BL・GL小説 (オリジナルで全年齢対象のみ)

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【銀魂】腐小説おきば
日時: 2014/03/25 23:22
名前: もるたん (ID: T8WGJY2W)

銀魂の腐小説おきばです。

オリキャラも出ます。

長州寄りの話が多くなるかと思います。。。

Re: 【銀魂】腐小説おきば ( No.38 )
日時: 2014/07/02 22:44
名前: もるたん (ID: PqmNCYUu)

 朝起きて、階段を降りて、窓を開けていく。爽やかな風が淀んだ空気を浚い、日差しが柔らかく入り込む。
(久しぶりに、布団が干せそう…)
 ご飯の前にやってしまおうと、客間を開ける。——と、
(…………)
 招いた覚えの無い男が二つ、鮪のように横たわっていた。
(…服は、着ているから、)
 まあヨシとするか、と、彼らの存在をスルーして押し入れから布団を取り、2階へ干しに行く。自身の布団も干して、再び階下に戻ってきた頃、携帯電話が鳴った。
「は…」
「姐さんんんん!!!」
 速攻で切る。
“ジャカジャカズンズンンン、ウウウ♪”
 と、今流行のハグルマミンキチの声がし、蔵七はディスプレイを見つめたまま通話ボタンを押した。
「ね、…姐さぁん」
 叫び声で無いことを確認して、耳に当てる。
「何」
「あの、桂さんが…」
“プツ”
(あ、しまった)
 反射的に終話ボタンを押してしまっていた。
“ジャカジャ”
 くらいで取って、
「姐さん〜」
 だんだんか細くなっている。
「ごめん、今のはついうっかり想定外的に指が誤作動した。桂さんが、何?」
「桂さんが〜、来ないんです〜〜〜」
 本気で泣いてるのか、この男。
「……えーと、」
 そりゃそうだろここで寝てるんだから、と思いつつ、
「どこに、来ないって…」
「客先ですぅ。桂さんが、知り合いがいるから紹介するって言ってたのに…」
「ああ…」
 Webアプリの協同開発者探しの話だろう。
「アポは取れてるの?」
「桂さんが、今日の9時に約束しておいたって…」
 あと5分を切っている。
「今先方に居るのね?」
「ビルの、エントランスに…」
「先方のご担当者名は?」
「ハマグチ様と…」
「資料は?」
「あります、けど…」
「よし」
 蔵七は安堵する。
「あ、あの、僕、こういう商談とか初めてで…」
 電話の向こうは狼狽している。
「大丈夫。ベンチャー企業なんて大抵こうやって新人を鍛えるんだから」
「それブラック企業の方じゃね?!」
 そこでツッコむ余裕があるなら大丈夫。
「つべこべ言わず——」
「あ、あのあのまず何から話せば…」
「行ってらっしゃい〜」
 にっこり笑って(相手には見えないのだが)、手を振って(相手には見えないのだが)、最後に低音で
「遅れんなよ」
 と言えば「ひっ」と小さく悲鳴が聞こえて、電話が切れた。
(ま、ここは、ダメ元で良いとして…)
 桂の知り合いと言うのもアポイントメントもどこまで本当か分からないし、無名企業の新規事業開拓など99%が無駄骨なのだから取り敢えず礼儀を弁えれば問題ないわけで、
(…この人の予定が空いたのは重畳)
 1時間、あれば、
(あーんなことも、こーんなことも♪)
 溜まりに溜まった大量の雑務を片っ端から片付けさせてやる、と、腕捲りして客間の戸を開ければ
(…………)
 すっきりさっぱり鮪——もとい、男達の姿は無く、
(っっっ…)
 蔵七はうちひしがれて声も出ない。

Re: 【銀魂】腐小説おきば ( No.39 )
日時: 2014/07/11 22:44
名前: もるたん (ID: zRrBF4EL)

