二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

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  *小さな初恋* 【inzm11】
日時: 2011/08/15 18:40
名前: 桃李 ◆J2083ZfAr. (ID: L6Qpujhg)



       (  幸せなんて、此処には無い  )


  */*ただいまアンケート実施中!ぜひお答え下さい^^>>219


  *Bonjour!
 初めまして、こんにちは。作者の桃李(とうり)です!
 この小説は、イナズマイレブン第二期【脅威の侵略者】編をベースにした夢小説です。主人公は女の子です。サッカーアニメなのに恋愛要素を含んでおります。苦手な方はスノーエンジェルでお戻り下さい^^
 荒らしやパクリ等はやめて下さい。ネット上での最低限のマナーはお互いに守りましょう。

【プチおまけ】>>18-19 【conte~*恋い慕う* >>27-28
【*background music* >>38】【Valentine∽*特別conte* >>83

【目次】


 プロローグ〜Un prologue〜  >>02
 オリキャラ紹介  >>04

 [ 白恋中編-2/27 完結 ]
>>05 >>6 >>07 >>08 >>9 >>10 >>11 >>12 >>14 >>20 >>25 >>26 >>29 >>30 >>31 >>32 >>33 >>34 >>35 >>36
>>37 >>43 >>44 >>46 >>47 >>48 >>51 >>53 >>57 >>60 >>61 >>64 >>67 >>73 >>78 >>79 >>86 >>87 >>88 >>89


 [ 漫遊寺中編-4/19 完結 ]
>>101 >>107 >>110 >>113 >>123 >>130 >>135 >>143 >>145 >>149 >>166 >>167
           

 [ 真・帝国学園編 ]
>>171 >>


 *参照1000突破記念企画* >>150
【物語目次】
>>157 >>158 >>161 >>174 >>175 >>178 >>185 >>189 >>211 >>229 >>226 >>232 >>245 >>246 >>248 >>249 >>251 >>252
>>254 >> >> >>

 *本編サイドストーリー*
【1400突破記念 珠香ver.】—* 届かぬ貴女の微笑みに *— >>139
【世界編予告】—* 忘れた夢が廻りだす、( 芽生えた"ユメ"を消し去って )*— >>199
【1400突破記念 紺子ver.】—* ぐっばい、えんじぇる *— >>204
【1500突破記念 吹雪ver.】—* The tears of the angel *— >>216
【2000突破記念文】>>253


 *その他*
【第一回アンケート!】>>219 [ 小説の続編についてなどです^^ ]


  *最終更新/記念企画/20110810*








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*【記念短編!】* ( No.157 )
日時: 2011/04/18 11:26
名前: 桃李 ◆J2083ZfAr. (ID: yCBA8YKv)
参照: 四月六日は士郎の日!



 ——昔々、まだ妖精が森に住み、魔女と人間が共生していた時代。とある小さな国に、お姫様が誕生しました。


 長らく子供に恵まれなかった王と王妃にとって、娘の誕生は、とても喜ばしいものでした。そこで王様は、城でパーティーを開くことにしたのです。そのパーティーには、姫の誕生を祝うたくさんの人々や、姫に送られたプレゼントが、たくさんたくさん集まりました。人間達だけでなく、王から招待を受けた魔女達も、お城へとやってきたのです。

 お披露目された姫に、魔女達はそれぞれ贈り物をしました。人としての暖かさ、本当の優しさ、恵まれた幸運。顔を綻ばせる王達の前で、順に魔法をかけていきました。

 そんな中、パーティーに招かれざる客が現れました。森の奥でひっそりと暮らす魔女が、パーティーに呼ばれなかったことを恨み、姫に悪い魔法をかけたのです。王様は長らく、その魔女に会っていなかったので、彼女の事をすっかり忘れていたのでした。魔女は、すやすやと眠る姫に悪い魔法をかけると不気味な笑い声を辺りに響かせ、姿を消してしまいました。


