BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)

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初恋は君だった 【BL】 完結
日時: 2011/07/17 23:04
名前: 雲雀 (ID: VEcYwvKo)
プロフ: http://www.youtube.com/watch?v=QmCeiziScc0

■挨拶
初めまして、雲雀(ひばり)と申します。
訳あって、しばらくの間BL小説から離れていました。
今回の作品は、原作無しの完全オリジナルとなります。
お目をお汚しするものだと思いますので、清いままでいたい方は今のうちにお引き取りを。
尚、諸注意もありますので、かならずお読みください。



ⅠBLor薔薇orやおいor腐女子が分からない、または苦手や嫌い。
Ⅱオリジナルストーリーが苦手、または嫌い。
Ⅲ登場人物の挿絵が無いのが気に食わない。
Ⅳ「このCPは私の中では成立しない」
Ⅴ文才のない小説に興味がない、または読みたくない。
Ⅵ荒し、またはチェーンメール目的で立ち寄った。

以上の方は、お戻りすることをお勧めします。
感想やコメント、誤字脱字の指摘、アドバイスは喜んでお受けします。
否、作者が喜びで昇天します。

酷い文章になると思われますが、宜しくお願い致します。

■お客様
◇空木様 ◇マッカナポスト ◇祐希様 
◇つんさど ◇ぜんく様 ◇ぬこ(´・ω・`)様
◇クリックまたはこの小説を読んでくれたお方

■イメージソング
【夕立】奥華子
【戸惑い】藤田麻衣子

■更新記録
2/14(月)___スレ設立
2/14(月)___【登場人物】 更新>>1
2/14(月)___第1章 序幕 更新>>2
2/15(火)___第1章 終幕 更新>>5
2/16(水)___第2章 序幕 更新>>6
2/18(金)___第2章 終幕 更新>>9
2/18(金)___第3章 序幕 更新>>12
2/19(土)___第3章 終幕 更新>>15
2/23(水)___第4章 序幕 更新>>24
2/28(月)___第4章 間幕 更新>>27
3/5(土)___第4章 間幕Ⅱ 更新>>32
3/7(火)___第4章 終幕 更新>>39
3/13(日)___第5章 序幕 更新>>49
3/18(金)___第5章 終幕 更新>>56
3/20(日)___第6章 序幕 更新>>60
3/21(月)___タイトル決定
3/22(火)___第6章 間幕 更新>>65
3/26(土)___第6章 間幕Ⅱ 更新>>74
3/29(火)___第6章 終幕 更新>>78
4/1(金)___第7章 序幕 更新>>86
4/3(日)___第7章 間幕 更新>>93
4/8(金)___第7章 間幕Ⅱ 更新>>95
4/9(土)___第7章 間幕Ⅲ 更新>>97
4/10(日)___第7章 間幕Ⅳ 更新>>100
4/21(木)___第7章 終幕 更新>>101
5/7(土)___最終章 更新>>115

【完結】

ご愛読いただき、誠にありがとうございました。

■番外編
3/20(日)___番外編___イメージソングについて___(「夕立」歌詞) 更新>>58 
4/27(水)___番外編___ただ静かに想う___ 更新>>105
5/1(日)___番外編___僅かに残るぬくもり___ 更新>>106 
5/31(火)___番外編___犠牲___ 更新>>125 >>126
6/6(月)___番外編___消えない痕跡___ 更新>>127 
6/10(金)___番外編___記憶___ 更新>>128
6/12(日)___番外編___思い出___ 更新>>130
6/19(日)___番外編___花の便り___ 更新>>132
6/20(月)___番外編___第4章後日談___ 更新>>133
6/21(火)___番外編___想いが届くことはなく___ 更新>>134

唯達の意外な一面が垣間見えたり、飛鳥や伊織といったサブキャラ達の過去が明らかになったらり……。
そんなssを、番外編では書かせていただいております。
相変わらず酷い文章ですが、宜しければ、本編と一緒にお楽しみください。

■短編
6/26(日)___「好き」の代わりに「さよなら」を 更新>>135

唐突に思いついたネタを書きます。
といっても、これが最初で最後の短編ですけど。
GLで酷い文章でも大丈夫、という方はどうぞ。

Goodbye, the my first love.

