ダーク・ファンタジー小説
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- 【々・貴方の為の俺の呟き】
- 日時: 2023/12/07 18:49
- 名前: ベリー ◆mSY4O00yDc (ID: J1WkM8IE)
【目次】
《設定まとめ》>>4
読んでも読まなくても大丈夫です。作中で「あれ、これなんだっけ?!」て時にご活用ください()
本編でも説明はありますし、覚えてなくても物語は楽しめます。
エピローグ【々】 >>1ㅤㅤ
【第一節 縹の狼】目次 >>2
【第二節 代々の械】
【第三節 翠の魔】
【第四節 黄の蛇】
【第五節】
◇◇◇◆◇◇◇
《注意》
○推敲が未熟です。誤字脱字が多々あり。
物語構成に荒が多いです。
○グロ描写、胸糞、鬱などの少し過激な展開があります。
自分の描写力はチリカスのため、酷いものではありませんが苦手な方は注意して下さい。
○死ネタが含まれます
◇◇◇◆◇◇◇
この世界はどうしようもなく理不尽で。
自分だけじゃどうにもならないことしかなくて、吐き気がするほど酷い仕組みで回ってる。
そんな世界が私は、狂おしいほど大好きなんだ
理不尽も、ドラマも、人格も、全て
──クソッタレたこの世界の
素晴らしい産物だ──
これは、満足する”最期”を目指す者のお話
また、因縁と愛に決着をつける白と黒のお話。
そして、その因縁に巻き込まれた二人の青年が、世界を救うお話。
全て、”貴方の為だけの”お話
◇◇◇◆◇◇◇
《閑話》
【2022年冬】カキコ小説大会 シリアス・ダーク小説 金賞
新参スレに関わらず、読んで下さっている方々。本当に、本当にありがとうございます……。
- Re: 【々・貴方の為の俺の呟き】 ( No.17 )
- 日時: 2023/03/26 19:00
- 名前: ベリー ◆mSY4O00yDc (ID: LOQQC9rM)
3
ヒラギセッチューカは瞬時に踵を返して先程よりも勢いよく地を蹴り、走り出した。
それに反応した“黒い物体”は、全ての足で、ヒラギセッチューカの鼓動と同じテンポで地を蹴る。
二階建ての民家と同じぐらいの高さにある、巨大な胴体を太い五本以上の足が支える。
それらは絡まることなく動き、ヒラギセッチューカの元へ胴体を運んでいた。
「ハッ、ハッ、くっ……」
ヒラギセッチューカは顔を顰め、吐く息を噛み砕く。
土踏まずのツリ、関節がズレているのでは無いかと錯覚する違和感、太ももの痛み。
それらに襲われながらも、陸上選手顔負けの美しいフォームで彼女は走る。
しかし体の動かし方が上手くとも、痛みと元の力の無さはカバー出来なかった。
「はっや……」
ヒラギセッチューカは息を切らしながら、ズレている狐面を片手で直す。
一向に消えない複数の足音への焦燥感に耐えきれず、後ろを一瞥した。
彼女は知ってしまう。”黒い物体”がすぐそこまで迫ってきていることに。
「追いっ……つかれる……」
心の底から危険だと判断したヒラギセッチューカは両手を強く握り締め、胸に手を当てる。
魔法が発動する。
ヒラギセッチューカが地面を蹴った。
彼女は先程よりも走るスピードを上げ、“黒い物体”からジリジリと距離を離し始めた。
重心が前方向に引っ張らる。自身でも止められない速さと感じる。
ヒラギセッチューカは逆行する風に当てられながら、先程よりも安定したリズムで呼吸を行った。
苦しい事には変わらないが“黒い物体”から距離を取ることが出来たと確信した。
しかし、とある違和感に気付く。
「はぁ、はぁ。あれ? ここさっきも通らなかった?」
そう呟きながらヒラギセッチューカは道の角を曲がった。
陶器や木彫りが置いてある土産屋の数々。偶に子供向けの絵本や、玩具が置いてある店。
延々と続いていく気がする煉瓦の道。
ヒラギセッチューカは嫌な予感がしながらも、もう一度前の角を曲がった。
「うっそぉ……」
陶器や木彫りが置いてある土産屋の数々。偶に子供向けの絵本や、玩具が置いてある店。
先程と全く同じ街並みが彼女の周りを取り囲んでいた。
ヒラギセッチューカは絶望しながらも、必死に打開策を練るため頭を働かせる。
がしかし、同じ景色が続く原因どころか、”黒い物体”の正体も分からない。
策を練ろうにも情報が少なすぎるのだ。
かと言って、無策のまま走り続けたら確実に”黒い物体”に追いつかれる。
(どうしろっての、この状況……!)
