複雑・ファジー小説

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吉原異聞伝綺談 *参照1000突破感謝!
日時: 2011/09/19 17:28
名前: 朔 ◆sZ.PMZVBhw (ID: .WzLgvZO)
参照: http://nishiwestgo.web.fc2.com/index.html/

はじめましてorおはこんばんちは。
朔(モト)と申します。シリダクの方でも【Veronica】ってのを書かせて頂いている者でございます。

完結してから書くのが一番良いと思うのですが、なんせ終わるまでの道のりを考えてみたら一年以上かかるんじゃね!!?と思ったので、構想が消えうせる前に書こう!ということで、書きます(断定)

多分此方の方が早く終わるんじゃないのかなあ(
刀語(知ってる人いますかね)みたいな感じで、全十二話!なものです。今 の と こ ろ は(←ここ重要だよ。テストに出ます)


さてさて、まずは注意事項から。

※1 / 荒らしとか誹謗中傷はダメデスヨ。止めてください。
※2 / 掛け持ちの為、更新が亀よりも遅いです。ゴキブリ並の更新速度は無理です(ゴキブリって速いんだよ!)
※3 / 誤字脱字・文章オカシイ。Not 神文。アド・ツッコミ大歓迎。どぉーんとこーい!!(Ue田教授)
※4 / 宣伝は良いですけど、見に行くのが遅いです。
※5 / 最初はシリダクに書く予定だった半端者です。色々注意してくださいな。
※6 / 完結まで突っ走っていけるか不安です。途中で止めたりするのは覚悟の上でお願いします。

と、まあこんな所かな。



題名が漢字ばっかりで訳わかんねーよ!と言う方が殆どだと思うので、補足。(参照・広辞苑)
【吉原】江戸の遊郭。地名。
【異聞】常と変った風聞、珍しい話。
【伝】伝える事。言い伝え、語り伝える物語。
【綺談】面白く仕組まれた話。

っちゅー事です。あ、でもそんなに期待しないでね。本当期待して損な事って多いから!(何

じゃあ、取り敢えず・・・・・・始めようか。

※掲示板の(十二歳以上)に甘えます。表現に注意。
読むときに注意すべき点↓
ο主役級の奴が恐ろしいほど変態。キャラクターがサディスト(根はまともだと信じたい)
ο戦闘シーンの迫力があんまりないと思うけど多分グロイと思われる。
οエロ・グロ・ナンセンス。

○人物録 >>4

○話
序 - >>1
一月目、卯月 - >>100【了】
二月目、皐月 - >>101【了】    
三月目、水無月 - >>103【了】
四月目、文月 - >>100
五月目、葉月 - 
六月目、長月 - 
七月目、神無月 - 
八月目、霜月 - 
九月目、師走 - 
十月目、睦月 - 
十一月目、如月 - 
十二月目、弥生 -

呟き>>18
初期設定あったから晒してみる>>79

漸く折り返し地点到達の予感。
アンケとか取ろうかなあと思ってたり。

Re: 吉原異聞伝綺談 *卯月【了】 ( No.74 )
日時: 2011/05/25 18:18
名前: 朔 ◆sZ.PMZVBhw (ID: rbVfLfD9)
参照: テスト終了。今更ながらこの作品は妙に女性陣の方が多い(笑)


「や、めてっ !!」
妖魔溢れる魔都吉原。薄暗い路地裏で叫び声が響いた。亜麻色の三つ編みのお下げを振るわせ、悶えるように躰を激しく揺さぶる女が居た。女を固定するは、髷頭の浪人。
「うるせぇっ!」男が怒鳴った。「黙ってヤらせろ」
女は赤縁眼鏡越しに涙を浮かべる。口が手で押さえられ、声が出ない。躰を這いずり回る男の手に鳥肌が立った。

————止めて止めて止めて止めて止めて止めて止めて止めて止めて !!

