——ただ、分かった事があるとすれば、三名の遺体がそれぞれ二十代前半の男女だと言う事のみ……。

 椎葉姉妹は一通り周辺を見回った後に、背負っている鞄から冊子を取り出し。
 それを見ながら現場検証をする事にした。

 「——えっと、この事件の遺体も昨日起こった事件の遺体と同じく夢想薬の副作用による焼死でいいんだよな?」
 「本当の死因が焼死かどうかは定かじゃないけど……。うん、直接的に命の危機にさらしたのは夢想薬の副作用でいいんじゃないかな」

 まず、死因を確認し合うように述べてから冊子に情報を書き込む二人。
 これは彼女らが通う学院の教育の一環で、久遠寺美鈴が学ぶ「普通科」と違い、ほぼ学校に通う事が無い。
 各々が憧れる先輩方が所属する事務所で「見習い」として入所し、そこで実地訓練と称して働く事が義務付けられている。
 その一環としてレポートにまとめて後で学院に提出しなければならない。

 少々面倒臭い作業ではあるが、これが単位になる。
 もし、怠ってしまうと留年してしまう恐れがあるために、二人は忘れずにしっかりと書き留める。
 その事は美鈴も重々承知の上だが「やはり年頃の少女に危険な事をさせたくない」と思っている。

 「ふむ。しかし、こう間近で見るとこの木ってさぁ〜なんつうか不気味だよな」

 氷樹を眺めながら唐突にそんな事を呟いた椎葉妹に椎葉姉は首を傾げる。

 「そう、ですか?」
 「だってよぉ〜。こっちって確か……そろそろ夏季に入るはずだぜ? それなのに三日も経って。やっとこさ、水滴が垂れる程度って……不気味じゃね?」

 徐々にではあるが夏季に向けて気温が上昇し。
 氷樹の周りに木々はあるにはあるが、太陽の光を遮るほどの大木はなく。直射日光を浴びているはずの氷樹は少し溶けかかっている程度であまり変化が見られない。
 その姿に椎葉妹は少し疑念を抱いていた。

 「まぁ〜普通の感覚なら氷の木が生えてきた時点で不気味なんだろうけど……」
 「そう言われたらそうかも知れないけどさ……」
 「それだけ、魔法遣いとして覚醒した人の魔力が強かっただけだと思うよ」

 椎葉妹と違い、冷静に分析して丁寧に返す椎葉姉には少し気掛かりな事があった。
 そんな中、椎葉妹は眉間にしわを寄せて唸りながら、

 「綺麗な形で持って精々——二日弱ぐらい、か?」

 と、唐突に呟く。

 「ん〜〜それは並の能力を持った人じゃない? 素質がない人が頑張っても精々一日持つかどうか辺りだと思う。造形魔法って結構難しいから」

 椎葉妹の呟きに思わず反応して椎葉姉は丁寧に返したが、まさにその事について少し引っ掛かっていた所だった。
 一見シンプルそうに見える氷樹ではあるが、いくら強力な魔力を夢想薬のおかげで目覚めたとしても、その人物に素質がないと。ツイストまで加えた複雑な構造をした氷樹なんて造り出す事など出来やしなかった。出来て精々そこらに生えている小さな木程度。

 しかし、目の前にはそれをやってのけた証拠が残っている。
 それは認めざる事実だが、椎葉姉は納得が出来ずに眉間にしわを寄せて思案顔になる。

 「そうか……。でもよ、遺体は三人なんだろ? 三人とも同じ系統の力に目覚めたとして考えてもダメか?」

 「魔法」と、呼ばれるモノには様々な系統が存在していた。
 ——例えば、牧瀬流風の魔法属性は「風」で、得意分野は何の変化も加えずそのまま振るうだけのスタンダードな「放出魔法」と、風弾のようなモノを創り出す「造形魔法」の二つである。

 「……複合魔法って事?」
 「ああ、そういう感じのヤツ。確か……この前、授業でやったよな?」
 「誰も成功してなかったけどね……。でも、その考え方は斬新かも」

 思わぬ助言で少し光が見え、椎葉姉が考えを巡らせるきっかけとなった「複合魔法」とは二人以上の術者が居て、なおかつ息の合う者同士で無くては発動する事が出来ない代物。
 万が一、出来たとしても扱いが難しく使い勝手が悪い。
 しかし、上手く発動出来れば強大な力を生む術式なのだが……。
 それは考えれば考えるほど見えていた光を遠退かせる一方だった。

 「……この案は無理かも」
 「え? どうしてだ?」
 「いや、だって……素人当然の人たちが夢想薬を飲んだ事によって魔法遣いに覚醒したとしても、何の知識もないのにそんな難解なこと出来るわけ——あっ! そうか、そういう考え方も出来ますね……」

