社会問題小説・評論板
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- 冷たい手
- 日時: 2009/01/27 19:28
- 名前: 蒼嵐 (ID: FCLyGM6a)
クリックどうも有難う御座います^^*
シリアス・ダークからやって参りました
蒼嵐と云う者です。
社会問題系で書くのは初めてですが、
頑張りたいと思います!
若くして母になってしまった
ひとりの少女をえがこうと思います。
*登場人物*
新井 優華
(あらい ゆうか)
※話が進むにつれて増えてゆきます
- Re: 冷たい手 ( No.68 )
- 日時: 2010/03/07 16:08
- 名前: 蒼嵐 (ID: oBZmVaf2)
高速道路を下りて約五分。
車が止まったのは小さな駐車場だった。
麻倉透と私は外に出る。
「行こうか」
施錠した麻倉透が歩きだした。
私はそれに一メートルの距離を置いてついてゆく。
出たのは明るい街。歓楽街。
麻倉透が振り返って手招きする。
「離れてると変なのに捕まるよ」
だからあんたが言えたことか、と、
心の中で毒づきながら私は小走りで追いついた。
いろんな人が歩いている。
ホステスやホストやその客、
酔った中年、目のイった若者、
私みたいな援交少女。
ふと、隣の麻倉透を見上げる。
横顔をこうして眺めるのは初めてのことだ。
高い鼻梁をしている。そしてまつ毛が長い。
真っ黒な髪の毛はつやがある。
私は無意識に、その少し伸ばした襟足にそっと手を伸ばしていた。
「何?」
その声で、私は手を引っ込める。
「別に」
視線をまっすぐ前に戻す。
「ふうん?」
麻倉透はいたずらっぽく微笑んで、
突然私を抱き寄せた。
何が何だか分からなかった。
行き過ぎていく人たちが怪訝そうな目で私たちを見る。
「優華、俺に触ろうとした?嬉しいねぇ」
「どうでもいいからとりあえず離してっ」
「んー?なんてー?」
「楽しそうだね、あんた達」
どこからか透明感のある、それでいて迫力のある声が聞こえてきた。
麻倉透は私を離そうともせず、
顔だけを声のするほうへ向けた。
私も同じほうを向く。
「邪魔しないんでほしいんだよねぇ、愛緒」
アキオ……。
淡い色の着物を着て、
真っ黒な髪を高く結い上げた若い女性だった。
高い鼻梁、長いまつ毛。
しなやかなその容姿は、この男によく似ている。
「邪魔してやんなきゃ、その娘がかわいそうだろう?」
麻倉透はやっと私を離す。
「優華、この人が俺の姉さん」
「はじめまして、優華ちゃん。透の姉、渡辺愛緒と申します」
渡辺愛緒さんは、
無駄のない動作で礼をした。
- Re: 冷たい手 ( No.69 )
- 日時: 2010/03/07 23:42
- 名前: 蒼嵐 (ID: oBZmVaf2)
「はい、どうぞ」
愛緒さんは私の前に温かいココアを出してくれた。
「……ありがとうございます」
私がお礼を言うと、
愛緒さんは綺麗に微笑んだ。
私が連れて来られたのは、
小奇麗な和風のバーだった。
店内はオレンジ色の明かりで照らされていて
温かい印象を受けた。
- Re: 冷たい手 ( No.70 )
- 日時: 2010/03/17 22:30
- 名前: 蒼嵐 (ID: QT5fUcT9)
「ゆっくりしていきな」
ふふっと、愛緒さんは笑う。
「透、あんたちょっとおつかいしてきてよ」
「んー、お断りしたいところだねぇ」
そんな麻倉透に、
愛緒さんは和服の袂から福沢諭吉を二人、
なんでもないように差し出した。
「生意気言うんじゃないよ。さっさと行ってきな。調理酒とこしょう」
明らかに大量のおつりがくる。
愛緒さんは出し惜しみしない大胆な人らしい。
「仕方ないねぇ。愛緒、優華に変なこと話さないでよ」
「はっ、誰が。あんたじゃあるまいし」
愛緒さんはシニカルに微笑む。
「何ー。愛緒まで俺を変人扱い?」
「いーからさっさと行きな」
半ば強引に追い出す愛緒さん。
麻倉透は渋々、諭吉をひらつかせながら店を出た。
店には私と愛緒さんの二人だけ。
愛緒さんはカウンター越しに私に話しかけた。
「変な奴でしょう、透」
私は手に持ったマグカップをことり、とその場に置いた。
「……はい」
言うと、愛緒さんは笑った。
「ふふっ、聞いてた通り。正直な子だね、優華ちゃん」
「……は、はぁ」
「いいよ、緊張しなくて。楽にして」
そうは言われても、
初対面で、年上で、しかも相当な美人ときたら、
緊張しないほうが難しい。
私の頭をなでている愛緒さんは、「聞いていた通り」と言った。
話した人間は麻倉透以外にいないだろう。
一体、麻倉透が彼女にどこまで話していて、
彼女が私のことをどれほど認識しているのかが少し気になった。
「あの……、私のこと、どれくらい聞いているんですか?」
