複雑・ファジー小説
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- キーセンテンス
- 日時: 2012/02/05 12:29
- 名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: /HF7gcA2)
ボチボチと、細々と書いております。遮犬と申します。温かい目で読んでくださると何よりでございますーっ!
更新再開いたしましたっ。日常シリアスに感動を与えてみたいという思いで書きました。笑えて泣ける。そんな面白い物語にしたいと思いますので、応援宜しくお願いいたします><;
何気無く日常を過ごす少年。少年は、曖昧な記憶の断片を思い出すことも無く、平凡な日常を過ごしていたが、いつの間にか自分自身、そして様々な運命と対峙することとなる——
「貴方にとって大切な言葉は何ですか?」
〜目次〜
プロローグ……>>1
【第一章】
第1話:願いを叶える桜の木
♯1>>2 ♯2>>3 ♯3>>4 ♯4>>5 ♯5>>6
第2話:過去の償い
♯1>>8 ♯2>>13 ♯3>>18 ♯4>>19 ♯5>>20
第3話:不思議な転校生
♯1>>21 ♯2>>22 ♯3>>23 ♯4>>26 ♯5>>27
第4話:突然の困惑
♯1>>28 ♯2>>29 ♯3>>30 ♯4>>31 ♯5>>32
第5話:不思議な手紙
♯1>>35 ♯2>>36 ♯3>>39 ♯4>>42 ♯5>>43
第6話:見えない真実
♯1>>44 ♯2>>45 ♯3>>46 ♯4>>47 ♯5>>48
【第二章】
プロローグ(あとがき付き)……>>50
第7話:記憶の灯
♯1>>53 ♯2>>54 ♯3>>55
【番外編】
雪ノ木 若葉の日常
【>>49】
- Re: キーセンテンス ( No.48 )
- 日時: 2011/12/22 18:59
- 名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: FMKR4.uV)
幼い記憶の中に、閉じ込めてあるかのような少女の姿。
その姿は、薄っすらとしか覚えてなくて、見覚えどころか、確認さえも出来ない。
ただ、少女はいつも笑っていた。俺に、微笑みかけていてくれた。その笑顔は、何もかもを包み込むような、そんな優しい笑顔だった。
海……? だろうか。砂浜に、俺とその少女がいる。少女はワンピースを着ていて、麦わら帽子を被っていた。顔は見えないけれど、どうしてだか服装はハッキリと覚えていた。
それは真夏のことだった。照りつける太陽が燦々と砂浜の砂や、海の青々とした水を反射し、どれもこれもが綺麗に光って見えた。
しかし、それよりも綺麗だと思ったのは、この眼の前にいる少女だった。少女は、何よりも輝いて見えた。海よりも、砂浜よりも、青空よりも、この世界よりも。
「ありがとう」
「——え?」
ハッキリと、少女の声が聞こえ、俺は思わず呆けた顔で見つめてしまった。
今までノイズだらけだった記憶の断片は、このたった一言だけは何故か伝わった。これは、どういうことなのだろう。
ありがとう。この意味に隠された、この言葉の中にある、全てはどこにあるのだろう。
何故だかこの言葉は、とても重要な気がして、信じられないほどに俺の考えを奪い去っていってしまった——。
愛しい貴方は、そっと私の手を取ると、ゆっくりと抱き締めてくれた。
でも、その貴方の体に暖かさは無く、まるで死人のように、雪のようにとても冷たくて、冷たくて、私の体温さえも奪ってしまうぐらいの、そんなとても悲しい冷たさだった。
「貴方は、どうして此処にいるの?」
——わからない。
そうやって貴方は答えた。言葉という音はなかった。ただ、心に直接語りかけてくるような、そんな感覚が私の脳内を駆け巡る。
言葉は、確かに聞こえた。音にしなくても、私には聞こえる。貴方の、大事な言葉は。
「私は、人間。でも、貴方は?」
——僕は、
……と、言葉が途切れた。貴方はそれから全く話してくれない。どうしたのだろうと、心配になって貴方の体に触れようとしたその時、
——僕は、何物でもないよ。
