複雑・ファジー小説
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- 吉原異聞伝綺談 *参照1000突破感謝!
- 日時: 2011/09/19 17:28
- 名前: 朔 ◆sZ.PMZVBhw (ID: .WzLgvZO)
- 参照: http://nishiwestgo.web.fc2.com/index.html/
はじめましてorおはこんばんちは。
朔(モト)と申します。シリダクの方でも【Veronica】ってのを書かせて頂いている者でございます。
完結してから書くのが一番良いと思うのですが、なんせ終わるまでの道のりを考えてみたら一年以上かかるんじゃね!!?と思ったので、構想が消えうせる前に書こう!ということで、書きます(断定)
多分此方の方が早く終わるんじゃないのかなあ(
刀語(知ってる人いますかね)みたいな感じで、全十二話!なものです。今 の と こ ろ は(←ここ重要だよ。テストに出ます)
さてさて、まずは注意事項から。
※1 / 荒らしとか誹謗中傷はダメデスヨ。止めてください。
※2 / 掛け持ちの為、更新が亀よりも遅いです。ゴキブリ並の更新速度は無理です(ゴキブリって速いんだよ!)
※3 / 誤字脱字・文章オカシイ。Not 神文。アド・ツッコミ大歓迎。どぉーんとこーい!!(Ue田教授)
※4 / 宣伝は良いですけど、見に行くのが遅いです。
※5 / 最初はシリダクに書く予定だった半端者です。色々注意してくださいな。
※6 / 完結まで突っ走っていけるか不安です。途中で止めたりするのは覚悟の上でお願いします。
と、まあこんな所かな。
題名が漢字ばっかりで訳わかんねーよ!と言う方が殆どだと思うので、補足。(参照・広辞苑)
【吉原】江戸の遊郭。地名。
【異聞】常と変った風聞、珍しい話。
【伝】伝える事。言い伝え、語り伝える物語。
【綺談】面白く仕組まれた話。
っちゅー事です。あ、でもそんなに期待しないでね。本当期待して損な事って多いから!(何
じゃあ、取り敢えず・・・・・・始めようか。
※掲示板の(十二歳以上)に甘えます。表現に注意。
読むときに注意すべき点↓
ο主役級の奴が恐ろしいほど変態。キャラクターがサディスト(根はまともだと信じたい)
ο戦闘シーンの迫力があんまりないと思うけど多分グロイと思われる。
οエロ・グロ・ナンセンス。
○人物録 >>4
○話
序 - >>1
一月目、卯月 - >>100【了】
二月目、皐月 - >>101【了】
三月目、水無月 - >>103【了】
四月目、文月 - >>100
五月目、葉月 -
六月目、長月 -
七月目、神無月 -
八月目、霜月 -
九月目、師走 -
十月目、睦月 -
十一月目、如月 -
十二月目、弥生 -
呟き>>18
初期設定あったから晒してみる>>79
漸く折り返し地点到達の予感。
アンケとか取ろうかなあと思ってたり。
- Re: 吉原異聞伝綺談 *皐月更新中 ( No.89 )
- 日時: 2011/07/28 17:49
- 名前: 朔 ◆sZ.PMZVBhw (ID: rbVfLfD9)
- 参照: 糸色 イ本 糸色 命
「へぇ、アンタ一人が相手。無理だからやめたら?」
茶々が哄笑する。亜麻色の髪が一部吹き飛んだ。————焼け焦げている。砲を構えた時雨は微笑した。
「…………すみません、手元が狂いました」
「アンタ————……」茶々の額に青筋が走る。肩が小刻みに揺れ始めた。ナイフを一回転させて握り直す。「良い度胸」
びゅん、と音を立てて一気に接近する。時雨は素早く対応、弾丸を二、三発発射。見事に茶々はナイフで全てを弾き落とした。
