ダーク・ファンタジー小説
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- 【々・貴方の為の俺の呟き】
- 日時: 2023/12/07 18:49
- 名前: ベリー ◆mSY4O00yDc (ID: J1WkM8IE)
【目次】
《設定まとめ》>>4
読んでも読まなくても大丈夫です。作中で「あれ、これなんだっけ?!」て時にご活用ください()
本編でも説明はありますし、覚えてなくても物語は楽しめます。
エピローグ【々】 >>1ㅤㅤ
【第一節 縹の狼】目次 >>2
【第二節 代々の械】
【第三節 翠の魔】
【第四節 黄の蛇】
【第五節】
◇◇◇◆◇◇◇
《注意》
○推敲が未熟です。誤字脱字が多々あり。
物語構成に荒が多いです。
○グロ描写、胸糞、鬱などの少し過激な展開があります。
自分の描写力はチリカスのため、酷いものではありませんが苦手な方は注意して下さい。
○死ネタが含まれます
◇◇◇◆◇◇◇
この世界はどうしようもなく理不尽で。
自分だけじゃどうにもならないことしかなくて、吐き気がするほど酷い仕組みで回ってる。
そんな世界が私は、狂おしいほど大好きなんだ
理不尽も、ドラマも、人格も、全て
──クソッタレたこの世界の
素晴らしい産物だ──
これは、満足する”最期”を目指す者のお話
また、因縁と愛に決着をつける白と黒のお話。
そして、その因縁に巻き込まれた二人の青年が、世界を救うお話。
全て、”貴方の為だけの”お話
◇◇◇◆◇◇◇
《閑話》
【2022年冬】カキコ小説大会 シリアス・ダーク小説 金賞
新参スレに関わらず、読んで下さっている方々。本当に、本当にありがとうございます……。
- Re: 【々・貴方の為の俺の呟き】 ( No.2 )
- 日時: 2024/01/12 17:12
- 名前: ベリー ◆mSY4O00yDc (ID: WUYVvI61)
《目次》
一気読み >>3-
プロローグ
─ある王都のお話─ >>3
第一項:《白い初桜》
>>5-9
0.>>5 1.>>6
2.>>7 3.>>8
4.>>9
第二項:《この世界、ディアペイズ》
>>10-14
1.>>10 2.>>11
3.>>12 4.>>13
5.>>14
閑話:《魔女への最高打点地雷》
>>15-27
1.>>15 2.>>16
3.>>17 4.>>18
5.>>20 6.>>21
7.>>22 8.>>23
9.>>24 10.>>25
11.>>26 12.>>27
第三項:《憎み愛》
>>28-37
1.>>28 2.>>29
3.>>30 4.>>31
5.>>32 6.>>33
7.>>34 8.>>35
9.>>36 10.>>37
閑話:《色欲に溶けて》
>>38-39
1.>>38 2.>>39
第六項:《大黒 104-9》
>>40-
1.>>40 2.>>41
3.>>42 4.>>43
5.>>44 6.>>45
7.>>46 8.>>
第五項:《強制遠足》
第六項:《シャル・ウィ・ダンス?》
閑話:《夏休み》
第七項:《傲慢》
閑話:《実技テスト》
第八項:《火炎都市サビテソ》
第九項:《傲慢な花筏》
第十項:《玫瑰秋 桜》