ヒラギセッチューカは奥歯を噛み締め、強く思った。
腕を勢いに任せ振り、大きく足を前に踏み出し続ける。
もう、無駄なことなど考えずに戦った方が良いんじゃないか。
そう思ってヒラギセッチューカは首を捻り、”黒い物体”の様子を見た。
自身に伸びる黒い腕が視界に入る。
豪速球のように不気味な手のひらが、ヒラギセッチューカの足元目掛けて飛んでくる。
「伸びんの?! どういう体してんだっ!」
ヒラギセッチューカは怒りと恐怖が混ざった絶叫を上げ、前方に視線を移した。
そこには、もう何回通ったか忘れてしまった曲がり角があった。
足元に伸びてくる手を躱すことぐらい今のヒラギセッチューカにならできる。しかしタイミングが悪かった。
アスリートでもない彼女は、角を曲がるタイミング丁度に起こる妨害を躱す事は出来ない。
それでも曲がり角は迫ってくる。
(怪我はしたく無いんだよなぁ)
ヒラギセッチューカはそんな自身の我儘を胸の奥にしまい、歯を食いしばる。
角の所に前足を勢いよく出した。
ズザッと、煉瓦と靴裏が擦れる大きな音がする。
彼女はこの後起こりうるであろう事を想像し、一つ大きな息を吐いた。
出した前足を重心に体の方向を変える。
あとは前に踏み出すだけだ。
ヒラギセッチューカは重心だった足に精一杯力を入れて駆け出した。
と同時に、妖怪の腕が角を曲がり切れず壁にぶつかる。
バシャッと、水風船が割れたような音がした。
しかし、それを気にする余裕はヒラギセッチューカになかった。
「うあぁっ!」
ヒラギセッチューカは清々しいほどに勢いよく、前方へ転んだ。
重心として使った足には全体重を乗せるため、勢いが最高潮に達する。
それをスピードに上乗せ出来れば良いのだがそうはいかない。
その勢いよりも早く、もう片方の足を前に出さないと転けてしまうのだ。
そんなこと出来るわけないと確信していたヒラギセッチューカは素直に転ぶ。
「いっつ……」
地面は接待が下手で全身に痛みが走る。腕や頬にジャリっと食い込む小さな砂の感覚。
ヒラギセッチューカはそれを味わいながら立ち上がった。
この場で転けたら”黒い物体”に確実に追いつかれる。
そんなこと彼女も分かっていた。
立ち上がるのは無駄に近い行為だ。
それでも、上半身を起こして駆けだそうとする。
と、ヒラギセッチューカの真隣から謎の手が伸びてきた。
その先は影で奥が見えない裏路地。
彼女はすぐさま別の手の存在に気付き、乾いた笑いを出た。
「あー。死んだわコレ」
4.>>18
- Re: 【々・貴方の為の俺の呟き】 ( No.18 )
- 日時: 2023/03/26 19:00
- 名前: ベリー ◆mSY4O00yDc (ID: LOQQC9rM)
4
ヒラギセッチューカは腕を何者かにガシッと掴まれ、真っ黒い大口を開ける路地裏に引っ張られる。
彼女は抵抗することを諦め、流されるまま暗闇に飲み込まれた。
「いたっ」
おもむろに引っ張られ、ヒラギセッチューカはまたもや転んでしまった。
火に炙られている様なヒリヒリとした痛みと、疲労で動かない筋肉。今すぐ痛みを消し去りたいが、今の自分には出来ないと分かっていた。
ヒラギセッチューカはこの後襲うかもしれない苦痛を想像し、諦めた様に仰向けになる。
