二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
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- Pure love 君とずっと君と (テニプリ)
- 日時: 2011/04/04 13:56
- 名前: 扉 ◆A2rpxnFQ.g (ID: ycpBp.uF)
- 参照: 嘘とか嫌なんだ、つまんないこと言わないでね。
扉と申します。ちょっと前(?)まで亮でした^^
知ってる方いらっしゃったら、是非声を掛けてくださいなv
知らんわボケという方は、是非お友達に!!
受験という忌々しいモノを乗り越えたので、今度こそ長編を挫けず書きたいと思います。
すんごい駄文で、見るに堪えないモノですが←
どうかどうか、生暖かい瞳で見守ってくださいなb
題名は、純愛、という意味になるのですが。
スレ主は十八番が死ネタや狂愛なので、爽やかなものは期待しないでくださいね(ニコリ。
そして、扉の今までの小説のキャラが、総出演、てかんじですww←
というわけで。(どういうワケで?!
呼んでやるよこの野郎!!、という方は、どうぞー。
繋いでいた筈の手は、いつのまにかほどけていて。
後ろにいたはずの君は、振り向けばいなかった。
Characters
氷帝学園
▼小南 美波 ・・・・・・ >>002
▼小南 隼人 ・・・・・・ >>003
▼黒鳥 左京 ・・・・・・ >>004
▼春名 操緒 ・・・・・・ >>005
立海大附属
▼如月 棗 ・・・・・・>>033
青春学園
▼日向 葵 ・・・・・・>>008
▼一ノ瀬 香澄 ・・・・・・>>032
その他 ▼織原 リサ
▼リカ
Introductory chapter ・・・・・・ >>001
Chapter 1 思い出は儚く消え去る
>>009>>014>>015>>019>>021>>036>>043>>051>>055>>060
You only have to be gone. It is thought that it thinks so.
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- Re: Pure love 君とずっと君と (テニプリ) ( No.152 )
- 日時: 2011/08/05 17:13
- 名前: うっさー ◆vjRQHwZHsU (ID: iEhb5hB8)
はっはっはっはwwwww
見たぜwwww
ちょっと、ドキドキしたっ!!!
どうなんのかなー、
って思いながら、
ドキドキして待ってますwwww
>扉
- Re: Pure love 君とずっと君と (テニプリ) ( No.153 )
- 日時: 2011/08/07 01:25
- 名前: 扉 ◆A2rpxnFQ.g (ID: ByQjFP4v)
- 参照: http://id5.fm-p.jp/415/crazyray/
>うっさー
ドキドキしてくれてありがとーう!!
最近中々話が書けない(笑)
気長に待ってくれたまえ!!
>皆様
新しくサイトを立てました
嫌われ専用(?)サイトです。興味の在る方は↑のURLからどうぞ!!
- Re: Pure love 君とずっと君と (テニプリ) ( No.154 )
- 日時: 2011/10/03 16:06
- 名前: 扉 ◆A2rpxnFQ.g (ID: ByQjFP4v)
- 参照: ごめんねなんて、悲しいだけだね。
暑い暑い真夏のある日。
英国へ、幼なじみが旅立った。どれくらいで帰って来るかは、決まってないらしい。
おいおい、夏休み終わるだろぃ…。
変なんだ。アイツんち。
親父は、プロテニスプレイヤ−とかなんとか言って、一度も家に帰らずにアメリカでテニスに明け暮れてるんだぜ? そうかと思えば、今度は病院で入院してる兄貴置いて、母親は英国へ行くとか言い出したらしい。アイツ曰く、「お祖父様」に会うらしい。初めて許可がおりたらしい。じぃちゃん?じぃちゃんに会うのに、許可なんかいるのかよ? そう聞いたら、「さぁ」って言われた。
