二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

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薄桜鬼  沖田総司
日時: 2011/01/30 17:20
名前: さくら (ID: w/qk2kZO)


初めて書きます。
下手ですがどうぞ読んでやってください。


こういう方はお断り。
荒らし目当て


沖田好きな方はぜひどうぞ。
基本的沖田ですが、時々他のメンバーも出てくるかも…?


温かい目で読んでやってください。

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Re: 薄桜鬼  沖田総司 ( No.85 )
日時: 2012/04/02 23:37
名前: さくら (ID: MOENhrWN)

はい、ここまでが番外編でした

ここからは少し二人をイチャつかせながら←
終章に向かっていきます
また温かい目で読んであげて下さい^^

Re: 薄桜鬼  沖田総司 ( No.86 )
日時: 2012/04/15 17:48
名前: さくら (ID: MOENhrWN)

将軍家茂公が江戸から大坂に流れ、それに習い幕府も拠点を大坂へと移す。相変わらず京都に長州藩士が潜伏し、緊張した空気が漂う十二月。時代の軋む音が聞こえてきそうな情勢の変化に流されそうになりながらも、新選組は伏見奉行所の警護を行うことになった。
総司は門を見張っていた。夜しか動けない彼は夜番を任されている。夜の警護は主に羅刹隊の勤めで、裏手と庭を平助や山南が警護しているはずだ。
警護と言っても特にやることもなく、総司はただぼうっと星を見上げていた。身を切るような京都の冬は未だに慣れない。感覚を失った指先をこすり合わせて、はぁっと息をかける。
すると背後から小さな足音が聞こえてきた。振り向く必要もない。この足音は知っている。

「沖田さん、警護お疲れ様です」

そう言って千鶴が総司の隣に立つ。その手には湯気がもうもうと立っているお茶があった。

「まだまだ寒いので、体には気を付けて下さい。これお茶です」
「ありがとう」

そう言って千鶴は総司に淹れたてのお茶を手渡す。毎晩千鶴はこうして夜の隊士にお茶を配り歩いている。もう日課といえるかもしれない。

「うん、温まるね。ちょうど熱いお茶が飲みたかったんだ」
「京都の冬は極寒ですしね」

隣で微笑む千鶴を見下ろして総司はずっと抱いていた疑問をぶつけることにした。

「ね、千鶴ちゃん」
「はい?」
「君はどうしていつも夜に起きてるのかな?」
「え?」

総司の質問の意味が理解できないというように、千鶴は小首をかしげる。

「羅刹隊の僕らは昼間寝ているからいいけど、君は昼間も寝てないんでしょ?こうして朝まで毎日僕らに付き合ってるけど、君は一体いつ寝てるの?今の君、顔色があまり良くないみたいだし。正直君が倒れたりしたら迷惑なんだけど?」

月明かりで千鶴の顔が青白いわけではない。色の失せた顔色は病床の頃の自分を思い出して、総司は総司なりに心配しているのだ。
応えに困惑している千鶴は言葉を途切れ途切れに紡ぐ。

「・・・申し訳ありません・・・ただ、私も何かお手伝いがしたくて・・・」
「・・・あーぁ。これじゃ昔と変わらないな、僕も」

総司が大げさに呟くと、そっと千鶴の手を取った。

「迷惑だなんて嘘だよ。ただ僕は君が心配なんだよ、千鶴ちゃん。無理をしてまで僕らに付き合うことはしないでほしいんだ」

昔のようについついいじめてしまう癖が抜けない。こうして彼女を困らせて今も楽しいと思ったりしている。これでは何も進歩はない。せっかく思いが通じ合えたのだからもっと違うかたちで彼女と接しなければ。

「手伝ってくれるのは嬉しいよ。熱いお茶をいつも僕は楽しみにしてたりする。でもね?それで君が倒れたら僕がつらいんだ」
「はい・・・」

お叱りを受けている子供のように、千鶴はうなだれる。彼女も新選組のために奔走したり、動いたりして役に立とうと必死なのだ。その努力は否定しない。ただ、総司は時々その姿が見ていられないのだ。周りばかりに気を遣い、自分のことを忘れているように見えてならない。