抵抗する女だったが、全く男の力には逆らえなかった。下着に男の手が侵入する。その時に躰が大きく動き、女の顔が上下した。反動で眼鏡が外れる。地面に音を立てて落下した。

「何だ、眼鏡を外した方が別嬪べっぴん
そう薄汚い笑みを浮かべた男の股に激痛が走る。呻いた男の力が弱まった。そのまま解放された女が肘を男の腹部に押し当て、飛ばした。吹き飛んだ男は壁に激突し、気絶する。それを確認した女は眼鏡を拾い上げた。————先程とは真逆の雰囲気である。力に逆らえなかった非力な女ではなく、男を吹き飛ばす剛力の持ち主になっていた。目付きは垂れ目から吊り目に変わっている。女は三つ編みにしていた亜麻色の髪をほどいた。滑らかなウェーブが流れる。

女は口を開く。
「————全く、こうに手を出しやがって。ウチが出なきゃにいけないことになったろが」
厳しい口調は誰かに言っているようなものだったが、周囲には彼女を犯そうとした浪人以外誰も居ない。彼女の中で声がこだまする。
『ごめんね、茶々ちゃちゃ。私がもっとちゃんとしてれば』
「良いよ良いよ、江が弱いのは知ってるさ」茶々と呼ばれた女は笑う。「守るのが"茶々という人格うち"だ」


 ————亜麻色の髪にYシャツ、黒ネクタイとロングスカート。吉田江よしだこうという人間は一つの肉体に二人の人間を住まわせる二重人格の女だった。眼鏡を外すと、茶々という人格が現れる。
『そうそう、茶々。高杉君が対妖魔用人形兵器を捕まえたって』
歩き出した茶々の中で江が話しかけた。茶々は笑う。
「知ってる。嗣の歩く十八禁が少女兵器を捕まえたってな」
『私たちより、先だったね』
「悔しいけどな」
『仕方無いよね?』
周囲には茶々の声しか聞こえていないので、彼女は様々な視線を浴びていた。怪しく見る者やら、好奇の視線を送る者やら。が、茶々は気にしない。もう慣れていた。

 江の『仕方無いよね』という言葉に茶々は暫く答えずに居た。が、やがて口を開く。細めた目は怪しく光っていた。

「奪えば良いだろ」


【二月目、皐月】



 人に害為す不老不死の化け物妖魔が溢れる魔都吉原。幕府から切り捨てられた不毛の土地は今日も妖魔と欲望がうずめいている。そんな魔都吉原に、対妖魔用人形兵器が迷い込んだのがつい先月、卯月のことだった。
「あら、意外にもお似合いね」
「そ、そうでしょうか……」
団子屋の女将の、ふくよかな顔が優しい言葉を奏でた。紫紺の目の、紫の艶の黒髪を持った少女は恥ずかしそうに白雪の頬を赤めた。真っ赤な林檎の様だ。片方で三つ編みにしていた髪は下ろされ、背中を流れている。薄桃色の長い中華服を纏い、舞姫のようにくるくると舞った。際どいスリットから見えるのは生足————ではなく白い布地。残念ながら下に履いていた。しかも長い。残念。

「あとは衣服全部剥いで俺の前に横たわれば良し」
団子を串から全て抜き、口に頬張った白髪の青年は自然な流れで言った。横の金糸に緑眼の少年がすかさずツッコミを入れる。
「全裸じゃねえか!」
「全裸だよ?」
「テメェはお触りパブにでも言ってこいや」
軽く怒鳴った所為か、少年は咳き込む。隣の男はやーい、と挑発。しかし無視。

 討幕派の高杉嗣と、幕府からの使者(自称)チェン・フェルビースト。白髪にサングラス、黒いスーツという奇妙な出で立ちの男とベルギー人宣教師と中国人科学者を両親に持つ少年はちょっとした事情で敵対する立場でありながら中立を保っている。これも、対妖魔用人形兵器RIN-YOU————琳邑という少女が関わっていた。先月末、お互いに探していた兵器を見つけたのだが、彼女が関わっていた仙翁救出大作戦(仮)で妖魔と戦い結局よく分からないうちに中立を保つことになった(経緯については吉原異聞伝綺談の卯月を見てみよう☆)。

西洋文化だけで無く、様々な国の文化が入り交じった吉原では和服以外も特に珍しくは無い。嗣や、中華服を着たチェンの様な出で立ちの人も少なくはなかった。仙翁と戦い、ある意味暴走的なものに陥ったボロボロの琳邑を連れた二人だったが、やはり限界。仕方無く近場にあった団子屋に泊めて貰っている。そこを営む老夫婦は娘が欲しかったようで妙に琳邑に対して色々してくれた。服の件もそうだ。