>>116

Re: 初恋は君だった 【BL】 ( No.126 )
日時: 2011/05/31 22:34
名前: 雲雀 (ID: aU3st90g)

月明かりのみがその場を照らす森の中で、二人の少女の視線が絡み合う。
辺りを静寂が包んでいて、聞こえるものと言えば、時折吹く夜風の涼やかな音のみだった。

「また……泣いていたんですか……?」

飛鳥が、静かにそう訊ねた。
伊織は否定も肯定もせず、ただ、飛鳥の静かな瞳を見据え続けた。
そして、不意に口を開く。

「飛鳥は……あの人のことが、嫌いですか?」

辺りの静寂に溶け込むような声音。
しかし風の音に消されることはなく、飛鳥の耳に届いた。

「あの人……とは?」

彼女は質問には答えず、その上にまた、質問を重ねた。
夜風が、二人の間を駆け抜けていく。

「……彼の人(あのひと)の事です……」

伊織は夜空に浮かぶ月に、再び手を伸ばす。
白い指先が、月光を纏う。

「月の色は……彼の人の瞳の色にそっくりですね……」

それでもその指先で大好きな色を拒むのは、彼の人に会いたくなるから。
もう二度と叶わない願いを、呼び起させない為。
静かな色合いを含んだ伊織の瞳は、そう告げていた。
そんな姉の瞳を見るのは、感情を押し殺してきた飛鳥でさえ、辛かった。

「____________忘れようとは……思わないのですか?」

突然吹いた風が、足元まで届く飛鳥の長い髪を揺らした。
その唇が象った言葉の意味。一度愛した人を、記憶から消すという事。
伊織は静かに、首を横に振った。

「忘れようとは思いません……たとえ忘れたとしても、一度でも愛したという事実は、永遠に消えませんから……」

そう言って淡く微笑み、「それに」と付け足す。

「私は今でも、彼の人のことが大好きですから……」

伊織の紅と琥珀の瞳から、透明な雫が零れ落ちたのは、幻覚ではないのだろう。
今でも一途に想い続けているというのだろうか。
もう二度と、相見えることさえ叶わぬ人を。

飛鳥はそんな思考を巡らせ、胸が締め付けられるような感覚に襲われた。

「……っ……」

どうして、と思う。
どうして、姉はあの人を愛したのだろう。
どうして、愛しいと思ったあの人と、共に歩むことを選ばなかったのだろう。
どうして、今でも彼だけを想い続けているのだろう。
どうして、どうして、どうして____________________________________



「どうして…………っ」

その言葉を紡いだ飛鳥の瞳から、涙が零れ落ちた。
頭の中で次々と疑問は浮かぶのに、胸を締め付ける『何か』が邪魔をして、上手く言葉に出来ない。

「飛鳥……」

伊織はゆっくりと飛鳥に歩み寄る。
この世でたった一人の肉親で、大切な妹の元へと。

「私は……あの人なら姉さんを幸せにしてくれると思いました……。心から、姉さんを愛していたあの人なら……」

飛鳥はひとつひとつ言葉を探しながら、自分の思いを告げていく。
その行為は、彼女にとって、初めてのことかも知れない。
飛鳥の言葉を最後まで聞き届けるかのように、伊織が彼女の目の前で歩を止める。