刃が時雨の服を切り裂く。胸を真一文字に切っていた。僅かなふくらみが現れる。下に巻いていたさらしも僅かに切りこみが入っていた。
「おん……?」
一瞬の動揺、隙をつき時雨が撃つ!一発が見事に茶々の右足を貫いた。踉(よろめく)が、瞬時に体勢を立て直した。ナイフだけでは足りないと思い、肢体を自在に扱うことを決める。——動きからして、それ程肉体の鍛錬はしていないようだ。
「ふんああッ!」
荒い呼吸と同時に茶々の右足がしなやかに曲がり、時雨の下腹部に衝撃を与える。
「っうあぁあッっ!」
喘ぐような悲鳴を上げ、苦痛に表情を歪ませた時雨だったがすぐさま反撃を開始。通り抜けるように過ぎて行った茶々の右足を掴む。そのまま全体重を掛けて振りまわし、彼女の躰を地に落とした。女が小さく呻く。
「なんてね!」
しかし、それは演技。この機会を待っていたと言わんとばかりの満面の笑みを浮かべてナイフを眼前にあった時雨の右腕に突き刺した。鮮血が吹き出す。
「ッ——————!」
さらに顔をゆがませた時雨は思わず躰をよろめかせた。
「鬱陶しい!」
倒れかける時雨の躰に罵りながら、茶々は蹴りを入れた。諸に食らった肉体が吹き飛ぶ。壁に当たって落ち、暫く手元を痙攣させた。
時雨の意識が朦朧とする。おぼろげに茶々の姿を確認していたが、肉体が能からの指令に付いていけてなかった。亜麻色の髪が時雨の顔に当たる。紅毛を乱暴に掴んだ女は口元を三日月の様に左右に吊らせた。不気味に弧を描いた唇が殺気を漏らす。同時にポケットから出した二、三の錠剤を碧眼に突き付けた。
「これなんだ?」
しかし、時雨は答えない。その態度に対し、腹が立ったのか思いっきり顔を殴りつけた。豪打された右頬が赤く腫れていく。
「青酸カリ、ね」
茶々は低く笑った。かと思えば直ぐに金切り声を上げる。乾いた笑いが周囲の静寂を破壊しつくしている。
意識のはっきりとしない織田時雨の髪を掴みあげて、そのまま力任せに地面に叩きつける。時雨が掠れ声を上げて吐血した。その頭を足で踏みつける。
「どうしようか。毒殺?」
一旦浮かせ、深く落とす。時雨から苦痛に満ち溢れた叫びが漏れた。声は掠れ切り、音としての意味を成していないくらいの叫びだ。口元からの殺意が、右足と一緒に時雨の頭へと落ちる。
「圧殺?絞殺?刺殺?殴殺?格殺?虐殺?禁殺?串殺?撃殺?射殺?砲殺?銃殺?坑殺?劫殺?惨殺?斬殺?残殺?襲殺?専殺?賊殺?椎殺(ついさつ)?闘殺?爆殺?焚殺?蔑殺(べっさつ)?捕殺?暴殺?撲殺?抹殺?密殺?薬殺?誘殺?要殺?掠殺(りゃくさつ)?扼殺?搏殺?炮殺?磔殺(たくさつ)?縊殺(いさつ)?轢殺?鴆殺(ちんさつ)?鏖殺(おうさつ)?」
何度も何度も踏みつけ作業に励んでいた右足が急に妙な所で止まった。力を入れても動かない。——時雨の紅く染まった白手袋が、足をその場に固定していた。紅毛と血液に見え隠れしている碧眼が鋭い眼光を放ち、言葉が鋭く放たれた。
「悩殺☆」
その瞬間、茶々の躰が吹き飛ばされた。先程まで受け身に呈していたはずの時雨が起き上がり、袖で血を拭き取る。切り裂かれた服からは彼女の性別を現わすものが見え隠れしていた。
「oh no...汚れちゃったし破けっちゃったし、ボッロボロ……。What a disappointment(がっかりだ)!」
瞬時に隠そうと、残った布の部分を引きのばして縛る。「これで良いか」と声を漏らし、茶々に近づいて行った。
「僕の形勢逆転ですね」
逆に今度は茶々が上から見られるようになった。軽く舌打ちをし、持っていたナイフを突き刺そうとして接近する——!