「娘が十四歳を迎える日、娘は糸車の針に指を刺し、短い生涯に幕を下ろすだろう!」


 残された王妃は泣き出し、王もがっくりと膝を床につけ、自分の失態を悔やんでいました。

 悲しみにくれる城内。一人の魔女が呟きました。

「私はまだ、贈り物をしていません。では、私は姫への贈り物として……———」

 彼女は、森の魔女よりは弱い魔女でしたが、姫にかけられた理不尽な運命への対抗策として、とある魔法をかけました。その魔法とは……——


*。+*。+

 金や銀の装飾がいたるところに見られる城内。豪華な柱が壁に沿って並び、歴代の王の肖像画が飾られていた。天空の世界を描いた高い天井には、国中から寄せ集めたガラス細工の名士に作らせたシャンデリアが、真紅の絨毯を煌びやかに照らしている。そんな城の中、この国の頂点に立つ人物の部屋へ向かう廊下を、一人の若者が歩いていた。
 長く伸ばした茶色い髪を、故意に縮め束ねた若者。真新しい革靴が絨毯を踏む度、蒼色のマントが靡いている。絨毯に負けないほど紅く、そしてどこまでも澄んでいる瞳は、王がいるはずの部屋を見つめていた。どこか緊張している面持ちだが、足取りは軽い。ドアの前で立ち止まると、コホンと空咳をし、重いドアを押した。

「ただいま戻りました」

 よく通る声で言い、そのまま歩みを進めると段の前に跪いた。マントの裾が床についていることにも気付かず、若者は真紅の瞳を伏せると、恭しくお辞儀してみせる。そして頭をあげると、ぎこちない笑みを浮かべた。

「早かったな、鬼道! 国民からの反発は、大丈夫だったのか?」

 太陽を連想させるような、そんな明るい表情で彼———国の主、円堂守は笑っていた。鬼道と呼ばれた少年を再度見つめ、「敬語はやめろって言っただろ〜?」と子供のように話しかける。鬼道は困ったように、それでも楽しそうに微笑むと、ゆっくりと立ち上がった。

「いえ、姫様の為と説得したせいか、表立った抵抗は見られませんでした。これも、王が国民から慕われている証でしょう」

 鬼道の言葉を聞いた円堂は、ほっと安堵の溜め息を吐いていた。どうやら、相当心配していたらしい。周りの召使たちも、それぞれ思ったことを口にしている。なんとも自由な人々だ。
 それはともかく。今回の令を国民が理解してくれたことに、円堂は心を暖めた。それほどまで姫を愛してくれているのか。幸せな王室だ、円堂は心の内で呟く。が、口元が緩み目元がにやけている様子では、心の呟きなど簡単にばれてしまう。鬼道は円堂の考えが読めたのか、呆れ気味に腕を組んでいた。

「さてと……じゃあ俺は、プレゼントの準備でもしてこようかな」
「え、まだしてなかったんですか」
「いや〜まだまだ先だと思ってたら、もうこんな時期になっちゃって……」

 ドタバタと部屋を飛び出していく王。召使たちも大慌てで後を追いかけていった。そんな様子を見て、含み笑いを漏らす鬼道。しばし部屋を眺め、それにしても、と疑問を抱く。

「呪いなど信じないと言っていたのに……今頃になって、"糸車収集令"を出すなんてな」

 今頃、城の裏手では、何の罪も無い糸車が炎に焼かれているのだろう。灰は、庭園の草花達の栄養剤にでも使われるのだろうか。しばらくぼんやりと物思いにふけっていた鬼道だが、忙しそうに走り回る召使の姿を見て、弾かれたように我に返った。
 もうすぐ、姫の誕生日会が盛大に開かれる。
 そちらに人事を注ぎすぎたせいで、軍指揮官の自分が休日とも関わらず、城下へと借り出されたのだ。早く自室に戻り、読みかけの本でも読もう。久しぶりの休日とあって、最近休めていなかった鬼道は、かなり遠くに位置する自室目指して、一歩足を踏み出したのだった。


 〜作者より〜
始まってしまいました記念短編!何だか長引きそうで怖いですw
結構、捏造ポイントも多いのですが……糸車でわかりましたか?元ネタの童話。
皆さん、知ってると思います。絵本などでたくさんあるのでw

まだヒロイン出てませんが、ゆっくり待って下さると嬉しいです^^*

*その2* ( No.158 )
日時: 2011/04/15 12:23
名前: 桃李 ◆J2083ZfAr. (ID: l6KRDtx2)
参照: 四月六日は士郎の日!




