二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
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- 薄桜鬼 沖田総司
- 日時: 2011/01/30 17:20
- 名前: さくら (ID: w/qk2kZO)
初めて書きます。
下手ですがどうぞ読んでやってください。
こういう方はお断り。
荒らし目当て
沖田好きな方はぜひどうぞ。
基本的沖田ですが、時々他のメンバーも出てくるかも…?
温かい目で読んでやってください。
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- Re: 薄桜鬼 沖田総司 ( No.115 )
- 日時: 2013/02/01 14:50
- 名前: さくら (ID: hRUsQYie)
子供に御伽噺を聞かせるように、総司は優しくゆっくりと語りだした。
「君に出会う前の僕は周りなんて見てなかった。周囲に何が起こったって関係ない。近藤さんさえいれば…てね」
もう出会って数年経つ。
当時出会ったばかりの総司の印象は最悪だった。捕縛された千鶴は恐怖に慄き震えていた。それに追い討ちをかけるような言動や行動をあえてとっていた総司は正直酷い人だと思っていたのだ。
だが、一つ屋根の下暮らし始めればそればかりでないことを知った。
冷たくあしらったかと思えばちゃんと面倒を見てくれたり、冷酷な言葉を吐いて距離を作っていると思えば最後には謝ってくれたり。
根は優しいことを知った。いじわるをするのは自分と距離をとるため。
近藤のこととなれば血相を変えること。実は寂しがりやで甘えん坊だということ。本人は認めないだろうが、千鶴は知ってしまった。
お互いを知っていくうちに、いつの間にか傍にいたという状況だ。
「でも、君に出会って僕の目に映る世界の色は変わっていった。色んなものを君を通して見て行くようになって、僕は変わったんだよ?それほど君は僕にとって新鮮で面白くて楽しくて…」
「…後半はからかっているんですか?」
千鶴は総司に背を向ける形で彼の膝の上に座っている。背中越しでも伝わってくる総司の意地悪い笑みに、千鶴は不満の声を上げた。
ふてくされる彼女をあやすように髪を手でそっと梳きながら、違うよと首をふる。
「いつからだったんだろうね…君を一人の女の子として見るようになったのは。こんなに誰かを愛おしいって思ったのは初めてだったから、戸惑って君につらい思いをさせた時もあったね」
総司の声音が弱々しいものになる。千鶴は気になって後ろを振り返った。
語り続ける彼の目には悲愴な色が浮かんでいた。
「沖田さん…」
「今回もそうだった…大切だとか言っておきながら、君を一番傷つけているのはこの僕なのに…」
総司はそっと千鶴を抱いていた腕を解くと、彼女を膝の上から下ろした。
総司の行動に戸惑って彼を見て、千鶴は息を呑んだ。
「君は優しいから。だから僕がどんなことをしても君は赦してくれるだろうけど…僕はそれじゃ気が済まない。そんな君に甘えちゃいけない」
総司は深々と頭を下げていた。彼が誰かのために頭を下げる姿など見たことがない。初めての光景に目を丸くしていた千鶴は総司の言葉に更に目を剥いた。
「ごめん…」
短い言葉なのにどうしてか胸に重く響いた。
その謝罪は何に対してなのか。あの晩千鶴を傷付けたことなのか、酷い言動のことなのか。それとも出会ってこれまでのすべての非礼を詫びているのか。
だがそんなことは千鶴にとってどうでも良かった。気にすることでもない些事だ。
心からの謝罪に千鶴は胸がいっぱいになった。
「沖田さん」
千鶴はそっと総司を顔を上げさせる。彼の顔にはまだ悲痛な後悔の色が残っていた。
「沖田さん。私、沖田さんにまだ言っていなかったことがあるんです」
