複雑・ファジー小説
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- 吉原異聞伝綺談 *参照1000突破感謝!
- 日時: 2011/09/19 17:28
- 名前: 朔 ◆sZ.PMZVBhw (ID: .WzLgvZO)
- 参照: http://nishiwestgo.web.fc2.com/index.html/
はじめましてorおはこんばんちは。
朔(モト)と申します。シリダクの方でも【Veronica】ってのを書かせて頂いている者でございます。
完結してから書くのが一番良いと思うのですが、なんせ終わるまでの道のりを考えてみたら一年以上かかるんじゃね!!?と思ったので、構想が消えうせる前に書こう!ということで、書きます(断定)
多分此方の方が早く終わるんじゃないのかなあ(
刀語(知ってる人いますかね)みたいな感じで、全十二話!なものです。今 の と こ ろ は(←ここ重要だよ。テストに出ます)
さてさて、まずは注意事項から。
※1 / 荒らしとか誹謗中傷はダメデスヨ。止めてください。
※2 / 掛け持ちの為、更新が亀よりも遅いです。ゴキブリ並の更新速度は無理です(ゴキブリって速いんだよ!)
※3 / 誤字脱字・文章オカシイ。Not 神文。アド・ツッコミ大歓迎。どぉーんとこーい!!(Ue田教授)
※4 / 宣伝は良いですけど、見に行くのが遅いです。
※5 / 最初はシリダクに書く予定だった半端者です。色々注意してくださいな。
※6 / 完結まで突っ走っていけるか不安です。途中で止めたりするのは覚悟の上でお願いします。
と、まあこんな所かな。
題名が漢字ばっかりで訳わかんねーよ!と言う方が殆どだと思うので、補足。(参照・広辞苑)
【吉原】江戸の遊郭。地名。
【異聞】常と変った風聞、珍しい話。
【伝】伝える事。言い伝え、語り伝える物語。
【綺談】面白く仕組まれた話。
っちゅー事です。あ、でもそんなに期待しないでね。本当期待して損な事って多いから!(何
じゃあ、取り敢えず・・・・・・始めようか。
※掲示板の(十二歳以上)に甘えます。表現に注意。
読むときに注意すべき点↓
ο主役級の奴が恐ろしいほど変態。キャラクターがサディスト(根はまともだと信じたい)
ο戦闘シーンの迫力があんまりないと思うけど多分グロイと思われる。
οエロ・グロ・ナンセンス。
○人物録 >>4
○話
序 - >>1
一月目、卯月 - >>100【了】
二月目、皐月 - >>101【了】
三月目、水無月 - >>103【了】
四月目、文月 - >>100
五月目、葉月 -
六月目、長月 -
七月目、神無月 -
八月目、霜月 -
九月目、師走 -
十月目、睦月 -
十一月目、如月 -
十二月目、弥生 -
呟き>>18
初期設定あったから晒してみる>>79
漸く折り返し地点到達の予感。
アンケとか取ろうかなあと思ってたり。
- Re: 吉原異聞伝綺談 ( No.3 )
- 日時: 2011/03/06 12:46
- 名前: 朔 ◆sZ.PMZVBhw (ID: 9nPJoUDa)
- 参照: テストがオワタといか言わないよ。言わないよ。
◇
——吉原、某所。
「嗣殿、嗣殿!巴殿が御呼びです!」
紅毛碧眼の中性的な若者がどたどたと渡り廊下を走っている。黒いぶかぶかの西洋服を着たその人は男性に見えるが、どこか女性的な部分も垣間見える。声色も男の声にしては多少高いようだ。どこかぎこちない日本語と、西洋寄りの顔立ちはこの若者を日本人でないことを現している。
大きな木造建築の屋敷、目に入った障子を次々に開けていくが、呼んでいる人間は見当たらない。最後に自室を開けた。居ないと思っていたのだが、奴は人の予想を悉く裏切ってくれていた。畳四畳程度の部屋の中で寝転がり、何か書物を読んでいる。