太鼓のような音が高速で鼓膜を叩き、徐々に大きくなっていく。
それが“謎の物体”の足音なのか、自身の鼓動の音なのかは判別がつかなかった。
音量が最高潮に達した時、ヒラギセッチューカは無意識に息を大きく吸って、止めた。
(花見がしたいな)
恐怖と緊張で頭は真っ白。
唯一ヒラギセッチューカの頭に浮かんだ言葉は、そんなどうでも良い事だった。
地面からの振動を感じながら息を止め続ける。
指、腕、太ももから湧き出る熱湯が落ち、それが鮮明に感じるようになる。
左胸にある異物が、何回も内側の肉を押し出す。
“謎の物体”の足音が徐々に小さくなってく──
「あ、れ?」
その事に気付いたヒラギセッチューカは、安堵と戸惑いの声を吐き、呼吸を再開した。
体から熱気が漏れ、走ったことで不足していた酸素を必死で取り込む。
思考を回せるほどの余裕が無い彼女は、ただ呆然とすることしか出来なかった。
「大丈夫か?」
溢れ出る恐怖を包み込み、それを全て安堵に塗り替えてしまうような低く優しい声。
ヒラギセッチューカはそれに聞き覚えがあり、酸素を取り込む事を無理やり辞めて、名前を発する。
「狐百合 癒輝……」
ヒラギセッチューカを路地裏に連れ込み、助けた人物。
それは、光の反射なのか元々の色なのか判断が難しい白がかった赤い髪と、それと同じ色の瞳を持つ長身の男性。
入学式、ヒラギセッチューカとブレッシブの喧嘩の間に割って入った、ユウキだった。
また助けられたな、とヒラギセッチューカは意味もなく息を吐く。
「あ、あぁ。俺はユウキ。君は?」
ヒラギセッチューカは認識阻害魔法がかけられた狐面を被っている。そのため、ユウキはヒラギセッチューカを認識出来ていない。
初対面の誰かと思っているのだ。
ユウキは、自身の名前を当てられたことに焦りを見せる。
ヒラギセッチューカは鉄のように重い腕を動かして狐面を外した。
「ヒラギセッチューカ・ビャクダリリー」
暗闇の中、微かな光を反射する白髪が現れる。
ユウキはそれに目を見開き、罰が悪そうに謝罪をした。
「ヒラギ?! すまん気付けなかった」
「いーのいーの。仕方ないって」
ヒラギセッチューカは笑いながら言うが、未だ落ち着いていないのか息を切らしている。
ユウキはせめてもの償いとして、ヒラギセッチューカの上半身を起こし、背中を擦った。
一定のリズムでヒラギセッチューカの背中を、丁度いい力加減で摩る暖かい手。
死人のように冷たく白い彼女の肌に、その暖かみが染みていく。
それに安心を覚えながら、彼女は再度狐面を被る。
しかし、ユウキはヒラギセッチューカを認識したまま。既に認識されている相手だと、認識阻害の効果は薄くなるのだ。
呼吸が落ち着き、声を出せる余裕が出てきたヒラギセッチューカは笑って言った。
「ユウキって、背中摩るの上手いね」
「言ってる場合か!」
「ごめんごめん」
と言いながらも、ヒラギセッチューカは楽しそうに笑っていた。ユウキは「真面目にしろ」とそれを咎める。
それを無視して、ヒラギセッチューカはため息のように言葉を吐いた。
「それでぇ、何あれ」
「俺も初めて見るから分からないが、多分、噂の“妖怪”じゃないのか?
