複雑・ファジー小説
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- キーセンテンス
- 日時: 2012/02/05 12:29
- 名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: /HF7gcA2)
ボチボチと、細々と書いております。遮犬と申します。温かい目で読んでくださると何よりでございますーっ!
更新再開いたしましたっ。日常シリアスに感動を与えてみたいという思いで書きました。笑えて泣ける。そんな面白い物語にしたいと思いますので、応援宜しくお願いいたします><;
何気無く日常を過ごす少年。少年は、曖昧な記憶の断片を思い出すことも無く、平凡な日常を過ごしていたが、いつの間にか自分自身、そして様々な運命と対峙することとなる——
「貴方にとって大切な言葉は何ですか?」
〜目次〜
プロローグ……>>1
【第一章】
第1話:願いを叶える桜の木
♯1>>2 ♯2>>3 ♯3>>4 ♯4>>5 ♯5>>6
第2話:過去の償い
♯1>>8 ♯2>>13 ♯3>>18 ♯4>>19 ♯5>>20
第3話:不思議な転校生
♯1>>21 ♯2>>22 ♯3>>23 ♯4>>26 ♯5>>27
第4話:突然の困惑
♯1>>28 ♯2>>29 ♯3>>30 ♯4>>31 ♯5>>32
第5話:不思議な手紙
♯1>>35 ♯2>>36 ♯3>>39 ♯4>>42 ♯5>>43
第6話:見えない真実
♯1>>44 ♯2>>45 ♯3>>46 ♯4>>47 ♯5>>48
【第二章】
プロローグ(あとがき付き)……>>50
第7話:記憶の灯
♯1>>53 ♯2>>54 ♯3>>55
【番外編】
雪ノ木 若葉の日常
【>>49】
- Re: キーセンテンス ( No.38 )
- 日時: 2011/11/11 23:53
- 名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: ucEvqIip)
>>海底2mさん
どうもですー!こんばんわーw襲来ですかww嬉しい襲来ですねー!wありがとうございます!
謎の手紙の犯人。誰か分かるのはまだ先になりそうですw
結構理由はあるつもりです!意味分からなかったらアレですけどもw
潮咲は天然かつフレンドリーというか、気弱というか、若干強気な面もあるようでない。何だか役取りが様々なキャラですけども、一応メインヒロインではあるので影を薄くしたくないという所ですwなかなか涙のキャラが濃くていかんですが、だんだんと潮咲のストーリーを明かせていけたらな、と思っていますっ。
いい考えとは! ……といきたいところなのですがw大して凄い考えでもないので、呆気なく終わると思いますw
少しの学生らしい遊び心も取り入れていきたいなぁとか思っておりますっ。
コメントありがとうございました!更新頑張りますー!
- Re: キーセンテンス ( No.39 )
- 日時: 2011/11/12 22:51
- 名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: ucEvqIip)
俺達は次の休み時間、2−5の教室前へと来ていた。
目標は、この2−5の35番を探し出し、連れ出すこと。それも休憩時間は10分しかないので、それ以内に連れ出し、聞き出さなければならない。それも、2−5には涙がいる。涙の方に出向いたことはこれまでで全く無いといっていいほどの頻度。怪しまれることは間違いない。つまり、その場凌ぎの話題だと、必ず勘付かれるだろう。ああ見えても、涙はかなり勘はいい。少しでも気が緩んだらその時点で終わってしまう。
俺達の実行する作戦は、勿論俺と五十嵐と潮咲の三人で行う。雪ノ木達の協力を要請するという作戦もあったが、時間が10分しか限られていないので、連れ出して色々と話が聞けるのかと言われれば微妙な所だ。
かといって、昼休みや放課後など、時間が有り余る時間帯に行ったとしても、その時には涙と鉢合わせになる可能性があるし、更には35番の人を特定さえも出来ていない状態で、誰が誰だか分からないのに部活動なども入っているのかも不明な状況で捜すのは困難に思えた。それも、涙の目を掻い潜らないといけない。それが難しい。涙は誰か一人でも来ていなければ様子を勘付いて何か様子を見に来ることがある。それが一番恐ろしい。