総司は目を瞬いた。今の謝罪を聞いて何も思わなかったのだろうか。だとすればそれは自分の謝り方が間違っていたのかもしれない。総司はそう思ってもう一度口を開こうとしたが、千鶴の台詞に言葉を飲み込んだ。
「私、沖田さんが好きです」
思いがけない言葉に固まる総司にわかるように言葉を付け加える。
「私沖田さんに謝ってほしくて今まで傍にいたんじゃないんです。私沖田さんが好きだからです」
そう。もうずっと前から互いを好いていたはずだ。それは行動だけで伝わっていたし、それ以上何をすることもなかった。
だが思い返せば大切なことを言い忘れていた。
「今更遅いですよね。そう言えばちゃんと言ってなかったな、と思って」
「…あぁ…」
総司は息を吐いた。と同時に不安や千鶴への罪悪感がどこかに吹っ飛んでいった。彼女の言葉一つで一喜一憂してしまう自分は相当はまっているのかもしれない。
千鶴に考えていた謝罪の言葉全てをぶち壊された総司は笑いが込み上げる。
「全く、君って子は…僕の話ちゃんと聞いてた?」
「はい」
「場面とかきっかけとか…もうちょっと他のときに言っても良かったんじゃない?」
「はい。でも私笑っている沖田さんが好きなんです」
千鶴には恐れ入ってしまう。こうもあっさりと人の心を救ってしまうのだから。総司は参ったと手を上げた。
「降参だよ、千鶴ちゃん。せっかくちゃんと謝ろうと思ってたのに…どうしてくれるのさ」
「えっどうしてくれると言われても…」
突然責めらて千鶴はあたふたと慌てた。
こうやってじゃれ合うのも久しぶりで、総司は嬉しくなる。
「じゃぁ、お仕置きしないとね」
「えっ!わっ…」
強い力で引っ張られたかと思うと、その力に任せてやんわりと押し倒された。
もちろん総司は慌てて身を起こそうとする千鶴を逃さないために、上から覆いかぶさる。
「ねぇ、千鶴ちゃん。知ってる?」
「は、はいっ…」
急に近くなった総司の顔に羞恥心を覚えて耳まで顔を赤らめる。茹蛸のように赤くなった耳にそっと耳打ちした。
「今この屋敷にいるのは僕と千鶴ちゃんだけらしいんだよ。だから、誘った君が悪いんだからね」
「誘った覚えはないんですけどっ!!」
抵抗する千鶴だが、総司は放してやる気など一切ない。やんわりと彼女を押さえつける。
「逃げないでよ。僕も君に言いたいことがあるんだよ」
その総司の言葉に動きを止めた千鶴は目を瞬いた。
「…ありがとう。それから大好きだよ」
- Re: 薄桜鬼 沖田総司 ( No.116 )
- 日時: 2013/02/01 19:57
- 名前: さくら (ID: hRUsQYie)
はい。
何だか最終回みたいな感じですが、まだ続きます。
長い間更新していませんでしたね
これからぼちぼちとやっていきます^^
これからもっと総司には苦しんでもらって←
二人の愛を深めていってほしいですね
ではでは
- Re: 薄桜鬼 沖田総司 ( No.117 )
- 日時: 2013/02/03 17:36
- 名前: さくら (ID: hRUsQYie)
ちょいと箸休めに番外編でも
これはあくまで作者の腐った妄想ですので
「ないわ〜」ってなっても生温かい目で読んでください←
本当にお遊びです
今まで暗い話だったので
ではではお付き合い願えたら幸いです^^
- Re: 薄桜鬼 沖田総司 ( No.118 )
- 日時: 2013/02/06 23:47
- 名前: さくら (ID: hRUsQYie)
千鶴と総司のわだかまりが解け、穏やかな日々が続いた。山崎も二人の雰囲気を感じとり、険悪な空気がなくなったことに安堵した。
その間にも総司と同じく治療に専念していた近藤は何とか完治し、新撰組に復帰した。総司も気を揉んで時々床から飛び出そうとする。総司の傷はゆっくりではあるが、常人では異常な早さで回復に向かっている。
総司が急くのはわかるが、快癒しない限り外に出して戦場に戻らせるわけにもいかない。
焦燥に胸を焦がす総司を宥めることが千鶴と山崎の日課になりつつあった。
