複雑・ファジー小説

■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
 入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)

吉原異聞伝綺談 *参照1000突破感謝!
日時: 2011/09/19 17:28
名前: 朔 ◆sZ.PMZVBhw (ID: .WzLgvZO)
参照: http://nishiwestgo.web.fc2.com/index.html/

はじめましてorおはこんばんちは。
朔(モト)と申します。シリダクの方でも【Veronica】ってのを書かせて頂いている者でございます。

完結してから書くのが一番良いと思うのですが、なんせ終わるまでの道のりを考えてみたら一年以上かかるんじゃね!!?と思ったので、構想が消えうせる前に書こう!ということで、書きます(断定)

多分此方の方が早く終わるんじゃないのかなあ(
刀語(知ってる人いますかね)みたいな感じで、全十二話!なものです。今 の と こ ろ は(←ここ重要だよ。テストに出ます)


さてさて、まずは注意事項から。

※1 / 荒らしとか誹謗中傷はダメデスヨ。止めてください。
※2 / 掛け持ちの為、更新が亀よりも遅いです。ゴキブリ並の更新速度は無理です(ゴキブリって速いんだよ!)
※3 / 誤字脱字・文章オカシイ。Not 神文。アド・ツッコミ大歓迎。どぉーんとこーい!!(Ue田教授)
※4 / 宣伝は良いですけど、見に行くのが遅いです。
※5 / 最初はシリダクに書く予定だった半端者です。色々注意してくださいな。
※6 / 完結まで突っ走っていけるか不安です。途中で止めたりするのは覚悟の上でお願いします。

と、まあこんな所かな。



題名が漢字ばっかりで訳わかんねーよ!と言う方が殆どだと思うので、補足。(参照・広辞苑)
【吉原】江戸の遊郭。地名。
【異聞】常と変った風聞、珍しい話。
【伝】伝える事。言い伝え、語り伝える物語。
【綺談】面白く仕組まれた話。

っちゅー事です。あ、でもそんなに期待しないでね。本当期待して損な事って多いから!(何

じゃあ、取り敢えず・・・・・・始めようか。

※掲示板の(十二歳以上)に甘えます。表現に注意。
読むときに注意すべき点↓
ο主役級の奴が恐ろしいほど変態。キャラクターがサディスト(根はまともだと信じたい)
ο戦闘シーンの迫力があんまりないと思うけど多分グロイと思われる。
οエロ・グロ・ナンセンス。

○人物録 >>4

○話
序 - >>1
一月目、卯月 - >>100【了】
二月目、皐月 - >>101【了】    
三月目、水無月 - >>103【了】
四月目、文月 - >>100
五月目、葉月 - 
六月目、長月 - 
七月目、神無月 - 
八月目、霜月 - 
九月目、師走 - 
十月目、睦月 - 
十一月目、如月 - 
十二月目、弥生 -

呟き>>18
初期設定あったから晒してみる>>79

漸く折り返し地点到達の予感。
アンケとか取ろうかなあと思ってたり。

初期設定晒してみる ( No.79 )
日時: 2011/05/28 22:02
名前: 朔 ◆sZ.PMZVBhw (ID: rbVfLfD9)
参照: テスト終了。今更ながらこの作品は妙に女性陣の方が多い(笑)

色々あさっていたら面白いものというか今見ると笑える(私が)物を見つけたので晒してみます。

Y.I.D.は今の形になるまでこんな経緯を辿っていた。


【超初期】(題名は忘れたし残ってなかった)
長年鎖国状態を保っている日本国を開国すべく黒船に乗ってやってきた青年オルダ・シグレー。しかし、方向を間違えた所為で下関で砲撃に遭い、オルダのみが海へと投げ捨てられてしまう。彼はそのあたりに住む少女涙(なだ)に助けられるのだが彼女は直ぐに吉原へと売られてしまった。彼女を助けたい一心で吉原へ殴りこみに行くオルダだったが幕府に阻まれ失敗。そんな彼は倒幕派の高杉という男に出会い、条件付きで涙を助けに行くのだった。
*正直設定ぐだぐだやねん!(何
何で吉原に売られに行ったのかはちゃんと理由があったんだけど忘れました。あとこの時点だとオルダさん(=織田時雨)は男で主人公だったね。今は一体何があったんだろう。