※性描写あります


 自分でも変態だなぁとは思うけど、銀時はアオカンが好きだ。っつっても野っ原の真ん中で鳥が囀ずるのを聞きながら全裸でまぐわうのがイイんじゃなくて、汚いビルとビルの隙間とか安い定食屋の勝手口とか公衆トイレの陰とか、そういうところで立ったまま前戯も余韻もなくただツッコマレるだけの、ヤった後に相手が後悔と軽蔑に満たされてしまうような、そういうヤツが良い。ヤってる間鬼みたいな形相で銀時をめちゃくちゃにしようと必死こいてた奴が、デ終わると阿呆みたいな顔になり、それからそそくさと竿を仕舞ってあたふたと去っていく。——それが、イイ。
 ——で、十四郎とアンナコトになってから暫くは汐らしく遊びを慎んで、“ヤるならホテルで”を守ってきたのだけれど、やはり、あの味は忘れられなくて、某チェーン店の喫茶店の非常勤社員捕まえて目論見通り突っ込ませて
(ああ懐かしい——)
 とか、思っていたら、
“バタン”
 と、非常口が開いた。
「うっ…」
 びくっとなってきゅっと締めたから非常勤社員が小さく呻いて、
「……」
 非常口から出てきた男は無言で人差し指と中指を揃えて眉山に当て、爽やかさを意図した気色悪い笑顔で指を90度回し
“アデュー”
 の口パク後、走り去っていったのでムカついて尻に力が入ったら
「ぅう…」
 非常勤社員に馬鹿力で抱き付かれて(あ、イキやがった)と思うと同時に再び——扉が開く。
「……」
「……」
 やべ、と思うのと、ひくり、と十四郎の眉が動くのとが一緒で、それから総悟がひょいと顔を出し
「あれ、旦那」
 にんまり微笑んで
「公衆猥褻罪ですぜ」
 気付けば連結したまンま、
「逮捕でさ」
 手枷首枷絞められて、
「ちょちょちょ、…総悟君?これ手錠じゃなムグ?!」
 轡まで嵌められ
「さ、屯所までご同行願いやしょうか」
 衆人環視の中歩かされたわけだけれど、咄嗟に尻上に掛けてくれた十四郎の上着がどれだけ役に立ったのか——銀時に知る術は無い。

「そーうーいーうーわーけーでー、この三日間下剤地獄よ。分かる?もう出ねえっつってんのに肛門洗浄だとか言って浣腸と下剤の波状攻撃よ。最後はほぼ水!臭くも黄色くもねえ水!!」
「…良かったじゃないですか。身も心も綺麗になって」
 蔵七は考える。そういう健康法無かったっけ?
「別に心は綺麗になってねーよ!俺の心を洗うのは砂糖だけだよ!」
 いやいや、この人の心の汚れはテフロン鍋の焦げ付きと同じだから、えーと、
「巧い例え考えてンじゃねーよ。元凶はどこ行った元凶は!!」
「…元凶も何も、ご自分が悪いんじゃ…」
 と言うか、何が良くてこの男と性交渉などするのか。
「坂田さんとナマでやるなんて命知らず…」
「あ゛あ゛??」
 あ、声に出してた。
「い、いやいやいや、その、大量に性病持ってそうな人とゴム無しでエッチするなんて無謀だな、という意味で、決して他意は…」
「他意も何も悪意しか無ェじゃねーか!」
 あれ?そうなるの?
「い、いやでもアレですよ。ウチも年一の健康診断を義務付けましたよ。桂さんも大量に引っ掛かって再検査中です」
 主に頭が。
「え、そうなの?」
「そうですよ。もうお若くも無いんですから、突然血ゲロ吐いてそれが神楽さんに掛かったらどうします?申し訳無いじゃ済まないですよ」
 あの娘なら何があっても150歳くらいまで生きそうだけど。
「そう…かな…」
「そうですそうです。家族を持ったら、家族が幸せになるのを見届けるまでは健康でなくてはいけません。それが大黒柱の務めです」
「なるほど…」
 この男が大黒柱として認められているのかは疑問だが、今は取り敢えず、
「『健診で 守ろう家族の 笑顔と絆』。ハイ、これ、人間ドックの優待券です。自己負担8000円で一通り診てもらえます」
「俺そんな大金持ってな…」
「はいっ!10000円!無利子で貸しますから気が向いたらお返し下さいっ!」
 あてにしてないけどねッッ!
「蔵七…お前…」
 瞳に涙が溜まっている。
「いつまでも格好良い主人公でいて下さい。さ、善は急げですよ」
 早く去ね。
「おう!お前の友情は忘れないぜ…!」
「はは…」
 どちらかと言うと小太郎との腐れ縁をきれいさっぱり忘れてほしい。
「お気をつけて〜」
 黄色いハンカチを姿が見えなくなるまで振ってやって、やっと、手を下ろす。作り笑顔が貼りついて強ばった顔面筋を変顔で解していると、隣の部屋の襖が開いて頼りない男共がばらばらばらと、
「すっっっばらしいです小蔵姐さんっ!口八丁だけで坂田さんを追い払うとはっ!!」
 万札も失っているけどね。
「しかも坂田さんの御身まで案じる優しさ!」
 ぶっちゃけあの人単体はどうでも良いんだけどね。
「姐さんの華麗なる手段にて、無事、桂さんの留守を守れました!」
 …あ、嫌な予感。
「皆の者!姐さんの勇気を万歳で称えよう!」
 いやちょっとそれは恥ず…
「バンザーイバンザーイバンザー…」
“trrrrrr”
 と、蔵七の携帯電話が鳴り、
「ね、姐さん!!!」
 電話口から悲鳴に近い声が響く。
「病院で、桂さんと坂田さんがかち合っちゃいました!!!あっちょっっ…お、お助け下さい〜〜〜(泣)」
「……」
 蔵七も、
「「「……」」」
 居並ぶ若人共も一様に携帯電話を見つめた後、
“はあ〜”
 と溜め息、それから、
「「「「ですよねぇぇぇぇ〜」」」」
 美しく唱和し、がっくりと項垂れた。