 発言中に何か過ったのか。椎葉姉は自己完結し、それに一人で頷き納得して。
 悩み事が解決されてすっきりしたのか、清々しい表情を浮かべた。
 そんな姉の一人芝居に一人理解出来ずに首を傾げてきょとんする椎葉妹は自分にも分かるように簡潔丁寧に説明するように求めた。

 「——全て、偶然が重なった産物によるものだったとしたら?」

 妹の要求に椎葉姉は諭すように含みを持たせた言葉で投げかける。

 「偶然? ——って、三人ともが同系統の力に目覚めた事?」
 「うん、それも含めて。覚醒したこの三人は当然の事ながら何の素養もない素人……。けれど、それが功を奏したのか。覚醒した三人はこの時、有頂天になっていたと思うの。それが引き金となって……」
 「ああ、そういう事か。何かの見よう見まねで偶然的に出来上がったって事か……」

 椎葉姉の説明でようやく理解出来た椎葉妹は「ポン」と手を打ってそう呟き。
 それに椎葉姉は静かに頷く。

 「……そう。だけど、所詮素人。見よう見まねでしたものの、力を制御する事は出来ずに暴走して……。こんな結果になったんじゃないかな」

 と、椎葉姉妹はこの「アイスツリー事件」をそう解釈して学院に提出しなければならない報告書に経緯を書き綴った。

 「ふむ……しかし、調査をするまでは全く信じてなかったが——夢想薬を過剰に摂取すると、本当に魔法遣いになれるんだな……」
 「そう、みたいだね。——一時的とは言え、ね」
 「さてと、ここの調査はこんなもんか?」
 「そうですね。そろそろ次の現場に行きましょう」

 そう会話を交わしてから二人は続いての変死事件が起こった場所へ移動した……。

(2)第二章 〜夢見る愚者とくりそつ姉妹〜 其の四 ( No.25 )
日時: 2012/06/18 22:45
名前: yuunagi(悠凪) (ID: wfu/8Hcy)
参照: http://ncode.syosetu.com/n2549z/12/

 ——アイスツリー事件が起こった現場の反対側。
 電波塔から南東方向に位置する。とある小学校の校庭で起こった変死事件。

 通称「トールハンマー事件」と呼ばれるこの事件は雲一つない天候の中、突如として発生した雷によって周辺地域が一時停電となり。
 その雷が発生したと思われる小学校の校庭に直視するには眩し過ぎるほどの光を纏った人影らしきモノが目撃されていた。

 しかし、その人影は謎の発光が消え去ると共に倒れ伏せ、今までの事件同様の損傷状態で遺体となって発見された。
 ちなみに遺体はこの小学校に通う高学年とされている。

 「しっかし、隕石でも落ちてきたような有様だよな〜」
 「そうだね」

 校庭に出来上がった大小さまざまの陥没を見つめながらそうぼやいた椎葉姉妹の二人は無許可で小学校に侵入していた。
 この校庭に出来た陥没は、雷の発生と同時に出来上がったものらしく。
 雷が地面に槌を打つような様から「トールハンマー事件」と名付けられた。

 「ここの事件の死因も夢想薬の副作用でOKか」

 ここでも先ほどのように二人は冊子を取り出して現場検証を開始。
 冊子に要点を書き綴っていく。

 「うん。それにしても、雷使いとして覚醒した訳ですか……。女性の敵ですね」
 「急にどうしたんだ?」

 突然、おかしな事を口走った椎葉姉に首を傾げながら椎葉妹が疑問を投げかける。

 「ほら、髪の毛がボサボサになるよ」
 「別にアタシは気にしないけどなぁ〜」
 「それがダメなんだよ。ナルちゃんは……」

 「はぁ〜」と、小馬鹿にしたように嘆息して妹の返答を全否定した。

 「ええ〜。でもよ〜面倒臭いじゃん」
 「面倒臭くてもやらないといけないの。——だから、彗月ちゃんに「付いてる方」やら美玲ちゃんに「イケメン」なんて呼ばれるんだよ」

 椎葉姉のこの発言が、少し気に障ったのか椎葉妹は「むすっ」と口を尖らす。
 男勝りな椎葉妹はその立ち振る舞いから「本当に付いてんじゃね?」と、雨宮彗月に勘ぐられてそう呼ばれるようになり。
 久遠寺美玲の「イケメン発言」は椎葉妹がよく同性から告白される事から、そう呼ばれるようになった。

