ダーク・ファンタジー小説
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- 【々・貴方の為の俺の呟き】
- 日時: 2023/12/07 18:49
- 名前: ベリー ◆mSY4O00yDc (ID: J1WkM8IE)
【目次】
《設定まとめ》>>4
読んでも読まなくても大丈夫です。作中で「あれ、これなんだっけ?!」て時にご活用ください()
本編でも説明はありますし、覚えてなくても物語は楽しめます。
エピローグ【々】 >>1ㅤㅤ
【第一節 縹の狼】目次 >>2
【第二節 代々の械】
【第三節 翠の魔】
【第四節 黄の蛇】
【第五節】
◇◇◇◆◇◇◇
《注意》
○推敲が未熟です。誤字脱字が多々あり。
物語構成に荒が多いです。
○グロ描写、胸糞、鬱などの少し過激な展開があります。
自分の描写力はチリカスのため、酷いものではありませんが苦手な方は注意して下さい。
○死ネタが含まれます
◇◇◇◆◇◇◇
この世界はどうしようもなく理不尽で。
自分だけじゃどうにもならないことしかなくて、吐き気がするほど酷い仕組みで回ってる。
そんな世界が私は、狂おしいほど大好きなんだ
理不尽も、ドラマも、人格も、全て
──クソッタレたこの世界の
素晴らしい産物だ──
これは、満足する”最期”を目指す者のお話
また、因縁と愛に決着をつける白と黒のお話。
そして、その因縁に巻き込まれた二人の青年が、世界を救うお話。
全て、”貴方の為だけの”お話
◇◇◇◆◇◇◇
《閑話》
【2022年冬】カキコ小説大会 シリアス・ダーク小説 金賞
新参スレに関わらず、読んで下さっている方々。本当に、本当にありがとうございます……。
- Re: 【々・貴方の為の俺の呟き】 ( No.12 )
- 日時: 2023/03/26 18:58
- 名前: ベリー ◆mSY4O00yDc (ID: LOQQC9rM)
3
共通授業最後の保体を終えた後は何があったっけ。そうだ、選択授業だ。
俺達の学年〈縹〉は未だ選択授業を受けられない。受ける授業を決めていないからだ。
そういう訳で、次は選択授業についての説明が行わるんだったな。
俺は軽く教科書を机から出して整えた。
それを抱えて教室の外にある自分ロッカーへ向かおうとする。
「ヒラギー、ヨウー!」
ルカが金髪のツインテールを軽く弾ませてやって来た。
目付きが悪いユウキも一緒だ。
「あぁ、ルカ、ユウキ。どうした?」
俺はロッカーにしまうつもりの教科書を胸に抱え、聞いた。
「次、選択授業の説明会だろ? 一緒に行こうかと思って」
ユウキがニカッと笑った。
俺は友達と思っているが、客観視俺らは特段、仲が良い訳では無い。
けど入学式の事もあってか、俺らは共に行動することが多くなっていた。
他の仲良い級友が居ないこともあるんだろう。
どっち道、ユウキとルカは大歓迎だから嬉しいんだが。
「あと、ヒラギは?」
ルカがビャクダリリーの愛称を呼んで教室を見渡した。ユウキも釣られて視線を教室に巡らす。
ビャクダリリーなら俺の席の前に居るじゃないか。
怪訝に思いながらも、ビャクダリリーの場所を伝えようと口を開く。
「あっ、ヒラギ居たんだ」
その前にルカがビャクダリリーの存在に気付いて、俺は口を閉じた。
ユウキが申し訳なさそうにビャクダリリーに言った。
「ヒラギずっとそこに居たのか? 気付かなかったんだが……」
「あぁ、気に触ることはないよ。この〈認識阻害〉の魔具のせいだと思うから」
ヒラギセッチューカは軽く笑いながら、自身の狐面を指して言った。
〈認識阻害〉というのは闇系統の魔法で、その名の通り認識を阻害する事が出来る。