【初期】(題名は吉原異聞伝綺談)
繁華界と呼ばれる世界に、まるで一つだけ除外されている巨大都市吉原は妖魔と呼ばれる異形の存在を閉じ込めている唯一の場所である。しかし、封印されていた筈の妖魔が溢れだし、人々に害を与えていた。それを阻止すべく組織された秘密結社・悪の組織(通称結社)のエージェントである高杉嗣とチェン・フェルビーストは上司の密命で結社の秘密兵器RIN-YOUの捜索の為に吉原を訪れていた。
彼らは吉原で"親友を助けたい"という思い一心で危険な行為に及んでいた謎の少女・琳邑に出逢う。
琳邑こそ、彼らの探していた秘密兵器RIN-YOUであり、三人は繁華界に巣食う妖魔を倒しながら結社の本部へと向かうのだった。
*ベースは変わってないけど結構違いますね。なんだよ、悪の組織て…。





□登場人物もこんな風に変わってた。

【高杉嗣】
秘密結社悪の組織に所属する新鋭エージェントの青年。無類の女好き。23歳。
嫌々新人のチェンと組まされており、中はあまり宜しくない模様。
基本行動するかの判断基準は"女性が居るかどうか"。一応年齢層は幅広い。
ちなみに本部内で知らない女性は居ないと自慢していたが、図書室に事実上幽閉されていた琳邑の事は知らなかった。
琳邑に人間らしく生きるようにするために組織から極秘任務として請け負っている。ただし、ツグルの人間性に問題が有るため、非常に成長に心配がある。
高名な女郎・ナダと攘夷志士・高杉巓璽(タカスギ テンジ)の間にできた子供だが、身を追われている巓璽には殆ど面識が無い。涙は巓璽が死んだという知らせを受けてから精神病を患い、ある時、狂人と化した母親は周囲の者達を全員惨殺、嗣にも手を掛けようとしたが嗣は間一髪の所で彼は逃げ切る。以降、彼の中に"殺人者の子供"という恐怖概念が根付いた。精神的に傷付き、ただ心の満たしだけに刀を振るっていたところ、実力を買われ結社に身を投じた。
日本人らしく日本刀の扱いにも長けている。基本戦闘担当。
*立場の設定が違うだけであとは殆ど一緒ですな。この時期には桂さんとか居ませんでした。Y.I.Dになって作られたキャラ。それまでも主人公に近いポジションのキャラはみーんな高杉さんでしたが。


【チェン(陳)】
秘密結社悪の組織に所属する新鋭エージェントの少年。18歳。
様々な国籍の血を受け継いでおり、親族のコネで組織に入った。その為か周囲から軽蔑されているが本人は全く気に掛けていない。
基本ツッコミ担当で、真っ直ぐな性格。感情に一途で、"自己犠牲"を極端に嫌う傾向がある。
まだ新人で、今回嗣と組んだ密命が初任務である。先頭慣れしていない為、敵に対して甘い一面があり、嗣や琳邑と対立することが多い。
ただし戦闘能力はあまり高くないので実際のところ、相棒のツグルのサポートをしている。ナイフの扱いに慣れようと現在進行形で努力中。元から身体能力に長けているので、素早い。今回初めて実戦に及んだ。
意外にも趣味は読書であり、図書室に毎日足を運んでいた。その為、一応琳邑の顔は知っていた。
父親は宣教師として遥々西の方からやって来た人間で、現地の女性、則ちチェンの母と出逢ったと聞く。五歳年下の弟・李英儒がいるが、彼と性格は真逆らしい。
頭はそれほど良くないが、持ち前の記憶力と発想力で二人を支える、ある意味重要な人間。
*一歳年食ってます。しかも戦闘能力が低いってね!そして頭も悪いという。…進化したなあ。