 「——それを言うなら姉貴だって、彗月に「付いてない方」やら所長さんに「カマトト」なんて呼ばれてるじゃんか」

 この発言に椎葉姉は椎葉妹同様に「むすっ」と口を尖らす。
 椎葉妹と違いしっかりと少女らしく振る舞っている椎葉姉だが、その立ち振る舞いを怪しむ久遠寺美玲に「猫被り」と揶揄されて「カマトト」と呼ばれるように。
 雨宮彗月の「付いてない方発言」は椎葉妹と見比べた結果、そう呼ばれるようになった。

 『むむむ……』

 ひょんな事から話がこじれて少し口論となってしまった椎葉姉妹はお互いに譲らず睨み合いながら、しばしの小康状態に入った。
 すると、馬鹿らしくなったのか椎葉妹が息を吐いて、

 「……もう、よそうぜ」

 と、頭を掻きながら口ずさむ。
 妹の終戦宣言に椎葉姉も少し恥ずかしそうに頭を掻いて、息を吐く。

 「……そう、だね。うん、人それぞれ個性ってあるもんね」

 「お互いの個性を尊重し合おう」と、言う事で終戦締結を結んで調査を再開した二人は冊子に「雷使いは女(女性)の敵。けれど、個性は大切にしよう。——ただし、雨宮先輩は論外」と訳の分からない事を記入して、この件のまとめを終わらした。

 「さてと」と、椎葉姉妹は口ずさんで。次の事件現場に移動しようと、冊子とともにたまたま持ち歩いていた衛星都市の地図を徐に眺めていると、椎葉姉がある事に気付く。

 「ねぇ〜ナルちゃん。次って、確か……オフィス街にあるビジネスホテルだったよね?」

 この投げかけに椎葉妹は冊子を捲りながら次の事件現場を確認してから静かに頷く。
 その反応に椎葉姉も静かに頷いて、

 「じゃ〜、その次は——」
 「歓楽街近くにある、マンションだな。……それがどうしたってんだ?」

 と、間髪容れずに続いての事件現場の場所も答えた椎葉妹は「なぜ、そのような事を今頃になって確認しだしたのか」気になり逆に質問する。

 「ほら、見てよ。最初に起こった事件現場のマンションから昨日、起こった事件現場の電波塔までを線で結ぶと——」

 地図を広げながらそう話した椎葉姉はその地図に油性ペンで第一事件現場から順番に線を引いていき。それを椎葉妹に見せた。

 「昨日起こった事件現場が最終地点であるかのように電波塔を中心に渦巻き状になってない?」
 「確かに……そう見えなくはないが、無理やりすぎないか?」

 椎葉妹の言う通り、地図に記入された線は何の統一性もなく。
 歪ながらも目を凝らしてみればそう見えなくもない構図が出来上がっていた。

 「無理やりすぎるかも知れないけど……私は、昨日起こった事件で最後だと思う」
 「何で、そう言い切れるんだ?」
 「この妙な間隔が気にならない? 最近の事件になるほど間隔が短くなってる。——まるで、時間を掛けて実験をしていたかのような……」

 椎葉妹の問いにそう答えた椎葉姉は事件発生の妙な間隔を指摘する。
 一番初めに起こった事件から続いての事件が起こるまで約三週間あまり掛っており。
 続いての「トールハンマー事件」はその二週間後。
 その次の「アイスツリー事件」は一週間後。
 そして、昨夜起こった事件は三日後と徐々にではあるが間隔が短くなってきていた。

 「ふむ、つまりこの連続変死事件はただの実験で目的は別にあると?」
 「たぶんね」

 今回の仕事は「ただの噂の究明」とばかり踏んでいただけに少々やっかいな事になって来た事に二人は嘆く事無く。
 むしろ「こういう展開を待ってました」と言わんばかりに表情が緩み始めた。

 すると、唐突に二人はアイコンタクトを交わし。
 身体を慣らすように入念にストレッチを始め……。
 身体が解れたのか、ストレッチをやめて何事もなかったように椎葉妹がまず口を開いた。

 「——何だが、ややこしい事になって来たなぁ〜。美鈴さんがいなくて良かったよ」
 「いや、美鈴ちゃんは彗月ちゃんと一緒にいるから少なからず……この現状を知っちゃうんじゃないかな?」
 「……げっ。じゃ〜知られない事を祈るばかりだな……」
 「そうだね。美鈴ちゃんは心配性だからね……」
 「心配させないためにも——無傷で帰らないと、な……」
 「……だね」