Re: 【銀魂】腐小説おきば ( No.40 )
日時: 2014/07/11 22:47
名前: もるたん (ID: zRrBF4EL)

 自動販売機は、人と話す煩わしさが無くて便利だが、販売機のある場所まで足を運ばなくてはならないという不便がある。そこで、小太郎は、考えた。
「いど〜はんばいき〜(裏声)」
「…その声は、どちらかと言うと先代に近いですね」
「もっと真面目に返せ。やり直しだ、『いど〜はんばいき〜(裏声)』」
「…宅配ではなく?」
「『いど〜はんばいき〜(裏声)』」
「移動コンビニでもなく?」
「『いど〜はんばいき〜(裏声)』」
「ホームヘルパーでもなく」
「『いど〜はんばいき〜(裏声)』って何度言わせるのだ貴様」
「いやあ、何度聞いても先代のド○エ門だなあ、と思いまして」
「貴様ソレ伏せ字の位置おかしいぞ。ドザエ門と間違えたらどうするのだ」
「はあ。すみません」
 誰もどうもしないとか答えても良かったが、そうすると話が進まない。
「ふむ。分かればよろしい。それでどう思う?この『いど…』」
「その移動販売機は、どのタイミングで客先に行くんですか?」
「『…。』コホン。決まっておる。客が心からこやつを求めた時だ」
「移動手段は」
「こうやって俺が散歩がてら連れていこう」
「商品は、飲料ですか」
「そうだな。最初はそれで良いだろう。調子良かったら事業を拡大して行こう」
「……」
 蔵七は考える。
(まあ、あの木偶の坊ザベスを連れて歩くよりは、有意義か…)
「じゃあ、一月やってみて、成果を報告して下さい」
 どうせ今日明日くらいで飽きるだろう、と高をくくっている。
 話が終わったかと思ったら、今日一番真剣な顔付きで、
「ひいては、一つ、頼みがある」
 背筋をぴんと伸ばして正座する姿勢は凛々しいが、こういう時は大抵——
「俺はこやつの散歩に忙しくなるから、事業が起動に乗るまで、エリザベスを散歩してやってほしい」
「……」
「それを、エリザベスが了承するか、今、確認してきてくれ」
「……今?」
「今すぐだ。そうでないと俺は…俺は…」
 膝の上で握った拳がぶるぶる震えている。
「…クッ」
 きつく握った拳で畳をドンと叩く。
「か、桂さん…?」
「俺は謝らんぞ!悪いのは奴だ!少し女にモテるからっていい気になりおってえぇぇぇ!!」
「へ???」
「俺はもう貴様の散歩はしてやらん!どこぞの馬の骨と好きにつるむがいい!!」
「え???」
「と、伝えてくれ!今すぐ!!」
「——え゛え゛」
「それでも良いのだな!?と——」
「……」
「——…どうか…どうか…」
 小太郎は崩れ落ち、
「伝えてくれぇぇぇぇぇ」
 畳に突っ伏してさめざめと男泣き。
(——てことは、つまり…)
 単なる痴話喧嘩。
(——の、延長戦に、)
 蔵七が巻き込まれただけであり、下らない『移動販売機』がどうやら本気で無かった事は、まあ、喜ばしいとして、
(——私の、)
 時間を返せ!と、言えたらどんなに爽快か…。思いつつ、
「…きっと、エリザベスも、今頃後悔してますよ…仲直り、しましょう、私もご一緒しますので…」
 半日下らない事に費やし、残業確定。
(——トホホ)

