複雑・ファジー小説
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- ■菌糸の教室■
- 日時: 2014/03/03 18:27
- 名前: ryuka ◆wtjNtxaTX2 (ID: KE0ZVzN7)
- 参照: http://mb1.net4u.org/bbs/kakiko01/image/1417jpg.html
「なんだよ……これ……」
今日は朝から大雨だった。ザアザアと、窓を叩き割ってしまいそうな雨音。静かになった朝の教室に、殊更、よく響いている。
どうしてこんなに静かになったのか、
————————————————— きのこだ。
真っ白なきのこが、教室の壁という壁に、びっちりと生えているのだ。
少し、白に淡い青色がかった色をしている。きのこは、壁だけじゃない、よく見れば床にも机にも椅子にも、さらには黒板消しなんかにもびっちりと、まんべんなく生えている。
「……これ、きのこだよね?」
静かになった教室で、雨音だけが響いていた。
——————————————————————————————————
■第一話 菌の恋■ ★挿絵 >>20(峰&楓ver.)
>>3 >>6 >>11 >>14
■第二話 影の子■
>>15 >>16 >>17 >>18
■第三話 笠■
>>24 >>26 >>29 >>30 >>31
■第四話 出会い■
>>32 >>37 >>38 >>39
●本章● ★挿絵 >>42(悠ver.)>>58(風架&悠ver.)
>>41-42 >>45 >>52 >>54-55
>>57 >>59 >>61 >>63
●本章Ⅱ●
>>64-
【オリキャラ一覧】
●楓 秀也 by狒牙様
○柚木 久美 byIANA様
◇九里 瀬良 byヴィオラ様
●宮下 竜臣 by蒼空様
●峰 由詩 byゆn様
○佐更木風架 by風架様
●綾風 明 byjyuri様
◇風鈴 千歳 by風猫様
○九条 亜理子by葵様
●風戸 雄図 byレッド様
●久谷 竜胆 by白沢様
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■□招待状□■
〜菌糸の教室へご招待〜
それでは準備はよろしいですか?
これから警告を申し上げます。くれぐれもお聴き逃しの無いように。
一度ここに踏み込んだら、
当然ですが、あなたの靴裏にはきのこの胞子がびっしりと詰まってしまいます。
勿論、靴裏だけではございません。
肺の中にも、耳の奥にも、さらには心の底にまで。
胞子はとても微細なものですから、どうかお気を付けて。
おや、先程から随分時間が経ってしまいました。
誠に申し訳ございません、どうやら警告が遅れてしまったようです。
—— もう既に、あなたの奥深く、菌糸が喰いこんでしまった後でした。
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- Re: ■菌糸の教室■ 【オリキャラ・出演募集中】 ( No.13 )
- 日時: 2011/09/29 00:07
- 名前: ryuka ◆wtjNtxaTX2 (ID: gb3QXpQ1)
>>ライチ様
ありがとうございまっす(・ω・´)!
できるだけ更新頑張っていきたいです。
- Re: ■菌糸の教室■ 【オリキャラ・出演募集中】 ( No.14 )
- 日時: 2011/09/29 12:29
- 名前: ryuka ◆wtjNtxaTX2 (ID: /AwggsBu)
……楓君は、覚えていないのだろうか。
少し、感傷的になりながら、右隣りの席に座っているクラスメートの横顔をぼんやりと眺めた。全神経を黒板に集中しているようで、ガン見しても本人は全く気付いていない。まぁ気付いたらちょっとマズイんだけど。
やっぱ、覚えてないんだろうね。
無理もないか。そんなに世界、都合よくできていないことぐらい私だって分かってる。
柚木さんがあんなに楓君に執着する理由。たぶん、ここにいる人間で、その理由を知っているのは私だけだと思う。柚木さん自身もどうやら忘れているようだし。これじゃ、私だけ除け者みたいじゃないか。
あーあ。つまらない。
すると桜の花びらが、一枚、目の前の男の頭の上にちょうどよく乗っかった。この男に、こんな可愛らしい薄桃色は似合わないと心の底から思った。
教えてやろうかどうか迷ったが、ささやかな復讐の意味も込めて、私は見て見ぬふりをすることにした。いい気味だ。
■ 楓秀也くん へ 菌糸の教室 より ■
