複雑・ファジー小説
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- この世界で
- 日時: 2011/09/12 00:00
- 名前: きなこうどん (ID: QGQgEihT)
初めまして。「きなこうどん」という者です。
小説をネット上で書くのは初めてのことなので、多少矛盾があるかもしれないです。でも、多くの方に読んでいただけると幸いです。
よろしくお願いします。
この物語は、ある家族の物語です。
この世界のどこかに、こんな家族が存在しているのではないでしょうか。
どうぞ、最後までお楽しみください。
- Re: この世界で ( No.9 )
- 日時: 2011/09/16 21:16
- 名前: きなこうどん (ID: QGQgEihT)
皆さん、いかがお過ごしですか。
わたしの小説を楽しみにしてくれている方。
一度でも目を通してくれた方。
少しでも興味を持ってくれて方。
すべての人にお世話になっています。
これからも書き続けていきたいと思います。
よろしくお願いします。
(率直な意見・感想はいつでも大歓迎です。一言でもいいので書いてください。)
- Re: この世界で ( No.10 )
- 日時: 2011/09/24 21:49
- 名前: きなこうどん (ID: QGQgEihT)
「今日、ゆうた、楽しそうだったね。大成功じゃん。良かった」
暮れかけた街並みの中を走りぬけながら、ときどき車は停止する。みかは後部座席で眠ってしまったゆうたの髪を撫でながら微笑んだ。
「ああ。……みかも、楽しそうだったよ」
ぼくは正直に感想を述べた。みかは恥ずかしそうに笑ったようだった。
「たけしくんは見てるだけだったね」
これもみかの正直な感想だろう。確かにぼくは最後まで水と戯れることをしなかった。
「考え事をしていたからね」
——昔のこと。
- Re: この世界で ( No.11 )
- 日時: 2011/09/17 23:44
- 名前: きなこうどん (ID: QGQgEihT)
「へえ、何を考えてた?」
この質問には正直に答えるべきか、と少し迷った。
「昔のことだよ」
結局正直に言った。みかは少し黙っていた。
「ねえ、許せないってだけなの?」
「なにが?」
「お母さんのこと」
「え?」
「だから……たけしくんを捨てたこと、許せないだけなの?」
今度はぼくが黙った。やっぱり言うべきではなかった、と後悔した。
「……違うさ。捨てられる前から嫌いだったよ。おかあさんがぼくを捨てたのは間違っちゃいなかった。今はそう思ってる。だから手紙だって送れたんだよ。……みかのおかげもあるけどね」
努めて明るく言ったつもりだったのだが、みかはなかなかその言葉への
答えが見つからないようだった。
「……わたし何もしてないよ」
みかは寂しそうにつぶやいた。ぼくにはみかがどうしてそんなふうに言うのかがわからなかった。
「そんなことない。充分助けてもらったよ。もし、みかがいなかったらぼくはきっと今日、ここにはいなかった。ゆうたにも会えなかったし、海にも行かなかった。本当に君のおかげなんだよ。感謝してる」
正直に言った。正直に言えるって何て良いことなんだろう。ゆうたにはわかるだろうか。わからなければ、ぼくが教えてあげたい。今、ぼくが一番このことを知っている気がするんだ。
「もうずっと会わないつもり?」
「なんだよ、いきなり」
「だって……」
「いいさ、もう。もういいんだよ」
妻をなだめたつもりで、実はぼくの方が助けられている。
- Re: この世界で ( No.12 )
- 日時: 2011/09/19 17:01
- 名前: きなこうどん (ID: QGQgEihT)