「——『いや、止めるでありんす!イヤァ!!』『ククク、そう嫌がるな……可愛い奴よ』男は花魁の帯紐をほどき始め——」
「何を勝手に読んでるんですか。って!!」
サングラスを掛け、黒いスーツを着崩した白髪の男に急いで駆け寄り、若者は青年が持っている本を手で弾き飛ばした。乱れた着物の花魁の絵が描かれている頁が破れ、ひらひらと舞い落ちる。
「お前のエロ小説」
ごく当たり前の様に青年は答える。漆黒の瞳はサングラスに隠されているのを若者は知っている。この男が生まれつき白髪で無かったことも、事情も知っている。そして自分がこの男達の謀りによって、この吉原に閉じ込められたことも。
「I`m speechless(呆れて何も言えない)……」
吉原にやって来て一年弱。さらに遡ると、日本にやって来てからもう二年近く経っている。もとから日本を目指していたので日本語を勉強しており、更に現地で学んだために——まだぎこちないが——最初に比べれば上達した。それでもたまに、自国の言葉が勝手に漏れ出てしまうことがある。
白髪の青年の名は高杉嗣(たかすぎ つぐる)。今の江戸幕府を倒そうと考えている、対幕府派—— 一般には討幕派と呼ばれており、若者もそう呼んでいる——に属している男だ。短気で自分勝手、横暴、以下略!と言った人間性を疑うような人物であるが、カリスマ性を持ち合わせているのか、自然と周囲に人が集まるのだ。
「で、時雨(シグレ)。何か用があってきたんだろ。巴か?」
嗣の言葉に時雨と呼ばれた若者は呆れた顔で、ゆっくりと頷いた。
「Fair enough.(ごもっとも)分かっているなら、何で来ないんですか。理解出来ませんね」
「人間、相手のコトを百パーセント理解するなんて不可能だぜ?なァ、オルダ・シグレー」
ニヤニヤとしながら、嗣は時雨の"本名"を口に出した。完全に時雨の反応を楽しみにしている。そんな意地悪な悪戯には、もう慣れていたが。
「——今は織田時雨です。……第一、その名を付けたのは嗣殿ではないですか」
時雨は少しだけ声を張り上げて返した。その中には少しだけ怒りの成分が含まれていた。
——二年前の高杉嗣が属する長州藩の外国船への砲撃によって織田時雨ことオルダ・シグレーは運命を捻じ曲げられた。仲間と共に日本へ向かっていた時雨の船は砲撃によって一部破壊され、何故か"彼女"のみが海に放り出されたのだ。皮肉なことに、船を砲撃した者らが時雨を拾い、そして彼女を無理矢理倒幕派に入れさせた。本来なら、「討幕派勢力による外国船への攻撃の被害者」として幕府に保護される筈であったのだが、拾った人間が高杉嗣という何とも悪知恵の働く人間であったため、素直な時雨は嵌められて、保護されるどころかその身を追われることになってしまったのである。
「忘れたね」
ふと、嗣らに拾われた時のことを思い出していた時雨は男の言葉に対し、さらに怒りを覚えた。全くこの男には腹が立つ。無神経で、無頓着。だが、それが高杉嗣という人間を形成している物であるのだから仕方が無い。
自分が一応今の環境で一番慕っている巴殿こと、桂巴(かつらともゑ)、本名梢(こずゑ)が「嗣を連れてこい」と言っていたので、取り敢えず眼の前の男を無視し無理矢理連れて行こうと行動を決定する。これ以上、この男の会話に付き合っていては仕方ない。
「巴殿がお呼びです」
時雨は無理矢理嗣の右腕を掴みあげた。筋肉で硬くなった男の腕である。この右腕がどんなに凄いものなのか、時雨は何度も見てきた。彼の使う剣技は絶技と言っても過言ではない。
「あー、多分吉原ン中に迷いこんだ幕府の兵器探して来いってコトだと思うぜぇ?」
空いている左手の小指で左耳を穿りながら、またにやけた面を見つけてきている。ごくごく自然な会話の流れが出来ていたが、嗣の言葉に思わず時雨は彼の腕を離してしまった。