そして魔法道具──魔具というのは名の通り、魔法がかけられた道具。
かけられた魔法の効果を発揮するのだ。
きっとヒラギセッチューカの狐面は、認識阻害の魔法がかけられた道具なのだろう。
「認識阻害? あ、そっか。白髪だから──」
ルカは口に手を当てて申し訳なさそうな顔をする。
それをビャクダリリーは「気にしてないって」と笑って、ルカのフォローをした。
「なんで入学式の時にそれ、使わなかったんだ」
俺は責めるようにビャクダリリーに聞いた。
その狐面を使っていれば、ブレッシブ殿下に目をつけられることも無かっただろうに。
「装身具は禁止だったじゃん。少年〜プリント見たかい?」
ビャクダリリーにからかわれた俺は罰が悪くなって「チッ」と舌打ちをし、目を逸らす。
しかし、おかしい。
〈認識阻害〉の魔具は、対象の人物が何者か認識出来なくなるだけ。
存在が認識できなくなる様な効果は無いのだ。
それに、俺は最初からヒラギセッチューカを認識できていた。
違和感はあるが、さっきからかわれたこともあって質問したくなかった。
「それで、選択授業の話だっけ?」
ビャクダリリーは話を戻す。
「そうそう!」
ルカは白髪に触れてしまって申し訳なさそうにしてたが、切り替えて明るく言った。
何故か四人で行く空気になっている。俺はそれが嫌だった。
できる限り敵意を見せないよう、俺は自然に口を開いた。
「わざわざ〈白の魔女〉に近づくことは無いんじゃないか?」
場の空気が凍った。
ルカは呼吸と共に「え?」と声を漏らし、ユウキは少し眉を歪めている。
けれど俺だって、悪いことを言ったつもりは無い。
「〈白の魔女〉じゃなかったとしても、それと近い物だろ? こんな気色悪い奴と過ごすのは危険だろ」
「何言ってんだよ……」
ユウキが困った様な顔をする。俺は「何がだ?」と首を傾げた。
ユウキは俺とビャクダリリーの顔を交互に見て、顔を歪める。どちらに何を言うべきか悩んでいるのだろう。
予想通りの反応である。ルカとユウキの顔を見ると心が痛む。
しかし、ビャクダリリーと行動を共にする方が嫌だ。
「そういうのは良くないでしょ。ほら、私たち友達だし?」
ルカが冷たい声で言った。
「ビャクダリリーとは友達じゃない。だって白髪だぜ?」
三人は黙った。
これでは俺が悪者みたいじゃないか。
「大丈夫。ルカとユウキは俺にとって大切な友達だ」
余計、ルカとユウキが顔を歪めた。
俺は軽く首を傾げる。そこまでビャクダリリーを気にかける理由が分からないんだ。
白髪というだけで嫌厭の対処なのに、更にビャクダリリーは嫌な奴だ。
俺程では無くとも、少しはビャクダリリーを嫌ってると思っていたんだが……。
「あ、ヒラギが居ない……」
ルカがハッとした。
俺の前の席に座っていたビャクダリリーが、いつの間にか居なくなっているのだ。
認識阻害の狐面のせいで誰も気付かなかったらしい。
ルカがビャクダリリーが座っていた椅子に手を伸ばす。
けどそこには誰も居なくて、何にも触れられ無かった。
「なあ、ヨウ。ヒラギの事嫌いなのか?」
ユウキが申し訳なさそうに聞く。
「逆に、白髪が好きな奴なんて居るのか?」
ビャクダリリーへの嫌味と、素直な疑問を込めて俺は言った。
4.>>13
- Re: 【々・貴方の為の俺の呟き】 ( No.13 )
- 日時: 2023/03/26 18:58
- 名前: ベリー ◆mSY4O00yDc (ID: LOQQC9rM)
4
選択授業の説明会。
授業開始の合図がなる前に大講義室に着くことが出来た。
ギリギリ間に合った、と俺はホッとする。
選択授業はクラス行動では無い。だから席は自由である。
俺はルカと共に教壇が見えやすい席に座る。