そんなある日。
身を切るような寒い日々が続いていた日だった。
千鶴は買い物のついでに総司の薬と包帯を松本の屋敷まで取りに行き、家路に着いた。
松本は毎日のように診察や世話を焼いていたが、所用で数日問診に行けないとの沙汰を受け、当分の薬と包帯を受け取りに行ったのだ。
「ただいま戻りました」
「おかえりなさい。外は寒かったでしょう」
厨で夕食の支度をしていた山崎が優しく出迎えた。
千鶴は玄関を通って厨に直接買出しの荷物を下ろしに来た。
「はい。京の寒さに比べればまだまだですけど、それでもやっぱり寒いですね」
「風をひかないようにして下さい。病人が病人を世話するなど本末転倒ですから」
「それもそうですね」
二人がひとしきり笑い合った後、千鶴は何かを思い出したかのように手を打った。
「あの、これを松本さんに頂いたんです」
「これは…」
千鶴が風呂敷から包み紙を取り出した。その包みを取り出しただけで香り高い芳香があたりに充満する。その独特の匂いでそれが何なのかすぐにわかった。
「酒粕ですか」
「はい。松本先生が寒いから甘酒にでもして皆で飲みなさいって下さったんです。今から私甘酒作りますね。多分沖田さん飲んでくれると思いますし」
千鶴は酒粕を手に釜戸に向かう。彼女の優しい笑顔に山崎もつられて笑みをこぼす。総司を思う千鶴の表情はとても優しく、山崎は彼女から幸せを感じていた。
「それでは自分は夕餉の準備が整ったので、沖田さんを起こしに行きます。膳はもう居間に運んでおきますので、雪村君も甘酒が出来上がったら来て下さい」
「はい。お願いします」
甘酒を作る時間などそうかからない。山崎はその場を任せて三人分の膳を持って居間に向かう。
居間に膳を並べて、次は総司の部屋に向かった。
朝と夜が反転している総司はこれからが起床の時間だ。千鶴も山崎も総司の生活時間に合わせて生活している。眠っている時間に総司が起き上がって無理をさせないことが本当の目的だ。
「沖田さん。おはようございます」
「…おはよう」
山崎は部屋の外からまず声をかける。珍しく起床していた総司は気だるそうに返事をした。
山崎は総司が起きているとわかると静かに入室する。
「起こしに来たのが雪村君でなくて残念、といった様子ですね」
「あれ、山崎君いつから人の心が読めるようになったの?」
「あなたの顔にありありと書いてあれば誰だってわかりますよ」
総司は起き上がって着替え始める。山崎はその間寝具を片付け、部屋を整理してやった。
「一人で着替えができるようになって良かったです」
「もういい加減、部屋の外に出してくれたっていいんだよ?」
「それはまだ早いです」
いくら着替えが一人でできるようになったからといって、完治していない体で外には出せない。加えて松本の了解がまだ下りていない。
総司とて体力を落としたくない気持ちはよくわかるが、まだ闘えるほどの体ではない。それが本人にとっては歯がゆいのだろう。
山崎も気持ちはわかるが、それはどうしても許可できない。
「はいはい。言ってみただけだよ。おはよう、千鶴ちゃん———ってあれ?」
「雪村君でしたら今甘酒を作ってくれていますよ。松本先生から酒粕を頂いたと言って」
「へぇ。甘酒かぁ…」
久しぶりに耳にした言葉だ。屯所にいた頃は酒は飲んでいたが、甘酒のような少し手の込んだ飲み物は誰も作らなかった。
こうも冷える夜だ。きっと久方に飲む甘酒は格別だろう。
「山崎君は甘酒、好き?」
「突然何ですか?」
二人は膳の前に座って千鶴を待つ。
「別に、ただ聞いただけ。あれって味が独特だから好き嫌いあるかなって思っただけ」
「自分は下戸ですので…酒の味はわかりませんが、甘酒は美味しいと思います。昔よく飲んでいました」
酒が飲めないという人でもあれは飲めるということもある。
総司がふぅんと頷くと、ふと顔を上げた。
「下戸と言えば千鶴ちゃんもそうだったよね。あの子飲めるの?甘酒」