 そう会話を交わした後に二人は一斉に後ろを振り返る。

 ——と、そこには小学校の敷地内には不釣り合いな格好をした人物たちがいた……。

第二章 〜夢見る愚者とくりそつ姉妹〜 其の五 ( No.26 )
日時: 2012/06/19 21:21
名前: yuunagi(悠凪) (ID: wfu/8Hcy)
参照: http://ncode.syosetu.com/n2549z/13/

 彼女らの前に現れた黒装束の四人は椎葉姉妹が振り返るや否や「クスクス」と小馬鹿にしたような笑みを浮かべた。
 それに応戦するかのように椎葉姉妹は「ジロリ」と睨みを利かせて相手を威嚇する。

 「……アンタたち何者?」
 「ここの教職員——って訳でもなさそうですよね」

 椎葉姉妹の問いかけに黒装束姿の四人は何も答えず、さらに笑いに熱が帯びた。
 それに少し頭に来た椎葉妹は握り拳を作り、相手に詰め寄ろうと足を踏み出した所で。
 椎葉姉に肩を「ポン」と叩かれて、制止させられる。

 「私たちを怒らそうとしても無駄ですよ」
 「怒らせる? 違うね。楽な仕事になりそうで退屈しのぎでお顔の体操だよ。——ほら、ニコ〜って」

 と、少し甲高い声でこの集団を束ねるリーダー格らしき人物が椎葉姉妹を小馬鹿にするような素振りでそう話す。
 そして、また「クスクス」と小馬鹿にしたような笑い声を上げて、椎葉姉妹の二人を挑発し始める。

 温厚な椎葉姉もさすがに頭に来たのか「ムスっ」と怒りを露わにした。
 けれど、椎葉妹のように冷静さを欠く事無く、表情に出しただけで実際の心境は至って穏やかなものだった。

 「これは自分たちを陥れるための罠なのか」それとも「自分たちの形を見て油断しているのか」などと考えを巡らせていると。椎葉妹がアイコンタクトを送っている事に気付いた椎葉姉はそれを読み取る。

 【コイツら、シメていい?】

 と、言う物騒な合図に首を横に振って、

 【もう少し我慢して】

 と、アイコンタクトを送り返した。
 その椎葉姉妹の動作に、黒装束の服装からでも分かる肥満体形の人物が怪しく思ったのかリーダー格の人物に告げ口をし始めた。

 それを見て椎葉妹は「ククク」と笑い。
 椎葉姉も声を殺しながらも口元を隠して笑みを浮かべている。

 「——ナルちゃん、失礼だよ」

 そう言いながらも彼女の表情は緩み切っていた。

 「いや、だってよ。あのデブの行動を見てたら、小物臭がプンプンと臭うもんよ〜」
 「それ思っても言っちゃダメだよ。あのおブタさんが怒ってはちきれんばかりにピチピチの装束を弾け飛ばしちゃうよ」
 「フードの部分残してか?」
 「うん、フードの部分を残して……」

 『あはは!』

 さっきのお返しとばかりに肥満体形の人物を集中砲火し。
 椎葉姉妹は腹を抱えて涙目になりながら大笑いした。
 そんな彼女らに対して、今度は罵倒された肥満体形の人物が拳を握りしめて相手に詰め寄ろうと足を踏み出した所で、リーダー格の人物に制止させられる。

 「——で、さっきのサインは僕たちを馬鹿にするための確認だったのかな?」
 「あ〜違う、違う……。アンタたちをボコっていいかの確認だよ。それとさっきのは、たまたま目に付いたから、からかってやろうとアドリブ利かせただけだ」

 リーダー格の人物の言葉を否定するものの。
 先ほどの事を思い出したのか、椎葉妹はまた笑い始めた。

 「まぁ〜それはさておき……。お嬢ちゃんたちは椎葉鳴、なる姉妹だね?」
 『……違うって、言ったら?』
 「違う事はないんだよねぇ〜。——ほら、ここ。綺麗に写ったお嬢ちゃんたちの写真が見えないかな〜」

 二枚の写真を「ひらひら」とまるで動物を餌で釣るような動作で見せびらかす。
 その写真を見て椎葉姉妹の二人は驚いてしまう。
 自分たちが写った至って普通の写真なのだが……。二人は写し出されていた自分たちの姿を見て驚いた訳ではなく、自分たちの後ろに写っていたモノに対して驚いてしまったのだ。
 椎葉姉妹の反応に黒装束の四人はまた「クスクス」と小馬鹿にしたように笑い始める。

 「さ〜て、ここで問題です。この写真はどうやって手に入れたでしょう? 一、ネットオークション。二、盗撮。三——えっと、その他でいいか……。さて、どれかな?」

 二人を挑発するかのように唐突に指折り数えながらリーダー格の人物がクイズ形式の質問を投げかけた。
 そんな馬鹿げた問いかけに椎葉妹は胸糞悪そうに「チッ」と舌打ちをする。

 「……ふざけないでください。さすがの私もそろそろ怒りますよ」

 少し声のトーンを落として威嚇するように鋭い目つきで相手を睨みつける椎葉姉だが、それでも彼女の沸点には程遠かった。
 そんな事よりも写真の入手方法が気になってしょうがなかった。

 ——どこで手に入れた?