「ちょっと待ってて」

総司は駆け出してすぐ近くで警護している他の隊士に、ここと自分の警護場所を少しの間任せると伝えた。
戻ってくるや否や総司は軽々とした所作で千鶴を抱き上げる。

「っ!?沖田さん!?」
「はいはい、暴れない。もう立ってるのだってやっとなんだから、大人しく連行される」

なるべく警護の目がない道を通る。幹部の総司が千鶴を抱きかかえているところなど、平隊士の目に止まれば騒ぎになるからだ。
総司が向かったのは千鶴の部屋だった。玄関に入ってそのまま向かう。

「あの恥ずかしいです、沖田さん。自分で歩けますから」
「何で恥ずかしいの?何が恥ずかしいの?そんなこと言われたら放したくなくないなぁ」
「じょ、冗談はやめて下さい!」

他愛ないやり取りをしてると千鶴の部屋に着いた。そっと部屋に入って千鶴を下ろしてやる。
総司は何も言わずに押入れから布団を抜き出した。そしてそれを畳に敷く。

「今日はもう大人しく寝る。今日ぐらい休んだって誰も怒らないから」
「でも・・・」
「でもじゃない。はい、ここに入って寝る」

総司は有無を言わさぬ勢いで千鶴を布団の中に入らせる。千鶴は納得いかない様子で渋々従っているようだ。
千鶴の枕元で腰を下ろして、総司はそっと彼女の頭を撫でる。

「もう少し自分を大事にしなよ。見ているこっちがつらいくらい、君は頑張ってるから。だから今日くらい大人しく寝る」
「・・・はい」

よほど疲労がたまっていたに違いない。千鶴は総司の愛撫につられてすぐに眠りに落ちた。規則正しい寝息を確認して、総司はほっと安堵した。
自分に合わせて時間を割いてくれるのは嬉しい。けれどそのせいで彼女を追い込むことはしたくない。総司はその千鶴の健気さが愛おしくてたまらない。ただ、彼女を辛い目にはあわせたくない気持ちももちろんある。
安らかに眠る千鶴の額の髪を掻き分け、そっとそこに唇を落とす。

「おやすみ・・・千鶴ちゃん」

Re: 薄桜鬼  沖田総司 ( No.87 )
日時: 2012/04/19 22:07
名前: さくら (ID: MOENhrWN)

音を立てないようにそっと障子を閉める。総司はほっと安堵の息をついた。
彼女が自分を顧みず他人に尽くす性格は熟知している。だから今日こそはゆっくりと休ませてやりたかった。卒倒されて困るのは今や総司だけではない。新選組全体に影響が出る。彼女は役に立つ人材だ。もうこの新選組に欠かせない存在となっていた。
千鶴の部屋を振り返りながら、総司は元の警護場所へと戻る。

「・・・っ!」

どくんと鼓動が高鳴る。思わずその場で足を止めた。

「っ・・・ぁっ・・・!!」

鼓動が早鐘を打つとともに、全身の血が騒ぐ。急激に干上がった喉が血を求め始める。
その場に膝を着いて総司は発作をやり過ごそうとする。
千鶴を休めたかった理由はもう一つ。心配だったこともあるが、総司はこの発作をいつ彼女に知られてしまうかという見えない恐怖があった。このところ毎晩のように襲う発作を千鶴に見られたくなかったのだ。
知ってしまえば彼女は泣いてしまう。それだけは避けたかった。

「っ・・・はぁ・・・はぁ・・・っ」

最近では長時間の発作が起こるようになっていた。その苦痛は死んでしまった方が楽と思えるほどだ。
薬に頼る方法もあるが、その効果はほんの一時。すぐに苦痛はやってくる。
手の打ちようがない発作に、総司はただ一人で耐えてきた。
解決する方法はあるが、それだけは絶対にしたくない。

「血さえ飲めば・・・っ」

血さえ口にすればこの渇きも発作もなくなるだろう。だが、それだけはしたくない。人の血を口にするということは自分が人でなくなるということだ。人としての誇りを捨ててしまう気がして、総司は必死に耐えてきた。何より人の血を貪っている姿を彼女に見せたくない。知られたくない。
その一心で今まで堪えてきたのだからその掟とも言えるものを破りたくない。
総司はふらつく足を叱咤して立ち上がる。
こうして大人しくしていれば発作は収まる。総司は息を整えながら警護場所に向かった。