「んー、ほとんど聞いてないね」
心の中で、転んだ。
「でも、いつも優華ちゃんの話ばかりだよ。『優華は可愛い』、『すごいツンデレ』ってさ」
ツンデレな訳じゃないんだけど。
麻倉透はプラス思考でそうとらえているらしい。
「教えてくれって言っても、『優華は俺のだから駄目』だってさ。だったら連れて来いって言ったんだ。思ってたよりも子供でびっくりしたよ。高校生?」
本当に何も聞かされてないんだと思った。
「いえ、中学生……中学三年生になります」
「ほぅ。だったら14、5歳か」
「はい。15歳です」
「透、いくつだか知ってる?」
「いえ、知りません」
そういえば、年齢に関して、
麻倉透が口を開いたことは一度もなかった。
「あの子は19だよ」
「じゅ……19!?」
驚きだった。まさか十代だったとは。
麻倉透が老けているわけじゃない。
ただ、感じさせる雰囲気というか、余裕というか、
そんなものがもっと年上に見せる。
「そりゃびっくりするよね。十代に見えないもん」
高らかに、愛緒さんは笑う。
「ちなみにあたしは29歳。結構歳離れてるんだ」
愛緒さんの年齢にも驚きだった。
その容姿から、二十代前半にしか見えない。
三十路を目前にしているとは到底思えない。
あ、そういえば。
と、私はあることを思い出す。
「愛緒さんとあの人はどうして苗字が違うんですか?」
- Re: 冷たい手 ( No.71 )
- 日時: 2010/03/18 00:02
- 名前: 蒼嵐 (ID: QT5fUcT9)
「んー?まぁ、あたしは結婚してるからね」
着物の襟で隠れて見えなかったけど、
愛緒さんは首から下げた結婚指輪のネックレスを見せてくれた。
「職業が職業だし、仕事中は指輪してるわけにはいかないからさ」
言って、ネックレスを襟の下にしまう。
「お子さん、いるんですか?」
「ううん。いないよ。彼はとても忙しい人だから」
「……好き、ですか?」
愛緒さんは少し意外そうな表情を見せて、
「そうだね。好きだね」
ふふっと笑った。
- Re: 冷たい手 ( No.72 )
- 日時: 2010/03/19 19:50
- 名前: 蒼嵐 (ID: QT5fUcT9)
「優華ちゃんは好きな人、いる?」
「……いません。男は嫌いです」
「おやおや。何か訳ありっぽいね。まぁ、それは聞かないでおくよ」
「……ありがとうございます」
「んーん。なんかあたしも聞いちゃってごめんね。あたしいい歳して恋バナすっごい好きなんだ」
少女のように愛緒さんは笑う。
とても可愛らしかった。
「んじゃあ、透がえらい迷惑かけてるね」
「いえっ、そんなっ」
あっ、と思った。
なんでこんなに否定してるんだ、私は。
「ふ〜ん。正直な子だね、優華ちゃん」
愛緒さんはいたずらっぽく微笑んだ。
「ち、ちがうんですよ〜」
「ふふっ。何が違うんだい?」
気づいたら、笑っていた。
とても久しぶりに笑った。
笑えることなんてなかったし、
笑い合える人もいなかった。
愛緒さんが相手だと、抵抗なく笑える。
不思議な人だ、と思った。
「んー、なんか楽しそうだねぇ。俺抜きで」
突然、店のドアが開いて、
少し不機嫌そうな顔をした麻倉透が
調理酒とこしょうを入れるには大きすぎるビニール袋を持って、
カウンターのほうに向かってきた。
「えー、だって女の子同士だもんねー」
「はいっ」
愛緒さんと私は顔を合わせて笑う。
「……女の子って歳でもないでしょ、愛緒は」
「んー、なんてー?」
「……。優華の笑った顔初めて見たよ。可愛いけど、笑うのは俺の前だけにしてほしいんだよねぇ」
微笑んではいるけど、
どことなく黒い、麻倉透の表情。
「なんであんたにそんなこと言われなきゃなんないのよ」
思わず立ち上がってくってかかると、
カウンター越しの愛緒さんがにやにやと唇を歪めていた。
「ちがうんですよっ」
「えー、何がー?」
麻倉透と愛緒さんは綺麗に声を合わせて言った。
こんな所までもよく似た姉弟だ。
「んじゃあ、今日は美味しいもんでも作ってあげようかね」
愛緒さんは着物の袖をまくる。
「材料、買ってきてくれたんだろ?」
「愛緒が二万も渡すからね」
麻倉透は大きなビニール袋を愛緒さんに渡す。
料理の材料を買うにしても、
やっぱり二万は多いと思った。
「優華ちゃん、ゆっくりしてってね。そして、」
少し間を空けて、とびきりの笑顔で。
「透と仲良くしてあげてねっ」
隣に立つ麻倉透を見る。
愛緒さんと同じ顔をしていた。
「俺と仲良くしてあげてねっ」
「…………」
なんだこの、面白い姉弟は。
「えー」
いたずらっぽく笑って、麻倉透に言ってやった。
そしたら麻倉透は、嬉しそうに私の頭をくしゃくしゃとなでた。
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