 ——いや、むしろどうやって撮影した?

 「そんな顔しない、しない。折角のかわいい顔が台無しなっちゃうよ」

 真剣に悩む椎葉姉に対して、おちゃらけた態度で先方は茶化してくる。
 「誰がそんな顔にさせたと思ってる」と、心の中で突っ込みつつも悩みの種は解けず仕舞い。

 「そうそう、お嬢ちゃんたちって……。——この世界の人間じゃないんでしょ?」

 ワザとらしく何かを思い出したかのよう「ポン」と手を打って、唐突にそんな言葉を投げかける。
 それに対して椎葉姉妹の二人はバツが悪そうに表情を曇らせた。

 そして、その言葉をきっかけに椎葉姉の悩みは解決する。

 それは認めたくなかったが「この集団は少なくとも自分たちの知らなくてもいい、情報まで掴んでいる」と踏んだのだ。
 その証拠に先ほど見せられた写真には自分たちが通う学院の校門が写し出されていた。

 ——そんな事、決してあり得る筈がない事だった。

 ——椎葉姉妹が通う学院はこの世界ではなく、違う世界にあるのだから……。

 「……だとしたら?」

 威圧するように睨みを利かせて椎葉妹が口走る。

 「怖いなぁ〜。言っとくけど、こう見えて博愛主義者なんでね。異世界の人間だろうと忌み嫌うなんて愚かな事はしないよ」

 手振りを使って小芝居のような動作でそう訴えかけるが、そんな事は椎葉姉妹にとってはどうでもいい事だった。
 「自分たちの情報を掴んでいるのだから、少なくともこの集団の目的は自分たちなのだろう」と思い至ったが、自分たちが狙われる理由が思いつかなかった。

 「——そう、愚かな事はしない。ただ、僕らの大司教さまの計画を邪魔されないように時間潰しに付き合ってもらうのみ」
 「へぇ〜その大司教って奴がアンタたちの親玉か?」
 「親玉って言うより悪玉だね。それと、教えてくれないと思いますが……一応聞いておきます。——貴方たちの計画って何でしょうか?」
 「ほら、それはさ——流れ的にも言わなくても分かるでしょ?」
 「……力づくって事か?」
 「全く……か弱い少女に無茶な事を要求しますね。——ナルちゃん」

 椎葉姉の言葉をきっかけに椎葉妹は「待ってました」と言わんばかりに黒装束の集団に向かって勢いよく走り出した……。

(1)第二章 〜夢見る愚者とくりそつ姉妹〜 其の六 ( No.27 )
日時: 2012/06/20 19:46
名前: yuunagi(悠凪) (ID: wfu/8Hcy)
参照: http://ncode.syosetu.com/n2549z/14/

 その行動に黒装束の四人は臨戦態勢に入る。
 それを見て椎葉妹は「ニヤリ」と口元を緩めて、勢いが乗ったスピードのまま地面を強く蹴って宙を舞う。
 その流れのまま飛び蹴りの態勢を作ると、

 「ナ〜〜ル〜〜キ〜ック!」

 と、叫びながら先ほど小馬鹿にした肥満体形の人物に向かって飛び掛かった。
 椎葉妹が突き出す右足が肥満体形の人物のちょうど首元にえぐり込むように入り、その勢いのまま肥満体形の人物は後頭部から地面に叩きつけられる。

 そして、未だに勢いが衰える事無く引きずられるような形で地面をえぐり。
 砂塵を巻き上げながら椎葉妹の「スケートボード」と化した肥満体形の人物は、彼女の勢いがなくなるまで、その状態が続いた。

 「……やべ。勢いのあまり、殺ってしまったか?」

 ようやく止まった「スケートボード」もとい肥満体形の人物の上でそう呟く。
 肥満体形の人物の衣服は擦れてボロ雑巾のようになり。
 肌が露出した部分は椎葉妹の飛び蹴りの勢いを物語っているかのように皮膚が無残にもえぐられ、血みどろになっていた。