「りんちゃんは和服も似合いそうだねぇ」
職人親父の様なごつかった筈のオッサン顔は気持ち悪いくらいにやけている。本人に悪気とか、邪なものは無い。が、はっきりいって気色悪い。そして猫なで声が更に気色悪さを高めている。
「あ、いや……」
琳邑はどぎまぎする。年頃の娘なら「親父キモーイ」と連呼するのだろうが、文字どおり空っぽの琳邑にそんな感情は無かった。無知な兵器である。

 店頭で団子を貪っていた嗣の目に、人混みに混ざる紺の鍔付き帽子が入った。遠くなのでよく見えないが、嗣の中には思い当たりがあった。まさかとは思い、無視する。思い当たりのある人間は関わると五月蝿い奴だからだ。しかし、相手は気付いたのか帽子は近付いてくる。赤い襟巻きが見えた。小さくお下げにされている二本の尻尾の様な黒髪。そして丸顔に黒真珠二つ。ヤバイと思い、嗣は立ち上がった。
「…………嗣?」
「ツグル?」
少年少女が同時に不思議そうな視線を送った。が、高杉は無視してそのまま逃げ隠れるように店先から足早に去った。




 ここまで来れば、と安堵した高杉嗣の背後に気配が生まれる。嫌な予感で振り向いた。————そこには見慣れた顔があった。
「よっス」
敬礼!といった様なポーズを取った、紺の帽子を深く被る女性に嗣は項垂れる。
「『よっス』じゃねぇよ、マジで……」
短いお下げにクリッとした黒真珠の女はにこにこと笑顔を返した。

 嗣の知り合い————幼い頃に通っていた松下村塾の門下生の一人、山縣韵やまがたひびきだった。塾に通う女性の中では最もマトモな人間性で、交友関係が広く人付き合いが上手い。今は情報収集に狩り出ていた筈だった。
「山縣がなんだ、なんだ?男にフラれたか?」
皮肉った言葉は韵に容赦無く打ち返される。
「高杉こそ、大好物の女が喰えなくて寂しいんじゃ?こけしセンサー涙、涙でしょ」
「うるせぇ」
嗣は煙草に火を点けた。そのまま吹かす。ふと視線が韵の左袖に行った。……まるで中身がないように、ヒラヒラと風に揺られている。

高杉の中に疑問が渦めいた。以前会ったときにはしっかりと中身があった筈なのに。訊こうとしたが、止めた。相手から言うのを待つ。

「あたしが来た理由は分かる?」
唐突な山縣韵の問いに嗣は首を横に振る。隠密担当の韵の言葉にあまり良いものは期待できない。なんとなく予想は出来ていたが、敢えて分からないと答えておいた。

 韵は表情を翳らした。言いづらそうに口を開く。
「————良い報せと悪い報せ、どっちが良い?」
「グッター、グデストか、それともバター、バストかってことか?」
訊いたのを更に聞き返した。韵は呆れた顔を作る。
「good(グッド)の比較級はbetter(ベター)で最上級はbest(ベスト)ね。あとbad(バッド)は比較級worse(ワース)で最上級worst(ワースト)だから。そんな学生みたいな間違いすんな!」わざとなのか、素なのかは分からないが間違いを指摘する。「てか、バター、バストって何よ」
「バターとオッパ」
「死ねや」
真顔で禁止ワードを吐いた嗣を瞬殺。訳の分からない会話である。

 しかし山縣の顔は一変する。真面目な眼差しになり、嗣を捉えた。
「どっちからが良い——って言うのは愚問だと思うから、まずは良い知らせからね」一呼吸置く。「吉田は生きてた。目撃証言あり、吉原に停滞中よ」
聞いた嗣の目が見開かれる。彼は視線を落とし、そうか、と続ける。韵は次に繋げた。
「ベストな情報は、吉原からの脱出法が見つかったって話」
「なんだと !?」
思わず韵の言葉を聞いた瞬間に声を跳ね上げ、韵に詰め寄った。彼女は「落ち着いて」と宥める。