「でも結局……あの人は姉さんを悲しませることしかしなかった……」

否定の言葉はない。
頬を止めどなく伝う涙のせいで視界が滲んで、伊織の表情を読み取ることが出来ない。

「私は……っ、姉さんに幸せになってもらいたかった……!!姉さんが幸せになれるなら、この命を捨ててもいいと……っ」

頭に浮かぶのは、あの優しげな彼の横顔。
その隣で幸せそうに笑う姉さん。
どうして今ここに、それがないのだろう。

「私は……っ……私……っ……は……」

すぐ傍に、優しい姉さんの気配を感じた。
温かくて、切なくて……私の大好きな、姉さんの気配を。

「私は……姉さんを幸せに出来なかったあの人が大嫌いです……」

そう言って、まるで力尽きたかのように、飛鳥は伊織の腕の中に倒れ込む。
伊織は飛鳥を腕に抱いて、ただ小さく呟く。

「ごめんね……飛鳥……ごめんね……」

それは何に対しての謝罪なのか、飛鳥には分からなかった。
ただ分かるのは、姉さんが私を抱き締めていてくれて、どこか泣いているようだということだけ。
私の髪を優しく梳きながら、「ごめんね」と、姉さんは何度も何度も繰り返した。



私は、姉さんの心を奪ったあの人が大嫌いだった。
でも、感情を押し殺していたせいで、そんなことも分からなかった。

じゃあ、私の心を奪ったのは誰?
両親でもなく、姉さんでもなく、あの人でもなく____________

そもそも私に、心と呼べるような代物はあったのだろうか?
あるとするならば、それは空虚だけで満たされているような気がする。

ああ、そうか……私の心を奪ったのは、私自身だったのか。
自分自身で感情を殺し続けたから、自分のことさえ分からない。






自分で自分に鎖をかけたあの日から、私の心なんて、この世のどこにも存在しなかったのかもしれない。

Re: 初恋は君だった 【BL】 ( No.127 )
日時: 2011/06/06 21:13
名前: 雲雀 (ID: aU3st90g)
プロフ: 「もう一度」より

番外編___消えない痕跡___

彼の訃報が届いてから、もうどれくらいの時が過ぎたのだろうか。
悲しくなかったわけではない____________が、その時の私が、涙を流すことはなかった。
特に理由はない。ただ私の瞳から、涙が零れ落ちることがなかっただけだ。
そんな私を、飛鳥は心配してくれた。
きっと、無理をしていると思ったのだろう。優しい妹に私は、「ありがとう」と、「大丈夫だよ」とだけ伝えた。
切なさを湛えた飛鳥の瞳だけが、今でも鮮明に思い出される。
私の幸せを心から願ってくれる妹を、私は傷つけることしかできなかった。







彼は数年、病を患っていたらしい。
その事を知ったのは、彼と別れる直前のこと。
もう長くは生きられないから、そういう理由だった。
それでも私は、彼の傍にいたかった。たとえ別れが迫っているのだとしても、残された時間を、彼と共に生きたかった。
でも……彼はそれを拒んだ。そんな、ほんの少しのすれ違い。
その時、私の頭を優しく撫でてくれたね。優しく撫でながら、抱き締めてくれた。
最後の時まで、あなたは私のことを愛し続けてくれたね。
そんな誠実さが、大好きだった。







「伊織」

そう私の名前を呼びながら、優しく髪に触れてくれる人だった。
後ろから抱き締めてくれたこともあったね。
「好き」と伝えた後に、はにかんだ笑顔を見せてくれたこともあった。
優しく手を握ってくれて、一緒に歩いてくれたこともあったね。

そんな風に優しくて、温かいあなたを、今でも忘れられないんだ。
二年経った今でも、変わらずに。

私を呼ぶ優しい声が、今でも耳に残っているから、まだ全ては受け入れられない。
あなたを亡くしたことや、もうその優しい声を聞けないこと。
もう二度と、その優しい温もりに触れられないこと。
その全てが、もう二度と叶わないことなら、せめて夢の中で、恋人だった頃の優しいあなたに逢わせて。

一緒に過ごした何気ない時間を、こんな風に今でも思い出すんだ。
あなたにもう二度と逢えないという事実は、まだ受け入れられない。
でももう、そんなことさえ叶わないんだね。

____________あなたの口癖。私の髪を撫でながら、「やっぱり伊織だ」って言うことだったっけ。
どういう意味なのか聞いても、答えてくれなかったね。ただ、優しく笑うだけだった。
時々そんなあなたを真似てみて、少しだけ笑うの。
でもやっぱり、あなたの言葉の意味は今でも分からない。
その声で、もう一度だけ、そう言ってほしい。