「Huh(えっ)?——何でご存じなんですか」
高杉嗣は何か良からぬことでも考えているような顔をしている。時雨があまり好きでない顔である。
「さあ、何ででしょうネェ」
>>
- Re: 吉原異聞伝綺談 ( No.4 )
- 日時: 2011/09/19 17:32
- 名前: 朔 ◆sZ.PMZVBhw (ID: .WzLgvZO)
- 参照: キャラ欄ちょこちょこっと更新しました。
*人物録
□高杉嗣(Tsuguru Takasugi)
二十三歳。主人公的な奴その一。グラサン黒スーツの侍で左目が義眼の歩く十八禁。存在自体が猥褻物。
□チェン・フェルビースト(Chen)
十七歳。主人公的な奴その二。中国人とベルギー人のハーフ。主にツッコミ役っぽい、色々大変な少年。
□琳邑(Rin-You)
十七歳?ヒロインの対妖魔用人形兵器。天然で物知らず。これで"理"を操るんだから堪ったもんじゃない。
□織田時雨(Shigure Oda)
二十歳。本名オルダ・シグレーで米国人の女性。なんか色んな都合に巻き込まれた可哀想な人。銃が得意らしい。
□桂巴(Tomoe Katsura)
二十三歳。眼帯のクールビューティ。高杉の幼馴染みだが恋愛フラグは立ちそうに無い美女。肺結核を患う。
□久坂扈雹(Kohaku Kusaka)
十九歳。語尾には必ず「〜ッス」がつく超絶素直馬鹿な青年。だが頭が良い。熾織に顎で使われている不幸人間。
□伊藤熾織(Shihori Ito)
二十二歳。作者がツンデレキャラを目指したところ、超サディストお姉様になったというキャラ。多分一番怖い。
□吉田江/茶々(Ko Yoshida/Chacha)
二十一歳。二重人格で眼鏡を外すと人格が変わる。主人格江は委員長系眼鏡根暗キャラ。茶々は喧嘩上等姐さん系。
□入江蕀(Ibara Irie)
二十七歳。ほのぼの系のお兄さんだが、自分で目を潰しちゃったりしちゃう何か色んな意味で凄い人。
□山縣韵(Hibiki Yamagata)
二十三歳。紺の帽子を被る元気なおなご。右腕を切り落とす辺りなんとも言えない。塾生でというか作中で恐らく一番マトモ。
□井上珊瑚(Sango Inoue)
二十二歳。熾織と巴とは超犬猿の仲の女性。喧嘩早い、男勝りな気質。特に熾織を目の敵にしている。
□大久保紅羽(Kureha Okubo)
二十三歳。赤大好きな馬鹿でモテない青年。如何なる攻撃を喰らっても生きてる不思議な馬鹿。現在光源氏計画実施中。
□西郷重兵衛(Jubei Saigo)
二十四歳。冷静かつ冷酷かつ駄目人間的喫煙者。恐らく紅羽の良き理解者。
□彩希爍(Akito)
十五歳。紅羽に拾われた少女で失語症。感情の抑揚があまり無い。何らかの事情があるらしいが…。
□黎靉(Reio)
十三歳?今度は彩希爍が拾ってきた、琳邑に瓜二つの少年。左目を包帯で覆っており、文字通り"からっぽ"。
□吉田鶴来(Tsurugi Yoshida)
享年三十歳。高杉らの師。
□前原梛桜音(Naoto Maebara)
二十九歳。もうすぐ三十路の塾生最年長。でも威厳が無いので顎で使われている。多分、作中ではマトモな方。
□坂本義仲(Yoshinaka Sakamoto)
二十三歳。巴の婚約者として推参。貿易組織海援隊の創設者。嗣に似たにおいを感じる。
□中岡千鳥(Chidori Nakaoka)
十九歳。坂本の後輩を自称する爆弾魔の少女。久坂の事を勝手にライバル視。猫かぶり。
□平賀眞皎(Mashiro Hiraga)
年齢は内緒☆。発明家。奇想天外というか阿呆らしいアイデアの塊だが才能は本物らしい女性。
□杉田要(Kaname Sugita)
年齢は内緒(らしい)。桂の主治医で倒幕勢の専属医を務める。本体は眼鏡掛け機という評価を受けるが実力は本物。殲浄計画に関係?