 韵はある程度手順をおって説明する女である。なので、この"良い知らせ"も恐らくこのあとにどんでん返しがやってくる筈なのだ。そう察知した嗣は静かに言葉を紡いだ。
「つーこたぁ、この後にどんでん返しか?」
山縣韵は短く黙り込んでから
「正解。どちらかって言うと悪い方が多いしね」
と空を仰いだ。雲一つ無い蒼天を、哀しみを込めた黒真珠に映していた。
「吉原の脱出には、あんたのトコにいる琳邑しか居ないって訳じゃなかった。————"純粋な"妖魔さえ倒してしまえばこの吉原から妖魔は消え失せる」
「純粋な……?」
「そ、純粋な」考える嗣に韵は攻め寄った。童顔の鼻が顔に付きそうだ。「多分あんたは接触してる筈よ。————仙翁って言うのだけれども」
嗣の脳裏に先月末に戦った女が蘇った。不気味な笑みを含ませ、圧倒的に近い戦闘能力の妖魔————琳邑を謀り、力を奪った妖魔。"純粋な"という意味は理解できないのだが、流れ的に妖魔の中でも馬鹿強い範囲に含まれそうだ。
「説明を頼む」
顔を合わせず、端的に乞う。慣れている韵は応えてやる。
「妖魔って言うのはね、完全に妖魔って奴は一体しか居ないのよ。つまり、核ってやつね。そいつを倒せば吉原を巣食う妖魔はぜーんぶ消え去る————。そして妖魔が増える原因、他の妖魔の正体ってのは」
韵は饒舌に説明していた。嗣は一字一句聞き逃さない。同時に、ひらひらと舞う右の袖を眺めながら男は考えていた。——そうなった訳を。

Re: 吉原異聞伝綺談 *卯月【了】 ( No.75 )
日時: 2011/05/25 18:39
名前: 朔 ◆sZ.PMZVBhw (ID: rbVfLfD9)
参照: テスト終了。今更ながらこの作品は妙に女性陣の方が多い(笑)

>>73
少年系キャラきたああああああ←
薙刀と言えば実は熾織さんの専用武器(謎)が薙刀と微妙に合ってて運命を感じます。そしてにんny(ry

さてえ、近藤さんもどう相手をするのか考えるのが楽しくなってきました^^
キャラ有難うございました^^大切に使わせて頂きますb

Re: 吉原異聞伝綺談 *卯月【了】 ( No.76 )
日時: 2011/05/25 19:00
名前: 風(元:秋空  ◆jU80AwU6/. (ID: .cKA7lxF)

おほっ! 第二話目突入乙!
二重人格キャラの登場に、むふふな私です^^
斎藤「君は……唯の馬鹿だからね」
冷たい斎藤さん……(涙
歩く十八禁は、どうでも良くて……妖魔の核と言う存在が気になりますね……

禁止ワード……
何故だか、雑談スレの方で踏みまくっております。 つい、先週何が何だか分らない間に禁止ワードを踏み踏み★
そして、一週間してまた、雑談に行けるようになった今日この日に禁止ワードをズドーン★
何なんだこれ……呪われてるのか??

Re: 吉原異聞伝綺談 *卯月【了】 ( No.77 )
日時: 2011/05/28 12:32
名前: 朔 ◆sZ.PMZVBhw (ID: rbVfLfD9)
参照: テスト終了。今更ながらこの作品は妙に女性陣の方が多い(笑)

>>76
やっとですぜぃ←
むふふですか^^実は私も非常に気に入ってる子でございやすw
齋藤君きびすぃ…。局長に言っちゃうぞww(ry
妖魔の核ーは次回山縣さんが言ってくれる筈です。説明役として本当最適だからついやらせちゃいそう汗

それは…!何の呪いだ!?
雑談スレって結構厳しいんですかね。小説の方で慣れてると地雷踏みまくりそうだなあ汗

Re: 吉原異聞伝綺談 *卯月【了】 ( No.78 )
日時: 2011/05/28 12:39
名前: 朔 ◆sZ.PMZVBhw (ID: rbVfLfD9)
参照: テスト終了。今更ながらこの作品は妙に女性陣の方が多い(笑)


 韵は一呼吸置いた。喉の置くに言葉が引っ掛かっていたらしい。が、彼女は無理矢理に吐き出した。

「核となる妖魔————"仙翁"以外は、元は人間よ」

その言葉は嗣を貫く。気にも止めず、中身の無い右袖を見せた。手で持ち、晒す。
「妖魔って言うのは、仙翁に"種子"を埋め込まれてなるものなのよ。でもすぐには妖魔にならない。なる条件って言うのがあって、それをこなしすぎると妖魔になってしまう。…………杉田先生は、それを"妖魔化"って呼んでるわ」
そうか、と呟く。杉田という名を聞いて、自分達の担当医の杉田要すぎたかなめを思い出した。三十代後半、眼鏡をかけた医者だ。巴の目の移植手術を行ってくれた人でもある。