自分が飲めもしない甘酒を彼女は作ってはいまいだろうか。酒が一切飲めないという人は甘酒も同じだろう。
「飲めるかどうかは知りませんが、沖田さんのために作っているようですよ」
「は?僕のため?何で———」
「それより、遅いですね雪村君」
もうだいぶ時間が経過した。今飲むくらいの量は出来たはずだ。
「僕が見に行ってくるよ。ちょっとは動かないと体がなまるからね」
腰を浮かせた山崎を手で制して、総司は立ち上がった。そのまま厨に向かう。
「千鶴ちゃん、甘酒って———」
厨に着いて総司は顔を覗かせた。だが、すぐに釜戸の前でうずくまる千鶴を見つけて弾かれたように駆け寄った。
「千鶴ちゃん!大丈夫!?どこか怪我でもしたの!?」
千鶴の顔を覗いて総司は目を瞬いた。
「おきたしゃん…?」
潤んだ瞳、火照った頬。それに何よりこの匂い。
「千鶴ちゃん、これ飲んだんだね」
気が付けば咽返るような甘酒の匂いが厨に充満していた。釜戸の火にかけられている甘酒を少し舐めて、総司は顔を顰める。
「うわ、これすっごい度がきついお酒じゃない…松本先生は何でこんなものくれたんだろう」
視線を落として千鶴を見ると地面にへたり込む千鶴の腕を引いた。
「とにかく千鶴ちゃん、お水でも飲みなよ。もう、下戸なんだから———って、わ!」
全身に力が入らないのか千鶴は力なく総司にしがみつく。総司はそれをとっさに支えた。
据わった目。火照った顔。呂律も怪しい千鶴はとろんとした瞳で総司を見つめた。
「あついです…沖田さん…」
そう言って千鶴は掛襟に手を伸ばした。
総司は嫌な予感がした。
- Re: 薄桜鬼 沖田総司 ( No.119 )
- 日時: 2013/02/09 18:39
- 名前: さくら (ID: hRUsQYie)
千鶴はそのまま掛襟に手を伸ばして煩わしそうに着物を脱ぎ始めた。
総司は目を剥いて全力でそれを阻止する。
「ちょっと千鶴ちゃん!?待って、暑いなら外に行こうよ!!ここで脱いじゃだめだってばっ」
千鶴の両手をがっちり掴んで総司は必死に訴える。だが、泥酔してしまった千鶴は聞く耳を持たない。その総司の行為の意味がわからない様子で、首を横に振る。
「いや…ここでぬぐ」
子供が駄々をこねるように千鶴は火照った顔を歪めて総司に抗議する。
千鶴の珍しい表情に目を奪われていた総司は我に返った。そんなことをしてしまえば自分の理性がどこかに飛んでしまう。今でも少し細い肩が見えかかっているだけでもどぎまぎしてしうのだ。上半身など脱がせるわけにもいかない。
「駄目だから!お願いそれだけはやめて!いい?外に行けば涼しいから外に行って体を冷やそうね」
「む〜…」
その場を動くことが嫌なのか千鶴は唇を尖らせる。熱を帯びる体をどうにかしたいのだろう。下戸である人間が酒を飲むとこうも酒の回りが早いとは知らなかった。
「甘酒だけでここまで酔うなんて聞いたことないけど…」
脱衣することを諦めたのか千鶴は渋々着物から手を放す。
総司は安堵してほっと息を吐いた。肺の中が空になるまで溜息をつくほど一瞬はらはらさせられた。
「じゃぁ千鶴ちゃん、山崎君が夕食待ってくれてるから行こ———」
総司が声をかけて立ち上がろうとした時、千鶴はやはり体の火照りが気になるのか袴の腰紐を解こうとしていた。
「ちょっと今度はどこ脱ぐ気!?それだけは勘弁してよ!」
総司はとっさにかがんで千鶴の手を取って、腰紐を締め直してやろうとするが。
「ふふふっ…」
「ちょっと、こっちは何一つ笑えないんだけど。何笑ってるの。ちょ、大人しくしてってば」
千鶴はにこにこしながら総司の首に腕を回して抱きついた。そんなことをされたら袴の前紐が結べない。手こずっていると千鶴は全身の体重をかけて総司を押し倒した。
「っ…千鶴ちゃん本当に笑えないんだけど」
頭を地面に思いっきりぶつけた総司は眉根を寄せて酔っ払いに抗議する。だが、泥酔した千鶴にそんな文句を並べても気にしていない。むしろ聞いていない。会話が成り立たないことが何よりも厄介だ。