閑話:俺とお前の始まりだった
【第一節 縹の狼】
◇◇◇◆◇◇◇
〜あらすじ〜
とある王都に生まれた少年は、父親への復讐を望んでいた。
彼を惑わす黒と白。彼を支える仲間達。果たしてそれらは、本当に"彼"の為になのか。
玫瑰秋 桜の終わりであり、始まりでもある第一節が。
貴方の為の物語が"また"幕を開ける。
◇◇◇◆◇◇◇
《登場人物》
【主人公】
《玫瑰秋 桜》
黒髪に黒い瞳の堂顔が抜けない十五歳の少年。
成績優秀、頭脳明晰、一人当千。ただし幼稚園児並の情緒ですぐキレる。
父親への復讐のため、夜刀学院に入学する。
学年は〔縹〕
〔司教同好会〕、〔夜刀コース〕、〔八大魔法コース〕所属。
【主要登場人物】
《ヒラギセッチューカ・ビャクダリリー》
通称 ヒラギ
白銀の短髪。右目は白眼、左目は赤眼の十五歳。
”髪と瞳の色は本人の適正魔法系統から影響を受ける” ”白色の魔法はこの世に存在しない”
と、生物の法則に反した容姿をしている。嫌厭の対象。
しかし、本人は全く気にしておらずふざけた性格をしている。
学年は〔縹〕
〔陰陽師コース〕所属。
《アブラナルカミ・エルフ・ガベーラ》
通称 ルカ
金髪のツインテールに琥珀色の瞳を持つ、エルフの少女。明るい態度とは裏腹に、冷徹で打算的な面がある。
この世界での”エルフ”は特殊な立場のようで、ある目的のために学院にやってきた。
学年は〔縹〕
〔八大魔法コース〕、〔憑依術士コース〕所属。
《狐百合 癒輝》
赤髪赤眼で、八重歯目立つ男性。世間に疎く、共に正義感が強いため良く物事に首を突っ込む。本人は後悔していない様子。明るく無鉄砲な性格で優しい。四人の中で一番主人公らしい人物。
学年は〔縹〕
【ヨウの同級生】
《ブレッシブ・エメラルダ・ディアペイズ》
エメラルドのような髪色と瞳をしている十五歳の青年。
厳格な人物で、年相応とは思えない肝の座り方をしている。
元皇太子であり、王族で現役の勇者。
ヨウと同じ、司教同好会所属
《リリィ・ディアス》
薄い青色の髪と瞳。しなし、前髪を伸ばしているから余り顔が見えない。
出来損ないと呼ばれる天使。
陰陽師コース所属。
《大黒 蓮叶》
黒髪に紅い〔夜刀の目〕を持つ優秀な天使。
高飛車で高圧的な性格で、リリィを下に見ている。
陰陽師コース所属。
【先輩】
《大黒 聖夏》
金髪に琥珀色の目をした少女。
学年は〔翠〕で、ヨウ達の二つ年上。
強気な性格である目的のために司教同好会を作る。
司教同好会 所属。
《エルザ・ツェッチェ》
薄緑の長髪につり目。下半身は大きな蜘蛛の〔アラクネ〕という種族。面白いことが大好きな愉快犯。
ヒナツと共に、ある目的のために司教同好会を作る。
学年は〔代々〕でヨウ達の二つ年上
司教同好会 所属。
【教師】
《夜刀 月季》
通称 学院長
黒髪の長髪に紅い瞳を持つ。二十歳程の中性的な見た目をしている。1400年前に〔白の魔女〕を封印したと言われる〔夜刀ご本人。
ヒラギセッチューカと酷似した見た目、性格をしている。
白蛇桜夜刀学院長の他。
〔夜刀警団〕総監、夜刀教の教祖(教皇)、ディアペイズ一級魔道士、等など……
ネタに出来るほど大量の肩書きを持っている強者。
第一節チートキャラ。
《ユリウス・アフォルター》