貴方はゆっくりとそう答えた。その言葉の意味は、いまいちよく分からなかったけれど、彼なりにそれが答えなのだろう。それが、彼なりの導いた世界なのだろう。
「私は——」
雪が積もっていく。だんだんと雪は世界を覆いつくしていく。きっと、このまま世界は雪で埋もれてしまうんだ。だから、私は死んでしまう。そして、貴方は生きる。例えもし、貴方が死んだとしても、私は生きていくのだろう。
そうして世界は、きっと私達を別れさせる。一人にさせる。何故なら此処は、一人ぼっちの世界だから。
「……行こう?」
貴方はゆっくりと頷いて、私が差し出した手を握り締めた。
冷たい。けれど、これが貴方のいる証。それでしか、この世界はないのだから。
貴方は黙って、私の傍に居てくれる。私は、そんな貴方が好きだった。愛していた。
少なくとも、この一人ぼっちの世界で——誰よりも。
——【第一章】END
- Re: キーセンテンス 第一章完結しましたっ。 ( No.49 )
- 日時: 2012/01/02 03:59
- 名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: FMKR4.uV)
- 参照: >>21の雪ノ木目線のお話です。
番外編【雪ノ木 若葉の日常】
ジリリリリ、と甲高い目覚まし時計の音が部屋いっぱいに鳴り響くことから朝は始まります。
けれど私、雪ノ木 若葉はこんなことでは起きれないのです。
いい天気だということをカーテンの隙間から照らしてくる日差しが燦々と教えてくれており、それに伴うかのように鳴り止むことのない目覚まし時計の音。少し経ってからもう一つ用意してあった目覚まし時計も重なり、これで合計二つの目覚まし時計が部屋の中を鳴り響くことになってしまうのです。けれど、これはいつものことで、二つの目覚ましが鳴り始めても、私は起きれないのです。
「おいっ、ねーちゃん!」
すると、扉の向こう側から弟の迅の怒鳴り声が聞こえました。これもいつものことで、毎朝しっかりと起きる迅は、いつも寝ぼすけの私を起こしてくれるのです。
「いい加減に目覚ましも止めろよ! おい、ねーちゃん!」
「う、うぅん……待ってぇ、後一個だけぇ……」
私の頭の中はまだ真っ白で、この日は確かドーナツをいっぱい食べてる夢だったと思います。
実は、私の特技は意外性満載で、なんと! すぐに忘れちゃいがちな夢を記憶することが出来るのです。
多分この特技で、ビックリ人間ショーとか出れちゃうんじゃないかと、オファーが来る日を今か今かと待ち望んだりしています。
「だぁぁっ! ねーちゃん!」
遂に我慢しきれなかったのか、ドアをまるで特殊部隊が突入するかのような乱暴な開け方で部屋の中へと迅が入ってきました。
これもいつものことで、私は直接迅に起こされないと多分、起きることはまずないかと思われちゃいます!
「うぅん……もう少しだけぇー……」
「ダメだ姉ちゃん! あのさ! もう学校遅れるから! マジで、毎日毎日これは俺も体力的にもキツいっていうか——って寝るなぁぁっ!!」
私が夢の世界へもう一度戻ることが分かってしまっているのか、迅は私を寝かすまいと耳元で大きな声をあげてくるのです。本当、いつか鼓膜破けちゃうよ〜。
「ふええっ! そ、そんな大声出さないでよ〜」
「姉ちゃんがいつまで経っても起きねぇからだろうが! ほら、早く仕度しねぇと、マジでヤバいぞ!?」
迅にたたき起こされるような感じで、私はベッドから飛び起きます。まだ眠い目を擦り、涙を出ちゃったこともしばしば……。
「うぅ〜……眠いよぉ〜……」
「姉ちゃん、昨日何時に寝たんだよ」
「えーと……夜の10時?」
「今時の高校生でその時間帯に寝る子の方が珍しい……というか、それだけ寝て何でそんな朝弱いんだよ……」
「きっと私、高血圧なんだよ〜」
「いや、低血圧の間違いだから。ほら、冗談言ってないで行くぞッ!」
ぐっ、と私のお気に入りのピンクが基調の白ウサギさんがいっぱい書いてあるパジャマの袖を引っ張り、迅は半強制的に私をリビングに下りさせようとしていた。
「わわわ、待ってよ〜!」
これが私の日常の始まりです。
お母さんとお父さんは仕事の都合で今は家にはいません。でもでも、弟の迅がとってもとってもしっかり者で、私の世話をいっぱいしてくれます! ……でもでも、たまには私もするんだよ?