誰にも忘れられた真実は、もう真実ではありません。
誰にも忘れられた記憶は、きっと虚像と呼ばれるのでしょう。
だって私は、あなたの記憶でしか生きることができなかったから。
あなたの真実とでしか、存在できなかったから。
だから、恋をしてしまいました。
だから、憎んでしまいました。
菌の恋は薄桃色。狂った鮮やかな薄桃色。桜の花びらなんかより、数倍綺麗な薄桃色。
また、いつか。思い出してくれるのなら。
桃色の菌糸を、せいいっぱい、伸ばしましょう。
- Re: ■菌糸の教室■ 【オリキャラ・出演募集中】 ( No.15 )
- 日時: 2011/10/15 16:35
- 名前: ryuka ◆wtjNtxaTX2 (ID: 4pf2GfZs)
■第二話 影の子■
「久美……今日も、学校に行くの?」
すると私の姉は、私を完全に無視して、忙しそうに台所へと続く扉を乱暴に開けた。バーンと大きな音がして、私を震え上がらせた。
この乱暴な音が、 煩い、これ以上話しかけるな、という意思表示だということを私は知っている。
いつもだったらここで引き下がるのだが、そうはいかない。もう、最後の日から随分経つのだ。今日も、久美が学校へ行くことになったら、私は引き籠り同然じゃないか。
「ねぇ、ねぇ!久美!聞いてよ!」
しかし久美は相手さえしてくれそうにもない。さっさとお弁当をの中身を詰めて、制服に着替えると、私には何も話しかけないで玄関を颯爽と出て行ってしまった。もちろん、ガチャリという音がして、鍵をかけていった。
「はぁ……」今日で762日目。久美は相変わらず学校に行き続けた。新しい高校はどんなところなのだろう。中学校とは一体どう違うのだろう。
新しい学校のことを考えると、胸がワクワクする。さんざん想像を膨らませて、沢山ワクワクする。
私は久美と同じ制服を着て、久美と同じ学校に行くんだ。部活にもきっと入って、新しい友達もきっと大勢できる。今まで苦手だった男の子とも、きっとうまくやっていけるんだ。
楽しかった。楽しそうにしている久美を、自分に置き換えて考えるのが楽しい。
けれど、このことを久美に話すと、久美は嫌そうな顔をする。そしていつも通り、大きな音を立てて、私に「これ以上喋るな」と言う。どうしてこれ以上喋っちゃいけないのか良く分からないが、もっと怖いことをされるのは嫌なので、私はおとなしくするしかない。
どうして、どうして久美はずっと学校に行っているのだろう。
私の番だって、もう何回も言っているのに。
- Re: ■菌糸の教室■ 【オリキャラ・出演募集中】 ( No.16 )
- 日時: 2011/10/09 23:21
- 名前: ryuka ◆wtjNtxaTX2 (ID: gb3QXpQ1)
久美が学校に行ってしまってから、しばらくが経った。私の憂鬱な気持ちとは関係なく、狭い窓枠からは抜けるような青空が見える。ああ、もう春になってしまったのだな、としみじみと思った。
私は柚木くみ。久美の双子の妹だ。
親戚たちは私に漢字の名前を与えてくれなかった。平仮名でくみ、即ち仮名の私は久美の影でしかない。私のソレとは対照的に久美の名は、漢字、言い換えれば真字で真名である。
真と仮。
それが、久美と私の関係だった。
いつも通りに鏡の前に立ち、じっくりと自分自身を観察する。腰まで伸びた髪は久美とそっくりな栗色で、背丈も、目付きも、全てが久美とそっくりそのままだ。
けれど、二年以上外に出ていない私の肌は、健康的な小麦色の肌をした久美とは違って病的に色白だ。髪の毛も長すぎる。久美みたいな元気いっぱいそうなセミロングぐらいが、いい。
鏡の向こう側に映った窓枠に、相変わらず綺麗な青空が見えた。
なんだか、悲しい気持ちになった。
どうして、私は外に出てはいけないのだろう?
どうして、私だけこんな思いをしなければならないのだろう?
どうして、“クミ”としての時間は久美だけのものなの?
どうして、どうして。
もう出ないと思っていた涙が、静かに頬を伝う。無意識に、喉の奥から嗚咽が漏れる。
自分の泣き顔すら久美とそっくりで、鏡をまともに見ることができない。嫌だ、嫌、嫌。
どうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうして。
同じ言葉を繰り返し続けて、言葉の意味さえ曖昧になってくる。いつものことなのに、今日は何故だか感情が抑えられない。自分でも信じられないぐらいにボタボタと、涙が次から次へと視界を濡らす。どうして、どうして。
—————————————————————— どうして?