陰陽師コースの体験授業で聞いた程度でしか知らないが」
「あぁ、〈都市ラゐテラ〉にだけ出るっていうアレ?」
「そうそれ」
ヒラギセッチューカはまず“妖怪”の見た目以前に、それが現象なのか生物なのかも知らない。
その為、あの“謎の物体”を妖怪と断言は出来なかった。
しかし、それ以外の可能性は思いつかない。
ヒラギセッチューカは消去法で、“謎の物体”は“妖怪”だと確信することにした。
「てことは、私達結構危ない状況だなぁ」
「もっと危機感を持て! 入学式の時もお前は……」
「ごめんって。危機感持つからお説教は勘弁よ?」
ヒラギセッチューカが悪びれない笑顔であしらう。
ユウキは不服に思うが、今は説教している場合でも無い。そう思った彼は、仕方なくその場で言葉を飲み込んだ。
ここまで読んでくださった方へ重大なお知らせ。>>19
5.>>20
- Re: 【々・貴方の為の俺の呟き】 ( No.19 )
- 日時: 2023/03/17 22:18
- 名前: ベリー ◆mSY4O00yDc (ID: VNx.OVCe)
こんにちはベリーです。
私は盛大なミスをやらかしました。
投稿しなければならなかったお話 2レス分を投稿していませんでした。現在修正をして正常な話に戻りました。
端的に話すと、>>13-14の内容が大幅に変わったよ。お話が繰り上がったよって事です。
この創作、通称 俺為をこの先読むつもりだよ! って方がいらっしゃったら、>>13-14を読み返してください。お手数をおかけ致します……。
失礼しました。
- Re: 【々・貴方の為の俺の呟き】 ( No.20 )
- 日時: 2023/03/26 19:01
- 名前: ベリー ◆mSY4O00yDc (ID: k8mjuVMN)
5
「危機感を持ったヒラギセッチューカは思い出しました。
妖怪に遭遇した時は、隠れて陰陽師の助けを待つべきだということを。
あと、学院都市には何かあった時の避難場所があるということを」
ヒラギセッチューカは、陰陽師コースの体験授業で習った事を、真面目とは思えない態度で言う。
ヒラギセッチューカに自身の言葉が全然響かず、ユウキは「ふざけるな……」と微かな抵抗しかできなかった。
それと共に、彼も体験授業の記憶を必死に掘り起こす。
「確か、妖怪は出現時に結界を張るんだったか」
「あぁ、だから同じ道が繰り返されるの」
ヒラギセッチューカは妖怪から逃げていた時の事を思い出す。
ユウキはその事を知らなかったのか「逃げ道ねぇじゃん」と苦い顔をした。
「そう言う時の為の避難場所でしょ!」
ヒラギセッチューカは笑顔でパチンと指鳴らす。しかし、ユウキの顔は晴れない。
「お前、どこに避難場所あるのか覚えてるのか?」
「覚えられる訳無いじゃん。学院都市どんだけ広いと思ってんの?
あっ……」
「そういうことだ」
ユウキもヒラギセッチューカも学院都市に来たばかり。一回の授業程度で避難場所を覚えられる訳が無かった。
それを理解したヒラギセッチューカは先程の明るい顔は何処へやら、神妙な容貌になる。
「ヒラギ、どうする?」
「もう陰陽師が来るまでひたすらに待つしか無いでしょ」
「妖怪に触れると魔素逆流を起こして、最悪廃人と化すんだぞ?」
ユウキの言葉に、ヒラギセッチューカは片手を口に当てる。そして、初めて真剣な声色で言った。
「本気でヤバくなってきたな」
「気付くのが遅せぇよ」
ヒラギセッチューカはムッとした顔をするが、考えることを辞めない。
(このまま路地裏にいても良いけど、妖怪に見つかるリスクは高いし、もっと安全な場所に移りたいんだよね。けど、そんな場所思いつかないし──)
ユウキもヒラギセッチューカと似たような事を考えていた。
しかし、幾ら考えを巡らせても良い案は思い付かない。
「一周回ってここで隠れ続ける方が良いかも」
ヒラギセッチューカは良い案が思い付かず、そう呟く。ユウキもそうだった様で「それしかないな」と、その案に乗った。
そして、二人は路地裏の壁に背中を着けて黙り始める。
激痛故に廃人と化し、軽いものでもトラウマになると言われる〈魔素逆流〉
妖怪に触れただけでそれを経験すると思うと、ユウキに悪寒が走った。
死ぬことは無いだろうが、最悪、死よりも恐ろしい経験をするかもしれない。
(考えるな。考えるな俺!)
そんなこと考えても、恐怖を膨らませる事にしかならない。ユウキは必死で自己暗示をした。
「〈魔素逆流〉かぁ。結界から出た頃には二人仲良く廃人になって、まともな考え出来なかったりして!」
ヒラギセッチューカはユウキのように恐れていないのか、それともバカなのか。能天気に笑って言った。
(なんで今その話をするんだよっ!)