常に認識阻害をかけていて”黒い人”としか認識出来ない。一応、女性。
冷静沈着、厳格な先生。
学院長に妄信的な教師、生徒達に対し。
ふざけた行動をする学院長に対抗出来る数少ない人物。
《秋野 花霞》
茶色の右目。それ以外の肌は全て白い包帯で巻かれており見えない。
保体実技授業担当。無口で厳しい授業をするから生徒から不人気。ヨウの師匠のような立場。
脳筋。
【白蛇教 メシア大司教】
ー強欲務ー
《玫瑰秋 晟大》
元 〔ディアペイズ軍〕第三軍団長。騎士で貴族という立場だった。
ヨウの復讐相手で虐待をした張本人。
現在行方不明でヨウはその行方を追っている。
─傲慢務─
《リーザ・ケルケルト》
茶髪の長髪に、獣の耳が生えている。二つに分かれたしっぽとヒゲを持つ〈獣人族〉
〔獣人族〕は人に近い姿ほど弱く、リーザは落ちこぼれという事になる。
傲慢を体現したような人物。気に触ることがあると長文でまくしたて、相手に責任を全て押し付けようとする。
- Re: 【々・貴方の為の俺の呟き】 ( No.3 )
- 日時: 2023/01/28 15:41
- 名前: ベリー ◆mSY4O00yDc (ID: qbtrVkiA)
─ある王都のお話─
昔々のお話だ。
と言っても五年程前で、昔話の導入を使うほど昔でもない。ただ、俺にとっては、昔の話だ。
聞くだけで落ち着く声と、ごわごわでも安心する毛に包まれて、ソレは御伽噺を聞いていた。
大昔、世界を滅ぼそうとする〈白の魔女〉を倒そうとする英雄たちの物語。
最終的に〈夜刀〉が白の魔女を三つに分けて世界に封印させるお話。
「もっと! もっとヤーノ! ヤーノ!」
ヤツノと、ソレは言いたかったのであろう。しかし、言語を理解していない幼いソレは、しっかり発音できていなかった。
「"夜刀"な。短い話なのに好だなぁ」
俺の十数倍はある大きさの男性は、鉄格子の向こうで、柔らかい声で言った。
床は汚れていて、一面赤黒く汚れている。
嗅ぐだけで吐くほどの腐敗臭は日に増して強くなるが、慣れたソレは全く気にならない。
男性の元へ行くために動かない"兄弟"から離れて鉄格子へ走る。
一歩踏む事にベチャッと音が鳴る。
溶けかけてカビが生えているドロドロの肉。いや、"兄弟" それを悪気もなく踏んでいく。
液体を踏む感覚では無い。液体になりかけている個体、ゼリーを踏むような感覚。
「とぉっ、がぁ!」
目の前の男性をソレは呼ぶ。しかし、何を言っていたのか未だに分からない。
男性はソレを微笑んで見た後に、鉄格子からお粥のようなものを流し込んだ。
美味しそうな匂いを嗅いだソレは、嬉々としてそれを口にする。それと共に、"兄弟"も食した。
生臭い吐き気をもよおす味と匂い、味がない粥。
とても、美味しかった。
飢えていたソレはガツガツと食べている。前足を汚して、しっぽをふって。
自身に生えている毛に汚れがついても気にせずに食べていた。
「いい子にしてろよ」
今思い出すと、理性を失ってしまうほど憎たらしい声。
男性は、鉄格子の向こうにある扉を閉めてしまった。
真っ暗な部屋、冷たい鉄の床。
犬とも人とも言えない、気色悪い形をした、溶けた肉塊が床いっぱいに広がっている。
そこで十年間暮らしたソレは、今どうなっているのだろう?