Re: 【銀魂】腐小説おきば ( No.41 )
日時: 2014/07/21 22:57
名前: もるたん (ID: YWR4Zzw2)

 そこに、ギャルが、ひとり居る。
「——としよう」
「…はあ」
 彼女は困っている。理由は分からないが、
「まあ、ひどく困っている」
「…はあ」
 パンツが見えそうな——と言うか、パンツかズボンかよく分からない短いボトムスに、どこまで本物か分からない乳をボインと見せるきつきつのTシャツに、金と茶の間くらいの髪色に2〜3個ずつ刺しているゴテゴテのピアス。
「——まあ、こんなもんか。このような女が、すぐそこにいるとしよう」
「…はあ」
 コホン、と、桂は勿体ぶるように咳をした。
「貴様は手を差しのべるか」
「しねぇです」
 即答すると、桂の瞳がぱっと輝く。
「そうだろ——」
「と言うか、絶世の美女がぶっ倒れてても助けねえです。俺ァ、道ッ端にあるもんは拾わねえ主義なんでさ」
「——う?」
「欲しいものは自分で狩りやす。向こうから転がってくるもんなんざ、何れにせよゲテモノですぜ」
「——い、」
 桂は慌てた様に、
「否、そういうことでは無く、人の善意と謂うものについてだな、…」
「その“善意”とやらが、好みの女と苦手な女とで果たして同じように働けるかっつう話でしょう。けどね、俺にはそもそも、“善意”なんてクソみたいな感情ありやせんから。——と言うか、アンタ、」
 沖田は嘲るように笑い、
「若ぇ女が挑発的な格好して媚びた声出すの、嫌いなんですかィ」
 桂の顔がさっと青くなる。
「…あ、あれは、俺でなく貴様の…」
「俺は好きですぜ。馬鹿な女がキャンキャン盛ってンのも、清純気取った女がえげつねぇ妄想に浸ってンのも——まあ、別に女じゃなくてもイイんですがね」
 ちらりと、桂と視線を絡ませ、すぐに外す。
「生きてるってカオ、してるじゃねえですか」
 先刻まで取調室を儚くも明るくしていた日はもう効力を無くしつつあり、直、逢魔時がやってくる。
「ガキだろうが爺婆だろうが強欲な方が見てて飽きねえや」
 目の前のこの男は、半分魔物みたいなものだから、あと数時間もすればきっと姿を消しているだろう。——そんな、馬鹿げた妄想が、この男について言えば笑い話ではなく、
「——だから、アンタの作る世の中が、そんな奴らで溢れるってンなら、」
 ついでに言えば今この男に逃げられたとしても、副長は何も言わないだろうし、
(…つうか、)
「俺は、アンタの方に付いても良いンですぜ」
(本音は、逃げて欲しいんでしょうが)
 大人っつーのはややこしくていけねえや、と、顔を背けて頭を掻いて、ちらりと横目で確認すれば、男はまだ居る。
(ま、そりゃそうか)
 こんな一瞬で物音もさせずに居なくなったら、それこそ魑魅魍魎の類いだ。沖田は取調室の電気を点けた。
 桂は一瞬、眩しそうに目を眇め、
「俺は、強欲な人間は好かぬ」
 渋面でそう言うと、
「しかし、無欲な人生もつまらぬ」
 灯りに慣れてきたのか、少しずつ沖田と視線が合ってきて、
「俺は、欲と理性に挟まれて苦しむ姿こそ人間らしく、美しいと思っている」
 最後に柔らかく笑むと、
「俺は、そういう人間を大切にしたい」
 沖田の眼前で、ふつりと居なくなった。
(……)
 沖田は暫く黙した後、
(これは…)
 爪先でこめかみを掻く。
(さすがに、土方さんも信じないだろ…)
 全くもって困ったお人だと、沖田はゆっくり息を吐いた。

Re: 【銀魂】腐小説おきば ( No.42 )
日時: 2014/07/21 23:01
名前: もるたん (ID: YWR4Zzw2)