「総司!」

元の警護場所に戻った総司は声をかけられて振り返った。

「どこ行ってたんだよ、探したんだぜ?」
「あぁ、ごめん。ちょっと所用がね」

駆け寄ってきた平助は気さくに笑った。

「そっか、ならいいんだけど。総司、お前何か顔色悪いぞ?何かあったのか?」
「・・・何でもないよ」
「羅刹化か?」

目を伏せて応えた総司に、平助は恐る恐る尋ねた。

「つらかったらあんま無理すんなよ」
「無理なんかしてないよ。大丈夫。あれ?でも平助君はいつも元気そうだけど羅刹化はないの?僕より先に変若水飲んだよね」

あぁ、と平助は頷いた。その瞳は悲しみと苦痛に満ちている。

「羅刹化はしょっちゅうあるよ。でも俺人の血を飲むのは絶対に嫌だから耐えてるんだ。だいぶ苦しいけどな」

そう言って乾いた笑みを浮かべる平助は、孤りで戦ってきたのだろう。泣き出しそうな笑顔だった。
総司もその平助の心意気に同感した。

「僕も、そのつもりだよ。絶対に人の血は飲まない」
「つらかったらいつでも言えよ。休んでもいいかし」
「平助君に心配されるようじゃ僕も落ちぶれたかな?」
「ひっでー!人がせっかく心配してやってんのに!」

すっかりいつもの調子に戻った平助だが、また暗い影を瞳に落とした。

「・・・最近、山南さんの行動が変なんだ」
「変?」
「何ていうか、一人でどっか行く時も増えてるし・・・時々あの人から血の匂いがしてさ・・・」

最近の山南の様子は誰が見ても奇怪にしか見えなかった。
一人で過ごしていることも多い。ふらりと一人で出かけているいう報告もあった。何より最近は度が増して人を寄せ付けない空気を纏っている。一体何を考えているのかさえわkらなかった。

「まぁあの人にもいろいろあるのかもしれないけど・・・気をつけた方がいいかもね」
「あぁ・・・っといけね!俺も持ち場に戻るな!じゃぁ総司、あんま無理すんなよ!」

颯爽と駆け出して平助の背中は裏手へと消えていった。
その背中を見送って総司はふいに空を見上げた。月はもう傾き始めている。
ほうっと白い息を吐き出した。



その日の昼間のことであった。総司達羅刹隊が床に着いた頃。
一発の銃声が京の都に響いた。その一発の銃声で新選組が揺らぎ始めることなどこの時、まだ誰も知る由がなかった。

Re: 薄桜鬼  沖田総司 ( No.88 )
日時: 2012/04/26 19:30
名前: さくら (ID: MOENhrWN)

うるさい。
総司はうっすらと浮上する意識の中で思った。
外が騒がしい。人の喧騒、忙しない足音。それらが耳について総司は重い瞼を上げた。
警護が終わったのは日付が変わり、空が白み始めた頃だ。部屋の明るさを確認して布団に入ってからさほど時間は経っていないようだった。
総司は少し機嫌が悪かった。やっと休めると思っていたのにこうも騒がれると眠ることすら出来ない。
隊士達が稽古で騒いでいるのか。そう思って腰を浮かせて寝巻きを脱いだ。
部屋を出てしばらく廊下を歩いて、総司は目を細めた。
隊服を着用した隊士達が忙しなく走り回っている。その真剣な表情に何か嫌な予感がした。加えて奉行所内が重苦しい緊張感が漂っているのも感じ取れた。

「何・・・?」

眉を寄せて総司は取りあえず広間に向かった。広間に向かえば事情を知った誰かが居るだろうと思ったからだ。
そっと広間の障子を開けると、さらに重苦しい空気が肌を刺した。
総司はその空気と広間に集まっている面々を見止めて、眉根を寄せた。

「どうしたんですか、土方さん」
「総司か・・・」

広間には土方と休んでいたはずの山南、左之助と島田と千鶴だった。
総司が驚いたのは土方が広間に居ることだった。最近は外の仕事が多かったらしく、奉行所に姿はなかった。
その忙しい身である土方が難しい顔をして広間に居る。