つまり、行動を移すなら昼休み前のこの休み時間、もしくは次の休み時間しかやる時はなかった。
「上手くいくかどうかは全くの未知数だ。けれど、ベストを尽くしてくれ。いいな?」
俺が五十嵐と潮咲に話しかけると、二人はゆっくりと頷いて返事をした。
まず、やるべきことは35番の子を捜さなければならない。この学校の1年は一クラス40人の定員だったはず。つまり、35番ということは結果的に女子ということになる。女子の中から35番の人物を探せばいいわけだ。
しかし、その特定の仕方が問題だった。涙が勘付かないように35番の人物を探るには、どちらかの扉に涙を引き付け、そして片方の扉から35番の人を連れ出す。それが最も有効な手段だと思えた。
結果的に、涙に話しかける役が一人。連れ出す役が一人。涙の様子を見張る役が一人という配分になる。
話しかけるのは五十嵐ということで決定した。理由は、五十嵐だと他を疑おうとしないという部分があるし、更に嘘がないと思っている。つまり、俺以上には信頼していると見ている。確かに、普段全く出歩かない五十嵐が涙をわざわざ尋ねるのは合理的ではない考え方ではあったが、今回の手紙騒動の云々を適当に話していれば色々と時間は保てるんじゃないかと踏んだ。
そして俺は見張り役。指示は携帯のバイブレーション機能でポケット越しに伝えることにする。バイブレーションが一度震えると、話を長引かせろ。二度震えると、危険。三度震えると、任務完了を意味するように段取りを組んだ。
ただ、バイブレーションの数が増える毎に伝えられる速さが違う。話を長引かせろ、と指令を送ったところで、何か涙に勘付かれるような危険な出来事があれば、二度のバイブレーションを送らなければならない。速いバイブレーションで、一度に2秒ほど時間がかかる。つまり、危険を知らせる為には4秒間必要だった。
結果的に話を長引かせろ、という指示は危険回避の為にあるのだが、果たしてどうなるかは分からない。それほどの機転が利くのかも。今日、悩みの手紙が来て、その今日中に話を聞くということはどれほど難しいことなのかを改めて思い知っていた。
最後に、連れ出す係は潮咲だ。理由は簡単。俺と五十嵐が連れ出したら何か勘違いされそうだし、そもそも相手側が怯えてしまう可能性がある。それだけでもタイムロスだ。潮咲はあの性格だし、何より同じ同性だという所から安心できる面がある。
こうして、俺達は現在、その作戦に実行しようとしている。
教室が見える角の所で、俺達三人は息を潜めていた。周りから見れば、何をしているのか分からない怪しい三人組に見えただろうが、俺達は真剣そのものだった。
作戦内容は、まず俺がクラス内を見渡せる場所へ行き、そこから指示を送ることにする。涙に話しかける隙が出来れば、五十嵐に合図を送って五十嵐が涙を呼び出し、俺とは反対側の扉の方で話をすることになる。この時、少し連れ出せるのならば出来る限り遠くに連れ出して欲しい。だが、わずか10分休憩の間の出来事なので、拒む可能性がある。なので、あまり強要はしないこと。
そして、次に潮咲が潜入する。ここからが難題になるのだが、潮咲が果たして35番の女の子を見つけることが出来るのか、ということだ。
まあ、人に聞いていけば大丈夫だろうとは思うが……何が起こるかも分からない。それに違うクラスに入るわけで、潮咲は転校してきたばかり。名も顔もあまり知られてはいないはずだった。転校生だと騒がられた時はあったのだが、それは自分のクラス内でのこと。他にまで伝染しているかは分からなかった。
「まあ……なんとかなるだろ。……よし! ——ミッション、スタートだ!」
二人が再び頷いたのを確認すると、俺は足早に教室の左側の扉へと向かって行った。
出来るだけ誰にもバレないように、と足音をあまりたてずに行く。残り時間はここに来るまでに2分はかかったので、後残り7分程度だという所だろう。俺はゆっくりと教室内を覗いた。
俺達のいる2−2同様に騒がしい雰囲気が漂っていた。その中、涙の姿を捜すのだが……待て。どうして、どうして涙がいない?