「へぇ、アンタ一人が相手。無理だからやめたら?」
茶々が哄笑する。亜麻色の髪が一部吹き飛んだ。————焼け焦げている。砲を構えた時雨は微笑した。
「…………すみません、手元が狂いました」
「アンタ————……」茶々の額に青筋が走る。肩が小刻みに揺れ始めた。ナイフを一回転させて握り直す。「良い度胸」
びゅん、と音を立てて一気に接近する。時雨は素早く対応、弾丸を二、三発発射。見事に茶々はナイフで全てを弾き落とした。
刃が時雨の服を切り裂く。胸を真一文字に切っていた。僅かなふくらみが現れる。下に巻いていたさらしも僅かに切りこみが入っていた。
「おん……?」
一瞬の動揺、隙をつき時雨が撃つ!一発が見事に茶々の右足を貫いた。踉(よろめく)が、瞬時に体勢を立て直した。ナイフだけでは足りないと思い、肢体を自在に扱うことを決める。——動きからして、それ程肉体の鍛錬はしていないようだ。
「ふんああッ!」
荒い呼吸と同時に茶々の右足がしなやかに曲がり、時雨の下腹部に衝撃を与える。
「っうあぁあッっ!」
喘ぐような悲鳴を上げ、苦痛に表情を歪ませた時雨だったがすぐさま反撃を開始。通り抜けるように過ぎて行った茶々の右足を掴む。そのまま全体重を掛けて振りまわし、彼女の躰を地に落とした。女が小さく呻く。
「なんてね!」
しかし、それは演技。この機会を待っていたと言わんとばかりの満面の笑みを浮かべてナイフを眼前にあった時雨の右腕に突き刺した。鮮血が吹き出す。
「ッ——————!」
さらに顔をゆがませた時雨は思わず躰をよろめかせた。
「鬱陶しい!」
倒れかける時雨の躰に罵りながら、茶々は蹴りを入れた。諸に食らった肉体が吹き飛ぶ。壁に当たって落ち、暫く手元を痙攣させた。
時雨の意識が朦朧とする。おぼろげに茶々の姿を確認していたが、肉体が能からの指令に付いていけてなかった。亜麻色の髪が時雨の顔に当たる。紅毛を乱暴に掴んだ女は口元を三日月の様に左右に吊らせた。不気味に弧を描いた唇が殺気を漏らす。同時にポケットから出した二、三の錠剤を碧眼に突き付けた。
「これなんだ?」
しかし、時雨は答えない。その態度に対し、腹が立ったのか思いっきり顔を殴りつけた。豪打された右頬が赤く腫れていく。
「青酸カリ、ね」
茶々は低く笑った。かと思えば直ぐに金切り声を上げる。乾いた笑いが周囲の静寂を破壊しつくしている。
意識のはっきりとしない織田時雨の髪を掴みあげて、そのまま力任せに地面に叩きつける。時雨が掠れ声を上げて吐血した。その頭を足で踏みつける。
「どうしようか。毒殺?」
一旦浮かせ、深く落とす。時雨から苦痛に満ち溢れた叫びが漏れた。声は掠れ切り、音としての意味を成していないくらいの叫びだ。口元からの殺意が、右足と一緒に時雨の頭へと落ちる。
「圧殺?絞殺?刺殺?殴殺?格殺?虐殺?禁殺?串殺?撃殺?射殺?砲殺?銃殺?坑殺?劫殺?惨殺?斬殺?残殺?襲殺?専殺?賊殺?椎殺(ついさつ)?闘殺?爆殺?焚殺?蔑殺(べっさつ)?捕殺?暴殺?撲殺?抹殺?密殺?薬殺?誘殺?要殺?掠殺(りゃくさつ)?扼殺?搏殺?炮殺?磔殺(たくさつ)?縊殺(いさつ)?轢殺?鴆殺(ちんさつ)?鏖殺(おうさつ)?」
何度も何度も踏みつけ作業に励んでいた右足が急に妙な所で止まった。力を入れても動かない。——時雨の紅く染まった白手袋が、足をその場に固定していた。紅毛と血液に見え隠れしている碧眼が鋭い眼光を放ち、言葉が鋭く放たれた。
「悩殺☆」
その瞬間、茶々の躰が吹き飛ばされた。先程まで受け身に呈していたはずの時雨が起き上がり、袖で血を拭き取る。切り裂かれた服からは彼女の性別を現わすものが見え隠れしていた。
「oh no...汚れちゃったし破けっちゃったし、ボッロボロ……。What a disappointment(がっかりだ)!」
瞬時に隠そうと、残った布の部分を引きのばして縛る。「これで良いか」と声を漏らし、茶々に近づいて行った。
「僕の形勢逆転ですね」
逆に今度は茶々が上から見られるようになった。軽く舌打ちをし、持っていたナイフを突き刺そうとして接近する——!