変なんだ。少なくとも、俺とは違う。俺んちとは、全く違う。
まぁ、でも、美波が俺の幼なじみで、1番大切な友達ってのは、変わらないし。別にアイツの家が変なことは、何の支障にもならないから、良いんだけど。
アイツも気にしてないみたいだから、構わないけど。
空港でだって、これから会えなくなるってのに、アイツはニコニコ笑ってやがった。いってくるね、お土産買うね、お手紙描くねって、笑いやがった。逆に俺が泣きそうになる。寂しくないのかよぃ。
そんな俺を見て、棗は笑いやがった。俺の幼なじみの女には、ろくな奴がいねぇな。
寒い寒い、冬のある日。
英国の幼なじみが、帰ってきた。
久しく手紙をよこさないから、苛々していた時だった。「来週帰ります」と、可愛らしい字で書いてある。日本語がつらつら並べてあるところを見ると、英語は全く身に付かなかったようだ。
アイツらしい。
きっと、アイツはまた笑顔で帰って来るんだろう。ニコニコ笑って、手にお土産でも抱えて走ってくる。俺と棗の手前で転けて、それでも笑うんだろう。
(帰ってくるの、楽しみだな)
うっかり棗にそう言ったら、また笑われた。
信じられなかった。
空港で見つけた幼なじみは、俺を見るなり泣き付いてきた。
泣き、ついた。
泣いていた泣いていた泣いていた。見間違い?そんなはずない。泣いていたんだ。俺を見るなり、すぐに泣いた。
誰だよ、誰だよ。誰だ。泣かせたの。
コイツを泣かせたの、何処の何奴だ。
因みに、美波は1人きりだった。
涙の理由なんて、聞いても答えてはくれなかった。聞いてはいけないことがある、そんな言葉を、美波から教えて貰うとは思わなかった。
俺は吃驚して、言葉が出なかった。
同時に、悔しさと悲しさと、切なさがこみ上げた。
もしかしたら、美波は、いつだって泣いていたのかもしれない。
“アイツらしい”なんて、外側だけで。本当はこの涙を、奥の方に隠していたのかもしれない。押しつけられた笑顔の下で、美波は泣いていたのかも知れない。
俺は決めた。
もう、求めない。
笑顔なんて、求めない。
——————
「……太、ブン、……————————————ブン太っ!!!!」
「うおわっ?!」
耳元で叫ばれ、意識は急速にこちら側に戻ってくる。どうやら意識を失っていたらしく、視界と思考がぼんやりして、まだ状況がはっきりと掴めない。ただ理解出来たのは、いるはすのない少女が、目の前にいること。
「美波?! お前、何で…っ痛、」
「あ、動かさないで、足切ったみたいなの」
「え、あ…」
自分の右足を見ると、痛々しく大きな傷が付いている。吃驚するほど血が出ていて、早く手当てしないと化膿してしまいそうだ。思わず、目で手を覆う。
美波も戸惑いながら、ポケットから包帯を出して手当を試みた。
「ごめんね、こんなことになっちゃって、巻き込んじゃって…」
その言葉に、ようやく理解が進んだ。
崖から落ちたのだ。ふたりで一緒に、洞窟の詮索中に。
青学を初めとする、全国大会で交流のあった強豪校で、強化合宿が行われていた。場所は、氷帝の榊が用意した、絶海の孤島。精神修養が目的らしく、半サバイバル状態での1週間を過ごすことになったのだ。
そんな時に見つけた、得体の知れない洞窟。これは調べるしかない!と、意見が一致し、詮索することになったのだ。想定外だったのは、メンバーにお互いがいたこと。美波は宍戸に連れられ、訳も分からず参加したのらしい。ブン太は嬉しさ半分、戸惑い半分で、美波に話しかけるなんて出来なかった。
そこで、美波が壁に寄りかかった刹那——— そこは崩れ始めた。
すぐに美波は、崖の向こうへと消えた。
1番遠くに立って、なるべく美波と目を合わさないようにしていたはずなのに、1番に反応したのはブン太だった。走り出したかと思えば、手を伸ばして、届かないと解れば一緒に飛び込んだ。ようやく掴んだ美波の手は、思っていたより小さくて、そして思っていたよりも強く握られた。
「俺のほうこそ、悪いな。結局助けてやれなくて」
よく助かったよな、と軽い笑い声をあげた。
「ううん。ごめん、こんな怪我まで… 痛いよね」
「大したことねぇって!」
「でも、」
俺たちってこんな会話しか出来なかったっけ?
こんなふうに言葉探さないと、間が持たないような関係だっけ?