□近藤鄙子(Hinako Kondo)
年齢不詳。新撰組局長であるが、隊士でも一部しか顔を知らないという謎の多い人物。正体は伸縮自在の幼女。
□土方空華(Kuge Hijikata)
二十七歳。新撰組副長だが常に局長の代わりに組を仕切っている。下の名前を嫌う。局長からの愛称は「ひじー」。
□沖田総爾郎(Sojiro Okita)
二十二歳。若くして新撰組一番隊組長を担っている実力者。性格は局長譲り。局長からの愛称は「おっきー」。
□永倉雷丸(Raigan Nagakura)
二十六歳。二番隊組長。趣味は女漁りと嗣と良い勝負。サボリ癖が半端無い。不在の方が多いらしい。局長からの愛称は「がんすけ」。
□齋藤一(Hajime Saito)
三十三歳。死神に取り憑かれてんじゃねえのと言うくらい見た目が心配な三番隊組長。沖田曰く罪男。局長からの愛称は「はじめちゃん」。
□松原初(Ui Matubara)
三十歳。四番隊組長。既に妻子持ちで愛妻家+子煩悩。温厚な人柄だが酒を飲むと性格が変わる。局長からの愛称は「うい」。
□武田回向(Ekou Takeda)
三十五歳。五番隊組長。松原同様妻子持ち。ただし子供は居ないので鄙子らを非常に可愛がっている。局長からの愛称は「エコー」。
□井上八柳(Yanagi Inoue)
二十六歳。病弱でよく病床に臥せているが怪力の持ち主である六番隊組長。珊瑚の姉。とある事情から新撰組に。局長からの愛称は「やなぎちゃん」。
□谷かはら(Kahara Tani)
二十九歳。愛人が自殺したことによって現在絶際引きこもり中の七番隊隊士の男。麦茶中毒者。局長からの愛称は「たにがわ」。
□藤堂はかり(Hakari Todo)
十七歳。つい先日八番隊組長になりあがったばかりの少女。クールで毒舌のパッツンエンジェル(by永倉)。局長からの愛称は「ドードー」。
□鈴木勝義(Shougi Suzuki)
四十歳。九番隊組長。出家した過去を持つ。本名は勝義(かつよし)。剃髪なのでからかわれるが寛大な心の持ち主。局長から(というか隊士からの)の愛称は「ハゲ」。
□原田草之ヱ(Kusanoe Harada)
二十六歳。十番隊組長。趣味はアリの巣潰しと陰鬱であるが笑い上戸。局長からの愛称は「ざっそう(草という漢字が名前に入っているから)」
□山南利紀(Toki Sannan)
二十四歳。若いながら、天才的な頭脳を持ち合わせているということで新撰組総長。三番目に拾われたので局長含む隊士からは「さんなん」の愛称で呼ばれている。
□山崎櫁杞(Mituki Yamazaki)
十七歳。新選組諸士調役兼監察(早口で参加言えたらお菓子をくれる)の少女。はかりとは真逆にコギャル系。局長からの愛称は「みっちゃん」。
□伊東続紅(Tuduku Ito)
十三歳。幼くして新撰組の参謀を受け持つ天才少女。土方によく担がれ、局長とは御飯事の仲。局長からの愛称は「つーちゃん」。
□伊藤槝緒(Kashiwo Ito)
三十五歳。もう一人の参謀。新撰組入隊時から不穏な動きを見せている。土方らは「局長の敵」と見ている。
□明海依麻(Ema Meikai)
十四歳。謎の病無感情症候群を発症して居る三番隊隊士の少女。巴や嗣との関係があるらしい。局長からの愛称は「えーま」。
□萩葉牡丹(Botan Hagiba)
十六歳。御転婆な三番隊隊士。訳有りの過去を持つ。