このクラスだったはずだと、俺は何度も考えた。しかし、そこに涙の姿は無い。待てよ、これはどういう——
「あんた、何してんの?」
「うぉぉっ!!」
ビクッ、と体が震えた。後ろから聞こえた声は——まぎれもない、涙のものだった。
振り返ると、呆れた表情をして俺を見つめる涙の姿があった。おい、こいつどこから現れたんだよ。
「お前、どこに——」
「さっきまでお手洗いにいましたけど? 何? 私に何か用でもあんの?」
「い、いや……」
「……何か怪しいな」
「ッ! そ、そんなことないって!」
慌てて俺は涙に返事を返した。嫌な汗が何度も俺の頬を伝う。そしてゆっくりとポケットに手を入れて、携帯のバイブレーションを五十嵐へと送った。危険を意味する、二回のバイブレーションで。
「……何か隠し事してない?」
「してねぇよ! 何だ? 俺のこと信用ならな——」
「ならないわよ」
「即答するなよ!」
腕を組み、怪しむような表情で涙が俺を見つめてきた。ちょっと待て。これは予想していなかった出来事だ。まだ終わって数分も経っていないのに、トイレに行けるのか? いや、もしかしたら俺達のことを見ていて、わざとこんな態度を……?
「何でお前、トイレに?」
「失礼ね! 私は女の子よ? 乙女よ? お手洗いって言いなさいよ!」
妙に煩いな……。とにかく、この状況を打破しなくてはならない。時間は一刻一刻と、時を刻んでいっている。多分だが、既に残り5分程度にはなっているのではないかと思う。かなり無謀な作戦に思えてきた。
「お手洗いはね、授業中に行ったのよ。ま、結果的にトイ……お手洗いじゃなくて、保健室とか行ってたんだけど」
「トイレって言いそうになってんじゃねぇか」
「黙れ! もうちょっと気遣え! この野郎!」
「もう口調が男じゃねぇか……」
そうしている間に、俺は五十嵐達がいるであろう方向へと目を向けた。しかし、そこには五十嵐達はおらず、どこかへ消えてしまっていた。
「何キョロキョロしてんのよ」
「え? し、してねぇけど」
「司。あんた、嘘とんでもなく下手なんだから、やめといた方がいいよ」
「余計なお世話だっ」
「じゃあ、あんたが何しに来たか、当ててみようか?」
涙はそう言うと、考えるように口元へと手を当てて、まるでテレビで見る探偵のような表情で固まった。そして数秒後、涙は口を開いた。
「例の手紙の件で、新しい何かが……例えば、悩み相談の内容とか、その他、学園を楽しくする秘訣とか、方法とかが書かれたものが今日も同じように涼の元に来たとかで……それで、その調査の為にこのクラスに来た、とか?」
こいつ、勘良すぎだろ。大体が当たっていやがった。
俺は何て返答すればいいかも分からずに戸惑っていると、ポケットの中からバイブレーションが伝わってきた。
その回数は——丁度三回だった。つまり、ミッションコンプリートの知らせを意味していた。
「悪いな。全く違う」
俺は眼の前の涙に余裕の表情でそう言うと、さっさとその場を離れて行った。
「……言った通り、嘘が下手糞ねぇ……」
涙は一人、頭を抱え、苦笑しながらポツリとそう呟いた。
教室へ戻ると、五十嵐と潮咲は既に戻って来ていた。俺のやっていたことは意味があったのだろうか、という前に本当にミッションコンプリート出来たのか確かめたかった。
「五十嵐、35番の女の子に話を聞けたのか?」
「いや、聞けなかった」
その言葉は、俺の期待していた回答を簡単に打ち砕いた。平然な顔でそう言った五十嵐を、俺は呆けた顔で見つめてしまったが、すぐ隣にいた潮咲から「違うんです」と声がかかった。
「あの、2−5の35番さんは、お休みしてたんです」
「休み? 今日か?」
「えっと、今日だけに限らず、多分、明日も明後日も、です」
「どういう意味だ?」
俺はわけが分からずに、潮咲と五十嵐の双方の顔を交互に見た。二人とも、どことなく浮かない顔をしていた。
「つまり、2−5の35番の女子は、今現在休学している」
「休学……?」
休学とは、何らかの事情があって学校側の許可を貰い、休んでいること。それらの原因は、ほとんどが病気などで学校に来れない日々がずっと続いているなどが主な事情だったのだ。
そんな人物の悩みである、子猫を探しているとは、一体どういうことなのだろうか。
- Re: キーセンテンス ( No.40 )
- 日時: 2011/11/13 01:03
- 名前: Lithics (ID: hdsE90P5)
はじめまして、Lithicsといいます!