不清潔な部屋で過ごしたため、病気で死んでいるのか。精神が壊れて廃人になっているのか。まだその部屋に監禁されているのか。
全部、不正解だ。
──白蛇桜夜刀学院 合格通知書
現代のソレは、いや、俺は。
その紙を手にして笑っていた。胸の中のくすぐりを抑えきれずに、爆発するように。傍から見たら狂っていると勘違いするのでは無いだろうか。
監禁されていたソレは、復讐を望んでいた。
クソッタレた、燃えてくれない生ゴミのようなクソ親父に。
- Re: 【々・貴方の為の俺の呟き】 ( No.4 )
- 日時: 2023/12/07 18:29
- 名前: ベリー ◆mSY4O00yDc (ID: J1WkM8IE)
【魔法について】
魔法の元になる”魔素”
それを、生物に備わる器官である”ゲート”に通すことで魔法が発動する。
生まれつき生物には、使える魔法が限られ、 毛色と目は適正魔法の色になる。
適正魔法は基本的に一種類。
二種類使える者は特殊な存在。三種類使える者は居ない。
炎系統(赤色)
地系統(茶色)
嵐系統(緑色)
雷系統(黄色)
氷系統(水色)
岬系統(青色)
闇系統(黒紫色)
の七系統あり、これらを〈八大魔法〉と呼ぶ。
『系統』と呼ばれるのは、その系統に含まれる魔法を使えるから。
(例)炎系統→炎魔法、熱魔法、灯火魔法など、炎に関する魔法。
【この世界について】
〈白の魔女〉が封印された1400年前。”白夜”という暦が生まれた。
この時に、国は一つに統一された。
だから、この世界に”国”という概念は無い。
強いて言うなら〈ディアペイズ〉と呼ばれ、実質的に
国=世界=ディアペイズ
【ディアペイズの地理】
ディアペイズは大きくわけて二つの大陸に別れている。
〈呂色ノ大陸〉
和文化が濃く、和名を持つ人が多い。人口が多くて産業が盛ん。
夜刀学院がある場所。
〈白銀ノ大陸〉
和文化がほぼ無く、洋名を持つ人が多い。
ダンジョンや遺跡、未開拓地等、冒険者が活発に動くロマンある大陸。
〈ディアペイズ大迷宮〉
世界の三分の二を包むほどと言われる、世界一大きな地下迷宮。
二つの大陸の間の海は波が強く船の移動が出来ない。
だから、この地下迷宮が使われている。
二つの大陸を繋ぐ交通の要。
【五大都市】
人口が多く、他より発展した街を都市と呼んでいる。
最終的な支配人は同じだが都市を管理する人物が違い、都市毎に条例が大きく異なる。
《呂色ノ大陸にある都市》
〈都市ラゐテラ〉
第一節の舞台であり、白蛇桜夜刀学院都市がある場所。
和文化が色濃く、街並みは京都のよう。
〈火炎都市サビテソ〉
サビテソと呼ばれる火山を中心に作られた、五大都市の中でも最小の地。
街並みは日本の温泉街のよう。
〈水門都市ヴェネランカ〉
海跡湖を囲むように栄える都市。
街並みは鞆の浦のよう。
《白銀ノ大陸にある都市》
〈王都ネニュファール〉
ヨウの出身地で、王宮を中心に栄える都市。
街並みは中世ヨーロッパ風。
町外れにスラム街があり貧富の差が激しい。
〈対魔都市トレジャラー〉
冒険者を中心に栄える都市。
白銀ノ大陸の一番端にあり、未開拓地の傍にある。
- Re: 【々・貴方の為の俺の呟き】 ( No.5 )
- 日時: 2023/12/13 19:32
- 名前: ベリー ◆mSY4O00yDc (ID: /YovaB8W)
0
ヒュンヒュン。耳元を大木がすれ違う。心臓が早鐘を鳴らしていて喉から飛び出してきそう。
魔法で宙を飛び、木々の間を縫うように飛ぶ少女がいた。金髪のツインテールに褐色の肌と、忘れてはいけない尖った耳。
《アブラナルカミ・エルフ・ガベーラ》と呼ばれる、エルフの少女だ。
アブラナルカミは最小限の荷物を背に、森を飛んでいた。
後ろには──
「シャァッ──!」
真っ黒で手足が無く、恐ろしいスピードで地面を這う生き物。そこら辺の大木よりも太くて大きい、〔黒蛇〕という恐ろしい〔魔獣〕が迫っていた。
水流のようになだらかに〔黒蛇〕は走る。と、急に首をもたげた。嫌な予感だ。
「うわっと!」
アブラナルカミは反射的に横へジャンプした。紫の液体が、アブラナルカミがいた場所に落とされる。
シュウッと、不気味な音がして地面が液状化してく。
明らかに毒魔法。当たったら終わりだ。そう、アブラナルカミの背筋に悪寒が走る。焦って魔法のスピードを上げる。けれどそろそろ体力も気力もなくなってきた。
目的である〔都市ラゐテラ〕まで、あとどれぐらいかかるのだろうか?