当作品では嗣の守備範囲外である貧乳の持ち主。局長からの愛称は「はぎっぱ」。
□岩倉峰一(Huhito Iwaakura)
四十三歳。対妖魔用人型兵器の開発計画"殲浄計画"の中心的人物の一人。琳邑に何かと優しくしていたらしい。
□仙扇(Senno)
年齢不詳。吉原に迷い込んだ琳邑に手を差し伸べた花魁。
- Re: 吉原異聞伝綺談 ( No.5 )
- 日時: 2011/02/28 15:37
- 名前: 風(元:秋空 ◆jU80AwU6/. (ID: KjzdqHYY)
えっと,屑小説執筆機械の風と申します,ヴェロニカ実は読ませて貰ってます^^
刀語は雰囲気好きでしたので楽しみです!
好きなキャラやまともな感想等は後程vv
- Re: 吉原異聞伝綺談 ( No.6 )
- 日時: 2011/03/03 21:29
- 名前: 朔 ◆sZ.PMZVBhw (ID: 9nPJoUDa)
- 参照: あかりをつけましょ、ぼんぼりに〜
>>5
風(元:秋風 さん
コメント有難うございます^^
あへ、実は読んでいらしたのですか!いやんはずかs((殴
刀語良いですよね〜。いやもう、西尾維新さん好きだわ竹さん好きだわ色々あー!ってなってます。すみません、なんかテンションおかしくて^^;
では感想お待ちしてまs((
- Re: 吉原異聞伝綺談 ( No.7 )
- 日時: 2011/03/22 19:34
- 名前: 朔 ◆sZ.PMZVBhw (ID: 9nPJoUDa)
- 参照: テトリスが欲しい。
◇
建ち並ぶ遊廓。雑踏。金髪に緑の目を持つ少年はきょろきょろと、何かを探しているように見回していた。——チェン・フェルビースト、十七歳。ベルギー人の宣教師を父に持ち、中国人科学者である母を持つ少年だ。身に纏う、緑を基調とした中華服は母の祖国と自分が生まれ育った国を象徴している。
……両親が対妖魔用人形兵器の開発に携わっていた為に幕府から兵器捜索の命を受けていた。自慢では無いが、その兵器とは少しばかり面識がある。相手は自分のことを知らないだろうが、自分は顔と名前くらい合致出来るくらいは可能だ。
「ぜぇぇってぇ、なんかあったって」
手に持っていた団子を口一杯に頬張った。三色団子の桜色が串の並びから消える。
彼女が抜け出したのは不測の事態であった。
誰一人として予想もしていなかったのである。感情さえ生まれずにいた筈の兵器がある日突然抜け出した。やはり世の中は「予想通り」に行ってくれないものである。——団子をまた一つ頬張った。
——危険なんだよなぁ。
制御すること自体間違っていたと思い込みそうになるほどの力を持った危険な兵器。対妖魔用と言うのは、妖魔に敵対する人間が勝手に言っているだけだ。妖魔が持てば、対人兵器に成り変わる代物——つまり、使い手によってしまう万能のものなのだ。
妖魔や対幕府勢力に奪われる前に保護しなければならない。が、そんなこと考えても仕方無い。それは考えて解決するものではなくて、行動して解決するものであるのだから考えなど殆ど無駄である。
チェンは最後の団子を口に放り込んだ。そして雑踏の中で姿を消した————。
◇
——こずゑ、か。
桂巴は苦笑した。藍の混ざった黒髪は後ろで団子に纏めてある。布団から起き上がって、咳をする口を覆っていた。右目には黒い眼帯がかけられている。……空いている左の細い黒目が陰った。