最新まで一息に読んでしまいました。いや、すごく面白かったです。憂いを帯びた主人公ですが、仲間との日常を楽しんでいる様子がほほえましいと思っています。
それに人物が皆魅力的で、目移りしますw でも北条さんの影が……なんか面白そうなので、彼女の話も訊きたい気がしました。
では、更新楽しみにしています!
- Re: キーセンテンス ( No.41 )
- 日時: 2011/11/13 12:19
- 名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: ucEvqIip)
>>Lithicsさん
初めましてー!遮犬と申しますw
うぉお、マジですかw最新まで読んでいただけるとは……!長ったらしい文章が延々と続いているような気がするのにも関わらずに!
ありがとうございますー!一気に読んでくれた方は初めてでしたので;
憂い、帯びてますねぇw色々と原因があるわけなのですけども。
仲間との日常は果たして主人公にとって何なのか!……なんてことも、ボチボチ書いていったりもしますw
あぁ……北条さんですかー。実の所、影を薄くしているのは、まあ……事情があるのですw
後々、結構でしゃばってきますwヒント的なものは、多分もう書いてますw彼女の話も後々にはなりますが、必ず書きますので、お楽しみにしていただければと思います!
ありがとうございます!更新、頑張りますね!うぉぉ、今すぐ書きたくなってきたw
コメント、ありがとうございました!
- Re: キーセンテンス ( No.42 )
- 日時: 2011/11/16 00:57
- 名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: ucEvqIip)
穂波 紅葉(ほなみ もみじ)。2−5の35番の女の子。彼女はこの学校を受験してからすぐにアメリカに留学したらしい。何でも祖父が外国人らしく、両親も母親か父親のどちらかが外国人だ。つまり、ハーフで両親が仕事で忙しい中、祖父の元で暮らしていたんだそうだ。
だから、受験して、合格してから外国で暮らすことが突然決まったので休学届けを出した、ということらしい。
しかし、その穂波 紅葉なのだが、
「帰って来てる?」
「あぁ。どうやら、来週辺りから学校に通うそうだ」
五十嵐がとりあえず掻き集めた情報を俺の眼の前でそう告げた。
騒がしい教室の中、どうにも俺の中で腑に落ちない部分があった。それが回りの騒々しさを聞こえないようにさせていた。
「その穂波 紅葉が、何で子猫を探してるんだよ」
「そこまでは分からない。表面の部分しか調べることが出来なかった」
休学している生徒への配慮が存分にあるらしく、休学した目的と理由ぐらいと、もうそろそろ帰って来るという情報は五十嵐だから漏らした情報だろう。まあ、職員室に行ってそれだけ分かれば上出来だろうな。
「うーん……」
「随分考えてるみたいだな、潮咲。何か分かりそうか?」
「そうですねぇ……私は……」
潮咲が首を傾げて、心の中の疑問を打ち広げようとしたかに見えたその一瞬だったが、
「全く分かりません」
「……そうか」
笑顔で全く分かりません、と言われても困る。潮咲はそういえばこんな奴だったと俺は諦めて嘆息した。
「とりあえず……この件は無理だろ。不可能だ」
「え? 諦めちゃうんですか?」
「いや、まず穂波 紅葉に会った事がないし、そもそもこの学校にいな……い……よな?」
落ち着いて考えてみればそうだ。普通に穂波 紅葉がこの学校におらずにこの件は不可能だと思っているだけだった。
そう、不可能なんだ。子猫を探す、という単純そうな依頼でも、この学校にはいなかったし、そもそも存在自体も分からなかったんだ。
それなのに——どうして手紙の送り主は、子猫を探しているやらの内容を送りつけることが出来る?
この学校には手紙の送り主はいない? いや、それだと五十嵐の机に手紙を入れることは出来ない。じゃあ、どうやって?