『茶々、待って!』
突如、茶々の脳内に声がこだまし始めた。
「江!」
茶々は目の前にたいしても、周囲に対してでもなく、虚空に声を投げていた。時雨は怪しく見る。撃って良いのかわからないタイミングだ。
『来るよ、新撰組。だから下手に"攘夷の狗"なんかにちょっかい出してられない』茶々の脳内で"江"と呼ばれた女が訴える。『だから肉体の主導権を譲渡して』
一瞬だけ顔を顰めた。しかし、彼女には逆らえないと茶々は仕方無く胸ポケットから縁眼鏡を取り出す。
意地の悪さに溢れた悪態を最後にとつく。茶々は眼鏡をかける動作に取りかかりながら、唾を吐き捨てた。
「命拾いしたね、でも次はないから」
唐突すぎる、芝居染みた何かにあたふたする時雨を置き去りにし、茶々は肉体の主導権をもう一人に譲渡した。————茶々の精神がスポットから離れる。周囲は真っ暗闇だ。暗く広いステージの上、スポットだけが光として存在していた。今その光を浴びているのは亜麻色の髪の、眼鏡を掛けた女だ。舞台の主役のように、燦々と輝いて彼女は存在する。今、"世界"に出ているのは江だ。
二重人格者の江が、主人格として表に出る。スポットに立った江は久しい外を仰いだ。……眼前の時雨は唖然としている。
————雰囲気が変わった?
先程まで溢れさせていた気が一瞬で消えている。同じ人間が出来るような芸当ではない。不審に思いつつ、軽い威嚇で一発だけ撃った。
「うっうああ、わああぁああ!」
江が慌てふためき、声をあげる。軽やかに避けていた茶々とは対照的に、綺麗に右足を撃たれていた。これはやれる、と思ったが時雨はそんなことをする性質ではない。弱者を無意味に痛め付けるのは嫌いだ。
————でも、伊藤熾織殿ならやるんだろうな。
同時に脳内に浮かんだ、嘲笑している女に対して思う。付き人はよくやっていられるものだ。思考に時間を費やしているのに気付き、すぐにやめる。眼鏡の女は頭を深々下げていた。
「えぇっと、えと」詰まり詰まり、何か急くように声を放つ。「新撰組が来るから、てめぇなんぞここで死にやがれぇ!!ハッ、ザマァ!犬の餌にでもなるのが良いし!始原生殖細胞を作るのも烏滸がましい!さぁ、サッサッと掃かれるように死に失せろ!!」
「ハァ!?」
抑揚のない声で喋る言葉に思わず時雨は聞き返していた。しかし、相手は真顔で
「と、茶々が仰っておりました。……では」
と言って足早に去っていってしまった。
————眼鏡を掛けてから別人……。
確か、と何かを思い出そうとする。しかし出てこなかった。入江蕀という人間が仄めかすようなことを言っていた気がしたが、分からなかった。
「Well...取り合えず、僕も去ろ!戦わなくて良かったし!どうせ嗣殿が来るまで待ってる予定だったし、YEAH!」
考えをやめ、今まで張り詰めていた緊張を解く。直後から訳のわからない言葉を一斉に吐き出し始めていた。最早時雨にはそれを抑制する気力も消えていた。気力が抜けた瞬間に、止血されかけていた血液が一気に噴き出す。それからは、血を垂れ流しながらただガッツポーズし、泣き叫び、
「Thanks God,This Friday !! TGIF!TGIF !!」
と連呼しているだけだった。
□
『りん』
優しい声が傾く。頭上、斜め上、発信源探る。
ここ?そこ?あそこ?どこ?
『りん』
もう一度。
————私は知っている、貴方が誰かを。
————でも分からない、思い出せない。
幼い琳邑の眼が天上を仰いだ。刹那に来た来迎に思わず目を瞑る。差し込んだ光は、綺麗に名を呼ぶ人間の顔を隠していた————。
「おねえちゃん?」
鄙子の声が聞こえ、意識が戻される。ハッとした先に童顔の可愛らしい少女が見えた。眉を顰めて見つめている。
「どうかしたの?」
「……ううん」琳邑は首を左右に振った。「ただ、ぼんやりしてただけ」
「そっか」
それを聞いた鄙子が満面の笑みを浮かべる。色鮮やかな花々が咲き乱れている花畑の様な笑顔で手を引いた。
「お姉ちゃん、早くいこーよ」
急かすように言う。琳邑は笑顔を返した。
無邪気な子供姿が可愛らしい。彼女に引っ張られてゆく姿に、何か別のものが重なってゆく。菫色の艶を出した、艶やかな黒髪。薄桃色の、躰を覆うようにしている中華服。
『はかせ!』
元気に声を張り上げ、子供が名を呼ぶと同時に振り向いた。
鄙子の顔に重なって、自分を幼くした顔が映る。
「え、わ……わた……——?」
一瞬動揺。眼を擦る。直ぐに開ける。鄙子の顔が映っているだけだった。やはり気の所為なのだろうか、と思考が揺らぐ。其処を無理やり、「気の所為」だとした。