ユウキは泣きたくなるが、そんな情けない事は出来ないと必死で抑える。
「お前、怖くないのかよ」
「めっちゃ怖いよ?」
「全然そうには見えねぇ」
恐怖でヒラギセッチューカのテンションに付いて行けなくなったユウキは、萎れた花のように呟いた。
それを見たヒラギセッチューカは苦笑いする。
「ごめんからかいすぎた」
「こんな状況で……。性格悪いぞヒラギ」
「否定はしないよ」
悪びれも無いヒラギセッチューカに、ユウキは何を言っても無駄だと理解する。
そして、三角座りをして膝に顔を埋めた。
相手を怒らせて楽しむ悪趣味があるヒラギセッチューカ。彼女は怒らず、自身を嫌う様子も見せないユウキに驚いていた。
(ユウキは懐が広いな。何かの主人公みたい)
そんなどうでも良い事を思いながら、ヒラギセッチューカも黙り始める。
妖怪の足音はあれっきり聞こえていない。
何処かしらに留まっているのか、消えたのか、陰陽師と交戦中なのか。
考えても仕方がないが、緊張感が走る空間で二人は何かしら考えずにはいられなかった。
視界には向かい側の建物の壁しか映っていないが、不満に思わず見つめ続ける。
すると、不意に自分とユウキ以外の物体が空を切り、近づいてくる感覚がヒラギセッチューカにした。
肌を芋虫が這いずり回るような悪寒が走る。
(何かいる?! 妖怪? 嫌、そんな訳ない! あんな巨体が路地裏に入り込めるわけ無いし)
先程まで熱湯のような熱さだった汗が冷水に早変わりする。彼女はその冷水を浴びながらゆっくりと顔を横に向けた。
『シ ロ だ』
ヒラギセッチューカの体温が無くなる。
「うわあぁっ!!」
ユウキの絶叫が木霊した。
路地裏の隙間から首だけを伸ばし近づいてきた妖怪。そして、二人を見つめる巨大な目玉。それが、ヒラギセッチューカの至近距離にあった。
彼女は、言葉と呼吸の中間のような音を口から出す。
「ぁっ、はっ……」
なんでここに? 死ぬのかもしれない。逃げなきゃ。ここで終わりだ。何故見つかった? ちょっと騒ぎすぎたかな。怖い。逃げるのめんどくさい。ユウキだけは。嫌だ逃げたい。面白! 痛いのは嫌だ。首だけ伸ばすとか頭良いなコイツ。体動かない。
ヒラギセッチューカの頭に、矛盾した感情と想いが溢れ出す。そして、何に従えば良いのかと混乱した体はそこでショートしてしまった。
「逃げるぞっ!!」
入学前は冒険者だったユウキは、判断が早かった。
自分の頭に溢れかえる沢山の指示よりも、外からの指示を信用したヒラギセッチューカの体はすぐさま立ち上がり、駆けた。
それに続きユウキも走り出す。
『シィィィロオォォ!!!』
不気味な金切り声を背に、二人は妖怪がいる方向と反対側の出口を目指す。そして、土産屋が並ぶ通りに出た。
「おいおいどーするこの状況!」
ヒラギセッチューカの後ろを一生懸命走るユウキが叫んだ。
「逃げる以外無いでしょ!」
「じゃあ、お前だけ逃げろ!」
迷いない、弓矢のように真っ直ぐな言葉がヒラギセッチューカを射抜く。
それに嫌な予感を覚えながらも、ふざけながら彼女は言った。
「は、図りかねる言葉が聞こえたんですが」
ヒラギセッチューカは後ろを振り向く。
いつの間にか、ユウキは自身の後ろの後ろを千鳥足で走っていた。
そして、そのすぐ後ろにいるのは先程の”謎の物体”──妖怪。
「俺は、ちょっと休んどくよ」
ユウキは「走るのが苦手だ」とは言わなかった。ヒラギセッチューカを不安にさせないようにしているのだ。
しかし、誰でもその青白い恐怖の顔を見るだけで、彼の心情は手に取るように分かる。
(めちゃくちゃ怖がってんじゃん)
そう思うと、ヒラギセッチューカは少し笑い声が出てしまった。そして言った。
「ゆっくり休んで!」
彼女は、クズと言われても仕方ない言葉を元気よく放った。
6.>>21
- Re: 【々・貴方の為の俺の呟き】 ( No.21 )
- 日時: 2023/03/26 19:01