どんなに拒んでも、別れを告げなければいけない時は来るんだね。
それでも、あなたと過ごした時間は永遠だから。
あなたを想いながら、飛鳥と一緒に、前を向いて進んでいくから。
だから、どうか。
苦しみのない、優しいあなたのような世界から、私を見守っていてね。
何度生まれ変わっても、あなただけを好きになれますように____________
頬に伝った雫を、風が静かに攫っていった。

Re: 初恋は君だった 【BL】 ( No.128 )
日時: 2011/06/10 20:56
名前: 雲雀 (ID: VEcYwvKo)

番外編___記憶___

「お兄ちゃん」

そう呼ぶと、目の前にいる長身の少年がふり返った。
自分の姿を認めると、口元に自然な孤を描き、「おいで」と手招きしてくる。
その人の元へと走っていって、差し出された自分よりも大きな掌を握る。
自分の掌と同じくらいの温度をもつその掌が、安心されるように握り返してくれた。

「迎えに来てくれたの?」

そう言って、あいている方の手で頭を撫でてくれる。
撫でた本人を見上げれば、先程と同じように薄く微笑んでいた。
無言のまま頷くと、その人は嬉しそうに、「ありがとう」と言った。

「じゃあ、帰ろうか」

その人に手を引かれ、家路を急ぐ。
陽は傾き始めていて、空を紅と蒼のグラデーションが見事に彩っていた。

自分を気遣ってなのか、その人の歩くスピードはゆっくりめだ。
歩幅をきちんと自分に合わせてくれている。
そのおかげで、自分はそんな美しい空を存分に眺めることができた。

「きれいだね」

美しい空に溶け込むような凛とした声で、その人は言った。
再びその人の顔を見上げれば、少し寂しげな瞳で、空を見つめていた。
「寂しいの?」そう聞こうとしても、自分の唇から声は出ない。
せめて、と思い、その人と繋がっている掌を先程よりも強く握る。
ほんの少しだけ、その人の表情が穏やかになった気がした。
そしてお互いに強く握る。まるで、存在を確かめるように。

____________時は夕暮。天気は快晴。
茜色に染まる帰り道を、手を繋ぎながら歩いていく。
まだこの先に別れがあるなんて想像もしていない頃。



____________お兄ちゃん。



そう呼べば、いつだって振り向いて、自分に笑いかけてくれた人。
その人は、もういない。

「お兄ちゃん」

無意味だって分かっていても、呼んでしまう。
たとえそれが、叶わなくても。

「お兄ちゃん」

兄の運命を決めたのは誰?
たとえ逆恨みになったとしても、その人を憎みたい。

「お兄ちゃん……」

もうその名を呼ぶことにも疲れた。
どんなに呼んでも、声は止まらない。

「おにぃ……ちゃん……」

目から頬を伝って流れてくるこの熱いものはなんだろう。
拭っても拭っても、拭いきれない“何か”。

「おに……ぃ……ちゃん……」

その人の掌を握ってみた。
いつの日にか繋いだ、あたたかい掌を。
それにぬくもりはなく、ただただ冷たくて。

「お兄ちゃん」

声は止まらず、涙は枯れず。
もうどれほど、逢いたいと願っただろう。
でももう、そんな願いは叶わないから。

「ありがとう」

ありがとう。無知な自分に、ぬくもりを教えてくれて。
ありがとう。何をしても、許してくれて。
ありがとう。何も言わなくても、信じてくれて。
ありがとう。何も伝えなくても、愛してくれて。

大好きだったよ。
でももう、「さよなら」って言うね。

「さよなら____________」

そう言って、冷たくなった掌を離した。

____________唯。

自分を呼ぶ大好きな声が聴こえたのは、幻聴だろうか。
思わず目を見開いて、その人を見つめる。

「おにぃ……ちゃん……?」

返事はない。
在るのはただ、静寂のみ。

「……ばいばい」

そう言って、その部屋を出ていく。
もう、名前は呼ばない。もう、後ろは向かない。
もう、誰も愛さない……____________

だって愛しても、別れは来てしまうから。
それならば、最初から愛さなければいい。
そうすれば、悲しむことも、苦しむことも、全て消えてなくなる。

自分の心を闇という深淵に沈め、少年は再び歩き出す。
それは誰も知らない、少年の哀しい決意の物語。

Re: 初恋は君だった 【BL】 ( No.129 )
日時: 2011/06/12 11:01
名前: 雲雀 (ID: VEcYwvKo)

えーとですね、悪い予感がした方、もう一回だけいいですか。
修哉誕生日おめでとぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!