総司を馬乗りにして上機嫌の千鶴はまだニコニコと笑っている。
そうして動いている間にも千鶴の袴が脱げそうになって、総司は千鶴に注意することを諦め、腰紐を結んでやろうと苦戦する。
「沖田さん、雪村君、甘酒は出来上がったんです、か———」
運悪く、山崎が痺れを切らして確認にやって来た。
そしてその惨状を目の当たりにして一瞬石のように硬直した。その次に真冬の風よりも冷たい目で総司を眼下に見た。
下になって押し倒された総司はまたがる千鶴の腰紐を解こうとしている。ように山崎の目に映った。
「山崎君?一応説明しておくけど、これは不可抗力で———」
「…自分は邪魔虫ですよね。お取り込み中失礼しました」
山崎は抑揚の無い低い語調でその場を去った。
「ちょっと!?助けてくれないの!?山崎君、何か誤解してない!?山崎君!」
どんなに叫んでも山崎の戻ってくる気配が無い。もうこうなってしまえば後の祭りだ。後で弁解しても聞いてくれないだろう。
「あぁ、もう…これ全部千鶴ちゃんのせいだからね?どうしてくれるのさ」
甘い眼差しで総司を見つめる千鶴の姿は酒の影響もあってか妖艶に見えた。乱れた着物も相まって総司は我知らず喉の奥が鳴っていた。
「…だめだ。酒気にあてられて僕までおかしくなりそうだ」
目元を覆って理性を呼び戻する一方で千鶴を押し倒してやりたいという欲情が邪魔をする。
総司はゆっくりと息を吐いて、どうにかその邪な欲情を追いやった。
以前。千鶴と和解した時、勢いで千鶴を押し倒したことがあった。だがあれは遊びのようなもので、それ以前に総司の体力が全快していなかった理由で“そんな気”は一切なかった。
だがしかし、もう快癒にも近い状態でそそられては理性が言うことをきかない。
「おきたしゃん…?」
手をのけると千鶴の顔が近くまで迫っていた。
あぁ。と総司は感嘆した。
目の前には愛しい人が居て、邪魔をするものは何も無い。何を躊躇うことがあるのだろう。
総司はゆっくりと手を伸ばした———
「って…そんなことするためにここに療養してるんじゃないんだ」
総司は千鶴の両肩を掴んで上体を起こさせる。そして千鶴の腰紐をぎゅっと結んでやる。
「はい。おふざけはここまで。千鶴ちゃん立てる?」
千鶴を自分の上から下ろし、そのままゆっくり立たせてやる。
千鶴は丸い目を総司に向けた。
「ちょっと寝たほうがいいのかもね。部屋まで連れて行ってあげるから、酔いが醒めるまでゆっくりしておいで」
千鶴の手をひいて総司は子供を諌めるように言って聞かせた。千鶴はただ黙って総司の後を歩く。こればかりは言うことをきいてくれて良かったと総司はほっといた。
千鶴の部屋に着くと総司は一瞬逡巡した。千鶴は意識が朦朧としている。それをいいことに勝手に、一応は女の部屋に男がずかずかと入っていいものだろうか。
総司が考えあぐねていると、千鶴はにこにこと障子を開けた。
そして入っておいでと手招きする。酔うと酒癖が悪く、子供っぽい行動をとることが今回よくわかった。
総司は遠慮がちに入って、布団を出してやる。なるべく部屋の中を見ないように気を遣って、千鶴に敷布団を指差す。
「はい。千鶴ちゃん、ちょっと寝たほうがいいよ」
「…」
敷かれた布団と総司を交互に見て千鶴は押し黙った。その顔から笑みが消えた。
「千鶴ちゃん?え、吐く?吐きそうなの?」
永倉や平助が泥酔して騒いだ後静かになるときは必ず吐くときだ。
千鶴もそれだと思って問いただしてみると、そうではないらしい。首を横に振った。ここにきてやっと会話ができたことに総司は胸を撫で下ろした。少し酔いが醒めたのだろうか。
「…やだ」
「え?」
小さな声で千鶴は呟いた。すると総司にすがる様に抱きついた。
子供が寂しがるように総司にきつく手を回している。
「千鶴ちゃん…?」
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