>>
- Re: 吉原異聞伝綺談 *更新完了 ( No.90 )
- 日時: 2011/07/31 15:57
- 名前: 朔 ◆sZ.PMZVBhw (ID: rbVfLfD9)
- 参照: 糸色 イ本 糸色 命
唐突ですが
明日明後日群馬に行ってきます。
出来れば今日中にUPしたいと思いながらも全く筆が進まず、恐らくまた放置(殴
- Re: 吉原異聞伝綺談 *更新完了 ( No.91 )
- 日時: 2011/08/04 19:27
- 名前: 朔 ◆sZ.PMZVBhw (ID: rbVfLfD9)
- 参照: 糸色 イ本 糸色 命
————家族の記憶はない。というよりも、過去の記憶自体殆ど無かった。思い出そうとすれば、頭に激痛が走る。記憶なのか、幻覚なのか不確定なヴィジョンが時たま頭を流れるが、すぐに頭痛で消されていた。
ただ、今までいた幕府には"嫌な気分"しかしない。僅かに残る記憶の中に、いや、残っている記憶全てが、幕府の暗い檻に閉じ込められているものだった。出ていくときに誰か白衣の男に手を引かれていった気がする。————それも曖昧だった。靉靆とした記憶に代わり無かった。
「お母さんやお父さんはどんな人?」
あどけない笑みを浮かべた少女に問う。琥珀の目を煌めかせて、鄙子は答えた。
「優しい、優しいひとだよ。ひなと遊んでくれるの」一旦置いて、続ける。「みぃんな優しいのよ」
「…………みぃんな?」
最後の単語を復唱して琳邑は聞き返した。
「ひなには兄弟がいるから」
鄙子は琳邑に抱きつきながら言った。無邪気に、無垢に笑う彼女は琳邑を慕うようにくるくると甘える。頬をすり寄せ、途中、にこやかに鼻唄を交え始めた。琳邑は取り合えず頭を撫でる。
遊廓の混じった通りを歩む。
琳邑は袖先に居る鄙子を見た。鄙子は童顔を真っ直ぐ先に向けて歩いている。口許には微笑。連れ歩く様子が、自然と嗣達に重なった。
——仙翁と別れたとき。
記憶も意識も曖昧な琳邑を連れて歩いた嗣とチェン。敵対する筈の二人は、何故か共闘し、琳邑を連れてくれた。————内面には黒いものがあるのかもしれない。しかし、それでも二人は琳邑を守ってくれていた。仙翁から遠退け、傷付き、庇う。その姿が今、絶対的な信頼を寄せている理由になっている。
——嗣も、チェンも私を連れてるときにこうだったのかな。
鄙子の手の温もりを感じながら耽った。町中を忙しく歩く人々に囲まれながら、ペースを保つ。————同時に親子とは如何なるものか考えていた。嗣もチェンも、答えてはくれていない。
嗣に訊いた。『"おやこ"って何?嗣にもお母さんやお父さんが居るんですよね?』
嗣は答えた。『俺にマトモな記憶は無ぇよ。ホラ、エロさ〜が〜、ちがう〜っよ♪ってな』
チェンにも訊いた。『"おやこ"っている?嗣ははぐらかして、答えなかったから……』
チェンも答えた。『俺にも居るさ。……ただ、思い出っていうのはそんなに無いよ』
じゃあ、なんなのだろう。
母も、父も、分からない。
靄のかかった先にいたのが、父なのかもしれないし、それ以外なのかもしれない。琳邑は分からない。こだましていた声も、父のかもしれないが分からない。
突然、琳邑の先に見えた武家屋敷の前に人影が映る。————菫色の艶を出している胸までの黒髪にまだあどけなさの残る少女の顔。漆黒の団栗眼。虚弱そうな白い肌の小柄な体型が、薄紅の中華服を纏い、誰かに手を伸ばしている。———実に琳邑にそっくりであった。
『峰一様が居てくれれば、この煌琳、何も要りません』
少女の声と同時に、彼女は誰かを抱き締めていた。段々と輪郭がはっきりする。白衣が見えた。煌琳と名乗った少女とは全く異なる体格、男のものだった。雰囲気からして十歳は離れていそうだ。不思議と、琳邑が見ていた幻の人間と似ている。
「ふひ……と?」
琳邑が声を放つと、煌琳が此方を向いた。そして、煌琳に峰一と呼ばれた白衣の男も顔を向ける。——しかし、相変わらず口から上が光で隠れていた。峰一も煌琳も微笑を浮かべる。そして峰一が呼んだ。
『りん』
優しくて暖かい光が射し込んでくる。眩しさに、眼を閉じた。
□
「やってお仕舞いよ、久坂!」
女が軍配を振るように命ずると久坂はチェンに斬りかかってきた。
「だぁか!!」火花を散らしながら双剣による猛攻を防ぐ。「俺ァ、高杉の知り合いだって!!」
「そんなもん、騙ってるだけッス!!」
伽羅色の髪の青年は聞く耳を持たなかった。チェンは剣戟を避けてくるりと廻る。その隙に沖田が刀を貫かせた。
————二人も相手にしてらんねぇよ!!