ユウキはビャクダリリーを探すとか何とか言って共に来なかった。
ユウキもビャクダリリーに結構言われていたのに、物好きな奴だ。
今まで友達が居なかった俺は、ルカとユウキから離れたくなかった。だからビャクダリリーが邪魔なのだが……。
まあ、二人がビャクダリリーを嫌いになるのも時間の問題だろう。
「生徒諸君、良くぞ集まってくれた! 只今より選択授業説明会を開始する!」
学院長が教壇に立ってる。説明会が始まるようだ。
相変わらずマイクを使ってないのに、心に染み渡る不思議な声をしてる。
大講義室内に『おぉっ』と生徒たちの籠った声が木霊した。
「学院長がいらっしゃるんだ」
横のルカがボソッと呟いた。
確かに、選択授業の説明会を学院のトップが行うのは怪訝に思うが、害がある訳でも無いだろう。
俺は「意外だな」と軽く返事をする。
「選択授業。自分の意思で学びの道を選び、自分の意思で技術を高めることができる。素晴らしいとは思わないか!」
学院長が身振り手振りを付けながら、聞き取りやすい声で言う。
生徒達の高鳴る胸の鼓動を更に巻き上げ興奮させる。早鐘を鳴らす俺の心臓と興奮に酔いそうになった。
『うおおおぉ!』
俺と同じ状態であろう生徒達が各々声をあげる。
バラバラの筈の呟きが一つの音となり大講義室に響いた。
俺も叫びはしないが興奮を煽られて視線が学院長から離れない。
ルカも大声では無いが興奮を口にしていた。
「本日から選択授業の見学が始まる。自分の体で経験を得て、様々な意見に耳を傾けつつ、自身のやりたいことを貫いてくれ!」
俺たちは現在最高のモチベーションを持っている。
これが〈夜刀教〉教祖、夜刀月季か、と感嘆の息を漏らす。
入学式に抱いた学院長への嫌悪感は、いつの間にかどっか行っていた。
「では本題に入ろう」
瞬間、空気が講義室内が凍りついたように静かになる。
全身にピリピリと静電気が流れるような感覚。
それに俺達の興奮は冷め、興味とモチベーションだけが残っていた。
「選択授業の殆どは専門の知識と技術を身につける事が目的であり、世界の発展に関わる重要な分野となっている。その中から二つ、君たちには選んでもらう」
学院長は身振り手振りを加え、文節に間を置き、聞き取りやすい声で説明を始めた。
「選択授業は八大魔法コース、精霊術師コース、憑依術士コース、召喚術師コース、魔素研究コース、陰陽師コース、魔法研究コース、魔具研究コース、加護研究コース、夜刀コース。この十種類がある」
学院長は何も見ずに板書を初め、ルカや他の生徒達はノートにメモを取り始める。
精勤なこった。
選択授業については入学案内書に大体書いてあった。保護者向けだから、生徒で読んだ者は余り居ないだろう。
しかし保護者不在の俺はそれを読んで、軽く暗記もしている。
今更説明を聞く必要も無い。
けど何かしら指示があったら困る。
俺は退屈とまでは行かなかったが、ぼーっとして学院長の説明を聞いた。
選択授業は別に強制では無いから選ぶコースは一つでも良いし、逆に受けなくても良い。
ただ、夜刀学院の目玉は選択授業の内容の濃密さだ。
受けないと勿体ない。
「次は憑依術士コースだ。このコースは全コースの中で一番入るメリットが高く、卒業後も夜刀である俺が全力で支援を──」
卒業後も学院長が支援? そんなの入学式案内書に書いていなかった筈だが──。
聞いたことがない憑依術士コースの内容に興味を惹かれた俺は、学院長の声に意識を集中させる。
「憑依術は素晴らしい! 生物の進化を助ける有力な研究であり、不老不死も夢では無い。
失われた技術である“憑依術”の探求をするのが、憑依術士コースだ」
ヤケに“憑依術”を強調するな。
憑依術ってそんなに重要な分野だったか?