故郷から出て約二ヶ月、ずっと山中を旅している。なのに目的地に近づいている感覚がしない。
──もう少しで着くはずなのに、なんで街の気配もしないのよ。挙句の果てにこんな化け物にも襲われるなんてっ!
アブラナルカミは嘆きたい気持ちを抑え、唇を噛んで逃げることに集中する。
「あっ」
と、アブラナルカミが落ちる。何かの糸がプツンと切れたように、急に地面に落ちてしまった。
魔法が切れてしまったのだ。アブラナルカミは地面に転げる。
ちょっとしか浮いていなかったはずなのに、スピードが出ていたからか派手に転がった。
土の匂いがする。息が荒い。もう動きは止まったのに心臓がうるさい。
アブラナルカミは自分が思っていたよりも息切れしていて、滝のような汗をかいていた。
三月──いや、この世界では〔弥生の月〕と呼ぶべきか。
涼しい季節のはずなのに、真夏のように身体中から熱が溢れ出てくる。
「集中力切れた……」
魔法を使うためには集中力がいる。持続的な魔法は特にそうだ。〔黒蛇〕に追われてからずっと魔法を使っていたアブラナルカミは、集中力が切れてしまった。
〔黒蛇〕は獲物を仕留め満足そうに、ゆっくりとエルフに近付く。
「みっ、見逃して……」
アブラナルカミは無駄と分かりながらもお願いしてみる。
しかし〔黒蛇〕は止まらない。
威嚇のつもりか勝利宣言のつもりか、それとも意味などないのか。〔黒蛇〕はぺしゃっと、アブラナルカミの横に毒液を吐き出した。
──もう、終わりだ。
アブラナルカミは鉄板セリフを胸の内で吐く。けれど死の危機なんて直面したことが無いため、実感があまりなかった。周りも頭もボヤけて白昼夢でも見ているみたい。
それなのに、恐怖だけが脳を這いずりまわっていた。
〔黒蛇〕の真っ赤な口がアブラナルカミの視界を占めた。
呼吸が止まっているのに、心臓の音が厭に鮮明に聞こえる。
「熱い……」
アブラナルカミの呟きとほぼ同時だった。
今までの熱が嘘のように空気が冷たくなる。
何があったのだろうか。
〔黒蛇〕は氷像の様に固まって倒れてしまった。
いや、“氷像の様に”じゃない。〔黒蛇〕は本当に、氷漬けになっていた。辺りには最近溶けたはずの雪が積もっている。
「た、たすかっ……」
何がどうなっているか分からなくとも、自分が助かった事だけはわかるアブラナルカミ。嬉しさと共にゆっくりと立ち上がって、辺りを見渡す。と、一人の青年が目に入った。
肩までの眩しく輝く白銀の髪に、片方には恐ろしく透明な白い瞳が、もう片方には渦を描く濁った赤色の瞳が埋まっている。
顔のパーツが整った白皙の顔に、少し汚れた長袖を着ていた。
アブラナルカミに、〔黒蛇〕の時とは違う種類の悪寒が走る。
白い髪を持つ生物はこの世に存在しない。“ある人物”を除いて。
御伽噺に出てくる、最悪の存在〔白の魔女〕だ。魔女は大昔、この世界を滅ぼしたおぞましい存在である。
白髪は異質なんてものじゃない。存在自体が有り得ない。自然で発生する色彩じゃないのだ。
なんとおぞましい。そう、正常な人なら恐怖する。
しかし世間知らずかアブラナルカミは、眩しく輝くその青年に釘付けになってしまった。
「……ぁのっ!」
青年に見惚れていたことに気付いて、慌ててアブラナルカミは声を上げる。
青年はふい、と顔を逸らして狐面を被る。途端に、青年が霞んで見えるようになった。
「〔都市ラゐテラ〕はこっち。歩いて数分。〔ラゐテラ〕周辺の山は〔黒蛇〕の生息地だから、気をつけて」
そう、青年は西の方を指さす。そして指を指した方向へ歩いていってしまう。
──待って、お礼言ってない!