それはつまり、この学校にいる生徒の誰かを使って入れている。そうとしか考えれない。
教師に問い合わせても表面上のことしか教えてもらえないのに、何故手紙の送り主は……。もしかすると、手紙の送り主はこの穂波 紅葉と知り合いなのかもしれない。帰りを待っていたのかもしれない。けれど、それなら何故自分でその悩みを解決しないのか。出来ない状態にあるのか、それとも……。
「暮凪君ッ!」
「うぉっ! いきなり、何だよ」
「凄くボーッとしててですね、難しい顔してまして、私が声をかけても全然返事を返してくれなかったので……」
「あぁ……悪い」
深くは考えないでおこう。潮咲に声をかけられなかったら、ずっと考えてたのかもしれない。いや、まあ、そんなことはないんだけど。
「暮凪君が言った通り、ダメみたいなんでしょうか……」
落ち込んだ顔で潮咲が呟いた。
何に対しても積極的に、一生懸命に取り組むこいつにとっては悲しいことなのかもしれないけどな。今回は残念ながら意味不明すぎる。それよりも、解決させようとしていない。いや、それ以前に本当にただの悪戯なのかもしれない。この学校にいない、生徒を使って。
今日は五十嵐の机に例の手紙は届いていなかった。毎日届くわけでもないらしい。毎日だと、届ける方もしんどいってか?
昼飯時が訪れ、俺は五十嵐を誘おうとしたのだが、今日は食堂で食べるらしく、一人で食堂に向かって行った。
久しぶりに一人になった俺は、家に買い溜めておいたラスクがいくつか入った袋をぶら下げ、どこか食べる場所はないかと探すことにした。
部室で食べるのはいいのだが、何だか涙に先ほどの怪しい行動を勘付かれたくはないので止めておいた。さて、どこで食べようか。
そうして悩みながら校内を歩きまわっていると、いつしか屋上へと続く廊下に来ていた。毎度のように屋上で食べていたから、その習慣が身に付いてしまっているのだろうか。
「うん……?」
少し屋上の方へ目を向けると、立ち入り禁止の紙が貼ってある扉があり、そしてその上の方には人が入れそうなぐらいの窓があった。それが少し開いており、更には机がその下に置いてあった。
これは紛れも無く、誰かが入った跡だった。
特にすることも無く、ラスクをただ齧る為の場所を探してだけの俺は、妙に興味心が湧き、屋上へと行くことにした。
扉を抜けて、少し広がった踊り場に出ると、また一つ扉がある。そこを抜けたら屋上だったはずだ。
机を倒さないように丁寧に乗り、少し開いた窓を全開にする。
「よっ、と」
力を込めて、体を浮かせる。思った以上に軽々とその窓を抜けることが出来た。上手く出来たもので、抜けた後、その真下にはクッションが敷かれていた。
「用意周到なこった……」
呆れた風に俺は呟くと、そのまま踊り場へと出た。
大きな扉が見え、そこを抜ければ屋上。だがしかし、そこには南京錠が鎖と一緒に繋がれており、到底腕の力では開けることが出来ないようだった。かといって、他に抜けるための場所もないように思える。
(けど、ここで終わりのはず、ねぇよなぁ……)
周りをよく確かめる。すると、不自然に長い棒のようなものがあった。その先端部分には、フックが付いている。何かを引っ掛けるのに使えそうだった。
明らかに場所的に言えば隠しているとしか思えないので、このどこかにこれを使うものがあるはず。よく周りを観察してみると、
「……なんだ、あれ」
壊れてしまってもう動かない換気扇のプロペラ近くに長くて、何かが見えた。それをゆっくりと、慎重に取る。
フックで引っ掛けて、そこから落ちてきたのは、ポーチのようなものだった。中を開けてみると、針金のようなものがいくつか出てきた。その他、ドライバーやら何やらが沢山。
「これで南京錠をどうにかしろって……ことか?」
とりあえず、針金を取り出して南京錠へと差し込み、いじってみた。
カチャ、カチャ、と音がして、暫くそうやって粘っていると、カチャンと鍵が外れた音がした。
「意外と開くもんだなぁ……」
映画やドラマなどでは見ていたりしたことがあるが、やってみると意外に自分でも出来た。南京錠を取り外し、鎖を取って屋上へと続く扉を開いた。
開いた瞬間、一気に風が舞い込み、開放感が凄かった。屋上って、こんなに気持ちの良い場所だったかと思うほど、俺はこの感覚を忘れていた。