みかと出会ったのはあの高校だった。ぼくは高校に入学して卒業する前にやめてしまったので、同学年の生徒のことなんか覚えていない。ぼくがやめてしまった後、ぼくのことは学年中に知れ渡ったようだ。
でも、みかはその前にぼくの存在を知っていた。
「なんで知っているのさ」
ぼくはなんでだか、とても驚いて、その時食べていたラーメンの汁を吹き出しそうになった。その時のことが今でも鮮明に思い出せる。
ぼくとみかはカウンター席で安いラーメンをすすっていた。付き合い始めて二カ月が過ぎたころ。
みかは苦笑いしながら僕にお絞りを手渡した。
「一年生の時、あたしたち同じクラスだったのよ、覚えてる?」
ぼくは首を横に振った。同時に洟もすすった。みかはそれを見て笑う。
「まあ、覚えてなんかいないでしょうね。たけしくんたら休み時間も、放課後も、誰とも親しくしようとしてなかったから。……本なんか読んじゃって……優等生ぶってるだけだろって言われてたのよ……あ、傷つけちゃった?」
みかは僕の横顔をまじまじと見つめた。ぼくは首を横に振った。それから、ラーメンをすすって、洟もすすった。
「でね、あたし、見かねて声をかけたのよ。元気? って」
ぼくは全く覚えていない。
「なんて返されたと思う? ……何も言わなかった」
みかは少しの間黙って、それからくすりと笑った。みかはコロコロと表情を変えた。
「病んでるのかなって思った。いつも暗かったもんね。静かで、体育の授業なんかを盗み見すると、集団の後ろのほうで、ゼイゼイ言って走ってるの。こうやって」
みかはその時のぼくのまねをするように、腕を力なく振り、ぜいぜい言って見せた。ぼくはそれを見て、自分の高校生時代を少しだけ思い出した気がした。熱いグラウンド。ぼくは……そうだ。タイムが遅すぎて、誰にでもからかわれた。
- Re: この世界で ( No.13 )
- 日時: 2011/09/24 21:53
- 名前: きなこうどん (ID: QGQgEihT)
みかも……そのうちの一人だったんだろうか。もし、そうだとしたら……ぼくは悲しいのかもしれない。
ぼくはラーメンのくずを探しながら思った。でも、よく考えてみたら、それはもうずいぶん昔のような気がした。それに、そんな時間は人生の膨大な時間に比べてみたら、ほんの一部で、そんなにつらいことはこれからにもまだまだ待っている。
ただ……。
あの頃のぼくは高校生といえども、やっぱり子供だったから、今が一番つらいんだ、と思っていたのかもしれない。
「なんで、気になったんだと思う? 不思議……」
いきなりぼくの思案の中に、みかの声が入って来た。
「正直、ダサくて、汚そうで、猫背で、全然、モテる感じもない人のことなんで気になったんだと思う?」
みかは少しの間、手を止めて考えていた。みかのラーメンはまだまだ残っている。ぼくは箸をおいて、また洟をすする。
「あっ、もう食べちゃった? ごめん、あたしが喋ってばかりだからあたしが遅いのよね」
みかは熱いめんをすすった。ぼくは正面に掲示してある芸能人の色紙などを眺めている。
ぼくたちの他に客はひと組のカップルだけ。夜もだいぶ更けている。カップルもラーメンをつつきながら、高い声で話をしている。まだ、若い。高校生ぐらいに見える。
「ぼくも、普通の人だったら、制服のままこんな店に彼女と飯食いに来てたかな?」
ぼくはポツリとつぶやいた。
「へ?」
みかがラーメンを口に頬張ったまま聞いてきた。
「ああ、いいよ、食べてて」
ぼくはみかを見ながら微笑んだ。みかは容赦なくずるずると音をたてた。
「イケメンで、清潔で、猫背じゃなくて、モテていたら、あの人たちと同じように過ごしてたかな」
「う〜ん」
「ぼくさ、よく考えるんだよ。もし違う人生歩んでたら、もっとよかったのかなって……」
みかは何も音を立てずに聞いていた。ラーメンはまだ残っている。
「そもそも、ぼくをこんなふうにしてしまったのはぼく自身なんだよな」