チンッ、という音と共にトースターから食パンが飛び出した。その間に迅はフライパンで目玉焼きを作っていて、私の好きなココアとかもちゃんと用意してくれていた。
「ほら、それ早く食べて、歯とか磨いて、ちゃんと自分の用意してから学校行けよな」
「はーい。えへへ。迅、ありがとー」
「はっ!? い、今始まったことじゃねぇだろ! ほ、ほらっ! 早く食べちまえよっ!」
妙に大きな声を出して、見る見る内に顔が赤くなっていく迅。私がお礼を言うと、迅はいつもこんな風に照れるのです! 自慢の弟です! とっても可愛いです!
私の一口は小さくて、少食だということも迅は知っていて、わざわざ食パンをハーフサイズにしてくれている。私はそれをちまちまと両手で持ちながら食べていきます。たまに、その隣に置いてある暖かくて、とっても甘いココアを飲んだりしながら。
「ごちそーさんっと」
迅は私より断然食べるのが早くて、さっすが男の子って感じがします!
自分の食べた食器を片付けると、早々に仕度を始めます。まだ中学3年生の弟は、今年で受験ということにもなります。とっても頑張り屋な迅は、私よりもうんと偉くて、とっても偉い高校に行くと思ってます!
ものの10〜15分もすれば迅はもう用意を完了させます。私はもっと30分とか40分とかかかっちゃうので、迅の用意の速さを伝授してもらいたいぐらいです!
「それじゃ、俺行くから。あー……戸締りとか、ちゃんと出来る?」
「で、出来るよー! 私、高校生だよ?」
「いやいや、そんなこと言って、一週間前ぐらいに鍵開けっ放しで家出なかったっけ?」
「そ、そんな前のことは忘れたもん!」
確かに私の記憶の中にも、戸締りし忘れた記憶がありました。でも、この歳にもなって恥ずかしいし、そんなことは絶対絶対言えません!
「……ふふっ」
「な、何で笑うの?」
「いや、別に」
「気になるよぉ〜!」
「あー分かった分かった。ほらほら、早く食べないと、マジでヤバいんじゃねぇの?」
迅に言われ、時計を見ると……本当に本当に遅刻しそうな時刻でした。
「うわわぁっ! 急がないと〜!」
「はははっ! じゃ、姉ちゃん、戸締りだけしっかり頼むな」
「わ、分かってるってばー!」
そう言い放つと、迅はいってきます、と声を漏らして玄関から出て行きました。ポツン、と私は一人残されたわけですが、本当に急がないといけない時刻です。いつもよりも急ぐように頑張ってパンを食べました。
「ふぅ……ふぅ……はぁー……」
息を何度も吸ったり吐いたりを繰り返し、私はやっと一息吐きました。
家にある時計、今思ったら少し早かった時計で……つまり、結果的に急いだ私はいつもよりも少し遅いぐらいの時間で学校に来ていました。
今日はいつもよりも起きるのが遅かったかな……。そんなことを思いながら、私は校庭を歩いていました。と、その時目の前に見覚えのある人を見つけたのです。その人は——暮凪君でした。
なんだかボーッとした顔をしていて、どこか寂しそうな目でした。何があったんだろう、と私は思い、頑張って声をかけることにしました。
けれど、臆病な私にとっては暮凪君はとっても憧れの人で……"あの日以来"私は暮凪君を知らず知らずの内に目で追いかけていたのです。
頑張って、前に踏み出してみよう。何故だかその時は、私に勇気が芽生えたような気がしました。
息を吐いて……吸って、
「あ、あああ、あのっ!」
声が、出ました。私にとっては、とっても進歩でした! 感動しすぎて泣いちゃうぐらいです。
そんな興奮を一人、胸の中でドキドキさせていたのですが——暮凪君はこっちを振り向こうとした素振りはあったのですが、どうにも気付いてくれません。
(あ、あれ? ……聞こえ、なかったのかな?)
声が小さいものだと思い、私は声をもう少し張り上げて言ってみました。
「あ、あのっ! 暮凪君っ!」
私は再び声をかけてみました。次はさすがに振り向いてくれるだろうと私は思っていたのですが……暮凪君はなおも振り向いてくれません。
(もしかして、無視されてる……?)