まあ、生物の進化とか、不老不死に興味が無いから何でも良いが。
他にも色んななコースがあったなと、俺は入学案内の内容を思い出す。
5.>>14
- Re: 【々・貴方の為の俺の呟き】 ( No.14 )
- 日時: 2023/03/26 18:59
- 名前: ベリー ◆mSY4O00yDc (ID: LOQQC9rM)
5
実用的な魔法について学ぶ〈八大魔法コース〉
魔法関連の職に就につくなら必須で、大半の生徒が選ぶ。
精霊について学ぶ〈精霊術師コース〉
魔物という生物について学ぶ〈召喚術師コース〉
都市ラゐテラだけに出現する謎の存在、妖怪について学ぶ〈陰陽師コース〉
魔素について研究する〈魔素研究コース〉
八大魔法とは違い、魔法の根本を研究する〈魔法研究コース〉
魔具についての研究をする〈魔具研究コース〉
特定の種族や個人が持つ〈加護〉について研究する〈加護研究コース〉
世界の治安を維持する夜刀教の派生団体、夜刀警団への入団に必要な事柄を学び、学院都市の治安維持も担う〈夜刀コース〉
魔法に関する科目が主だが、陰陽師コースと夜刀コースは例外らしい。
本職と変わらない事をするとか。
俺は八大魔法コースに入ることは決めていて、あと一枠空いている。
折角入学できたのだから、無理やりにでもこの枠を埋めたい。
しかし、全て俺の興味をそそらない。
俺はどのコースを選ぼうかと考えながら、“学院長の授業”よりも“教祖の演説”の方がしっくりくる話を聞いていた。
選択授業の説明が終わると、次は見学期間についての説明が行われる。
一定の期間、授業を見学したり体験たりすることが出来るらしい。
コースを選び悩んでいた俺にはピッタリだった。
「──では、今後とも精進してくれ」
リンリンリンリン
学院長がそう言った瞬間、授業終了の鐘が丁度鳴った。あまりにも都合が良すぎて俺は驚く。
学院長は美しい顔のパーツを微小に動かして笑い、生徒達に手を振りながら去る。
生徒達は一斉に動き出し、大講義室が騒がしくなった。
「ヨウー。選択授業どこ行く?」
隣に居たルカに問われ、俺は数秒考える仕草をした。
「夜刀コース」
将来のことなどキチンと考えられない。
"現在の目標"を達成することに精一杯だからだ。
仮に目標を達成しても、生きているか分からない。
けど、仮に俺が無事に卒業出来たのなら、人を助けたり犯罪を防ぐような治安維持に尽力したい。と思ってしまった。
夜刀コースにする。今決めた。
「夜刀コースかぁ。って事は夜刀師団にも入るの?」
ルカと俺は荷物をまとめ、大講義室の出口へ向けて歩きながら話す。
師団というのは授業、学年の枠を超えた集まり。簡単に言うと部活動である。
夜刀師団は夜刀コースの延長の様な物で、やることは大差ない。
強いて言うなら、師団の方が選択授業よりも楽といった所だろうか。
「嫌、俺は〈司教同好会〉だな」
「司教同好会? 聞いたことないんだけど、師団?」
「去年作られた師団で人数も少ないから『同好会』らしい」
俺はそう言うと、ルカよりも素早く歩き、追い抜いた。
大講義室の扉を開ける。
それを見てルカは焦るように俺を引き止めた。
「ちょ、ちょっと。この後見学でしょ? ヒラギとユウキとも……」
「行きたい所があるんだ。明日、ユウキと一緒に行こう」
俺はそう言って大講義室の扉を閉め、転移陣の上に乗った。
足元から黒い煙がゆっくりと出てきて俺を包み込む。ルカの無表情も黒く霞み、俺はその場から消えてしまった。
「面倒くさ……」
ルカが何か呟くが、内容は聞き取れなかった。
まあ、いいだろう。
俺は気にせず、目的の旧校舎へ向かった。
【終】
- Re: 【々・貴方の為の俺の呟き】 ( No.15 )
- 日時: 2023/03/26 18:59
- 名前: ベリー ◆mSY4O00yDc (ID: LOQQC9rM)
《魔女への最高打点地雷》
1
一方その頃。
ヒラギセッチューカ・ビャクダリリーは、学院都市の大通りを歩いていた。