 「ナルちゃん、ちょいやりすぎ。——それと技名を叫ばないで。……恥ずかしいから」

 こういう事態には慣れているのか、淡々と妹に苦言を呈した椎葉姉は残りのメンバーに「まだ、やりますか?」と、鋭い目つきの視線だけで投げかける。
 それを正確に読み取れたのか、黒装束の三人は少したじろいで見せたが。
 何を思ってか唐突に身体を震わせ。そして、大声で笑い始めた。

 「仲間が倒されているこの状況下で、どうして笑う事が出来るのだろうか」と椎葉姉妹は少し顔を引きずりながら相手の出方を窺う。と、

 「——そろそろ、演技はやめたらどうだ?」

 突然、リーダー格の人物が独り言のように呟いた。
 その言葉と呼応するように椎葉妹に倒されたはずの肥満体形の人物の身体が「ピクッ」と動く。
 違和感を察知して、すぐさま椎葉妹は肥満体形の人物のから離れて距離を取ると。
 血みどろになったボロボロの身体を揺らしながら肥満体形の人物が徐に立ち上がった。
 そして、何事もなかったように骨を「パキポキ」と、鳴らしながら。凝りを取るように首を回した。

 「ホント、魔法の薬は凄いなぁ〜」

 と、肥満体形の人物の無事な姿を見て、リーダー格の人物が呟いた。
 その言葉を聞き逃さなかった椎葉姉は「魔法の薬」とは何かを期待薄で尋ねる。

 「……魔法の薬って、何ですか?」
 「ほら、言わずとも分かるでしょ?」
 「……夢想薬、ですか?」
 「まぁ〜それも正解なんだけど……それとプラス。最近、この街で主流の飛べる魔法の薬……ルクエラってご存知? それで僕チンたちはパワーアップって訳。自前に飲んでいて助かった〜」

 軽快な口調で語ったリーダー格の言葉に椎葉姉は「なるほど」と、納得したのか静かに頷いた。
 椎葉姉は「ルクエラ」と呼ばれる薬が恐らく人間の痛覚を麻痺させているんだと考えた。
 それは椎葉妹にズタボロにされ、血みどろながらも平然と立ち上がったあの肥満体形の人物が目の前にいる事が何よりも証拠である。

 「——さてと、そろそろ本気で行かせてもらおうかな」

 徐にそう口走ってから黒装束の集団は懐から液体の入ったガラス瓶を取り出した。

 「えっと……神よ。我らに力を!」

 そんな言葉を唱えてから念じるように自らの手首を刃物で切り付けて、液体が入ったガラス瓶に己の血液を垂れ流し。
 そして、その液体を一気に飲み干す。
 と、黒装束の集団は一斉に苦しそうに首を掻きむしるような動作を取り始めた。

 ——泡を吹き。

 ——瞳孔が開き。

 ——焦点が合わないほどに眼球が揺れ動く。

 何かを掴み取ろうと天に腕を伸ばし。空を握りしめた黒装束の集団の口元は自ずと歪み。
 不敵な笑みを浮かべながら椎葉姉妹を見据えた。
 彼らから嫌な気配を感じ取った椎葉姉はすぐさま椎葉妹に「こちらへ戻ってくるよう」に小さく手招きで合図を送る。
 合図を読み取った椎葉妹は急いで姉がいる場所まで駆け足で戻ろうと試みたが。

 ——肥満体形の人物ともう一人。

 中肉中背の人物に行く手を阻まれ。
 椎葉姉も同様にリーダー格の人物ともう一人いた長身の人物に囲まれた。

 「やべ……ちょい、ピンチか?」

 嘆くようにそうぼやいた椎葉妹は先方の出方を覗うように少し身構える。
 彼女の行く手を阻む二人は椎葉妹を指さして、それを下から上へと勢いよく突き上げた。
 すると、地面から鋭利に尖った氷柱が椎葉妹の目の前に突き上がった。

 それを目にして驚く椎葉妹を余所に、二人は外した事に「チッ」と舌を鳴らし。
 再び、椎葉妹を指さして今度は左に払った。
 その動作に我に返った椎葉妹は咄嗟に身体を後方に反らして「ブリッジ」の態勢を取る。
 と、同時に青白く輝く五芒星の陣と共に左方から氷柱が突き出し、腹部をかすめる程度で難を逃れた。

 ——もし、上体を反らしていなければ腹部をかすめる程度で済まされなかった。
 氷柱が出現した角度を見ると、椎葉妹の上体を目掛けて飛び出ていたからだ。

 すぐさま、態勢を整えた椎葉妹ではあるが、そこを目掛け。彼らは容赦なく指を上下左右に振って氷柱を続けざまに出現させる。
 が、それを椎葉妹は難なくバックステップ、時にはバク転、バク宙と軽快な動きで全てをかわし続け。
 「ある程度の距離を保てた」と、判断してブレーキを掛けるように地面に右手を着き。
 最終的に前屈みになるような形で二人と距離を置く事に成功。