 サングラスを押し上げる。山縣の話には、未だ"最低の知らせ"が無かった。と思った嗣が聞こうとした瞬間に韵は口を開いた。
「あたしと、入江先輩。シホリに井上、クサカのチビは、先日仙翁に会ったの」
出たのは巴のめいやら趣味やらで吉原からの脱出手段を探っていた人々の名前だった。嗣が琳邑奪取担当と同時進行で活動している。
「で」
「全員、種子埋め込まれちゃったってワケ」
彼女は袖から手を離し、空中で揺らした。呆れたような顔になる。

「私は右腕に埋められたから切り落としたし、入江先輩は目だったから抉り取ったよ。
でも、シホリと井上、クサカのチビは心臓に埋められたみたいだからいつ妖魔になるか分からないってね」
嘗て、嗣らが通っていた松下村塾の中でバミューダトライアングルと呼ばれていた伊藤熾織、井上珊瑚、桂巴。女子でありながらも強烈なキャラと色んな意味での強さを持った三人が皮肉にも危機的状況に陥っていた。嗣は愕然とする。クサカこと久坂扈雹くさかこはくと入江先輩こと入江蕀いりえいばらも、塾生の中でも【四天王】というものに数えられる塾生のうちの二人だ。更に久坂は塾生最年少でありながらも、同じく四天王である嗣と並んで【双璧】と称される。まさかとはいえ、やはり信じがたい。
「————そりゃあ、辛かったな」
ごく当たり前の言葉しか出ない自分が哀しい。韵は帽子の鍔を下げて目元を隠す。噛み締められた唇が小刻みに震えていた。涙を堪えているらしい。——涙を堪えながらも韵は続けた。
「妖魔を完全に排除するには、核である仙翁を倒さなければならない。シホリにクサカ、井上が妖魔になる前に倒さなきゃ、彼らが妖魔になるのも時間の問題になってくるの」
鼻水を啜る。涙声を鼻声で誤魔化していた。嗣は口すら開かず、ただただ茫然と聞いていた。



「あとは、新撰組が入ってきたのと、吉田の江ちゃんが敵対ってくらいかな」

しかし、残りの言葉は嗣の耳を通過するだけだった。







 琳邑は店先でぼんやりしていた。チェンは先程トイレに行ってくると言って、店内に去っていった。ぼんやりしているのもどうも申し訳無いと思い、草むしりを始める。細い指が草を摘む。緑の薄い刃が白磁の指先を切った。紅い液体が染み出す。止血方法のわからない琳邑はじっとそれを見詰めていた。

「あ、血が出てるよー」

背後からした子供の声に振り向いた。琥珀の目に、黒髪をポニーテールにし、桃色の桜柄の着物を着た幼い少女だった。まだ十を越えているかいないか……。兎に角その娘は琳邑に寄り、彼女の出血している指にそっと触れた。大きく丸い琥珀玉の視線が琳邑の紫に合わさる。
「止血しないの?舐めるといいよ」
「え……あ、うん」
言われてよく分からないまま舐めてみる。口腔に鉄の味が広がった。苦いような、よく分からない気持ちの悪い味覚だ。思わず顔をしかめる。こんなことをして血が止まるのか分からなかった。

 口から指を抜いてみる。まだ出ていた。すると子供は琳邑の指を取り、舌で傷をなぞった。離してから暫く傷を指で押さえ、血を出しきらせる。やがて、血が止まり、子供は手を離した。どぎまぎしながら琳邑は頭を下げる。
「いいよ、いいよ。ひなにはこんなん朝飯前だもん」
にへ、という奇妙な擬音を出して笑う。琳邑はふと気が付いた。周囲にこの娘の親らしき大人は居ない。子供が一人だと危ないと嗣から聞いていた琳邑は、訊いてみる。
「えと、お父さんやお母さんは?」
「はぐれちった♪」
速答。子供は可愛くウィンクする。はぐれたと聞いた琳邑の中に不思議な感情が芽生えた。血を止めてくれたお礼に何かしたくなったのだ。両親を探すのを手伝うのが一番のお礼に思えた対妖魔用の兵器は立ち上がって娘の手を引いた。くりくりした目が不思議そうに琳邑を見る。