認識阻害の狐面を被り、景色を楽しむ。
町は和風の風景であり、なんか京都の観光地みたいだな、とヒラギセッチューカは思っていた。
(いや、建物は京都の観光地よりも高いかもしれないなー。実際に比べられたら良いんだけど出来るわけ無いし)
ヨウからの毒舌など気にしていないのか、ヒラギセッチューカはそんな呑気なことを考えていた。
たまに馬車が通っていたり、他の都市からやってきた洋服の人が居たりと、街並みは和洋で入り乱れている。
しかし『和』という要素を少し入れただけで、これだけ懐かしい感覚に襲われるのは何故だろうか。
ヒラギセッチューカは不思議に思いながら歩を進める。
グウゥ……
様々な香りが人々の空腹を刺激し、ヒラギセッチューカも腹を鳴らす。
しかし彼女は一文無しに近い程の貧乏であったため、唾を飲み込み我慢した。
濃い青に輝く瓦を乗せ、白い外壁に包まれた建物にたどり着く。
ヒラギセッチューカは解放されている大きな扉を潜った。
白い砂の道に、池やその周りに生えている綺麗な黄緑の草木。薄桃の桜が、景色を鮮やかにしている。
ヒラギセッチューカは、その景色に、ほぅ……と息を漏らした。
学院都市の中央に位置し、和風の街並みに建っているにも関わらず、存在感を放っている寝殿造。
ここは〈陰陽師コース〉の活動場所であり、ヒラギセッチューカは見学に来ていた。
「妖怪って何なんだろ」
ヒラギセッチューカはボソッと呟く。
彼女は『妖怪』と呼ばれる物を知らない。
だからこそ、妖怪に深く関わる〈陰陽師コース〉に興味を持って見学に来たのだ。
玄関でブーツを脱ぐと、ヒラギセッチューカは見学の案内に沿ってとある教室へ行った。
陰陽師コースの教室は畳が敷かれ、縹校舎の教室よりも1.5倍程大きく細長かった。
既に見学に来ている生徒も居るが、狐面をつけているヒラギセッチューカには誰も気付かない。
彼女が並べられている文机の一つに正座すると、丁度先生がやって来た。
「陰陽師コースの見学授業──いえ、お試し授業を始めますよ〜。皆さん静粛にお願いしますね」
ひんやりとした女性の声が教室に染み渡る。
生徒は先生が来た途端黙り、先生に視線を集中させる。
先生はその光景を当たり前のように扱ってチョークを手に取り、話を始めた。
「今日は、皆さんに妖怪について、知って欲しいなと思っています。
都市ラゐテラだけに出現する謎の存在妖怪。今回の授業は、その妖怪に遭遇した際の対処法を──」
妖怪と言われ、ヒラギセッチューカは河童やから傘お化け等の古典的な妖怪を思い浮かべる。
しかし、彼女は〈妖怪〉が生き物なのか自然現象なのかすらも知らないため、時間の無駄と結論付けて、考えることを辞めた。
「妖怪は出現時に外界との繋がりを断ち切る結界を張ります。この中に入ると、妖怪を倒すまで出ることが出来ません。
まずは、結界内に入ってしまった時の対処法をお話しましょう」
外で弓の練習をしている上級生達の音をBGMに、先生は淡々と話す。
(結界を張る妖怪? ますます想像がつかないなぁ)
ヒラギセッチューカは自分の想像力の無さに悔やみながらも、先生へ視線を向けていた。
「まず、妖怪には近づかないこと! 妖怪は触った物の〈魔素〉を吸収する特性があるのです」
先生の言葉に教室の雰囲気が少しピリピリし始める。
妖怪のことを知らないヒラギセッチューカでも、先生の言葉を受け多少恐怖していた。
〈魔素〉と呼ばれる物は、酸素や窒素のように大気中に漂っているエネルギーであり、魔法を使う上では必要不可欠だ。
「魔素逆流……」
教室の生徒の誰かが、そう呟いた。
「そうです。妖怪に触れると〈魔素逆流〉を起こしてしまうので、本当に! 触らないようにしてください!」
先生は先程よりも大きく、ハキハキした声で生徒達に念押をする。
一部を除いてだが、生物は魔素を失っても死んだりはしない。
しかしヒラギセッチューカ含め、彼らは〈魔素逆流〉に対して恐怖を抱いていた。