そう思った私は、急に悲しくなり「……ぅう」と唸り声をあげてしまいました。唸り声、というより私にとってはとっても悲しくて、今にも泣きそうな声でした。
実際、私は少し泣いてました。だって、暮凪君に嫌われたと思ったのです。何でだろう、と考えている内に、急にその場にいるのが辛くなって、それで——無我夢中に駆け出したのです。
その時、私は目を瞑っており、目の前は何も見えない状態でした。突き進んでいくと、何かに当たるような感触と共に「って……!」という声が聞こえました。
何がどうなったのか分からないまま、私はとにかく今思ったことを言おうと思いました。私は昔から、悲しかったりするとそうして現実逃避をするようになる癖があったのです。
「暮凪君のバカァッ!」
「えぇっ!?」
私が叫ぶと、誰かが返事をしたように驚いた声が返ってきました。そういえば、なんだか少し、暖かいような気もしますが、そんなことよりも凄く走り去りたい気分で、とにかく前のめりになっていました。
そうしていると、突然暮凪君の声が聞こえてきたのです。
「何見てんだよっ! 見世物じゃねぇんだぞっ!」
見世物じゃないって、今どういう状況っていうより、私が怒られてるっ!? 暮凪君をずっと見ていたから……かな。
そう思っていくと、ますます何だか変な感じになって、首を左右に振っていると、
「大丈夫か? 雪ノ木」
「へ……? あれ? 暮凪君?」
いつもの暮凪君の声が聞こえ、私はゆっくりと目を開けました。すると、とっても近くに暮凪君の顔がありました。
これはもしかして夢なのかな? と、そう思っていた私は、暮凪君に確かめるように聞きました。
「な、何だか、暮凪君の顔がとっても近いような気が……」
そう言うと、暮凪君は若干困ったような顔をして、私を見ると、
「そうだな。とりあえず……そろそろ離れられるか?」
「へ?」
その時、初めて私の状況が分かりました。
ゆっくりと、今私の置かれている状況を確認していくと……あれ? 暮凪君が近くで……私が傍にいて……こんだけ密着してて……あれ?
「わ、わわぁっ!! な、何でっ! きゃああっ!!」
暮凪君が近すぎて、とっても心臓がバクバクしました! 私にとって、死にそうな体験ナンバーワンはこれかもしれないというほど驚いたのです。
「ちょ、落ち着け! 雪ノ木!」
落ち着けというものの、私はただただこの状況自体が信じられない出来事なので、興奮は止まらず、とりあえず落ち着きたいこともあって、その、えっと、もう、何だかわけが分からなくなっちゃったのです!
私はその場で暮凪君を突き飛ばすような形で押すと、校舎の中へと走って行ってしまいました。
それから昼まで、私はずっと心臓がドキドキしていました。朝のことをボーっとしていた思い出すのです。暮凪君の顔が間近にあって……。
「どーしたの、若葉。顔、すっごく赤いよ?」
「へ!? そ、そうかな! あは、あははは……」
友達に話しかけられても、この赤い顔は止まらず、私はずっとほとんど一日中これで過ごしました。
そして昼時。いつものように屋上で食べるのですが、暮凪君と顔を合わせるのがこの時とっても恥ずかしかったです。
まず謝ろう。そう思って私は屋上で涙ちゃんと真希ちゃんと共に待っていました。
そして、暮凪君がやってきて、私はお詫びの言葉を頑張って言いました。途中、かんじゃったりしたけど。多分、暮凪君を突き飛ばしたりしたから、怒るんだろうなって私は思ってました。それよりも、嫌われちゃってるのかもしれない。そんなことを思いながら、私は泣きそうでした。けれど——
「俺が悪かったんだ。あれ、わざとしてたから。だから俺の方が謝らないといけないからさ。ごめんな」
わざと? わざとって、あの抱きついたこと? もしかして、私が来たのをわざと抱き締めてくれたってこと……なのかな? そうなのかな?