 小太郎は、瞳は氷点下の冷血漢なのに、吐く息はやたら甘い。何を見てるのやら何を考えているのやら分からない瞳で銀時をじっと見据えるくせに、「銀時」と名を呼ぶ時はムズ痒い程媚びた声を出す。
「銀時は、何故小太郎との勝負だけ負けてあげるの?」
 年少の同窓生が心底不思議そうに問うた事があるけれど、別に「負けてあげる」気も「負けてあげ」た事もないので、ムカついて拳骨をくれてやった。真正面の勝負はあの目がイラつくし、チーム戦はあの声がイラつく。自分を見るな他人を見るな自分を呼ぶな他人を呼ぶな——そうやって、苛々していたら、いつの間にか負けている。拳骨くれてやった奴と同じ事を他の奴らも考えていて、だから、事あるごとに小太郎と銀時をぶつけ合った。体を動かす勝負事なら、銀時は他の奴らには基本負けないから、誰も相手をしたがらず、結果安易に小太郎を推す、という事になる。——最近は、少し違うけれど。
 少し前まで全戦全敗で、そのクセ負けん気強くて懲りずに向かってきてた晋助が、ここ一月、良い勝負をするようになってきた。真っ向勝負ならばまだ勝ち越すが、チーム戦だのゲリラ戦形式だのになると、よく分からない戦術を駆使して銀時を追い詰める。そうすると晋助と共に銀時を負かそうとする者も増え、一方で苦戦する銀時を助けようとする者も出、だんだんと晋助派と銀時派みたいなものができてくる。晋助にも銀時にも与したくない連中が小太郎を担ぎ上げて、けれども気概も頭も足りない奴等だから銀時にも晋助にも相手にされず、それでもうっかり、たまに勝つと、それ見たことかと派手に喜ぶ。小太郎は彼らの中心に静かに佇みながら、松陽の気配を窺っている。松陽に向けられる時だけ色を帯びる瞳には、他の生徒と違って恐怖が宿っている。——小太郎は、銀時でも晋助でもなくただ一人、松陽を、畏れている。
「最近、小太郎にも負けなくなってきたね」
 夕飯時。師と言うよりは父母のような——或いは姉兄のような顔付きで、松陽は行儀悪く空箸をつつきながら、
「お前はあの目とあの息と、どちらを克服したんだい」
 からかうように、
「お前達が相手をしなくなったお陰で、他の子達が気付き始めているよ。知ってるかい?小太郎、銀時と晋助以外には負けた事が無いんだよ」
 口の中にものを詰め込むそばから喋るから、ぼたぼたと滴が飛び散る。普通の大人はこうならないのだと最近知って、何故か銀時が恥ずかしくなった。
「小太郎の剣は正確で速いけれど、そよ風みたいに軽いだろう?あんな剣に負けてもらっちゃ困るんだよ」
 ——そう。松陽は、確かに、小太郎に対して
(毒がある…)
「だから、アドバイスしてあげようと思ってね。で、お前は、どうやって攻略したんだい」
 もっとも、松陽は悪気なく口が悪いので、よっぽど注意しないと気付かない。銀時も、小太郎経由でやっと気付いた。
 銀時は粗方食べ終えて、箸を置く。
「——先生は、ヅ…小太郎の目とか、声とか、嫌いなの」
「否、全く。嫁き遅れが死に場所を探してるみたいだとは思うけど」
「……」
 それは自分の方じゃないのか、とは、言わないでおく。
「…じゃあ、なんで、先生は小太郎が嫌いなの」
 さくらんぼを一つ、口に入れ、すっぱさに目を細める。
「別に嫌いじゃないよ」
 松陽の即答は予想通りだったけれど、
「嫌いなのはあの子の実家さ」
 二次回答は予想外に直球で、
「“嫌い”ってより、“憎い”んだけど」
 うっかり種を呑み込んで、松陽を見ると、松陽はにっこり笑ってさくらんぼを頬張る。
「銀時はまだ子どもだから、今日はここまでだね」
(まだご飯あるのに…)
 欲張りだなあ、と思うと、急に、小太郎の事などどうでも良くなってきた。銀時もさくらんぼを食べる。
(やっぱすっぱィ…)
「さ、私は答えたよ。今度はお前の番だ。どうやって、小太郎に、勝…」
「キスしたんだよ」
「つ………へえ」
 松陽は目を丸くしてさくらんぼの種を吐き出し瞳をきらきら輝かせて
「それはいつどこ…」
「もういっぱいしてるよ。あいつはあんななのにキスする時はいつも目も口もぎゅっと閉じるんだ。馬鹿面だなあって思ってると、イライラしなくなるんだよ」
 銀時は両手を合わせて頭をちょこんと下げ、食べた食器を重ねて立ち上がる。
「先生、他の奴らに教えてもいいけど、」
 片手に持ち替えて、
「最初に唾付けたの俺だから、まず俺に仁義を通しなって言っといて」
 あかんべーをする。
 松陽は味噌汁をずるずる啜りながら、小さく二度頷いた。


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