「沖田さん、起きてきて大丈夫なんですか?」
「君こそちゃんと眠ったの?僕はこの騒ぎの理由を聞いたらすぐに寝るから大丈夫」

総司を気遣った千鶴をやんわりと受け流すと、土方の正面に腰を下ろす。

「こんな朝早くから何かあったんですか?不在だった土方さんがここに居るっていうこと事態、あまり良いことじゃなさそうですね」
「土方さん、帰ったぜ」
「おう、ご苦労」

総司の問いを遮るように新八が入ってきた。隊服を着ているということは外に出て行ったということだろうか。
新八は腰を下ろすこともせず、早口で言葉を紡ぐ。

「現場に向かってはみたんだけどよ、何も証拠はなかったぜ。くそっ」

新八は悔しそうに舌打ちをした。その所作の意味がわからず、総司は土方に向き直る。

「・・・何が起こったんですか、土方さん」

総司の問いで広間は静まり返った。重い沈黙が流れる。目を閉じていた土方はやがてゆっくりと口を開いた。

「近藤さんが襲われた。会合の帰路に着いたときだ。右肩を撃たれた。状況は芳しくない。今、山崎が手を尽くしてる」

土方の固い声音は、そこで終わった。
総司は頭を鈍器で殴られたような衝撃を覚えた。目の前が点滅しているように思える。

「相手は誰なんです!?」

我知らず大声で土方に怒鳴っていた。
土方はそんな総司にも動じず言葉を続けた。

「長州だ・・・今他の奴らにも調べさせている」
「護衛は、護衛はついていたんでしょう!なのに何でそんなことにっ」

土方に掴みかからんばかりの総司の腕を掴んだのは島田だった。
その巨体を縮めて島田は申し訳なさそうに頭を下げた。

「申し訳ありません。副長を責めんで下さい。非なら護衛でありながら近藤さんを護れなかった自分にあります」

深々と頭を下げる島田に一度目を向けて総司はすぐさま視線を土方に戻す。

「島田さんは悪くありませんよ。悪いのは護衛をもっとつけなかった土方さんです」

目の前で鎮座する副長を、総司は鬼の形相で睨んだ。こんな事態になって尚落ち着き払っている土方に、総司は殺意さえ沸いていた。

「沖田君。護衛を少なくして欲しいと言ったのは近藤さん自信で、土方君ではありませんよ」
「どうですかね。そうするように仕向けたんじゃないですか。どこかの誰かさんに口車に乗せられて。近藤さんは優しいから」
「総司!」

広間の空気が重くなる。怒りで総司は狂いそうだった。今すぐにでも近藤を狙撃した相手を八つ裂きにしたい衝動に駆られた。
何も言わない土方から目を逸らさず、総司は睨み続ける。

「・・・これで近藤さんが刀を握れなくなったら土方さんのせいですからね」

呪いのように言った。土方はただじっと目を閉じている。
それだけを言い残して、総司は入り口に立つ新八を押しのけて広間を出て行った。
その後を千鶴が追おうと腰を浮かせるが、原田に引き止められる。

「止めとけ。お前が行ったって今の総司は聞く耳もたねぇよ」
「・・・・・・はい」

千鶴は寂しそうに総司の背中を見送った。
広間の空気はその後も重苦しいままだった。

Re: 薄桜鬼  沖田総司 ( No.89 )
日時: 2012/08/03 14:42
名前: さくら (ID: cPNADBfY)

どうして。どうしてなんだろう。
外は朝日が昇り神々しい光で溢れていた。部屋の中も灯篭が必要ないほど明るい。
ただ、部屋の隅で腰を下ろしていた総司の心にはその朝日さえも届かない。未だに闇の帳が彼の心を覆っていた。
どうして、近藤さんが。どうして、土方さんは。
次から次へと胸に浮かぶ疑問符は彼の心を蝕む。
自分がもし近藤の護衛だったら。土方が近藤を護衛も付けず行かせなかったら。後悔、憎悪。どす黒い感情は津波のように押し寄せ、総司の思考を麻痺させていく。眩いほどの朝日が世界を満たして尚、その感情は浄化されることはない。