【琳邑】
秘密結社悪の組織が持つ、尸解、妖術、魔術、錬金術、科学などを結集させた実験結果RIN-YOU。しかし、見た目は十代後半の少女。
相容れぬ存在同士の融合という結果の副作用で、物の存在概念である"理"を操るという大変危険な力を持ってしまった為に組織から危険視され産まれてからずっと幽閉されていた。その為、外に出たことが一度もなく、好奇心から家出、吉原で消息を絶つ。
最初は感情的でなく、全く常識を知らなかったが吉原で出会った遊女・仙翁との出会いと別れ、ツグルやチェンのお陰で感情的に成長している。(し過ぎて情緒不安定ともいえるが)
高杉らの上司の娘だが、母は死産、彼女も産まれて間もなく死んでしまう。それを機に、結社が長年の実験結果を組み合わせるなどしたところ、記憶は全て失ったが再び世に留まる。上司を父親の様に慕っており、結社の中で彼が唯一信頼出来る人間である。ずっと図書室に幽閉されていた為、本は暗記するほど読み込んである。
*こいつもベースは変わらず。ただこっちの方が感情的ですね。何処行ったんだ、感情。

【仙翁】
遊女。初めて琳邑が外の世界で触れてくれた人物。
正体は吉原を巣食う人形妖魔で来客や遊女らを喰らっていた。琳邑には組織壊滅の一環として接触した。結果、覚醒した琳邑と、嗣、チェンを相手に深手を負ったが間一髪のところで逃走した。
*こいつもあんまり変わらないっすね。ボスっていう設定は消えてたみたいだけど(笑)


下のキャラは小学生ん時につくってあったのがベースになってます。その時の設定もファイル漁ってたら出てきたよ。

【桂 巴】
攘夷派の一人で、高杉姉弟とは寺子屋での仲もあり、親しい。右目に眼帯をしており、「独眼どくがんりゅう」と訳のわからない事を言う。今は、坂本義仲と行動しており、一応フリー。薙刀なぎなたが武器。「碧眼の殺人鬼」の異名を持つ。
*この段階のやつは高杉が二人いましたな。とても元気な桂さん。一体何があったのでしょー。

【伊藤熾織】
攘夷派の一人。高杉姉弟・桂とは寺子屋からの仲。自分の性別を偽るのを嫌い、坂本の目の前には現れないようにしている。目指しているのは大和撫子の様な人物。
*坂本さんは女嫌いと言う設定があったんじゃ。うん。それにしてもこの時期のシホリさんも今となっては如何した!?って感じですね。性格めっちゃ良いじゃん…

【久坂扈雹】
激しい攘夷思想家。高杉姉弟に松下村塾を薦め、一緒に入門した。語尾に、「〜ッス」と付けて喋る。高杉姉弟と違い、新撰組をよく思っていない。攻撃は援護射撃が殆ど。
*久坂どうしたああああああああ。(ちなみにこの時期の新撰組はなんと幕府と攘夷派の中立的立場にあったのだ!)今の久坂君は切り込み隊長です。マジで。

【山縣韵】
攘夷派の一人。彼女もまた松下村塾生。同じ塾生である前原と共に居る。池田屋に居たところを新撰組に保護された。言うことは鋭い点をつく。左利きだが元の利き腕は右だった。右腕は使用すると鬼神化が進行するため切り落とした。
*鬼神化っていうのはY.I.Dでの妖魔化と同じようなものです。こいつは殆ど変ってませんね。



まだ入江さんとか大久保さんとか、近藤さんも(笑)居るんだけど登場してないので載せれませんね。あとネタバレ凄いし。
兎に角このY.I.Dに来るまでこんな進化を遂げてました。彼らに一体何があったんだよ。

Re: 吉原異聞伝綺談 *皐月更新中 ( No.80 )
日時: 2011/06/04 19:36
名前: 朔 ◆sZ.PMZVBhw (ID: rbVfLfD9)
参照: テスト終了。今更ながらこの作品は妙に女性陣の方が多い(笑)

お久しぶりでs((殴
いや、ちょっとまあ色々リアルの方でありまして。最近全く放置でした、すみません。
と言うことで更新…したいなあ(おい

【中間】 ( No.81 )
日時: 2011/06/04 22:09
名前: 朔 ◆sZ.PMZVBhw (ID: rbVfLfD9)
参照: は く り ゅ う = jeep (゜д゜)