(2)第二章 〜夢見る愚者とくりそつ姉妹〜 其の六 ( No.28 )
日時: 2012/06/20 19:49
名前: yuunagi(悠凪) (ID: wfu/8Hcy)
参照: http://ncode.syosetu.com/n2549z/14/

 ——椎葉妹と相対している二人の後方。

 そこにはリーダー格と長身の二人に囲まれた椎葉姉の姿があり。
 彼女たちの一戦を目の当たりにして、驚いた表情を浮かべていた。

 「……先ほど、貴方たちが飲んだ物のは夢想薬です、か」
 「へぇ〜。アレを見てもう分かっちゃったの? お嬢ちゃんの勘は鋭いね」
 「……からかわないでください」
 「褒めただけなんだけどな……。——まぁ〜いいか。あっちのお嬢ちゃんみたいに機敏な動きをして避けないでね」

 そう軽口を叩いてから二人は互いの片手を合わせて念じ始めた。
 合わせた手を引き離すように間から白い冷気が漏れ出し。
 何かモノが徐々にではあったが成形し始める。
 それを引き抜くように二人して空いた腕をそこに突っ込む。

 【ジュ〜】

 と、音を立てながら勢いよく吹き出る白い冷気と共に、二人は突っ込んだ腕をゆっくりと引っ張り出した。
 すると、二人の腕が見事に凍りついている。
 が、リーダー格の人物の左腕には氷の刃。
 長身の人物の右腕には氷の槍。
 と、それぞれの腕に絡みつくように、二人の腕がそのまま武器と化していた。
 その氷の武器と化した腕を見て椎葉姉は驚く事無く、冷静に分析し始める。

 ——これは造形魔法?

 ——それとも装着魔法?

 と、考えを巡らせている間に、氷の槍と化した右腕を長身の人物がパンチを繰り出すかのような動作で椎葉姉の顔に向けて突き出し。
 それをすんでの所で椎葉妹は「ひょいっ」と首を傾けて避けた。

 「……年頃の少女の顔を目掛けて攻撃をするなんて……。——貴方、最低ですね」

 攻撃を繰り出してきた人物を吐き捨てるように冷たい眼光で睨み、牽制し。
 バックステップで少し距離を置いて椎葉姉は態勢を整える。
 そこにすかさず左腕を氷の刃と化したリーダー格の人物がその腕を水平に振って所謂「払い切り」を試みたが、椎葉姉はその行動を読んでいた。

 彼女はその場でジャンプをして、払い切りを避け。その流れのまま、無防備となったリーダー格の人物の顔を足場代わりに強く蹴り出し、後ろに弧を描くように宙を舞った。
 そして、見事に着地してから二人との距離を広げる事に成功。

 「全く……寄ってたかって、か弱い少女に物騒なモノを振りかざして……」

 嘆くようにぼやく椎葉姉は妹の事が気になり、

 「ナルちゃ〜ん! 大丈夫〜?」

 と、普段声を張る事がないため、少し裏返った声で妹の安否を確認する。
 が、言うまでも無く。椎葉姉の顔は恥ずかしそうに赤面していた。

 「おう! こっちは無事だ!」

 肥満体形と中肉中背の二人が繰り出す氷柱攻撃を軽快にかわしながら大声で返答する椎葉妹は先ほど一旦距離を置いたものの。
 「防戦一方は性に合わない」と彼らの攻撃をかわしつつ距離を詰め。
 二、三発パンチや蹴りを急所に繰り出して反撃を試みたが「ルクエラ」の効力によって痛覚が麻痺している先方にあまり効果が見られなかった。

 そこで仕方なく椎葉妹は防御に徹しているが、そろそろ我慢の限界に達しようとしていた……。

 「——なぁ〜姉貴! そろそろ反撃したいんだけど、合流出来ないの!?」

 波状攻撃をかわしながら椎葉姉に大声で「反撃をしたい」と訴えかけるが、その椎葉姉もリーダー格と長身の二人が繰り出す波状攻撃を危なげなくかわし続けていた。
 だが、椎葉妹と違って椎葉姉は体育会系の人間ではないため。徐々にではあったが、息が上がって来ていた。

 「……はぁ〜。うん……そう、だね。私の体力が持たなそうから早いとこ反撃しないと、ね……」

 少し息を切らしながらも懸命に攻撃をかわして返答をする椎葉姉の状態に懸念を抱き始めた椎葉妹は「隙を見てこちらから出向けばいいか」と考えた。
 そこで椎葉妹は「自分で隙を作ろう」と攻撃を避けるため、後退していた足を止めて。
 突然、地面に両手と膝を着いて「クラウチングスタート」の構えを取った。