踏み出して、屋上へと立つと、より一層風を感じる爽快感に包まれた。
「っと……あれ? 誰もいないか……」
辺りを見回しても、タンクの後ろ側や、タンクの上を見たりもしたが、全く人の気配は無かった。明らかにあれらの用意はここに入る為に誰かが用意したものだろう。クッションもわざわざ用いたってことは、男子ではないのかもしれない。
「……まぁいいか」
気にしないことにして、俺は青空の下でラスクを食べることにした。食べ盛りの男がこんなラスク如きで満腹感を得られるわけがないのだが、それでも食わないよりはマシだろう。ゆっくりとラスクを口に運ぼうとしたその時だった。
「あーッ! 侵入者ーッ!」
後ろから甲高い声が俺の耳へと届いた。振り返ると、そこにいたのはショートヘアーの髪型で、ヘアピンをした桃色の髪の女の子だった。
「勝手に人が用意した装備に手を出しやがってー! RPGの世界とか、そんな上手くいかないんだぞっ! 人の苦労も知らないで、こんな気持ちの良い青空の下で何を呑気にラスクを……あーっ! ラスク! 食べたい食べたい!」
青い髪をした女は走って俺の元まで来ると、素早い手の動きでラスクを俺の手から取り上げた。
「ちょっ——」
「うん、美味い! でも、私の持ってるラスクのが美味い!」
バリボリ、とよく噛み締める音をその小さな桜色をした唇の中から鳴らしつつ、またラスクを食べようとしたので、俺はラスクの入った袋をその魔の手から遠ざけた。
「ぶー、ケチー!」
「これは俺の昼飯だ。ケチもクソもねぇよ」
「えー! これ昼飯!? あっはははは! 見た目結構図体いいのに、ラスクだけが昼飯って、何それ何それ!」
ハイテンションで、目を細めながらキャーキャー言うこの女は一体何だと思いながらも、先ほどの数々の用意はこいつがしたのか、と半ばアホらしくラスクを齧った。
「ていうか、君凄いねー! この私が仕組んだスーパーウルトラミラクルハイパーメガギガロイヤル……まぁ、とにかく。仕組んだ凄い仕掛けを暴くだなんてー」
「だんだん話していくたびに棒読みで言う奴から言われても何とも思わねぇよ……」
「褒めてるんですよー? この美優様が認めてるんだよ! これは素直に受け取っておかないと! 勿体無くて死んじゃうよ!?」
「そうかい……」
胸を張って、えばっているこの美優という名前の女は手には弁当箱を持っていた。それも何故だか弁当が3つほどある。
「何でそんなに弁当が……」
「あぁ、これ? えとえと、試食してちょーだい! ってな感じで頼まれちゃってたりするのよ!」
「へぇ……誰に?」
「先輩にかな! 私、これでも薔薇の一年生ってな感じだからね! あっはははは!」
その瞬間、ラスクを噴出しそうになった。よく見てみれば、学年別にしてある色が一年生のものだった。
「お前、一年生だったのか」
「え? ……あぁー! え? え? 先輩だったりするんですか! タメ口ごめんあそばせぇー!」
「全然治ってない気がするけどな」
「いやいや! そんなことないですよぉっ? へっへっへ、親分、ラスク食べます?」
「今食ってるからいらねぇよ。ていうか、親分言うな」
どうしてこうもハイテンションなのか意味不明だったが、何だか自然と普通に話せるようになっていた。これでも後輩なのか、と思うと何ともいえない感じになる。
「お前、名前は?」
「人に名前を聞く時はですね、まず自分からというのが基本ですぜ! 兄貴!」
「兄貴じゃねぇ。……俺は暮凪 司。お前は?」
「んん、よくぞ聞いてくれましたねッ! 私の名前はルパン——」
「普通に本名言えよ」
「むぅ……暮凪さんは冗談が通用しないですねぇっ。まあいいですー。えっとですね、私は三河 美優(みかわ みゆ)っていいますっ。はい、どやぁぁっ!」
妙にハイテンションな三河は俺に指を突きつけてそう言った。
そういえば、三河は何だかどこかで見たことのあるような顔だったが、特に思い出せずに、俺は考えるのを止めた。三河 美優。何だかこの名前も聞いたことがある。けれども思い出せない。
吹き抜ける風が、屋上の二人へと吹き荒れた。
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