魔素は血潮と同じように、決まった方向に生物の体内を流れている。その流れを少しでも乱すと激痛が走る。
下手に魔素を吸われると、痛みのあまり廃人化するのだ。
それが〈魔素逆流〉である。
「ですので、妖怪の結界に入ってしまった場合、妖怪に見つからないように隠れてください。
陰陽師の助けを待って──」
先生は、学院都市の地図を黒板に貼り始めた。
そこには学院や広場、避難専用に作られた施設に、目立つ丸が記されている。
避難場所が記された地図、簡単に言えばハザードマップである。
しかしヒラギセッチューカは妖怪の正体が不思議で、集中して話を聞いていなかった。
「妖怪って怖い……」
ヒラギセッチューカの前の文机に座っている女子生徒が呟いた。
「大丈夫だって。二人だったら怖くないよ!」
そして、その隣の女子生徒が励まし、二人で笑っていた。
その様子をヒラギセッチューカは微笑ましく思いながら立ち上がる。
学校指定であるフラットタイプの革リュックを背負った。
「陰陽師という仕事は──」
授業は未だ終わっていない。
しかし、狐面を被るヒラギセッチューカが扉を開いても、気付く者は居なかった。
2.>>16
- Re: 【々・貴方の為の俺の呟き】 ( No.16 )
- 日時: 2023/03/26 19:00
- 名前: ベリー ◆mSY4O00yDc (ID: LOQQC9rM)
2
◇◇◇
演歌や童謡が店から流れ、土産を売る店が大通りを囲んでいる。
ヒラギセッチューカは寝殿造を出て、学院へ向かう一本道を歩いていた。
「上を向いて、歩こう〜」
ヒラギセッチューカは何となく知っている曲を呟き始めた。
彼女の狐面は便利で、声すらも周りの人は認識出来ない。
それを分かっているヒラギセッチューカは少し声量を上げ始めた。
「涙が、零れ、無いように」
人々の頭上には白と水色のマーブル柄が広がっていた。
ヒラギセッチューカはそれを見上げながら、高くか細い声を出す。
しかし雑音によってかき消される。
ヒラギセッチューカが履く革ブーツが、舗装された道を一定のリズムで叩く。
様々な音がひしめき合う中、何故か彼女の足音だけが鮮明に聞こえていた。
少しずつそれが大きくなる。ついには雑音が聞こえなくなった。
「ひとりぼっちの──あれ」
違和感を覚えたヒラギセッチューカは、一旦止まって前を見た。
そして彼女は気が付く。足音が大きくなっていたのではなく、雑音が無くなっていただけだと。
「誰も、居ない」
通りにはヒラギセッチューカしか居なかった。
流れていた民謡も、楽しそうに騒いでいた人々の声も、店員さんの声も。
まるで最初から無かったかのように、辺りはシンと静まり返っていた。
「人気の無い所まで来ちゃった? いや、そんな訳無い。こんなに店があるのに人気がないのはおかしいし」
ヒラギセッチューカは自身に言い聞かせるような独り言を吐いた。
街並みの彩度が低く見え、深海の様な暗い雰囲気が大通りを包む。
一つ息を吸うと生暖かい空気が口に入った。それが喉をヌルッと通過し、不安な気持ちになる。
ヒラギセッチューカは全身に鳥肌が立つも、何かが起きている訳でもないためか、無駄に冷静であった。
どぷんっ
沼から何かが勢いよく出てきたような音がした。
しかしここら一帯に沼は無く、ヒラギセッチューカは焦り、周りを見渡す。
すると彼女の後ろ、十メートル先の道のど真ん中にソレは居た。
「わぁお……」
彼女の視線の先には、直径5メートル程の謎の”黒い物体”が地面からゆっくりと出てきていた。
物理的に地面から出てきているのではない。
煉瓦道を液体の様に扱い、地面に波紋を作り、下からすり抜けて出てきている。
ヒラギセッチューカは目の前の光景に目を疑った。未知への恐怖で、ジリジリと”黒い物体”から離れる。
『シ……』
ギリギリ脳が音声と認識できる金属音のようなものが微かに響いた。
ヒラギセッチューカは下がるのを辞めてその場に止まる。
(何が、起こってくれるの?)
