複雑・ファジー小説
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- この世界で
- 日時: 2011/09/12 00:00
- 名前: きなこうどん (ID: QGQgEihT)
初めまして。「きなこうどん」という者です。
小説をネット上で書くのは初めてのことなので、多少矛盾があるかもしれないです。でも、多くの方に読んでいただけると幸いです。
よろしくお願いします。
この物語は、ある家族の物語です。
この世界のどこかに、こんな家族が存在しているのではないでしょうか。
どうぞ、最後までお楽しみください。
- Re: この世界で ( No.24 )
- 日時: 2011/09/25 08:45
- 名前: きなこうどん (ID: QGQgEihT)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode
おかあさんがイライラしている——。
ぼくはいつも母の機嫌にドキドキしていた。今日も、明日も、明後日も、ずっとぼくは母に元気で笑っていてほしかった。そして、母の機嫌が良くないと、ぼくは自分を落ち着かせるためにこの言葉を繰り返していた。
もう母が遠くなった生活があるのに。
ぼくはまだ何かの不安から抜け出せていないのかな。
苦笑いした。
「ねえ、大丈夫?」
気づけば、みかが心配そうにこちらの様子をうかがっている。
「ああ……」
ぼくはボーっとしたまま答えた。
「大丈夫、大丈夫」
その言葉はさっきの気持ちとは違って、純粋にみかを安心させるためのものだった。
ぼくは幸せを手にしたはずなのに。
まだ、何かに追われているんだろうか。
- Re: この世界で ( No.25 )
- 日時: 2011/09/25 09:01
- 名前: きなこうどん (ID: QGQgEihT)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode
2000年 夏
みかは地図を指定された色に塗っていく、という単純な内職を始めた。「子育てママさん必見!」という見出しに誘われたのだという。
ぼくはぼくでトラックを運転し、ゆうたはゆうたで遊びに夢中になった。
みかからはときどきメールがあり、大体はゆうたのことだった。ぼくはにやけてしまう。だんだんと父親としての実感が湧いてきたのだと思う。
でも、ある日、みかからのメールが全く来なかった。
ぼくは心配になり、不安になり、仕事を抜け出そう、と考えたが、こんな日に限って仕事は詰まっていた。
「おい、どうした? 顔色わりぃぞ」
仕事に同行した杉田さんは時間が経つにつれ悪くなるぼくの横顔を見て、言った。
「あの……妻から連絡が来ないんです。いつも、来ないなんてことないのに……」
杉田さんは少し考えていた。
「何か、忙しいことでもあるんじゃないか? ほら、仕事してるんだろ?」
杉田さんはありきたりな事を言った。
「一回、こっちからメール入れてみれば……」
ぼくは賛成した。
——それでも、返事は返ってこない。
気にせず仕事に専念しようとしたが、どうしても気になる。
何かあったんじゃないか。
そう考えるのが普通のような気がした。それとも、ぼくは考えすぎなのだろうか。毎日メールをしてくる妻が、今日は何もよこさない。それはよくあることだろうか。ぼくの考えは行ったり、来たりしながら、結局、どこの答えにも行きつかなかった。
- Re: この世界で ( No.26 )
- 日時: 2011/09/25 15:46
- 名前: きなこうどん (ID: QGQgEihT)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode
ぼくは早めに家に帰った。杉田さんの好意によるものだった。
勢いよく、ドアを開けた。みかはちゃんといた。ゆうたの声もする。
まだ午後の5時だった。
「え……? あ、おかえり。早かったね」
みかは食卓に座っている。振り向いた顔も普通だった。ぼくは恥ずかしさが込み上げてきた。でも、安堵の思いもあった。
「あのさ、笑うかもしれないけど……。今日、何にもメールこなかったじゃん? だから、心配で……」
ぼくはそれから丁寧に説明した。
メールを入れたことも、杉田さんに甘えたことも。
「あ、そうだったんだ。ごめんね、心配かけちゃったね」
みかは本当にすまなそうに言った。元気のないことがぼくにはわかった。
「どうした?」
ぼくは聞いた。みかは座って、と向かいの席を指差した。いよいよ、とぼくは力んだ。
座ると、みかはさっそく言った。
「単刀直入に言うと……」
みかはためらいがちに言った。
「妊娠したのかも……」
ぼくはえ、とすっとんきょな声を出した。それはみかには起こるはずのない現象だったからだ。
「え、でも……」
「わかってる。あたしにはありえないことなの。……だからね、たぶん、想像妊娠なのよ」
しゃあしゃあと言うみかを思わず凝視した。
みかはそれから話し始めた。あまりにもすらすらと説明するので、ぼくの頭はときどきついていかなかった。そして、それが、みかの体で起こっていることなのだ。
「今日診てもらったのよ。そしたら、そう言われた。……あたしが想像しちゃったんだ」
みかはがんになる前に一度妊娠している。だから、その時の感覚を感じた時、すぐに想像しているだけ、と思ったらしい。一応医師にも確認してもらい、やはり、みかの考えは正しかったと証明された。
「もう、そんなことはないと思う。一度認識したら、兆候は消えるから。……でも、寂しいのよね」
みかは遠くを見つめるように言った。ぼくは、女性のことなどよくわからなかった。だから、そう思うだけでいた。
みかはこのことを言う時だけ、ぼくの知らない女性に見えた。
「みか」
ぼくは怖くなって声をかけた。机の上で組んでいたみかの手を咄嗟に握った。みかは、え、と驚いた声で言った。
「どこかに行っちゃうような気がして……」
ぼくは説明した。みかは笑った。ひとしきり笑った後、大丈夫よ、と屈託のない笑顔で言った。
ぼくはそれでも不安を押しだすことが出来ず、しばらくもやもやしていた。
みかは泣かなかった。
——でも、ぼくは知っている。
その日の夜、本当に真夜中。人目を盗んで、ひとしきり泣いているみかを。ぼくや、ゆうたに気づかれないように、声を殺してベランダで泣いているみかを。ぼくはのどが渇いて、台所に立った。その時に見つけてしまった。
みかは気づいてないだろうけど、ぼくは気づいてしまった。
ぼくはみかの気持ちを汲んで、気づいたことを忘れようと思った。でも、布団に戻り、ふと、ゆうたの顔を見ると、泣かずにはいられなかった。ぼくも、泣いてしまった。
みかの気持ちを思えば、さらに溢れてくる。
今日の夜のことはぼくだけが知っている。でも、ぼくは忘れようと思う。
それが、みかと、生まれなかったもう一人の娘の望むことだろう、と思うから。
- Re: この世界で ( No.27 )
- 日時: 2011/09/25 15:50
- 名前: きなこうどん (ID: QGQgEihT)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode
みかはその次の日からはもう何事もなかったかのように、普通に日々を過ごしていた。
「おはよう」も「いってらっしゃい」も明るく言う。仕事中にメールが来ることもあった。無理している様子も、悲しそうにしている様子もなかったのに、夜になると、全然だめだった。
やっぱり、泣いてる。
- Re: この世界で ( No.28 )
- 日時: 2011/09/26 16:19
- 名前: 春野花 (ID: 7BFkVMAM)
こんにちは、春野花デス。覚えてますかね?前に貴方がコメントをくれた、Lock…の作者です。
いやぁ、みかちゃん切ない。。。
見守ってないで助けてあげてよ、たけしくん
ものすごく面白くて一気に読んじゃいました☆〜(ゝ。∂)続き、気になります。
また来ます。頑張って下さい。