アブラナルカミは追いかけようと立ち上がる。まだ一歩も歩いていないのに、青年は溶けるように消えてしまっていた。
あ。とアブラナルカミはか細い声をだす。
アブラナルカミは他人には無関心な方だ。いつもなら、ついさっき会った人などすぐ忘れてしまう。しかし、ともに義理堅い。
命を救ってくれた青年を、アブラナルカミは簡単に忘れることができなかった。
青年は〔都市ラゐテラ〕に向かって行った。いつか再開できるだろうか。
──できますように。
そう、アブラナルカミは願う。そして西の方へ走った。みるみる木々が少なくなり、遂には無くなる。いつの間にか丘の上の草原にいた。
「こんな近くに街があったなんて。もしかして私、〔ラゐテラ〕の周囲ずっと回ってたんじゃ? 通りで着かない筈ね」
自嘲したアブラナルカミは、崖の下の街へ視線を向ける。
和風でどこか懐かしく思える街が、奥の奥の奥まで広がっている。街の向こう側が見えないぐらい、とても大きな街の景色が広がっていた。
ディアペイズ五大都市の一つである〔ラゐテラ〕
ディアペイズ一大きい都市である。
風が心地よい。空気が美味しい。人々が住む街というのは、アブラナルカミには新鮮だった。
──ここが、私が住む街。
アブラナルカミの胸に感動が広がって目頭がツンとする。
「私はっ、アブラナルカミだあぁー!」
ここから始まる自分の人生に、自由に、世界に、アブラナルカミは快哉を上げた。
1.>>6
- Re: 【々・貴方の為の俺の呟き】 ( No.6 )
- 日時: 2023/03/26 18:49
- 名前: ベリー ◆mSY4O00yDc (ID: LOQQC9rM)
《白い初桜》
1
カンカンカンカン
遠く、遠いようで近い所から聞きなれた甲高い金属音が聞こえる。
俺は無意識に利き手である右腕を振り下ろしたがそこには何も無かった。
いつもならここに腕を振り下ろしたら鳴り止むはずなのに、金属音は未だ響いている。
おかしい。いや、違う、ここは……
少しずつ頭がスッキリしていき、そこで思い出した。ここはいつもの俺の家では無い。
ここは──
チャリンッ!
音と共に金属音がなり止む。
時間は午前六時、二分ぐらいか?