そう思うと、私は何だか体が硬直し、だんだんと顔が熱くなっていくのを感じました。これは恥ずかしいというより、とっても嬉しかったのです。
「いいい、いえぇっ!! 暮凪君は、わ、悪くないんですっ! 私、私が、何か、そのぉ……だ、抱きついて……う、うぅ……しまいましたから……そのぉ……」
慌てた私は何を言っているのか分からないほどテンパってしまって、もうわけが分からない状態でした……。我ながら、とっても情けなかったですが、その時は頭が本当にパンク状態で、何を話せばいいかも分からなかったのです。
でも、暮凪君は言いました。
「ありがとな」
「へ……?」
その言葉の意味が、よく分からなかったです。何で私がお礼を言われているのか、全然分かりませんでしたが……何故だか、ほんのりと優しい気分になれました。
お礼を言うのを私の方、と言いたい所だったけれど、それを言うともっと恥ずかしいことになるので、言いませんでした。
「さ、食おうぜ」
暮凪君は、いつもの無邪気な笑顔でそう言いました。
「ただいま〜」
「おう、お帰り姉ちゃん」
「えへへ、ただいま」
私が笑顔で帰宅すると、迅も何だか嬉しそうな顔でエプロンをつけ、お玉を持ちながら、
「お、何? 姉ちゃん、何か今日いいことあったの?」
「うーん? んー……内緒っ」
私は唇の前で小さく人差し指を添えて、迅に向けてウインクをして誤魔化しました。
私の日常。これといって何も無い日常だけれど、こんなにも幸せな気分になれる。私は、今がとっても大好きです。ずっとこんな素敵な世界で、素敵な人達と、素敵な日常を送りたいと思っています!
〜END〜
- Re: キーセンテンス 参照500突破っ!初、番外編更新! ( No.50 )
- 日時: 2012/01/03 20:49
- 名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: FMKR4.uV)
どんなに辛くても、どんなに悲しくても。
人は、生きていく。
それはどれだけ辛いことなのだろう。生きるということは、どれほど人にとって大事なことなのだろう。
変わらない欲しいのに、変わってしまう毎日。
変わってしまっているのに、それが当たり前として取り込まれて、流されていく毎日。
そんな日常と呼ばれるこの世界の時の流れは、どれだけ裕福なのだろう。
変わっていく時の中で、その中でたった一回の笑顔でさえも、表せない世界が、人間がこの広い宇宙の中のどこかの世界で、いるかもしれないというのに。
僕達は、歩き続ける。
それは、決して険しくない道だけど、それでも歩いていく。
歩いていくその先に、何が見えるのだろうか。
それぞれに、それぞれの思いの言霊を胸にして、歩み続けることだろう。
どんな人生にも、不幸という言葉はないのだから。
世界は、廻り続ける。日常も、廻り続ける。
そしてそれは、この世界でしか起こりえない、有り得ない奇跡さえも起こしてしまう。
きっとそれは、人々の思いの形であるそれぞれの思いの言霊の力なのかも知れない。
——貴方は、この世界で何を見ますか?
いっぱい歩き続けた。足が冷たい。その感触はあるけど、全然平気だった。
繋がれた手は、とても冷たくて小さなものだったけれど、私はその冷たい手が無ければ、この世界のこの場所に来るまでに無くなっていたかもしれない。
——大丈夫。
目の前に広がる、どこまでも続いているように見える大雪原を前に、彼はそう言った。
大丈夫、その言葉はどれほど信用できるものなのだろう。けれど、私たちは歩いていく。どこかに、この世界にも救いがあると信じて。
「きっと、大丈夫」
今の私たちは、大丈夫という言葉で何とかこの世界にいることが出来た。
険しい道のりが待っている。雪はゆっくりと積もっていく。太陽も無く、薄暗い光が全体を照らしている。たまに見える木々は皆枯れていたり、根元から折れている。見るたびに、心が悲しくなった。
——きっと、
きっと。その後が出てこなかった。きっと、大丈夫なのだろうか。
私たちは、その冷たい手と手を離すことは無かった。
「北条!」
廊下で見かけた北条に向けて、俺は声をかけた。俺の右手には、傘がある。しっかりと握り締めて、北条の元へと駆け出した。
北条は、俺の方を見てア然とした顔をする。どうしてそんな顔をするのか、俺には見当もつかなかったが、この傘だけは返さなくていけない。そんな気がした。
「これ、この傘。休み挟んで、借りていたんだけど……」
と、言ってから傘を渡した。大きめの、藍色の傘だった。
北条は、そのア然とした表情のまま、それを手に取ると——
「あの……」
と、小さく声を漏らした。
「人違い、じゃないですか?」
「え?」
北条が言った言葉に耳を疑った。正真正銘、俺は北条から借りた。そして目の前にいるのは……北条、だよな?