 駆け回る召使達とは一変、ゆったりとした歩調で歩く鬼道。面積は、他の国に比べたら小さいが、城は本当に大きい。しかも、内装は選りすぐりの名士を集めたのだ。美しくないはずがない。まるで城そのものがアンティークのようだ。建築物評論家は、口をそろえて城を褒める。王の手前、嘘でも言わなければならないのだろうが。それでも、建築物に詳しくない鬼道まで美しいと思わせるのだから、大したものだ。

「鬼道、ちょっといいか」

 後ろから名前を呼ばれ、鬼道は反射的に振り返る。そこにいたのは、白髪を立たせ、黒い切れ長の凛々しい瞳を持つ若者だった。城に仕える召使であり、同時に医師である少年、豪炎寺修也は、"無"に近い顔を珍しく歪ませ、腕を体の前で組んでいる。どうやら、困り事があるらしい。
 困っている人間を放置しておけるほど、鬼道は悪人ではない。関わらないほうが良い、と脳が危険信号を発するが、気付けば豪炎寺はすぐ傍にまで来ていた。

「何だ、豪炎寺。俺は忙しいのだが———」
「桃花の姿がない。見かけなかったか?」

 鬼道の最後の抵抗虚しく、言葉を無理に遮った豪炎寺は困り顔を見せる。

「お前……姫を呼び捨てするのは、いい加減やめたらどうだ」

 豪炎寺の問いに答えるよりも先に、鬼道は豪炎寺の態度を治そうと言葉をかけた。この男、豪炎寺修也は国一番の命知らずだ。いくら教育が遅れている田舎の子供だって、姫を呼び捨てになどしない。にも関わらず、本人の前で堂々と呼んでいるのは、コイツだけであろう。鬼道としては、円堂に首を刎ねられる前にと、何度も注意しているのだが全く効果が見られない。たまに、王に対しても失礼な時があるので、さすがにその時はフォローに回るが。
 彼の言い分は、「桃花に直接、呼び捨てにしてほしいと頼まれたから」らしい。しかし、目下の身分に対し緊張を解くような言葉をかけるのは、貴族、王室の身分に有る者のマナーだ。幾度と無く言い聞かせているものの、それでも彼は言い続ける。何度目かわからない溜め息を零すと、鬼道は本題へと戻る事にした。

「この時間は勉強しているはず……勉強部屋にいないのか?」
「そこにいないから、城中を探しているんだ」

 苛立ちの含まれた返事が返ってくる。それもそうだ、と自分に言い聞かせる鬼道に対し、豪炎寺の苛立ちは益々募っていくばかりだ。怒り気味に、そして不安そうに柱時計を眺めている。顎に手を置き、しばらく考えていた二人だが、ようやく答えを見つけたらしい。居心地の悪い沈黙は、瞬く間に吹き飛んでいった。

「たしか、ヴァイオリンが持ち出されていたな……」
「俺の予想が正しければ、姫は今頃———」

 駆け出した豪炎寺の背中を送り出す。恐らく、豪炎寺もわかっただろう。が、廊下の角を曲がった辺りで豪炎寺に再度、呼ばれる。どうやら鬼道までもが巻き込まれたらしい。重苦しい溜め息を吐き出すと、愛用のマントを翻し、目的の場所へと向かった。

Re: *小さな初恋* 【イナズマイレブン】 ( No.159 )
日時: 2011/04/06 20:02
名前: 絆(ほだす) (ID: ugb3drlO)

姫って・・・(藁))
鬼道くんが言ったらキモイw

はははッ!でも、分かるわ〜!!妄想少女。
私もあれだわ、友達に「変態」とか「変人」とか言われるもんww
「別の意味で、健全だよね」とかね!
うん。自重できないし!(藁))

うん!受験受かんのか?!まじ不安ww
勉強まじ嫌だーーーーッ!!

☆-(ノ゜Д゜)八(゜Д゜ )ノイエーイ
同志っすね!!