 「——位置に着いて。よ〜い……スタート!」

 自らの口でスタートの合図を取って、相対している二人に向かって走り出した。
 風を切るように徐々にスピードを上げながら、先方から繰り出される攻撃を容易くかわしつつ、距離を一気に詰める。

 そして、地面を強く蹴って大きな跳躍を見せた。

 「——秘技、椎葉流目眩ましの術!」

 空中から、彼らの顔を目掛けて砂を投げかけ。
 それをダイレクトで目にかかった二人は反射的に目を瞑る。
 いくら「ルクエラ」で痛覚が麻痺しているとは言え「目を狙えば、誰だって反射的に目を瞑るだろう」と考えた椎葉妹。

 ——それともう一つ。

 わざわざクラウチングスタートをしたのは、目眩ましを行うための道具——この校庭に山ほどある砂を掴み取るためのものであった。

 目を瞑って怯んでいる二人の顔を足場に強く蹴り出して、椎葉妹はさらに天高く舞い上がる。
 捻りを加えながら回転して椎葉姉がいる方向へと、空中で強引にも方向転換をする。
 そして、地面に、

 【ドシン!】

 と、両足で着地をしてから、そのまま何事もなかったように再び走り出した。

 「姉貴〜! 手! 手袋を早く付けろ〜!」

 大声で叫んで、椎葉姉に手袋を付けるように催促する。
 その声に椎葉姉は息を切らしながらも懸命に相対している二人の攻撃をかわしつつ、スカートのポケットから金色の五芒星の刺繍が入った黒い手套を取り出して、それを左手にはめる。と、

 「サラ!」
 「……サラちゃん!」

 突然、二人が叫んだ声に応えるかのように。
 彼女らの背後に白いローブを身に纏い、紅いルビー色の綺麗な瞳が特徴的な赤髪の幼女が突然、姿を現した。

 その幼女らは召喚者である椎葉姉妹に影響されてか、椎葉姉の背後にいる幼女は少し垂れ目で「うじうじ」としていて。椎葉妹の背後の幼女は少し吊り目で「元気ハツラツ」としており、どうやら双子の姉妹のようである。

 そして、その赤髪幼女たちを呼び出した影響なのか、椎葉姉妹の瞳の色が幼女たちと同じく赤色へと変化していた。

 その間に椎葉妹が目眩ましをした肥満体形と中肉中背の二人が回復しており。
 椎葉妹に対して再び指をさして、下から上へ突き上げるように振るった。
 それに呼応するように地面から氷柱が飛び出し、それをすんでの所で椎葉妹は身体を捻ってかわす。
 と、椎葉姉に黒い手套を付けた右手を差し出して。
 それと同様に椎葉姉も手套をはめた左手を差し出し、

 『ハイ!』

 と、元気良くハイタッチを交わした。
 すると、椎葉姉が左手に身に付けた黒い手套から青い炎。
 椎葉妹が右手に身に付けた黒い手套からは赤い炎と、それぞれの手に炎が灯り。
 「反撃に打って出よう」と、椎葉妹は炎が灯った右手で拳を作って。椎葉姉が相対している二人の片割れに向かって走り込んだ。

 「——ス〜パ〜ナルストレ〜〜ト!!」

 低空飛行をするように低い姿勢を保ったまま、椎葉妹は長身の人物の腹部に炎の拳を叩き込む。
 腹部をえぐるように拳はクリーンヒットし。
 その威力を物語るように拳を打ち込まれた人物は後方に吹き飛び。
 砂塵を巻き上げながら地面の上を滑走した。

 パンチがヒットして椎葉妹の右手の炎は消えたが、続けざまにリーダー格の人物に牽制の意を込めて、左足を強く地面に踏み込み、残った右足で回し蹴りを叩き込んだ。
 それが先方の腹部に当たり。
 見事、椎葉姉を助け出す事に成功する。

 が、そのガラ空きとなった瞬間を狙って。椎葉妹と相対していた肥満体形と中肉中背の二人が椎葉妹を目掛けて指を振った。
 だが、彼らの動作を椎葉姉はしっかりと捉えており。左手に灯った青い炎を縄状に変形させて妹の身体に巻きつかせる。

 そして、氷柱が地面から出現すると同時に椎葉妹を手繰り寄せ、救出に成功。
 しかし、椎葉姉の左手の炎も椎葉妹同様に消えた……。


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