□ □ □



 少女は軽やかな足取りで石畳の上を歩いていた。朱色を基本とした鮮やかな花柄の振袖を風に揺らし、潤み色の瞳で周囲を見渡す。ふと何か見つけ、駆け寄った。塀に背中を付けて、菫色の艶を放った黒髪を垂れ下げて微動だにせずしゃがみこんでいる。首元に淡紅色のバンダナを巻きつけているのが鮮やかに光って見えた。少女は不安げに焦げ茶色の髪を付けた頭を近付け、垂れた黒の流れを手で掻き上げる。左半分を血の滲んだ包帯で隠した、少女のような幼い顔立ちが見えたが、性別は違うと確認。

よくよく見てやると傷だらけだった。呼吸を確認すると、弱々しくもしていたので一先ず生きていることは分かった。


 少女は悩む。拾えば、大久保は怒るのだろうか。少なくとも、同居の西郷は怒る。が、大久保はどうだろうか。自分を拾った大久保のことだから、きっと笑顔で喜ぶのだろう。


 それに見捨てたくなかった。なによりそれもが一番だった。目の前で脆弱な呼吸を立て、今にも黄泉に引きずり込まれていきそうな命が、黄泉と現世の狭間に引っ掛かって現世に留まっている。そんな姿を見捨てたがゆえに彼は落ちて短い生涯を終えるとしたら、その行為はどんなに罪深いものなのだろうか。嘗て自らが同じ境遇だったのを思い出す。西郷という冷ややかな人間に制止されながらも大久保という男は自分を助け、名前までも与えてくれていた。


『彩りが灼爍としているのを仰ぐ様————彩希爍あきと。どだ、俺のネーミングセンス』


褐色の短髪に映えた赤い服を着た大久保紅羽くれはという男はそう言いながら少女の髪をくしゃくしゃと撫でた。その笑顔は彼女にとって太陽。それはまさに、名前を名乗る声を死なせた、絶望の淵にたった彼女に告げられた黎明だった。


 だからもう躊躇わなかった。そのまま細く脆そうな腕を引いてやる。意識が無いようでまるで人形のようだった。仕方がないから持ち上げる。少年と言っても男、その躰を支えるほど力があるわけでもないのだが彼是あれこれ言っていられない。背負うような形にして運んでいった。





□吉原異聞伝綺談<ヨシワライブンデンキダン>


□【皐月】 間。




 吉原のすみに聳える木造の邸、大久保邸。家主は大久保紅羽という二十三の若者だった。広い邸は元来遊廓だったのだが幽閉された大久保が買い取り、改造したのである。しかも独力で、だ。一月程で完成させた彼の体力は人間を凌駕する。生命力もゴキブリ並みと称され、驚異のものを持っていた。最早人の領域には置いておけないレベルなのだ。

「アキトおっせぇなあ」
隣で煙草を吹かす眼鏡の男————西郷重兵衛さいごうじゅうべえに言うように声を出した。相手はレンズ越しに冷たく細い目を紅羽に向ける。
「恐らく、近所で遊んでいるのだろうな」
「西郷、テメェはいつもそうだ。アキトはなぁ、アレでもまだ十五!盗んだバイクで走り出す夜を迎える年なんだよっ」
一人白熱する大久保紅羽に対し、西郷は冷えていた。冷静に投げられた言葉を返す。
「盗まれた奴の気持ちにもなってみるんだな」
言われた紅羽は黙り込む。…………正論。


 紅羽がアキトを拾ったのも一月程度前だった。

 昔結ばれた薩長同盟で大久保の属する薩摩藩と桂巴率いる長州藩は協力状態にあったのだが、結ばれた当時には幕府を倒すには至らなかったらしい。以降衰退し、結局将軍も現在は三十二代目徳川定晴さだはる。今の時期になって動いたものの見事に吉原に閉じ込められてしまった。それから間もない頃、紅羽はぶらりと外を歩いていた。そこで幾人もの浪人に追われていた少女を見つけ、助けた。————それがアキトだ。

彼女は何らかのショックにより、言葉を失ってしまったらしい。更に名を訊ねても筆談で返してくれることもない。仕方無く紅羽は少女に名を付けた。アキト———彩希爍、意味と由来は同志西郷重兵衛に失笑されてから口に出していない。自信のあった名だっただけに悔しい。


 呆れながら門を眺めていた。紅羽の褐色の瞳が鮮やかな着物を捉える。アキトと直感した彼は走り出した。着込んだ赤いジャケットが風に靡く。そのまま少女に一直線、向かい合った所で彼は停止した。