”黒い物体”が地上に出てくる様子をジッと見ていた。
もちろん、彼女はその様子に恐怖を覚えている。が、それよりも好奇心が勝ってしまったのだ。
”黒い物体”は全容を現す。
それは、直径6メートル程の黒く、モヤがかかった物で生物とは思えない。
その”黒い物体”は独りでに震え始めた。ズシャッという効果音と共に一つ、細長い何かを体から生やす。
ヒラギセッチューカはそれを興味深く見つめる。しかし、彼女は様子がボケてでしか見えていなかった。
白眼は元々視力が悪い。古血のように黒く霞んだ紅目は、視界が黒く霞んでいる。
更に彼女の狐面は、紅目の方だけにしか穴が開いていない。だから両目で確認することが出来ないのだ。
ヒラギセッチューカは必死で目を擦り、細め、前のめりになりながらそれを見つめていた。
「あれは、何だ? 細長くて、節が一つあって。
生えた棒先には五本の細長い棒が付いていて……。もしかして、腕?」
彼女が結論にたどり着いた瞬間、それに答えるようにズシャッと、何かが複数生える音がした。
墓から出てくるゾンビの様な不気味さと共に、”黒い物体”から何本もの腕が生える。
そして、その腕を使って”黒い物体”は立ち上がる。最後にもう一度ズシャッと、何かが出てくる音が出た。
『シ、ロ……』
最後に出た”ソレ”は、他の腕のように関節も指も無かった。
蛇のようにしなやかに動く”ソレ”は、宙で不規則な線を描いてヒラギセッチューカの目の前まで来る。
(何何何何っ?! 何故私に近づくの!)
ヒラギセッチューカはそう心の中で慌てながらも、ソレを見つめていた。
ヒラギセッチューカの目の前に来た黒い”ソレ”は、その場でピタリと止まる。
何かしら起こると思ったヒラギセッチューカは安心し、怪訝そうに”ソレ”を見つめた。
近くで見ると物体ではなく、微かに透けているように見える。黒い霧の集合体。と言った方が正しかった。
全く動かない”ソレ”に油断していたヒラギセッチューカは「ちょっと近くに行って見てこようかな」なんて呑気な事を考えていた。
──次の瞬間。
『シロオオォォッ!』
棍棒の先のようにのっぺりとして何も無かった”ソレ”。
その先が、冷凍ラーメンが沸騰した時のように、急に膨らみ始めた。
瞬きをする暇も与えずソレは、人の顔二倍ぐらいの大きさになる。
ソレの先端に現れた顔のような円球。その中心に割れ目が生まれ、ゆっくりと広がる。
現れたのは、手のひら二つ分の巨大な目玉。
それが、ヒラギセッチューカの顔を、見つめていた。
「すっごいねぇ……。こりゃお化け屋敷に使ったら大儲けだよ」
喉から飛び出るのでは、と錯覚するほど大きな心臓の鼓動。
その鼓動と共に、いつ吸っているかわ分からないテンポで繰り返される呼吸。
彼女の慌てっぷりは外から見ても明らかであった。
しかし、ヒラギセッチューカはそれを隠すように、ハハッと乾いた笑いを出した。
『……シロ? シロだ。シロだシロだシロシロシロシロシロシロ──』
先程の不気味な静寂が嘘のように、沢山の声帯を重ねたような音がヒラギセッチューカを叩く。
「逃げなきゃヤバいやつ……」
本来なら心に留めておくべき声が、震えた彼女の口から漏れる。
3.>>17