てか、キャラソンのCM流れてたな〜♪

Re: *小さな初恋* 【イナズマイレブン】 ( No.160 )
日時: 2011/04/09 20:36
名前: 桃李 ◆J2083ZfAr. (ID: Ph3KMvOd)
参照: 一日中外にいました。太陽眩しいよw

*ほだ

き、きもいとか言わないの!鬼道さんの出番、ここしか無いんだから!←

わかってくれる?……うわぁん、さすがほだ!(
しょうがないじゃん、妄想癖があるのはさぁ……だって、それしか現実逃避の方法がないんだもん(ぉぃ
そなの?wでもそうだよねw「変態は健全です」だよw

じゅっけーん!(おま
勉強は大変だと思うけど、ほだならきっと受かるよ!陰ながら応援してます^^

いえーい金欠っ!
でもでも、キャラソン案外カッコよかったよ〜!個人的には、風丸のやつが好きだな^^ いや、アイスロードも良かったけどw 歌の雰囲気的には、「舞い上がれ!」が好きですw

円堂のは可愛かった〜>< 豪炎寺は……シスkげふんげふん。鬼道さんもシスkいえ何も。吹雪はブラkちょ、やめうわああああああ!……染岡さん、「汗臭い」発言気にしてたんだw飛鷹はともかく、不動があんなキャラだとは思ってなかったよw自覚あるんだ、モヒカン。でもそんなこと、「海の広さに比べればちっぽけな話さ!……多分」

*続き* ( No.161 )
日時: 2011/04/09 21:34
名前: 桃李 ◆J2083ZfAr. (ID: Ph3KMvOd)



 息せき切って駆け続け、二人がたどり着いたのは城の裏庭にあたる森林である。涼しい影から急に、柔らかな陽射しが差し込む森に来たため、二人は自然に瞳を細めていた。そして目をこらし、影に隠れた少女の姿を探し始める。
 すると、突然耳に優しい音色が届いた。弦楽器の音であることに間違いは無いのだが、ひとくくりに弦楽器と言い表すには、惜しいもので。誰もが一度は立ち止まる、その極上の音色は、二人の探し人であることに違いない。城に仕える者しか知らぬその音色が、何よりの証拠であった。

「この奥か……」

 小さく呟き、面倒そうに歩き出す豪炎寺の背中を、しぶしぶ追いかける鬼道。革靴が芝を踏むたびに、暖かい春の匂いが鼻腔をくすぐった。小鳥のさえずりが、いつもより近くに感じられる。賑わう街とはまた違った魅力を持っているのが、人を支配し、また人の支配下に置かれている"自然"の特色なのだろう。
 足を進めるたびに近づく、美しい弦楽器の音色。聞き覚えのない曲だったが、彼女のことだ。また新しい曲を暗譜したのだろう。いつもは穏やかで、人よりもおっとりしているのだが、音楽となると彼女は脅威の記憶力を発揮するのだ。勉強も人並以上に育てられてきたが、今までに何人の家庭教師が、しっかりと使い分けされてきた記憶能力に溜め息を吐いてきただろう。家庭教師だけではない。身の回りの召使も、その被害者なのである。

「……あ、」

 鬼道は無意識に、ふと声を零す。紅い瞳の視線の先には、ヴァイオリンの演奏している少女の姿があった。柔らかな茶色の髪を肩までの長さに切りそろえ、薄桃色の瞳には幸福が映し出されている。布がたっぷりとあしらわれたドレスは、少女の品の良い立ち振る舞いを、さらに引き出していた。唇はにっこりと弧を描いており、楽しそうに華奢な身体を揺らしている。

 彼女こそ、もうすぐ十四歳を迎える一国の姫君————桃花なのであった。

 桃花は少年達の存在に気が付いていないのか、演奏を続けている。隣の切り株には、歳が近そうな女の子が二人、目を伏せて桃花の演奏に聞き惚れていた。小鳥さえ、さえずりを遠慮せざるを得ない。それもそのはず。この演奏は、限られた人間しか聞くことを許されていないのだから。