あぁ、壊したのは、俺、か。
マネージャー業も手慣れたモノで、美波は手際よく包帯を巻いた。クルクルクルクル、器用になったものだ。
昔の美波、つまりはブン太と棗と、立海に通っていた頃の彼女からは想像もつかない手の動きで、跡部が仕付けたのがよく分かる。だが、やはり美波は美波で、止まらない血に焦って、思わずぎゅっと力を入れる。こちらが痛いのに、気がついていないようだ。
(痛ぇ)
そうは思ったが、ブン太は何も言わなかった。静かに、美波を見つめる。
柔らかな髪の毛、長い睫毛、白い肌に桃色に染まる唇。
見慣れていたはずなのに、隣にあるのが当たり前だったはずなのに、今改めて見るそれらに、心を奪われる。
こんなにも、懐かしく感じる。近くに美波がいることが、堪らなく嬉しい。不謹慎だが、ブン太は今の状況に少しだけ感謝する。こんなことでもなかったら、今身とは1度も口を効くことなく、合宿を終えていただろう。
話したいのに伝えたいのに、触れたいのに。彼女はどこまでも擦りぬけて、掴めない。目すら合わせてくれない。
あの日のことを謝りたいのに。
“さっさと消えろ”なんて、嘘だって言いたいのに。
本当の気持ちを、ちゃんと言いたいのに。
喧嘩別れした、あの日の翌日から、美波は登校しなくなった。通学路でも1度も見なくて、彼女が買い物をする店にもいない。——しばらくして、転校したのだと聞かされた。
急いで家に行ったが、美波の家は蛻の殻だった。
どれ程悔やんだだろう。どれ程悲しんだだろう。空っぽになった自分を隠すために、どれだけ笑っただろう。
そんな自分を見て、レギュラーたちは眉をさげた。
「痛ぇ……」
痛いのは、治らない。痛いのは、足なんかじゃない。
「あ、あぁっ ごめん、力入れすぎ、た、ね……」
美波は言葉を失った。まるで、空港でのブン太のように。
「ごめん、ごめ…… ———泣かないで、よ…」
ブン太の頬を、止めどなく流れるしょっぽい雫。
いつしか、美波の頬にも伝っていた。
「ごめん、ごめ、美波、ごめん、俺、」
涙が流れる代わりに、その分言葉が途切れ途切れになる。
伝えたいことがありすぎて、言葉がつまって、上手くいかない。
「俺、ごめん、俺あの日、本当は、ほんとは」
ブン太は俯いて、乱暴に腕で涙を拭った。
それでも、止まらず、何度も拭った。
摩擦で、彼の目の下が赤くなる。それを見て、美波は慌てて止めた。
「止めて、止めて、ブン太、ごめん、悪いのは美波、だからっ ブン太のこといっぱい、傷、つけて…っ」
しめったリストバンドを握って、美波は言う。
ブン太を1人にした。隼人を1人にしないために、ブン太を犠牲にした。
———こんなにも寂しがりだって、知っていたくせに。
「ごめん、ごめんなさい、」
ブン太は一生懸命首を振った。
「俺、俺が、ごめん、」
どれだけ謝れば、俺たちはあの日に戻れる?
「俺、ほんとうは、」
謝ったって、戻れない。
「一緒に、一緒にいたかった……っ」
伝えなくちゃ。
*
- Re: Pure love 君とずっと君と (テニプリ) ( No.155 )
- 日時: 2011/10/05 14:34
- 名前: 扉 ◆A2rpxnFQ.g (ID: ByQjFP4v)
- 参照: http://id5.fm-p.jp/415/crazyray/
>皆様!
お久しぶりです。スレ主、扉です!
ここも頑張って続けるーとか言いながら、やっぱり放置気味になっちゃてて、自己嫌悪です…。
しかし放置しているつもりはない。常時展開を脳内で妄想してるからな!←
そんなこの、“Pure love 君とずっと君と”ですが。
高校生になり部活もあり勉強もあり、で妄想を文章にする時間が全く見いだせません。
サイトの方から、携帯でもかけるには書けるんですが、なぜか内容が薄い物になってしまい(パソコンでも薄いけどな!)、納得のいく更新が出来ません。
そんな超個人的な物が理由ですが、この小説はまとめに入らせていただこうと思います!←
つまりは打ち切りにしようと思います!
>>154 から、最終章、とさせていただきます。
最終章の補足ですが…。
>>154にもあるように、始まりは絶海の孤島。ドキサバで王子様たちが訪れたあの島です。
ですが、ドキサバとは設定は異なっており、途中で船が座礁とか、そんなのはありません。あくまで孤島で合宿しているだけです。
時期は全国大会終了後、夏休み後半です。
参加校は、青学・氷帝・立海・四天宝寺・くらいしか出てこないとは思いますが、ドキサバに参加している学校はみんないます。
美波はゲームでいう、海側で行動しています。
洞窟の探検メンバーに組み込まれて、捜索中に同行します。しかし、洞窟の壁が崩れて出来た崖に、誤って転落してしまいます。そこを、ブン太が咄嗟に助けてくれたのですが、結果的に2人は崖の下に落ちてしまいました。
というあらすじが在れば、多少は解りやすいでしょうか…?