「手伝います。えと、私は琳邑————で、貴女は」
チェン曰く、まず自己紹介するのが良いらしい。なので名前だけ名乗っておいた。少女は琳邑の名を二度三度繰り返してから、
「ひなは近藤鄙子こんどうひなこっ。ヨロシクね、りんちゃんっっ」
溌剌はつらつに言ってから琳邑に抱きついた。琳邑は声に力を込め、右手を握りしめる。眉毛を吊り上げて鄙子に言った。

「よしっ、では行きましょうっっ!」







「りん————……」
用を足し終え、ひょこりと引き戸から顔を出す。しかし、彼の緑の目の先には誰も居なかった。室内に入った記憶も無いチェンは不審に思う。琳邑が店先に居るはずなのだが。ふらふらと歩いて行ってしまったのだろうか。

 だとしたらマズイ。何がと言うと、彼女は何だかんだ狙われている存在だからだ。この世に存在する全ての物質の概念————ことわりを破壊する力を持つ兵器であるために、討幕派から妖魔までと何気に幅広く狙われている。仙翁の様に人に化けて彼女を貶め、力を奪おうとした輩も居たのだから、無垢で何も知らない彼女を一人歩かせるのは危険だった。嗣とチェンの間では「一時休戦」としているが正直なところ、吉原ここに流された反幕府勢の輩が狙っている可能性も零では無い。あのいい加減な高杉嗣のことだから、仲間になど連絡していないのだろう。


と考えたら溜め息が出た。嗣がどこかに行ったのを思い出し、琳邑も後からついていったのかと淡いものを持つが、すぐに切り捨てる。歩く十八禁の危険人物と少女を二人きりにさせれば何があるか分からないからだ。なので更に焦る。下手をすればその方が危ない。
「追わなきゃだっ!」
革靴を履いた足を跳ね上げてポンと飛び、追うようにした。が、そこで何処に行ったのか分からないのに気付く。
「って俺分かんないじゃん !!」
糞つまらないノリツッコミの最中にチェンは殺気を感知した。僅かすぎて気付くのが困難な殺意である。空気の揺れから何が来るのか察知し、構えた。


 何かが宙で弧をえがくく!銀閃が刃物の足跡だと理解するのに少しかかったが喰らいはしなかった。次に来ると思い、取り合えず店に被害を与えぬように移動。剣先が追うように放たれた。
「っあ————!」
チッという掠める音がした。が、気に止めない。危険を察知、右に躰を倒す。漸く刀の主が現れた。端麗な顔立ちに柔和な表情。棚引くのは纏められた肩幅まである艶やかな亜麻色の流れ。浅葱の下地が白抜きされた羽織が嫌なものを掻き立てた。素早く回り込み、足を放つ。相手の右足に向かって発射し、倒そうとしたが読まれていた。刃がチェンの金糸の頂点を摺り斬る。銀灰色の瞳は笑いながらも殺意剥き出しで少年を捕まえていた。


「……あんたが何なんだよっ」チェンはナイフを投げた。剣戟。逃げる。「なんで居るんだッッ」
乱れた亜麻色の髪と呼吸を整えた浅葱の羽織の男は笑む。男性よりも女性寄りな、中性的の顔立ちは笑いつつ鋭い。
「高杉嗣に邪魔されて[RIN-YOU]も連れ戻せずにぶらぶら。————近藤局長から直々に言われて君と彼女を連れ戻しに来たんだよ?」
無垢な殺意が恐怖を掻き立てる。この男は琳邑を奪取し失敗したチェンを殺すつもりなのだ。

「お、沖田総爾郎おきたそうじろう————新撰組一番隊組長っっ……」

名を紡ぐと、沖田は笑った。無邪気だ。
「チェン・フェルビースト君っ♪残念ですけどね、局長は決めちゃったんだよ。
兵器は僕らが連れ帰る。高杉を始めとした討幕勢は皆殺し決定。
そして、君も失敗したから要らないって僕らのコワーイ土方副長も仰ってましたとさ」
沖田は刀を振り上げる。下ろす瞬間、その僅かな秒を読み取ったチェンは跳躍した。


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