"討幕"という目標を掲げて高杉嗣と共に過激な運動をしていた兄の名を継いだときから、自分は戦いに身を投じているのだと今まで思って生きてきた。母がくれた「梢」の名を捨て、兄の「巴」を名乗る今——、躰は病魔に蝕まれ始めている。まるで神は同名の人間を消し去ろうとしているかのように、この名を名乗ってから兄と同じ病が発覚したのだ。……それが三日前のこと。
三日前までは戦線に立つのが当たり前だった。が、発覚してからは周囲から止められ、三日間部屋に篭りっぱなしである。だから今回の対妖魔用人形兵器の奪取は嗣と共に行くことが出来ない。そう暗くなっていた巴は、襖を叩く音に呼ばれた。
「巴、入っぞ」
呼んだ男が漸く到着したようだ。若い男声の持ち主は巴が答える前に部屋に入り込んだ。ボサボサの白髪に目を隠すためのサングラスを掛けた黒いスーツの彼は床に臥せている巴を見てニヤリと笑う。
「兄貴と同じだな」
「……『入って良い』と返事をした覚えは無いぞ」
そう言い放った巴は布団から出る。嗣を呼び寄せ、顔面パンチを喰らわした。あまりに唐突すぎることに予測できなかった嗣は女の拳をモロに喰らっていた。そこを中心に発生した衝撃に躰がよろめく。
「まあ入ってしまったなら意味はないな。時雨はどうした」
巴は殴り付けた拳を拭き取るように空いているもう片方の手で撫でた。寝間着の着物を整え、倒れた嗣を見下すようにして立つ。小さく湾曲したラインが巴を女性であることを示していた。決して豊満といえるものではないが、少なからず女という性別は確認することが出来るだろう。
嗣は立ち上がって、巴の黒髪を嗅ぐように彼女に顔を近付けた。
「時雨はテメェの部屋の前に俺を放置して、クスリ取りに行ったぜ。俺とお前の甘美で淫靡な一時を邪魔したくないってよ」
女の白く細長い首筋に吐息をかける嗣に、何処から出したのか、巴は剪定鋏を眼前に突き付けた。
「そういえば、まだ雄しべの剪定が済んでなかったな」じゃきん、と鋏の音を立ててやる。「まずは貴様の卑猥な雄しべから剪定するとしようか」
巴の目は本気だ。
「俺から性別を奪う気かよ」
「違うぞ。貴様から猥褻物を除去してやろうという思い遣りだ」
「いや、絶対違うだろ」
まだ手を離さず、顔も近付けたままの嗣に、ニヤリとした笑いを作った巴は饒舌になる。
「高杉。長州男児なら受け入れろ。嫌なら離せ。なんなら雄しべだけでなく、五体バラバラに解体して池に沈めてやろうか。その方が嬉しいだろう。
—— 一時の猶予をやろう。
今から遊廓に行って最期の時を過ごして来い」
「じゃあ、この場で冥土の土産になる時間でも作ろうかね」
高杉嗣は懲りない。離すどころか余計に躰を寄せ付け、巴の藍色の着物に手をかけた。
「気が変わった。今この場で処刑だ。取り合えず死ね。それは世界のためになる事だ」
淡々と言い放ち、するりと嗣から抜け出た巴は、壁に立て掛けておいた日本刀を手に取り、銀閃を放つ刃を彼に見せつけた。それを見て、嗣は渋々とその場に着席する。彼女からは殺意がはっきりと出ていたからだ。下手をすれば殺される。
が、嗣は躰の代わりに口を動かし始めた。
「兄貴が死んでから女っ気消え失せたよな、お前」
昔はまだ可愛かった、と聞こえない程度に呟く。が、それは聞こえていたようだ。巴は淡々と言葉を紡ぎ上げる。
「兄の名と遺志を継いだ時点で、性別と"桂梢"という人間は棄てている」
昔から冷静沈着で人を寄せ付けなかったが、今は言葉遣いも一変させて尚一層人を寄せ付けない雰囲気を作り上げている巴は嗣の頸に刃を軽く当てた。