北条、といってもあいつの俺に対しての喋り方は敬語じゃなかったはずだ。なのに、この目の前にいる北条は敬語を話していた。
「これ、確かに北条から借りたろ?」
「北条……?」
何故か、北条は北条という名前に心当たりの無いような、間の抜けた声を出して、
「知らないです」
「知らないって……」
北条は、そう言って俺の手に再び傘を落とした。随分と重い傘だった。今こうして手にとって見ると、何故だか懐かしい感じがした。
あれ? この感覚。どこかで覚えているような……。小さな子供とか小学生にしたら重いこの傘を、幼少時代に持っていたような気がする。それも、同じ色の、同じ藍色の傘で。
それはいつのことだっただろう。ぼんやりと薄れていく頭の中は、真っ白に変化し、そして——
記憶が、蘇っていく。
【第二章】プロローグ
〜あとがき〜
普段はあとがきとか書かないのですが、第二章が始まるっ! ということで書かせていただきます。
まず、明けましておめでとうございますっ。今年もよろしくお願いしますー。
えーこの作品を書き始めて、早2ヶ月となるわけですが、順調にここまで辿り着けて(?)まあ良かったと思いますw
更新が止まったりしてしまったことはたびたびあったのですが、それなりに頑張って来れたかなぁという感じでおります。
さてさて、この第二章ですが、第一章では全くと言っていいほど謎だらけでした、それぞれの登場人物の過去的な部分に迫っていきます。
第一章はー……なんだろう。登場人物の性格とか、どういう思考とか、状況とかを万遍無く書いた、ぐらいしか記憶にございません(ぇ
後は、何かたびたび入るわけの分からないように思える世界なわけですが、勿論勘付いている人もいらっしゃることですが、あの分厚い本の内容を少し指してたりはします。
五十嵐があの本の内容のことを熟知しているようで、それも過去が結構関わってきます。
過去的部分ですが、あの一章で目立たなかった北条さんが一気にヒロインの座を奪いにきます。上記に書いてあるお話通り、北条さんが当初メインで物語が進行します。
勿論、過去のことだけではなく、もうすぐ夏休みに入るので、主人公達の合宿とかやってもいいかなぁとか思ってます。
一応、物語の軸になるのは、一回ぐらいしか登場してなかったりする人なのかもしれませんっ。メインの他に、サブの登場人物も。
このお話は全三章で締めたいと思っているので、丁度中間ですかね……一番長くなると思います。
恋愛ノベルのように感じさせる、甘いようで悲しくて切ない物語展開を生み出せるように頑張りたいと思います!
……二章で結構、人柄とかも出ちゃいますから、二章でキリのいい所ぐらいで何かイベント的なのをしてもいいかもしれないですねぇ。
それでは、長くなりました! まだまだ修行中の遮犬。描写も不十分な点が多いというのも重く受け止めています。それらを改善していきながら、これからも頑張っていきたいと思います!
どうか、最後までお見送りをしていただければ光栄ですっ。以上、遮犬でしたっ。
- Re: キーセンテンス 第二章プロローグ更新っ。 ( No.51 )
- 日時: 2012/01/05 18:13
- 名前: ワッツミッツ ◆BsuPDXhgkc (ID: blFCHlg4)
舞台や、テレビやラジオドラマの本みたいな、描写にやり過ぎ感のないところがナチュラルで好感が持てます。静かだけど徐々に盛り上がっていくのが伝わってきましたよ。
飾らなさをこれからも大事にするともっと伸びそうです。
Fight!!
- Re: キーセンテンス 第二章プロローグ更新っ。 ( No.52 )
- 日時: 2012/01/06 22:08
- 名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: /HF7gcA2)
>>ワッツミッツさん
こんばんはっ。課題に追われてあまり更新が進んでいないという残念な状況に至っている作品です;
ふむふむ……描写にやりすぎ感の無いところですかー。そのような感想をもらったのは初めてですっ。ありがとうございますっ。
あまりに細かく、何回も同様の表現を入れてしまうことや似たような比喩や暗喩が連発したりすると萎えたりしちゃったことから僕はこんな書き方になっているかもしれません。といっても、気付かずやっちゃってることが多いと思いますがw
そうですねー。次から始まる二章から物語のエンジンがやっとかかるという感じなのです(遅
飾らなさ……ふむふむ。地味な日常の話ですが、何だか奇跡に近い非日常じみたことも含んできます。超能力とか、そういう類ではないですけれど、日常に起こる奇跡的なものを描けたらと思っています!
Fight、ありがとうございますw
コメント、ありがとうございました!これからも完結を目指して、いい物語作りに励みますb
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