 アキトは潤み色の双眸を真っ直ぐに紅羽に向けていた。背中には黒髪の子供。嫌な予感がしたので訊ねる。
「……今日は可燃ゴミの日だったのに不燃物あったから拾ってきたのか?」
恐るべき変化球でも動じずに少女は小さく丸い顎を引いた。緩やかな弧を描いた顎がしっかり引かれたのを見た大久保は溜め息を吐くが、仕方無い。アキトの親切を無駄にするのは嫌だった。それに、人を見捨てたくない。
「アキト、サンキュな。お前偉いよ。人助けたんだぜ?」
彼は素直に褒めた。決して取り繕われたような飾りまみれの言葉では無い、純粋な気持ちだった。アキトの性質に改めて感動する。彼女は優しい人間だ、と。褒められたアキトは頬を染めた。純粋に嬉しい。彼女はぱくぱくと口を開閉する。
「『ク、レ、ハ、が、わ、た、し、に、し、て、く、れ、た、の、と、お、な、じ、だ、よ』……か。嬉しいなコノヤロォいっ」
的確にアキトの言葉を読み取り、彼は彼女の頭をくしゃくしゃに撫でた。特に読唇術というものを極めた訳でも無いが、アキトの言葉だけは的確に読み取れる。西郷には出来ないこと————いや、大久保にしか出来ないことだった。

大久保に頭を強く撫で回されるのが好きなアキトは更に頬を赤める。暫くしてから紅羽は後ろに回って子供を背負いあげた。菫の艶がかかった黒髪に、巻かれた包帯、傷だらけの躰。アキトの時を思い出す。空いた手で少女を引いて戻った。中の重兵衛は今の紅羽の様子を見て目をパチクリさせている。紅羽は構わずに自分のペースで言っていた。



「————西郷。今日から家族一人増えるわ」

そのまま背中を見せて自室に向かっていく。申し訳なさそうな顔のアキトが軽く会釈した程度で大久保は何もしなかった。


「————————は?」

ポトリ、と吸殻が口許から綺麗に零れ落ちた。




 光。

 眼前に広がったのは升目上の檜板だった。ぶら下げてある灯りは点灯していない。差し込んだ黄昏時の陽射しが眩しかった。少年は開いている右目から入る光の眩しさに目を細める。景色に見覚えは皆無だった。

 ゆっくりと上半身を起こそうとした先に一人の男が視界に侵入する。

「あ、ウェイカプしてら。おは」
穏やかな顔付きが、明るい髪によって際立たされていた。男は優しい面差しを向け、そっと少年の閉ざされた左目に手をやった。火傷で爛れ、目は塞ぎきっている。男は目を細め、苦い顔をする。
「やっぱひでえ。これじゃあ、見えそうにないな」
火傷の上に、更に多数の切り傷。視力の望みはないらしい。後ろから包帯を出して少年の頭に巻き付くていく。それは大変鮮やかな手付きで、あっという間に綺麗に左目を覆った。

 同時に襖が開く。顔を覗かせたのは、まだあどけなさの残る女だった。潤み色の双眸を不安げに向けていたので少年は紫紺の目を合わせてやる。すると少女は驚いたのか、ひょっと顔を引っ込めた。それでも、絶えず少年がその方向を見つめていると男は少女に声をかけた。
「————彩希爍あきと、おめも来い」
彩希爍と言うのか、と少年は脳内にインプットする。アキトはひょこひょこと現れ、軽く会釈した。その小さな肩を男の厚い手が叩いた。
「無愛想とかじゃねぇんだ」潤み色の少女の目が伏せられる。「ただ単に喋れないだけでな。俺もよくは知らねえけど、事情ってやつだ」
アキトが頷く。少年は何も言わずに俯いていた。すると男が少年の頭に手を当てて無理矢理面を上げさせる。
「あ」
小さく声を発した少年に男は笑いかけた。
「俺は大久保紅羽っつーんだ。クレハともクボとも好きに呼んでくれ」大久保は少年の黒い流れを揉む。「お前は何て言う?」