「こんなことする為に呼んだんじゃねえよな?」
そう言って嗣は右手で刀を首筋から退かした。このようなやり取りは一種の日常茶飯事である。
「解っているなら、阿呆な行為を慎め」
鋭く睨み付けられ、彼は「ヘイヘイ」と小声を出して両手を軽く上げる。——降参。
嗣には、彼女が呼び出した理由もこれから言うことも既に解っていた。——同い年の幼馴染み、幼い頃からつるみ合っていた仲である。
恐らくは、吉原に紛れ込んだ兵器の奪取の話であろう。本来なら自分と巴がメインで動くべきであろうが、何の不幸か、彼女は肺の病に蝕まれていることが発覚し、療養を要されてしまったのだ。
「——なんなら時雨に着いていくように言おうか」
咳き込み紛れに巴は訊いた。嗣は首を横に振る。
「いいや。あんなクソ真面目な奴連れていったら遊べねえから勘弁してくれ」
根が真面目な、学級委員長タイプの織田時雨など着いてくれば、遊廓に向かうどころか女に触ることすら制限されてしまう。それは勘弁して欲しいものだった。
「大久保をつけようか」
「あの馬鹿の性格知ってンだろ。そもそもあの野郎は今子育て擬きの<光源氏計画>にどっぷり浸かってンじゃねえか」
半月前に家出した少女を拾った大久保のことを嗣に言われて気付いた巴は焦ったように次々と同志の名を上げていく。
「久坂扈雹(くさか こはく)、前原先輩、入江蕀……」
「野郎は勘弁」
嗣は顔の前で腕をクロスさせ、×印。
「伊藤熾織、山縣韵(やまがた ひびき)、井上珊瑚……」
「あれを女と言い張るか、テメェは。女って皮被ったバケモンだよ、あんなん」
「嘗ての門下生をそう言うか」巴は笑う。「安心しろ。久坂と伊藤は吉原から出る手段を探していて此処には居ない。山縣と前原先輩もちょっとした用で出払っている。入江と井上は知らないがな」
機嫌が良いのか、彼女は珍しく饒舌で笑顔だった。しかし、それは彼女の死が近付いている予兆かもしれないと思うと不安に駆られて仕方ない。
『ヘーキッスよ!だって巴サン、スよ?オイラは長生きするって思ってるッス!だから心配無用スよ嗣サン』
伽羅色の目と髪をした久坂扈雹はそう言っていたが、不安と心配は和らぐことすら知らないでいる。——こんなところじゃ彼女は養生出来ない。日夜命を狙われている自分らが落ち着いて過ごせる場所は此処には無いのだ。一種の強制収容所だ、此処は。幕府への対抗勢力を全て封じ込めたような、この吉原は安らぎを得られるような場所は無い。
遊廓で得るのは刹那的な快楽程度。欲望だけが溢れる腐った世界。そんな世界だが、希望が差しこみかけていた……。
「……幕府の兵器があれば、奴等を倒せるし此処から出ることも出来る。頼む、高杉」
巴は真っ直ぐに嗣を見た。目から放たれる純水で真っ直ぐな光は彼を心底信用している証拠だ。
「言いたいこたァ分かってるよ。だからテメェは養生してろ」
嗣は立ち上がって、巴に背中を見せた。広い背が彼女の目に入る。いつの間にかこの男は自分より大きくなっていた——心も、躰も。
「ああ。貴様も無理せずなにな」
巴の言葉を聞いてから彼は右手を振った。
「ババァの口癖。『嗽、手洗い、ニンニク卵黄』……忘れるなよ」
女は漆黒の左目を瞑った。
「…………ああ、分かってるよ」
その言葉は、向けられた人間には届かず、閉じられた部屋に静かに響いていた——。
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