- 名前: ベリー ◆mSY4O00yDc (ID: LOQQC9rM)
6
「お前って奴は……」
ヒラギセッチューカに見放された筈なのにユウキは失望しなかった。
それどころか、無邪気な子を見る祖父のような優しい目で彼女を見る。
ユウキは疲れ果て、その場で立ち止まった。
迫る黒い手。不気味な五本指がゆっくりと開いて、ユウキの革ブーツを掴む。
「いっ……」
ユウキは恐怖で声をもらす。
しかし、痛みは襲ってこなかった。
彼はそれを不思議に思うと同時に、安心して体の緊張が解れる。
また別の手がユウキの胴体を鷲掴みにした。
その時。
「ぐあぁっ!!」
肉を、骨を。
いや、もっと繊維な部分。
血管一つ一つに人喰い蛆虫が這い回る様な激痛が、彼を襲った。
「いぁっ! あ゙あ゙ぁっ!」
痛みの原因はユウキを掴む黒い腕。それは彼も簡単に分かった。
ユウキは痛みを消したいがために必死でもがく。
声を枯らし、足裏で煉瓦を擦り、黒い腕を引っ掻く。
「だぁっ! だずげてぇっ!!」
しかし、藻掻く為に妖怪に触れると、魔素を吸われ、痛みは増える。
逃げたくても逃げられない。
逃げる術は無いと分かっていながらもユウキは暴れた。そして、暴れる力が徐々に減っていく。
遂には痛みに抵抗する精神力が無くなり、ユウキは脱力してしまった。
「あっ、あぁ……」
それでも激痛は無くならない。
脳を「痛い」という言葉が支配し、ユウキはもう何も考えられなくなっていた。
手足がピクピクと痙攣して目は充血する。
彼の肺から放出される空気は、嗚咽という名の音を出し続けた。
妖怪はユウキを持ち上げる。力無く宙にブラブラと揺れる両足。
ユウキは思考が停止し、自身の口から漏れ出す唾液をどうにかしようとも思えなかった。
もう終わりだとか、死ぬ実感だとか、絶望だとか。
そんな感情すらも与えてくれない激痛が遅う。
それが、〈魔素逆流〉であった。
「かっ、カァッ……」
ユウキが放つ言葉は最早ただの音だ。
それを妖怪は興味深そうに見つめて言う。
『シロダケド、チガウ?』
“妖怪”が探しているシロ。
“妖怪”が求めなければならないシロ。
それとは、全く違ったシロだった。
「──白って200色あるらしい、ねっ!!」
その声と共に何かがユウキを掴む腕に飛ぶ。
それは薄茶で、光を反射する程に綺麗に削られた木刀だった。
木刀は回転しながら一直線に飛び、黒い手首に刺さる。それでも木刀は勢いを止めず、遂には貫通して手首を斬った。
斬っても尚木刀は回り、弧を描いて元の場所へブーメランのように戻る。
「ぁ──」
手首が斬られた事により落ちるユウキ。
痛みから解放されたはずなのに、全身が麻痺したように体は動かない。
まず、状況が理解出来るほどの余裕もなかった。
(あぁ、落ちてる)
そう思った頃には遅く、地面は間近にまで迫っていた。
宙に突き出す自身の掌。何かに縋るように、それは揺れていた。しかし、何かを掴める気配もしない。
今出来ることは無い。
彼はそう悟った。
ユウキは腰から墜落する。
「ぐふっ!」
──と、誰かの汚い唸り声がユウキの世界に割って入った。
地面に落ちたとは思えない柔らかな痛みと、平らな道とは思えない凸凹した地面。
ユウキを迎えたのは歓迎下手の地面ではなく、ヒラギセッチューカだった。
「腰、腰がぁ……」
ヒラギセッチューカは喉から絞り出した様な掠れ声を出す。
ユウキは男性の中でも長身な方で、その分体重も重い。対してヒラギセッチューカは女性の平均的な身長だがガリガリにやせ細っている。
そのため彼女のダメージは測り知れなかった。
(痛いのは、嫌だ。痛かった。もう痛いのは──!)
解放されたと言うのにユウキは未だ恐怖で震えていて、意識が飛びかけていた。
痛がるヒラギセッチューカを見ても尚、ユウキは状況が理解できない。
それでも考えることを諦めはしない。
「らぁん、で……」
ユウキは『何故ここに居るのか』という疑問を投げかけたが、呂律が上手く回らない。
7.>>22