 いつしか演奏は終了し、ぱちぱちとまばらな拍手を浴びた桃花は、恭しく一礼した。表情は、達成感で満ち溢れている。鬼道はタイミングを見計らい、一歩足を踏み入れる。草が踏まれる音が聞こえたのか、桃花ははっとしたように振向き、見開いた瞳に驚愕の色を浮かべた。

「あれ……お二人とも、どうしたんですか?」

 自分が捜されていることを知らないのか、あどけない笑顔を見せる桃花に豪炎寺は厳しい口調で語りかける。

「桃花、勉強はどうした?」
「今日の勉強は夜からですよ。まだじゃないですか」

 きょとんとしながら首をかしげ、ヴァイオリンを抱えなおす。豪炎寺もこれには面食らったのか、深い溜め息を吐き出した。再度、視線を交差させると呆れたように話し出す。

「勉強時間が夜へ変更になったのは、明日の話だぞ? 今日は、いつも通りだ」

 豪炎寺の言葉を聞いた桃花は、しばらく俯いていた。が、小さく声をあげ顔を上げると、その表情は焦りに満ちていて。少し、いじめすぎたか。心の中で笑みを漏らす豪炎寺とは裏腹に、桃花はあたふたと慌て始める。

「珠香ちゃん、紺子ちゃん……ど、どうしよう。先生に怒られちゃうかも……」
「大丈夫だよ! だって最近、ヴァイオリン演奏してなかったんでしょ? たまに演奏してあげないと、"天使の歌声"が鈍っちゃうって!」

 "天使の歌声"。それは、桃花が所持するヴァイオリンにつけられた異名だが、確かにこのヴァイオリンはその名に恥じない音色を醸し出している。もう何百年も昔に作られたヴァイオリンだが、音色の質は落ちていない。さすが、この国一番の名手がつくった楽器だ。魔法がかけられているかのように、楽器自体の質も音色も全く褪せることがない。

「きっと先生も、わかってくれると思うな」

 先生、音楽大好きなんでしょう?
 穏やかな笑みを浮かべ、紺子はのんびりと呟いた。そんな紺子に、桃花は抵抗の言葉を投げかけたが、すぐに口をつぐんでしまった。今更焦っても仕方が無いことに気が付いたのだろう。ぼそぼそと謝罪の言葉を呟いている。

「謝ればきっと、許してくれるよね」
「そーだよ! もう何年、桃花ちゃんに勉強教えてると思ってるの?」

 珠香の言葉に返事は返ってこなかった。代わりに、ごそごそと楽器をケースに仕舞いこむ音が、静寂の波紋が広がる森に響く。ヴァイオリンを肩に背負い、空いた左手でドレスをつまむと、鬼道と豪炎寺に一礼し、一目散に駆け出した。慌てる姿にさえ品が感じられるのは、やはり育ちのせいなのだろうか。
 桃花の背中が遠くなっていく方向から、聞き覚えのある凛々しい声が響いた。澄んだ青空でそのまま染めたようなポニーテールが、不安げにゆらゆらと揺れている。桃花を探しているうちに緩んでしまったのだろうか。それでも風丸の表情は、明るい太陽のように晴れ渡っていた。安堵の色が紅い瞳に映し出される。

「おーい! 捜索、ご苦労だったなー!」
「ほっとしている暇なんて無いぞ、風丸。パーティー会場の最終確認も控えているんだからな」

 叫び返した豪炎寺は、何かを思い出したかのように振向き、鬼道の正面に立つと、

「協力に感謝する」

 と、短い礼を述べ、風丸のほうへと走り去ってしまった。取り残された鬼道は、一人呟く。

「……俺がここに来る意味は、あったのだろうか?」

 いつの間にやら、メイドの姿も消えており、本格的に独りぼっちになった鬼道は、乾いた笑い声を喉の奥から零すと、ゆっくりと目を伏せた。


 平和以外に表しようがない、今日この頃。誰が想像していただろうか。今、この時間にも姫を消すための魔法が、ちゃくちゃくと進んでいたことに。同時に、絡み合った運命を直すための少年が、悲しき夢を見たことに。


 ————国の向こうの大きな森で、闇色の魔女が、嬉しそうに微笑んだ。




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