「どうして…どうして…」

ぶつぶつと虚ろな目で畳を見つめながら、総司は何かにとり憑かれたように呟く。

「一体誰が…近藤さんを…」

己の支えとなる人。尊敬する兄のような人を誰が撃ったのだろう。近藤の状況を直接見た訳ではないが、皆の反応やあの空気の重さからして、怪我の方はかなり重傷に違いない。
それを思うと、押し寄せる暗い感情とともに衝動が沸き起こった。
その衝動は総司を奮い立たせた。手に持つ刀に自然と力がこもる。
この暗い感情には覚えがあった。この衝動にも。
それはいつだったんだろうかと記憶をめぐる。総司の心を覆ってしまうほどのこの感情の波は、幼い頃にも起こっていたものだ。

「あぁ…きっとこれは…」

思い出した。
幼少の頃。試衛館に預けられ門弟となり、剣術を学び始めた頃。
師範である近藤に目をかけられていた総司は、他の兄弟子達から良く思われていなかった。そのためよく稽古だと称し、木刀でめった打ちにされたものだった。
その時総司の心を占めたのは憎しみと殺意。それだけだった。
今の総司に同じ感情が沸き始めた。それは堰を切ったように溢れ、奔流となって総司を急かす。
『やってやろう。もう一度あの頃と同じように…』と。
総司は静かに立ち上がった。闇を宿した瞳で。




どんな悲劇が起ころうとも、時は流れる。夜になり伏見奉行所の警護は羅刹隊の当番となる。
眠い目をこすりながら千鶴はそっと部屋を出た。
昨日の今日でまた羅刹隊の手伝いをしようとする彼女を見れば、総司は呆れて笑うかもしれない。
だが、どうしても気になることがあったのだ。
玄関に行き、草鞋を穿いて外に出る。すると奉行所内で各隊の点呼を取っていた平助と目が合った。

「千鶴!お前また起きて…」
「大丈夫、平助君。ちゃんと昼間に休ませてもらったから。それより、ちょっと気になることがあって…」
「気になること?」

小首をかしげる平助に、千鶴は不安げに頷いた。

「沖田さんが…」

その名前を出しただけで、平助は何のことかすぐに察せされた。
今朝の騒動は幹部全員に知れ渡っている。もちろん総司のことも。

「沖田さん、今朝部屋にずっと篭ってて…ご飯も持っていってもいらないの一点張りで…」
「本当かよ…ったくあいつは近藤さんが絡むと目の色変わるからなぁ」
「誰の目の色が変わるって?」

眉間にしわを寄せて二人が思案しているところに、突然背後から長身の影が現れた。

「わっ!総司、居たのかよ!」
「居たのかよって、僕も護衛なんだけど?」
「沖田さん、もう大丈夫なんですか?」
「何が?」
「何がって…」

いつもと変わらない笑みで質問し返され、千鶴は戸惑った。彼女の狼狽する様子を見て、総司は肩をすくめる。

「僕がいつまでも落ち込んでるとでも思った?そんなに僕は子供に見えるのかな?」
「い、いえ…」
「また夜になんか起きて、僕の昨日の心配はどうしてくれるのさ。僕なんか気にしないでさっさと部屋に戻りなよ」

千鶴の肩に手をそっと置いて、総司はそのまま歩き去ってしまった。
残された二人は総司の背中が見えなくなるまで見送っていた。

「なーんだ。いつもの総司じゃねぇか。心配して損したぜ。千鶴も見たろ?あいつ大丈夫そうだし、お前も休んでこいよ」
「うん…」

平助も仕事を思い出したのか、足早にその場を去っていった。一人になった千鶴はその場を動けなかった。

「沖田さん…」

朝、あれほど取り乱していた人が。昼、食事もとらなかった人が。どうして今何事もなかったように振舞えるのだろう。
千鶴の不満はなおも募る。
さっきの総司はおかしい。笑ってはいるが、それは本心ではない。偽もものの笑みが張り付いている。千鶴にもそれが透けるようにわかった。

「沖田さんは…何かを隠している…」

総司の瞳に色が点っていないことに、千鶴は気づいていた。
そのことが妙に気になって仕方がない。
千鶴は胸に疼く焦燥をなだめようと、もう一度小さく愛しい人の名を呼んだ。


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