柔らかい、シワが入ったベッドに知らない天井。
昨日用意した気がする制服。
窓の外は丁度日が登り始めていた。
ここはこの世界──ディアペイズにある五大都市の一つ〈都市ラゐテラ〉
その中央に位置する学院都市の寮。
そしてこの学院都市に位置する学校の名は〈白蛇桜夜刀学院〉
名前がとても長く覚えずらい。基本的に〈夜刀学院〉と呼ばれている。
面積、生徒数、知名度、教育水準。挙げだしたらキリがない”世界一”を持っている名門校だ。
「問題は無いな」
俺はスタンドミラーを見つめ体を少し捻ってみる。
目の前には黒髪に黒い目。この歳になっても抜けない童顔。短い立て襟マントに、袴に似た構造の制服を着た、見慣れた少年が映っていた。
玫瑰秋 桜 十五歳
今日から夜刀学院に入学する者である。
俺は指定である革ブーツを履いて扉を開ける。
部屋を出ると、俺と同じ新入生である生徒達でごった返していた。
明るい未来についての雑談が沢山聞こえ、俺まで気分が明るくなる。
その雑談に耳を引っ張られながら階段を降りて、一階の食堂に向かう。
食堂はかなり広く、千人入るのではないかと思うほど広かったが、それでも入り切らないぐらい人が多く、俺は仕方なく寮の外に出る。
醤油や木、水蒸気、何かを焼いている匂いが意識しなくとも鼻の中に入ってくる。
その匂いはずっと室内で過ごしていた俺にとっては新鮮で、共にどこか懐かしく感じた。
これが和の匂いだっけか。
旅行雑誌に書いてあったんだよな。
寮の敷地を出ると優しそうなおじさんおばさん達が箒で掃除をしている。
学院都市は、〈都市ラゐテラ〉の中に、夜刀学院の校舎を中心に作られた街。
一般人も住んでいるし店もあれば観光地にもなってたりする。”学院都市”と言われているものの、普通の街と特段変わらないのだ。
基本的に学院の生徒は学院都市から出ることは出来ないが。
掃除をするおじいさん達の横を通るところで、声をかけられる。
「おやぁ新入生の子かな? おはよう」
「あ、おはようございます」
俺は話しかけられるとは思っておらず、怯みながらも挨拶を返した。
おじさん達は満足そうな顔で笑い、こっちの心も暖かくなる。
「朝早く登校なんて元気だねぇ。朝ごはんは食べたかい?」
「いや、食堂が混んでて……」
「そりゃ行かん! 学院へ行く途中に美味しい肉まん屋さんがあるんだ。これ割引券」
「えっ」
おじさんは俺が拒否する前に俺の手に無理やり割引券をねじ込む。
すると、掃除していた他のおじさんおばさんもやって来くる。
「あらぁ新入生? おばちゃんの割引券もあげる!」
「ワシのもやる! あそこの焼きもちは絶品で」
「ここの焼き鳥も」
気付けば俺の手には沢山の割引券や無料券で溢れかえっていた。
しかも驚くことにどれも食べ歩ける物だ。
「えっと、あの!」
一通りおじさん達に割引券を貰った後、結構大きな声で呼んだ。
おじさん達は何事かと俺の方を見る。
「ありがとうございます!」
俺がそういった後、後ろの誰かから背中を叩かれる。
「おうってことよ!」
「朝飯食うんだぞ!」
「行ってらっしゃい!」
「いってきます!」
フレンドリーなおじさん達の温かみに触れながら、俺は満面の笑みで夜刀学院への大通りを走り出した。
──桜の花弁が散っている。
学院都市の至る所に植えられた桜は、少しの風で数枚の花弁を落とす。
薄桃色と青色の空を眺めていると、あっという間に夜刀学院の校舎に着いていた。
「入学式」と書かれた大きな立て看板がある鉄の校門。
洋風の城のような校舎と、黒瓦を乗っけた和風の校舎が遠目で見える。
和風なのか洋風なのかイマイチ分からない感じが笑える。
門前で保護者と写真撮影をしている生徒を横目に、俺はレンガの床を踏みしめた。
校舎への道には桜の木が沢山植えられており、観賞用の小川に和風の橋がかけられている。
「御入学おめでとうございます!」
玄関の前には俺と同じ制服を着た人達が六名ほど並んでいた。きっと先輩方だろう。
門から玄関までは結構遠いが、焦らず景色を楽しみ、ゆっくりと歩を進める。
視界の八割を埋めるのは、咲いて間もない桜の花々。
散る花びらの数は少なく、空を見ると綺麗な絵の具で塗ったような、澄んだ青色がハッキリと見える。
期待、不安、喜びに安心。
沢山の感情が心の中でぐちゃぐちゃに混ざっている。けど、不思議と黒い負の感情はなく、白く綺麗な感情達が混ざっていく。
今の感情は一言で簡単に表せるようなものでは無いが、鼻につく言い方で表してみればきっと。
この桜の花々のように、遠目で見れば綺麗な白に見えているのだろう。
2.>>7