対立する筈の二組が同時に襲い掛かっている。脳裏に琳邑が浮かんだ。——このまま、チェンが殺されれば琳邑はどちらかに奪われる。嗣が護るにしろ、信用はまだしきれていない。なら————。
「お、れ、はっァあ!!」
荒い呼吸を吐きながら、素手で二人の剣戟を受け止めた。沖田も久坂も刀を押すが、押しても進まないくらいの力で止められていた。——この少年にそんな力があるとは考えられない。ならば……。
————"意志"か!?
紅く燃ゆる焔を眼に宿らせた少年に気圧される。血に染まりながら、まるで鬼神の如く、その場に立っているチェンは最早意識を朦朧とさせていた。それでも彼の"想い"は揺るがない。最強の壁となった少年は立ちはだかったままである。
「何していますの久坂!早く殺りなさい!!」
切らした女帝が命ずる。
「いや、でも」
刀が、と続けるより早く、熾織が小刀を取り出してチェンへと接近した。振り上げ、冷酷な目で見下す。
「もういい」冷淡な口調は躊躇いなど無かった。「わたくしが殺りましょ」
————ああ。
"この人間は傷付けるのを畏れない人間なんだ。"
熾織という女は、きっと残酷な仕打ちを呼吸すると同じくらい自然に出来る人なのだ。人を傷つけることを、更には殺すことさえも何も不思議に思うこと無く行えるのだろう。
小刀の光が反射する。刹那、脳裏に今までの人生観が流れた。走馬灯なのか、そうか、これが最期か、————悟った。
「馬鹿馬鹿しぃ!!」
降り掛かったのは聞き覚えのある、あの嫌な男の声。
目を開くと、黒いスーツを靡かせた白髪の男が日本刀で小刀を受け止めていた。
「高杉嗣…………!!?」
突然すぎる人間の登場に、女は金切り声を上げた。嗣は口許を吊り上げて不敵に笑う。
「久しぶりだねぇ、久坂にドS女王サンよォ。相変わらずなSM漫才じゃあねぇのよ」
「せせせせ、先輩!?」
嗣を見て久坂も驚きの声を上げる。一人、萱の外にいた沖田総爾郎だったが、嗣のことは情報で知っていたので特に驚きは無い。続いて、熾織の手が何者かに払われた。小刀が地面に落ちて金属音を奏でたと同時に、キャスケットを深く被り直す人間が参上。片腕で、マフラーを風に揺らすお下げの女性だった。にこやかに喉を鳴らす。
「お久し振りね、伊藤熾織殿」
「あら、此方こそ会いたくなかったわ、山縣韵」
熾織が得意に皮肉で返す。しかし、慣れているのか山縣と呼ばれた女には効かなかった。彼女は極々自然に受け流す。
「あまり下手なことすると、入江先輩怒りまするよー」
「あらま、入江先輩がどうこうってねえ」
熾織は優雅だ。余裕を見せびらかす。韵は呆れ顔を作っていた。そのまま顔を熾織の黄土の髪の後ろにずらす。其処から耳打ちした。
「……此処で幕府の人間を殺したからと言って、簡単に兵器が手に入るわけでもないのにね」
聞いた女の眼が見開かれる。その流れに沿って脱力し、遂に足掻くのを止めた。同時に意識を失ったチェンが倒れ込む。嗣は受け止めもせず、寧ろぞんざいに彼を放置した。解放された総爾郎と久坂がお互いに眼を合わせる。
総爾郎が刀を仕舞う。其れから数秒ずれて、久坂も刀を仕舞った。草鞋が地面と擦れる音を奏でながら、沖田は身を翻した。曖昧な笑みを浮かべて。
「やれやれ、此処まで倒幕勢が集まってしまったら勝てる気がしないよ」
微笑みを浮かべながら、呆れたように顔を左右に振った。同時に亜麻色の髪が宙に残像を描く。嗣も、久坂も熾織も韵も停止していると錯覚するくらいに微動だにせず、去っていく背中を見つめていた。沖田が一瞬だけ振り返る。振り返った顔が見せたのは、何処までも純粋な殺意だった。
「今度は局長も土方さんも————"一家"総出で向かわせてもらうよ。
キミ達が見るのは、同志と己の血液、そして死体……かな?」
一陣の風が吹く。純粋な殺意が風で掻き消されていったと同様に、浅葱色の羽織の後ろ姿も一瞬で消えていった。
>>
- Re: 吉原異聞伝綺談 *更新完了 ( No.92 )
- 日時: 2011/08/04 21:05