 少年は口をすぼめていた。記憶を検索するが残念ながら少年の脳内検索エンジンには何もヒットしなかった。文字通り空っぽなのに気付く。名前おろか、年齢も出生も分からない。紅羽もそれに気付いたのか、なんとも言いづらそうな顔になって、ヘラヘラとした顔を真面目にし、申し訳なさそうな頭を下げる。
「わりぃな」
「…………ううん」
小さく頭を左右に振った。すると紅羽は立ち上がり、部屋の本棚を漁り始めた。目は何かを探しているみたいで、端から端を抜かずに見ていく。ふと視線が止まった。先にあった分厚い書物を引き出す。漢和辞典だ。それをパラパラと適当に捲り上げる。

「思い出せない」呟いてから、もう一度同じ言葉を今度は文を装飾して少しだけ声を張って言った。「僕、名前も何も思い出せない」
「だからよ」
男のパラパラと捲る音が止んだ。アキトを手招きして呼び寄せ、止めたページを見せながらにやつく。それからまた少年の方へ近付いてきた。

 折目のついたページを突き付ける。紫紺の目と間近にあるページの感じを一つ指で指してやっていた。
「名前をつけてやるよって話だ」
あったのは「黎」の字。離してまた捲る。すぐ止めてまた突き付けた。今度は「靉」の字。
「えぇと」
どもる少年は字を追う。訳の分からない二字だ。大久保はにやついている。
「まだ俺は未婚だけどよ。産まれたら子供につけたい名前があんだ」
またアキトを呼び寄せる。ちょこんと少女は潤みの目を頭上の大久保に向けながらも唇に微笑を浮かべている。

黎靉れいお。————黎は黎明の黎でほのくらい光、夜明け方の意味を持つ。靉は雲が纏わりつく様を現す。つまり、雲が仄かに——徐々に晴れて行く様を現す」

少年————いや、レイオの瞳に光が宿った。まるで今生を受けたように、紫紺の珠が輝きを灯す。彼は名前を繰り返した。レイオ、レイオと。
「気に入らなかったか?」
繰り返し言うレイオに対し、大久保は不安そうだった。
「ううん」レイオは首を左右に振る。「気に入った。————ありがとう」
「どういたしぃー。それぁ良かったよ」
紅羽は安堵する。子供は照れ臭そうにしていた。空っぽの内部に"自分"が生まれた気がして、嬉しかったのだ。



 この日、大久保邸に新たに家族が加わった。

 大久保黎靉、空っぽだった少年。



【中】 了

Re: 吉原異聞伝綺談 *皐月更新中 ( No.82 )
日時: 2011/06/19 13:49
名前: 朔 ◆sZ.PMZVBhw (ID: rbVfLfD9)
参照: は く り ゅ う = ジープ (゜д゜)

総統暫く放置してました、ごめんなさい(
夏の大会までには完結できるだろうと思っていた自分が愚か過ぎるwww
自虐的です、ハイ。

取り敢えずまだ更新のめどは立たないんですけどね(おい)
今更ながら返信数80超えてたのにびっくりしました。有難うございます

Re: 吉原異聞伝綺談 *皐月更新中 ( No.83 )
日時: 2011/06/23 21:45
名前: 風(元:秋空  ◆jU80AwU6/. (ID: .cKA7lxF)
参照: 最近、地球の酸素では足りない気がしてきた…

おぉ、更新おめでとうです。
しかし、夏の大会までにこの大作を終らせるのは無理が有ったのでは?
一年掛けても終わりそうな気がしませんよね。
まぁ、私は好きなので全然良いですが。

やはり、仙翁が関わってましたか。 見えないところで色々と話が進んでいるみたいですね。 良い事です。
そして、天才美剣士沖田君に会ったチェン氏は運が悪かった。
さようなら、君の事は忘れない!!(冗談

あっ、そうそう♪
雑談の方でまた、アク禁になりました……是で五回目だよ(オイ
記録にでも挑戦するかな?


Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21



小説をトップへ上げる
題名 *必須


名前 *必須


作家プロフィールURL (登録はこちら


パスワード *必須
(記事編集時に使用)

本文(最大 7000 文字まで)*必須

現在、0文字入力(半角/全角/スペースも1文字にカウントします)


名前とパスワードを記憶する
※記憶したものと異なるPCを使用した際には、名前とパスワードは呼び出しされません。