因みに、>>147-148と同時期です。
それでは、最終章へ突入しましたが、もうしばらく続きます。
最後までお付き合いいただけたら幸いです…。
- Re: Pure love 君とずっと君と (テニプリ) ( No.156 )
- 日時: 2011/10/09 16:48
- 名前: 扉 ◆A2rpxnFQ.g (ID: ByQjFP4v)
「おい、美波たちはまだ見つからねぇのか!」
跡部景吾の苛立ち混じりの声が響く。樺地は静かに、首を横に振った。
それを確認すると、跡部は小さく舌打ちを1つ。
日が暮れ始めた。雲行きも怪しい。小南美波と丸井ブン太が姿を消して、既に5時間近く経とうとしている。すぐに榊が救助隊を要請したものの、まだ見つけられていない。
今、跡部たち海側がいるのは、調理場だ。自室で待機するように、と榊から指示を受けており、海側も山側も、ほど全員自分たちのロッジで過ごしている。自分で待機だ、とはは指示を伝えたものの、1番居ても立ってもいられず苛立っているのは自分自身である。情けない話、微かに震える左手を押さえることが出来ない。
もし、帰ってこなかったら?
そんな嫌な言葉が、頭の中を駈け巡る。
「跡部くん」
聞き慣れない声が、自分を呼んだ。下を向いていた視線を上げた。
「……お前は、立海の」
「あ、知っててくれてるんだ。棗ッス」
「あぁ、」
美波の幼なじみで、立海のマネージャーとしてこの合宿のサポートをしてくれている少女。知らないはずがない。
大きめの立海ジャージを纏う少女は、その袖に隠れた白い手を出し、持っていたマグカップを跡部に差し出した。
「……なんだ」
「何だ、はないでしょ。どーぞ、コーヒー。あ、もしかしてインスタントとか飲めない?」
ははは、と軽い笑い声を上げながら冗談のような台詞を言うが、跡部がインスタントコーヒーなんてミスマッチにも程があるので、あながち冗談でもないのかもしれない。半サバイバルのこの島なので、跡部御用達のコーヒー豆などあるはずもないのだが。
暖かいコーヒーは白い湯気を放ち、薄暗くなり始めた調理場では妙に映えて見える。少し肌寒い。吐く息も白くなり始めた。
跡部は興味深そうに、インスタントコーヒーを眺め香りをかいでみたりする。ちょっと楽しそうに見えるのは、棗の気のせいだろうか。
「ど? 気ぃ紛れた?」
眉間の皺が消えたのを確認し、棗は言う。
そんな台詞に、跡部は我に返った。
「……大丈夫だよ」
この気持ちは、苛立ちだけではないのを、見抜かれていたらしい。
「お前、」
「美波の性格知ってんなら、大丈夫だって解るでしょ?」
「あ、あぁ…」
どうしようもなく莫迦。いつでもヘラヘラヘラヘラ笑って、調子の良いことばかり言って、深く考えるのが嫌いで、ついでに、宍戸同様本を読むのも苦手。行き当たりばったりで計画性がない割には、最後は良い方向へ無理矢理でもまとめやがる。それから、あきらめが悪くて、しつこい。全国の青学戦の時も、左京が押され始めたら一際煩かった。俺様が試合している最中も、ずっとずっと、氷帝コールを止めなかった。仲間思いで、優しい奴だ。
棗がそう言うから、跡部の脳内には美波の記憶が、幾度となく映し出される。よくもこんなに出てくる物だ、と自分でも呆れるほどに、彼女の記憶は多くて、そしてどこまでも鮮明だ。
「ね。だから、あんまり怖い顔しない」
ニッと歯を出して笑う棗の中に、また彼女を視てしまう。
幼い頃から、きっと自分は彼女の面影を追い続けていたんだろう。英国で別れたあの日から、ずっとずっと。また会えるよ、という彼女を信じた。
日本に来て、氷帝に入学して。1年経った頃、彼女は現れた。
“美波”なんて、少ない名前じゃない。赤の他人の可能性だって、充分にあったのに、あの日名簿を見て走り出した足は、美波だと信じて疑わなかった。思いがけない再会は、嬉しさと懐かしさと、同時に少しの誤差を運んでやって来た。