6/12、我が愛する息子、修哉の誕生日なんです。
2回目ながら、そもそも知らねぇし興味ねぇよって方、誠に申し訳ありません。
でも祝わずにはいられなかったんです。発狂癖、なおせなくてすみません。

Happybirthday!!Dear Syuuya!!
誕生花は「ライラック」、花言葉は「友情」……。
リラという名前でもおなじみだそうです。次いで、札幌市の「市の木」に指定されています。

はい、御免なさい……ッ!!バンバンスルーしてくだい!!
以上、修哉生誕祭でした。

Re: 初恋は君だった 【BL】 ( No.130 )
日時: 2011/06/12 13:27
名前: 雲雀 (ID: VEcYwvKo)

番外編___思い出___

『葵の名前はね、この植物からきているのよ。この植物、とても綺麗な花を咲かせているでしょう?あなたの心が、この花のように美しくありますようにって、お父さんと一緒に考えたの』

いつの日か、母はそんなことを言っていた。
とても嬉しそうに、昔を懐かしむように。
だから自分は、「葵」というこの名前が好きだった。
両親がつけてくれた、大切な名前だと知ったから。

______でも、母を亡くした今。
そう思うことは救いでもあり、苦しみでもあった。
もし両親が自分を「葵」と名付けてくれた日に戻れるのならば、自分はまだ、両親の優しいぬくもりの中にいれたのだと____________
叶わないことだと理解していても、願わずにはいられなかった。







一度だけ、両親と植物園に行ったことがある。
その日はたまたま母さんの体調が良くて、せっかくだから、という理由だった。

「____________ほら、葵の花よ」

母さんはそう言って自分を抱きあげ、ひとつの植物を自分に見せた。
『タチアオイ』____________そう看板に表記された、白くて綺麗な花だった。

「葵の名前はね、この植物からきているのよ」

「この植物から?」

彼女は静かに頷くと、あいた方の片手で、その白い花びらを壊れものに触れるような手つきで撫でる。

「この植物、とても綺麗な花を咲かせているでしょう?あなたの心が、この花のように美しくありますようにって、お父さんと一緒に考えたの」

そう言い終えてから、薄く微笑んだ。

「この花……帰りに買って帰ろうか。ちょっと大きいけど……葵はどこに飾りたい?」

そう問われ、自分はこう即答した。

「母さんの病室!!」

「え……どうして?」

「だってこの花、僕の花なんでしょ?学校があって、毎日は母さんに会いに行けないから、だから花だけでもって思ったの」

そう言って笑えば、母さんはその目に涙を溜める。

「母さん?どうしたの?」

母さんの方に体をよじると、優しく抱きしめてくれた。

「ありがとう……葵……ありがとう……」

幾度となく繰り返される感謝。
この感謝の意味は、この頃の自分にはまだ、分からない。







『タチアオイ』
花言葉は、「大望」「大志」「気高い美」「高貴」。

母さんの病室に飾られていた花は、とても綺麗だった。
でもごめんね、母さん。
俺はあんなに、綺麗な心はもてそうにない。
でも、父さんと母さんがくれたこの名前だけは、大切にするね。
ありがとう。

『葵はこの世でたった一人の私の大切な子供よ。ありがとう、生まれてきてくれて。ありがとう、私の子供として生まれてきてくれて』

母さんの言う「ありがとう」は、いつだって優しくて温かかった。
ありがとう。俺を母さんの子供として生んでくれて____________

「ありがとう」

これからもずっと、あなただけの子供だよ。


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