- Re: ■菌糸の教室■ ( No.17 )
- 日時: 2011/10/09 23:06
- 名前: ryuka ◆wtjNtxaTX2 (ID: gb3QXpQ1)
………どうして。
顔を覆っていた両手を、ゆっくりと離しながらくみは気が付いた。……どうして、私はここに居るの?
閉じ込められるのが嫌なら、久美の陰が嫌なら、ここから抜け出せばいいじゃない!
「そうよ。何て私は馬鹿だったのかな。鍵は内側から閉まっているのよ。」
思い立った後は早かった。すぐに台所から持ってきた大きなハサミを右手に、鏡の前にすっと立つ。いつも無表情だった自分の顔が、今までにない表情をしていた。久美とは違う、私だけの、くみとしてだけの、顔。
「こんな長い髪は嫌。きっとあっても邪魔だ。」鏡の中の自分に話しかけながら、ざくざくとハサミを髪の間に滑らせる。15年間伸ばしつづけた、重たい、呪われた枷のような髪の毛なんてもう要らない。
肩より少し長いくらいで、ハサミを止める。生まれて初めて髪を切った。頭がふわっ、として軽かった。こっちの方が似合ってるし、かわいいだろうと思った。
さてと。後は何をしよう。何もすることがないなぁ。
とりあえず、ここから出ていくのならお金が必要だと思った。ひきだしの上から二番目を乱暴に開けてみると、ちょうどいい具合に通帳と、諭吉さんが五人ほど居た。通帳は銀行とかパスワードとか分からないし……でも、五万円もあればどうにかなるかな。
あとは夜冷え込むと悪いから、大きなベージュのコート。玄関に掛けてあった久美のやつだけど、この際拝借してしまおう。
そんな感じで、身支度は順調に進んでいった。きみどり色のリュックサックはもうぱんぱんで、これ以上は入らなさそうだった。
さぁ、出発だ。
……と、重大なことに気が付いた。服だ。服をどうしよう。
今の恰好はタンパンにキャミソールだけ。こんな恰好じゃみっともないじゃないか。
けれど、私は自分の服を持っていない。誰も買ってくれなかったから。何年も前の服ならあるけれど、とても小さくて着れたものではないし。
どうしよう。どうしよう。
久美の部屋に行けば、きっと可愛い服が沢山ある。けれど、怖くてそんなことできない。久美の部屋の前を通るだけでも鳥肌が立つ。
踏ん張って久美の部屋のドアノブに手をかけてみたが、駄目だった。どうしてこんなに怖いのか自分でも分からないのだが、怖くて怖くて、冷や汗が出て、とてもドアノブを回すなんてこと、できそうにない。私には、無理だ。
どうしよう。
困り果てて、私はいつの間にか隣の物置部屋でうずくまっていた。こんなところで、くじけるとは思いもしなかった。ガラクタに囲まれて、きっと私はしばらくここから出れない。
その時、視界の端に白いセーラー服が見えた。あるじゃないか、いいものが。
中学校の時の制服だ。去年、久美が着ていた。私もたった一回だけ、着たことがある。もう高校に入って、使われなくなったからこんな部屋で放置されていたのかな。
恐る恐る、袖を通してみると、とても柔らかかった。制服ってこんなに柔らかいものだったっけ?
白い生地に、赤いスカーフ。シンプルなデザインだったが、私には十分だった。十分に、嬉しかった。
スカートも何回か折って、短くしてみた。足は細い自信はある。これぐらい見せても誰も気分を害さないだろう。
靴下は……さすがに見当たらない。まぁしょうがないか。
とても気分がよくて、なんだかよくわからない鼻歌を歌いながら、さっき髪の毛を切った鏡の前に立ってみた。
肩より少し長い栗色のセミロングに、少し丈の短いスカートとセーラー服。
そこには、完璧に生まれ変わった〝くみ〟が居た。今までのような誰かの陰ではない。一人の人間として完全に独立した、個人としての人格を持った、くみ。
春の新芽にも似た、きみどり色のリュックを背負う。少し重たいけれど、こんなのなんでもない。きっとこれは希望という重み。
さぁ、私はここから出るのだ ———————————————————
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