- 名前: 朔 ◆sZ.PMZVBhw (ID: rbVfLfD9)
- 参照: 糸色 イ本 糸色 命
□
吉原、某所。
「何処に居るんだ、沖田ァ!? 」
静寂を破るような罵声が、突如屋敷中に飛び交った。後ろで髷(まげ)の様に結った黒髪をした男が畳の上を乱暴に歩く。濃緑色の細めが障子の向こうに広がる青空を眺めた。空を見ながら、再び罵る。
「局長まで連れて行きやがって何考えてんだよ沖田あ!」
廊下で怒鳴り散らしている男の隣をすれ違った小さな影が小顔を上げながら冷たく言う。
「副長、あまり大声出さないでください。齋藤隊長に迷惑です」
男と同じ濃緑色の瞳に伸ばしっぱなしの黒髪をした少女だった。小柄で痩せ形、きちんとした食事を摂っているのか不安になるように体型である。浅葱色の羽織もずるずると引きずっている。
「だからって、あんの馬鹿。近藤局長を連れ回すこたぁ無いと」
「土方空華(くうげ)副長、恐らくは近藤局長が無理矢理連れて行ったんだと思いますよ」
「あんなぁ」土方と呼ばれた男は眉間に皺を寄せる。「頼むから下の名前を言わんでくれ。俺は女々しくて好きじゃないからよ」
すみません、と少女は頭を軽く下げる。そして意識を少しだけ過去に遡らせた。————この新撰組を束ねている近藤という者は、拾った訳有りの人間に名を付けるのだ。土方も同様だった。直々に局長から聞いた話であったが、彼もまた訳有りで拾われ、名を捨て、名を与えられた者なのだ。
『"空華"とは、仏教用語の一つなんだよ。空中に存在すると思われている花でね。現実世界の全ての事象っていうのは、本来実体のないものなんだってさ。でも、それを正しく認識しないで、恰(あたか)も実体を持っているように間違えて考える事を例えるのに用いる言葉なんだって。
————まるで彼そのものさ。彼は存在しているようでしていない。拾った時には生きた屍の様な男だったんだよ?』
恐らく、見た目だけでは自分よりは年下と判断されるのだろう。しかし、近藤と言う人間は何年たっても十歳前後以上にも以下にもならない。——歳を取らないのだ。永遠に少女のままで、そして永遠にその世界から抜け出せない。それでも近藤と言う人間はにこやかに生きていた。まるでその世界を楽しむように——……。
「全く、引っ越してきたばかりで、新屯所すらきちんとなっていないっつーのに」
土方は髪の毛を掻きむしる。その右肩が背後から誰かに叩かれた。一瞬の寒気を感じ、瞬時に振り向く。背後には決して血色のいい顔をは言えない、憂いに満ちた長身痩躯の青年が居た。
「副長、五月蠅いです」
青白い顔の青年は、見た目よりも断然に歳を食っているように見える。ぼそぼそと言う声に、極々自然な返答を土方はする。
「ああ、申し訳ないな齋藤」
齋藤と呼ばれた青年は視線を落とす。——土方よりも背が高い為、見下ろしているようにしか見えないのだが、そんなことをしているつもりではなかった。
齋藤の痩せこけた頬の左に残る傷痕を土方は眺めた。余命宣告を受け、そして過酷を極めた過去を持ったこの罪人には今何が残っているのだろうか。————いや、きっともうこの世には興味など、意識など無くなっているのだろう。それを包み込んだんが彼を拾った近藤局長だった。母として、そして守るべき主として。彼女の絶対的な存在が恐らく彼を今現世にとどめている最大の理由なのだろう。
「いえ」齋藤はだらだらになっていた寝巻の皺を伸ばす。「局長様の外出は副長にとって一大事ですからね。……仕方ないことにしておきます」
生気を感じさせない、まるで屍の様な男はそれだけ言って、長い廊下を渡って行った。残された土方と少女がその背中を見つめる。
「伊東続紅(つづく)」
土方が少女の名を呼んだ。
「なんでしょう」
「アイツは何処まで孤独なんだろうな」
違う二つの濃緑色のガラス玉が孤独な背中を見送る。其処には足音と風の哭く声以外、何もなかった。
まるで屍を踏み歩くように。