天真爛漫な笑顔を変わらず健在だったが、どうしてかその笑顔は空っぽに思えた。
自分の見てきた彼女は、本当に“美波”だったのだろうか。ブン太の言うとおり、上辺だけ見て、“美波”に、“美波”という仮面を押しつけていたのではないだろうか。彼女を、理解してやれていないのではないだろうか。
そんなふうに不安が渦巻く癖に、何も行動せず、只その笑顔に安堵し、自己満足を膨らませる。自分は、どうしようもなく我が儘だ。
そんな自分に、美波を想う資格は、あるのだろうか———
コーヒーを一口飲む。苦くて甘くて、どうしてか懐かしくなる味。
「美波はね、跡部くんの事、好きだと想うよ」
棗は思いがけない台詞を口にした。
「好きだから、言えないんだよ」
決して跡部と目を合わさず、棗は海を見ながら言葉を紡ぐ。
「笑っていたいって美波が望んだから、笑ってるんだよ。誰のためでもない、美波は、自分の為に、笑ってるの」
静かに耳を傾けた。返す言葉なんて見あたらなくて、唇をかむ。
この少女には、自分には見えない“美波”が見えているらしい。
それがちょっと悔しくて、でも、“見えない美波”に興味があって、やっぱり口を挟むことが出来ない。
「確かに、泣けないなんて、苦しいし、泣かない、なんて寂しいよね」
きっとこの少女は、俺と同じ立場だ。
「たまには、見せて欲しいよね」
淡々と、色のない声で言葉を紡ぐ。透明な声はどこまでも透き通っていて、跡部の中に静かに、それでいて強く大きく、響いて波を作る。どうしてか視界が滲んできて、情けないから俯いた。
彼女には、バレているだろうか。
当たりは完全に日が落ちて、真っ暗になった。今日の捜索は中止になった、と樺地が告げに来た。
その台詞に、跡部はまた眉間に皺を寄せたのだろうか。棗は跡部の肩を叩いた。
「その顔禁止」
無意識の表情に禁止と言われても、本人にはどうしようもないのだが。
何でも見抜く少女に、驚かされるばかりだ。
「煩ぇ」
「えー 人が折角心配して…」
「煩ぇ。てめぇはやまがわだろーが。さっさと戻りやがれ」
命令口調の跡部に、棗は満足そうに笑った。
「……なんだ」
怪訝な表情を浮かべると、ごめん、と謝る。
「跡部くん、その方が良いよ。うん、やっぱり、その方が良い」
彼女の言葉の意味がイマイチ掴めなくて、首を傾げた。
見上げると星空がどこまでも続いていて、切ないくらいに綺麗だった。今頃美波が、アイツと一緒にこれを見上げているかと想うと、別の不安が胸を過ぎる。
(俺様もまだまだだな)
同じように空を見る棗に視線を移した。
穏やかな瞳だ。凛々しく、何処か遠くを信じている。穏やかで、強い瞳だ。そんな彼女を綺麗だと、柄にも無いことを想う。
「なーつめ、」
抑揚のない声が、闇に響く。
「あらら、におクン」
「いつまでおるつまりじゃ… 帰って来い」
呆れたように言うのは、銀髪の少年仁王雅治。どうやら棗を迎えに来たらしい。
「真田怒ってる?」
「俺が怒っちょる」
「は?何それ?」
仁王は盛大にため息。
後ろから、棗の肩に両手を置き、自分たちのロッジへ誘導するように彼女を押した。電車ごっこの様な体勢を作る仁王に、棗はどこか腑に落ちない、という表情できょとんとしている。
そんなふたちを見ながら、跡部は小さく笑った。
他人の事には、ああも勘の良い彼女なのに、自分の事になるとなるで駄目らしい。仁王の奴も、苦労するはずだ。
「あ、跡部くんっ」
海の潮風に髪を靡かせながら、彼女はもう1度振り返った。
「美波の事、許してあげて!」
ニィっと、歯が見えた。
「莫迦なアイツを、許してあげて!」
どこまでも不器用なあの子を、許してあげて。
跡部はいつも通りの不敵な笑みを浮かべた。
「……当然だ」
奴が帰ってきたら、1番に何を言おう?
そうだな、まずは「莫迦」と、念を押すところからだ。
*
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