土方は眼を閉じる。————幕府に忠実な狗と罵られる新撰組であっても、其処はやはり俗世間から切り離された居場所のない人間のたまり場に違いは無かった。
—— 一揆で家族を失い、居場所を無くし、この世の全てを呪った少年を温かく受け入れた黒髪に琥珀の眼をした"女性(ひと)"。その時は、母の様に大きく包み込んでくれるような見た目だった局長も、土方が成人する時には不思議と縮んでいた。それでも彼女の正体を訊こうとはしなかった。————正体など、関係ない。正体以外の彼女なら、何でも知っている気がしたからだ。
"感情が死んでいる無邪気な殺人者"という勝手な評価を世間から付けられ、迫害されてきた純真無垢な子供だった少年。あまりにも人を超越して居た為に恐れられ、居場所を失っていた沖田総爾郎。そんな十にも満たない子供を拾ってきた局長の姿は慈愛に満ちた母親以外何でもなかった。沖田を拾って来た時も、まだ局長は"大きかった"。沖田が十五歳になるころ新撰組が結成されていたのだ。無論、その頃には既に少女の姿をしていたのだが。
新撰組が結成されるより遥か昔。確かに其処には捨て子やらなんやらを拾い、育て、生活する局長の姿があった。今も変わらぬその様子に土方はそっと胸をなでおろす。あの頃の齋藤も、やはり土方や沖田と同じだったのだ。
——朝廷に属する高陽院(かやのいん)家の令嬢である伊東続紅でさえも。
年を超えても、月日を超えても、局長は母で居続ける。
「さて、どうしましょう。齋藤隊長があの様子では、隊士にも迷惑がかかりますよ」
望郷に浸っていた土方は伊東の投げかけに答えなかった。それにむっとした伊東が小さな足で彼の脛を蹴りあげる。勿論それ程破壊力は無いのだが、彼を現実に引き戻すには十分の威力があった。蚊に刺された場所を叩くようにしながら土方はもう一度と聞き返す。伊東は呆れながら律義に言いなおした。
「齋藤隊長があれでは、隊士にも迷惑がかかりますよ」
「あー、まあその辺は明海(めいかい)とか、萩葉(はきば)がどうにかしてくれるさ」
そう言って土方も、もう消えた齋藤の背中を追うように歩きだす。伊東も勿論続いた。
「僕の他に居る、もう一人の"イトウ"参謀の動きもみなきゃいけないですよ」
小動物の様にパタパタと歩く伊東に痺れを切らしたのか、土方は彼女をひょいと持ち上げて担ぐ。慌てふためく彼女を別に、彼は独自の世界を展開させていた。
————伊藤槝緒(いとうかしを)。恐らくアイツは局長の敵となる人間だ。
そして今、その伊藤が怪しい動きを見せている————。
"殲浄計画"によって生み出された表の兵器[RIN-YOU]と裏の兵器[KAN-OH]。理の"破壊"と"創造"——それぞれ対なる力を持った存在。
伊藤槝緒という男はそのうちの"創造"を司る[KAN-OH]に関わっていた人間の一人だと局長に聞いていた。[RIN-YOU]の性質を奪い取り、内密に作り上げられたもう一つの存在[KAN-OH]。恐らく、それを手中に納め直して、更に新撰組に奪わせた[RIN-YOU]を合わせて幕府という邪魔物を滅ぼすつもりなのだろう。
「大丈夫だ」
土方が低く言う。そして瞋恚の焔を燃え滾らせた眼を真っすぐと前に向ける。
「局長に仇名す奴らは全員殺すさ」
その意志に迷いなど無い。
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- Re: 吉原異聞伝綺談 *更新完了 ( No.93 )
- 日時: 2011/08/07 18:49
- 名前: 聖忌 ◆QbxCHceaIo (ID: EFs6h6wo)
何かどんどん修羅場に……これからの展開が楽しみですね!((
土方さんも斎藤さんも沖田さんもかっこいいです……
局長も話が進むごとに不思議な存在になっていきますねぇ
あと続紅ちゃん来た! 可愛いです、脛蹴りの所とか担がれる所とか
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